第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

当社の経営方針は、工作機械メーカーとして「独創的で、精度良く、頑丈で、故障しない機械、自動化システム、デジタル技術を、最善のサービスとコストでお客様に供給すること」です。コネクテッド・インダストリーズ(IoT、インダストリー4.0)の高まりを背景に、工作機械(マシニングセンタ、ターニングセンタ、複合加工機、5軸加工機、アディティブ・マニュファクチャリング機及びその他の製品)、ソフトウエア(ユーザーインタフェース、テクノロジーサイクル、組込ソフトウエア等)、計測装置、修理復旧サポート、アプリケーション、エンジニアリングを包括したトータルソリューションの提供を行い、全世界のお客様にとってなくてはならない企業を目指しております。

 

(2) 経営戦略及び経営環境

2023年は、工作機械業界はグローバル市場で受注高が減少し厳しい年となりましたが、当社の連結受注額は5,200億円と前年度比4.1%減に留めることができました。マシニング・トランスフォーメーション(MX)戦略が浸透したことで、平均受注単価が61.9百万円(前年度:49.8百万円)と大幅に上昇し、台数の減少を吸収しました。また、連結受注の22%を占める補修部品・サービス部門の受注が16%増と寄与しました。地域別受注は、欧州が健闘した他、米州も中堅・大手企業を中心に第4四半期から自動化案件が好転しています。中国は、大幅な減少となりましたが、輸出管理体制を強化したことにより、受注残のキャンセル処理や受注案件の選別を行ったことが要因です。産業別の受注高は、航空・宇宙、メディカル、金型向けが好調に推移しました。

2024年度の連結受注高は、期初の段階では慎重に2023年度並みの5,200億円と計画しています。四半期ベースの受注高については、2023年度の第3四半期及び第4四半期でほぼ底打ちしたものと考えています。当面の需要の牽引役は、地域別には北米市場が、産業別には航空・宇宙、メディカル、金型、新エネルギー関連と考えています。半導体関連は、次世代最先端向けの需要は堅調ですが、その他の領域はやや回復が遅れており、期後半からの需要増に期待しています。

2025年度には、「中期経営計画2025」の当初計画通り、売上収益6,000億円、営業利益720億円(営業利益率:12%)、当期利益480億円(当期利益率:8%)の達成を目指します。お客様の工程集約、自動化、GX、DXによる生産システムの効率化追求は継続する見込みであり、単価上昇による受注増につなげていきます。お客様へのソリューション提供による値引き率の低下、内部経営資源の効率化により収益性の改善も継続します。営業利益率12%の目標達成も可能であると考えています。収益性の拡大、運転資本の最適化により現金創出力を高め、有利子負債の削減も進めます。2025年12月末には、ハイブリッド資本を含む純有利負債残高を計画通り800億円程度に削減する予定です。

当社は、業界のリーディング・カンパニーとして、幅広いステークホルダーの期待に応えるべく、持続可能な社会を目指し、サステナビリティへの取り組みを強化しております。環境面においては、2021年年初からグローバルに生産する工作機械の調達から出荷までの全工程において、CO2排出権の利用も含めカーボンニュートラルを達成しました。同年にはTCFD提言に準拠したレポートを開示した他、2030年までのCO2排出量の削減計画がSBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)により認定されました。CO2排出量削減のための取組みとして、2023年2月には伊賀事業所に自家消費型太陽光発電システムを導入し、第1期(5,400kW)の発電を開始いたしました。2024年予定の第3期発電開始後には、伊賀事業所の年間電力需要量の約30%を賄い、年間約5,300トン相当のCO2排出量を削減できます。太陽光発電については、グローバルに主要生産拠点で導入を進めており、2022年11月から米国のデービス カリフォルニア工場で発電を開始しているほか、2025年には奈良事業所でも発電を開始する計画を進めています。

人的投資の面においては、当社は「よく遊び、よく学び、よく働く」を経営理念に掲げ、従業員の生活の質向上を支援しております。2021年に健康経営宣言を発表し、「健康経営優良法人」の審査で「ホワイト500」を2023年から2年連続で取得した他、2024年3月には「健康経営銘柄」にも選定されました。また、2022年からグローバル従業員の給与を、職責、技能、資格などを適正に反映して改定をしてきました。大幅な給与水準の改定は2023年度で一巡しましたが、今後はグローバルなインフレ率に連動した給与の改定を継続していく予定です。

人材育成の面では、国内各地にDMG MORI ACADEMYを開設し、お客様のオペレーターの育成及び工程集約機の導入促進を目的としたスクールを開催しています。2023年に、金沢、仙台、浜松の3拠点で開設済みであり、今後、岡山および九州に開設する予定です。また、当社は次世代の産業を担う学生支援を積極的に行っております。森記念製造技術研究財団は、2019年から工学系大学院生に、2023年からは人文社会科学系学生に奨学金の支給を開始しました。2022年4月に奈良女子大学に設立された工学部の支援として、先端設計生産工学概論の提供や、当社の奈良商品開発センタでの最新実機を使用した実習を開始しました。さらに、工学に対する学生の興味を拡大していくため、全国の女子中高生が奈良商品開発センタに集まり、工学を体験するWE Program (Women Engineers Program)の実施や、奈良女子大学付属中等教育学校での授業等、様々な支援を提供しております。

コーポレート・ガバナンスにおいては、引き続き取締役の多様性を強化しております。2024年3月28日開催の株主総会での承認により、取締役会の構成は、取締役12名中、社外取締役が5名(構成比:42%)、女性取締役が3名(同:25%)、外国人取締役が3名(同:25%)となっております。また、グローバルで一体となった経営を強化するため、執行役員会においてもAG社の役員の増員や積極的な40代前後の若手の登用を進め、社内の組織体制を変更しました。取締役会及び執行役員会において、より多様な意見を反映させ、企業価値向上につながることを期待しております。2024年には、全世界のステークホルダーに当社のグローバルでの一体感を認知していただくため、ヨーロッパ子会社の社名やロゴを「DMG MORI」というグローバルブランドに統一するプロジェクトを進めて参ります。

以上のように、顧客価値創造と社会との共生を実現し、事業規模、収益性、財務基盤において、継続的な企業価値向上に努めてまいります。

 

(3) 目標とする経営指標

需要変化の激しい工作機械業界の事業環境や市場動向に迅速に対応し、工作機械業界におけるグローバルワンの地位を維持・継続するためには、利益率の向上、財務体質の強化、資本収益性の向上が最重要課題であると考えております。

