第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の記載内容のうち、歴史的事実でないものは、有価証券報告書提出日(2024年3月26日)現在における当社グループの将来に関する見通しおよび計画に基づいた将来予測です。これらの将来予測には、リスクや不確定な要素などの要因が含まれており、実際の成果や業績などは、記載の見通しとは異なる可能性があります。

 

企業理念 THE SHISEIDO PHILOSOPHY

当社は、1872年に創業し、2022年に150周年を迎えました。その創業当時から「『美と健康』を通じてお客さまのお役に立ち、社会へ貢献する」ことを目指して活動してきました。そして、2019年には、100年先も輝きつづけ、世界中の多様な人たちから信頼される企業になるべく、企業理念THE SHISEIDO PHILOSOPHYを定義しました。国・地域・組織・ブランドを問わず、この企業理念を常によりどころとして、“世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー”を目指しています。

THE SHISEIDO PHILOSOPHYは、以下で構成されています。

1. 私たちが果たすべき企業使命を定めた  OUR MISSION

2. これまでの150年を超える歴史の中で受け継いできた  OUR DNA

3. 資生堂全社員がともに仕事を進めるうえで持つべき心構え  OUR PRINCIPLES

 

〔THE SHISEIDO PHILOSOPHY〕


 

〔OUR MISSION〕

BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD

私たちは、美には人の心を豊かにし、生きる喜びやしあわせをもたらす力が

あると信じています。

 

資生堂は創業以来、人のしあわせを願い、美の可能性を広げ、新たな価値の

発見と創造を行ってきました。

これまでもこれからも、美しく健やかな社会と地球が持続していくことに貢献します。

 

美の力でよりよい世界を。

それが、私たちの企業使命です。

 

THE SHISEIDO PHILOSOPHYの詳細については、当社企業情報サイトの「会社案内/THE SHISEIDO PHILOSOPHY」(https://corp.shiseido.com/jp/company/philosophy/)をご覧ください。

 

中期経営戦略 「SHIFT 2025 and Beyond」アップデート

当社は、昨年、2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定しました。中長期的な成長を目指すために、本戦略において、「ブランド」、「イノベーション」、「人財」の3つの重点領域への投資を強化しています。しかし、昨今の急激な外部環境の変化を受け、持続的な収益性向上と中長期的な企業価値向上の実現をより強力に推進すべく、本戦略をさらに強化する必要が出てきています。そのため、戦略の骨子は維持しながらも、取り組み内容をアップデートして、以下のウェブサイトに記載の施策を進めていきます。

コア営業利益率については、構造改革を断行し、市場環境変化に対応した目標として、2024年に6%、2025年に9%と再設定しました。2030年に向けては、グローバルカンパニーとしてあるべき収益性の確保に向けて、①既存事業の成長を最大限加速させ、②2025年までのコスト構造改革のプロセスを通じて、恒常的に生産性を高める施策を経営管理の中に織り込み、③M&Aや他社との協業を活用し、新領域での収益拡大を図ること等により、2028年あるいは2029年におけるコア営業利益率15%達成に向け全社で取り組んでいきます。

 


 

SHIFT 2025 and Beyond」および2024年の当社事業計画の詳細については、当社企業情報サイトの「投資家情報/IRライブラリー/決算短信・決算説明資料」(https://corp.shiseido.com/jp/ir/library/tanshin/)に掲載の「2023年度第4四半期決算説明資料」をご覧ください。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) サステナビリティ全般

 

当社は、1872年の創業時から、人、社会、自然を敬い、社会価値の創造を行ってきました。企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD (美の力でよりよい世界を)」のもと、ビューティーカンパニーならではのアプローチで社会課題を解決し、2030年に向けて「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指しています。サステナビリティを経営戦略の中心に据え、本業を通じた社会価値創出と社会・環境課題の解決を促進します。

 

 ガバナンス

当社では、ブランド・地域事業を通じて全社横断でサステナビリティの推進に取り組んでいます。サステナビリティ関連業務においては、迅速な意思決定と全社的実行を確実に遂行するため、専門的に審議する「Sustainability Committee」を設定し、2023年も定期的に開催しました。グループ全体のサステナビリティに関する戦略アクションや方針、TCFD/TNFD開示や人権対応アクションなど具体的活動計画に関する意思決定、中長期目標の進捗状況についてモニタリングを行っています。出席者は代表執行役を含むR&D・サプライネットワーク・広報、およびブランドホルダーなど各領域のエグゼクティブオフィサーで構成され、それぞれの専門領域の視点から活発に議論をしています。その他、特に業務執行における重要案件に関する決裁が必要な場合は「Global Strategy Committee」や取締役会に提案もしくは報告しています。

確実な業務執行・推進を行うため、「Sustainability Committee」の下部に、主要関連部門の責任者から構成されるSustainability TASKFORCEを設定し、長期的な目標達成に向けての推進方法やサステナビリティに関連した課題解決について議論し、その他関連部門や地域本社・現地法人と連携した活動を行っています。


 

※指名委員会等設置会社への移行(2024年3月26日)に伴い、「代表取締役」から「代表執行役」に変更となりました。詳細は「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」の「① コーポレート・ガバナンス体制」をご参照ください。

 

 戦略

当社は、サステナビリティを経営戦略の中心に据え、本業を通じた社会価値創造と社会・環境課題の解決を促進しています。サステナブルな社会の実現のため、社会・環境領域でそれぞれ3つの戦略アクションを掲げています。

社会領域では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を中心に社会課題の解決に取り組んでいます。ビューティーカンパニーとしての特性をいかした「ジェンダー平等」、自分らしく輝くことに貢献する「美の力によるエンパワーメント」、そして、すべての活動の根底となる「人権尊重の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。

環境領域では、社名の由来でもある「万物資生」(注) の考えに基づき、環境負荷を軽減し、使い捨てではなくサーキュラーエコノミーを実現できる技術やビジネスモデルの構築を目指して取り組んでいます。全バリューチェーンを通じて、「地球環境の負荷軽減」、「サステナブルな製品の開発」、環境や人権に配慮した「サステナブルで責任ある調達の推進」の3つの戦略アクションを実行しています。

 

(注) 中国の古典「易経」の一節、「至哉坤元 万物資生(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか、すべてのものはここから生まれる)」の一部

 

 リスク管理

当社は、中長期の事業戦略の実現に影響を及ぼす可能性のあるリスクを総合的・多面的な手法を用いて抽出し、特定しています。その中には、「環境対応(気候変動・生物多様性など)」「自然災害・感染症・テロ」といったサステナビリティ領域のリスクも含まれています。気候や生物多様性に関連するリスクも、事業継続や戦略に影響を及ぼす要因の1つとして科学的または社会経済的なデータに基づいて分析され、気候変動や自然災害に関わるリスクとして全社のリスクマネジメントに統合されます。特定されたリスクは、重要度に応じて、「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」にて対応策などが審議されています。また、必要に応じて取締役会に提案もしくは報告される体制となっています。

 

 

 指標及び目標

当社は、戦略アクションに基づいた中長期目標を設定し、進捗を定期的にトラッキングしています。毎年グローバルのステークホルダーに向けた「サステナビリティレポート」を発行し、当社の本業を通じたサステナビリティアクションの中長期目標とその進捗を開示しています。

〔中長期目標〕

・環境

戦略アクション

目標

達成年(注)1

地球環境の負荷軽減

CO2排出量

カーボンニュートラル(注)2

2026年

CO2排出量削減 <SBTi, Scope 1・Scope 2>

△46.2%(注)3

2030年

CO2排出量削減 <SBTi, Scope 3>

△55%(注)4

2030年

水消費量削減

△40%(注)5

2026年

サステナブルな製品の開発

容器包装

サステナブルな容器への切り替え(注)6

100%

2025年

サステナブルで

責任ある調達の推進

パーム油

サステナブルなパーム油への切り替え(注)7

100%

2026年

サステナブルな紙への切り替え(注)8

100%

2023年

 

・社会

戦略アクション

目標

達成年

ジェンダー平等

・あらゆる階層における女性リーダー比率(国内)

50%

2030年

・国内における女性活躍

・グローバルでの女子教育支援と経済的自立支援

100万人

(ダイレクトリーチ)

2030年

美の力による

エンパワーメント

・美の力による自己効力感の醸成

・「自分らしい美しさ」を制限する無意識の思い込みや偏見への取り組み

100万人

(ダイレクトリーチ)

2030年

 

(注) 1 2023年実績は2024年6月下旬発行予定のサステナビリティレポート(https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/report.html)にて開示予定

2 当社全事業所 (対2019年、オフセット含む)

3 当社全事業所 (対2019年)

4 当社全事業所を除くバリューチェーン全体、経済原単位(対2019年)

5 当社全事業所、売上高原単位(対2014年)

6 プラスチック製容器について

7 RSPOの物理的なサプライチェーンモデルによる認証(アイデンティティ・プリザーブド、セグリゲーションまたはマスバランスに基づくもの)

8 製品における、認証紙または再生紙など

 

 

(2) TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)/TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言の取り組み

 

当社は、気候変動や生物多様性損失などによる事業成長や社会の持続性に与える影響の重大性を踏まえ、TCFDおよびTNFDフレームワークに沿った情報開示を行っています。脱炭素社会への移行、および気候変動に伴う自然環境の変化によって引き起こされる長期的なリスク・機会について、1.5/2℃シナリオと4℃シナリオそれぞれの短期・中期・長期の定性的・定量的な分析を試みました。自然に関しても、生物多様性の損失や水資源の動態を考慮した定量的な長期リスクを特定し、「気候/自然関連財務情報開示レポート」として開示しました。

 

 ガバナンス

 当社の気候・自然関連のリスクおよび機会にかかるガバナンスに関しては、サステナビリティ関連業務における推進体制と同様に取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「① ガバナンス」をご参照ください。

 

 戦略

気候関連リスクおよび機会については1.5/2℃から4℃の範囲で気温上昇を想定し、RCP-SSPシナリオに沿って分析を実施しました。移行リスクについては、脱炭素社会への移行に伴う政策、規制、技術、市場、消費者意識の変化による要因を、物理的リスクについては、気温上昇に伴う洪水の発生や気象条件など急性/慢性的な変化要因について、各シナリオ条件における影響を分析しました。2030年時点における移行リスクとして、炭素税によって約0.5~8.7億円規模の財務影響が発生する可能性を予測しています。物理的リスクについては、洪水により約9億円、水不足により約35億円の潜在的なリスクを見込んでいます。機会に関しては、1.5/2℃シナリオにおいて、消費者の環境意識の高まりに伴い、サステナビリティに対応したブランドや製品への支持が高まると予想されます。4℃シナリオにおいては、気温上昇に対応した製品の販売機会が拡大すると予想されます。イノベーションによる新たなソリューションの開発により、サステナブルな製品を提供していくことで、リスクの緩和と新たな機会の創出を目指しています。

 

 

リスク

機会

移行リスク

(主に1.5/2℃)

・炭素税によるコスト増●

・燃料価格の高騰

・シングルユースプラスチック使用製品の販売機会喪失●

・エネルギー効率の向上

・クリーンビューティーなどのエシカルな製品の販売機会拡大

物理的リスク

(主に4℃)

急性

・自然災害による生産活動の停止●

・自然災害による物流機能の断絶

・環境にやさしい製品

・気候対応型ソリューションの開発の販売機会拡大

慢性

・降雨や気象の変化による、原材料の調達コストの増加●

・水不足による生産活動の停止●

 

●がついている要因は定量分析も実施しています。

 

 

自然関連リスクおよび機会に関しては、ライフサイクルアセスメントによって当社のバリューチェーンを通じた生物多様性への影響側面の定量分析を行い、特に原材料調達における影響が大きいことを明らかとしました。TNFDが推奨するLEAPアプローチに沿って、生物多様性への依存度の高い化粧品原料について原産地を推定し、依存側面における物理リスク分析としてミツバチなどの花粉媒介者による生態系サービスの金額化を行いました。同時に、移行リスクとして、サステナビリティ関連規制に関わるリスク分析を、気候問題とあわせて実施しています。

分析条件など詳細な情報を含めた「気候/自然関連財務情報開示レポート」は、当社企業情報サイトで公開しています。

https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/env/pdf/risks_report.pdf

 

 リスク管理

 当社の気候・自然関連のリスクおよび機会にかかるリスクマネジメントに関しては、サステナビリティ関連業務における推進体制と同様に取り組んでいます。詳細は、前述「(1) サステナビリティ全般」の「③ リスク管理」をご参照ください。

 

 指標及び目標

当社は、CO2排出量削減を目標として設定し、また定期的に気候変動に伴う状況をモニタリングし対応策を講じることで、リスクの緩和に貢献しています。特にScope 1およびScope 2のCO2排出量については2026年までにカーボンニュートラルを達成することを目標として設定しました。また、バリューチェーン全体におけるCO2排出量削減目標に関しては、1.5℃経路に整合した2030年目標に対して、SBTイニシアティブ(SBTi)(注) の認証を取得し、CO2排出量削減に取り組んでいます。

