第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

クラレグループは、企業ステートメントの使命「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」のもと、創立100周年となる2026年度に向けた長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』で掲げる「独自の技術に新たな要素を取り込み、顧客、社会、地球に貢献し、持続的に成長するスペシャリティ化学企業」を目指しています

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2023年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

当社グループは、この長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』の実現に向けて、2022年度から始まった5か年の中期経営計画「PASSION 2026」で以下3つの挑戦を設定しています。

① 機会としてのサステナビリティ

サステナビリティを機会としてとらえ、グループ一丸となって推進します

② ネットワーキングから始めるイノベーション

社外・社内を問わず、人と人、技術と技術をつなげることで、新たな成長のドライバーを生み出します

③ 人と組織のトランスフォーメーション

デジタルでプロセスを変え、多様性で発想の幅を広げ、人と組織に変革をもたらします

中期経営計画「PASSION 2026」の3年目となる2024年度は、イソプレン タイ拠点に加えて、新たに立ち上がる米国での活性炭製造設備、光学用ポバールフィルム生産設備、水溶性ポバールフィルム ポーランド新工場などを早期に安定稼働させるとともに、事業ポートフォリオの高度化への議論をより深く行っていきます。当社グループは創立100周年となる2026年度に向け、持続的に成長するスペシャリティ化学企業として今後も挑戦し続けます。
 

安全対策の見直し・強化

2018年5月に米国子会社で外部委託業者の作業員に負傷を伴う火災事故が発生し、損害賠償を求める民事訴訟が提起されていましたが、係争中であったすべての原告との間で2023年4月に和解が成立し、本件訴訟は解決しました。本件事故においては、多くの外注作業員が被災し、本件訴訟の解決までにおよそ5年間の月日と約800億円の和解金を要しました。当社は本件訴訟の解決を受け、社外役員(独立役員)を中心とする事故検証委員会を設置し検証を行い、その内容を取り纏めた「米国エバール工場火災事故検証結果について」を2023年12月に公表しています。この検証結果を踏まえ、同種の事故を繰り返さないように再発防止策を着実に実行していくとともに、本件事故の検証結果を当社グループ内に水平展開することで、当社グループ全体の安全管理体制・リスク管理体制の更なる強化を目指していきます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1) サステナビリティに関する考え方及び取組

当社グループは創業当時から、事業活動を通じ自然環境・生活環境の向上を目指すことで社会のサステナブルな発展に貢献する経営を行ってきました。サステナビリティを重要な経営戦略の一つと捉え、当社と社会が持続的に発展するための優先すべき重要課題(マテリアリティ)を経営レベルで選定し、課題の解決に全社的に取り組んでいます。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

① ガバナンス

当社グループは、2022年1月にCSR委員会に変えて、「サステナビリティ委員会」を設置しました。サステナビリティ委員会は、社長を委員長とする委員会で、サステナビリティ案件に対して、経営レベルで迅速に判断し、タイムリーに対策を立案・実行し、当社グループのサステナビリティ推進を強化しています。またサステナビリティ委員会は、一連の活動を取締役会に報告し、その指示をサステナビリティ推進に反映しています。

 


 

サステナビリティ委員会の傘下には6つのプロジェクトチーム(地球環境・GHG排出削減対策、TCFD推進、サステナビリティ・ポートフォリオ、サステナビリティ・プロキュアメント(調達)、ダイバーシティ・インクルージョン、新規戦略提案)に加え、コーポレートテーマとして取り組んでいるCCUS(Carbon Dioxide Capture, Utilization and Storage)プロジェクトチームを配置し、その進捗状況及び課題を確認・評価して着実な実行に繋げています。新規戦略提案チームは、組織横断的、かつグローバルなメンバーで構成し、サステナビリティに関するグローバルトレンドを分析し、クラレグループに必要な戦略を提案します。プロジェクトチームは固定ではなく、施策の進捗状況等に鑑み柔軟に編制を変えていきます。また、レスポンシブル・ケアに関するPDCAの進捗も本委員会で確認しています。

2023年度に4回のサステナビリティ委員会を開催し、各プロジェクトチームの活動進捗の報告及び施策の審議を実施しました。主な例として、GXリーグへの参画、GHG排出量削減具体策の検討、気候変動シナリオ分析の拡充、クラレPSA(ポートフォリオ・サステナビリティ・アセスメント)システムを活用した自然環境・生活環境貢献製品の拡大推進、サステナブルな調達を実現するためのサプライヤーアンケート調査結果、ダイバーシティとインクルージョンの国内外施策の進捗、欧州サステナビリティ規制動向に関する当社影響と対応、などがあげられます。

 

② リスク管理

クラレグループは、重大な経営リスクの適切な管理、法令順守・企業倫理の徹底、公正な企業活動の実践を目的に、社長直轄のリスク・コンプライアンス委員会を設置しています。グループリスク管理規定に基づき、国内外の各組織においてリスクの自己評価を実施し、リスク・コンプライアンス委員会での審議を経て、社長が重大な経営リスクを特定、リスク毎に統括責任者を選定し、リスクの回避・軽減のための対策を進め、取締役会は対策の進捗を確認しています。

サステナビリティに関連するリスクを含む具体的なリスクに関する認識と管理体制は「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

 

③ 戦略

クラレグループは自社に関わる重要課題をマテリアリティとして特定しています。2019年に「自然環境の向上」「生活環境の向上」「資源の有効利用と環境負荷の削減」「サプライチェーン・マネジメントの向上」「「誇りを持てる会社」づくり」の5分野に見直しました。クラレグループの各組織はマテリアリティの解決に貢献する計画を立案し、それらは中期経営計画「PASSION 2026」の施策と目標に盛り込まれています。

また、以下の手順に従いクラレグループが優先的に取り組むべきマテリアリティを特定しました。今後、国際社会の動向、事業環境の変化などに応じて定期的にマテリアリティの見直しを実施します。

 


 

 

④ 指標及び目標

中期経営計画「PASSION 2026」で立案したサステナビリティ関連の施策を「サステナビリティ中期計画」としてまとめました。

 