中期経営計画(2023年~2025年)の2年目である来期は、連結受注高5,200億円、売上収益5,400億円、営業利益570億円(営業利益率:10%)、当期利益350億円(当期利益率:6%)を、それぞれ計画しております。当社グループでは、顧客価値創造並びに企業価値のさらなる向上のために、たゆまぬ努力を継続してまいります。

 

(4) 優先的に対処すべき課題

①製品開発

 近年、人手不足による省人化や生産工程における省エネ化への対策は益々需要が高まっています。そこで当社は、工作機械を中心として実現する一連の効果をMX(マシニング・トランスフォーメーション)として、お客様に提案しています。まずは、高精度な5軸・複合加工機により工程を集約し、周辺機器の導入で自動化を実現することで、生産性の向上が可能になります。工程の自動化が進むことで、全工程で生じる情報をデジタル・AI技術で収集・分析・可視化することが可能となり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現します。これらにより、不要な仕掛品や中間在庫、廃棄物、エネルギー消費量の削減が進み、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現が可能となります。そのため、当社ではMXを実現するために機械・要素・電気・ソフトの開発リソースを適切に配分した体制を整えております。

 2023年9月、ドイツのハノーバーで開催されたEMOショーでMXを実現できる新商品を発表しました。世界初公開の5軸制御横形マシニングセンタ「INH 63」では、解析を駆使し高剛性構造を実現し、優れた切削能力と空間精度を両立させ高付加価値部品の加工を可能にしました。新開発の立型大容量クーラントタンク「zero-sludge COOLANT pro」の採用により、クーラントの保守頻度を大幅に削減し長時間の自動運転も可能にしました。また、新操作盤「ERGOline X」を搭載することで優れた操作性と最新のDXも実現しています。zero-sludge COOLANT proやERGOline Xは他機種へも搭載を進めています。また、自立走行ロボット「WH-AMR」では、新たな機能として工具搬送を追加しました。計測装置との組み合わせで、機械への補正済み工具投入の完全自動化を実現しました。これにより、更なる工程集約により予想される工具本数増加にも対応できます。

 3D造形が可能な「LASERTEC 3000 DED hybrid」では、新たにコーティング機能を開発しました。熱処理やコーティング工程も含めた集約が可能になり大幅な製作リードタイムやエネルギー消費量削減につながる提案が可能になりました。また、機械稼働の遠隔モニタリング「DMG MORI Messenger」、機械の遠隔操作「NETSERVICE」といったアプリケーションや、機械のネットワーク接続をワンストップで支援する「DMG MORI GATEWAY」など、DXを邁進できる商品の提供を進めています。

 今後もMXを提案できる商品開発を進め、お客様の生産性向上とサステナブルな社会づくりに貢献していきます。

②品質

 品質本部では出荷前の製品検査、出荷後の製品の品質分析から、PDCA、SDCAにより製品品質の改善を図り、製品安全の向上を実現いたします。

 これまで製品検査のデジタル化、納入後の不具合の分析による設計・製造工程の改善の取り組みにより出荷後の不具合の削減、問題の早期解決に努めてまいりました。これらの活動は継続しながら更に一段高い品質向上を目指します。

当社はマシニングトランスフォーメーション(MX)を提唱し、推進しています。これは、5軸マシニングセンタや複合加工機による工程集約により従来複数台で加工していたワークを1台の機械に集約し、自動化によりオペレータをワーク脱着作業から解放し、デジタルトランスフォーメーションにより、オペレータに依存していた切りくずの除去作業、工具の監視や交換作業、ワークの精度測定さらに補正の作業、機械の稼働監視などをデジタルトランスフォーメーションにより機械がこれらの作業をサポートすることで、長時間の無人省人運転を可能とし、グリーントランスフォーメーションを実現します。

 MXをお客様に導入いただく際に品質が最も重要です。機械は5軸加工機、複合加工機で複雑化し、加工だけでなく計測をはじめとする周辺機器が搭載され、自動化のためのロボットなどの周辺装置も組み込まれているため、従来の2軸3軸の単体機に比べて相当高度なメカ機構、制御機構になっています。夜間や休日の無人運転を計画していても、品質問題でチョコ停が発生すれば機械は長時間停止したままになってしまいます。工程集約により機械1台で従来の複数台の役割を持たせるため、システムが停止したときには、1台の機械が停止したときの影響が従来の運用方法よりも遥かに大きくなってしまいます。このため一層の品質向上を目指し、QC活動を活発に行い、システムの品質を向上させお客様に安心してMXを導入いただけるように努めます。

 システム機でのチョコ停の大きな問題の一つとして、機内での切りくず堆積があります。当社では機内への切りくず堆積を無くすべくカメラによる機内映像をAIで分析し機内の切りくず堆積個所を特定し洗い流す、AI chip removalの機能を提供しています。更に新機種から機内のカバーをより切りくず堆積しない材料や形状で設計しています。これらの取り組みは切りくず・ミスト・クーラントの処理を対象とした部門と、シートメタル設計の部門により進められています。クーラントのろ過装置、ミストの処理装置も同様に専門部門で設計された製品を装備することにより、長時間連続稼働においても機械をクリーンな状態で維持することが可能になります。また2023年は日本国内のお客様に対し、当社の遠隔監視システムのMessengerにより集計させていただいたアラームを分析し、お客様が気づかれていない品質問題の予兆を捉えて、お客様に積極的に保守サービスを提案させていただきました。MXを対象にMessengerをグローバルベースで原則100%導入させていただき、アラーム情報、稼働情報から、品質問題を確認しシステムの稼働率を向上させる取り組みを加速します。

 出荷時の精度を継続的に向上させる取り組みとして、開発・製造・品質部門が機種別・部位別に精度出荷限度値と実際の精度検査結果から改善案を週次で打合せし実行することにより、2023年度は精度検査項目の約15%にあたる934項目の精度を向上させる取り組みを実施しました。この取り組みは既存機の精度改善だけではなく、更なる精度取り組みの課題として新機種の設計に反映させます。2023年にはすべての機種での見直しが一巡しましたので2024年は二週目の見直しを実施します。

 製品安全の取り組みについては2021年より、すべての製品安全レビュー、安全回路レビューを品質本部長承認とし管理することで,安全設計に対する意識を向上させ生産機種に反映させています。今後もお客様に安心して使っていただける機械をお届けすることを最重要課題として継続します。

