第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 

当社グループは長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』の実現に向けて、2018年度よりスタートした中期経営計画「PROUD 2020」(2018年度~2020年度)において以下の4つの主要経営戦略を推進しています。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2019年12月31日)現在において当社が判断したものです。

① 競争優位の追求

顧客ニーズに基づく高付加価値製品・用途の開発推進や、今後、更に存在感が増す新興国・地域を、新たな機会創出の場として捉え、戦略的に取り組みを強化することや、IoTを活用した生産・業務プロセスの革新・改善を行うことで競争力の強化を行っていきます

② 新たな事業領域の拡大

独自技術の研鑽と外部技術の取り組みによる新事業の創出やM&A・アライアンスによる新領域の獲得、技術とサービスを組み合わせたビジネスモデルの確立を行うことで事業領域を拡大していきます。

③ グループ総合力強化

ビジネスの拡大に合わせたグローバル経営基盤の構築、世界の多様な優秀人材を惹きつける働きがいのある職場づくり、クラレグループの更なる一体感の醸成を行っていくと同時に、コンプライアンス徹底の取り組みを強化していきます。

④ 環境への貢献

上記3つの経営戦略に基づく具体的施策の実施において、事業活動における環境負荷の低減、地球環境や社会問題の解決に貢献する製品やサービスの提供の拡大を通じ、自然環境や生活環境の向上に貢献します。

 

中期経営計画「PROUD 2020」におけるこれまでの2年間は、イソプレンにおけるタイ新工場の投資決定や、世界最大の活性炭メーカーであるCalgon Carbon Corporationの買収と統合シナジーの発現など、将来の安定したポートフォリオの構築への取り組みを強化してきました。また、光学用ポバールフィルムや水溶性ポバールフィルムの設備増強など、成長に向けた戦略の具体的施策についても着実に実行しました。一方、業績面では世界景気減速の影響を受け、当社の主要用途である、自動車、ディスプレイ、電気・電子デバイス産業が調整局面に入り、需要が減退したため、計画を下回る結果となりました。「PROUD 2020」の最終年度となる2020年度の世界経済は成長がさらに鈍化し、当社事業を取り巻く環境も向かい風が続くことを想定しており、「PROUD 2020」に掲げた業績目標の達成は困難な状況です。このような状況の中、主要経営戦略の具体的施策を確実に実行していくとともに、設備投資を行った事業における早期の業績貢献化や、買収した活性炭事業におけるシナジー発現の加速など、キャッシュフローの創出に一層注力します。また、市場環境の変化などにより見直しが必要な事業においては戦略の修正を行い、2021年から新たに始まる次期中期経営計画に繋げていく所存です

当社グループは創立100周年に向かって持続的に成長するスペシャリティ化学企業として、大きく飛躍するために今後も挑戦し続けます

 

当社は2019年11月22日に公正取引委員会から活性炭の製造・販売に関し、排除措置命令を受けました。2017年3月にも防衛装備庁が発注する特定ビニロン製品の入札に関して同委員会から排除措置命令を受けています。二度にわたる独占禁止法違反の排除措置命令に関し、事態の重大性を厳粛かつ真摯に受け止め、独占禁止法の遵守を経営上の最重点課題の一つとし、再発防止に向けた諸施策に全力で取り組んでいます

また、2018年5月に米国子会社で発生した火災事故に関連し、160名超の外部委託業者の作業員等から身体的または精神的傷害に対する損害賠償等を求める民事訴訟を提起されています。一部の原告と和解に至っていますが、現在も訴訟は係属中です。同工場は既に再発防止の諸施策を講じた上で運転を再開していますが、二度とこのような火災事故を起こさないために、2019年度よりクラレ本社による海外プラントの安全監査を実施し、抽出した改善点に順次対処しています。2020年度以降も、国内外プラントにおける安全に関する設備面の強化、及び管理システムやマニュアル見直し・改善、社員教育の充実などソフト面の強化を継続的に取り組んでまいります

今後も、企業ステートメントの行動原則に掲げた「安全はすべての礎」の考えのもと、「安心して働ける会社、事故の起こらない安全な会社」の実現をグローバルで目指してまいります

 