生物多様性に関しては、影響面での寄与の大きな紙やパーム由来原料について、認証原材料への切り替えを進めています。

気候・自然関連リスクと機会の評価の詳細については、「気候/自然関連財務情報開示レポート」、「サステナビリティレポート」をご参照ください。

 

(注) パリ協定目標達成に向け、企業に対して科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出量削減目標を設定することを推進している国際的

      なイニシアティブ

 

<気候変動・生物多様性への対応の推進>

・気候変動

気候変動に関わる対応としては、2026年カーボンニュートラル達成(注)1 を掲げ、CO2排出量削減に積極的に取り組んでいます。2022年には、バリューチェーン全体におけるCO2排出量削減目標(注)2 に対してSBTイニシアティブ(SBTi)(注)3 認定を取得し、RE100(注)4 に加盟しました。

全世界の工場や事業所において再生可能エネルギーの導入を積極的に行っており、2023年には、全13工場(注)5 ・自社ディストリビューションセンターにおける再生可能電力への切り替えを100%完了し、中国地域では全事業所で100%切り替えを完了しました。2050年にネットゼロの達成を目指し、引き続きCO2排出量の削減とイノベーションを伴う機会創出に努めています。

 

・生物多様性

生物多様性への対応としては、ステークホルダーと連携した水資源管理(Water Stewardship)の重要性を鑑み、流域における水資源と環境への理解に努め、水消費量の削減や有効利用、徹底した水質管理を図ることにより、持続可能な水資源の利用を進めています。加えて、RSPO認証パーム原料への切り替えなど、生物多様性に関連する適切な指標を選定し推進しています。

また2023年には、戦略サプライヤーに向けて、サステナビリティ方針説明会を開催し、気候変動対応やトレーサビリティを含むサステナブルで責任ある調達に共に取り組むための連携を強化しました。

 

 

なお、当社は環境調査・情報開示を行う国際的な非営利団体であるCDPの「気候変動」「フォレスト」に関する2023年度調査において、最高評価にあたる「Aリスト企業」に選定されました。ダブルAに選定されたのは当社として初めてです。(注)6

 

(注) 1 当社全事業所、Scope 1・Scope 2

2 Scope 1・Scope 2、およびScope 3

3 パリ協定目標達成に向け、企業に対して科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出量削減目標を設定することを推進している国際的なイニシアティブ

4 100%Renewable Electricityの略で、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする企業で構成される国際的なイニシアティブ

5 2023年末は11工場

6 CDPの「Aリスト企業」選定に関する詳細はこちら

       https://www.cdp.net/en/companies/companies-scores

 

<サステナブルパッケージ開発とステークホルダーとの協働強化> 

当社は、サステナブルな容器包装の開発やステークホルダーとの協働を通じて、グローバルでの環境課題である気候変動や海洋プラスチックゴミ問題などへの対応を進めています。

当社独自の容器包装開発ポリシー「5Rs: Respect(リスペクト)・Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)・Replace(リプレース)」を前提としたイノベーションを通じて、2025年までに100%サステナブルな容器(注)1 を実現するという目標を掲げています。

2023年には、「SHISEIDO」から、ボトル製造と中味液充填をワンステップで実現する技術「LiquiForm®(リキフォーム)(注)2」を世界で初めて化粧品に採用し、日本を皮切りに中国へのグローバル展開も開始しました。「LiquiForm®」の採用により、当社の標準的な従来の容器単体のプラスチック使用量を約70%削減(注)3 できます。さらに、バリューチェーン全体では「つけかえ」容器(同容量)に対して、約70%のCO2排出量削減(注)3 が可能となるイノベーティブな容器設計です。

2023年4月には、使用済みプラスチック製容器を収集し、新たな容器へ再生する循環型プロジェクト「BeauRing(ビューリング)」を立ち上げました。実証試験として横浜市内の一部の資生堂化粧品販売店舗、資生堂グローバルイノベーションセンターなどに回収ボックスを設置し、そして株式会社ポーラ・オルビスホールディングスと連携し、使用済みプラスチック容器収集を開始しています。

2023年7月には、有限な化石資源に依存せず新たな資源として注目される藻類基点の新産業を構築するプロジェクト「MATSURI(注)4」を主導する、ちとせグループと戦略協業契約を締結し、藻類を利用した化粧品原料および化粧品容器にかかる素材の開発、さらには将来的な食品産業に活用できる原料開発などを視野に協業を開始しました。

関連する業界や企業などの外部ステークホルダーとの協働を強化し、サーキュラーエコノミー実現に向けて加速するとともに、お客さまがより前向きに化粧品を使うことができるサステナブルな社会に貢献していくことを目指しています。

 

(注) 1 プラスチック製容器について

2 AMCOR(アムコア)社が中心となって開発した新規容器技術であり、この技術を実用化した株式会社吉野工業所と当社が共同で化粧品容器を開発

3 従来型の「つけかえ」容器とリキフォームによる新規「つけかえ」容器を同じ容量で比較した結果

4 藻類の大規模生産と事業化に強みを持つ、ちとせグループが主体となりサステナブルな新産業を構築するプロジェクト


 

LiquiForm®を活用した化粧品のつけかえ容器(左)とその容器をセットする本体容器(右)


 

BeauRing ボックス

 


 

 

 

 

 

BeauRing ロゴマーク

 

 

 

(3) 人的資本

 人的資本

当社は、価値創造の源泉である人財を当社の最大の資産であると考え、人財への投資こそが企業価値を高めると強く信じ、「PEOPLE FIRST」の経営理念を掲げ人事制度や施策を進化させ続けてきました。世界中で価値を創出するためには、人財が最も重要な経営資源となります。

企業理念である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」を実現し続けていくために、性別や年齢、国籍に関係なく、個々人の違いを認め尊重しあい、新しい価値創造に向けて議論する風土醸成を推進しています。

 

・「個の力を強くする」

<パフォーマンスマネジメント>

ビジネスと社員の持続的成長のために、パフォーマンスマネジメントを強化しています。2021年よりグローバルで共通のスキームを導入し、これにより中長期的な業績の向上と社員の成長を図っています。一人ひとりの社員がストレッチした業務アサインメントに挑戦し、それぞれの専門性を高めていきます。

 

<自律的キャリア開発支援>

主体的なキャリア開発と専門性を強化するために、2020年から国内資生堂グループ全社員に対しキャリアワークショップやe-learningの実施を行っています。また、社員自身が作成した中長期的なキャリアゴールを描くキャリア・ディベロップメントプラン(CDP)はパフォーマンスマネジメントの一環として扱われ、社員はみずからのキャリア開発にいかす基礎的なビジネススキルや、必要な専門性を高めるさまざまな研修プログラムを自発的に利用できます。

 

<トレーニングプログラム>

当社は多様な人財をいかすためにリーダーシップ教育に重点を置いています。

当社の人財育成は「70:20:10の法則」(注)を重視していますが、とりわけトレーニングプログラムは、集中して新しい知見を学ぶ機会であり、優秀な社員と交流しさらに成長意欲を高める機会となります。目的と対象者に応じ、選抜型プログラム・選択型プログラム・必須プログラム、の3種類の研修プログラムを提供しています。

 

(注)人が成長する際には、業務経験から70%、他者との関わりから20%、トレーニングや自己学習から10%の割合で学ぶという法則。

 

当社におけるトレーニングプログラム体系

社員が専門性を高めるために、自律的な学習を推奨するラーニングプラットフォームとしてLinkedIn Learningを導入し、グローバルに働く社員が同じプラットフォームで受講できるよう展開しています。

 

 

<選抜型プログラム>

戦略的タレント育成を目的に、資生堂グループ各領域の幹部候補社員に対しては、グローバル共通の教育体系Shiseido Leadership Academyにおいて能力開発と国と地域を越えたネットワークの構築を促しています。Shiseido Leadership Academyでは選抜された次世代リーダーに外部ビジネススクールと提携したプログラムを提供し、リーダーシップや経営スキルを学びます。また女性リーダー育成にも力を入れており、優秀な女性社員が自身や周囲のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)から自由になるための「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を2017年から毎年実施しています。

次世代を担う経営リーダーを育成する施設「Shiseido Future University」を、創業の地である銀座に2023年11月にオープンしました。「Shiseido Future University」は、資生堂ならではの価値創造とイノベーションを創出するために、ビューティーカンパニーにふさわしい美への感性や心の豊かさ、最先端のグローバルレベルのビジネス知見を合わせもったリーダーの育成を目指しています。国内外グループ会社から選抜された次世代の経営リーダーとなる人財を中心に、みずからビジョンを描き、長期的な視点で企業価値を高め、変革を実現する突き抜けた経営リーダーへの人材開発を行います。 

 


「CAMELLIA 椿」プレゼンテーションルーム  

女性像をテーマにしたヘリテージポスターからカラーリングした研修室

 

 

<選択型プログラム>

社員が高いパフォーマンスを発揮し自律的なキャリアを形成するよう、みずから手を挙げて受講することができる選択型プログラムを実施しています。日本国内では、職種を問わない基礎的なビジネススキル研修や、高い向上心を持つ若手社員を対象としたMBA派遣のほか、それぞれの専門領域でさらに専門性を高めるためのセールスアカデミーやマーケティングアカデミーなどを実施しています。

 

<必須プログラム>

新入社員研修や3年目研修、新任職制マネージャー研修など、キャリア形成の節目となるタイミングで、必須プログラムを提供しています。リーダー(職制マネージャー)に対してはマネージャートレーニングやマネージャーワークショップでマネジメントスキルの研修を強化し、公正な評価と各部門での人財育成に努めています。

また、社員が専門性を高めるために、自律的な学習を推奨するラーニングプラットフォームとしてLinkedIn Learningを導入し、グローバルに働く社員が同じプラットフォームで受講できるよう展開しています。

 

・「強い個」を育む組織・仕組み 

「強い個」をつくるために力を入れているのが、ジョブ型人事制度に基づく、戦略的タレントマネジメント、パフォーマンスマネジメント、自律的キャリア開発支援です。さまざまな専門性を持った社員それぞれの強みをいかせるよう、当社は社員のみずから成長する姿勢を奨励し、一人ひとりの自律的なキャリア開発を支援しています。

 

 

<ジョブ型人事制度>

社員の専門性を強化し「グローバルで勝てる組織」となるよう、日本国内の管理職に対しては2015年より、一般社員(総合職)に対しては2021年よりジョブ型人事制度を導入しました。社員のレベルを判定する基準を個人の「能力」から「職務(ジョブ)」に移行することで、グローバルスタンダードに沿った客観的な評価や処遇を可能にします。各部署における職務内容と必要な専門能力を明確化することで、社員一人ひとりのキャリアの自律性を高めることを狙っています。

 

<戦略的タレントマネジメント>

グローバルにおける資生堂グループ全体での適材適所な人材配置と、戦略的タレントを育成するためのマネジメントを行っています。毎年、グローバル/リージョナル/ファンクショナルレベルでそれぞれタレントレビューを実施し、重要なキーポジションに対する後継者の指名・育成計画を作成しています。後継者の育成計画では、能力開発を主目的とした難易度の高い業務へのアサイン(ストレッチアサインメント)やグローバルでの異動機会、リーダーシップ開発プログラムなど、それぞれの強みや開発課題に基づく一人別育成計画が策定され、CEOの承認・支援のもと、実行されます。

 

<多様な人財の育成と活用>

当社では、約100カ国の国・地域からの社員が集まり、性別・年齢・国籍に関係なく、個々人の違いを認め尊重しあい、新しい価値創造に向けて議論する風土醸成を推進しています。

LGBTQ+に関する取り組みとしては、性自認や性的指向による差別やハラスメントをなくし、社員がありのままの姿で職務にあたれるよう環境の整備や啓発に取り組んでいます。

 

日本国内では、2017年から社員の同性パートナーを異性の配偶者と同じように福利厚生などの処遇を受けられるように就業規則で定めています。人事部による社員向けのLGBTQ+の理解促進も行っています。

 

また、誰もがいきいきと働くことができる職場づくりとして、私たちは障がいのある方の雇用に積極的に取り組んでいます。日本国内の資生堂グループでは、営業やマーケティングといったさまざまな職務への配属を推進し、障がいの状況に応じて、支援機器やオフィス設備の整備に取り組んでいます。例えば、特例子会社の花椿ファクトリー株式会社は東京・大阪・掛川など9か所に拠点を持ち、主に知的障がいのある約60名の社員が働いています。当社の障がい者雇用率は2.82%、日本国内の資生堂グループの障がい者雇用率は4.52%です。

 