③安全保障貿易管理

 昨年も、2022年2月末に始まったロシアとウクライナ間の戦争は終結とはならず、新たな火種としてイスラエルとハマス間の衝突も勃発、(更には、こうした環境下、北朝鮮とロシア間の軍事協力が強化する動きがみられるなど)世界の安全保障環境は、益々、混とんとしてきており、軍事転用も可能な高性能工作機械を製造・販売している当社グループも継続して厳格な輸出管理を行うべく、日々努めております。

 こうした環境下において、昨年は、当社の輸出管理に関するメディア報道がいくつかなされる事態となりましたが、既にお知らせ済みのステートメントに記載の通り、継続して厳格な輸出管理体制の維持をするとともに、日々、国際情勢の変化を鑑み、管理の強化にも努めてまいりました。

 具体的には、2023年12月までに、当社DMG MORIグループが製造する工作機械への移設検知装置(不正な輸出を防止する目的で、据付場所からの移設を検知すると稼働できないようにする装置)の完全搭載を実施・完了させました。これによって、今後製造販売の当社工作機械には、全てこの移設検知装置が搭載されることになります。

 また、DMG MORI AG各社が行っていた各国政府への輸出許可申請といった輸出管理業務を欧州本社に移管し、日本と同じ基準と体制でより統一した輸出管理審査を行うべく、体制も変更いたしました。

 今後も世界情勢の変化に伴い、各国間の関係性の変化や各国法の変更が見込まれる中で、各国の法令を遵守し、お客様をはじめとしたステークホルダーの皆様に安心していただけるよう、引き続き厳格な輸出管理体制の維持・強化を、重点課題として取り組んでまいります。

④法令遵守

 経営者自ら全従業員に対し法令及び企業倫理に基づいた企業活動の徹底を指示し、役員・従業員のコンプライアンス意識の向上と浸透を図っております。当社グループでは、グローバルな事業展開に対応したコンプライアンス体制を構築するために、日本を含む各国においてコンプライアンス担当者を選任し、これらを連携させることにより、各国の制度に適応しながら統制の取れた体制の確立に取り組んでおります。また、コンプライアンスに関する問題の予防、早期発見・対策のため、2020年より多言語対応の通報窓口を設置し、海外グループ企業も含めたグローバルでのコンプライアンス体制を強化いたしました。以上のほか、内部監査部を主管部署とした定期的な法令遵守活動のモニタリングも継続しております。

 勤務間インターバル制度については、当社では2018年より導入し、2020年度からは在社時間の制限を原則10時間、勤務間インターバルを12時間として従業員の健康維持、ワークライフバランスの適正化に取り組んでおります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(サステナビリティ全般)

DMG MORIは、1948年の創業以来、工作機械の精度向上への挑戦を続けてきました。

工作機械の精度を上げる、工作機械が精密であるということは、CO2排出量削減、循環型社会の実現、食料問題などの様々な社会的課題の解決につながります。工作機械産業は、世界中のお客様によりよい商品を提供すればするほどSDGsの実現に近づき、事業活動そのものが社会に貢献する産業であるということに、誇りと責任を感じております。

私たちは、経営理念に掲げている「責任ある企業市民として地域、社会に貢献する」「環境資源を大切にし地球環境を守る」「高い倫理観を持って、社会良識に準拠した企業活動を行う」を基本的考え方としております。基幹産業である工作機械産業に携わるものとしての責任を果たすことが、持続可能な社会と中長期的な企業価値の向上につながると考えております。

 

<ガバナンス>

DMG MORIは、株主や投資家の皆様をはじめとしてお取引先、社員、地域社会の皆様等、社会全体に対する経営の透明性を高め、公正かつ効率的な企業運営を行うために、コーポレート・ガバナンスの充実、経営監視機能の強化を最も重要な課題として取り組んでおります。今後とも長期安定的な企業価値の向上を図り、より高い企業倫理観に根ざした事業活動の推進に努めます。

当社は、サステナビリティを経営の重要議題と位置づけ、専任部門として「サステナビリティ推進部」を設置しております。また、特に気候関連の課題に関しては、取締役会・執行役員会・サステナビリティ委員会において定期的に審議しております。詳細につきましては、以下「気候変動」をご覧ください。

 

<リスク管理>

サステナビリティ課題に関わるリスクについては、「サステナビリティ推進部」が日常的にモニターしており、定期的に所管の取締役に状況を報告しています。報告されたリスクについては、全執行役員が出席するサステナビリティ委員会(少なくとも四半期に一度開催)にて共有され、リスクの評価と対応を協議しております。取締役会では、サステナビリティ関連のリスク・機会に関する監視・監督を行っております。

当社では、抽出した社会課題のうち、当社の事業との関連性や当社および社会へ与える影響度を勘案して、後述の気候変動への対応のほか、以下の2項目を、特に重要なサステナビリティ関連リスクと認識しています。

項目

内容

リスク管理のプロセス

バリューチェーンにおけるサステナビリティ

(サプライヤーエンゲージメント)

当社のサプライヤーおよび取引先における気候変動対応、人権保護などのサステナビリティ課題への対応もバリューチェーン全体での重要なサステナビリティ課題と認識しております。

・組織体制:購買部門とサステナビリティ推進部が協働で所管しています。

・リスクの評価と運用:ドイツINTEGRITY NEXT GmbHが提供するプラットフォームを利用し、全世界で同一の基準に従ったサプライチェーン・デューデリジェンス(適正評価手続き)を、随時実施し、リスクの識別と評価を実施しています。デューデリジェンスの結果に応じ、購買部門とサステナビリティ推進部が協働して、個別のサプライヤーと改善の為の対話・エンゲージメント活動を実施しています。

事業継続計画

(Business Continuity Plan)

基幹産業である工作機械は、多種多様な製造業において使用される製品であり、持続可能な社会を実現するために必要な高精度な工作機械を製造する当社には、お客様に安定して製品を供給する責務があると考えています。

特に、地震や台風など大規模自然災害が起こる可能性が高い日本においては、事前に可能な限りの対応を想定しておくことが重要と認識しております。

・組織体制:サステナビリティ推進部が大規模自然災害や感染症パンデミック等を想定したBCP基本計画を策定・所管しております。

・リスクの評価と運用:執行役員会と合せて開かれるサステナビリティ委員会(少なくとも四半期に一度開催)にて、リスクの評価と対応を協議しております。

 

