第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針等

 当社グループは、「創造全力、価値共有。つねに、その上をめざして。」をコーポレート・ステートメントとして設定し、お客様へ価値を提供し続ける仕組みをつくり、それを実行することにより、お客様の共感をいただき、つねに新たな可能性に向けて自らを革新し続けていくことに挑戦しております。

 具体的には、当社グループは、1992年、顧客価値と生産性の最大化を目的に、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・無駄を価値に変える「スパークス(SPARCS)」構想を発表しました。これはファッション産業において、これまで分断されていたビジネスモデルをつなぎ、在庫ロスと機会ロスを最小化すると同時に、当社グループにおいてコアとなる生産系、開発系、マーチャンダイジング系、店舗運営系のそれぞれの業務において再現性のある仕組みをプラットフォーム化することで競争優位性を高め、変化する顧客のニーズにスピーディーに応えることを意味しております。当社グループは、「スパークス(SPARCS)」モデルを日々進化させ、これまで培ったプラットフォームを梃子に、生産から販売に至るすべての業務やリアルとネットのオペレーションを情報で同時につなぐべく、IT技術で事業基盤を絶え間なくアップデートし続けております。

 そして、現在、中期的な基本方針として、より多様なブランド、ファッションの楽しさ、価値あるモノを、デジタル技術を活用したプラットフォームやサービスにより、ロス・ムダなくお客様に届けることで持続可能な産業世界を追求する、新たな「ワールド・ファッション・エコシステム」の実現を目指して、持続的な社会に適合したビジネスモデルの開発を推進しています。コロナ禍の環境下においてテクノロジーが日常生活に一段と浸透するなか、ファッションの新たな価値の提供と社会的課題の解決に向けた投資や活動に全速力で取り組んでまいります。

 

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

 当社グループでは、本業の稼ぐ力を表す「コア営業利益」を最も重要視する経営指標としております。コア営業利益は、IFRSに基づく売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて算出した、日本会計基準の営業利益に相当する数値であり、この持続的な向上を成長性の視点での重要指標に位置付けております。

 この他、当社グループでは、次期の中期経営計画で本格的な成長戦略を追求できるよう、価値創造的な状態を当中期経営計画「PLAN-W」で創り上げることが重要と認識しております。具体的には、「PLAN-W」において、最適資本構成の下でROEがCOEを超過する状態や、投下資本利益率(ROIC)が加重平均資本コスト(WACC)を上回る状態を目指します。このため、これまでのROA(コア営業利益ベース)に替えて、新たにROICを経営指標に設定しております。また、債務返済の能力及び事業の収益性・成長性を持続的に向上できるよう、有利子負債と株主資本の最適な資本構成を検討する目的から、従来のD/Eレシオに替えて、新たにネットD/Eレシオを財務体質の健全化指標といたしました。さらに、株主資本に対するリターンの効率性を表すROEの維持・向上にも注力しております。

 なお、現在の収益の柱であるブランド事業においては、商品(在庫)の収益性の指標として、交叉比率の分解能である「粗利益率」と「在庫回転率」の改善に取り組んでおります。また、成長性の指標としては、事業拡大に取り組んでいる非アパレル事業のコア営業利益が、当社グループ全体のコア営業利益に占める割合のほか、当社グループの持続的な成長をけん引するECチャネルでの売上高の連結売上高に対する比率も重視しております。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

 当社グループのブランド事業では、創業以来、経営環境の変化に応じ、卸売事業から百貨店SPA(Speciality store retailer of Private label Apparelの略であり、製造小売業を指します。)事業、ショッピングセンターチャネルでのSPA事業、Eコマース事業、ライフスタイルブランド事業へと拡大してきております。その結果、幅広い世代・テイスト、多様なチャネル及び幅広い価格帯をカバーする数多くのアパレルブランドを展開提供しております。これらの多業態・多ブランドの運営により培った多様性のマネジメント力、多様なファッションビジネスをフルカバーする情報システム、ファッションビジネスの事業改善に貢献する空間・製造・販売のフルラインナップのプラットフォームといった当社グループの強みを活かして、今後はアパレル事業の改善にとどまらず、非アパレル事業を拡大することを企図しております。非アパレル事業では、産業全体の構造的課題の解消に積極的に取り組むため、ユーズドセレクトショップやオフプライスストア事業の運営、大量生産から生じうる大量廃棄を回避してムダなく消費者に製品をお届けする循環モデルの確立、シェアリングを可能とするサブスクリプション型レンタルサービスなど、“ムダなモノを作らない”次世代ビジネスモデルの事業の推進も行っております。

