第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

(1) 経営方針

当社グループは、経営理念である「ユーザーのための研究開発」をモットーに、境界領域(モノとモノとの接点における摩擦や磨耗など)におけるニーズに応えることによって、社会に貢献できる企業を目指してまいりました。現中期経営計画(2024~2026年度)においては、次の5項目を中期経営方針に掲げております。

① サステナビリティ経営の推進

② 製品ポートフォリオの高度化

③ 次世代事業の創出

④ 業務プロセスの革新

⑤ 資本収益性の向上

 

(2) 経営環境、経営戦略および優先的に対処すべき事業上および財務上の課題

当社グループを取り巻く環境は、国内経済においては回復基調を維持しており、今後も緩やかな経済成長が期待できるものの、深刻な人手不足や物価上昇、金利上昇や急激な為替変動の影響が懸念されます。海外においては、2025年1月に発足した米国のトランプ政権による保護貿易主義の強化策等が世界経済に及ぼすマイナスの影響、中国の景気回復の遅れ、ウクライナ戦争や不安定な中東情勢による資源価格の高止まり懸念があり、先行き不透明な状況が続くことが想定されます。

また、持続的成長のためには環境問題に対する意識の高まりや少子高齢化に伴う労働力不足等の社会課題に対応した経営戦略の遂行が求められます。

このような経営環境のもと、当社は「持続可能な社会の実現」と「事業の付加価値の向上」の両立をテーマとし、2024年度から2026年度までの3年間を対象とする第10次中期経営計画を実行しています。米国では脱炭素の取り組みの揺り戻しの動きが確認されますが、この影響を注視しつつ、当社グループは、中期経営計画に掲げる①サステナビリティ経営の推進、②製品ポートフォリオの高度化、③次世代事業の創出、④業務プロセスの革新、⑤資本収益性の向上の5つの基本方針のもと、企業価値の向上に努めてまいります。

 

■ 第10次中期経営計画の取り組み状況について

① サステナビリティ経営の推進 ② 製品ポートフォリオの高度化

2024年5月、研究開発力の強化とグローバルビジネスの展開加速のために「機能材事業部」と「合成潤滑油事業部」を統合し、「特殊潤滑油事業部」を設置しました。それぞれの事業部が持つ機能を集約し、MORESCO Green SX製品※の拡充およびグローバル展開や半導体分野におけるPFASフリー潤滑剤の開発等をさらに進めます。サーキュラーエコノミー(循環型経済)への対応では、2025年1月に広域認定事業者に認定される等、マテリアルリサイクルの実現に向けて着実に進展しています。今後もこれらの活動を推進してまいります。

※ 当社は、製品の原料調達から廃棄までのライフサイクル全体を評価し、当社の7つのマテリアリティへの貢献要素が特に大きい製品を「MORESCO Green SX」として認定しています。

③ 次世代事業の創出

ライフサイエンス部門では、ナノエマルジョン技術の商品化、オートファジー活性化薬の導出の取り組みを着実に進めています。エネルギーデバイス材料事業では、次世代太陽電池向けにペロブスカイト用封止材の高性能化に注力しています。今後もこれらの活動を加速してまいります。

 

④ 業務プロセスの革新

従来は研究員の経験と勘を頼りにしていたのに対して、生成AIを活用して有望な候補を絞り込むデータ駆動型のアプローチを取り入れることで、ホットメルト接着剤の開発・改良の配合検討を迅速かつ効率的に行うことができるようになっています。また、製造現場でもDXの導入を進めており、装置の故障予測や製品の開発・改良に迅速かつ効率的に寄与していくものと期待しています。今後もこれらの活動を通じて「モレスコ・インフォマティクス」の実現を目指してまいります。

素材事業部では、新たな化学処理方法(単体処理法)の導入に向けて、実機生産の準備を順調に進めており、将来の需給状況に柔軟に対応できる生産体制の構築を進めます。

⑤ 資本収益性の向上

原材料価格高騰の影響等で厳しい収益状況にあるホットメルト接着剤事業では、高付加価値製品の開発・販売、製品ポートフォリオの転換を通じ収益性改善を進めてまいります。

また、全社的な取り組みとして事業部別ROIC逆ツリーの作成やROIC指標での目標管理を行っています。これらの活動を資本収益性の向上に繋げてまいります。

 

■ 第10次中期経営計画の海外戦略

海外グループにおいては、エリア特性に応じた製品展開を進めるため、タイや中国を中心にR&D体制の強化を図っています。また、中国の新工場における生産安定化、MORESCO USA Inc.の子会社であるCROSS TECHNOLOGIES N.A. INC.が保有する製品のグローバル展開を進めており、これらの活動を通じて、東南/南アジア・北米・中国を極とした海外成長市場での事業の拡大を進めてまいります。

 

■ 第10次中期経営計画の2026年度経営目標数値

・ 売上高:380億円、営業利益:27億円、経常利益:30億円

・ ROE:8%水準、連結配当性向:30%以上、MGS製品の売上比率:40%

 

(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

第10次中期経営計画(2024年度~2026年度)においては、上記の経営方針および経営戦略等のもと、目標を下記のとおり定めております。

 

2023年度

(実績)

2024年度

(実績)

2025年度

(目標)

2026年度

(目標)

売上高(百万円)

31,886

34,374

36,500

38,000

営業利益(百万円)

1,225

1,391

1,750

2,700

経常利益(百万円)

1,826

1,821

2,100

3,000

親会社株主に帰属する

当期純利益(百万円)

1,283

1,013

1,300

経常利益率(%)

5.7%

5.3%

5.8%

7.9%

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

サステナビリティ経営に関する基本的な考え方

サステナビリティ経営の重要性が高まる中、MORESCOグループは、「地球にやさしいオンリーワンを世界に届ける」ために、新しい社会と未来を切り拓くイノベーター企業として社会に貢献していくことを使命としています。当社グループの研究開発型企業としての強みを最大限に発揮し、事業を通じて経済価値を創出すると同時に、サステナビリティに関する環境課題や社会課題の解決に貢献することで、ステークホルダーの皆さまとともに中長期的な企業価値の向上を目指します。2022年3月、当社グループは、サステナビリティ経営の基軸となる方針として、「サステナビリティ基本方針」を策定しました。

 

サステナビリティ基本方針

MORESCOグループは、経営理念にある境界領域のスペシャリストとして、「持続可能な社会の実現」と「中長期的な企業価値の向上」を両立させつつ事業を運営してステークホルダーの信頼を高めるとともに、社会課題や環境課題の解決により一層貢献するべく、サステナビリティ活動を積極的に推進します。

