第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

クラレグループは、企業ステートメントの使命「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」のもと、創立100周年となる2026年度に向けた長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』で掲げる「独自の技術に新たな要素を取り込み、顧客、社会、地球に貢献し、持続的に成長するスペシャリティ化学企業」を目指しています

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

当社グループは、この長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』の実現に向けて、2022年度から始まった5か年の中期経営計画「PASSION 2026」で以下3つの挑戦を設定しています。

① 機会としてのサステナビリティ

サステナビリティを機会としてとらえ、グループ一丸となって推進します

② ネットワーキングから始めるイノベーション

社外・社内を問わず、人と人、技術と技術をつなげることで、新たな成長のドライバーを生み出します

③ 人と組織のトランスフォーメーション

デジタルでプロセスを変え、多様性で発想の幅を広げ、人と組織に変革をもたらします

中期経営計画「PASSION 2026」の2年目となる2023年度は、イソプレン タイ拠点、水溶性ポバールフィルム ポーランド新工場、米国での活性炭製造設備などを確実に立ち上げるとともに、成長事業への重点的な資源配分により事業ポートフォリオの高度化を図ります。当社グループは創立100周年となる2026年度に向け、持続的に成長するスペシャリティ化学企業として今後も挑戦し続けます。
 また、当社グループは創業当時から、事業活動を通じ自然環境・生活環境の向上を目指すことで社会のサステナブルな発展に貢献する経営を行ってきました。サステナビリティを重要な経営戦略の一つと捉え、当社と社会が持続的に発展するための優先すべき重要課題(マテリアリティ)を経営レベルで選定し、課題の解決に全社的に取り組んでいます。

中期経営計画「PASSION 2026」においては、当社グループが取り組むサステナビリティに関連する施策を「サステナビリティ中期計画」としてまとめています。

 

(1) 気候変動への対応

気候変動については、当社の取り組むべき重要課題の一つとして捉え、2020年11月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同しました。また2022年度を起点とするサステナビリティ中期計画では、気候変動の緩和策として、温室効果ガス(GHG)の排出量削減と省エネルギーの促進、自然環境の向上に貢献する製品の拡大、サーキュラーエコノミーへの対応などを掲げました。これらの施策を着実に実行すると共に、TCFDが推奨するガバナンス、シナリオ分析に基づく戦略、リスク管理、指標と目標に基づく開示も段階的に充実していきます。

 

ガバナンス

クラレグループでは、社長を委員長とするサステナビリティ委員会がサステナビリティ活動を推進します。この委員会の傘下には、サステナビリティ中期計画で掲げたグローバル施策を実行するプロジェクトチームを配置し、各プロジェクトを推進します。また、気候変動に関わる諸施策の進捗状況を確認した上で、TCFDに基づく開示を進める「TCFD推進プロジェクトチーム」も傘下に設置し、開示の充実を図ります。

サステナビリティ委員会での討議事項は取締役会に報告し、取締役会の意見をサステナビリティ活動の推進に反映します。

 

戦略

クラレグループは2021年度に、低炭素社会への移行において生じる事象、及び気候変動により発生する物理的な事象に対するリスクと機会を下表1. のとおり選定しました。

 表1.  クラレグループの気候変動によるリスクと機会


2022年度には、国際エネルギー機関(International Energy Agency; IEA)が発行しているWorld Energy Outlook等から、低炭素社会への移行が進む2℃以下シナリオ(含.1.5℃シナリオ)及び気候変動が進む4℃シナリオに基づくシナリオ分析を実施し、気候変動によるリスクと機会のインパクトを評価しました。

 

2℃以下シナリオにおけるGHG排出及びエネルギー調達に対する炭素価格※の影響は大きく、2030年のGHG排出削減対策実施後にクラレグループで約320億円の炭素税賦課額が見込まれ、操業コストが増加する可能性が示されました。この対策として、2050年カーボンネットゼロに向けたGHG排出削減計画を着実に進めると同時に、環境貢献の高い製品が創出する市場価値を製品・サービス価格に反映していきます。

※World Energy Outlook 2022より先進国140ドル/t-CO2、新興国25ドル/t-CO2[2030年、1.5℃シナリオ]にて計算

 

さらに気候変動の影響が大きいビニルアセテート関連事業、及び環境ソリューション事業の各シナリオにおけるリスク及び機会の事業インパクトを算定しました。結果は、下表2. のとおりです。算定した各インパクトへの適切な対応を進めていきます。また、引き続き他の事業の分析を進めていきます。

表2.  ビニルアセテート関連事業及び環境ソリューション事業の各シナリオにおける気候変動リスクと機会の

事業インパクト


リスク管理

クラレグループでは表2のリスクに対して、「緩和」と「適応」の両側面についてリスク管理を実施しています。

低炭素社会への移行リスクを「緩和」するため、GHG排出量削減や自然環境貢献製品の売上高拡大を進めています。これらの進捗はサステナビリティ委員会(委員長 : 社長)で確認を行なっています。

一方、気候変動に伴う物理リスクへの「適応」策については、災害対策・事業継続性の観点で各組織が毎年リスク自己評価を実施した結果を、リスク・コンプライアンス委員会(委員長 : サステナビリティ推進本部担当取締役)で討議し、対策が必要な場合は社長が経営リスクとして特定し責任者を指名して対策を進めています。