 このように「ブランド事業」において自社ブランドのバリューアップ、他社ブランドへの投資などによる事業ポートフォリオ全体の最適化を目指すとともに、「デジタル事業」において、テクノロジーを駆使した他社向けのデジタルソリューションサービス(B2Bソリューション)を拡大することで、多様なテクノロジー、ベンチャー企業との連携を通じた新たなビジネス・シーズを育成し、顧客の変化に適合した次世代型ファッション・サービスの開発(B2Cネオエコノミー)を推進し、更なる付加価値の創造を進めていきたいと考えております。

 これらの結果として、当社としては、連結コア営業利益の持続的な成長を図りつつ、当社グループ全体のコア営業利益に占める非アパレル事業のコア営業利益(注)の割合(2023年3月期:40.6%、2024年2月期:33.8%)を、約50%を維持することとしております。

(注)「アパレル事業」/「非アパレル事業」の区分は、ブランド事業及びプラットフォーム事業をベースにして「アパレル事業」を把握するなど、当社が独自に定義したものであります。このため、一般にアパレルと称される事業領域が、当社グループのブランド事業及びプラットフォーム事業以外の事業セグメント(デジタル事業)に含まれる場合、当該領域は「非アパレル事業」に区分されることがあります。

具体的な定義及び算定方法は以下のとおりです。

「非アパレル事業」とは、当社グループの営む事業から「アパレル事業」を除いたものを指し、アパレル事業及び非アパレル事業のコア営業利益は以下のとおり算出されています(但し、いずれも未監査の数値です。)。

「アパレル事業」のコア営業利益 =[ブランド事業のコア営業利益-(海外のコア営業利益+国内ライフスタイルブランドのコア営業利益+投資のコア営業利益)]+アパレルプラットフォームのコア営業利益

「非アパレル事業」のコア営業利益=当社の連結コア営業利益-「アパレル事業」のコア営業利益

海外のコア営業利益は、台湾和亜留土股份有限公司及びWorld Saha Fashion Co., Ltd.各社のコア営業利益の単純合算です。

国内ライフスタイルブランドのコア営業利益は、株式会社ワールドライフスタイルクリエーション及びその傘下の子会社群のコア営業利益の単純合算(但し、株式会社ワールドライフスタイルクリエーションが当該子会社群から受領する配当額は控除)です。

投資のコア営業利益は、株式会社ワールドインベストメントネットワーク及びその傘下の子会社群のコア営業利益の単純合算(但し、株式会社ワールドインベストメントネットワークが当該子会社群から受領する配当額は控除)です。

アパレルプラットフォームのコア営業利益は株式会社ワールドストアパートナーズのコア営業利益並びに株式会社ワールドプロダクションパートナーズ及びその傘下の子会社群のコア営業利益(単純合算)の単純合算です。

 

(4)経営環境及び対処すべき課題

 当社グループを取り巻く経営環境は、人口減少や少子高齢化の進行にともなう販売数量減少に加えて、国内アパレル市場も成熟化してプレイヤーの淘汰が進む一方、海外生産地での加工賃上昇や為替変動による仕入価格の上昇に加えて、人手不足による人件費や物流費といった経費増加も生じるなど、引き続き厳しい状況が続くことが予想されます。また、デジタル化の進展を背景として消費者の購買行動は急速に変化しており、新たなビジネスチャンスが生まれているものの、新規参入企業の誘発などを通じて異業種や外資系も巻き込んだ競争激化が継続しております。

 新型コロナウイルス感染症は消費者の生活様式や購買行動を変化させたほか、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫による原料価格の高騰等、深刻な世界的ダメージにより、引き続き厳しい市場環境が続くことが想定されます。

 こうした国内アパレル市場や消費者の大きな変化の中で、永続的に成長を遂げ、勝ち続ける企業組織であるためには、これらの環境変化の認識のもと、更なる変革が必要であると認識しております。そして、自己変革を具現化するためにも、以下の点を対処すべき課題と認識し、解決に向けて重点的に取り組んでまいります。