 

年月

取り組み

2021年

11月

サステナビリティに関する重要課題(マテリアリティ)の特定

2022年

3月

サステナビリティ委員会の設置、サステナビリティ推進室の設置、サステナビリティ基本方針の策定

2022年

11月

TCFD提言への賛同と同提言に基づく気候変動関連財務情報の開示

2023年

5月

MORESCOグループ人権方針の策定、人権デューディリジェンス体制の整備・強化の開始、人材育成方針・社内環境整備方針の制定、人材戦略の策定

2023年

9月

重要課題(マテリアリティ)実現への貢献が大きい製品「MORESCO Green SX(MGS)」の選定開始

2024年

2月

第10次中期経営計画でMGS製品売上比率を2026年度に40%、2030年度に50%とする目標を設定(2022年度実績28.9%)

2025年

3月

サステナビリティマネジメント部の設置、マテリアリティ改定版に基づく取組みを開始

 

 

サステナビリティ経営の推進体制とガバナンス

サステナビリティ経営の重要性が高まる中、「持続可能な社会の実現」と「中長期的な企業価値の向上」の両立を基本に事業を運営するため、当社グループは2022年4月「サステナビリティ委員会」を立ち上げました。加えて、当社グループのサステナビリティ推進を統括する専任部署「サステナビリティ推進室」を設置しました。サステナビリティ委員会は、代表取締役社長を委員長とし、業務執行取締役、常勤監査等委員、執行役員等のサステナビリティ委員で構成され、サステナビリティ経営に関する基本方針や戦略を検討・策定しております。同委員会での審議内容はサステナビリティ担当取締役から取締役会に報告され、取締役会はサステナビリティ委員会を監督しております。半期に1回以上開催される同委員会では、サステナビリティに関する課題を幅広く議論し、事業戦略や方針に適時性をもって反映させております。

なお、2025年度には、サステナビリティ経営のさらなる強化を目的として「サステナビリティマネジメント部」を新設し、その下に「カーボンニュートラル推進室」と「サステナビリティ推進室」を配置しました。これにより、全社方針に基づく取り組みを国内外の子会社を含む工場や現場レベルまで浸透させ、組織全体のマネジメント体制を強化しています。さらに、サステナビリティの方針を事業部門や製造現場をはじめとするグループ全体に定着させ、実効性のある取り組みへとつなげています。

 


 

リスク管理体制

当社グループは、経営課題に内在・関連するさまざまなリスクに対応するため、「コンプライアンス・リスク管理委員会」、「サステナビリティ委員会」を設置し、リスク管理の充実に努めています。

サステナビリティ課題に関するリスクと機会については、サステナビリティ委員会を中心に、社内外ステークホルダーへのヒアリングや事業部・関連部門との議論を整理分類して明らかになった課題をもとに、7つの重要課題(マテリアリティ)を特定しています。重要課題に関しては、サステナビリティ推進室が中心となり、各事業部、各部署、各関係会社と連携し、重要なリスクと機会を特定しています。特定したリスクと機会に関しては、サステナビリティ委員会に報告され、対応方針、施策、目標の策定とともに審議されています。審議された内容は取締役会に報告され、その監督の下、最終決定されます。

また、2024年度には、事業環境や社会的要請の変化を踏まえ、第10次中期経営計画とも整合させて、マテリアリティの見直しを実施しました。本改定では、サステナビリティ課題の重要性が時間の経過や外部環境の変化によって変動するというダイナミックマテリアリティの考え方を採用し、財務的影響や社会課題としての重要性を踏まえて、マテリアリティの中での取り組みの優先度を再評価しました。これにより、サステナビリティ目標の達成に向けたさらなる取組みと貢献を目指しております。

マテリアリティの主な変更点は、以下の通りです。

・生物多様性・自然資本への対応

生物多様性や自然資本に関する課題をより重視し、リスクと機会の両面から取り組む方針としました。

・人的資本における多様性の推進

多様性の概念を拡張し、これまで社内環境整備の方針に含まれていた項目を人材育成の重要課題としても組み込みました。特に、ジェンダーに加え、認知的多様性を企業の競争力や価値創造の要素として位置づけました。

・地政学リスクへの対応強化

事業環境の変化を踏まえ、地政学リスクに対する警戒を強化し、リスク管理体制の見直しを進めていきます。

 

財務的な重要性が高いサステナビリティ課題

当社グループの7つのマテリアリティのうち、財務的な影響が大きくまた早期に現れると予想される課題は、「革新的な製品、サービスの開発と販売」、「環境負荷低減の実現」、「技術革新による新たな価値創造と生産性の向上」、「多様な人材の登用と成長支援による人的資本の強化」と「心身ともに充実でき、人権を重視した職場環境の実現」であると考えています。サステナビリティ委員会は、これら課題について、その対応に向けての「戦略」と目指す「指標と目標」を、以下のように取りまとめています。

 

 

(1) 気候変動問題への対応

気候変動問題に関する取り組みの一環として、2022年11月に当社グループはTCFD提言に賛同を表明し、気候変動への取り組みと情報開示を強化しました。

 

①ガバナンス

当報告書「サステナビリティ経営の推進体制とガバナンス」をご参照ください。

 

②リスク管理

当報告書「リスク管理体制」をご参照ください。

 

③戦略

当社グループは、化石燃料を含めた原燃料として化学製品や石油製品等を製造・販売しており、気候変動問題はリスクとしても機会としても非常に重要な課題と認識しています。

 

1.MORESCOが直面している主要な気候変動関連のリスクと機会(シナリオ分析)

気候変動に関しては、主要国の温暖化対策の動向等により様々なシナリオが考えられます。当社グループでは、①移行リスクシナリオ(1.5℃以下シナリオ)、②物理的リスクシナリオ(4.0℃シナリオ)、の2つの代表的なシナリオを想定し、2030年代までを中心に、当社の主力事業である特殊潤滑油、素材、ホットメルト、その他新規事業に及ぼすリスクと機会を検討しました。リスクと機会の選出と特定にあたっては、サステナビリティ推進室が中心となり、主要事業部への意識調査に基づく検討会を事業部ごとに実施し、外部有識者の意見も踏まえて決定しました。

主要なリスクと機会として認識している課題は、以下の通りです。

 

リスク

予想されるイベント

顕現する

時期

重要なリスク

対応策

1.5℃シナリオ

炭素価格上昇

中期

・カーボンニュートラル政策対応によるコスト増加

・生産性向上による省エネ推進、再生可能エネルギーの活用、非石化由来材料の活用

 