 

指標と目標

気候変動緩和の長期目標として、2030年に自社でのGHG排出量(Scope1と2)を2019年度比30%削減、2050年にカーボンネットゼロを掲げました。また、サステナビリティ中期計画では気候変動に関わるGHG排出量削減及び自然環境貢献製品の売上高比率向上目標を下表3. のとおり設定しています。

表3.  サステナビリティ中期計画の気候変動に関わる施策と目標


 

(2) 人的資本、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に向けた取り組み

当社グループは、様々な国籍・背景を持つ人材でなりたち、長期的・持続的な企業価値の向上のためには、それら多様な人材が活躍することが重要です。これを実現するため、グループ共通の人事方針として「クラレグループグローバル人事ポリシー」を制定し、さらに人材の多様性にフォーカスした「クラレグループダイバーシティとインクルージョンに関する基本原則」を定めています。これらの方針に基づき、多様性推進のための人材育成や職場環境の整備に取り組んでいます。

当社グループの中核人材の登用等における多様性の確保に関する目標及び進捗状況については、以下のとおりです。

<中核人材の登用等における多様性の確保に関する目標>

1.前提

・「中核人材=管理職」と定義します。管理職の対象は、当社原籍者(生産事業所を除く。)に、海外関連会社原籍者で当社日本拠点に勤務する者を加えることにより、外国人管理職のインクルージョンの推進状況を反映させます。

・多様性の要素として「女性・外国人・中途採用者」を一つのカテゴリーとして捉え、管理職における同カテゴリーの合計人数が占める割合を目標として設定します。

2.目標

・女性・外国人・中途採用者の管理職に占める割合は、2030年度までに25%に到達することを目標とします。

(ベンチマークとした2021年9月末時点で12%。

 女性比率5.1%、外国人比率1.2%、中途採用者比率7.7%:各比率間で重複あり)

3.進捗状況

・女性・外国人・中途採用者の管理職に占める割合は、2022年12月末時点で13%。

(女性比率5.6%、外国人比率1.3%、中途採用者比率7.6%:各比率間で重複あり)

 

 

安全対策の見直し・強化

2018年5月に米国子会社で外部委託業者の作業員に負傷を伴う火災事故が発生し、損害賠償を求める民事訴訟が提起されていますが、現在は一部の原告についてのみ係属中です。このような事故を起こさないために、2019年度から開始した海外主要化学プラントの安全監査を継続し、安全対策の見直し・強化を図っています。また、定期的にリスクアセスメントを実施し、抽出されたリスクについては想定される被害の大きさや現状の安全対策のレベルに応じて追加対策を講じリスクの低減に努めています。加えて、2022年度に化学プラントと活性炭プラントを対象とするグローバルPSM(プロセス・セーフティ・マネジメント)監査チームを新たに設置し、活動を開始しました。保安防災に精通した同チームによる組織横断的な活動を通じて多面的に課題を抽出・把握するとともに、改善に向けた知見の情報共有・水平展開を強化します。

 

2 【事業等のリスク】

当社グループは、重大な経営リスクの適切な管理、法令遵守・企業倫理の徹底、公正な企業活動の実践を目的に、社長直轄のリスク・コンプライアンス委員会を設置しています。グループリスク管理規定に基づき、国内外の各組織においてリスクの自己評価を実施し、リスク・コンプライアンス委員会での審議を経て、社長が重大な経営リスクを特定、リスク毎に統括責任者を選定し、リスクの回避・軽減のための対策を進め、取締役会は対策の進捗を確認しています。

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があると認識している主要なリスクには、以下のような項目があります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

① 事業環境の変化に関わるリスク

当社グループは、多様な事業ポートフォリオを有しており、グローバルかつ様々な用途分野に展開しています。さらに、当社の製品は特殊化学品が多く、商品市況の影響を受けにくい構成になっていますが、近年、自動車(ガソリンタンク用<エバール>、フロントガラス用PVBフィルム、ブレーキホース補強用ビニロン等)、電気・電子(液晶パネル用ポバールフィルム、コネクタ用<ジェネスタ>等)、環境(水処理・空気浄化用活性炭等)などの成長分野へシフトさせつつあり、業績の依存度も高まっています。これらの分野は、最終製品における業界標準の転換、製品の短寿命化、グローバルな開発競争の激化等、環境変化が激しいため、当社においても重要な事業が縮小・撤退を余儀なくされる可能性があります。

 

 

② 原材料に関わるリスク

当社グループの製品である化成品、合成樹脂、合成繊維の主原料は、原油、天然ガスの市況に影響を受けるエチレン等の石油化学製品です。このため、予想を超える市況変動が生じた場合、製品価格への転嫁が遅れること等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

また、長期購買契約の締結や購入先を複数にするなど、主要原料が購入できないリスクを低減するように努めていますが、重要な原材料の提供を担っているサプライヤーにおける事故・災害の発生、物流の混乱、日本や諸外国における経済制裁や各種規制等により、当社グループの製品供給に悪影響が生じる可能性があります。

 