[サステナビリティ中期計画における重点施策]


 

 

(2) 気候変動への取り組み

クラレグループは、気候変動への対応を最も優先的に取り組むべき重要課題の一つとして捉え、2020年11月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同しました。また2022年度を起点とするサステナビリティ中期計画では、気候変動の緩和策として、温室効果ガス(GHG)の排出量削減と省エネルギーの促進、自然環境の向上に貢献する製品の拡大、サーキュラーエコノミーへの対応などを施策として掲げました。これらの施策を着実に実行すると共に、TCFDが推奨するガバナンス、シナリオ分析に基づく戦略、リスク管理、指標と目標に基づく開示も段階的に充実していきます。

 

   ① 戦略

クラレグループは2021年度に、低炭素社会への移行において生じる事象、及び気候変動により発生する物理的な事象に対するリスクと機会を下表1のとおり選定しました。

 

表1 クラレグループの気候変動によるリスクと機会


2022年度には、国際エネルギー機関(International Energy Agency; IEA)が発行しているWorld Energy Outlook等から、低炭素社会への移行が進む2℃以下シナリオ(含.1.5℃シナリオ)及び気候変動が進む4℃シナリオに基づくシナリオ分析を開始し、2023年度にクラレグループ全体の主要なリスク及び機会の事業インパクト評価を完了しました。結果は下表2のとおりです。

 

 

表2 気候変動シナリオにおけるクラレグループの主要なリスクと機会の事業インパクト


 

2℃以下シナリオにおけるGHG排出及びエネルギー調達に対する炭素価格(注)の影響は大きく、2030年のGHG排出削減対策実施後にクラレグループで約320億円の炭素税賦課額が見込まれ、操業コストが増加する可能性が示されました。この対策として、2050年カーボンネットゼロに向けたGHG排出削減計画を着実に進めると同時に、環境貢献の高い製品が創出する市場価値を製品・サービス価格に反映していきます。

(注)World Energy Outlook 2022より先進国140ドル/トン-CO2、新興国25ドル/トン-CO2[2030年、1.5℃シナリオ]にて計算

今後はシナリオ分析の結果から導き出された主要なインパクトへの対応を進めていくと同時に、環境変化に応じて適時に算定内容を見直し反映していきます。

 

② 指標及び目標

気候変動緩和の長期目標として、2030年にクラレグループでのGHG排出量(Scope1と2)を2019年度比30%削減、2050年にカーボンネットゼロを掲げました。また、サステナビリティ中期計画では気候変動に関わるGHG排出量削減及び自然環境貢献製品の売上高向上目標を下表3のとおり設定しています。

 

   表3 サステナビリティ中期計画の気候変動に関わる施策と目標


 

 

(3) 人的資本、ダイバーシティとインクルージョンの推進に向けた取り組み

   ① 戦略

 (人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針)

当社グループは、様々な国籍・背景を持つ人材でなりたち、長期的・持続的な企業価値の向上のためには、それら多様な人材が活躍することが重要です。これを実現するため、グループ共通の人事方針として「クラレグループグローバル人事ポリシー」を制定し、さらに人材の多様性にフォーカスした「クラレグループダイバーシティとインクルージョンに関する基本原則」を定めています。これらの方針に基づき、多様性推進のための人材育成や職場環境の整備に取り組んでいます。

 

  ダイバーシティとインクルージョン

クラレグループでは、ダイバーシティとインクルージョンの目的地を「多様な社員一人一人が生き生きと働き、失敗を恐れずに挑戦することで変化に対応しながらイノベーションを次々生み出し、成長を続けている会社」と定めました。

この実現のために、中期経営計画「PASSION 2026」の期間中は、グループで一貫した人事基盤・人材データを整備した上で、長期視点に基づく人材育成と多様性を促進する人事施策を実施します。個人が能力を発揮でき、かつ、事業の成長を生み出すグローバルな適材適所の配置・登用を進め、各人が多様性を尊重し失敗を恐れずチャレンジする組織風土を醸成します。

国内では、中核人材における多様性推進を目指します。中核人材を管理職(生産事業所を除く)と定義し、管理職における女性・外国人・中途採用者の登用を進め、2021年9月時点で12%の割合を、2030年度までに25%以上にすることを目標とします。

さらに、全社にダイバーシティとインクルージョンを浸透させるため、2024年度からは階層別にその職務内容に合った研修を行います。

 


 

  人材育成

クラレグループでは、一人一人の価値観やキャリアを尊重し、社員・会社がともに成長するために必要なスキル・能力を開発する機会を提供します。クラレの「理念」を再確認し、「価値観」を共有する機会を充実させるとともに、多様な人材がグローバルに活躍できるよう、「英語力向上支援策」や「短期駐在員派遣制度」と並行して、「グローバル人材育成プログラム」を体系的に拡充していきます。また長期視点での「経営幹部候補育成」で事業部長・本部長相当ポジションを担える人材を計画的に育成し、人材プールを構築することで事業運営を強固にします。

加えて、2023年度からは新たに「DX人材育成プログラム」を始動し、Gold, Silver, Bronze の3段階のデジタルリテラシーレベルに応じたクラスの受講目標を設定しています。全社員がBronze classを受講すると共に、各部署で少なくとも1人、Gold class人材(DXを企画・推進できる人材)の育成を目指します。

 


 


 

 

   ② 指標及び目標

  ・サステナビリティ中期計画における指標と目標及び実績

指標

目標

2023年度実績

中核人材の多様性確保(注)1

     25%(2030年度)

     16%(注)2

人材育成に関する指標(注)3
a) グローバル人材育成

部長層のグローバルリーダー研修受講率(注)4

     60%(2030年度)

     40%

b) 経営幹部候補育成

事業部長・本部長相当ポジションの候補者準備率(注)5

    200%(2030年度)

     90%

c) DX人材育成

各クラスのべ受講者数(目標に対する達成率)

 Gold class

 Silver class

 Bronze class

 

 

 

    180名(2026年度)