原燃料価格高騰・調達難

短期~中期

・原料・燃料高騰によるコスト競争力の低下

・グローバル調達・サステナビリティ調達

 

競争環境の変化

短期~中期

・競合他社による高付加価値製品等の展開

・高付加価値製品(MGS)の開発・販売

 

顧客の行動変化

短期

・競争環境や産業構造の抜本的変化

・環境対応製品(MGS)の研究・開発

 

循環型経済への対応

短期~中期

・内外における資源リサイクルや廃棄物管理・処理に関する法制の強化

・リサイクル・リユース材料の活用

 

投資家・金融機関の意識変化

短期

・投資家や金融機関による投資引き上げや融資条件悪化の可能性

・環境負荷低減の取組の積極的・継続的な情報開示

4.0℃シナリオ

平均気温上昇

短期~長期

・平均気温の上昇に伴う就業環境の悪化と生産性低下

・自動化による生産環境/労働環境の改善

 

異常気象の激甚化

短期~長期

・サプライヤー・物流網の被災によるサプライチェーン寸断

・サプライチェーンネットワークの強化

 

海面上昇

短期~長期

・高潮などによる生産拠点の被災リスク

・生産拠点の水害対策、在庫の分散、生産拠点の分散

 

水資源、資源リサイクル、

排水・廃棄物管理

短期~中期

・資源リサイクルや廃棄物管理・処理に関する法制の強化

・代替原材料の開発、リサイクル・リユース材料の活用

 

 

機会

予想されるイベント

顕現する

時期

重要な機会

対応策

1.5℃シナリオ

炭素価格上昇

中期

・省エネ製品群への代替が促進する可能性

・リサイクル油、高付加価値製品の開発

 

原燃料価格高騰・調達難

短期~中期

・需要地に近接した工場やBCP対応の優れた企業・工場の競争力増大

・原材料ソースの多様化による安定調達

 

競争環境の変化

短期~中期

・高付加価値製品の需要増大

・環境対応製品(MGS)の開発・販売、価格競争力の強化

 

顧客の行動変化

短期

・環境負荷低減製品、GHG排出量抑制生産プロセスを活用した製品の需要増加

・環境対応製品(MGS)の研究・開発

 

循環型経済への対応

短期~中期

・潤滑油のリサイクル、長寿命化などのニーズの高まり

・環境対応製品(MGS)の開発・販売、リサイクル・リユース材料の活用

 

投資家・金融機関の意識変化

短期

・ESG関連株式指標への採用、長期投資家の保有増大とレピュテーション向上

・環境負荷低減の取組の積極的・継続的な情報開示

4.0℃シナリオ

平均気温上昇

短期~長期

・耐熱性に優れた製品の需要拡大

・新規需要に適した製品開発

 

異常気象の激甚化

短期~長期

・安定した操業供給により顧客や投資家からの満足度・信頼度が向上

・サプライチェーンネットワークの強化

 

海面上昇

短期~長期

・水害などの災害に強い工場や供給体制の構築による信頼性向上

・ハザード分析、災害対応BCPの策定

 

水資源、資源リサイクル、

排水・廃棄物管理

短期~中期

・製品のリサイクルおよびリサイクル材料の利用による顧客拡大

・代替原材料の開発、リサイクル・リユース材料の活用

 

 

 

2.財務的な影響

移行リスクシナリオの中で、財務的な影響が特に大きいと予想されるのは、サプライチェーンの上流では、カーボンプライシング(炭素税導入)等に連動したベースオイル調達コストの上昇です。一定の前提の下で、当社のベースオイルの仕入価格は、2030年には直近5年間平均に対して50%上昇する可能性があります。現状では原材料価格の上昇は大半の製品に価格転嫁ができておりますが、価格転嫁が可能な製品でも、中期的には代替製品の出現が大きな脅威になる可能性があると予想されます。また、IEA「NZE2050シナリオ」が想定する2030年の炭素価格140ドル/t-CO2を前提とした場合、2024年度平均のドル円為替レート(1ドル152円)で換算した円ベースの炭素価格は21,280円/t-CO2となる見込みです。2030年の当社国内グループのCO2排出量が2024年度現在から不変の場合、同年の炭素税負担額は151百万円(2024年度売上高比0.6%)、当社国内グループの削減計画が予定通り実施された場合の負担額は127百万円(2024年度売上高比0.5%)となる見込みです。

物理的リスクシナリオの中で、財務的な影響が大きいと予想されるのは、大型台風による高潮(急性リスク)や気温上昇による海面上昇(慢性リスク)による主力工場の操業や物流ネットワークの寸断等の影響です。物理的リスクが顕現した際の被害想定として、当社は、①各拠点自治体が公表している高潮ハザードマップの最大被害想定(千葉工場、赤穂工場、エチレンケミカル(株)で3m程度の浸水による被害が発生)、②浸水深1m程度の高潮が全国的に発生(千葉工場、赤穂工場、エチレンケミカル(株)で1m程度の浸水による被害が発生)、③浸水深1m程度の高潮が千葉県あるいは兵庫県を中心に発生(千葉工場と同工場に隣接するエチレンケミカル(株)、あるいは赤穂工場で1m程度の浸水による被害が発生)、の3つのケースを想定し、その資産や操業に及ぼす被害額を試算しました。さらに、平均気温の上昇による高潮の発生可能性の増大を踏まえて、物理的リスクの定量的な把握を行いました。

 


 

3.リスクと機会への対応策

相対的に重要度が高いと考えられるリスクと機会について、当社グループは、以下の通りその対応策を改めて検討いたしました。

 

移行リスクシナリオへの対応策

①温室効果ガス削減計画の策定

当社は今後、主要拠点での再生可能エネルギーの導入、製造現場におけるエネルギー利用の高効率化、製造設備や空調設備の更新などの投資を通じ、温室効果ガス排出量の削減に注力してまいります。 これらの実施に必要な投資額に対する償却累計は約93百万円を想定しています。 これら施策が予定通り実施された場合、その他の条件を一定として、2030年度の当社グループのCO2排出量は、目標値である5,960トンを下回る見込みです。

 

②MORESCO Green SX製品の選定

当報告書「MORESCO Green SX」をご参照ください。

 

③非石化由来原料によるポリマーの開発・生産

より中長期の気候変動課題への対応として、当社は次世代事業の創出計画「MOLGADCプロジェクト」の一環として、非石化材料によるポリマーの開発・生産を進めています。

 