 

①事業収益力の向上

 当社グループは、各事業セグメント間の密接な連携や相互の活用で一枚岩を図りつつ、それぞれのセグメントで異なる外部顧客に向けた営業活動等に取り組んでおります。

 それぞれの事業セグメントの具体的な課題や取り組みについては、以下のとおりであります。

 

(ブランド事業)

 国内外のアパレルブランド及び国内ライフスタイルブランドにおいては、強化すべきブランドと店舗への選択と集中に取り組んでまいりました。デジタル事業、プラットフォーム事業を拡大させていくためにも、ブランド事業が強靭であるということが当社グループの競争力の源泉との認識のもと、子会社各社が市場最適に向けた改善活動を行っていることに加えて、様々なテーマの改革をグループ横断で実施しています。

 成熟した市場では、過去のようなブランド開発や新規出店だけに頼った収益成長が見込めないと判断しており、また、コロナ禍での新しい価値観に対応するためにも、既存のブランドや店舗の付加価値を再構築するべく、グループに分散していたマーケティング組織を統合しマーケティング強化を進めるとともに、店頭で販売を担うドレッサーのインフルエンサー化によるSNS経由でのマーケティングを進めるなど店舗とECのシームレスなサービス提供に向けて総力を挙げて取り組んでまいります。

 これらの取り組みを通じて、既存店売上前年比については、「利益を伴わない売上は追わない」という基本方針を維持して、値引き販売を抑制しつつ、100%超を目指してまいります。

 この他、国内ライフスタイルブランド店舗の出店や、主に地域密着が重要な近隣商圏型ショッピングセンター(NSC)を対象に、当社グループのアパレル企画開発力とストアの運営ノウハウを最大限に活用したフランチャイズ事業の出店や、店舗での顧客体験価値向上の一環として店舗改装も進めてまいります。

 投資サブセグメントには外部より連結加入してきた企業が含まれております。当社グループ内では投資対象として優先順位が高くない場合、㈱ワールドインベストメントネットワーク又はその傘下の孫会社の下に移して管理支援を行いつつ、外部資本の活用等も視野に入れた事業開発・改革を進めて収益構造の確立を目指してまいります。

 なお、傘下の子会社については、事業のPMI(M&A後統合プロセス)を含む改革を実行し、一定程度の収益確保が認められる場合、当該子会社の事業内容に適した事業セグメントへ移管しております。

 

(デジタル事業)

 デジタル事業では、B2BソリューションとB2Cネオエコノミーという二つの空間に分け、B2Bソリューションでは当社グループの内から外へサービスラインを展開しており、B2Cネオエコノミーでは顧客の変化に適合した新たなファッション・サービスの開発に取り組んでおります。

 B2Bソリューションにおいては、EC等における受注、梱包、発送、入金等の一連のプロセスを指すフルフィルメント、バリューチェーンをフルカバーする多様な機能群に至る、ファッションビジネスに必要な全ての業務領域を支えるデジタルプラットフォームの構築と提供を推進しております。当社グループのリアルな事業経験に裏打ちされたシステムは、「中小企業でも低廉なコストで利用できるサービス」をコンセプトに他社への魅力あるサービス提供も視野に入れて、全業務領域のシステム刷新に伴う開発投資を行ってまいりました。今後は、ベンダーと協業で業界の共通基盤としてのシステムや付随するОМОコマース事業のソリューションを提供するほか、プロジェクトマネジメント、業務設計等のIT・業務コンサルティング、及びデジタルマーケティング運用等の受託事業へ進化させることで収益貢献を積み上げてまいります。

 一方、B2Cネオエコノミーにおいては、顧客の変化に合わせたビジネス・シーズを増やすべく、デジタル軸で新たなサービスの開発・展開に乗り出し、当社グループに足りない技術や資源、ノウハウについて外部から獲得・補強を進めてまいりました。「所有から利用へ」、「マスからパーソナルへ」、「一方通行から双方向へ」といったキーワードに代表されるように、消費の在り方そのものが大きく変化するなか、「次世代ファッションのビジネスモデル開発で欠かせないのが『つなぎ目にあるロス』を埋める協業である」という思想に基づき、従来の大量生産・大量販売からリユース・レンタル・オフプライスといった今あるモノを循環させるサーキュラー・エコノミーへと、過去における事業開発とは発想や仕様、手法から大転換していることが特徴です。今後、グローバルかつ、商品仕入を工夫することで魅力ある顧客サービスへ改善し、収益性を高めてまいります。