製造物責任に関わるリスク

当社グループは、自動車、電気・電子材料、医療(歯科材料等)、食品包装(<エバール>、<PLANTIC>等)など、最終製品の品質に対して重要な役割を担う製品を数多く供給しています。当社グループでは主に製造拠点単位で品質マネジメントシステムを導入し品質の向上に努めていますが、品質の欠陥に起因する大規模な製品回収が発生すると、PL保険でカバーできない損害賠償等の損失の発生、顧客からの信頼や社会的信用の失墜等の可能性があります。

 

④ 事故・災害に関わるリスク

当社グループは、日本及び欧州、北米、アジア、豪州に生産拠点を設けており、これらの多くは大規模な化学工場です。当社グループは、安全に関する行動原則「安全は全ての礎」に従い、安全のマネジメントシステムを構築・運用し、爆発、火災、有害物質の漏洩などの事故・災害の未然防止、及び災害発生時の被害の極小化に努めるとともに、重要な生産設備については拠点分散や損害保険によるリスク対応を行っている他、気候変動に起因する激甚災害に対するリスク評価を実施し、その対策を進めています。しかしながら、重大な保安事故、環境汚染、自然災害大規模な伝染病の流行等発生すれば、従業員や第三者への人的・物的な損害、事業資産の毀損、長期の生産停止が生じる可能性があります。

また、原燃料、設備・メンテナンス部品やサービスの提供などを担っているサプライヤーにおける事故・災害の発生により、当社グループの製品供給に悪影響が生じる可能性があります。

 

法規制・コンプライアンスに関わるリスク

当社グループは、多様な社会との接点において遵守すべき事項を「私たちの誓約」として、またこれを企業活動の中で具体的に実践するためのガイドラインを「行動規範」として定めています。そして、法令及び「私たちの誓約」を厳守することを経営トップが宣言しています。この宣言を明記し「行動規範」をわかりやすく解説したコンプライアンス・ハンドブックを、世界中の当社グループ社員全員に配布し周知徹底を図っています。また、当社各地域拠点及びグループ各社において、コンプライアンス統括者を選任するとともに地域別にコンプライアンス委員会を設け、全社的なテーマの他、地域特有のテーマについても取り組んでいます。

独占禁止法遵守に向けた取り組みとしては、グローバルなコンプライアンスプログラムを構築しています。具体的には独占禁止法遵守指針の定期的見直し、競合他社との接触に関するガイドラインの制定、競合他社との取引・会合の事前審査、役員・従業員向けセミナーの開催、遵守状況に関する社内聴取、入札情報の管理及び入札部署を対象とした法務部監査等の様々な施策を行っています。

以上のとおり、コンプライアンスの徹底を図っていますが、重大な法令違反を起こした場合、顧客からの信頼や社会的信用の失墜に加え、損害賠償責任や罰金が課されることなどにより、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

当社グループは、グローバルに事業を展開しており、各国の様々な法規制の適用を受けています。将来的に法規制の大幅な変更や規制強化がなされた場合には、新たな対策コストの発生や事業活動の制約につながり、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑥ 知的財産に関わるリスク

当社グループは、独自技術による事業・製品を数多く有しています。当社グループの知的財産権への重大な侵害や当社の権利に対する係争が発生した場合、また当社グループが他社の知的財産権を侵害した場合、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑦ 訴訟に関わるリスク

当社グループは、国内及び海外事業に関連して、取引先や第三者との間で、訴訟その他法的手続きが発生するリスクがあります。重要な訴訟等が提起された場合、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

2018年5月に米国子会社で外部委託業者の作業員に負傷を伴う火災事故が発生し、損害賠償を求める民事訴訟が提起されています。本訴訟は一部の原告についてのみ現在も係属中で、弁護士の協力を得ながら対応を進めています。

 

⑧ 為替の変動に関わるリスク

当社グループは、日本国内及び欧州、北米、アジア、豪州などの海外諸地域で生産、販売を行っています。当社グループが国内で生産し、海外へ輸出する事業では製品の輸出価格が為替変動の影響を受けます。一方、海外の事業拠点で生産、販売する事業では、異なる通貨圏との間の調達・販売価格及び外貨建て資産・負債の価額が為替変動の影響を受けます。為替予約等によるリスク軽減措置を講じていますが、想定を超える為替変動により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

海外事業展開に関わるリスク

当社グループは、グローバルな事業展開を行っており、海外売上高比率が7割を超えています。当社グループは、米国、ドイツ、中国、香港、シンガポール、タイ、インド、ブラジルに地域会社を設置し、各国・各地域のリスク情報収集並びにビジネス動向の分析を常時行い、当該地域を越えて対応が必要となる場合は地域会社、カンパニー所管会社、本社の該当部署が連携する体制を構築しています。しかしながら、各国・各地域での大規模な伝染病の流行、戦争・暴動・テロ等、偶発的な要因や、国家や地域の対立による貿易戦争、予期せぬ現地法規制の変更等によって、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

ロシア・ウクライナ情勢について、当社グループは2022年度に天然ガスの高騰等の影響を受けましたが、今後の動向次第では、需要の低迷やサプライチェーンの混乱、天然ガスの再高騰や原材料の調達難などにより、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑩ 固定資産の減損に関わるリスク