   1,200名(2026年度)

   5,700名(2026年度)

 

 

 

     44名(24%)

    163名(14%)

   5,114名(90%)

 

 (注)1.「中核人材=管理職」と定義します。管理職の対象は、当社原籍者(生産事業所を除く)に海外関連会社原籍者で当社日本拠点に勤務するものを加えることにより、外国人管理職のインクルージョンの進捗状況を反映させます。また、多様性の要素として「女性・外国人・中途採用者」を一つのカテゴリーとして捉え、管理職における同カテゴリーの合計人数が占める割合を目標として設定します。

2.内数:女性比率7.0%、外国人比率2.2%、中途採用者比率10.6%(各比率間で重複あり)

3.a)及びb)は海外拠点社員を含み、c)は国内グループ会社社員を含んでいます。

4.グローバルで部長層ポジション数を300として算出しています。

5. 事業部長・本部長相当ポジション数に対する経営幹部候補育成プログラムの修了者数とします。

 

  ・人的資本に関する指標と目標及び実績

指標

目標

2023年度実績

新卒採用に占める女性の割合

a) 総合職

b) 一般職

 

  35%以上/年(2026年度まで)

  10%以上/年(2026年度まで)

 

      34%

      23%

男性の育児休業取得に関する指標

a) 育児休業取得率(注)1

b)  14日以上取得者の割合(注)2

 

   100%(2026年度)

    90%(2026年度)

 

      83%

      49%

 

(注)1.「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。

2. 男性の育児休業取得者のうち当該年度の育児休業取得日数合計が14日以上のものの割合とします。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループは、重大な経営リスクの適切な管理、法令遵守・企業倫理の徹底、公正な企業活動の実践を目的に、社長直轄のリスク・コンプライアンス委員会を設置しています。グループリスク管理規定に基づき、国内外の各組織においてリスクの自己評価を実施し、リスク・コンプライアンス委員会での審議を経て、社長が重大な経営リスクを特定、リスク毎に統括責任者を選定し、リスクの回避・軽減のための対策を進め、取締役会は対策の進捗を確認しています。

 

<リスク管理体制概要図>

 


 

上記に基づき、当社グループにおけるリスク分析結果及び近年の社会環境・情勢を踏まえ、以下を2023年度の「重点課題」とし、それぞれ対策を実施しました。

 

(課題1)グループ全体での情報セキュリティ強化策の着実な実施により、機密情報管理の更なる強化を図る。

(対策) 2023年1月から安全性の高いデータ保存システムのグローバルでの導入によるITセキュリティの強化を進めるとともに、2023年9月には機密情報ポータルサイトを開設し「クラレグループ機密情報管理ポリシー」をはじめとした機密情報取扱いに関する社内規定や教育関連情報等の周知・共有を進めました。

 

(課題2)保安事故の発生リスク低減のため、海外プラントにおける運転・設備管理に対する強化策を引き続き実施するとともに、グローバルPSM(プロセス・セーフティ・マネジメント)監査チームの活動等を通じて海外関係会社の保安管理体制の課題を把握し、改善を図る。

(対策) 2019年から開始した海外化学プラントに対する国内メンバーによるこれまでの安全監査等に加えて、2022年からはグローバルな社内専門家で編成したPSM監査チームの活動を立ち上げ、海外保安リスクの把握と対策を推進しています。2023年は、欧米主要生産子会社の環境安全部門の管理状況の確認と課題抽出と提言を行うとともに、2024年に実施予定のPSM監査チームによる現地監査の準備を進めました。

 

(課題3)原燃料・副資材・機材の供給リスクに対し、サプライチェーン視点で汎用品を含む全てを再点検し、各事業のBCP(事業継続計画)上優先度の高いものからリスク対策を講じることにより、BCPの精度・実効性をさらに高める。

(対策) 2022年度に引き続き、各事業の優先生産銘柄及び原料等供給停止リスクの分析結果を踏まえ、優先度の高い原料等から順次リスク低減策の策定・実施を進めました。

 

上記の重点課題を含め、有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があると認識している主要なリスクには、以下のような項目があります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2023年12月31日)現在において当社グループが判断したものです。当社グループは、これら事業運営全体に関わるリスクに対して日々の事業活動の中でリスク低減に努めています。

 

 

① 事業環境の変化に関わるリスク

当社グループは、多様な事業ポートフォリオを有しており、グローバルかつ様々な用途分野に展開しています。さらに、当社の製品は特殊化学品が多く、商品市況の影響を受けにくい構成になっていますが、近年、自動車(ガソリンタンク用<エバール>、フロントガラス用PVBフィルム、ブレーキホース補強用ビニロン等)、電気・電子(液晶パネル用ポバールフィルム、コネクタ用<ジェネスタ>等)、環境(水処理・空気浄化用活性炭等)、医療(歯科材料等)などの成長分野へシフトさせつつあり、業績の依存度も高まっています。これらの分野は、最終製品における業界標準の転換、製品の短寿命化、グローバルな開発競争の激化等、環境変化が激しいため、当社においても重要な事業が縮小・撤退を余儀なくされる可能性があります。

 

② 原材料に関わるリスク

当社グループの製品である化成品、合成樹脂、合成繊維の主原料は、原油、天然ガスの市況に影響を受けるエチレン等の石油化学製品です。このため、予想を超える市況変動が生じた場合、製品価格への転嫁が遅れること等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

また、長期購買契約の締結や購入先を複数にするなど、主要原料が購入できないリスクを低減するように努めていますが、重要な原材料の提供を担っているサプライヤーにおける事故・災害の発生、物流の混乱、日本や諸外国における経済制裁や各種規制等により、当社グループの製品供給に悪影響が生じる可能性があります。

 