 

(プラットフォーム事業)

 プラットフォーム事業においては、当社グループが長年にわたって培ってきた様々なノウハウと仕組みが凝縮された、多業態・多ブランドを支えてきたプラットフォームについて、これまでの当社グループ企業に加えて、積極的に外部企業にも開放する形で各種サービスの提供へ取り組んでおります。

 アパレルプラットフォームにおいては、OEM受託として、国内から中国、アセアンにいたる幅広い生産基盤や商標資産、企画機能といった生産支援メニューを外部企業に提供しているほか、店舗開発や販売代行、在庫消化といった多様な販売支援メニューを提供しております。

 また、ライフスタイルプラットフォームとして、当社グループが多様な販売チャネルへの直営店の展開を通じて培ってきたノウハウやアセットも活用します。例えば、店舗設計や什器調達、VMD(注)機能等をファッション関連企業に空間創造支援サービスとして提供するほか、競争優位性のある海外什器調達力を背景にホテルや飲食店の内装等にも事業範囲を拡大しております。この他、シェアードサービスプラットフォームとして、ファッションビジネスに関わる様々な事務処理・手続き等の各種事務サービスを一括で受託できる体制を整えています。

 こうした当社グループの各種プラットフォームを顧客ニーズによって組み合わせ、ワンストップでサービスを提供することは、例えば、海外ブランド企業の日本進出支援に有効な手段となります。海外企業の日本初進出時には、店舗開発や店舗運営、経理等の本部機能やシステム構築、物流網の設置など、起業特有の多岐にわたる分野で幾つものハードルがあります。当社グループは、顧客の事業課題の特定、戦略構築から伴走しながら、顧客に

とっての最適商品・サービス開発・提供によって付加価値を高め、真のパートナーとなることを目指してまいります。

(注)VMDとは、ヴィジュアル・マーチャンダイジングの略。ディスプレイ、インテリア、販売促進など商品MDを視覚面からサポートする専門機能

 

②財務体質の改善

 当社グループは、保有資産の有効活用による価値極大化も目指しており、資産に対するリターンである資産効率の向上に取り組んでおります。

 これまで、ブランド事業の中核的なアセットである棚卸資産の圧縮で在庫回転率の改善を進めたほか、不動産の入れ替えなどで固定資産の収益力も引き上げました。こうした資産の効率性及び収益力の向上を図るとともに、その対となる資金調達面において、負債・資本バランスといった財務体質の改善を進めました。MBO時の資金源として銀行借入やメザニンを利用した経緯もあり、資本に対する借入金の割合が大きいといった課題を抱えていますが、借入金のリファイナンスにより安定的な財務基盤を構築した上で、事業活動により得た利益を原資として、有利子負債の圧縮を進め、財務体質の安定化を進めてまいります。

 2021年3月期において中期経営戦略を迅速且つ着実に推進する目的で永久劣後特約付ローン(注)による150億円の資金調達を実施しておりますが、2023年5月8日に公表した中期経営計画「PLAN-W」に基づき、借入での借換えを段階的に行っており、2023年9月には50億円を償還いたしました。

 

(注) 永久劣後特約付ローンは、元本の弁済期日の定めがなく利息の任意繰延が可能なことなどから、国際会計基準(IFRS)における「資本性金融商品」に分類され、本劣後ローンによる調達額は、当社連結財政状態計算書上、「資本」に計上されることになります。

 

 当社グループでは、債務返済の能力及び事業の収益性・成長性を持続的に向上できるよう、有利子負債と株主資本の最適な資本構成を検討する目的から、従来のD/Eレシオに替えて、新たにネットD/Eレシオを財務体質の健全化指標とし、中長期的にネットD/Eレシオ0.5倍を目指してまいります。

 

③人材等のリソースの確保

 当社としましては、今後の事業の柱に不可欠な人材や資金といったリソースの確保も重要課題と認識しており、企業価値改善と従業員価値改善の好循環を通じてステークホルダーの価値改善を実現してまいります。