物理的リスクシナリオへの対応策

自然災害への対応策としては、当社は、すでに赤穂工場において、南海トラフ地震が発生した場合に最大3mの津波が発生する可能性を想定し、BCPを作成しています。高潮や海面上昇についても、同規模の被害と対応策が必要になると考えています。千葉工場でも同程度の被害があると予測されます。当社は、今回の気候変動に関わる物理的リスクの試算を踏まえて、主要拠点の自然災害に対するBCPを改めて見直し、必要な対策を検討する方針です。

 

④指標と目標

環境負荷に関する重要なリスクである温室効果ガス(GHG)排出量については、GHGプロトコルの基準に基づき、①自社の製造プロセス・事業活動における重油・ガス等燃料使用による直接排出(Scope1)、②他社からの電力・熱の購入等による間接的な排出(Scope2)、③Scope1、Scope2以外の間接排出(当社グループの活動に関連するサプライチェーンの排出、Scope3)、につき計測を進めております。Scope1、2については2030年度までに2013年度対比で排出量を46%削減、2050年度までにカーボンニュートラルを目指しています。

 


 

 


 

 

対象

バウンダリー

目標年度

水準

目標1

Scope1+2排出量

MORESCO国内グループ

会社 連結

2030年度

46%削減

(2013年度対比)

目標2

Scope1+2排出量

MORESCO国内グループ

会社 連結

2050年度

カーボンニュートラル

 

 

(2) MORESCO Green SX

当社グループは、製品の原料調達から廃棄までのライフサイクル全体を評価し、当社の7つのマテリアリティ「目指す取組み」への貢献要素が特に大きい製品を「MORESCO Green SX(MGS)」として認定しています。

 

①ガバナンス

毎年2回3月、9月にMORESCO Green SX社内審査会を開催し、当社グループ全体のMGS製品の売上高とMGS売上比率の実績を把握すると同時に、新規のMGS製品の候補について、審査会メンバーと外部有識者により討議しています。これら結果については、サステナビリティ委員会に報告され必要な認定を行った後に、取締役会に報告されます。

 

②リスク管理

当報告書「リスク管理体制」をご参照ください。

 

 

③戦略

MGS製品の売上高に占める比率の引き上げは、当社の第10次中期経営計画の5つの柱の一つである「サステナビリティ経営の推進」の主要施策の一つです。また、同じく5つの柱の一つである「製品ポートフォリオの高度化」の推進ドライバーとなる施策の一つです。

 

④指標と目標

当社グループは、MGSの開発・販売の指標として同製品の売上比率(2024年度実績34%)を採用し、2026年度に40%、2030年度に50%とする目標を掲げています。

 

(3) 人的資本・多様性

サステナビリティ基本方針に掲げている「『持続可能な社会の実現』と『中長期的な企業価値の向上』の両立」を実現するためには、全ての社員がその能力と意欲を最大限発揮できるような成長支援と、全ての人材が活躍できる環境づくりが重要になります。こうした考え方に基づき、2023年5月に「人材育成方針」と「社内環境整備方針」を制定しました。これら2つの方針も踏まえて、第10次中期経営計画の策定に合わせて、マテリアリティ実現に向けての具体的な取組などをまとめた「人材戦略」を策定しました。

 

①ガバナンス

当報告書「サステナビリティ経営の推進体制とガバナンス」をご参照ください。

 

②リスク管理

当報告書「リスク管理体制」をご参照ください。

 

③戦略

人材育成方針

当社グループは、経営理念とサステナビリティ基本方針に基づいて、2023年5月に人材育成方針についての「基本的な考え方」を制定しました。この基本的な考え方に基づいて、「人材に求めるマインド」として、「プロフェッショナル志向」、「自由な発想」、「共感力と巻き込む力」、「挑戦し続ける姿勢」の4つを掲げています。

 


 

 

社内環境整備方針

人材育成方針と同時に、当社グループは社内環境整備方針についての「基本的な考え方」も制定しました。当社グループが組織として最大限の力を発揮するためには、社員一人ひとりがその能力を高めるだけではなく、全ての社員がその能力を最大限発揮できる組織と文化が大切です。研究開発型企業であるMORESCOの人材にとって最も重要な要素は、自分の常識の「枠」を広げる姿勢です。そして、社員一人ひとりが常識の「枠」を広げる上での重要な要素が、多様性・公平性・包摂性であると考えています。

 


 

④指標と目標

経営戦略に連動した人材戦略を推進するため、当社グループは、第10次中期経営計画の策定に合わせて、マテリアリティ実現に向けての具体的な方針「人材戦略」を策定しました。具体的には、戦略目標①「全ての人材が活躍できる環境づくり」と戦略目標②「経営戦略実行のために必要な人材の充実」を策定しました。個別目標にはKPIを設定し、その達成に向けて着実に推進・監督していきます。

 


 

株式会社MORESCO

指標

2022年度

2023年度

2024年度

目標

女性管理職比率

9.2%

9.5%

11.7

2030年度

15

男性の育児休業取得率

71.4%

63.6%

87.5

2030年度

80

男女間賃金格差

 

 

全労働者

78.0%

78.8%

79.2

 

うち正規雇用労働者

83.0%

82.8%

82.3

 

うちパート・有期労働者

61.5%

67.4%

66.7

 

 

 

MORESCOグループ

指標

2022年度

2023年度

2024年度

目標

女性管理職比率(国内および国外)

18.0%

20.8%

21.2

男性の育児休業取得率(国内のみ)

62.5%

66.7%

77.8

 

算出根拠につきましては、当報告書 第一部 第1 「企業の概況 従業員の状況等」をご参照ください。

 

 

(4) 人権尊重経営

当社グループは、人材戦略の再構築と合わせて、人権尊重経営の強化にも取り組んでいます。初めの取り組みとして、国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に則って、2023年5月に「MORESCOグループ人権方針」を制定しました。同方針の内容と制定の背景については、2023年12月から2024年1月にかけて国内全グループ社員を対象とする研修を実施し、全ての社員に対して同方針の順守を求めました

 

①ガバナンス

当報告書「サステナビリティ経営の推進体制とガバナンス」をご参照ください。

 

②リスク管理

当報告書「リスク管理体制」をご参照ください。

 

③戦略

人権デューディリジェンス体制の構築・強化

当社グループは、人権デューディリジェンス体制の構築を推進しています。2024年度には人権デューディリジェンスの一環として従業員等を対象にハラスメント防止、LGBTQをテーマとした研修をeラーニングで実施しました。