<多様な働き方をサポートする社内環境整備>

社員の健康や安心・安全、働きがいと、さらなる生産性の向上を通じた事業成長を目指し、「コアタイムのないフレックスタイム制度」への改定や「テレワーク制度の国内グループ全社への展開」、業務の目的に合わせてリモートワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせる「資生堂ハイブリッドワークスタイル」を導入するなど、さまざまな属性の社員が働きやすい職場環境の整備を推進しています。

 

DE&I推進

当社は、1872年の創業以来、常に新しい時代を象徴する多様な美の価値観を創造してきました。そして現在、人は本来、多様であるとの認識のもと、固定的な価値観や偏見、同調圧力を払しょくし、一人ひとりが自分らしい人生を実現できるインクルーシブな(包摂性豊かな)社会の実現に向け、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を重要な経営戦略と位置づけています。

 

<女性活躍の支援>    

とりわけ女性の活躍の支援は、企業成長を促すうえで極めて重要なテーマです。当社グループは80%以上が女性社員で、女性のエンパワーメントがイノベーションを創出し、当社のさらなる成長と社員の自己実現につながると考え、2030年までに日本国内のあらゆる階層における男女比率を機会均等の象徴である50:50にすることを目指しています。

 

日本国内では女性リーダーを育成するために、管理職候補となる社員に対し「一人別人財育成」として、高いレベルの業務課題を与えてスキルを高め、マネジメントの経験を積ませています。また、将来を担う優秀な女性社員を支援する女性リーダー育成塾「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を2017年から開催しています。この育成塾は、幹部候補の女性社員がマネジメントや経営のスキルを学びながら、自分らしいリーダーシップスタイルを見つけるプログラムです。リーダーシップを発揮する際に陥りやすい壁に対処する方法を学び、女性リーダーによる講演や社員同士のネットワーキング、コーチング等などを組み合わせています。こうした包括的なリーダーシップ育成により、受講者は経営にとって女性の活躍が欠かせないことを学び、自信を深め、さらなるリーダーシップを発揮する支援となっています。

2024年1月時点での国内資生堂グループ全体の女性管理職比率は、40%に達しました。

 

・子育て支援の取り組み

日本国内では1990年代初めから育児・介護休業法に先駆け、育児休業制度、育児による短時間勤務制度を導入するなど、長きにわたり、社員のライフイベントを支援するさまざまな制度や支援策を推進してきました。

具体的には、2008年には育児による短時間勤務を取得する美容職社員の代替要員体制として「カンガルースタッフ制」の導入を行い、店頭の美容職における仕事と育児の両立支援を行ってきました。また、事業所内保育所「カンガルーム汐留(2003年)」「カンガルーム掛川(2017年)」を開設し、いずれも近隣企業にも開放してきました。さらに「多様な働き方に合わせた柔軟な保育」を実現するため、2023年4月にシッターサービスを中心とした総合的な保育サービス「KANGAROOM+(カンガルームプラス)」を開始しました。集団保育ではなく1対1の保育サービスにすることで、時間と場所の自由度を上げるとともに、「小1の壁」に代表される社員の保育ニーズに合わせて、対象を未就学児から小学生までに広げました。すべての社員が自分らしく、それぞれの人生とキャリアを自らがデザインすることのできる職場環境の実現を目指しており、国内資生堂グループにおいては、ほぼすべての社員が育児休業から復職しています。また、男性の育児休業取得率においても、国内資生堂グループにおいて113%まで進捗しました。

 

<イノベーション創出を企図した「DE&Iセッション」の実施>

2023年より日本地域のブランドマーケティング活動に従事する社員を対象に、DE&Iリテラシーの向上と新たな価値やライフスタイルを提案・創造していくことを目的とした「DE&Iセッション」を実施し、昨年は570名が参加しました。グローバル動向や人々の価値観変化をDE&Iの文脈から捉えることで、広告・マーケティングにおける表現や対応方法を修得すると同時に、インスピレーションを得た社員がイノベーション創出に向け創造力を高める機会となっています。2024年からは対象を拡大し、より多くの社員の参加を促進します。

 

<資生堂DE&Iラボ>

当社は、多様な人財の活躍と企業成長との関係を研究する社内研究機関「資生堂DE&Iラボ」を2023年2月に発足しました。資生堂の職場を実験場として、実際に高いパフォーマンスをあげている組織のDE&I因子を数値化・可視化し、多様性が組織パフォーマンスにどのように影響するのかについて、経済学的なアプローチからの実証研究に加え、イノベーションにつながった実際の事例収集や要因分析などを進めています。さらには、研究を通じて、多様性の力を最大限に活かす上で有効な要素の可視化、ノウハウの抽出を目指しています。

 

<外部評価・受賞>

2023年11月には「Forbes JAPAN」がジェンダー・ギャップ解消と女性をエンパワーメントすることを目的に主催する日本最大規模の女性アワード「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2023」において、当社は約1,900社から「企業ランキング1位」に選ばれました。サプライヤー企業から商品・消費者に展開するサービスに至るまでDE&Iを浸透させる事業構造、各キャリアステージのなかでもとりわけトップクラスの女性比率実績、働き方の柔軟性・多様性を認める職場環境の整備などが高く評価されました。

 


 

資生堂DE&Iラボ ロゴマーク

 


「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2023」ロゴマーク

 

(4) 企業文化

<企業文化誌『花椿』2023年号特別版の刊行> 

創業から150年以上にわたり積み上げてきた資生堂のヘリテージは当社の強みです。蓄積の過程で培ったナレッジや受け継がれる思いは、社員教育に活用するだけでなく、その他のステークホルダーのみなさまとも共有してきました。

『花椿』2023年号のテーマは「OUR ENERGY」。今の時代に私たちがウェルネスに向かうために必要なものとして、このテーマにしました。2023年は、全国の化粧品専門店をビジネスパートナーとして共に歩んできた当社チェインストア制度の100周年にあたります。通常版のほか同制度100周年を記念した特別版も刊行し、全国の化粧品専門店(一部)でも配布しました。特別版には同制度の歴史や今後の取り組みについても掲載し、これまでの歩みを共有することができました。 

当社は、今後もヘリテージを幅広く活用し、さらなる事業成長を確実なものにしていきます。

 


『花椿』2023年号特別版(カバー、バックカバー)

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち当社グループの財政状態および経営成績等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには次のようなものがあり、投資家の判断に影響を及ぼす可能性のある事項と考えています。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年3月26日)現在において当社グループが判断したものですが、ここに掲げられている項目に限定されるものではありません。

 

当社では、「あらゆるステークホルダーとの信頼関係を築き、経営戦略の実現を一層確実なものとすること」を主眼に置いてリスクマネジメントを推進しています。そのため、リスクを戦略実現に影響を与える「不確実性」と捉え、脅威だけでなく、機会も含めた概念として定義し、必要な体制を構築するとともに、積極的かつ迅速に対応策を推進しています。

定期的に当社グループのリスクを特定し対応策等を審議する体制として、当社CEOを委員長とし各地域CEOおよび当社エグゼクティブオフィサー等をメンバーとする「Global Risk Management & Compliance Committee」や「Global Strategy Committee」を設置しています。また、リスクに関連する情報は、グループCLO(チーフリーガルオフィサー)直轄のリスクマネジメント部門に集約されます。

毎年特定・評価された重要リスクは、当社グループの経営戦略を策定するうえで考慮される要素となります。加えて、当社はそれぞれの重要リスクによる影響を軽減するため、リスクごとに設定されたリスクオーナーを中心に対応策を推進し、その進捗状況をモニタリングするとともに定期的に上記のCommitteeのメンバーや取締役と共に議論する仕組みを構築・運用しています

 

2023年度は、総合的・多面的な手法(ホリスティックアプローチ)を用いて全社的に重要なリスクを抽出しました。具体的には、当社エグゼクティブオフィサー、各地域CEOおよび取締役のリスク認識を把握するインタビューやディスカッション、ならびに各地域で実施した地域ごとのリスク評価、当社関連機能部門との情報交換等を元に、リスクマネジメント部門による分析や外部有識者の知見を加えて、中期経営戦略である「SHIFT 2025 and Beyond」の達成に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定しました。

そして、それらのリスクについて、以下表1のとおり、「ビジネスへの影響度」、「顕在化の可能性」、「脆弱性」の3つの評価軸を設定し、上記Committeeや個別会議などを通じて、リスクの優先付けおよび対応策の検討・確認を行いました。

 

表1 <リスクの評価軸>

ビジネスへの影響度

・リスクが顕在化した場合の経営成績(売上等)に与える定量的な影響

・当社の企業・ブランドイメージ、カルチャーに与える定性的な影響

顕在化の可能性

・リスクが顕在化する可能性の程度や時期

脆弱性

・リスクの対応策の十分性

・外的要因によるリスクの発生制御の可否

 

 

アセスメントの結果抽出された計20の重要リスクは、以下表2のように、「生活者・社会に関わるリスク」、「事業基盤に関わるリスク」、そして「その他のリスク」の3つのリスクカテゴリーに分類し対応しています。

 

 

表2 <資生堂グループ重要リスクの抽出結果> ★:特に優先して対応すべきリスク

生活者・社会に関わるリスク

・生活者の価値観変化★

・新たなテクノロジーへの対応・デジタル化の加速★

・最先端のイノベーション★

・企業・ブランドレピュテーション★

・環境対応(気候変動・生物多様性など)

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)

・自然災害・感染症・テロ

・地政学的問題★

事業基盤に関わるリスク

・優秀な人財の獲得・維持と組織風土★

・ビジネス構造改革★

・業務上のインフラ★

・サプライネットワーク

・コンプライアンス

・規制対応

・品質保証

・ガバナンス体制

・情報セキュリティ★

その他のリスク

・為替変動

・事業投資

・重要な訴訟等

 

 

当連結会計年度のリスクアセスメント結果で特筆すべき点として、各リスクの結びつきがますます強固となり、それに伴い各リスクの対応策の相互関係は強まりつつあることが挙げられます。加えて、当社では「生活者の価値観変化」「新たなテクノロジーへの対応・デジタル化の加速」「最先端のイノベーション」「企業・ブランドレピュテーション」「地政学的問題」「優秀な人財の獲得・維持と組織風土」「ビジネス構造改革」「業務上のインフラ」「情報セキュリティ」のリスクについて、昨年度と比較しリスクレベルが上昇しているリスクとして特定し、対応を強化しています。

次項より重要リスクごとに、戦略実現に向けた主要な取り組み、想定される不確実性(脅威・機会)、対応策の概要およびリスクレベルの変化を記述します。なお、記述内容は、2024年3月26日時点におけるものです。

 

<生活者・社会に関わるリスク>

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

生活者の価値観変化

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・スキンビューティーブランドへの注力。

・自社開発・オープンイノベーション・戦略的M&Aを組み合わせた事業ポートフォリオの強化。

・既存領域だけではなく、新たな領域における価値創造の強化。

・グローバルで価格戦略を高度化し、ブランドエクイティを担保。

・インナービューティー事業の開発。

・クロスボーダー戦略の強化。(中国、トラベルリテール、日本)

〔不確実性〕

・生活者の「美」に関する価値観や化粧品・インナービューティーに対するニーズ、価格の受容性、購買タッチポイントを含む購買行動の多様化への対応が遅延し、または不十分で競合に機会を奪われる可能性。(脅威)

・環境に配慮した商品を販売しているにも関わらず、その事実が誤解され、社会や生活者からの信頼を失ってしまう可能性。(脅威)

・生活者の価値観変化に対応したマーケティング戦略により、計画以上の売上・利益につながる可能性。(機会)

〔対応策〕

・生活者の価値観の多様化に対応するブランドポートフォリオ強化。

・成長が見込まれる市場へのブランド展開の拡大。

・資生堂グループ各社における人財の多様性加速。

・市場情報に関する専門部署を通じて、生活者情報を適宜適切に入手。

・他社とのオープンイノベーションによる価値・事業開発。

・ビューティーウェルネス領域で革新的な取り組みに挑戦するスタートアップ企業へ投資。


新たなテクノロジー

への対応・

デジタル化の加速

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・全社視点での戦略を立案し、あらゆる領域においてプロセスのデジタル化を推進。

・グローバル本社・各地域本社・事業の目標達成、コスト効率の向上、コンプライアンスリスク軽減をサポートするためのプラットフォーム、ツール、プロセス、KPIの標準化・アクティベーションと効果測定を推進。

・社内外のプライバシー規制に準拠した形でお客さまデータを獲得・分析し、デジタルCRMを活用した個客マーケティングを推進。顧客エンゲージメントの獲得・維持を強化。

〔不確実性〕

・デジタルを活用した事業モデル・価値提供の変革・データやプロセスなどの標準化のスピードが競合他社に対し劣後した場合、コンプライアンスリスクやコストが上昇し、市場シェアが低下する可能性。(脅威)