(気候変動)

当社は、2021年7月に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準拠した気候変動関連リスク及び機会に関する項目について積極的に開示するという趣旨に賛同し、統合報告書および当社Webサイトにて当社の取組みを開示しています。(https://www.dmgmori.co.jp/corporate/sustainability/esg/tcfd.html)

 

<ガバナンス>

気候変動による事業へのリスクと機会を評価しその対策を計画、実行、監視する部門として「サステナビリティ推進部」を設置しております。同部門は、適宜、取締役会にて当社のCO2排出量の算定結果を報告し、CO2削減計画及びそれに係る重要な設備投資額の承認などを求めます。

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<戦略>

当社が推進する「工程集約→自動化→DX化」を中核とするマシニングトランスフォーメーション(MX)は、お客様の生産性向上と経営資源の節約になり、CO2排出量の削減につながります。すなわち、MXの推進こそがグリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現に貢献するものと考えており、工作機械事業の深化を追求することで、気候変動というグローバルな課題への対応に貢献していきます。また、自家消費型太陽光発電の導入や、「サーキュラーエコノミー」による資源循環に積極的に取組み、Scope1、2とScope3でのCO2排出量の削減を目指します。

 

1.気候変動リスク・機会の特定と気候変動シナリオに基づく事業・戦略・財務への影響について

当社グループの事業・戦略・財務に影響を及ぼす気候関連リスク・機会の特定にあたり、①脱炭素が進展する1.5℃の世界観(移行リスク)、②成り行きで温暖化が進行する4℃の世界観(物理的リスク)を整理し、それぞれの世界において、当社事業への影響度が大きいと想定される気候変動起因のドライバーと当社事業に関わるリスクと機会について、以下のように評価・整理いたしました。

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影響の程度について、「収入・費用・投資・資金調達面に与える影響額」が500億円以上と評価される事象を「(影響度)大」、50億円以上・500億円未満と評価される事象を「中程度」、50億円未満と評価される事象を「低」と、それぞれ定義しています。

 

 

2.1.5℃の世界に整合する移行計画

・1.5℃目標の達成

当社グループは、パリ協定に整合した1.5℃目標の達成に向けて、SBTイニシアチブの温室効果ガス削減目標の認定を取得し、サプライチェーン全体の排出量削減に取り組んでおります。CO2排出削減に向けて、グループ全体で、太陽光発電やCOフリー電力などの再生可能エネルギーの導入、鋳物の製造工程の電気炉化など様々な取り組みを積極的に実施しております。また、製品の工程集約、自動化、DX化を中核とするマシニング・トランスフォーメーション(MX)を推進し、お客様先での当社製品使用時のCO2排出量の削減に取り組んでおります。サーキュラーエコノミーによる資源循環の取り組みも積極的に進めております。

 

<リスク管理>

気候変動に関連するリスクについて、サステナビリティ推進部が日次的に識別・評価し、毎月1回社内取締役に報告します。取締役会では、少なくとも四半期に一度、もしくは、事業に重要な影響を及ぼす可能性がある気候関連の事項が生じた場合には随時、気候変動関連の議案を討議、意思決定するプロセスを確立しております。

 

当社グループの事業・戦略・財務に影響を及ぼす気候関連リスク・機会の特定にあたり、①脱炭素が進展する1.5℃の世界観(移行リスク)、②成り行きで温暖化が進行する4℃の世界観(物理的リスク)を整理し、それぞれの世界において、当社事業への影響度が大きいリスクを特定しております。

 

<指標及び目標>

気候変動への対応にさらなる実行性を持たせるため、当社は中長期目標として2030年までの温室効果ガス排出削減目標を設定し、2021年11月に国際的な環境団体「SBTイニシアチブ」による認定を取得いたしました。SBT認定では、2019年の温室効果ガス排出実績値を基準として、2030年までにScope 1及びScope 2で46.2%の排出削減、Scope 3で13.5%の排出削減を、それぞれ目標値として設定しております。

この目標をさらに拡大し、長期目標として、2050年までに排出量の90%を削減するSBTネットゼロ認定の取得に向けて取り組んでおります。

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(人的資本)

<戦略>

1.人材育成方針

DMG MORIというブランド名は、デッケル、マホ、ギルデマイスター、森精機の頭文字であり、その歴史は、この4社をはじめとする数多くの工作機械メーカーの共同体だと言えます。その結果、現在の当社は合計13,000名以上が働くグローバル企業になりました。日本人の割合はグループ全体の1/3程度にとどまり、さらに日本国内でも様々なバックグラウンドを持つ人材を迎え入れております。

そのような多様性に富んだ大きな組織が団結し、変化する事業環境に機敏に対応するには、組織の核となる重要な価値観を一人ひとりが体得し、実践できるようになる必要があります。その浸透をいかに推進するかという視点が、単なる人の集まりを「人的資本」として活用し増強するための鍵です。

当社は「よく遊び、よく学び、よく働く」を経営理念に掲げ、従業員の多様で健全な職業生活を後押ししております。その取り組みの一環として、この経営理念を実践している従業員を3部門それぞれに分けて月次で表彰しております。また、世界中の優秀な従業員が一堂に会し、リーダーシップと経営参画意識を養うプログラムの開催や、博士号の取得の推進を行っております。従業員の属性情報の多様性に加えて、一人ひとりの活躍の仕方の多様性を高めることを目指しております。

 

2.社内環境整備方針

今現在家庭と仕事の両立を迫られている従業員に対して、安心して働き続ける上で必要なサポートを提供していくことに加え、家族の介護、自身の病気など、性別に関係なく様々な環境に置かれている全ての従業員が高いプロ意識を持って活躍できる職場づくりを推進しております。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)やマイクロ・アグレッション(無自覚の差別行為)への対策、ライフイベントに応じた柔軟で主体的なキャリア形成の支援などに取り組んでおります。

当社では、出産・育児支援制度の充実に力を入れております。伊賀事業所、奈良事業所に企業主導型保育園であるDMG MORI保育園を常設しており、合計100名の未就学児を受け入れる体制を整えております。また、看護休暇(有給扱い)は小学校を卒業するまでの子を育てる従業員が取得でき、業務の合間で時間単位の利用も可能なため、様々な働き方に柔軟に対応しております。