海外事業展開に関わるリスク

当社グループは、グローバルな事業展開を行っており、海外売上高比率が7割を超えています。当社グループは、米国、ドイツ、中国、香港、シンガポール、タイ、インド、ブラジル設置している地域会社にて、各国・各地域のリスク情報収集及びビジネス動向の分析を常時行い、当該地域を越えて対応が必要となる場合は地域会社、カンパニー所管会社、本社の該当部署が連携する体制を構築しています。しかしながら、各国・各地域での大規模な伝染病の流行、戦争・暴動・テロ等、偶発的な要因や、国家や地域の対立による貿易戦争、予期せぬ現地法規制の変更等によって、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢などのグローバルな地政学リスクの高まりにより、需要の低迷やサプライチェーンの混乱、原燃料価格高騰や調達難など、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

④ 事故・災害に関わるリスク

当社グループは、日本、欧州、北米、アジア及び豪州に生産拠点を設けており、これらの多くは大規模な化学工場です。当社グループは、安全に関する行動原則「安全は全ての礎」に従い、安全のマネジメントシステムを構築・運用し、爆発、火災、有害物質の漏洩などの事故・災害の未然防止、及び災害発生時の被害の極小化に努めるとともに、重要な生産設備については拠点分散や損害保険によるリスク対応を行っている他、気候変動に起因する激甚災害に対するリスク評価を実施し、その対策を進めています。しかしながら、重大な保安事故、環境汚染、自然災害大規模な伝染病の流行等発生すれば、従業員や第三者への人的・物的な損害、事業資産の毀損、長期の生産停止が生じる可能性があります。

また、原燃料、設備・メンテナンス部品やサービスの提供などを担っているサプライヤーにおける事故・災害の発生により、当社グループの製品供給に悪影響が生じる可能性があります。

 

製造物責任に関わるリスク

当社グループは、自動車、電気・電子材料、医療(歯科材料等)、食品包装(<エバール>、<PLANTIC>等)など、最終製品の品質に対して重要な役割を担う製品を数多く供給しています。当社グループでは主に製造拠点単位で品質マネジメントシステムを導入し品質の向上に努めていますが、品質の欠陥に起因する大規模な製品回収が発生すると、PL保険でカバーできない損害賠償等の損失の発生、顧客からの信頼や社会的信用の失墜等の可能性があります。

 

法規制・コンプライアンスに関わるリスク

当社グループは、多様な社会との接点において遵守すべき事項を「私たちの誓約」として、またこれを企業活動の中で具体的に実践するためのガイドラインを「行動規範」として定めています。そして、法令及び「私たちの誓約」を厳守することを経営トップが宣言しています。この宣言を明記し、「行動規範」をわかりやすく解説したコンプライアンス・ハンドブックを、世界中の当社グループ社員全員に配布し周知徹底を図っています。また、当社各地域拠点及びグループ各社において、コンプライアンス統括者を選任するとともに地域別にコンプライアンス委員会を設け、全社的なテーマの他、地域特有のテーマについても取り組んでいます。

独占禁止法遵守に向けた取り組みとしては、グローバルなコンプライアンスプログラムを構築しています。具体的には独占禁止法遵守指針の定期的見直し、競合他社との接触に関するガイドラインの制定、競合他社との取引・会合の事前審査、役員・従業員向けセミナーの開催、遵守状況に関する社内聴取、入札情報の管理及び入札部署を対象とした法務部監査等の様々な施策を行っています。

 

また、当社グループは、「個人の尊重」を理念の第一に挙げ、企業活動に係わる全ての人を個人として尊重し、その人格と自律を認め合うことを目指してまいりました。近年の先進国を中心とした人権に対する意識の高まりを背景に、企業に対して、人権に関する取組状況の開示等の要請が強まっています。グローバルに事業を展開する当社グループとしては、これらの要請にも応じられるよう、当社グループの人権尊重・保護の状況を再確認するとともに、サプライチェーンに対しても同様の対応を要請すべく取り組みを進めています。

以上のとおり、コンプライアンスの徹底を図っていますが、重大な法令違反を起こした場合、顧客からの信頼や社会的信用の失墜に加え、損害賠償責任や罰金が課されることなどにより、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

当社グループは、グローバルに事業を展開しており、各国の様々な法規制の適用を受けています。将来的に法規制の大幅な変更や規制強化がなされた場合には、新たな対策コストの発生や事業活動の制約につながり、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑦ 訴訟に関わるリスク

当社グループは、国内及び海外事業に関連して、取引先や第三者との間で、訴訟その他法的手続きが発生するリスクがあります。重要な訴訟等が提起された場合、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑧ 環境に関わるリスク

当社グループは、「クラレグループ環境基本方針」を定め、環境に関する各種法規制を遵守するとともに、GHG排出量削減等の地球温暖化対策の推進、化学物質の排出抑制、資源の有効利用等の環境改善に継続して取り組んでいます。また、気候変動がもたらす異常気象や激甚災害へのリスク評価及び対策を強化しています。これらに加え、当社グループは「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しており、情報開示の拡充に努めています。しかしながら、予期せぬ事故や自然災害等により環境汚染が生じた場合や、環境に関する規制が強化された場合は、事業活動の制限や対策費用の増加等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑨ 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループは、事業活動の基盤である情報システム・ネットワークに様々なセキュリティ対策を実施するとともに、情報管理体制のさらなる強化を図っていますが、災害、サイバー攻撃、不正アクセス等により情報システム等に障害が生じた場合や、企業情報及び個人情報等が社外に流出した場合は、事業活動の停滞や信用の低下等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑩ 知的財産に関わるリスク

当社グループは、独自技術による事業・製品を数多く有しています。当社グループの知的財産権への重大な侵害や当社の権利に対する係争が発生した場合、また当社グループが他社の知的財産権を侵害した場合、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑪ 人材の確保に関わるリスク

当社グループにとって、人材は当社グループの事業推進及び持続的成長・発展のために重要かつ不可欠な経営資源であると考えており、ダイバーシティとインクルージョンを推進しつつ、国内外グループ会社を対象としたエンゲージメントサーベイの定期的実施、職場環境及び人事制度・報酬の継続的な見直し、多様な教育・研修の実施等により、従業員にとっても自己成長・実現が可能で働きがいのある魅力的な会社であり続けられるよう努めていますが、少子・高齢化に伴う労働人口の減少や雇用流動化の進展等を背景として、採用難や流出、必要な人材を確保できない場合は、事業活動の停滞等により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑫ 為替の変動に関わるリスク