・生成AIの活用に伴う様々なリスクに対して適切な対応策を講じない結果、個人情報や機密情報が漏洩する可能性。(脅威)

・オンラインとオフライン(店頭)を融合させ、当社独自の顧客体験を提供することによるより強力な価値提供の可能性。(機会)

・生成AIの活用による競争優位性の向上。(機会)

〔対応策〕

・グローバル本社・各地域本社のチーフデジタルオフィサー(CDO)およびデジタル・リーダーシップチーム間の四半期ごとの地域ミーティングを通じた、各種施策の進捗確認・標準KPIに基づいた成果レビューの実施。

・生成AI導入プロジェクトを立ち上げ、社内利用環境を構築。同時に、適切な利用方法についてルールを策定し、社員に周知。

・デジタルに最適化したチーム構築・採用・人財育成をサポートするデジタル・ワークフォースプランニングの導入。

・顧客とのパーソナライズされたエンゲージメントを深化させるビューティーテック領域の開発促進、独自の肌診断デジタルサービス、コンテンツの強化。

・オンラインおよび店頭でお客さまに提供するサービス・技術を通じたファーストパーティーデータの取得の更なる推進。

・ステージゲートプロセスの導入およびR&D、経営戦略、IT部門と連携した投資管理モデルの構築による、ガバナンスモデルの強化・推進。

・グローバル本社・一部地域本社におけるメタバースおよびWeb 3.0ステアリングコミッティを通じた、各種イノベーション施策の推進。


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

最先端の

イノベーション

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・独自のR&D理念「DYNAMIC HARMONY」の策定と実行による研究の選択と集中。

・2030 R&D VISIONとして「We are the engine of BEAUTY INNOVATIONS」を掲げ、「Skin Beauty INNOVATION」「Sustainability INNOVATION」、「Future Beauty INNOVATION」という3つのイノベーションの柱と、「これまで培ってきたR&Dプロセス」に加え、「リージョンイノベーションセンター(RIC)との連携」、「脱資生堂カルチャー」のアプローチを戦略として策定。

・スキンビューティーブランドの研究開発強化。

・研究開発投資:売上高比率3%程度に設定し推進。

・各地域本社における規制対応の強化。

〔不確実性〕

・開発技術が類似技術や代替技術の出現により陳腐化し、または各国の薬事規制により開発技術が使用できなくなり、生活者に新たな価値を提供できなくなる可能性。(脅威)

・短期視点での新技術の投入や、中長期的視点での基盤研究やサステナビリティを加速する代替原料や処方開発の停滞、またはM&Aや外部との共同事業の進捗が遅延するなどの理由により、意図したシナジー効果を実現できなかった結果、生活者のニーズと合致した価値を提供できず、競争劣後となる可能性。(脅威)

・サービス・プロセス・組織などの領域における画期的なイノベーションによる価値創造が生活者に新たな価値を提供し、当社の競争優位を決定づける可能性。(機会)

〔対応策〕

・化粧品R&Dへの投資の継続と、柔軟かつ適切な投資分配。

・研究におけるコアテクノロジー領域を特定し、それぞれで短期~長期の戦略を明確化することにより、投資対効果の高いリソース配分を実現。

・画期的な研究成果を最大限に活用するため、ブランド横断で商品化するシーズを設定、さらにそのことを生活者に効果的に伝えるための戦略的コミュニケーションを実施。

・最先端の設備を持つ国内外工場の稼働。

・生活者のトレンドの変化に焦点を当て、外部機関との共同研究や、スタートアップ企業の知見の活用を強化。

・オープンイノベーションプログラム「fibona」をはじめとするスタートアップ企業とのコラボレーションなど、外部との共創によるビジネストライアル(テストローンチ)を通じたブランドへの提案。

・研究開発投資対効果を測る指標(売上高研究開発費比率、研究員数、研究拠点数、特許出願数、論文数、シーズ創出数・活用数等)を設定し、モニタリング。

・イノベーション人財育成のため、外部機関への戦略的人財の派遣を拡大、また組織ケイパビリティを専門性の観点で強化するため、組織計画と連動した専門職を拡充。

 


企業・ブランド

レピュテーション

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・コーポレートブランドや各ブランドのイメージ維持・向上を狙いに、経済的・社会的両側面において、多様なステークホルダーとのコミュニケーションを推進。

・ブランド価値向上のため、生活者インサイトとデータを活用した多面的なマーケティング活動を推進。

〔不確実性〕

・当社の発信内容や、当社が起用したアンバサダーやインフルエンサーによる言動に対する社会的批判がその真偽に関わらず拡散し、当社イメージを低下させる可能性。(脅威)

・模倣品などが流通し、本来の当社の提供する価値が生活者に届かずブランドイメージを低下させる可能性。(脅威)

〔対応策〕

レピュテーションリスク案件を未然に防ぐ対応策として、以下を推進。

・マーケティングやコミュニケーション担当社員を対象としたブランドイメージ維持・向上のための教育を推進。

地域ごとの特性を踏まえながら、倫理的、社会通念上の視点から批判される可能性がある表現や言動の予防のため、宣伝・広告等の発信情報や起用アンバサダー・インフルエンサーの事前チェックシステムを継続的に先鋭化。

・WEBサイトおよびソーシャルメディアにおける当社関連情報のモニタリング

・ソーシャルメディアポリシーを定め社内に周知徹底。

案件発生時の対応体制の強化として、以下を推進。

・本社と各地域本社の対応連携の強化。

・模倣品対策については行政との連携による摘発などの対応策を実施。

 


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

環境対応(気候変動・生物多様性など)

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・よりよい世界の実現に向けた取り組みとして、本業であるビューティー事業そのものを通じて、社会課題の解決や人々が「幸福を実感できる」サステナブルな社会の実現に向けアクションを実行。

・「地球環境の負荷軽減」「サステナブルな製品の開発」「サステナブルで責任ある調達の推進」の3つのコミットメント達成に向け、活動を推進。

〔不確実性〕

・当領域への取り組みが十分でないと社会や生活者からの信頼を失うことや、購買動機の低下に影響を与える可能性。(脅威)

・環境課題、特に気候変動や生物多様性に伴うリスク対応が不十分だと、事業や財務に負の影響を与えるだけでなく、企業価値の低下につながる可能性。(脅威)

・サステナブルな商品の開発等の取り組みが、生活者をはじめとする社会からの信頼獲得に貢献し、ビューティーにおける新たな社会価値を創出することで、当社企業価値を飛躍的に向上させる可能性。(機会)

〔対応策〕

・Sustainability Committeeを定期的に開催し、中長期戦略の立案とKPIの設定、サステナビリティ関連課題の審議と決議、グローバル本社および実行責任を持つ地域本社の関連部門間での実行状況のモニタリングを実施。

・各ブランドにおけるサステナビリティ対応やSDGsの実現のための活動を推進。

・企業としての方針や取り組みとKPI、実績をまとめたサステナビリティレポートの発行。

・2024年末までに、すべての工場と物流センターにおいてISO14001の認証取得に向け推進。(2023年末までにすべての工場において取得済)

・環境対応パッケージを通じたお客さまとともに環境負荷軽減に貢献する取り組みの推進。

・認証パーム油および認証紙への切り替えの推進。

・主な環境負荷軽減項目(CO2・パーム油・紙・水・廃棄物)の中期的目標設定・開示と、達成に向けての推進。

・サステナビリティ課題として、気候変動、生物多様性、サプライチェーンにおける人権等にも影響の大きい原材料調達におけるトレーサビリティの推進。

・「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」への賛同と、その提言に基づき、気候変動や生物多様性のリスクが事業に与える影響を定性的・定量的に分析したシナリオと想定される財務影響、具体的アクションを策定、情報を開示。


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

ダイバーシティ・

エクイティ&

インクルージョン(DE&I)

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・よりよい世界の実現に向けた取り組みとして、本業であるビューティー事業そのものを通じて、社会課題の解決や人々が「幸福を実感できる」サステナブルな社会の実現に向けアクションを実行。

・「ジェンダー平等」「美の力によるエンパワーメント」「人権尊重の推進」の3つのコミットメント達成に向け、グローバル本社、地域本社、ブランドが国際機関やNGOなどステークホルダーとも連携しつつアクションを展開。

・特に日本において、世界に大きく後れをとっている「女性活躍」について、自社内のみならず、他企業への情報支援によって日本企業、また日本社会全体の変革を牽引。

〔不確実性〕

・当社の強みである、DE&Iの領域において、取り組みが十分でないと生活者をはじめとする社会からの信頼を失う可能性。(脅威)

・DE&Iの土台となる「ビジネスと人権」について、適切な対応を怠った場合に企業価値の低下につながる可能性。(脅威)

・DE&I促進のための取り組みが、社会価値を創造し、生活者をはじめとする社会からの信頼獲得に貢献する可能性。(機会)

・DE&Iが根付いた組織風土によって、多様性に富んだ優秀な人財を獲得・維持でき、結果イノベーションが促進され、当社の企業価値を飛躍的に向上させる可能性。(機会)

〔対応策〕

・中長期戦略の立案とKPIの設定、グローバル本社および地域本社の関連部門を巻き込んでの推進状況のモニタリングを実施。

・各ブランドにおいてサステナビリティやSDGsの実現のための活動を推進。

・企業としての方針や取り組みとKPIをまとめたサステナビリティレポートの発行。

・多様な人財の活躍と企業成長の関係を研究する「資生堂DE&Iラボ」を発足し、本格的な実証研究に着手。

・日本企業の役員に占める女性比率向上を目指す「30% Club Japan」に参画、当社CEOがチェアとしてTOPIX社長会の活動をリード。

・がんサバイバーの方々のQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)向上を支援するプログラム「SLQM(Shiseido Life Quality Makeup)」「LAVENDER RING MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」を通じた“化粧の力”の活用機会の拡大。

・人権デューデリジェンスの仕組みを構築し、当社およびビジネスパートナーが社会に与える可能性がある人権に対する負の影響を特定し、その防止および軽減のための改善アクションを実施。


自然災害・感染症・テロ

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・グローバルでの成長基盤の再構築のための人財や経営インフラの強化。

〔不確実性〕

・昨今の世界各地における地震・水害・竜巻等の自然災害、テロ・暴動等による社員の安全に危害を及ぼす人的被害や物的被害、サプライチェーンへの影響が事業や供給を停滞させる可能性。(脅威)

・感染症によるパンデミックの発生により消費が停滞し、売上・利益等が低下する可能性。(脅威)

・感染症拡大による生活者の価値観・ニーズの変化に迅速かつ柔軟に対応することで、市場での競争優位を確保できる可能性。(機会)

〔対応策〕

・グローバル本社および各地域の重要拠点においてBCP(事業継続計画)を策定し従業員に対して安全教育を実施、国内外の拠点において定期的に訓練を実施。

・新工場の設立等により、危機発生時においても柔軟かつ継続的な供給を可能とするグローバルサプライネットワークを強化。

・感染症に特化したBCPを策定し、対応体制を構築。


 

 

 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

地政学的問題

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・成長ドライバーとなる地域・事業への重点投資。

・収益性向上のための事業基盤再構築。

〔不確実性〕

・当社進出国において対日感情が悪化した場合に、当社商品が買い控えされる可能性。(脅威)

・当社進出国における政治的不安に起因し、事業環境が悪化する可能性。(脅威)

・世界的な物価上昇による原材料の価格高騰を商品やサービスの価格に転嫁した結果、当社の商品に対する生活者の購買意欲が減退し、収益性が悪化する可能性。(脅威)

・当社進出国の政治状況の不安定化、各国間の外交関係の緊迫化、紛争の発生により、事業環境が悪化した結果、当社グループの商品の生産、供給および販売体制に悪影響を及ぼす可能性。(脅威)

〔対応策〕

・スキンビューティーブランドの成長加速に向けた投資拡大。

・予期せぬ市場環境の変化に直面した際のリスクを最小化するため、グローバルで事業改革を加速。

・各地域の売上バランスの適正化。

・危機発生時においても柔軟かつ継続的な供給を可能とするグローバルサプライネットワークの強化。

・有事の際を想定した全社的対応事項の洗い出し・検討。


 

 

<事業基盤に関わるリスク>

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

優秀な人財の獲得・維持と組織風土

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・「PEOPLE FIRST」の考えのもと、価値創造の「源泉」である人財を最大の資産と捉え、人的資本投資に対するリターンの最大化を企図し、価値創造現場の目指す姿として「Beauty Innovation Atelier – Energized by Passion, Collaboration and Excellence」を定義し、今後、国内外での浸透を計画