また、男性従業員の育児休業の取得についても積極的に奨励しております。従業員が安心して育児に専念できるように、2020年1月より連続20日間以上の育児休業を取得した場合に最初の20日間を有給とする制度を導入しました。また、2022年には20日間有給の育児休業について分割取得を可能としました。性別にとらわれず誰もが働きやすい環境を実現するためには、男性従業員を含めた組織全体の考え方の変革が必要です。上司の意識改革や職場のサポート体制を整えることで、男性従業員の育児休業取得者は2022年から取得率90%以上の高水準を継続しております。

当社では、「健康経営※」の推進のため、2021年に「健康経営宣言」を発表し、従業員の心身の一層の健康向上を目指しております。当社は、経済産業省が「健康経営度調査」結果に基づき選定する「健康経営優良法人」の上位500社「ホワイト500」を2年連続で上位取得いたしました。加えて、2024年3月には、経済産業省と東京証券取引所がホワイト500にROE(自己資本利益率)等の財務指標を加味して1業種1社選定する、全国で約50社の「健康経営銘柄」にも選定されました。今後も、今までの健康施策の取り組みを、より組織的・系統的・包括的・先進的に推進してまいります。

※『健康経営』は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

 

<指標及び目標>

指標

目標

実績(2023年度)

①1人当たり年平均有給休暇取得日数

20.0日

17.9日

②1人当たり平均総労働時間

2,000時間

2,035時間

③男性従業員の育児休業取得率(注2)

100.0%

90.5%

④女性管理職比率(注2)

2025年度までに15.0%

7.9%

(注)1.日本単体の従業員を集計対象としております。

   2.詳細につきましては、「第1 企業の概況 5 従業員の状況 (4) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」をご参照ください。

 

 

(水資源)

<リスク管理>

当社は、「環境資源を大切にし地球環境を守る」との経営理念の下、以下の環境方針を掲げて、日々の事業活動を行っています。

・生産者として地球環境を守るために、事業活動に伴うエネルギー消費の削減、資源の有効利用などを含む汚染の予防を行い、環境に配慮する。

・資源・エネルギーを大切に利用し、環境にやさしい製品を造る。

・社員の環境保護意識を高め、社会の一員として、当社の環境側面に関連する法規制および要求事項を遵守し、環境政策に協力する。

・環境保全についての情報公開に努める。

また、法規制ならびに要求事項を遵守するとともに、独自の環境リスクアセスメント規定に基づき、事業が生態系へ及ぼし得る影響を評価し、最小限に抑えるよう努めております。

 

<戦略>

当社は、2022年12月14日に、「中期経営計画2025」を発表いたしました。その中で、生産性を向上しつつ、CO2排出量の削減や、資源の有効活用にも寄与し得る商品開発を推進するため、2023~2025年までの3年間で計1,000億円の研究開発投資を計画しております。

近年は環境への関心の高まりから、製品購入時の判断基準として、CO2排出量の削減や、資源の有効利用などにも考慮されるお客様が増えてきております。こうした傾向、ニーズを受けて、工程集約による生産性向上を通じてCO2排出量の削減にも寄与する5軸・複合加工機や、「ゼロスラッジクーラントタンク」に代表される節水機能にも優れた当社独自の周辺機器装置などを開発し、商品化してまいりました。こうした取り組みは、潜在的な水ストレスを懸念する国々での販売機会の拡大にも繋がると考えています。

また、水資源の保全にも繋がる取り組みとして、事業所周辺の生物多様性の維持のため、

・伊賀事業所近郊の耕作放棄地を開墾して、ワイン用の葡萄栽培を開始

・伊賀・奈良事業所周辺の桜植樹などの緑化推進

・伊賀事業所バイオマス発電では、木質チップ燃料として伊賀周辺の間伐材を利用(森林整備、林業振興にも貢献)

などを実施しております。

 

 

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性のあると認識している主要なリスクは以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 主要市場(日本、米州、欧州及び中国・アジア等)の状況

当社グループの地域別連結売上収益の構成比は、当連結会計年度において、日本15.7%、米州18.1%、欧州58.3%、中国・アジア7.9%となっております。当社グループが製品又は修理復旧を販売、提供するいずれかの地域において景気動向が悪化することで当該製品又は修理復旧に対する需要が低下した場合は、当社グループの業績は悪影響を受ける可能性があります。

 

(2) 設備投資需要の急激な変動

工作機械産業は従来から景気の変動に左右されやすいと言われてまいりましたが、中国・アジア、中央ヨーロッパ等の新興国の経済が拡大してきております。日本、米州、欧州各地域の工作機械市場も中長期的には安定的に成長してきておりますが、当社グループの業績は景気変動による設備投資の増減の影響を大きく受ける傾向にあり、何らかの要因で各地域の設備投資需要が落ち込んだ場合には、製品単価、販売数ともに急速かつ大幅に下落することがあり、当社グループの事業、業績及び財務状況は悪影響を受ける可能性があります。

 

(3) 市場競合の影響

工作機械業界は参入企業数が多く、低コストで製品を供給する海外の会社も加わり、当社グループはそれぞれの市場において厳しい競争にさらされており、当社グループにとって有利な価格決定を行うことが困難な状況になっております。当社グループとしては、技術力強化による差別化製品の開発、原材料等のコスト削減、営業力強化のための諸施策を推進しておりますが、将来的に市場シェアの維持及び拡大又は収益性の保持が困難となった場合は、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 企業合併・買収及び資本・業務提携

当社グループは、企業の合併・買収や資本・業務提携を事業基盤の強化を図るための重要な戦略の一つと位置付けており、今後、かかる企業合併・買収や資本・業務提携の成否によっては、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、2015年4月にDMG MORI AGを連結対象会社としておりますが、同社の事業、業績及び財務状況の動向は、当社グループに大きな影響を与える可能性があります。

 

(5) 米ドル、ユーロ等の対円為替相場の大幅な変動

当社グループの事業、業績及び財務状況は、為替相場の変動によって影響を受けます。為替変動は、当社グループの外貨建取引から発生する資産及び負債の日本円換算額に影響を与えます。また、為替変動は外貨建で取引されている製品・パーツ及び修理復旧の価格及び売上収益にも影響を与えます。この影響を低減するため、日本、中国・アジアの円建取引、米州の米ドル建取引、欧州のユーロ建取引のバランスをとるように努めておりますが、それでもなお、為替相場の変動によって当社グループの事業、業績及び財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(6) 天然資源、原材料費の大幅な変動