2 【事業等のリスク】

 

当社グループの業績(経営成績及び財政状態)等に重要な影響を及ぼすリスクには以下のような項目があります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2019年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

① 事業環境の変化に関わるリスク

当社グループは、多様な事業ポートフォリオを有しており、製品市場もグローバルかつ様々な用途分野に展開しています。さらに、当社の製品は特殊化学品が多く、一般に比べて商品市況の影響を受けにくい構成になっていますが、近年、用途分野を電気・電子、自動車、環境等の成長分野へシフトさせつつあり、業績の依存度も高まっています。これらの分野は、最終製品における業界標準の転換、短い製品寿命、グローバルな開発競争等、市場変化が激しいため、当社製品についても市場環境や競争条件が激変するリスクがあります。

また、当社グループの製品である化成品、合成樹脂、合成繊維の原料は、原油、天然ガスの市況に影響を受けるエチレン等の石油化学製品です。このため、予想を超えるこれらの市況の変動が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これらの事業環境の変化により、重要な事業が縮小・撤退を余儀なくされるリスクがあります。

 

② 事故・災害に関わるリスク

当社グループは、日本及び欧州、北米、アジア、豪州に生産拠点を設けており、これらの多くは大規模な化学工場です。爆発、火災、有害物質の漏洩などの事故・災害の未然防止、及び災害発生時には被害の極小化に努めるとともに、重要な生産設備については、拠点分散や損害保険によるリスク対応を行っていますが、重大な保安事故、環境汚染や自然災害が発生すれば、従業員や第三者への人的・物的な損害、事業資産の毀損、長期の生産停止が生じるリスクがあります。

また、重要な原材料、設備・メンテナンス部品やサービスの提供などを担っているサプライヤーにおける事故・災害の発生により、当社グループの製品供給に影響が生じるリスクがあります。

 

③ 係争・法令違反に関わるリスク

当社グループは、独自技術による事業を数多く有しており、将来において、当社グループの知的所有権への重大な侵害や当社の権利に対する係争が発生するリスクがあります。

また、当社グループは、自動車、電気・電子材料、医療、食品包装等、最終製品の品質確保に重要な役割を担う製品を数多く供給しています。当社グループでは主に製造拠点単位で品質マネジメントシステムを導入し品質の向上に努めていますが、品質の欠陥に起因する大規模な製品回収が発生すると、PL保険でカバーできない損害賠償等の損失が発生するリスクがあります。

当社グループの各事業拠点においては、コンプライアンス体制を構築し、法令等の遵守に努めていますが、重大な法令違反を起こした場合、また現行の法規制の変更や新たな法規制等が追加された場合には、事業活動に制約を受けるリスクがあります。

 

④ 為替の変動に関わるリスク

当社グループは、日本国内及び欧州、北米、アジア、豪州などの海外諸地域で生産、販売を展開しています。当社グループが国内で生産し、海外へ輸出する事業では製品の輸出価格が為替変動の影響を受けます。一方、海外の事業拠点で生産、販売する事業では、異なる通貨圏との間の調達・販売価格及び外貨建て資産・負債の価額が為替変動の影響を受けます。このため想定を超える為替変動は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 固定資産の減損に関わるリスク

当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しています。当社グループが保有する固定資産について、経営環境の著しい悪化等による収益性の低下や市場価格の下落等により、減損損失が発生し、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

⑥ 環境に関わるリスク

当社グループは、環境に関する各種法律、規制を遵守するとともに、地球温暖化対策の推進、化学物質の排出抑制、資源の有効利用等の環境改善に継続して取り組んでいます。しかしながら、予期せぬ事故や自然災害等により環境汚染が生じた場合や、環境に関する規制が強化された場合は、事業活動の制限や対策費用の増加等により、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

⑦ 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループは、事業活動の基盤である情報システム・情報ネットワークに対し、様々なセキュリティ対策を実施していますが、災害、サイバー攻撃、不正アクセス等により情報システム等に障害が生じた場合や、企業情報及び個人情報等が社外に流出した場合は、事業活動の停滞や信用の低下等により、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