・人財戦略において、リーダーシップおよびイノベーション力の強化に注力しつつ、持続可能な価値創造の起点となる社員のエンゲージメントレベルの持続的な向上に注力。

・強い個(社員一人ひとり)を更に強くするために、社員間や組織間の関係性の強化および、カルチャー全体を変革するという組織開発面からもアプローチ。

・2018年に導入した「OUR PRINCIPLES(TRUST 8)」を全資生堂グループにて引き続き推進。

〔不確実性〕

・優秀な人財の獲得・維持が計画どおり進捗せず経営計画を実現する人財が不足する可能性。(脅威)

・優秀な人財の獲得・維持により、グローバル市場での競争優位を確保できる可能性。(機会)

・AIやITツールを活用した業務プロセス・働き方改革の推進により、組織の生産性が更に高まる可能性。(機会)

〔対応策〕

・リーダーシップチームと社員との距離を縮め、経営方針、ビジョン、想いや価値観等について直接議論できる機会を意図的に増やし、透明性の高い組織カルチャーの構築を引き続き目指しつつ、組織全体の一体感・社員のベクトルの一致を推進。

・「リモートワーク」と「オフィスワークを組み合わせた、最大の成果を出すための働き方(資生堂ハイブリッドワークスタイル)や、副業許可など、柔軟性・多様性を認める職場の整備と社員の健康管理の推進。

・グローバル人事データベースの導入、パフォーマンスマネジメントの統一化を通じ、適材適所で優秀な人財を登用。

・ジョブ型雇用など、貢献度に対応した職務等級制度・処遇報酬制度の導入による人事評価の透明性確保と社員のモチベーション向上。

・グローバルリーダーシッププログラムや女性リーダー育成プログラム等の開催。

・2023年11月に設立した「Shiseido Future University」において、資生堂ならではの価値創造とイノベーションを創出するために、ビューティーカンパニーにふさわしい美への感性や心の豊かさ、最先端のグローバルレベルのビジネス知見を合わせもったリーダーの育成を目指し、国内外グループ会社から選抜された次世代の経営リーダーとなる人財を中心に、オリジナルのリーダーシッププログラムを実施。

・競争力を持つ報酬水準の設定やグローバルモビリティなど、トータルリワードの提供により人財のリテンションを強化。


ビジネス構造改革

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・付加価値型経営モデルを確立し、2028-2029年までにコア営業利益率15%の達成に向け、戦略上の重点領域であるブランド、イノベーション、人財への積極投資により、継続的な安定成長の実現と高収益構造への転換を推進。

〔不確実性〕

・各地域・部門におけるビジネスの構造改革が狙いどおりに進まず、収益性およびキャッシュ・フローの改善が停滞することにより経営計画の達成に影響を及ぼす可能性。(脅威)

・中国および米州での経済成長の鈍化に伴い、化粧品市場の成長が想定以下となり、経営計画に影響を及ぼす可能性。(脅威)

・日本の再成長による収益基盤の再構築、中国市場における事業構造改革の断行、次なる成長の柱としての米州の成長基盤構築等を通じ、グローバル市場にて競争優位を築ける可能性。(機会)

〔対応策〕

・各エリア・領域ごとのアカウンタビリティを、これまで以上に明確にし、ビジネス構造改革の結果を確実に出すために「実行・モニタリングの強化」をすべく、CEOを委員長とする「グローバルトランスフォーメーションコミッティ」を設置。

・当社の重要市場である日本においては、「持続的な成長」、「稼げる基盤構築」、「人財変革」の3つを柱とする新経営改革プラン「ミライシフトNIPPON 2025」を推進。


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

業務上のインフラ

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・商品の調達・生産・販売に係る情報システムや、業務管理システム、主要業務プロセスを高度化・効率化し、グローバルOne IT組織を実現・拡大。

〔不確実性〕

・各国の当社事業所のITシステムの再構築・移行の導入が計画より遅延する、もしくは導入後にトラブルにより意図したとおりに動作しないことで、グローバルでの経営基盤の向上を阻害し経営計画に影響を及ぼす可能性。(脅威)

・グローバルでのITシステムの最新化により更に事業基盤が強固なものとなり、競争力が向上する可能性。(機会)

〔対応策〕

・社内に専門組織を設置し、グローバルでのITシステムおよび業務プロセスの標準化と最新化を図る「FOCUS」プロジェクトを着実に推進。

・導入前の広範囲に渡る予行演習や、導入後の優先アフターケア期間の設定など、堅固なシステム導入方法に基づき推進することで、ビジネス・システム・人財の準備体制を確保。

・高可用性グローバルクラウドITインフラを導入し、レジリエンスを確保。

・必要な場合には、コンティンジェンシープランを発動し、業務への影響を回避。


サプライ

ネットワーク

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・中長期的に安定した生産体制を確立するため、国内に新工場や、新サプライチェーン拠点を建設し、稼働。

・グローバルサプライチェーンマネジメントの強化。

・「FOCUS」の導入により、グローバルサプライチェーンマネジメントを強化。

・生産と供給における継続的なプロセス改善と最新技術への投資。

・安心・安全とサステナビリティへの注力。

〔不確実性〕

・円安や世界的な物価上昇等の経済的要因に起因する原材料の価格高騰、需要逼迫、サプライヤーの事業撤退や、自然災害、サプライヤーのサイバー被害などにより、供給が遅延し安定的な商品の生産ができなくなる可能性。(脅威)

・国内の工場体制により、日本の高品質のものづくりの強みを活かし、生活者への提供価値を高める可能性。(機会)

〔対応策〕

・化粧品の製造に不可欠な原料などについて、サプライヤーのマルチソース化や緊急時に備えた在庫の確保、サプライヤーとの戦略的な連携による供給体制の強化。

・「資生堂グループサプライヤー行動基準」の遵守状況のモニタリング強化。

・「グローバル・セーフティー・マネジメント・システム」および「サステナビリティ・ロードマップ」の構築と実行。

・「責任ある調達における方針」を策定し、グローバルに展開。


 

 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

コンプライアンス

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・デジタル、ビューティーテック、ウェルネス、またはM&Aにより加わる新たなビジネス等、新しい領域における成長基盤の構築のためのグローバルでの法令遵守体制強化。

〔不確実性〕

・当社の遵守する世界各国の法規制(製品安全、原材料やラベル、労働安全衛生、知的財産、反独占や競争、データ、環境、雇用と労働、税金、製品訴求、コーポレートガバナンス、適時開示などに関する法規制)について、予期せぬ変化があった場合における、事業コストに重大な影響を与える可能性。また、万が一遵守できなかった場合における、会社が民事上の賠償金や刑事上の罰金を科され、会社のレピュテーションに影響が及ぶ可能性。(脅威)

・各国において、個人情報を含むデータ保護関連法令への対応が遅れ、または不適切な対応をしてしまうことにより、法令違反が生じ、罰金支払や当社への信頼低下が発生する可能性。(脅威)

〔対応策〕

・グループCLOが、各地域の法務責任者と連携することで法令や社内規程の遵守体制を強化。お客さまと社員の安全を守る迅速かつ効果的な行動を確実にすべく、発生地域や市場で対応チームを立ち上げ対応。

・データ保護に関する責任者を配置し、グローバルガバナンス体制を再整備・強化。

・全社員に「資生堂倫理行動基準」の遵守を求め、働き方の枠組みと倫理的な企業風土を醸成。また、お客さまデータの取扱いに加え、腐敗防止、反独占、ハラスメント、差別などのコンプライアンス分野についても研修・啓発を実施。

・グローバル本社に「資生堂グローバルホットライン」を設置し、グループの全従業員を対象に通報を直接受け付ける体制を構築。


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

規制対応

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・グローバル本社が中心となり、新しい環境に関する法規制や社会動向について情報収集・リスク分析を実施し、海外を含む関連部門と情報を共有化し、イノベーティブな商品やサービスをスムーズにローンチする体制を強化。

〔不確実性〕

・各国における規制強化に準拠した商品開発を適切に行うことができなければ、当社の技術や化粧品が規制の対象となり、商品の製造・販売の継続が困難になり、事業計画に多大な影響がおよび、また社会や生活者からの信頼を失う可能性。

さらに、当社が強みを持つ技術が規制により制限されてしまうと商品の競争力が低下する可能性。(脅威)

〔対応策〕

・グローバル本社内に各国の薬事等の規制動向のモニタリングや戦略を策定する部門を設置。

・各リージョンの薬事部門と連携し、現地の工業会や外部専門家との協働を通じて、変わりゆく規制に対する対応を強化。

・ISO14001のシステムに基づいて環境法規制などの遵守評価を実施し、法令遵守を徹底。


品質保証

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・安心・安全な商品の提供は、全戦略の基盤となる当社の重要な価値であり、競争優位の源泉であるとの認識のもと、商品の設計から生産、販売まで高レベルで品質保証・管理を徹底。

〔不確実性〕

・全社的に品質保証・管理に対する当社の高い基準の適用が不十分となり、商品のライフサイクル全般にわたり、安全かつ安心な商品を生活者へ提供し続けることができない可能性。(脅威)

・日本の高い品質水準と同等の商品を日本国外でも生産し、世界中で高品質な商品を生活者へ提供することで、特に日本国外でのブランドイメージが高まり、より多くの生活者の支持を得ることができる可能性。(機会)

〔対応策〕

・資生堂グループの「品質方針」、「グローバル品質ポリシー・要求事項」を定めて独自の厳しい品質基準やさまざまな安全性保証の基準を設定し、新製品の設計、開発、原材料の管理、生産、出荷それぞれの段階で、これら基準に適合していることを確認。

・「資生堂品質マネジメントシステム」の運営を通じて目標管理、ガバナンス、リスクアセスメントを強化。

・お客さま相談窓口に寄せられたお客さまからのお申し出に関する情報を集約し、全世界で共有・活用できるシステムの導入。

・お客さま相談窓口や、万が一品質リスクが発生した場合の社内対応体制を整備し、定期的にシミュレーション訓練を実施。

・品質保証部門による品質監査領域を拡大。


ガバナンス体制

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・6つの地域本社とブランドカテゴリーからなるマトリクス型の組織体制を敷き、グローバル本社はグループ全体を統括し、日本、中国、アジアパシフィック、米州、欧州およびトラベルリテールのそれぞれを統括する地域本社に権限の多くを委譲し、責任と権限の現地化を促進。

・当社に最適なコーポレートガバナンスのあり方を考え戦略を策定し、持続的成長と長期的企業価値向上の実現をもたらす体制へと更なる進化を図るべく、指名委員会等設置会社への移行(2024年3月26日株主総会決議)に備え、委員会事務局機能まで統合した部門を2024年1月より新設。

〔不確実性〕

・権限が適切に委譲されず責任が果たせない、または意思決定や業務執行に際し規程の逸脱が生じるなどの事態となれば、適法かつ健全な組織運営が円滑に進捗しなくなり、組織の持続可能性を損なう可能性。(脅威)

・地域本社がそれぞれのビジネスの責任と権限を持ち、地域の生活者のニーズに合ったマーケティングや迅速な意思決定を実行した結果、より多くの生活者の支持を得ることができる可能性。(機会)

〔対応策〕

・当社事業にかかわる意思決定を経営陣が定期的にレビューし、重要なものは取締役会に付議または報告。

・本社機能およびブランドごとのグローバル本社と地域本社間の責任と権限に関する規定を策定し、定期的な報告やグローバルリーダー会議を通じ、グループガバナンスを確保。

・全社的リスク管理体制を含むグローバルでの内部統制を確立することで、ガバナンス体制を強化。


 

 

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

情報セキュリティ

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・生活者ニーズや競争環境の激化に対応するため、情報データの活用やEコマースの強化など、デジタルマーケティングのグローバルでの強化。

・お客さまへの斬新な体験価値やサービスの提供および共創に向け、機微情報を含むよりパーソナルなデータをお客さまの同意を得て取得および利活用の実施。

・場所や時間を問わず生産性高く業務を行う働き方「資生堂ハイブリッドワークスタイル」への移行。

・イノベーションを生み出すために、外部機関やスタートアップ等の外部パートナーとのより一層の連携や共創推進。

〔不確実性〕

・サイバー攻撃によるシステム停止やお客さま情報の漏洩により、生産・販売等の業務の停滞、お客さまやお取引先さまへの損害賠償責任や当社への信頼低下が発生する可能性。(脅威)

・場所や時間を問わない働き方やより一層の外部パートナーとの連携、共創において、重要な情報データへのアクセスポイントが増えていく中、その管理・運用が不十分な場合の情報データ漏洩リスクが高まってしまう可能性。(脅威)

・データ保護に関する社会の感度を把握せず、データ保護に関するお客さま等の懸念や期待に適切に対応できないことにより、当社への信頼低下やビジネス機会を逸失する可能性。(脅威)

・上記脅威に対して適切に対応することで、お客さま等が安心して個人データを当社に預けることができることを通じて、ビジネス目標の達成に貢献する可能性。(機会)