 当社グループは、ファッションテックといった新たな分野に秀でた技術や人材を確保するため、グローバル・オファリングにより調達した資金を活用し、M&Aなどを通じエンジニア等の人材を得てきました。今後は、当社グループの事業構造の非連続な変革の実現には、優秀な人材の確保が引き続き重要と認識しており、まずはコロナ禍で傷んだ従業員処遇の回復に加え、持続的な従業員処遇改善に取り組んでまいります。加えて、外部人材を登用し、継続的に次世代リーダーを輩出していく仕組み作りにも注力してまいります。

 

④コーポレート・ガバナンスの強化

 当社はグループ企業価値を高めるため、事業持株会社としてグループ経営戦略を立案し、子会社間でのシナジー効果の追求や子会社に対する管理・監督機能を適正かつ有効に発揮すべく、今後もグループの業務や組織運営、事業ポートフォリオの最適化や保有資産の価値最大化に取り組んでまいります。

 そして、企業の社会的責任(CSR)の高まりに継続的に応えていくため、今後も意思決定プロセスの透明性確保や企業経営の効率性向上に注力するとともに、コンプライアンス体制の強化と内部統制システムの充実を図ってまいります。

 また、監督と執行の分離で迅速な意思決定を行うことにより、グループ企業価値の更なる向上を目指しております。同時に、社外取締役が過半数を占める取締役会の監督機能の強化や役員の健全な新陳代謝の進展なども図っており、グループの経営力の更なる向上ならびにコーポレート・ガバナンス体制の一層の強化に取り組んでおります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループは、『価値創造企業グループ』として長期的・持続的に価値を創造し、提供し続けるためには「持続可能な社会の実現」への貢献が不可欠であり、環境負荷及び社会活動に関する取り組みを企業経営における重要課題のひとつと位置づけております。

 そして、分散構造故に見える化が進んでいないファッション業界において、環境負荷の見える化を進めるとともに「ワールド・ファッション・エコシステム」を通じて、ファッション産業の多様性と持続性の両立を目指し、産業全体の構造的課題の解消に向けて積極的に取り組んでおります。

 「ワールド・ファッション・エコシステム」の構築を一段と高次元なものに昇華させることで、新たな成長機会の創出や社会が共感できる価値を創造すべく、ワールドグループならではの持続可能な社会に向けた戦略指針を具体化し、2022年6月にTCFD提言への賛同表明とともに、脱炭素社会の実現に向けて当社グループ独自の「ワールド・サスティナビリティ・プラン※1」を公表しました。目標達成に向けたKPIを設定し、各施策を実施しております。また、実現に向けた基盤として、人的資本経営のフレームワークの構築やダイバーシティの推進をしております。

 記載内容のうち将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

 サスティナビリティに係る基本方針や取り組みは、代表取締役 社長執行役員のもと組織されるサスティナブル委員会の下に担当役員及び担当部署を設置し推進しております。取締役会は、社長およびサスティナブル委員会から定期的に報告を受け、監視・監督を行っております。

(後記「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレートガバナンスの概要 ② 企業統治の体制の概要〈経営管理組織体制〉」参照)

 

(2)戦略

① 当社グループは、TCFD提言を参照し、気候変動がもたらす「リスク」と「機会」を明確にいたしました。抽出したリスクおよび機会について、シナリオ分析等に基づき継続的な見直しを行うとともに、損益・資金計画に与える影響について検討を進め、経営戦略にどのように反映されているかを説明することで、当社グループの戦略のレジリエンスを示してまいります。