⑧ その他のリスク

当社グループは、グローバルな事業展開を行っており、戦争・暴動・テロ、伝染病等、偶発的な外部要因によって事業活動に支障が生じるリスクがあります。

また、国内及び海外事業に関連して、取引先や第三者との間で、訴訟その他法的手続きの対象となるリスクがあります。重要な訴訟等が提起された場合、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析内容は以下のとおりです。

また、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号 2018年2月16日)等を当連結会計年度の期首から適用しており、財政状態の状況については、当該会計基準等を遡って適用した後の数値で前連結会計年度との比較・分析を行っています

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2019年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

 

(1) 経営成績の概況及び分析

当連結会計年度における世界経済は、長期化する米中貿易戦争と各地域における地政学的リスクの顕在化に伴い、期を追うごとに不確実性が増大し、減速の傾向が浮き彫りになりました。かかる状況下、当社グループの業績においても、売上高は前年同期比27,188百万円(4.5%)減575,807百万円、営業利益は11,620百万円(17.7%)減54,173百万円、経常利益は12,896百万円(21.1%)減48,271百万円、親会社株主に帰属する当期純損失は1,956百万円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純利益33,560百万円)と前年同期を下回る結果となりました。なお、当連結会計年度において、2018年5月に米国子会社で発生した火災事故に対する訴訟に関し、和解費用を含む合理的に見積りが可能な損失など(50,590百万円)を特別損失に、受取保険金(10,360百万円)を特別利益に計上しました。

当社グループは2018年度より中期経営計画「PROUD 2020」をスタートさせました。最終年度となる2020年度においても、ありたい姿である「独自の技術に新たな要素を取り込み、持続的に成長するスペシャリティ化学企業」を目指して、「PROUD 2020」で掲げた主要経営戦略の具体的施策を順次実施し、中長期的な視点に基づく、新たな事業ポートフォリオ構築に継続して取り組んでまいります。

 

[ビニルアセテート]

当セグメントの売上高は266,105百万円(前年同期比4.8%減)営業利益は47,368百万円(同13.5%減)となりました。

① ポバール樹脂は景気減速により販売量が減少しました。光学用ポバールフィルムは、液晶パネルの在庫調整の影響を受け、出荷が減少しました。なお、倉敷事業所の設備増強工事は第4四半期連結会計期間に完了しました。PVBフィルムは、建築用途でアイオノマーガラス中間膜<セントリグラス>の需要が伸長しましたが、自動車用途は苦戦しました。一方、水溶性ポバールフィルムは個包装洗剤用途の販売が拡大しました。

② EVOH樹脂<エバール>は、ガソリンタンク用途で自動車生産台数減少の影響を受けました。食品包材用途は、第3四半期以降、徐々に販売の回復が進みましたが、年度では数量が減少しました。

 

[イソプレン]

当セグメントの売上高は53,276百万円(前年同期比6.9%減)営業利益は4,232百万円(同41.8%減)となりました。

① イソプレン関連では、景気減速の影響を受け、熱可塑性エラストマー<セプトン>の販売量が減少しました。

② 耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>は、電気・電子デバイス向けの需要が停滞しました。一方、車載用コネク 

    タ向けの新規採用が進みました。

 

[機能材料]

当セグメントの売上高は125,982百万円前年同期比4.2%減営業利益は3,836百万円(同12.7%減となりました。

① メタクリルは、樹脂の販売が減少したことに加え、市況悪化の影響を受けました。

② メディカルは、歯科材料の審美修復関連製品を中心に堅調に推移しました。

③ カルゴン・カーボンは、北米での需要は底堅く推移しましたが、欧州は需要停滞に伴い伸び悩みました。炭素材料は高付加価値品の販売が拡大しました。

 

[繊維]

当セグメントの売上高は64,513百万円(前年同期比0.3%減)営業利益は5,654百万円(同9.9%減)となりました。

① 人工皮革<クラリーノ>は、ラグジュアリー商品用途が引き続き堅調に推移しましたが、靴用途は苦戦しました。

② 繊維資材は、ビニロンでセメント補強用が低調に推移し、ゴム資材向けも自動車生産台数減少の影響を受けました。一方、<ベクトラン>は輸出を中心に拡大しました。

③ 生活資材は、<クラフレックス>で汎用品の数量が減少しましたが、高付加価値品の販売が拡大しました。

 