当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しています。経営環境の著しい悪化等による収益性の低下や市場価格の下落等により、保有する固定資産について減損損失が発生し、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑪ 環境に関わるリスク

当社グループは、「クラレグループ環境基本方針」を定め、環境に関する各種法規制を遵守するとともに、GHG排出量削減等の地球温暖化対策の推進、化学物質の排出抑制、資源の有効利用等の環境改善に継続して取り組んでいます。また、気候変動がもたらす異常気象や激甚災害へのリスク評価及び対策を強化しています。これらに加え、当社グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明しており、情報開示の拡充に努めています。しかしながら、予期せぬ事故や自然災害等により環境汚染が生じた場合や、環境に関する規制が強化された場合は、事業活動の制限や対策費用の増加等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑫ 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループは、事業活動の基盤である情報システム・ネットワークに様々なセキュリティ対策を実施するとともに、情報管理体制のさらなる強化を図っていますが、災害、サイバー攻撃、不正アクセス等により情報システム等に障害が生じた場合や、企業情報及び個人情報等が社外に流出した場合は、事業活動の停滞や信用の低下等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析内容は以下のとおりです。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

(1) 経営成績の概況及び分析

当連結会計年度における世界経済は、各国での経済活動の制限緩和に伴い、緩やかな回復が続きました。一方で、急速なインフレ進行を背景とした各国での政策金利の上昇、ロシアのウクライナ侵攻の長期化といった地政学リスクの影響などもあり、年後半には景気減速の動きがみられ、先行きが不透明で予断の許さない状況が続きました。

かかる状況下、当社グループは、当期からスタートした中期経営計画「PASSION 2026」に掲げる3つの挑戦、①機会としてのサステナビリティ、②ネットワーキングから始めるイノベーション、③人と組織のトランスフォーメーション、を推進しました。また、これまでに構築してきたグローバルネットワークを活かし、付加価値の高い製品の安定供給に注力するとともに、原燃料価格高騰の影響を受けた製品の価格改定を進めました。

その結果、当社グループの業績においては、売上高は756,376百万円(前年同期は629,370百万円)、営業利益は87,139百万円(同72,256百万円)、経常利益は84,060百万円(同68,765百万円)、親会社株主に帰属する当期純利益は54,307百万円(同37,262百万円)となりました。なお、当連結会計年度において、米国子会社の一部生産設備の停止などに伴う操業休止関連費用として5,785百万円を特別損失に計上しました。

また、2022年1月1日に組織改定を行い、アクア事業のセグメント区分を「その他」から「機能材料」に変更しました。加えて、一部の内部取引利益の消去について、各セグメント及び全社への配分方法を変更しました。当連結会計年度の比較及び分析は、これらの変更を反映した数字に基づいています。さらに、2022年1月1日から「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日。以下「収益認識会計基準」という。)等を適用していますが、収益認識会計基準第84項ただし書きに定める経過的な取扱いに従い、前連結会計年度においては、新たな会計方針を遡及適用していません。トレーディングセグメント及び調整額の当連結会計年度の売上高が前期に比べ大きく変動していますが、これは主に、トレーディングセグメントにおける代理人取引の売上高の計上額について、収益認識会計基準等の適用により、取引総額から純額へと変更したことによるものです。なお、当該変更により、従来の方法に比べてトレーディングセグメントの売上高が84,985百万円減少しています。

(単位:百万円)

 

2021年度

2022年度

増減

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

ビニルアセテート

304,690

58,255

385,345

77,547

80,655

19,292

イソプレン

61,940

6,080

65,635

4,270

3,695

△1,809

機能材料

142,366

8,673

174,059

8,574

31,692

△99

繊維

61,082

5,608

66,859

6,736

5,776

1,127

トレーディング

144,027

4,842

58,844

5,121

△85,182

279

その他

44,327

1,206

52,051

2,679

7,723

1,473

消去又は全社

△129,064

△12,409

△46,420

△17,792

82,644

△5,382

合計

629,370

72,256

756,376

87,139

127,005

14,882

 

 

[ビニルアセテート]

当セグメントの売上高は385,345百万円(前年同期は304,690百万円)、営業利益は77,547百万円(同58,255百万円)となりました。

 


 

① ポバール樹脂は、米国子会社の一部生産設備の不具合による停止や、年後半の需要減退により販売量が減少しました。一方、原燃料価格高騰を受け、製品価格の改定を進めると同時に高付加価値品へのシフトを進めました。光学用ポバールフィルムは、年央以降液晶パネルの在庫調整の影響を受け、出荷が大幅に減少しました。なお、テレビ用パネル大型化のニーズに対応するため、倉敷事業所での設備投資(2024年央稼働予定、2022年5月9日公表)を決定しました。高機能中間膜は、PVBフィルムが北米の建築向けを中心に堅調に推移しました。水溶性ポバールフィルムは、洗濯用個包装洗剤向けの販売が堅調でした。

② EVOH樹脂〈エバール〉は、食品用途が好調で販売量が増加したことに加え、製品価格の改定を進めました。旺盛な需要に対応するため、生産性向上に努めるとともに欧米での能力増強投資を決定しました。

 

[イソプレン]