〔対応策〕

ISOやNISTのフレームワークを参考に、以下の対応策を実施。

・情報セキュリティに関する専門部署を中心とするグローバルでの連携体制とガバナンス・統制を強化。当該連携体制で、外部からの攻撃への対応や非常時を想定した定期的な訓練の実施。

・データ保護に関する情報開示・通知を推進。関連する当局とのコミュニケーションを推進。

・内外の環境変化を踏まえた情報セキュリティ/データ保護関連規程の改訂を継続的に実施。

・保有する個人データを特定し、安全管理を推進。社員に対しては、情報セキュリティ啓発を継続的に実施。

・日々高度化・多様化する外部からのサイバー攻撃に対する中長期的視点での対応態勢強化(防御・検知・対応・復旧)。(フィルタリングやPC端末、クラウド利用に関するセキュリティ強化等)

・増大化する重要な情報データと多様化するデータアクセスポイントをより一層しっかりと管理運用するために、外部の専門家も含めグローバルでのセキュリティオペレーションセンター(SOC)の構築と監視強化を実施。


 

 

<その他のリスク>

リスク

戦略実現に向けた主要な取り組み/

その取り組みに影響を与える不確実性(脅威・機会)・対応策

リスクレベルの

変化(昨年比)

為替変動

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・グローバルビューティーカンパニーとして海外売上の比率の上昇。

〔不確実性〕

・輸出入取引等を行うことに伴う外貨建て決済について為替レートが大きく変動する可能性。(脅威・機会)

・海外関係会社の現地通貨建ての報告数値は、連結財務諸表作成時に円換算することから、円高が進むと経営成績にマイナス影響を与える可能性。(脅威)

・当社の海外関係会社への投資は、円高が進行すると為替換算調整勘定を通じて純資産を減少させる可能性。(脅威)

〔対応策〕

・適切な為替予約等を付すことなどにより為替変動に対するリスクヘッジ策を推進。

・主要通貨の変動を監視し、迅速な対応を行う体制を整備。


事業投資

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・収益性の改善、スキンビューティーブランドの強化のため、経営戦略に合致した成長投資を推進。

〔不確実性〕

・投資判断時に想定していなかった水準で市場環境や経営環境が悪化し、将来事業計画の未達によって、M&Aにより計上したのれんや無形資産の減損損失が生じ、当社の業績に影響を及ぼす可能性。(脅威)

〔対応策〕

・定期的な業績モニタリングおよびモニタリング結果の取締役会への報告。

・関係するブランド・地域本社・グローバル本社機能部門と連携し、今後の方向性や業績改善のための対応策を検討。


重要な訴訟等

〔戦略実現に向けた主要な取り組み〕

・デジタル・ビューティーテクノロジー・ビジネス構造改革・M&A・ビューティーウェルネス等の新たなビジネスモデルにより成長基盤の再構築・成長に焦点を当て、リスク軽減を重視しつつ、法令遵守・ガバナンス体制を継続的に強化。

・重大な訴訟のリスク管理・軽減を強化。従業員への研修や、内部通報制度を設置するなど、内部統制・予防措置を強化。

〔不確実性〕

・海外約120ヵ国へ進出し、各国において異なる法制度のもと一定レベルの訴訟・賠償請求・当局調査が提起される可能性。(脅威)

・当連結会計年度において、当社に重大な影響を及ぼす訴訟等は提起されていないが、将来、当社に重大な影響を及ぼす重要な訴訟等が発生し、当社に不利な判断がなされた場合に財政状態および経営成績等に悪影響を及ぼす可能性。(脅威)

〔対応策〕

・効果的な戦略や防御を確実にするべくグローバル本社と各地域本社にCLO直轄の法務チームを設置。また、重大事案の法的戦略・防御について支援を受けるため、外部の専門家や法律事務所ともネットワークを確立。

・当社の事業に影響を及ぼす法的環境や国別法規制の変化に関する研修(腐敗防止、独占禁止、差別禁止など)を社員向けに実施。

・ビジネス上の契約に補償等の救済措置を含む取引条件を明記することで紛争リスクを軽減。

・すべての知的財産をグローバル全体で保護し、侵害申立てから防御。

・すべての重要な商取引について、デューデリジェンスを実施。


 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績

 

売上高

 

(百万円)

コア営業利益

 

(百万円)

営業利益

 

(百万円)

税引前利益

 

(百万円)

 親会社の所有者
に帰属する
当期利益
(百万円)

EBITDA

 

(百万円)

当連結会計年度

973,038

39,842

28,133

31,037

21,749

91,819

前連結会計年度

1,067,355

51,340

46,572

50,428

34,202

102,371

増減率

△8.8

△22.4

△39.6

△38.5

△36.4

△10.3

外貨増減率

△12.2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実質増減率

1.8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(注) 1 コア営業利益は、営業利益から構造改革に伴う費用・減損損失等、非経常的な要因により発生した損益(非経常項目)を除いて算出しています。

2 EBITDAは、コア営業利益に、減価償却費(使用権資産の減価償却費を除く)および償却費を加算しています。

3 売上高における実質増減率は、為替影響、当連結会計年度・前連結会計年度におけるすべての事業譲渡影響および譲渡に係る移行期間中のサービス提供に関わる影響(以下「事業譲渡影響」という。)を除いて計算しています。

 

当連結会計年度は、地政学リスクの高まりや物価上昇等に伴う先行き不透明感が継続した一方で、個人消費は緩やかな回復基調が続きました。

国内化粧品市場は、物価の高騰に伴う節約志向が高まる一方で、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類へ移行したことを受けた経済の回復や外出機会の増加に加え、訪日外国人旅行者数の回復に伴うインバウンド消費の増加により、堅調に回復しました。海外化粧品市場の動向は地域ごとにばらつきが見られました。中国では、前年の上海を中心としたロックダウンの反動影響もあり上期は堅調に成長しましたが、下期には景況感の悪化により厳しい市場環境となりました。また、韓国・中国海南島の免税市場では、規制強化に伴う流通在庫調整等により厳しい環境が継続しました。一方、欧米化粧品市場は全カテゴリーで力強く成長しました。

 

当社グループは、企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、環境問題やダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの実現といった社会課題の解決に向けたイノベーションに積極的に取り組み、2030年のビジョン「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指しています。

2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」において、中長期的な成長を目指すために、「ブランド」、「イノベーション」、「人財」の3つの重点領域への投資を強化しています。そして、昨今の急激な外部環境の変化を受け、持続的な収益性向上と中長期的な企業価値向上の実現をより強力に推進すべく、「グロスプロフィットの拡大」、「抜本的なコスト削減と人的生産性の向上」を目指した経営改革を推進しています。中長期的な市場環境見通しを踏まえたコスト構造の適正化に向け、グローバルでコスト削減を完遂するとともに、適正な地域ポートフォリオへ転換し、不透明で変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できる経営基盤の構築を進めています。同時に、経済環境の変化を適切に捉えたマーケティング投資を実施することで、グローバルブランドを軸とした成長性の拡大につなげていきます。

初年度である当連結会計年度は、中国を中心とした急激な市場環境の変化への対応を進める一方、多くのブランドで革新的な新商品を展開したほか、戦略的マーケティング投資によるブランド価値の強化に取り組みました。

 

①  売上高

売上高は、日本における好調継続の中・高価格帯のけん引やインバウンドの回復、また、米州・欧州・アジアパシフィックにおける好調維持であった一方、中国・トラベルリテールの低調により、前年比8.8%減の9,730億円、現地通貨ベースでは前年比12.2%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは1.8%増となりました。

 


 

ブランド別には、事業譲渡の影響を除いた「実質外貨前年比」の比較において、中国・トラベルリテール減速の影響が多くのブランドにおよぶ中、「NARS」、「Drunk Elephant」およびフレグランスは、米州・欧州における成長、市場拡大、Eコマース売上の伸長などにより、それぞれ前年比14%増、77%増、21%増となりました。

 

②  売上原価

売上原価は、前年比20.6%減の2,597億円となりました。売上高に対する比率は、偏在在庫償却引当金の増加や減損損失、構造改革費用等による原価率上昇はあったものの、生産性向上や物流費高騰の緩和、事業譲渡に伴う製品供給影響の減少などにより前年比4.0ポイント減の26.7%となりました。なお、事業譲渡影響および減損損失影響等を除いた実質の原価率は前年比0.9ポイント減の23.1%となりました。
 

③  販売費及び一般管理費

販売費及び一般管理費は、前年比3.0%減の6,966億円となりました。コア営業利益ベースの内訳は次のとおりです。

(イ) マーケティングコスト(注) 1

マーケティングコストの売上高に対する比率は、事業譲渡や機動的なコストマネジメントにより減少したものの、それ以上にブランドエクイティ向上のための投資費用が増加し、前年比1.8ポイント増の26.7%となりました。

(ロ) ブランド開発費・研究開発費

ブランド開発費・研究開発費の売上高に対する比率は、前年比1.0ポイント減の4.0%となりました。

(ハ) 人件費(注) 2

人件費の売上高に対する比率は、インフレに伴い費用が増加したものの、構造改革等による人件費の適正化を進めた結果、前年比2.0ポイント増の23.4%となりました。

 

(ニ) 経費

経費(その他費用)の売上高に対する比率は、DX関連の投資費用が増加したことに伴い前年比1.6ポイント増の17.1%となりました。

販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費は276億円となり、売上高に対する比率は2.8%となりました。なお、研究開発活動についての詳細は、「6  研究開発活動」に記載しています。

(注) 1 マーケティングコストは、PBP(パーソナルビューティーパートナー)関連諸費用を含めた場合は、売上高に対する比率は36.5%となりました。

2 人件費は、PBP(パーソナルビューティーパートナー)関連諸費用を除いた場合は、売上高に対する比率は13.8%となりました。

 

④ コア営業利益

コア営業利益は、前年に対し115億円減益の398億円となりました。日本事業では売上増に伴う差益増などにより黒字に転換し、中国事業では機動的なコストマネジメントにより減収の中でも増益および黒字化を実現した一方、トラベルリテール事業における流通在庫調整等による減益の影響を受けました。また、「その他」は中国事業およびトラベルリテール事業向けの内部売上高減少に伴う差益減等により減益となった一方、「調整額」は在庫縮減に伴う未実現利益消去額の減少により増益となりました。

 

⑤ 営業利益

営業利益は、前年にプロフェッショナル事業譲渡に伴う譲渡益を計上していた一方、当連結会計年度においてはパーソナルケア製品の生産事業譲渡に伴う減損損失、構造改革費用、事業譲渡損および大阪府内自社2工場の統合に係る減損損失等を計上したことなどから、前年に対し184億円減益の281億円となりました。

 

 税引前利益

税引前利益は、持分法投資損益が前年に対し21億円の増益の37億円となった一方、営業利益が前年に対し184億円減益の281億円となったことや金融費用が前年に対し39億円増加の76億円となったことにより、前年に対し194億円減益の310億円となりました。

 

⑦ 親会社の所有者に帰属する当期利益

親会社の所有者に帰属する当期利益は、前年に対し125億円減益の217億円となりました。コア営業利益の減益に加え、非経常項目においてパーソナルケア製品の生産事業譲渡に係る減損損失、構造改革費用、事業譲渡損および大阪府内自社2工場の統合に係る減損損失等を計上したことなどが影響しました。

 

⑧ EBITDA

 EBITDAは、前年に対し106億円減益の918億円となり、マージンは9.4%となりました

 

当連結会計年度における連結財務諸表項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=140.5円、1ユーロ=152.0円、1中国元=19.8円です。

 

(報告セグメントの業績)

各報告セグメントの業績は次のとおりです。なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分方法に基づいています。

 

売上高(外部顧客への売上高)

 

 

当連結会計年度
(百万円)

構成比

(参考)
前連結会計

年度
(百万円)

構成比

増減
(百万円)

増減率

外貨
増減率

実質

増減率

日本事業

259,900

26.7%

237,565

22.3%

22,334

9.4%

9.4%

10.0%

中国事業

247,921

25.5%

258,226

24.2%

△10,305

△4.0%

△6.4%

△4.6%

アジアパシフィック事業

67,283

6.9%

68,017

6.4%

△734

△1.1%

△6.3%

12.5%

米州事業

110,294

11.4%

137,916

12.9%

△27,621

△20.0%

△25.0%

15.2%

欧州事業

116,949

12.0%

128,440

12.0%

△11,490

△8.9%

△17.3%

18.9%

トラベルリテール事業

132,525

13.6%

163,650

15.3%

△31,124

△19.0%

△24.1%

△19.5%

その他

38,163

3.9%

73,538

6.9%

△35,374

△48.1%

△48.3%

△11.1%

合計

973,038

100.0%

1,067,355

100.0%

△94,317

△8.8%

△12.2%

1.8%

 

 

 

コア営業利益又は損失                               (参考)

 

 

当連結会計年度
(百万円)

売上比

 

(参考)
前連結会計年度
(百万円)

売上比

 