[トレーディング]

繊維関連事業は、スポーツ衣料用途などの縫製品販売が堅調に推移し、高機能原糸の輸出も拡大しました。一方、樹脂・化成品関連事業は中国向けを中心に輸出が苦戦しました。その結果、売上高は130,911百万円(前年同期比5.7%減)営業利益は4,224百万円(同0.2%増)となりました。

 

[その他]

その他事業は、国内関連会社の販売が低調であったことにより、売上高は51,128百万円(前年同期比11.9%減)、営業利益は649百万円(同44.9%減)となりました。

 

 

(2) 当期の財政状態の概況

総資産は、有形固定資産の増加57,381百万円等の一方、無形固定資産の減少14,215百万円等により前連結会計年度末比44,053百万円増991,149百万円となりました。負債は、コマーシャル・ペーパーの発行24,000百万円、未払費用の増加38,289百万円及びその他固定負債の増加17,087百万円等の一方、短期借入金の減少11,675百万円等により前連結会計年度末比72,541百万円増452,604百万円となりました。有形固定資産及びその他固定負債増加の要因は、主として当連結会計年度より一部の海外関係会社について「リース」(IFRS第16号)を適用したため、使用権資産とリース負債がそれぞれ増加したことによるものです。

純資産は、前連結会計年度末比28,488百万円減少し、538,545百万円となりました。自己資本は525,151百万円となり、自己資本比率は53.0%となりました。

 

(3) 当期のキャッシュ・フローの概況

[営業活動によるキャッシュ・フロー]

税金等調整前当期純利益2,893百万円に対して、減価償却費58,158百万円、未払いの訴訟関連損失39,394百万円、売上債権の減少5,724百万円及び法人税等の支払額19,308百万円等により、営業活動によるキャッシュ・フローは95,577百万円の収入となりました。

 

[投資活動によるキャッシュ・フロー]

定期預金の増加4,984百万円及び有形及び無形固定資産の取得87,105百万円等の支出により、投資活動によるキャッシュ・フローは89,369百万円の支出となりました。

 

[財務活動によるキャッシュ・フロー]

コマーシャル・ペーパーの純増額24,000百万円及び長期借入れ7,744百万円等の収入に対して、長期借入金の返済12,050百万円及び配当金の支払い額14,595百万円等の支出により、財務活動によるキャッシュ・フローは1,517百万円の支出となりました。

 

以上の要因に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額等により、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末より4,621百万円増加して、75,967百万円となりました。

 

                                                         (単位:百万円)

 

2018年12月期

2019年12月期

営業活動によるキャッシュ・フロー

75,171

95,577

投資活動によるキャッシュ・フロー

△186,982

△89,369

財務活動によるキャッシュ・フロー

114,088

△1,517

現金及び現金同等物に係る換算差額

△1,210

△70

現金及び現金同等物の増減額

1,065

4,620

現金及び現金同等物の期首残高

70,234

71,345

新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額

45

1

現金及び現金同等物の期末残高

71,345

75,967

 

 

なお、当社グループのキャッシュ・フロー指標は以下のとおりです。

 

2015年12月期

2016年12月期

2017年12月期

2018年12月期

2019年12月期

自己資本比率(%)

70.7

70.7

71.7

58.6

53.0

時価ベースの自己資本比率(%)

73.7

85.1

96.0

57.1

46.2

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)

0.6

0.6

0.7

2.9

2.5

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

128.7

127.1

116.0

62.7

68.5

 

(注)自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

 

1.各指標は、いずれも連結ベースの財務諸表数値により計算しています。

2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しています。

3.営業キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。

4.有利子負債は短期借入金、コマーシャル・ペーパー、長期借入金及び社債の合計額を使用しています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。

5.2018年12月期より、たな卸資産の評価方法を変更しています。当該会計方針の変更は遡及適用されるため、2017年12月期の数値は遡及適用後を記載しています。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの必要資金は、当社グループ製品の製造販売に係る原材料費、経費、販売費及び一般管理費等の運転資金及び、設備投資、M&A等に係る投資資金が主なものです。