当セグメントの売上高は65,635百万円(前年同期は61,940百万円)、営業利益は4,270百万円(同6,080百万円)となりました。

 


① イソプレンケミカル、エラストマーは、原燃料価格高騰を受け製品価格の改定を進めました。一方で、一時的な原料調達難や、年後半の需要減退により販売量が減少しました。

② 耐熱性ポリアミド樹脂〈ジェネスタ〉は、自動車部材や電気・電子デバイスの在庫調整などの影響を受け販売量が減少しました。

 

[機能材料]

当セグメントの売上高は174,059百万円(前年同期は142,366百万円)、営業利益は8,574百万円(同8,673百万円)となりました。

 


① メタアクリルは、電気・電子デバイスの在庫調整などの影響を受け販売量が減少したことに加え、原料高と市況悪化の影響を受けました。

② メディカルは、国内外で審美治療用歯科材料の販売が拡大しました。

③ 環境ソリューションは、欧米を中心に飲料水や工業用途の需要が増え、活性炭の販売が拡大しました。また、原燃料価格高騰を受け、製品価格の改定を進めました。

④ アクアは、中空糸水処理膜の需要が堅調に推移しました。

 

[繊維]

当セグメントの売上高は66,859百万円(前年同期は61,082百万円)、営業利益は6,736百万円(同5,608百万円)となりました。

 


① 人工皮革〈クラリーノ〉は、車両用途及びラグジュアリー用途で販売が拡大しました。

② 繊維資材は、ビニロンが自動車生産回復の遅れや、年後半には景気減速の影響を受けました。一方、〈ベクトラン〉は輸出を中心に販売が順調に推移しました。

③ 生活資材は、〈クラフレックス〉の衛生用途で出荷が増えたものの、外食産業の需要が低調でした。

 

[トレーディング]

当セグメントの売上高は58,844百万円(前年同期は144,027百万円)、営業利益は5,121百万円(同4,842百万円)となりました。なお、収益認識会計基準等の適用により、売上高は84,985百万円減少しています。

 


① 繊維関連事業は、ウェアラブル等のスポーツ衣料を中心に販売が拡大しました

② 樹脂・化成品関連事業は、年前半はアジア市場で順調に推移したものの、年後半は景気減速の影響を受けました

 

[その他]

その他事業は、国内関連会社の販売が回復し、売上高は52,051百万円(前年同期は44,327百万円)、営業利益は2,679百万円(同1,206百万円)となりました。

 


 

(2) 当期の財政状態の概況

総資産は、棚卸資産の増加67,728百万円、受取手形、売掛金及び契約資産(前連結会計年度末は受取手形及び売掛金)の増加21,247百万円、建設仮勘定の増加20,105百万円及び機械装置及び運搬具(純額)の増加18,700百万円等の一方、現金及び預金の減少28,218百万円等により前連結会計年度末比130,518百万円増1,221,533百万円となりました。負債は、その他固定負債の増加12,488百万円、コマーシャル・ペーパーの増加10,000百万円及び社債の発行10,000百万円等により前連結会計年度末比41,586百万円増552,998百万円となりました。

純資産は、前連結会計年度末比88,932百万円増加し、668,534百万円となりました。自己資本は646,750百万円となり、自己資本比率は52.9%となりました。

 

(3) 当期のキャッシュ・フローの概況

[営業活動によるキャッシュ・フロー]

税金等調整前当期純利益77,997百万円に対して、減価償却費65,456百万円、売上債権の増加12,500百万円、棚卸資産の増加54,716百万円及び法人税等の支払額19,453百万円等により、営業活動によるキャッシュ・フローは51,727百万円の収入となりました。

[投資活動によるキャッシュ・フロー]

有形及び無形固定資産の取得による支出71,635百万円等により、投資活動によるキャッシュ・フローは68,624百万円の支出となりました。

[財務活動によるキャッシュ・フロー]

長期借入れ49,375百万円、コマーシャル・ペーパーの純増額10,000百万円及び社債の発行10,000百万円等の収入に対して、長期借入金の返済55,013百万円、自己株式の取得10,002百万円及び配当金の支払額13,908百万円等の支出により、財務活動によるキャッシュ・フローは12,053百万円の支出となりました。

以上の要因に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額等により、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末より23,870百万円減少して、127,616百万円となりました。

                                                           (単位:百万円)

 

2021年12月期

2022年12月期

営業活動によるキャッシュ・フロー

78,221

51,727

投資活動によるキャッシュ・フロー

△65,595

△68,624

財務活動によるキャッシュ・フロー

△47,447

△12,053

現金及び現金同等物に係る換算差額

4,224

4,943

現金及び現金同等物の増減額

△30,596

△24,006

現金及び現金同等物の期首残高

182,084

151,487

新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額

136

現金及び現金同等物の期末残高

151,487

127,616

 

 

なお、当社グループのキャッシュ・フロー関連指標は以下のとおりです。

 

2018年12月期

2019年12月期

2020年12月期

2021年12月期

2022年12月期

自己資本比率(%)

58.6

53.0

47.4

51.3

52.9

時価ベースの自己資本比率(%)

57.1

46.2

35.9

31.5

29.0

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)