想定を大幅に超えた原材料価格の急激な高騰に見舞われた場合は、当社グループの業績は悪影響を受ける可能性があります。原材料価格の高騰に対しては、仕入先への価格交渉等によるコストダウンの推進や製品価格への転嫁によってカバーする方針ですが、価格の高騰が続く場合や仕入先への価格交渉等が実現しない場合は、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 安全保障貿易管理

当社グループが事業を展開する多くの国及び地域における規制又は法令の重要な変更は、当社グループの事業、業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループのコア事業であります工作機械は各国の輸出関連法規上、規制貨物に分類されており、国際的な輸出管理の枠組みにより規制を受けております。国際情勢の変化により規制が強化されることとなれば、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 取引先の信用リスク

当社グループとしても取引先の信用リスクについては細心の注意を払っておりますが、取引先の業績悪化等により取引額の大きい得意先の信用状況が悪化した場合、当該リスクの顕在化によって、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)財務制限条項

コミットメントライン契約等の一部借入金の契約には財務制限条項が付されております。今後、財務制限条項への抵触等があった場合、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(10)知的財産権

当社グループは、研究開発、新製品開発を通じて多くの新技術やノウハウを生み出しており、これらの貴重な技術・ノウハウを特許出願することにより、知的財産権の活用を図っております。しかし当社グループの知的財産権に対して第三者からの無効請求や、侵害差止請求等が提起された場合、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)訴訟に関するリスク

当社グループは、顧客の要求する機能・仕様を満足し、かつ安全性に配慮した適正品質の追求に努めており、グローバルベースで品質管理の徹底を図っております。しかしながら、当社グループの製品に重大な不具合が存在し、重大な事故やクレーム、リコール等の起因となった場合、多額の製品補償費用等が発生する可能性があります。

この他、当社グループは、国内外において業務を展開しておりますが、こうした業務を行うにあたり、業務上発生する責任に基づく損害賠償請求訴訟等の提起を受ける可能性があります。現時点では当社グループの業績に重大な影響を与えるような訴訟は提起されておりませんが、今後、重大な訴訟が提起され、当社グループに不利な判断が下された場合、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(12)自然災害・疫病等の影響

当社グループは、販売及び修理復旧拠点をグローバルに展開しているため、予測不可能な自然災害、疫病、コンピュータウィルスといった多くの事象によって引き起こされる災害によって影響を受ける可能性があります。

当社グループの製造拠点は、国内では三重県、奈良県、神奈川県、新潟県及び島根県にあり、海外ではアメリカ、中国、欧州各地等6ヵ国にあります。これらの製造拠点のいずれかが、地震・洪水等の天災の影響や疫病等による工場閉鎖により、製品供給が不可能、あるいは遅延することとなった場合は、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(13)環境問題

当社グループは、事業の遂行にあたり、様々な環境関連の法令及び規制の適用を受けております。当社グループは、これらの法規制に細心の注意を払いつつ事業を行っておりますが、現在行っている又は過去に行った事業活動に関し、環境に関する法的、社会的責任を負う可能性があります。また、将来、環境関連の法規制や環境問題に対する社会的な要求がより厳しくなることによって、法令遵守に係る追加コストが生じたり、事業活動が制限される可能性があります。したがって、今後の環境関連の法規制の動向によっては、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(14)ロシア・ウクライナ情勢の影響

当社グループは、ロシアの事業拠点として、ウリヤノフスクに工作機械の組立工場、モスクワに販売及びサービス拠点があります。ロシア・ウクライナ情勢については、世界的かつ政治的な不確実性があり、現時点でその影響を完全に予測することは困難な状況です。今後の動向によっては、当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」)の状況の概要は次の通りであります。

①経営成績の状況

当連結会計年度(当期)における業績は、売上収益が5,395億円(3,549百万EUR)(前期比13.6%増)、営業利益は542億円(356百万EUR)(前期比31.4%増)、税引前当期利益は479億円(315百万EUR)(前期比31.2%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は339億円(223百万EUR)(前期比33.6%増)となりました。(ユーロ建表示は2023年1月から12月の期中平均レート152.0円で換算しております。)

当社の2023年の連結受注額は、前年度比4.1%減の5,200億円となりました。5軸加工機、複合加工機などの工程集約機を中心に自動化、フルターンキー化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現するMX(マシニング・トランスフォーメーション)への需要は引き続き堅調です。MXを中心とするお客様への付加価値提案力に加え、円安の影響もあり、機械1台当たりの受注単価が61.9百万円(2022年度平均:49.8百万円)へと大きく上昇しました。また、連結受注の約20%を占めるサービス・補修部品の受注額も前年度比16%増と寄与いたしました。

地域別受注額は、前年度比、欧州(構成比:55%)が3%増、米州(同:21%)も3%増と、これら両地域が堅調に推移しました。一方、中国(同:8%)が20%減、アジア他(同:5%)が17%減、日本(同:11%)が25%減となりました。産業別の需要は、宇宙、航空、医療、半導体製造装置関連が堅調に推移しております。

2024年度の連結受注見通しについては、5,200億円を見込んでおります。機械本体の受注残高は、2023年12月末で2,470億円(2022年12月末:2,540億円)と、高水準を維持しています。豊富な受注残に加え、サービス・補修部品及びグループ会社など、安定収益部門からの売上寄与が来期以降の収益安定に寄与する見込みです。

2023年~2025年を期間とする「中期経営計画2025」でも掲げているとおり、当社は工程集約・自動化・DX・GXにより、お客様へより付加価値の高い製品、システム、サービスを提供すること、またそれらを通じて地球環境保護にも貢献する、MX戦略による持続的成長を目指しております。MXの推進によるお客様の生産性向上とサステナブルな社会の実現を目指して邁進してまいります。

当社は2024年1月に倉敷紡績株式会社が保有する倉敷機械株式会社(以下、倉敷機械)を連結グループ化いたしました。倉敷機械のCNC横中ぐりフライス盤を当社の製品群に加え、高品質なアフターサービスやソリューションを提案できるエンジニアを確保することは、今後のMX戦略において非常に重要であると考えます。倉敷機械とのシナジー効果を追求し、当社グループの持続的な成長と企業価値向上に努めてまいります。

また、当社グループ会社であり高精度位置検出システムを生産する株式会社マグネスケールは、2025年5月の完成を目指し奈良県にレーザスケールの生産工場を建設することを決定いたしました。レーザスケールは加工や検査の精度が向上する中、特に今後の半導体産業において重要性が高まる位置検出システムです。新事業所の建設後には、既存の伊勢原事業所と合わせて最大6万軸の生産能力を確保する予定をしております。