増減
(百万円)

増減率

 

セグメント間の内部売上高

又は振替高を含めた売上高

 

 

当連結会計年度
(百万円)

前連結会計
年度
(百万円)

日本事業

1,840

0.7%

△13,089

△5.4%

14,929

 

264,747

244,271

中国事業

6,967

2.8%

△3,941

△1.5%

10,908

 

251,671

259,870

アジアパシフィック事業

5,069

7.1%

4,716

6.6%

353

7.5%

 

71,569

71,136

米州事業

11,200

9.7%

7,660

5.3%

3,540

46.2%

 

115,853

143,212

欧州事業

3,345

2.7%

6,926

5.0%

△3,581

△51.7%

 

123,727

137,901

トラベルリテール事業

17,111

12.9%

37,678

23.0%

△20,566

△54.6%

 

132,768

163,789

その他

△23,330

△9.4%

7,075

2.3%

△30,406

 

248,375

311,232

22,205

1.8%

47,028

3.5%

△24,822

△52.8%

 

1,208,715

1,331,414

調整額

17,636

4,311

13,324

 

△235,676

△264,059

合計

39,842

4.1%

51,340

4.8%

△11,497

△22.4%

 

973,038

1,067,355

 

 

 (注)1 当連結会計年度より、当社グループ内の業績管理区分の一部見直しに伴い、従来「プロフェッショナル事業」に計上していた業績を「その他」に計上しています。なお、前連結会計年度のセグメント情報については、変更後の区分方法により作成したものを記載しています。

2 当連結会計年度より、グループ内部取引をより適切に管理するため、米州事業の「セグメント間の内部売上高又は振替高」の一部を純額表示から総額表示に変更して集計しています。なお、前連結会計年度のセグメント情報については、変更後の集計方法により作成したものを記載しています。

3 売上高における実質増減率は、為替影響および事業譲渡影響を除いて計算しています。

4 「その他」は、本社機能部門、㈱イプサ、生産事業および飲食業等を含んでいます。また、「その他」に計上しているパーソナルケア製品生産事業に係る売上高は、資生堂久喜工場の譲渡に伴い、2023年4月1日以降、一部を除き発生していません。

5 コア営業利益又は損失における売上比は、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めた売上高に対する比率です。

6 コア営業利益又は損失の調整額は、主にセグメント間の取引消去の金額です。

 

① 日本事業

日本事業では、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類へ移行したことなどを受けた外出機会の増加や市場の回復に合わせ、多くのブランドで革新的な新商品の展開やマーケティング活動を実施しました。「クレ・ド・ポー ボーテ」や「SHISEIDO」では、愛用者数の着実な増加とともに力強い成長を実現したほか、「エリクシール」では、リンクルクリームのリニューアルや、先進の皮膚科学研究に基づいた独自技術を搭載した肌の複数のゆるみ原因にアプローチするクリームの新発売が成長をけん引し、好調に推移しました。また、訪日外国人旅行者数の増加を受けてインバウンド消費も緩やかに回復しました。
 以上のことから、売上高は2,599億円となりました。前年比は9.4%増、事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比10.0%増となりました。コア営業利益は18億円、売上増による差益増や費用効率化などにより、前年に対し149億円改善し、黒字に転換しました。

 

② 中国事業

中国事業では、大型プロモーションを中心とした成長から、より消費者のニーズを捉えたブランド・商品の価値伝達による持続的成長への転換を進めています。上期においては、「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」が全体をけん引し堅調な成長を実現した一方で、下期にはALPS処理水の海洋放出後の日本製品買い控えや景況感悪化の影響を受け前年比マイナス成長に転じました。中国最大のEコマースイベントである「ダブルイレブン」においては、当社売上が市場以上のマイナス成長となるなどEコマース売上は特に大きな影響を受けました。

以上のことから、売上高は2,479億円となりました。前年比は4.0%減、現地通貨ベースでは前年比6.4%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比4.6%減となりました。コア営業利益は70億円、上期における売上増による差益増と、市場環境変化を受けて減収となった下期におけるマーケティング活動の一部見直しや機動的なコストマネジメントなどにより、前年に対し109億円改善し、黒字に転換しました。

 

③ アジアパシフィック事業

アジアパシフィック事業の国・地域では、台湾が成長に転じたほか、韓国や東南アジアでは力強い成長が継続しました。「NARS」や「SHISEIDO」が好調を維持し、全体の成長をけん引しました。

以上のことから、売上高は673億円となりました。前年比は1.1%減、現地通貨ベースでは前年比6.3%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比12.5%増となりました。コア営業利益は51億円、売上増に伴う差益増などにより、前年に対し4億円の増益となりました。

 

④ 米州事業

米州事業では、戦略的マーケティング活動を通じて、市場の継続的な拡大を確実に捉えました。SNSマーケティングが奏功した「Drunk Elephant」が引き続き大きく伸長したほか、「SHISEIDO」や「NARS」も着実に成長しました。

以上のことから、売上高は1,103億円となりました。前年比は20.0%減、現地通貨ベースでは前年比25.0%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比15.2%増となりました。コア営業利益は112億円、売上増に伴う差益増などにより、前年に対し35億円の増益となりました。

 

⑤ 欧州事業

欧州事業では、新商品「all of me」が貢献した「narciso rodriguez」が力強い成長を遂げたほか、デジタルマーケティングの強化や積極的な新商品展開により「NARS」が全体を引き続きけん引しました。また、店舗拡大や積極的なマーケティング活動を進めた「Drunk Elephant」が着実に伸長しました。

以上のことから、売上高は1,169億円となりました。前年比は8.9%減、現地通貨ベースでは前年比17.3%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比18.9%増となりました。コア営業利益は33億円、事業譲渡影響などにより、前年に対し36億円の減益となりました。

 

⑥ トラベルリテール事業

トラベルリテール事業(空港・市中免税店などでの化粧品・フレグランスの販売)では、新型コロナウイルス感染症による影響の緩和に伴う旅行者数の増加により、日本では力強い回復を実現しました。一方、韓国・中国海南島では、規制強化や旅行者を中心としたビジネスモデルへの回帰の流れを受けた流通在庫調整の影響を大きく受け、売上高は前年を下回りました。

以上のことから、売上高は1,325億円となりました。前年比は19.0%減、現地通貨ベースでは前年比24.1%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前年比19.5%減となりました。コア営業利益は171億円、売上減に伴う差益減などにより、前年に対し206億円の減益となりました。

 

 

(生産、受注および販売の実績)

生産、受注および販売の実績は次のとおりです。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、増減率は変更後の区分方法に基づいています。

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりです。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

増減率(%)

日本事業

中国事業

4,896

△0.3

アジアパシフィック事業

2,791

20.8

米州事業

43,402

△24.3

欧州事業

32,252

△5.8

トラベルリテール事業

その他

143,243

△15.2

合計

226,587

△15.3

 

(注) 1 セグメント間取引については相殺消去しています。

    2 金額は製造原価によっています。

 

② 受注状況

当社グループ製品については受注生産を行っていません。また、OEM(相手先ブランドによる生産)等による受注生産を一部実施しているものの金額は僅少です。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりです。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

増減率(%)

日本事業

259,900

9.4

中国事業

247,921

△4.0

アジアパシフィック事業

67,283

△1.1

米州事業

110,294

△20.0

欧州事業

116,949

△8.9

トラベルリテール事業

132,525

△19.0

その他

38,163

△48.1

合計

973,038

△8.8

 

(注) セグメント間取引については相殺消去しています

 

(2) 財政状態

①  資金調達と流動性マネジメント

当社グループは、事業活動のための適切な資金確保、流動性の維持、ならびに健全な財政状態を常に目指し、安定的な営業キャッシュ・フローの創出、幅広い資金調達手段の確保に努めています。成長を維持するために将来必要な運転資金および設備投資・投融資資金は、主に手元のキャッシュと営業活動からのキャッシュ・フローに加え、借入や社債発行により調達しています。資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、ネットデット・エクイティ・レシオ0.2倍、ネットデット・EBITDA・レシオ0.5倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。

手元流動性については、連結売上高の1.5ヶ月程度を一つの目安としています。当連結会計年度末の現金及び預金の総額は1,244億円となり、手元流動性は連結売上高(2023年1月1日から2023年12月31日までの期間)の1.5ヶ月分となりました。

一方、当連結会計年度末現在の有利子負債残高は2,835億円となっています。金融機関と締結しているコミットメントライン契約の未使用額1,000億円、国内普通社債の発行登録枠の未使用枠2,800億円を有し、資金調達手段は分散化されています。

当連結会計年度末現在において、当社グループの流動性は十分な水準にあり、資金調達手段は分散されていることから、財務の柔軟性は高いと考えています。

 

②  格付け

当社グループは、流動性および資本政策に対する財務の柔軟性を確保し、資本市場を通じた十分な資金リソースへのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持が必要であると考えています。当社グループは、社債による資金調達を行うため、ムーディーズ・ジャパン株式会社より格付けを取得しています。

2024年2月29日現在の発行体格付けはA3(見通し:安定的)となっています。

 

③  資産および負債・資本
(資産)

総資産は、円安により資産の換算額が増加、また、棚卸資産および無形資産が増加した一方、配当金の支払いなどによる現金及び現金同等物の減少、営業債権及びその他の債権の減少、売却目的で保有する資産の減少、有形固定資産の減少などにより、前連結会計年度末に比べ522億円減の1兆2,555億円となりました。

(負債)

負債は、営業債務及びその他の債務の減少などにより、668億円減の6,151億円となりました。

(資本)

資本は、配当金支払いにより利益剰余金が減少した一方、円安により在外営業活動体の換算差額が増加したことなどから、146億円増の6,404億円となりました。

1株当たり親会社所有者帰属持分は、前連結会計年度末に対し35.84円増の1,548.20円となり、親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末比3.1ポイント増の49.3%となりました。また、親会社の所有者に帰属する持分に対する現金及び預金の総額を除いた有利子負債(リース負債除く)の割合を示すネットデット・エクイティ・レシオは0.06倍となりました。

 

 

 (3) キャッシュ・フローの状況

(単位:百万円) 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

46,735

89,026

投資活動によるキャッシュ・フロー

△41,308

△35,536

財務活動によるキャッシュ・フロー

△52,418

△75,642

現金及び現金同等物の期末残高

119,036

104,685

 

 

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ144億円減少し、1,047億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前利益(310億円)に減価償却費及び償却費(755億円)などの非資金費用があった一方、固定資産処分益(114億円)などにより、前連結会計年度末に比べ423億円増加の890億円の収入となりました。在庫回転日数(DSI)は、197日となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の売却による収入(148億円)および関連会社株式の売却による収入(85億円)があった一方、ITシステムへの投資等の無形資産の取得による支出(290億円)や、工場設備への投資等である有形固定資産の取得による支出(267億円)により、前連結会計年度末に比べ58億円支出は減少し、355億円の支出となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の増加(199億円)があった一方、配当金の支払額(419億円)、リース負債の返済による支出(264億円)、長期借入金の返済による支出(159億円)、社債の償還による支出(100億円)などにより、前連結会計年度末に比べ232億円支出は増加し、756億円の支出となりました。

 


 

 

(4) 重要性がある会計方針および見積り

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しています。その作成には経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債および収益・費用の報告金額ならびに開示に影響を与える見積りを必要としています。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「2.作成の基礎 (4)会計方針の変更」、「3.重要性がある会計方針」および「4.重要な会計上の見積りおよび判断」に記載しています。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(プレステージスキンケアブランド取得の契約の締結)

当社は、2023年12月22日、連結子会社の資生堂アメリカズCorp.(以下「資生堂アメリカ」という。)を通じて、皮膚科学をベースとしたプレステージスキンケアブランド「Dr. Dennis Gross Skincare」を所有するDDG Skincare Holdings LLC(以下「買収対象企業」という。)を買収することにつき、資生堂アメリカ、買収対象企業および同社株主との間で合意し、持分売買契約を締結しました。2024年2月5日、本契約に基づき買収対象企業の株式取得の手続きを完了しました。詳細につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「40.後発事象」に記載しています。

 

 

6 【研究開発活動】

 当社グループは、強みである皮膚科学技術や処方開発技術、感性科学、情報科学に加えて、デジタル技術や機器開発技術などの新しい科学技術を国や業界を超えて融合し、資生堂の企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現に取り組みます。

 資生堂グローバルイノベーションセンター(呼称「S/PARK エスパーク」)をはじめ、米国、フランス、中国、シンガポールの各海外研究開発拠点においては、現地のマーケティング部門と連携しながら、各地域のお客さまの肌や化粧習慣の研究、その特性にあった製品開発に取り組んでおり、世界中のお客さまに対して安全・安心、高品質な商品・サービスの創出に向け、資生堂グループ全体の成長に貢献するとともに世界の化粧品業界をリードします。