2.9

2.5

4.3

3.9

6.3

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

62.7

68.5

57.0

50.9

43.6

 

(注)自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

1.各指標は、いずれも連結ベースの財務諸表数値により計算しています。

2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しています。

3.営業キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。

4.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、長期借入金及び社債の合計額を使用しています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの資金需要は、営業活動に必要となる運転資金や設備投資、M&A等に係る投資資金が主なものです。これらの資金需要に対しては、自己資金のほか、必要に応じ、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー、社債の発行等により資金調達を行っています。

また、資金需要に応じて柔軟に資金調達ができるよう、信用格付けの維持向上や金融機関、資本市場との良好な関係維持に努めるとともに、緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、金融機関とコミットメントライン契約を締結しています。

 

(5) 生産、受注及び販売の状況

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品が多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

このため生産、受注及び販売の状況については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績の概況及び分析」における各セグメントの業績に関連付けて示しています。

 

(6) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

4 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

5 【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発活動は、私たちの使命「私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。」に基づいて、カンパニー・グループ会社に所属するディビジョナル研究開発とコーポレート研究開発との緊密な連携の下に推進されています。

ディビジョナル研究開発は、カンパニー・グループ会社が各事業所に研究開発部署を有しています。

コーポレート研究開発体制としては、研究開発本部において、新事業テーマの企画・提案・推進を目的に、くらしき研究センターとつくば研究センターの2拠点を設置しています。オープンイノベーション推進を目的に、米国にはKAI Corporate R&Dを有しています。事業化段階として、機能製品開発部及びベクスター事業推進部・ベクスター生産開発部を擁しています。生産技術に関しては、技術本部 技術開発センターにおいてシミュレーション技術を活用した原理原則に基づく生産技術開発を推進しています。また、研究開発テーマの早期設備化を推進するための体制整備も進めています。一方で、デジタル技術を活用した生産効率、及び品質向上への取り組みも着実に進めています。

ディビジョナル研究開発とコーポレート研究開発を合わせた当社グループ(当社及び連結子会社)の研究開発人員数は1,016人です。

 

当連結会計年度のセグメントごとの研究開発費は、ビニルアセテート8,860百万円、イソプレン2,057百万円、機能材料3,418百万円、繊維2,116百万円、トレーディング133百万円、その他535百万円、全社共通(コーポレート研究開発)5,530百万円、合計22,653百万円になります。

セグメントごと及びコーポレートの研究開発活動を示すと次のとおりです。

[ビニルアセテート]

・ポバール樹脂、ポバールフィルム、PVBフィルム、<エバール>(樹脂、フィルム)の酢酸ビニルチェーンについては、世界のリーディングカンパニーとして、国内外の研究開発部署が連携し、新規用途開発、新商品開発、新規生産技術開発も併せて、研究開発活動を推進し、新たな価値を顧客に提案します。また、社会情勢やニーズの変化を成長機会と捉え、地球環境改善や社会貢献につながる製品開発を積極的に行います。

・ポバール樹脂は、当社ビニルアセテートチェーンの根幹に位置する事業として、これまで培った技術開発力をベースに自消・外販両面で高品質かつ差別化された製品を提供します。日米欧亜の6工場をベースとしたグローバルネットワークを強みとして、世界各地の顧客に対して安定供給を図るとともに、ポバール樹脂の安全かつ環境に優しい特徴に注目し、新たな用途、ビジネス機会を提案します。

・ポバールフィルムは、液晶ディスプレイ向け光学フィルムの構成部材の一つとして、さらなる高性能化・高品質化に加え、顧客での生産性向上などにも顧客と一体となって取り組んでいます。また、洗剤包装用途を中心にますます拡大する水溶性フィルムについても、顧客からの新たなニーズに応えるべく、ポバール樹脂メーカーである強みを活かし、原料まで遡った高性能化・多機能化を加速させます。

・PVBフィルムは、自動車・建築向け合わせガラス用中間膜の高付加価値品の開発を進めており、新たな価値を顧客に提案しています。その一環として、アイオノマー樹脂をシート化した<セントリグラス>の更なる高付加価値化やPVBフィルムとのシナジー効果の発現、新規用途開発を推進しています。

・<エバール>樹脂は、世界規模で食品廃棄ロスの削減や環境負荷の低減が求められるなか、日米欧の3拠点を中心に世界各地の顧客ニーズや市場動向を把握しながら、バリア材料の新技術開発・用途開発を推進しています。また<エバール>フィルムは、省エネルギー・地球環境保全に貢献する用途へ積極的に展開していきます。さらにバイオマス由来のガスバリア材料<PLANTIC>については、CO2排出削減効果とガスバリア性を併せ持つ新素材として、用途開発に取り組んでいます。

[イソプレン]

・イソプレンケミカル関連では、独自性の高いC4ケミストリーを展開しており、溶剤やウレタン原料、香粧品原料などを中心に新規用途開発を推進しています。また、脱炭素やサステナビリティへの貢献といった社会のニーズに応える機能性ポリマー・化学品の創出にも取り組んでいます