技術面では、高精度5軸制御横形マシニングセンタ「INH 63 / INH 80」を開発いたしました。幅広いワークを1つの自動化システムで生産可能かつ、消費電力を抑えた製品となっており、工程集約・自動化・DXを通して省エネで環境に配慮した生産現場作りをサポートいたします。また、小型のターニングセンタや複合加工機に搭載可能な高性能主軸「turnMASTER12in.C」を開発し、さらに工場内の工作機械や周辺機器をネットワークに接続しDX実現に貢献するコネクティビティサービス「DMG MORI GATEWAY」の提供も開始いたしました。今後も、高機能かつ信頼性の高い商品を提供し、ソフト・ハードの両面からお客様のMXやサステナブルな生産現場の実現に貢献してまいります。

販売面では、中国で開催された「CIMT 2023」、ドイツで開催された「EMO HANNOVER 2023」へ出展した他、ドイツ・フロンテン工場でのオープンハウス、アメリカ・シカゴでのイノベーションデーなど、各拠点でお客様に当社の技術を体験いただくイベントを開催いたしました。その他、小規模商談会「テクノロジーフライデー」も引き続きグローバルに開催しております。今後もデジタルとリアルの両方でお客様とつながり、お客様ニーズに沿ったご提案を行ってまいります。

人材育成の面では、お客様に当社実機を用いた加工トレーニングを提供する場所として、DMG MORI ACADEMYを浜松、金沢、仙台に開所いたしました。2024年夏には岡山、その後九州に開所を予定しております。また、高等専門学校生向けに5軸加工機など最新の工作機械の知識や操作経験を提供する「デジタルものづくり実践講座」や、5軸加工技術の普及と高度専門技術者の地位向上を目的とした資格制度「5軸加工技術検定」の提供を開始いたしました。10月には、第47回技能五輪国際大会に向けた2種目の日本代表選手選考会が当社の伊賀事業所を会場として開催され、当社基幹機種計4台を提供いたしました。今後も様々なコンテンツや制度のご提供を通し、将来の製造業を担う人材育成を支援してまいります。

当社では「よく遊び、よく学び、よく働く」を経営理念に掲げ、従業員の心身の健康向上のための施策を系統的に継続し展開しております。2021年に健康経営宣言を発表し、2023年には経済産業省と日本健康会議が共同で選定する「健康経営優良法人2023」の大規模法人部門 ホワイト500に認定されました。今後も従業員の心身の健康の保持・増進に向けて全社的に取り組んでまいります。

また、11月に三重県伊賀市にある当社伊賀事業所の最寄りJR関西本線新堂駅周辺地域をより魅力ある街とするための「新堂駅周辺プロジェクト」の一環として、「SHINDO YARDS(シンドウ ヤード)」を開設いたしました。当施設は図書館、伊賀市伊賀支所、北伊勢上野信用金庫が入居する複合施設です。当施設が伊賀地域の魅力の発信拠点となり、住民の皆様がより一層安心して子育てや教育に臨める環境・景観づくりに取り組んでまいります。

さらに、当社は持続可能な社会を目指し、資源循環型の社会に向けた取組みを行っております。2月には、当社グループ最大の生産拠点である三重県・伊賀事業所に自家消費型太陽光発電システムを導入し、第1期(5,400kW)の発電を開始いたしました。2024年予定の第3期発電開始後には、伊賀事業所の年間電力需要量の約30%を賄い、年間約5,300トン相当のCO2排出量を削減できます。今後も再生可能エネルギーの活用拡大を図るとともに、環境負荷低減を加速し、カーボンニュートラルな社会の構築に貢献してまいります。

 

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

売上収益

(億円)

4,748

5,395

営業利益

(億円)

412

542

親会社の所有者に帰属する当期利益

(億円)

254

339

基本的1株当たり当期利益

(円)

188.62

256.66

セグメントの動向及び業績は以下のとおりであります。なお、以下の売上収益には、セグメント間の取引については相殺消去しております。

マシンツールセグメントでは宇宙、航空、医療、EV(電気自動車)関連、新エネルギー関連向けの業績が好調に推移いたしました。その結果、売上収益は357,774百万円(前期比12.9%増)となり、セグメント損益は40,142百万円(前期比66.9%増)のセグメント利益となりました。

インダストリアル・サービスセグメントでは、補修部品販売、修理復旧の業績が好調に推移いたしました。その結果、売上収益は181,639百万円(前期比15.2%増)となり、セグメント損益は37,969百万円(前期比26.1%増)のセグメント利益となりました。

②財政状態の状況

(ⅰ)資産

流動資産は323,773百万円(前期比29,788百万円の増加)となりました。これは、主として棚卸資産が34,625百万円増加した一方で、営業債権及びその他の債権が5,509百万円減少したことによります。

非流動資産は442,033百万円(前期比55,683百万円の増加)となりました。これは、主として有形固定資産が26,266百万円、その他の無形資産が14,716百万円、のれんが8,744百万円、それぞれ増加したことによります。

この結果、資産合計は765,806百万円(前期比85,471百万円の増加)となりました。

(ⅱ)負債

流動負債は376,633百万円(前期比95,303百万円の増加)となりました。これは、主としてその他の金融負債が64,663百万円、営業債務及びその他の債務が10,107百万円、社債及び借入金が9,946百万円、それぞれ増加したことによります。

非流動負債は116,627百万円(前期比32,002百万円の減少)となりました。これは、主として社債及び借入金が12,622百万円増加した一方で、その他の金融負債が46,996百万円減少したことによります。

この結果、負債合計は493,261百万円(前期比63,301百万円の増加)となりました。

(ⅲ)資本

資本合計は272,545百万円(前期比22,170百万円の増加)となりました。これは、主として利益剰余金が22,418百万円、その他の資本の構成要素が7,641百万円、それぞれ増加した一方で、ハイブリッド資本が7,931百万円減少したことによります。

 

③キャッシュ・フローの状況

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

69,749

51,608

投資活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

△44,874

△36,730

財務活動によるキャッシュ・フロー

(百万円)

△38,978

△16,371

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

(百万円)

△10,305

2,219

現金及び現金同等物の期末残高

(百万円)

36,992

39,212

当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前期末に比べ2,219百万円増加し、当連結会計年度末は39,212百万円となりました。