財務状況は健全性を保っており、現金及び現金同等物、有価証券などの流動性資産に加え、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入金、社債等による資金調達により、事業拡大に必要な資金を十分に賄えると考えています。また、緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、金融機関とコミットメントライン契約、当座貸越契約等を締結し、資金流動性を確保しています。

 

(5) 生産、受注及び販売の状況

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品が多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

このため生産、受注及び販売の状況については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績の概況及び分析」における各セグメントの業績に関連付けて示しています。

 

(6) 経営成績に重要な影響を与える要因と対応

経営成績に重要な影響を与える要因と対応については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載しています。

 

4 【経営上の重要な契約等】

 

該当事項はありません。

 

5 【研究開発活動】

 

当社グループにおける研究開発活動は、私たちの使命「私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。」に基づいて、社内カンパニー・事業部・連結子会社に所属するディビジョン研究開発とコーポレート研究開発との緊密な連携の下に推進されています。

コーポレート研究開発は、以下3点を通じて、クラレグループ全体の業容拡大・収益向上に資することを目指しています。

① 新事業の創出:素材事業を主に、あるいはそれらに加工技術を付加した部材事業をターゲットとし、早期創出を目指します。2018年度より開始した中期経営計画「PROUD 2020」の進行中に、部材事業の事業化を推進するとともに、当社における部材事業の立ち上げにおいて、何が必要かを見極めます。

② 既存事業の強化・拡大:コーポレート機能の抜本的見直しのもと、カンパニー・グループ会社との協働・支援を強化し、全社事業の盤石化を図るとともに、新事業開発を促進します。

③ 基盤技術の保有:新事業の創出及び既存事業の強化・拡大を通じて、必要とする基盤技術を構築し、深化・深耕を図ります。

研究開発体制として、コーポレート研究開発は、研究開発本部において、基礎段階のくらしき研究センター・つくば研究センター及びKAI Corporate R&D(米国)、事業化段階の機能製品開発部・成形部材事業推進部及びベクスター事業推進部を擁しています。生産技術に関しては、技術本部 技術開発センターにおいて「原理原則と現場感覚の最適融合」による生産技術開発を推進しています。また、IoTを活用した生産効率、及び品質向上への取り組みを進めています。

ディビジョン研究開発は、社内カンパニー・事業部・連結子会社が各事業所に研究開発部署を有しています。コーポレート研究開発とディビジョン研究開発を合わせた当社グループ(当社及び連結子会社)の研究開発人員数は1,040人です。

当連結会計年度のセグメントごとの研究開発費は、ビニルアセテート7,025百万円、イソプレン1,575百万円、機能材料3,299百万円、繊維1,996百万円、トレーディング130百万円、その他1,252百万円、全社共通(コーポレート研究開発)5,891百万円、合計21,170百万円になります。

セグメントごと及びコーポレートの研究開発活動を示すと次のとおりです。

[ビニルアセテート]

・ポバール樹脂、ポバールフィルム、PVBフィルム、<エバール>(樹脂、フィルム)の酢酸ビニルチェーンについては、世界のリーディングカンパニーとして、国内外の研究開発部署が連携し、新規用途開発、新商品開発、新規生産技術開発も併せて、研究開発活動を推進しています。

・ポバール樹脂は、当社ビニルアセテートチェーンの根幹に位置する事業として、日米欧亜の6工場を中心としたグローバルネットワークを強みとして市場開発を推進しています。自消・外販両面で安定かつ高い品質の原料供給を基本とし、クラレ発の新規技術を積極投入すると共に技術サービスネットワークの強化により付加価値の高いビジネス機会を提案します。

・ポバールフィルムは、液晶ディスプレイ向け光学フィルムのトップメーカーとして市場を牽引すべく、さらなる高性能化・高品質化に顧客と一体となって取り組んでいます。また、洗剤包装用途を中心にますます拡大する水溶性フィルムについても、ポバール樹脂メーカーである強みを活かし、原料まで遡った高性能化・多機能化を加速させます。

 

・PVBフィルムは、自動車・建築向け合わせガラス用中間膜の高付加価値品の開発を進めています。その一環として、アイオノマー樹脂をシート化した<セントリグラス>の更なる高付加価値化やPVBフィルムとのシナジー効果の発現、新規用途開発を推進しています。