・エラストマー関連では、熱可塑性エラストマー及び液状ゴムの差別化・高付加価値化に取り組んでいます。その一環として、植物由来原料のファルネセンを用いた熱可塑性エラストマーを開発し、市場開発を推進しています。また液状ゴムは、主力のタイヤ用途で様々なタイプの製品を市場に提案し、高機能タイヤの改質剤として採用が広がっています。

・耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>では、5G通信コネクタ及び高電圧用コネクタ等に適した電気・電子用途向けのグレード開発に注力するとともに、自動車の環境規制強化やCASEの加速に対応するためサーマルマネジメント部品や車載電装部品に適した材料の開発を加速しており、部品メーカー各社で評価が進んでいます。

 

[機能材料]

・メタクリル樹脂については、差別化ポリマーの拡充とメタアクリル系樹脂を活用した新規用途開発、新商品開発を主体に研究開発活動を行っています。

・メディカル事業では、クラレノリタケデンタル株式会社の無機/有機の技術の融合による新規歯科材料の開発に注力し、CAD/CAM用ジルコニア、高強度レジン等のデジタル化の流れにも対応した開発、商品化を行っています。また、人工骨インプラント<リジェノス>、吸収性骨再生用材料<アフィノス>は、配向連通孔技術を特長に、多面的な展開を進めています。

環境ソリューション事業では、「環境(水・大気)・エネルギー」分野を重点戦略領域と位置付け、飲用水浄化材、ガス精製、蓄電において、吸着・脱着にイノベーションを創出、活性炭から成型材まで新たな技術開発と商品群展開を推進しています。また、環境材である活性炭の再生、再利用にも新技術の構築に取り組んでいます。

アクア事業推進本部では、中空糸水処理膜を用いた様々な水の製造・回収を通して、「高品質で安全な水の提供」と「環境負荷の低減」に貢献する素材・技術開発に取り組んでいます。

[繊維]

・高強力繊維<ベクトラン>は、極低温域までの広い温度領域において、高強度、低誘電損失、低線膨張であることに加え、ほとんど吸水することがない特質を有していることから、海洋資材、光ファイバー等の電材など高機能、高性能であることが求められる分野で広がっており、今年度もフル生産が続きました。さらなる用途拡大を目指し、性能向上、構成検討を進めています。

PVA繊維<ビニロン>は、ゴム補強用フィラメントや防護材料、特殊紙分野の拡大に応じた体制整備を行い順調に稼働しています。さらなる成長を目指し、生産技術、製品開発を続けています。

・人工皮革<クラリーノ>は、環境や健康意識の高まりにより、環境配慮型革新プロセス(CATS)を使ったスポーツ向け製品需要が増加しており、RCS認証を取得した環境配慮銘柄を開発、販売の拡大に取り組んでいます。また欧州ラグジュアリー用途向けに、リサイクル原料を用いた新規環境配慮型製品の投入を開始し、さらにバイオマス原料を使った新規製品開発も進めています。

・不織布<クラフレックス>は、2020年に新設されたメルトブローンと従来のスパンレース技術を融合した革新プロセスに取り組み新規用途の開拓を目指しています。また液晶ポリマーを用いた不織布<ベクルス>の用途拡大や、生活環境向上に寄与する製品開発、新規環境配慮型製品の開発を進めています。

[トレーディング]

・ポリエステル長繊維<クラベラ>では、①地球環境に配慮した独自原糸(PETボトル再生樹脂を用いた機能繊維<スペースマスター>、バイオEGを用いた<バイオスペース>、ヤシ殻炭練り込み繊維<アグリアス>)、②独自の樹脂を用いて糸自体に性能付与した衝撃吸収繊維<スパンドール>、③電子部品などへの静電気放電対策としてIEC基準にも対応する導電性繊維<クラカーボ>などの機能性原糸の開発を推進しています。

[その他]

・クラレプラスチックス株式会社では、スチレン系エラストマーを使用した機能性コンパウンド<アーネストン>及び同コンパウンドを原料とした不織布やフィルム(コンパウンド二次製品)、<エバール>をコーティング加工した特殊フィルム、成型加工技術による高気密高断熱住宅向け換気・空調ダクト及び周辺部材、高強力繊維 <ベクトラン>を使用した土木用途向け繊維複合ホースの開発を推進しています。

[コーポレート研究開発]

研究開発本部では、以下3点を通じて、クラレグループ全体の業容拡大・収益向上に資することを目指しています。

 新事業の創出:素材事業あるいはそれらに加工技術を付加した部材事業をターゲットとし、早期創出を目指します。種々の施策・改革を進め、当社の強み(技術・商流・市場)を活かした新規事業開発テーマの発掘・推進を継続します。

既存事業の強化・拡大:カンパニー・グループ会社との協働・支援を強化し、分析・解析・デジタルなど高度な技術を駆使して全社事業の盤石化を図るとともに、既存事業の拡大に貢献します。また当社事業の急速なグローバル化に対応し、グループ海外拠点との連携を強化しています

基盤技術の構築・深耕:新事業の創出及び既存事業の強化・拡大を通じて、必要とする基盤技術を構築し、深 化・深耕を図ります

以下、研究開発活動を示します。

当社基幹原料からの新規化学品開発や新規高分子素材原料の開発に資する触媒開発技術を基盤技術と捉え、これまで長年培った均一系触媒技術のみならず固体触媒技術開発を進めています。これら技術開発を通じ、イソプレン事業、ビニルアセテート事業にかかわる既存事業の強化並びに新規材料開発を展開していきます。