また、当社グループにとって重要な人権リスクを抽出するために、国内外の様々な関連ガイドライン、外部専門家の意見などを参照し、当社にあった人権リスク評価項目を検討いたしました。2025年度には、決定した人権リスク評価項目で全社員を対象とした人権リスク評価を行います。その結果や社員エンゲージメント調査の結果も踏まえて、重要な人権リスクを特定する予定です。特定した人権リスクについては、その対策の強化・推進を進めるともに、関連する情報開示をコーポレートウェブサイト等で行う予定です。今後は、サプライチェーン全体を含めた人権リスク評価などを含めて、人権デューディリジェンス体制の構築・強化を進める予定です。

 

救済メカニズムの構築・強化

救済メカニズムの構築については、当社グループは、株式会社MORESCOの社員を対象とする関連する社内制度・規定の確認から着手しています。全グループ社員を対象とする社員エンゲージメント調査の結果等を踏まえて、グループ企業の指導・監督も強化しております。特定した人権リスクの重要度などを勘案しながら、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の要請に適合した救済メカニズムを、段階的に構築・強化していく方針です。

 

④指標と目標

当社グループの人権尊重経営を強化するため、国内グループ会社を対象とするハラスメント防止や内部通報の研修を開催し受講率100%を目標に掲げています。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 海外市場での展開について

当社グループは、中国、タイ、インドネシア、米国およびインドで現地法人設立による生産販売拠点を設置し海外事業を推進しております。当社グループの海外売上高は、中国、東南アジアをはじめとするアジア地域を中心に、2024年2月期12,947百万円、2025年2月期14,479百万円であり、売上高に対する比率はそれぞれ、40.6%、42.1%であります。これらの海外市場における景気変動、通貨価値の変動、政治情勢の変化、災害・疫病の発生および法規制の変化等が、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(2) 気候変動について

当社グループでは、気候変動を経営上の重要課題であると捉え、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすものと認識しております。

気候変動リスクとしては、移行リスクとしてコストの上昇や市場の変化、物理的リスクとしてサプライチェーンリスク等が重要度と発生確率が高いものと認識しております。

また、当社グループは、気候変動をリスクだけでなく機会と捉え、「持続可能な社会の実現」と「中長期的な企業価値の向上」を両立させつつ事業を運営し、社会課題や環境課題の解決により一層貢献するべく、サステナビリティ課題に対して積極的に対応していきます。

 

(3) 製品の製造に関するリスクについて

① 自然災害およびパンデミックまたは事故等に伴うリスク

当社グループは、国内外に生産拠点を有しており、安定供給への重大な責任を有しております。これら拠点が大規模な自然災害やパンデミックの発生または事故等により、製品の供給が困難な事態に至った場合には、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

② 特定の生産拠点への集中

(特殊潤滑油部門)

当社では、高温用潤滑油製造のための合成設備を赤穂工場で、またハードディスク表面潤滑剤製造設備は本社・研究センター内でそれぞれ保有しており、万一、工場、本社において重大なトラブルが発生し、設備の稼働が長期的に停止する事態になった場合には、製品の供給が一時的に停止する可能性があります。在庫量につきましては約1.0ヵ月であります。

(素材部門)

当社では、流動パラフィンならびにその連産品であるスルホネートを硫酸精製法により生産しております。硫酸精製法のメリットは、連産品としてスルホネートを生産できることですが、デメリットとしては製造過程において廃棄物として廃硫酸が発生することがあげられます。当社においては、隣接する廃硫酸リサイクル企業との間をパイプラインで直結し、廃硫酸処理を含めた一貫生産ライン(クローズドシステム)を構築しておりますが、廃硫酸処理を他社の設備で行っているため、当該他社工場の移転、縮小等、設備に変更が生じた場合、素材部門の生産能力に影響をおよぼす可能性があります。

また、当社では流動パラフィンならびにスルホネートを千葉工場のみで生産しており、万一工場において重大なトラブルが発生し、工場の稼働が長期的に停止する事態になった場合には、製品の供給が一時的に停止する可能性があります。工場の在庫量は約1.0ヵ月であります。

以上のような製品の製造に係るリスクに対して当社グループでは、拠点ごとでの事業継続計画(BCP)の策定、定期的な設備の保守点検および防災訓練の実施等、リスク発生の回避と発生時の被害最小化を図る取り組みを行っております。

 

(4) 製品の品質について

当社グループは、ISO9001の認証取得を含む厳しい社内品質保証体制に基づき製品の品質と信頼性の維持向上に努めておりますが、製品の品質不良に伴うリスクを完全に排除することは不可能であり、予期せぬ不良等が発生した場合、訴訟等のリスクがあります。当社グループの製品に品質保証問題が生じた場合には、補償費用が発生し、また、製品の信頼を損なって顧客の喪失等に結びつき、当社グループの業績に影響をおよぼす可能性があります。当社グループは、製造物賠償責任請求に対しては保険に加入しておりますが、最終的に負担する賠償額をすべてまかなえるという保証は無く、製品の欠陥が当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(5) 原料購入に伴うリスクについて

当社グループの製品は、潤滑油、石油化学製品、化成品等を主な原料としており、これらの原料は、原油価格・ナフサ価格の変動の影響を受けます。原油価格・ナフサ価格は、今後とも国内外の需給動向等により大きく変動することがあります。また東日本大震災では原料製造工場の被災による影響を受けましたが、今後とも災害・事故等による供給停止や、供給者側の事業・製品の統廃合等にともない原料の入手に支障をきたす可能性もあります。

当社グループとしては、原料価格の変動による影響に対しては特殊潤滑油の主たる販売先との間で原油・ナフサ価格に連動した製品価格の改定を行っているなど、製品価格への転嫁を進めるとともに、コスト削減および高付加価値製品への転換を図ってまいります。所要原料の確保については、グローバルレベルでの原料調達先の確保・使用原料の多様化により対処してまいりますが、これらの対処が十分にできなかった場合には、当社グループの業績に影響をおよぼす可能性があります。

 

(6) 研究開発に関するリスク

当社グループでは、新製品開発が収益性の向上や将来の成長に寄与するものとの認識のもと、新製品の開発に多くの経営資源を投入しております。

2024年度より開始している第10次中期経営計画では、事業部を横断し、社内および産官学と連携した開発体制「プロジェクトMOLGADC」を推進し、研究開発に取り組んでおります。

研究開発部門と営業部門が密接に連携を取りながら、社内外のネットワーク(人脈、技術等)を活用し、市場ニーズの的確な把握と研究成果の早期結実に努めておりますが、投資に見合った収益が得られなかった場合には当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(7) 特許の出願方針について