 当社グループが生み出した研究開発成果は外部より高い評価を受けています。化粧品技術を競う世界最大の研究発表会である第33回国際化粧品技術者会連盟バルセロナ大会2023において、口頭発表基礎部門と口頭発表応用部門でいずれも「最優秀賞」を受賞し、口頭発表基礎部門では資生堂 ヨーロッパイノベーションセンターが当社海外イノベーションセンターとして初めて受賞しました。そして、中国香料香精化粧品工業協会が主催する第14回中国化粧品学術研討会において、優秀論文として最も優秀な研究に贈られる「1等賞」を受賞しました。さらに、公益社団法人 日本包装技術協会が開催する2023日本パッケージコンテスト(第45回)において、2作品が本コンテストの最高賞であるジャパンスター賞を受賞しました。

 社外に向けた研究開発成果の発信にも力を入れています。「知と体験の融合」をコンセプトとしたイノベーションカンファレンスを実施し、当社グループの研究開発戦略とともに、最新の研究開発成果を社会に向けて発信しました。また、戦略実現を加速するアプローチとして、外部企業・研究機関等との連携および海外研究開発拠点でのイノベーション創出を積極的に進めることを示しました。

 当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は276億円(売上高比2.8%)であり、商品カテゴリー別の研究成果は、以下のとおりです。なお、研究開発活動については、特定のセグメントに関連付けられないため、セグメント別の記載は行っていません。

 

(1) スキンケア

 加齢と共に、顔の肌が垂れ下がる現象、即ち「たるみ」が進行し、見た目の年齢を決める大きな要因となります。実際、たるみは美容に関する悩みの上位に挙げられますが、長年たるみ改善は美容医療以外の方法では難しいとされていました。そこで当社は、この研究領域にパイオニアとして取り組み、肌の複数の機能が衰え重力に抗えなくなることで、たるみが引き起こされることを明らかにしてきました。この一連の研究成果をまとめ、肌にハリをもたらす要素に全方位でアプローチする独自技術「トータルVテクノロジー」を開発しました。本研究成果を「エリクシール」および「SHISEIDO」の商品開発に応用しました。

 レチノールは、皮ふや粘膜などを正常に保つ上で必須の脂溶性ビタミンです。塗布することによって、高い肌改善効果を発揮することが認められていますが、酸素・熱・光などによって容易に分解されてしまう、取り扱いが難しい成分です。当社は長年の研究で培った処方技術を応用し、また、独自の製造方法を用いて、純粋レチノールを分解させることなく安定的に配合することに成功しました。更に純粋レチノール製剤のために特別に開発した、酸素と光を通さない独自の容器を採用し、処方技術、製造技術、容器技術から成る独自技術「Shiseido Retinol TripleLock Technology」を開発しました。純粋レチノールを守り抜き、その効果を肌に確実に届けることを実現可能としました。本研究成果を「エリクシール」の商品開発に応用しました。

 肌を健やかで美しく保つためには、肌本来の力を引き出し、肌の生命力を高める恒常性(ホメオスタシス)を維持することが重要です。この肌の恒常性を維持するための一つとして、肌の免疫を司るランゲルハンス細胞が重要な役割を担っていると考えています。肌への刺激や肌内部に侵入した異物、さらに肌内部で発生した肌トラブルを引き起こす因子から肌を守り、過酷な環境においても健やかな肌を守る「肌の免疫機能」に着目した研究を進めてきました。当社は、抗酸化・抗炎症効果を有するホルモン「メラトニン」の肌での合成が夜間に高まること、そして、「エクトイン」が、肌におけるメラトニン合成酵素遺伝子の発現を促進し、肌の免疫機能強化へと導く可能性があることを発見し、独自技術「イミュ―リズム」を開発しました。本研究成果は「SHISEIDO」の商品開発に応用しました。

 

 

(2) メイクアップ 

 これまで独自のオイルコントロール技術を活用して、つや、透明感のある仕上がりと色持ち、二次付着レス効果を両立する口紅の開発を行ってきました。更なる色持ち、二次付着レス効果を備えた口紅の実現に向けて、従来技術では、色材を保持している油分がマスクなどのこすれによって取れる際に色材まで一緒に取れてしまうという点に着目し、塗膜の流動性を維持しながら、さらに高いレベルでの色持ち、二次付着レス効果の向上を目指し新たなアプローチを探索しました。当社は、色材がループ状にネットワークを構成することで、色材一つ一つが離れにくく、唇に密着して高い色持ち効果を発揮することに加えて、色材を密着性の高い油や被膜剤で維持していたこれまでの口紅とは異なり、塗膜を固化しないため、なめらかで軽い付け心地と高い色持ち効果を両立した口紅製剤を実現することに成功し、唇に塗布すると色材を集め、唇上で蒸発する水を感知して色材がネットワークを形成する独自技術「ウォーターセンシングテクノロジーTM」を開発しました。本研究成果は「マキアージュ」の商品開発に応用しました。

 また、当社が強みとするスキンケアの知見をメイクアップ製品に応用することによって新たな価値を作る取り組みも加速しています。スキンケアエッセンスが肌に届き、うるおいを与えながら、つややかなメイク仕上がりを実現する美容液とファンデーションを融合したスキンケアファンデーションの開発に成功しました。国内外で特許出願済みの乳化技術を搭載しており、美しい素肌のようで、決して素肌ではかなわない仕上がりを自由自在に実現することを可能としました。本研究成果は「SHISEIDO」の商品開発に応用しました。

 

(3) インナービューティー

 近年、地球環境や社会課題の変化の中、「心身的豊かさ」を求める人が増えており、身体の内側から美しくなろうとするインナービューティーへの意識の高まりとともに、ビューティーとウェルネスの融合が進んでいます。当社は肌・身体・こころの関係性に早くから着目し、サプリメントや食品をはじめとするインナービューティー領域の研究に積極的に取り組んできました。これまで、和漢成分が心身の不調を整えるために有用であることは知られていますが、それによる肌への影響や作用メカニズムについては詳しくわかっていませんでした。そこで、創業130年の歴史を持ち漢方薬のトップメーカーであるツムラと共同研究を行い、当社の肌・身体・こころの研究知見と融合することで、肌不調を引き起こす心身の根本原因を5つ導き出し、それらを改善することが期待できる和漢成分の組み合わせを見出し、肌改善効果を有することを明らかにしました。さらにコラーゲン産生促進効果が確認されている当社独自配合の果実由来成分(リンゴンベリー果汁とアムラ果実)と組み合わせることで、さらなる肌改善効果が得られることを確認しました。また、当社が保有する肌・身体・こころの関係性をカゴメの野菜・果実と健康に関する知見と融合し、身体が本来持つ体内時計と美しさの関係に着目した共同研究を推進しました。これらの協業成果は、2024年に本格稼働するインナービューティーブランド「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS (シセイドウ ビューティー ウエルネス)」の商品開発に応用されました。

 一人ひとりの「今」の肌の状態は、紫外線対策などを含むスキンケアや、食事、運動、睡眠、喫煙などの生活習慣の影響と共に「個々が生まれ持つ肌特性」が関わっていると考えられます。これまでも今の肌状態について顔画像を用いた評価技術を多数開発し、自宅でのセルフチェックアプリや店頭機器などに応用してきました。さらに個々が生まれ持つ肌特性を知ることにより、肌悩みに対し事前に対処することができるのではないかと考え、その人本来の特性を高く示している鼻骨格に着目しました。40~59歳のアジア人女性424名から取得した顔画像や人の目による主観評価をもとに数値化し、解析を行い、鼻骨格としわやたるみといった肌状態や、毛細血管など肌の内部組織といった肌内部の特性に関連があることを発見しました。この成果を応用し、顔の画像を分析することで、将来的に表れやすいしわやたるみなどの肌悩みと肌内部の状態を予測できるツールの開発に成功しました。本研究成果も上述のインナービューティーブランド「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS (シセイドウ ビューティー ウエルネス)」の測定ツールとして応用しました。

 

 

(4) サステナビリティ

 社名の由来でもある「万物資生」の考えに基づき、環境負荷を軽減し、使い捨てではなくサーキュラーエコノミーを実現できる技術やビジネスモデルの構築を目指して取り組んでいます。当社は、プラスチック製容器を収集し、プラスチック製容器へ再生する循環型プロジェクト「BeauRing(ビューリング)」の実証試験を開始しました。将来的には収集から再生までの一連のスキームのプラットフォーム化を目指します。このプロジェクトは、当社以外の企業の参画を呼び掛けることで、資源循環の輪が広がり、お客さまがより前向きに化粧品を使うことができるサステナブルな社会に貢献していくことをめざしており、当社同様プレステージビューティー事業に注力している株式会社ポーラ・オルビスホールディングスがPOLAブランドから参画を決定しています。

 また、人々の肌とともに、自然環境を美しく維持する、人にも地球にも優しい化粧品開発に取り組んでいます。「人と自然が共生する世界をつくる」をビジョンに掲げ、従来の実海域からのアプローチではなく、任意の海洋環境をモデル化し、ラボレベルでの環境解析を可能にする「環境移送技術(注)1」を有するスタートアップ企業、株式会社イノカ(本社:東京都港区、代表者:高倉葉太)と、連携協定を締結しました。化粧品成分が海洋生態系に対して与える影響を評価するための本連携では、海洋生物に甚大な影響をもたらすことが予測される「海水温の上昇」をはじめ、想定される未来の環境変化のシナリオをラボ内の水槽に再現することにより、日焼け止めで使用している成分など、化粧品の様々な成分が、サンゴ礁さらにはその他生物を含めた海洋環境全体に与える影響を評価します。刻々と変化し続ける未来の海洋環境を見据え、次代においても人にも地球にも優しい商品開発につなげていくとともに、グローバルな環境評価手法の開発にも着手し、多くの企業での活用を目指しています。

 

以下、その他の活動について記載します。

 アカデミックとの連携による新たな価値創造にも引き続き注力をしています。設立された1989年から表皮基底膜に関する共同研究を実施しているマサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(CBRC)との共同研究により、表皮幹細胞の老化を抑制するRNA2結合タンパク質YBX1がリン酸化により機能低下し、細胞老化を引き起こすことを明らかにしました。さらに、YBX1のリン酸化を抑制することで表皮幹細胞が増加することを明らかにし、表皮幹細胞の量を維持するためには、表皮幹細胞の「質」も重要であることを示しました。本研究成果を応用し、表皮幹細胞の老化抑制を介したさまざまな肌のエイジング悩みへのアプローチを目指します。

 また、従来の化粧品にとどまらないビューティーイノベーションに挑戦し、一人一人の本来の美しさを引き出すことを目指した研究も加速しています。

 老化線維芽細胞は、真皮におけるシミの原因の一つとして知られていますが、これまでは美容医療でのアプローチが主であり、一般的に、肌に負担を与えずに真皮環境を十分に改善することは難しいとされてきました。長年にわたり多くのお客さまが有する肌悩みであるシミの改善に向けて研究に取り組む中で、家庭用美容機器へも応用が可能な物理エネルギー刺激の一つである高周波電気刺激(RF(注)2)が真皮まで作用することに着目してきました。そこで、独自に設定したRFをベースとする特殊複合エネルギー(特殊RF)の照射と、オタネニンジン根抽出液を組み合わせることで、メラニン生成を抑制することに成功しました。シミの原因の一つとして知られる老化線維芽細胞の出現を抑制し、更に、正常な線維芽細胞の増殖を促すことで、これらの細胞のバランスを整え、真皮のシミ肌環境を改善します。美容医療よりも優しい力で作用する物理エネルギー刺激(RF含む)において、真皮線維芽細胞を介したシミ改善のアプローチは、これが初めてです。

 さらに、上述のインナービューティーでも活用事例を挙げた肌・身体・心の関係性解明の深化も推進しています。個人の健康度をさまざまな指標から可視化する「健康関数®」開発などの研究実績をもつ国立研究開発法人理化学研究所との共同研究で、肌の状態に関係する身体や心の状態を網羅的かつ定量的に明らかにし、革新的な肌予測モデルを開発することに成功しました。さらに、弘前COI-NEXT参画による広範なデータの取得とDeNAライフサイエンス社との協業によるデータサイエンスをそれぞれ継続的に推進することによって、将来的には2,000以上の肌・身体・心の関係性を含むアルゴリズムへと進化させていきます。これにより、生活者一人ひとりの「なりたい肌」「ありたい姿」を実現するために、化粧品によるケアに加えて、身体や心の状態に着目した生活習慣の提案など、肌・身体・心が調和した状態へ導く新たなアプローチの開発を加速させることを目指します。

 

(注) 1 環境移送技術:天然海水を使わず、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたる要素を考慮しながら、自社で開発したIoTデバイスを用いて、任意の生態系を水槽内に再現するイノカ独自の技術です。

    2 RF:radio frequency ラジオ波