当社グループは、日本、欧州、北米、アジア及び豪州などの海外諸地域で生産、販売を行っています。当社グループが国内で生産し、海外へ輸出する事業では製品の輸出価格が為替変動の影響を受けます。一方、海外の事業拠点で生産、販売する事業では、異なる通貨圏との間の調達・販売価格及び外貨建て資産・負債の価額が為替変動の影響を受けます。為替予約等によるリスク軽減措置を講じていますが、想定を超える為替変動により、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

⑬ 固定資産の減損に関わるリスク

当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準等を適用しています。経営環境の著しい悪化等による収益性の低下や市場価格の下落等により、保有する固定資産について減損損失が発生し、当社グループの業績に悪影響が生じる可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析内容は以下のとおりです。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2023年12月31日)現在において当社が判断したものです。

 

(1) 経営成績の概況及び分析

当連結会計年度における世界経済は、欧州では金融引き締めの継続による経済活動の停滞、中国では不動産市場低迷などによる成長の鈍化、加えて各地における地政学的な緊張などにより、年後半にかけて減速の傾向が強まりました。

かかる環境下、当社グループの業績は、売上高は前期比24,562百万円(3.2%)増の780,938百万円、営業利益は11,663百万円(13.4%)減の75,475百万円、経常利益は15,035百万円(17.9%)減の69,025百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は11,861百万円(21.8%)減の42,446百万円となりました。

当社グループは、2022年度からスタートした中期経営計画「PASSION 2026」に掲げる3つの挑戦、①機会としてのサステナビリティ、②ネットワーキングから始めるイノベーション、③人と組織のトランスフォーメーション、を継続推進することで、顧客、社会、地球に貢献し、持続的な成長を目指します。

なお、2018年5月に米国子会社で発生した火災事故に関して提起された民事訴訟について、訴え却下の申立てが認められる見込みの1名を除き、係争中であったすべての原告との間で2023年4月に和解が成立しました。これに伴い、当連結会計年度において、本件訴訟などに関する訴訟関連損失として7,806百万円を特別損失に計上しています。なお、この1名については、2023年7月に訴え却下の申立てが認められ、本件訴訟は解決しました。

(単位:百万円)

 

2022年度

2023年度

増減

売上高

営業利益

売上高

営業利益

売上高

営業利益

ビニルアセテート

385,345

77,547

406,771

86,344

21,426

8,796

イソプレン

65,635

4,270

65,683

△10,871

47

△15,141

機能材料

174,059

8,574

189,794

10,323

15,734

1,748

繊維

66,859

6,736

61,858

1,827

△5,001

△4,909

トレーディング

58,844

5,121

61,588

5,183

2,743

62

その他

52,051

2,679

45,672

506

△6,378

△2,173

消去又は全社

△46,420

△17,792

△50,430

△17,839

△4,010

△46

合計

756,376

87,139

780,938

75,475

24,562

△11,663

 

 

[ビニルアセテート]

当セグメントの売上高は406,771百万円(前期比5.6%増)、営業利益は86,344百万円(同11.3%増)となりました。

 


 

① ポバール樹脂は、高付加価値品へのシフトを進めました。一方で、欧米を中心に需要が減退し、販売数量は減少しました。光学用ポバールフィルムは、液晶パネルの在庫調整が一巡し、段階的に出荷が回復しました。高機能中間膜は、PVBフィルムの建築用途で欧州を中心に需要減退が見られたものの、自動車用途は堅調に推移しました。水溶性ポバールフィルムは、引き続きインフレによる買い控えなどの影響を受けたものの、年後半には回復の兆しが見られました。

② EVOH樹脂〈エバール〉は、自動車用途は堅調に推移したものの、食品包装用途は年後半に一時的な需要の落ち込みがあり、販売数量が減少しました。

 

[イソプレン]

当セグメントの売上高は65,683百万円(前期比0.1%増)、営業損失は10,871百万円(前期は営業利益4,270百万円)となりました。なお、タイの新プラントは2月より順次稼働を開始しました。

 


① イソプレンケミカル、エラストマーは、需要低迷に加え、競争激化の影響を受けました。

② 耐熱性ポリアミド樹脂〈ジェネスタ〉は、自動車用途は回復基調にあるものの、電気・電子用途はデバイスの需要回復が遅れました。

 

[機能材料]

当セグメントの売上高は189,794百万円(前期比9.0%増)、営業利益は10,323百万円(同20.4%増)となりました。

 


① メタアクリルは、電気・電子用途でのデバイスの需要回復の遅れに加え、原燃料価格上昇の影響を受けました。

② メディカルは、審美治療用歯科材料の販売が欧米を中心に好調に推移しました。

③ 環境ソリューションは、欧州は景気減速の影響を受けたものの、北米の飲料水用途などで需要が増え、活性炭の販売が堅調に推移しました。

 

[繊維]

当セグメントの売上高は61,858百万円(前期比7.5%減)、営業利益は1,827百万円(同72.9%減)となりました。

 


① 人工皮革〈クラリーノ〉は、自動車用途やスポーツ用途で回復が進みましたが、ラグジュアリー用途などで需要減退の影響を受け、出荷が減少しました

② 繊維資材は、ビニロンは欧州向けが低調でしたが、米国などで自動車用途に回復の兆しが見られました。また、〈ベクトラン〉は輸出を中心に堅調に推移しました

③ 生活資材は、〈クラフレックス〉で外食産業の需要が低調でした

 

[トレーディング]

当セグメントの売上高は61,588百万円(前期比4.7%増)、営業利益は5,183百万円(同1.2%増)となりました。

 


① 繊維関連事業は、資材分野は苦戦しましたが、スポーツ衣料用途が好調に推移しました

② 樹脂・化成品関連事業は、年後半にアジア市場での販売が拡大しました

 

[その他]