当社グループが開発した新技術に関して、基本的には特許を出願する方針でありますが、製造方法に関する特許等で侵害発見が容易でないものおよび特殊潤滑油に関する特許等で組成を開示することにより配合ノウハウが他社に漏洩する可能性があるものについては、秘密保持のため、出願を控える場合があります。このため他社が、当該事項に関する特許を出願した場合には、特許が成立する可能性があります。当社としてはこうした事態に備え、社内での当該事項の実施記録を残すことにしており、「先使用権による通常実施権」を主張することができるよう対処しております。

 

(8) 環境規制について

当社は環境関連法規の遵守に努めておりますが、環境保全に対する社会的要請を受けて、環境法規制の制定改正が進み、法令遵守のための設備投資や関連する事業の再編成などが必要となった場合には、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(9) コンプライアンスに関わるリスク

当社グループでは、全ての役職員が「経営理念」「MORESCO行動憲章」および「内部統制システムの整備に関する基本方針」に沿って企業活動に従事し、ステークホルダーから支持される企業となるため、「コンプライアンス方針」を制定し、これに基づきコンプライアンス遵守体制の整備と推進を実行しております。またグループ各社を対象とした内部監査の実施により、コンプライアンス遵守体制の維持、改善に努めております。

こうした取り組みにも関わらず、重大な法令違反を起こした場合、社会的信用の低下等により、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(10) 情報セキュリティについて

近年、外部からのサイバー攻撃、不正アクセス、コンピュータウイルス感染等により、企業が保有する情報が流出する事件が多発しています。当社としましては、「情報セキュリティポリシー」およびこれに関連する規程の整備および運用、情報セキュリティ対策製品の導入、並びに役員、従業員を対象とした情報セキュリティ教育の実施等により、その防止に努めております。

しかしながら、不測の事態により情報の流出等が発生した場合には、社会的信用の低下等により、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(11) 棚卸資産の評価に関わるリスク

当社グループは、「棚卸資産の評価に関する会計基準」を適用しております。市場環境の急激な変化等により収益性が低下していると判断し、保有する棚卸資産に対して評価損を計上する場合に、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

(12) 固定資産の減損に関わるリスク

当社グループは、「固定資産の減損に係る会計基準」を適用しております。経営環境の著しい悪化等による収益性の低下や市場価格の下落等により、保有する固定資産について減損損失を計上する場合に、当社グループの業績および財政状態に影響をおよぼす可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用会社)の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態および経営成績の状況

当連結会計年度におけるわが国経済は、経済活動の正常化へ向けた取り組みが進み、景気も緩やかな回復基調にありますが、物価の上昇は続いており、製造業は力強さを欠いております。世界経済においては、米国ではトランプ政権による追加関税等の保護主義政策の強化が行われ、中国では物価の下落および消費の回復の遅れが続き、欧州・中東の地政学リスクの動向も懸念材料であり、先行きは依然として不透明な要因が存在しております。

このような状況のもと、当連結会計年度の財政状態および経営成績は以下のとおりとなりました。

 

a.財政状態

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末に比べて1,244百万円増加し、38,297百万円となりました。これは主に、棚卸資産が439百万円、有形固定資産が274百万円、無形固定資産が143百万円、投資その他の資産が556百万円それぞれ増加したことによるものです。

負債は、前連結会計年度末に比べて643百万円減少し、13,288百万円となりました。これは主に、長期借入金が1,125百万円減少したことによるものです。

純資産は、前連結会計年度末に比べて1,887百万円増加し、25,009百万円となりました。これは主に、利益剰余金が599百万円、為替換算調整勘定が1,010百万円、非支配株主持分が328百万円それぞれ増加したことによるものです。

 

b.経営成績

国内外での販売数量の増加および販売価格の是正により売上高は34,374百万円(前期比7.8%増)となり、営業利益は1,391百万円(前期比13.6%増)となりました。一方で、為替差益および持分法による投資利益の減少により、経常利益は1,821百万円(前期比0.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,013百万円(前期比21.1%減)となりました。

 

セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。

日本

特殊潤滑油部門は鍛造用油剤、難燃性作動液、ダイカスト用油剤等で売上高が減少しましたが、冷熱媒体等の販売が堅調に推移したことや、ハードディスク表面潤滑剤の売上高が大幅に増加したことにより、部門全体の売上高は前期を上回りました。ホットメルト接着剤部門では、衛生材料用途の販売減少により、減収となりました。素材部門は、主にポリスチレン可塑剤用途向けの需要回復により流動パラフィンが増収となったことで、部門全体の売上高は前期を上回りました。その他部門では、子会社の大型水処理装置の販売により増収となりました。

この結果、当セグメントの外部顧客への売上高は21,640百万円(前期比7.0%増)となり、セグメント利益は871百万円(前期48.6%増)となりました。

 

中国

特殊潤滑油は日系自動車メーカーの稼働率低下の影響はあるものの中国全体での自動車生産台数の増加により、ホットメルト接着剤は衛生材料用途および空気清浄機用フィルター用途の販売が堅調に推移したことにより、ともに増収となりました。

この結果、当セグメントの外部顧客への売上高は3,758百万円(前期6.3%増)となり、セグメント利益は214百万円(前期81.9%増)となりました。

 

東南/南アジア

特殊潤滑油は自動車生産台数の減少による顧客での需要の減少があるものの販売価格の是正および新規拡販により増収となりました。ホットメルト接着剤は主要顧客での在庫調整と需要減により、減収となりました。

この結果、当セグメントの外部顧客への売上高は6,862百万円(前期1.8%増)となりましたが、ホットメルト接着剤の減益により、セグメント利益は219百万円(前期29.0%減)となりました。

 

北米

特殊潤滑油は自動車生産台数の増加および前期に実施した事業譲受に伴いCROSS TECHNOLOGIES N.A. INC.を新たに連結子会社としたことで増収となりましたが、一方で統合プロセスにおけるシナジー効果の実現に時間を要しています。

この結果、当セグメントの外部顧客への売上高は2,113百万円(前期52.7%増)となり、セグメント利益は107百万円(前期41.1%減)となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて58百万円減少し、5,508百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。

営業活動によるキャッシュ・フローは2,751百万円の収入(前期は2,934百万円の収入)となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益によるものです。

投資活動によるキャッシュ・フローは1,214百万円の支出(前期は4,250百万円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出によるものです。