(ⅰ)営業活動によるキャッシュ・フロー

「営業活動によるキャッシュ・フロー」は、51,608百万円の収入(前期は69,749百万円の収入)となりました。主な増加要因は、税引前当期利益47,927百万円、減価償却費及び償却費26,518百万円、営業債権及びその他の債権の減少13,524百万円であり、主な減少要因は、棚卸資産の増加20,725百万円、法人所得税の支払額9,879百万円であります。

(ⅱ)投資活動によるキャッシュ・フロー

「投資活動によるキャッシュ・フロー」は、36,730百万円の支出(前期は44,874百万円の支出)となりました。主な増加要因は、有形固定資産の売却による収入5,716百万円であり、主な減少要因は、有形固定資産の取得による支出26,178百万円、無形資産の取得による支出16,294百万円であります。

(ⅲ)財務活動によるキャッシュ・フロー

「財務活動によるキャッシュ・フロー」は、16,371百万円の支出(前期は38,978百万円の支出)となりました。主な増加要因は、長期借入れによる増加52,517百万円、短期借入金の増加15,696百万円であり、主な減少要因は、長期借入金の返済による支出49,362百万円、配当金の支払額10,029百万円、ハイブリッド資本の返済による支出8,000百万円であります。

④生産、受注及び販売の状況

(ⅰ)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2023年1月1日

  至 2023年12月31日)

 前年同期比(%)

マシンツール(百万円)

458,365

30.2

インダストリアル・サービス(百万円)

28,949

5.1

合計(百万円)

487,314

28.4

(注)1.上記金額は販売価格によっております。

2.上記金額には、消費税等は含まれておりません。

(ⅱ)受注実績

当連結会計年度における受注実績は、次のとおりであります。

 

受注高

(百万円)

前年同期比

(%)

受注残高

(百万円)

前年同期比

(%)

受注実績

519,900

△4.1

247,222

△2.5

(注) 上記金額には、消費税等は含まれておりません。

(ⅲ)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりであります。

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2023年1月1日

  至 2023年12月31日)

 前年同期比(%)

マシンツール(百万円)

357,774

12.9

インダストリアル・サービス(百万円)

181,639

15.2

全社(百万円)

37

23.3

合計(百万円)

539,450

13.6

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.上記金額には、消費税等は含まれておりません。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

①重要な会計方針及び見積り

IFRSに準拠した連結財務諸表の作成にあたり、期末日現在の資産・負債の金額、偶発的な資産・負債の開示及び報告対象期間の収益・費用の計上を行うため、必要に応じて会計上の見積り及び仮定を用いております。重要性がある会計方針及び見積りの詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 10.有形固定資産」、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 11.のれん及びその他の無形資産」に記載のとおりであります。

②経営成績の分析

経営成績の分析については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」に記載しております。

なお、2023年度の目標とした経営指標に対しては、全社受注5,200億円(目標5,200億円)で達成、売上収益5,395億円(目標5,380億円)で達成、営業利益542億円(目標540億円)で達成となりました。

③資本の財源及び資金の流動性

当社は、主に工作機械の製造及び販売事業を行うため、事業活動における資金需要に基づき、必要な資金の一部を新株発行、社債発行、銀行からの借入金及び売掛債権流動化により調達しております。なお、効率的な資金調達を行うため、主要取引金融機関と総額87,000百万円の貸出コミットメントライン契約を締結しております。当期末における当該借入残高は、20,200百万円であります。

当期末における当社グループの有利子負債の残高は、113,661百万円(前期末比22,568百万円の増加)となっております。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社の連結対象会社であるDMG MORI Europe Holding GmbHとDMG MORI AGとの間でのドミネーション・アグリーメントが2016年8月24日に発効されました。

 詳細については、「連結財務諸表注記 34.ドミネーション・アグリーメント」をご参照ください。

 

 

6【研究開発活動】

近年、人手不足による省人化や生産工程における省エネ化への対策は益々需要が高まっています。そこで当社は、工作機械を中心として実現する一連の効果をMX(マシニング・トランスフォーメーション)として、お客様に提案しています。まずは、高精度な5軸・複合加工機により工程を集約し、周辺機器の導入で自動化を実現することで、生産性の向上が可能になります。工程の自動化が進むことで、全工程で生じる情報をデジタル・AI技術で収集・分析・可視化することが可能となり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現します。これらにより、不要な仕掛品や中間在庫、廃棄物、エネルギー消費量の削減が進み、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現が可能となります。そのため、当社ではMXを実現するために機械・要素・電気・ソフトの開発リソースを適切に配分した体制を整えております。

2023年9月、ドイツのハノーバーで開催されたEMOショーでMXを実現できる新商品を発表しました。世界初公開の5軸制御横形マシニングセンタ「INH 63」では、解析を駆使し高剛性構造を実現し、優れた切削能力と空間精度を両立させ高付加価値部品の加工を可能にしました。新開発の立型大容量クーラントタンク「zero-sludge COOLANT pro」の採用により、クーラントの保守頻度を大幅に削減し長時間の自動運転も可能にしました。また、新操作盤「ERGOline X」を搭載することで優れた操作性と最新のDXも実現しています。zero-sludge COOLANT proやERGOline Xは他機種へも搭載を進めています。また、自立走行ロボット「WH-AMR」では、新たな機能として工具搬送を追加しました。計測装置との組み合わせで、機械への補正済み工具投入の完全自動化を実現しました。これにより、更なる工程集約により予想される工具本数増加にも対応できます。

3D造形が可能な「LASERTEC 3000 DED hybrid」では、新たにコーティング機能を開発しました。熱処理やコーティング工程も含めた集約が可能になり大幅な製作リードタイムやエネルギー消費量削減につながる提案が可能になりました。また、機械稼働の遠隔モニタリング「DMG MORI Messenger」、機械の遠隔操作「NETSERVICE」といったアプリケーションや、機械のネットワーク接続をワンストップで支援する「DMG MORI GATEWAY」など、DXを邁進できる商品の提供を進めています。

今後もMXを提案できる商品開発を進め、お客様の生産性向上とサステナブルな社会づくりに貢献していきます。

 

以上の研究開発活動の結果、無形資産に計上された開発費を含む当連結会計年度の研究開発費の総額は28,172百万円となっており、セグメント別としては、マシンツール23,058百万円、インダストリアル・サービス5,114百万円となっております。なお、上記研究開発費の総額には、研究開発活動間接費は含めておりません。