その他事業の売上高は45,672百万円(前期比12.3%減)、営業利益は506百万円(同81.1%減)となりました。

 


 

(2) 当期の財政状態の概況

総資産は、有形固定資産の増加14,415百万円及び現金及び預金の増加7,420百万円等により、前連結会計年度末比32,952百万円増の1,254,485百万円となりました。負債は、有利子負債の減少42,380百万円等により、前連結会計年度末比34,669百万円減の518,329百万円となりました。

純資産は、為替換算調整勘定や利益剰余金の増加等により、前連結会計年度末比67,621百万円増の736,156百万円となりました。自己資本は714,285百万円となり、自己資本比率は56.9%となりました。

 

(3) 当期のキャッシュ・フローの概況

[営業活動によるキャッシュ・フロー]

税金等調整前当期純利益61,273百万円に対して、減価償却費77,163百万円、法人税等の支払額23,180百万円及び訴訟関連損失の支払額12,842百万円等により、営業活動によるキャッシュ・フローは129,298百万円の収入となりました。

[投資活動によるキャッシュ・フロー]

有形及び無形固定資産の取得による支出59,027百万円等により、投資活動によるキャッシュ・フローは63,151百万円の支出となりました。

[財務活動によるキャッシュ・フロー]

有利子負債の減少額45,388百万円及び配当金の支払額16,066百万円等の支出により、財務活動によるキャッシュ・フローは64,959百万円の支出となりました。

以上の要因に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額等により、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末より6,046百万円増加して、133,663百万円となりました。

                                                           (単位:百万円)

 

2022年12月

2023年12月

営業活動によるキャッシュ・フロー

51,727

129,298

投資活動によるキャッシュ・フロー

△68,624

△63,151

財務活動によるキャッシュ・フロー

△12,053

△64,959

現金及び現金同等物に係る換算差額

4,943

4,858

現金及び現金同等物の増減額

△24,006

6,046

現金及び現金同等物の期首残高

151,487

127,616

新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額

136

現金及び現金同等物の期末残高

127,616

133,663

 

 

なお、当社グループのキャッシュ・フロー関連指標は以下のとおりです。

 

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

2023年12月

自己資本比率(%)

53.0

47.4

51.3

52.9

56.9

時価ベースの自己資本比率(%)

46.2

35.9

31.5

29.0

38.0

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)

2.5

4.3

3.9

6.3

2.2

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

68.5

57.0

50.9

43.6

57.3

 

(注)自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

1.各指標は、いずれも連結ベースの財務諸表数値により計算しています。

2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しています。

3.営業キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。

4.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、長期借入金及び社債の合計額を使用しています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。

 

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの資金需要は、営業活動に必要となる運転資金や設備投資、M&A等に係る投資資金が主なものです。これらの資金需要に対しては、自己資金のほか、必要に応じ、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー、社債の発行等により資金調達を行っています。

また、資金需要に応じて柔軟に資金調達ができるよう、信用格付けの維持向上や金融機関、資本市場との良好な関係維持に努めるとともに、緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、金融機関とコミットメントライン契約を締結しています。

 

(5) 生産、受注及び販売の状況

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品が多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

このため生産、受注及び販売の状況については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績の概況及び分析」における各セグメントの業績に関連付けて示しています。

 

(6) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発活動は、私たちの使命「私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。」に基づいて、カンパニー・グループ会社に所属するディビジョナル研究開発とコーポレート研究開発との緊密な連携の下に推進されています。

ディビジョナル研究開発は、カンパニー・グループ会社等が各事業所に研究開発部署を有しています。

コーポレート研究開発体制としては、研究開発本部において、新事業テーマの企画・提案・推進を目的に、くらしき研究センターとつくば研究センターの2拠点を設置しています。オープンイノベーション推進を目的に、米国にはKAI Corporate R&Dを有しています。生産技術に関しては、技術本部 技術開発センターにおいてシミュレーション技術を活用した原理原則に基づく生産技術開発を進めており、主要な研究開発テーマについては早期設備化を推進しています。一方で、デジタル技術を活用した生産効率、及び品質向上への取り組みも着実に進めています。

また、当事業年度において、市場開発機能を強化しつつ生産・販売体制を整備し、事業化の加速を図るため、研究開発本部で開発推進してきた<ベクスター>・CMPパッドを新たに組織したエレクトロニクスマテリアルズ推進本部に移管しました。

ディビジョナル研究開発とコーポレート研究開発を合わせた当社グループ(当社及び連結子会社)の研究開発人員数は1,053人です。

 

当連結会計年度のセグメントごとの研究開発費は、ビニルアセテート8,733百万円、イソプレン2,757百万円、機能材料3,644百万円、繊維2,183百万円、トレーディング130百万円、その他819百万円、全社共通(コーポレート研究開発)6,164百万円、合計24,434百万円になります。

セグメントごと及びコーポレートの研究開発活動を示すと次のとおりです。

 

 

[ビニルアセテート]

・ポバール樹脂、ポバールフィルム、PVBフィルム、<エバール>(樹脂、フィルム)のビニルアセテートチェーンについては、世界のリーディングカンパニーとして、国内外の研究開発部署が連携し、新規用途開発、新商品開発、新規生産技術開発も併せて、研究開発活動を推進し、新たな価値を顧客に提案します。また、社会情勢やニーズの変化を成長機会と捉え、地球環境改善や社会貢献につながる製品開発を積極的に行っています。その中で、グローバルサプライチェーンのサステナビリティ向上の一環として、2023年度に北米La Porte工場で生産する酢酸ビニルモノマーについて、持続可能な製品の国際的な認証制度の一つであるISCC PLUS認証を取得しました。併せて、欧州でのトレーダー認証を取得しました。これにより、既に認証取得済の欧州<エバール>での活用と共に、今後、各グローバル拠点においても同様に認証取得を進め、自消・外販を通じて、継続してサステナビリティの向上に努めます。