・<エバール>樹脂は、世界規模で食品廃棄ロスの削減や環境負荷の低減が求められるなか、日米欧の3拠点を中心に世界各地のニーズを把握しながら、バリア材料の新技術開発・用途開発を推進しています。また<エバール>フィルムは、省エネルギー・地球環境保全に貢献する用途へ積極的に展開していきます。さらにバイオマス由来のガスバリア材料<PLANTIC>については、CO2排出削減効果とガスバリア性を融合した新素材として、用途開発に取り組んでいます。

[イソプレン]

・エラストマー関連では、熱可塑性エラストマー及び液状ゴムの差別化・高付加価値化に取り組んでいます。植物由来原料のファルネセンを用いた液状ゴムは、高機能タイヤの改質剤として国内外のタイヤメーカーへ採用が広がっています。ファルネセンを用いた熱可塑性エラストマーの開発も進めており、更なる差別化製品の開発と市場拡大に向けて研究開発、マーケティング活動を推進しています。

・イソプレンケミカル関連では、独自性の高いC4ケミストリーをさらに進化させた化学品として、香料、溶剤や特殊インキ関連の材料開発並びに精密有機合成技術を基盤にした新規材料など機能性化学品の創出に取り組んでいます。

・耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>では、自動車の軽量化に伴いエンジン冷却配管が金属製から樹脂製へ置き換わりつつあり、耐加水分解性と柔軟性を両立する押出グレードを開発し、自動車冷却配管メーカー各社で評価が進んでいます。また、PEEKやフッ素系樹脂を代替できる性能を持つ新規ポリマーの開発に取り組んでいます。

[機能材料]

・メタクリル樹脂については、差別化ポリマーの拡充とメタアクリル系樹脂を活用した新規用途開発、新商品開発を主体に研究開発活動を行っています。

・メディカル事業では、クラレノリタケデンタル株式会社の無機/有機の技術の融合による新規歯科材料の開発に注力し、CAD/CAM用ジルコニア、高強度レジン等のデジタル化の流れにも対応した開発、商品化を行っています。また、人工骨インプラント<リジェノス>、吸収性骨再生用材料<アフィノス>は、配向連通孔技術を特長に、多面的な展開を進めています。

・炭素材料では、買収したCalgon Carbon Corporationとの技術融合を進め、「水・環境・エネルギー」分野を重点戦略領域にグローバルな研究開発を推進し、活性炭及び吸着分野のイノベーションを創出していきます。

[繊維]

・PVA繊維<ビニロン>は、革新プロセス(VIP)の量産化設備が本格稼働し、ゴム補強用フィラメントとして、国内外のユーザーに販売を開始しました。更に高速化・高収率生産によって事業拡大を目指しています。FRC(セメント補強材)は、中国製PVA繊維との価格競争により苦戦しています。このため、ポリマーや生産方法の改良による繊維の高強度化(耐久性向上)を図り、セメント製品の高性能化や高靭性化により中国品との差別化を進めています。

・高強力繊維<ベクトラン>は、長年開発を進めてきた海洋資材、光ファイバー等電材や医療用分野において、その高強度、低吸水性、低誘電損失、低線膨張係数が認められ、フル生産となりました。今後は、利益率の高い商品へのシフトを行い、収益性を高めた上で次期中期経営計画にて設備の増強を進めていきたいと考えています。

・人工皮革<クラリーノ>は、環境対応型革新プロセス(CATS)のみならず、リサイクル樹脂やバイオベース樹脂の利用によって、世界で最も環境に配慮した人工皮革を達成しました。カーシートを始めとした新商品展開を狙っていきます。

・不織布<クラフレックス>は、メルトブローン技術とスパンレース技術を融合した高付加価値不織布設備が今年秋より岡山で本格稼働します。コスメ用途やマスクとして国内外で展開し、販売拡大を進めていきます。また、食品用途については、製造環境の衛生管理を進め、東南アジアを始め国内外での拡販に努めています。

・ジェネスタ繊維(PA9T繊維)は、耐熱性、耐薬品性の特長を生かして、自動車のフィルターに採用されました。その特長を生かし、空調関係他の新たなフィルターや炭素繊維との複合による熱可塑性コンポジットの可能性が広がっています。