財務活動によるキャッシュ・フローは1,677百万円の支出(前期は2,819百万円の収入)となりました。これは主に、長期借入金の返済による支出によるものです。

 

 

③ 生産、受注および販売の実績
a.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年3月1日

至 2025年2月28日)

前年同期比(%)

日本(百万円)

20,268

104.3

中国(百万円)

4,256

137.7

東南/南アジア(百万円)

7,774

109.5

北米(百万円)

1,064

194.8

合計(百万円)

33,362

110.6

 

(注) 金額は販売価格によっております。

 

b.受注実績

当社グループの化学品事業は、主として見込み生産を行っているため、受注実績は記載しておりません。

 

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年3月1日

至 2025年2月28日)

前年同期比(%)

日本(百万円)

21,640

107.0

中国(百万円)

3,758

106.3

東南/南アジア(百万円)

6,862

101.8

北米(百万円)

2,113

152.7

合計(百万円)

34,374

107.8

 

(注) 前連結会計年度および当連結会計年度における主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前連結会計年度

(自 2023年3月1日

至 2024年2月29日)

当連結会計年度

(自 2024年3月1日

至 2025年2月28日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

松村石油株式会社

5,124

16.1

5,137

14.9

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

 

① 財政状態および経営成績の状況に関する認識および分析・検討内容

当社グループの当連結会計年度における経営成績につきましては、売上高は34,374百万円(前期比7.8%増)となりました。国内外での販売数量の増加および販売価格の是正によるものです。利益面については、増収となったことにより、営業利益は1,391百万円(前期比13.6%増)となりました。一方で、為替差益および持分法による投資利益の減少により、経常利益は1,821百万円(前期比0.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,013百万円(前期比21.1%減)となりました。

財政状態の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態および経営成績の状況 a.財政状態」に記載のとおりです。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源および資金の流動性に係る情報

当連結会計年度においては、営業活動で得られた収入および財務活動で得られた収入を主な財源として、有形固定資産の取得を行いました。詳細は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

当社グループの資本の財源および資金の流動性については、必要資金は自己資金のほか金融機関からの借入等で確保しております。自己資金に関しては、営業活動によるキャッシュ・フローにより、継続的、安定的な資金の獲得を行っておりますことに加え、グループ各社の資金集約化により、資金の効率的な運用に努めております。また、金融機関からの借入に関しては、主要取引金融機関と当座貸越契約を締結し、資金の流動性を確保しております。

 

③ 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

④ 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当連結会計年度は第10次中期経営計画(2024年度~2026年度)の1年目でありました。当連結会計年度の目標数値の達成状況は次のとおりであります。

 

 

2024年度

(目標)

2024年度

(実績)

達成率

売上高(百万円)

34,000

34,374

101.1%

営業利益(百万円)

1,560

1,391

89.2%

経常利益(百万円)

1,850

1,821

98.4%

親会社株主に帰属する当期純利益(百万円)

1,050

1,013

96.5%

経常利益率

5.4%

5.3%

 

(注)目標は2024年4月12日公表値です。

 

また、2026年度の目標数値は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載のとおりであり、その達成のための対処すべき課題は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 経営環境、経営戦略および優先的に対処すべき事業上および財務上の課題」に記載のとおりであります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、多様化する顧客ニーズや持続可能社会の実現に対応していくため、また、新たな分野での事業創出のため積極的に環境保護と収益性とを両立できるような新しい研究開発活動に取り組んでおり、原材料の精製・合成・変性・配合による高機能付与および顧客要求条件に合致した製品特性の評価技術を基盤に、カーボンニュートラル社会に適合した、特殊潤滑油、合成潤滑油、ホットメルト接着剤および新規事業開発の各部門で研究開発を進めております。研究開発拠点は日本に置き、中国・東南アジア・米国には技術者を日本から派遣し、セグメント間の連携を図りながら現地に根ざした製品開発するとともに、グローバル開発会議を定期的に開始し、全体の開発レベルアップと現地特有の情報の共有と発信を推進し、各拠点での迅速な開発が可能な体制づくりを行っております。

主として当社の本社・研究センターに、事業部門に関連した開発部および新規事業開発を担う研究開発部を置き、環境関連、情報エレクトロニクス関連、エネルギーデバイス関連、ライフサイエンス関連の各分野での新材料開発・新技術開発・新製品開発および既存製品の改良開発を推進しております。研究開発スタッフは105名であり、これは従業員全体の13.2%に当たっております。

当連結会計年度における各セグメント別の研究開発の主要課題、研究開発成果および研究開発費は次のとおりであります。なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は1,599百万円となっております。

 

(1) 日本

(特殊潤滑油部門)

主に、機能材開発部内に設置している各分野の開発課において、ダイカスト用油剤、難燃性作動液、熱間鍛造用潤滑剤、金属加工油等の研究開発を行っております。

持続可能社会の実現に向けた環境負荷低減や省資源化・リサイクル化に貢献できる新製品開発を始め、IoT・AIやセンサーを用いた基盤技術構築、更に油剤長寿命化や使用量削減が可能な周辺装置開発にも注力しております。

また、ラボラトリーオートメーションやマテリアルズインフォマティクスの導入を検討し、開発の効率化を図ってまいります。

ダイカスト用油剤では、少量の塗布で使用可能な油剤による工場内環境改善、品質・生産性向上を実現する製品開発を完了していますが、今後更には各自動車メーカーのEV化・軽量化で貢献できる少量塗布型新製品開発を推進します。また効率的な少量塗布を実現・サポートするための簡易に塗布状態を可視化する技術の開発も進めて参ります。

難燃性作動液では、国内No.1水グリコール系作動液メーカーとして環境への取り組みを加速し、劣化作動液から主成分を回収利用するリサイクルシステムのブラッシュアップに併せ、作動液の長寿命化を実現するための自動モニタリングシステムの開発により廃棄物低減による環境負荷の低減への貢献も進めています。

熱間鍛造用潤滑剤では、黒鉛代替可能で工場の作業環境美化に貢献できる白色系潤滑剤の開発を進めています。近年、自動車メーカーのEV化・軽量化に伴い、足回り部品の製造プロセスには高強度かつ軽量化が期待されるアルミ鍛造が採用されるようになってきており、鉄鍛造のみならずアルミ鍛造分野への取り組みも推進しております。

金属加工油では、環境改善や生産性向上に貢献できる水溶性切削油のコア技術の更なる深耕を進めると共に、リユース材料・容器の積極利用と加工油剤の長寿命化を実現するための自動モニタリングシステムの開発を行い、加工性能の安定化や廃棄物低減による環境負荷の低減への貢献を進めています。