酢酸ビニルチェーンの更なる業容拡大と新規展開を目指し、保有コア技術と内外から取り込んだ技術で新たな機能を有する素材の開発を進めています。環境親和性の高い酢ビ系高分子の精密な構造制御技術や高機能化プロセスを追及するとともに、酢ビ系高分子の研究開発を通じて獲得した知見や技術を酢ビ系高分子の枠を超えて展開することで顧客ニーズに合致した新素材を提案し続け、世界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を確立します。

 

・カンパニー・グループ会社との連携を通じて、高分子化合物の設計・重合・変性に関する基盤技術を拡充・深耕し、既存技術の強化・拡大と新事業の創出に資するための新規技術・新規高分子材料を開発します。

・自社素材や高分子材料の成形・加工に関する基盤技術を拡充・深耕し、カンパニー・グループ会社と連携して、成形材料・成形体・シート・フィルムなどの機能性素材・部材に関する研究開発を推進しています。

・リチウムイオン二次電池の高性能化、及び開発が進む次世代電池に向け、植物を原料とした高容量負極材用ハードカーボンの開発を加速します。また、全社の電池材料開発の中心としてカンパニー・グループ会社と連携し、当社独自素材の電池部材への応用展開を進めます。

・高周波回路基板用途の液晶ポリマーフィルム<ベクスター>は、車載用ミリ波レーダーや5Gアンテナなど高周波による高速伝送の需要が高まる中、フレキシブルプリント配線基板として高周波領域での伝送損失が低く、加工性に優れる点が評価されています。さらにフィルムに加え銅張積層板を事業化しました。需要は今後も伸びると見られ積極的に事業拡大を進めていきます。

・半導体用研磨パッド(CMPパッド)は、独自のポリウレタン設計及び製造技術を駆使し、従来に無い高硬度ポリウレタンを原料にしています。当社CMPパッドの特長は、高硬度なため研磨するデバイスを平坦にする能力が優れること、高硬度でありながら研磨傷が少ないこと、耐磨耗性が優れるため長時間使えることなどで、複数の顧客・複数プロセスで採用されています。今後、各顧客のニーズに合った製品をタイムリーに提案することで、顧客の製品機能と品質の向上、コスト削減に貢献し、半導体市場の発展に寄与していきます。

・先進的かつ豊富な分析・解析技術、及びシミュレーションや機械学習などのデジタル技術を応用し、カンパニー・グループ会社に様々な技術ソリューションを提供することで、クラレグループの業績向上に貢献しています。

[イノベーションネットワーキングセンター]

イノベーションネットワーキングセンター(以下、「INC」という。)は、今中期経営計画「PASSION 2026」施策の一環として、2022年1月、グループ全組織や市場・顧客との有機的連携をグローバルに構築し、イノベーションの継続的創出を実現するために設立されました。顧客様中心主義を尊重し、グループが持つ組織的な能力や強みを市場のアンメットニーズに繋ぐことで、新たな価値を創造すること、そして、そのための仕組み作りや、イノベーションへ向けたチャレンジや失敗を奨励する風土醸成を推進します。

イノベーションはINCが単独で起こすものではなく、全社参加型の活動が求められます。各事業部、各本部、及びお客様やパートナー企業が主役となり、活動の成果は皆さんに還元されていきます。また、INCは「新しい建物」ではありません。27名の正メンバーと、各部署を代表して繋がっている50名余のアンバサダーから成るバーチャルにグローバルで繋がった組織です。この組織が担う仕事は主に以下です。

①仕組作り1(コアケイパビリティープラットフォーム立上げ)…当社の技術開発力、お客様との繋がり、多様な人材といった総合力を、グループ社員で活用し合うためのプラットフォームを立上げ、シナジー創出を加速化します。

②仕組作り2(イノベーションパイプライン立上げ)…社内の新ビジネス開発プロジェクトの優先順位を明確にし、イノベーションを効率よく進めるための戦略とシステムを作り、パイプライン上でのインキュベーションも進めていきます。

③市場セグメント別マーケティング推進…セグメントチームを主体とし全社横断でセグメント別に市場へアプローチし、新規テーマを発見・発掘し、お客様やパートナー企業との協業を進めていきます。

以下、INCの2022年度の成果を示します。

社内ロードショーやイントラネット等でのコミュニケーションを通し、INCの戦略と進め方をマネジメント層から実務者レベルにまで認知してもらい、協力を受けるための土壌作りを進めました。一方、各事業部や海外の事業所とは、個別にアライメントセッションを開催し、協業テーマの発掘を進めました。

各事業部に拡散するコア技術及び試作用設備を全社で共有するためのプラットフォームの試行版を小規模で立上げ、仮説検証を進めました。

セグメントチーム活動の一環として、数百回のビジネスマッチング会をコーディネイトし、発掘されたカスタマーアンメットニーズから10の新たなビジネス開発テーマを立上げました。加えて、国内外10の展示会へ出展し多くの引き合いを受け、フォローアップを継続しています。