[トレーディング]

・ポリエステル長繊維<クラベラ>では、①熱水に溶解し、生分解性をも有する特殊水溶性樹脂<エクセバール>を用いた水溶性繊維<ミントバール>、②要求性能に応じた多様な断面構造で高い帯電防止性能を持つ導電性繊維<クラカーボ>、③バイオEGを用いた<バイオスペース>やPETボトル再生糸<クララペット>など、環境に優しい、高機能性をキーワードにした独自素材の開発を推進しています。

[その他]

・アクア事業推進本部では、中空糸ろ過膜を用いた様々な水の製造・回収、ポリビニルアルコール(PVA)ゲルを用いた産業排水の処理・回収などを通して、「高品質で安全な水の提供」と「環境負荷の低減」に貢献する素材・装置・プラント・技術開発に取り組んでいます。

・クラレプラスチックス株式会社では、スチレン系エラストマーを使用した機能性コンパウンド及び同コンパウンドを原料とした不織布等二次製品、エバールをコーティング加工した特殊フィルム、成型加工技術によるスマートハウス向け換気・空調ダクト、高強力繊維 <ベクトラン>を使用した土木・産業廃棄物用途向け繊維複合ホースの開発を推進しています。

 

[コーポレート研究開発]

・コーポレート研究開発のミッションである ①新事業の創出 ②既存事業の強化 ③基盤技術の構築・深耕の達成に向けて、改革を進めています。また、当社事業の急速なグローバル化に対応し、グループ海外拠点との連携を強化しています。

・酢酸ビニルチェーンの更なる業容拡大を目指し、保有するコア技術に加え、内外から新たな技術を取り込み、従来に無い優れた機能を有する酢ビ系素材の開発を進めています。酢ビ系高分子の基本構造を精密に制御する技術やスマートなプロセスで既存材料を機能化する技術を徹底的に追求し、顧客ニーズに合致した新素材を早期に提案できる開発体制を構築し、世界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を確立します。

・触媒開発技術を基盤技術と捉え、これまで長年培った均一系触媒技術のみならず固体触媒技術開発を進めています。これら技術開発を通じ、イソプレン事業、ビニルアセテート事業にかかわる既存事業の強化並びに新規材料開発を展開していきます。

・カンパニー・グループ会社との連携を通じて、高分子化合物の設計・重合・変性に関する基盤技術を拡充・深耕し、既存技術の強化・拡大と新事業の創出に資するための新規技術・新規高分子材料を開発します。

・自社素材や高分子材料の成形・加工に関する基盤技術を拡充・深耕し、カンパニー・グループ企業と連携して、成形体・シート・フィルムなどの機能性素材・部材に関する研究開発を推進しています。

・機械学習など、デジタル技術の研究開発分野での応用を進めています。

・リチウムイオン二次電池の高性能化、及び、開発が進む次世代高性能電池に向け、植物を原料とした高容量負極材用ハードカーボンの開発を加速し、そして、当社独自素材の電池部材への応用展開を進めます。

・高周波回路基板用途の液晶ポリマーフィルム<ベクスター>は、車載用ミリ波レーダーや5Gアンテナなど高周波による高速伝送の需要が高まる中、フレキシブルプリント配線基板として高周波領域での伝送損失が低く、加工性に優れる点が評価されています。更にフィルムに加え片面銅張板を開発、上市しました。需要は今後も伸びると見られ積極的に事業拡大を進めていきます。

・半導体用研磨パッド(CMPパッド)は、独自のポリウレタン設計及び製造技術を駆使し、従来に無い高硬度ポリウレタンを原料にしています。当社CMPパッドの特長は、高硬度なため研磨するデバイスを平坦にする能力が優れること、高硬度でありながら研磨傷が少ないこと、耐磨耗性が優れるため長時間使えること、などで、複数の顧客・複数プロセスで採用されています。また、顧客のプロセスや種々の研磨対象に応じて適正な銘柄を選定・提案できる体制を整えました。現在、国内のみならず海外への展開も進めており、顧客ニーズに対応していきます。