・ポバール樹脂は、当社ビニルアセテートチェーンの根幹に位置する事業として、これまで培った技術開発力をベースに自消・外販両面で高品質かつ差別化された製品を提供します。日米欧亜の6工場をベースとしたグローバルネットワークを強みとして、世界各地の顧客に対して安定供給を図るとともに、ポバール樹脂の安全かつ環境に優しい特徴に注目し、新たな用途、ビジネス機会を提案します。

・ポバールフィルムは、液晶ディスプレイ向け光学フィルムの構成部材の一つとして、さらなる高性能化・高品質化に加え、顧客での生産性向上などにも顧客と一体となって取り組んでいます。なお、広幅対応可能な新ラインについて、2024年年央での生産開始を目標に、現在順調に建設を進めています。また、洗剤包装用途を中心にますます拡大する水溶性フィルムについても、顧客からの新たなニーズに応えるべく、ポバール樹脂メーカーである強みを活かし、原料まで遡った高性能化・多機能化を加速させます。

・PVBフィルムは、自動車・建築向け合わせガラス用中間膜の高付加価値品の開発を進めており、新たな価値を顧客に提案しています。その一環として、近年の先進運転支援システム(ADAS)の進展により、今後益々高度な光学精度がカメラに求められる中、フロントガラスの光学歪みを低減できる特殊PVBフィルム<Cam Viera>など最先端の技術提案と共に、アイオノマー樹脂をシート化した<セントリグラス>の更なる高付加価値化やPVBフィルムとのシナジー効果の発現、新規用途開発を推進しています。また、顧客の合わせガラスメーカーにて発生するPVBフィルムトリムを回収・有効活用する再生中間膜のビジネスモデルを確立しており、カーボンフットプリント削減にも積極的に取り組んでいます。

・<エバール>樹脂は、世界規模で食品廃棄ロスの削減や環境負荷の低減が求められるなか、日米欧の3拠点を中心に世界各地の顧客ニーズや市場動向を把握しながら、バリア材料の新技術開発・用途開発を推進しています。また、旺盛な需要に応えるべく、アジア地域での新プラント建設を計画しており、持続的な成長を目指します。<エバール>フィルムは、省エネルギー・地球環境保全に貢献する用途へ積極的に展開していきます。さらにバイオマス由来のガスバリア材料<PLANTIC>については、CO2排出削減効果とガスバリア性を併せ持つ新素材として、用途開発に取り組んでいます。

[イソプレン]

・イソプレンケミカル関連では、独自性の高いC4ケミストリーを展開しており、溶剤やウレタン原料、香粧品原料などを中心に新規用途開発を推進しています。また、脱炭素やサステナビリティへの貢献といった社会のニーズに応える機能性ポリマー・化学品の創出にも取り組んでいます

・エラストマー関連では、熱可塑性エラストマー及び液状ゴムの差別化・高付加価値化に取り組んでいます。熱可塑性エラストマーでは、軟質コンパウンドや樹脂改質などの用途で環境に配慮した製品を開発し、市場開発を推進しています。また液状ゴムは、主力のタイヤ用途で様々なタイプの製品を市場に提案し、高機能タイヤの改質剤として採用が広がっています。

・耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>では、5G通信コネクタ及び高電圧用コネクタ等に適した電気・電子用途向けのグレード開発に注力するとともに、自動車の環境規制強化やCASEの加速に対応するためサーマルマネジメント部品や車載電装部品に適した材料の開発を加速しており、部品メーカー各社で評価が進んでいます。

 

[機能材料]

・メタクリル樹脂については、差別化ポリマーの拡充とメタアクリル系樹脂を活用した新規用途開発、新商品開発を主体に研究開発活動を行っています。

・メディカル事業では、クラレノリタケデンタル㈱の無機/有機の技術の融合による新規歯科材料の開発に注力し、CAD/CAM用ジルコニア、高強度レジン等のデジタル化の流れにも対応した開発、商品化を行っています。また、人工骨インプラント<リジェノス>、吸収性骨再生用材料<アフィノス>は、配向連通孔技術を特長に、多面的な展開を進めています。

環境ソリューション事業では、重点戦略領域である「環境(水・大気)・エネルギー」分野において、環境阻害物質の効果的吸着剤開発、商品群展開に加え、吸着活性炭の再生、再利用技術の開発を推進しています。また、拡大するエネルギー関連材に向け、新素材、新商品開発に取り組んでいます。

アクア事業推進本部では、中空糸水処理膜を用いた様々な水の製造・回収を通して、「高品質で安全な水の提供」と「環境負荷の低減」に貢献する素材・技術開発に取り組んでいます。

[繊維]

・高強力繊維<ベクトラン>は、極低温域までの広い温度領域において、高強度、低誘電損失、低線膨張であることに加え、ほとんど吸水することがない特質を有していることから、海洋資材、光ファイバー等の電材など高機能、高性能であることが求められる分野で需要が広がっており、今年度もフル生産が続きました。さらなる用途拡大を目指し、性能向上、用途開発を進めています。

PVA繊維<ビニロン>は、ゴム補強用フィラメントや防護材料、特殊紙分野の拡大に応じた体制整備を行い順調に稼働しています。社会のニーズに応えるべく、生産技術、製品開発を続けています。

・人工皮革<クラリーノ>は、環境や健康意識の高まりにより、環境配慮型革新プロセス(CATS)を使ったスポーツ向け製品需要が増加しており、RCS認証を取得した環境配慮銘柄を開発、販売の拡大に取り組んでいます。また、欧州ラグジュアリー用途向けを中心にリサイクル原料を用いた新規環境配慮型製品を拡大させており、さらにバイオマス原料を使った新規製品開発も進めています。

・不織布<クラフレックス>は、液晶ポリマーを用いた不織布<ベクルス>の用途拡大や、生活環境向上に寄与する製品開発、新規環境配慮型製品の開発を進めています。

[トレーディング]

・ポリエステル長繊維<クラベラ>では、①地球環境に配慮した独自原糸(PETボトル再生樹脂を用いた機能繊維<スペースマスター>、再生ナイロンを用いた分割繊維<WRAMP>)、②独自の樹脂を用いて糸自体に性能付与した速乾繊維<エプシロン>、衝撃吸収繊維<スパンドール>、③電子部品などへの静電気放電対策としてIEC基準にも対応する導電性繊維<クラカーボ>などの機能性原糸の開発を推進しています。