合成潤滑油開発部において、ハードディスク表面潤滑剤、ハードディスクドライブ内部品用グリース基油・半導体製造装置用の特殊油剤等の研究開発を行っております。独自の分子構造設計と合成・精製ノウハウによりオンリーワン製品の開発に注力しております。

ハードディスク表面潤滑剤では、さらなる記録密度向上のために必要とされる磁気ヘッドとハードディスク間の低浮上性(低すきま性)を実現する新規化合物が主要ディスクメーカーで採用されております。品質安定化のための製造基盤技術強化を進めるとともに、次世代ハードディスクの要求特性に対応した新規化合物の分子設計に注力しております。具体的には、大容量磁気記録技術として期待されている、MAMR(マイクロウェーブアシスト磁気記録)やHAMR(熱アシスト磁気記録)などに要求される耐久性・耐熱性に優れた新しい構造の潤滑剤の開発を続けております。

 

ハードディスクディスクドライブ内部品や半導体製造装置用の特殊油剤では、アウトガス発生の原因となる低揮発成分が嫌われるため、これを徹底的に除去した高度精製油剤の開発を行っており、市場評価も進んでおります。

また、新しい事業構築を目標として、バイオマス材料を用いた材料開発やPFAS(erluorolkyl ubstances)規制の代替材料で且つ極低脱ガス・低蒸気圧の特性を実現したグリース基油を開発し半導体装置分野への挑戦も開始し、潤滑性や導電性、サステナブル社会への貢献といった市場動向の要求に沿って、独自性の高い高機能添加剤の開発を行うともに、合成技術を活かし他部門やグループ会社との協業による市販原材料とは異なる機能を有した新たな原材料設計・添加剤設計・製品開発に引き続き注力してゆきます。

 

(ホットメルト接着剤部門)

ホットメルト事業部内に設置しているホットメルト開発部において、人や環境に配慮した低臭気・無揮発成分(VOC)の接着剤の開発に加えて、省エネルギーを実現しうる低温塗工タイプの新製品やホットメルトの弱点である耐熱性不足を克服しうる反応型ホットメルトの新製品などの開発を行っております。

主要市場のひとつである衛生材料業界向けには、顧客の海外進出に追随し、現地調達可能な材料を用いた新製品開発とともに現地生産拠点への生産技術支援に引き続き取り組んでおります。また、接着界面の分析・解析技術を用いて、少ない塗布量で接着力を発揮できる低塗布量対応型ホットメルトの開発や、接着以外の付加機能を持つ新たな製品も開発中であり、市場の多様なニーズに応える新製品開発に注力しております。

近年の環境問題への意識の高まりと共に、カーボンニュートラルと資源の有効活用を目指し、バイオマスホットメルトのラインナップ強化や、100%天然由来成分で作られたホットメルトの開発に取り組んでおります。また、自動車内装用向けの反応型ホットメルトの性能向上に成功し新たな自動車メーカーでの採用拡大が進んでいます。

ホットメルトはもともと有機溶剤を含まず、人体や環境に優しい粘接着剤ですが、原料そのものからも、微量の残存溶剤を除去できるM-Zero™技術を駆使し、機能性と環境配慮を両立した製品ラインナップを強化していきます。

 

(新規事業開発部門)

環境関連、情報エレクトロニクス関連、エネルギーデバイス関連、ライフサイエンス関連などの分野をキーワードとし、引き続き新規事業創出を目指した種々の研究開発を行っております。

中でも、エネルギーデバイス関連分野に関しては、有機ELデバイスの封止材を主軸とする製品開発と販売に取り組んでおります。次世代有機デバイスとして期待されているフレキシブルタイプ向け、マイクロLED向け、そしてペロブスカイト型太陽電池向けの封止部材についても開発に注力しており、顧客評価が進んでいます。加えて、フレキシブルデバイスに使用するフィルム等のガス・水蒸気透過度測定装置について販売および受託分析を継続しており、国内を中心として実績が拡大しております。更には水素社会に向けた、水素透過率に特化した新装置を昨年度末にプレスリリース致しました。有機薄膜太陽電池(OPV)については海外メーカーとの製品・材料での協業も取り入れながら、Roll-To-Rollでの独自の試作が可能な点を生かしながら販売を開始しております。保有のRoll-To-Roll設備を活用し、OPVだけではなくペロブスカイト型太陽電池の受託作製も行っております。

また、ライフサイエンス関連部門では複数の大学や研究機関と連携し、オートファジーを対象とした創薬研究を進めています。オートファジーは細胞内の恒常性維持現象で、加齢に伴い低下することが知られております。オートファジーは各種生活習慣病と密接に関係すると考えられており、オートファジーを活性化する薬剤は、健康寿命の増進に寄与すると期待されています。2024年2月、開発化合物に関する第一弾の特許を出願しました。この後、大手製薬企業へのアウトライセンスに向け、安全性データならびに薬物動態データの拡充を進めるとともに、開発化合物の作用メカニズムを明らかにし、早期実用化を目指します。また各種薬物の吸収性を飛躍的に高めることができるナノエマルジョン技術を化粧品原料に応用し、国内ブランドホルダーでの採用検討が進んでおります。またECサイトを利用して、当社独自化粧品ブランド「Irigrasia(イリグラシア)」を立ち上げ、ナノエマルジョン技術を応用した化粧品についてユーザー評価と認知度を向上させるべく2025年4月より販売を開始しました。その他の新規事業開発においては、長期経営計画をベースに、バイオガスからの非石油石炭由来オイルの製造開発を進めており、パイロットプラントを稼働させ、技術概念実証とともに、さらなる大規模化に向けた課題抽出を進めております。この他、研究開発部門全体でDXを導入し、研究開発の効率化、スピードアップを進めております。

日本セグメントに係る研究開発費の金額は1,363百万円であります。

 

 

(2) 中国、東南/南アジアおよび北米

主としてダイカスト用油剤および金属加工油に関して、現地のニーズに合致した製品開発に注力し、研究開発要員が駐在し、現地開発体制の強化を進めております。ダイカスト用油剤においては、リーディングカンパニーとしての開発ノウハウを共有化し、現地ニーズに対応した製品開発をタイムリーに行うことにより、ローカルユーザーを含めた市場シェアアップに努めております。金属加工油では、日本で培った水溶性切削油開発におけるコア技術の共有化を図り、現地ニーズに合致した新製品開発を進めています。

中国、東南/南アジアおよび北米セグメントに係る研究開発費の金額は236百万円であります。