[その他]

・クラレプラスチックス㈱では、スチレン系エラストマーを使用した機能性コンパウンド<アーネストン>及び同コンパウンドを原料とした不織布やフィルム(コンパウンド二次製品)、<エバール>をコーティング加工した特殊フィルム、成型加工技術による高気密高断熱住宅向け換気・空調ダクト及び周辺部材、高強力繊維 <ベクトラン>を使用した土木用途向け繊維複合ホースの開発を推進しています。

[コーポレート研究開発]

研究開発本部では、以下3点を通じて、クラレグループ全体の業容拡大・収益向上に資することを目指しています。

 新事業の創出:素材事業あるいはそれらに加工技術を付加した部材事業をターゲットとし、早期創出を目指します。種々の施策・改革を進め、当社の強み(技術・商流・市場)を活かした新規事業開発テーマの発掘・推進を継続します。

既存事業の強化・拡大:カンパニー・グループ会社との協働・支援を強化し、分析・解析・デジタルなど高度な技術を駆使して全社事業の盤石化を図るとともに、既存事業の拡大に貢献します。また当社事業の急速なグローバル化に対応し、グループ海外拠点との連携を強化しています

基盤技術の構築・深耕:新事業の創出及び既存事業の強化・拡大を通じて、必要とする基盤技術を構築し、深 化・深耕を図ります

 

以下、研究開発活動を示します。

当社基幹原料からの新規化学品開発や新規高分子素材原料の開発に資する触媒開発技術を基盤技術と捉え、これまで長年培った均一系触媒技術のみならず固体触媒技術開発を進めています。これら技術開発を通じ、ビニルアセテート事業、イソプレン事業にかかわる既存事業の強化並びに新規材料開発を展開していきます。

・ビニルアセテートチェーンの更なる業容拡大と新規展開を目指し、保有コア技術と内外から取り込んだ技術で新たな機能を有する素材の開発を進めています。環境親和性の高い酢ビ系高分子の精密な構造制御技術や高機能化プロセスを追及するとともに、酢ビ系高分子の研究開発を通じて獲得した知見や技術を酢ビ系高分子の枠を超えて展開することで顧客ニーズに合致した新素材を提案し続け、世界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を確立します。

・カンパニー・グループ会社との連携を通じて、高分子化合物の設計・重合・変性に関する基盤技術を拡充・深耕し、既存技術の強化・拡大と新事業の創出に資するための新規技術・新規高分子材料を開発します。

・自社素材や高分子材料の成形・加工に関する基盤技術を拡充・深耕し、カンパニー・グループ会社と連携して、成形材料・成形体・シート・フィルムなどの機能性素材・部材に関する研究開発を推進しています。

・炭素・電池材料に関連する技術基盤に新たな要素を加え、クラレグループの環境・エネルギー関連技術の拡大、深化に向けた研究開発を進めます。

・再生医療や細胞農業などライフ関連分野での事業創出に向けた研究開発を推進しています。

・先進的かつ豊富な分析・解析技術、及びシミュレーションや機械学習などのデジタル技術を応用し、カンパニー・グループ会社に様々な技術ソリューションを提供することで、クラレグループの業績向上に貢献しています。

[イノベーションネットワーキングセンター]

イノベーションネットワーキングセンター(以下、「INC」という。)は、中期経営計画「PASSION 2026」で掲げる「3つの挑戦」の内の1つ「ネットワーキングから始めるイノベーション」を推進するため、2022年1月に設立されました。INCは、各事業部・本部、そして顧客が主役となってイノベーションを生み出していけるよう、クラレグループのイノベーションのアクセラレーターの役割を担い、全社・全員参加型の活動を推進しています。多様なバックグラウンドをもつINCのメンバーと各部署を代表するアンバサダーがグローバルに連携し、クラレグループの多様な人材、ユニークな技術力、これまでに培った顧客との関係性や市場へのアプローチ手法などを活用し、中長期的な視点で新たなビジネス機会の創出に取り組んでいます。この組織が担う業務・役割は主に以下です。

①当社の技術開発力、お客様との繋がり、多様な人材といった総合力を、グループ社員で活用し合うためのプラットフォーム(コアケイパビリティープラットフォーム)を立上げ、シナジー創出を加速します。

②社内の新ビジネス開発プロジェクトの優先順位を明確にし、イノベーションを効率よく進めるための戦略とシステム(イノベーションパイプライン)を作り、パイプライン上でのビジネスインキュベーションを進めます。

③全社横断で市場へアプローチするため、自動車、農業、紙・包装資材といった重視する6つの市場セグメントを特定しました。各セグメントでINCのチームが主体となり、新規テーマを発見・発掘し、顧客やパートナー企業との協業を進めます。

以下、INCの2023年度の成果を示します。

・各事業部に拡散するコア技術及び試作用設備を全社で共有するためのプラットフォームを完成し、7月に立上げました。既に2,000人以上の登録者が社内連携の足掛かりに活用し始めています。

・5月に社内イノベーションパイプラインのプロトタイプを立上げ、4つの新規ビジネスプロジェクトを対象に試運転を開始、パイプラインの運営法や仕組みの改善を進めました。

・全社イノベーション戦略の策定を進めました。各事業部、研究開発本部と連携し、イノベーション創出を狙う重点戦略領域を定義しました。2024年度は、当該重点戦略領域における機会探索とプロジェクト推進活動を支えるべく、リソースの積極的な投入を進めていきます。

・セグメントチーム活動の一環として、海外中心に数百回のビジネスマッチング会を主催しました。発掘されたカスタマーアンメットニーズから新たに14のビジネス開発テーマを抽出し、4テーマをフェイルファストしたものの、1テーマをプロジェクトグループとして本格稼働しました。加えて、海外中心に13の展示会へ出展し、フォローアップを継続しています。