分類

リスク

影響

対応

政策

及び

法規制

・2050年までのネットゼロ対応の義務化

・情報開示義務拡大への対応不備

・エネルギーコストの増加

・対応不備による製品需要の低下

・再エネ、省エネ等によるコスト縮小やエネルギー調達リスクの回避

・GHGプロトコルの順次算出と削減ロードマップの定期見直し

市場

・環境課題に対する顧客ニーズの急激な変化

・変化対応遅れによる製品、サービスの需要の低下

・市場分析、顧客分析によるニーズの把握と商品、サービスへの反映

急性

・異常気象による災害

・サプライチェーン寸断による原料調達不足、生産遅延・停止

・店舗、工場、事務所の損害、休業による収益減少

・BCP整備によるレジリエンス強化

慢性

・平均気温の上昇

・気温の変化に対応しない商品構成による売上低下

・冬物重衣料の売上低下

・機能性(接触冷感等)素材の開発

分類

機会

影響

対応

製品サービス

・環境意識の高い顧客の誘致

・環境配慮型製品、サービスの収益拡大

・リユース、リサイクル活動、シェアリングビジネス、アップサイクルビジネスによる需要の創造

・環境配慮型製品の製造、販売、サービスの拡大

・お客様やお取引先様と協働した環境活動の拡大

・社会貢献による企業価値向上

・「ワールド・エコロモキャンペーン※2」の拡大

 

② 当社グループの人材の多様性の確保を含む人材育成指針、社内環境整備方針は以下のとおりです。

〈人材育成指針〉

 社員の成長は組織の責務と捉え、従業員価値を高めポテンシャルを最大限引き出し、企業価値を高めるために、多様な事業形態を運営する当社グループならではの「複数のキャリアパスの整備」と「誰もが学び続けられる育成プログラム」を推進します。

 また、女性や中途入社の従業員、障がい者等、あらゆる従業員が安心して働き、活躍できる環境を整備、改善してまいります。

 

〈社内環境整備方針〉

・安全、健康に働ける環境

 グループ横断の安全衛生委員会を毎月開催し、全ての事業所の職場環境の改善と従業員の健康推進を実施しております。

・従業員エンゲージメント

 従業員に対して組織力調査を毎年実施し、組織単位の課題と改善策を明確にして、風土改革や生産性向上につなげております。

・ダイバーシティの推進

 アンコンシャス・バイアス研修や社内で活躍する女性達の経験値を共有する「女性活躍推進に向けた座談会」の実施、従業員のライフステージと生産性を両立する様々な制度(ライフ優先型勤務、副業制度など)の運用を推進しております。

 

(3)リスク管理

 当社グループでは、経営に悪影響を及ぼすリスクを全社的に把握し、その顕在化の未然防止と顕在化した場合の影響の最小化のため、代表取締役 社長執行役員のもと組織されるリスクマネジメント委員会の下にリスクマネジメント担当役員及び担当部署を設置し、当社グループ全体のコンプライアンス・リスクマネジメントプログラムを推進しております。

 気候変動、人的資本、人権に関わるリスクへの対応はサスティナブル委員会が主管となり、リスクマネジメント委員会と連携して進める体制としております。

 

(4)指標及び目標

 当社グループは、「ワールド・サスティナビリティ・プラン」にてアクションプラン、及び年次の環境に関する数値と人的資本に関する数値を開示しております。目標と主な取り組みは以下のとおりです。

項目

目標

2024年2月時点

主な取り組み

C

O

2

・自社負荷領域(Scope1&2):

 2030年までに50%(2018年3月比)とする

51.10%

・エネルギーを自社契約している事業所、工場:(実質)再エネ化を推進賃借している店舗等:貸主(館様等)の協力を得て再エネ電力の導入

・オフィス、店舗等のLED照明の導入

・間接負荷領域(Scope3):

 2030年までに商品1点当たり20%(2022年3月比)削減する

・原料をサスティナブル素材へ切り替えることによる排出量削減率の可視化

・サスティナブル素材を開発し、素材ブランド「CIRCRIC(サーキュリック)※3」として販売

・原料のサスティナブル素材へ切り替え促進のために、シーズン毎に切り替え目標を設定し、専用システムにて目標に対する実績をモニタリング

・2030年までに他社製品も含めた衣料品引き取り点数を1,000万点/年とし、リユース・リサイクルを促進する

270万点/年

・「ワールド・エコロモキャンペーン※2」実施拡大

・2025年までに商品の残在庫廃棄をゼロにする

38万点

(雑貨含む)

・気候変化に対応した商品開発や消費者ニーズに合った適正仕入、価格設定、在庫コントロールに加え、催事等での最終売り切りの促進

・物流資材の循環促進

・使用済み段ボールを活用したショッパーの利用促進

・納品用ハンガービニールのリユース・リサイクル

・2027年までに「お取引先行動原則」を100%浸透

・「お取引先行動原則」を制定し、同意書取得を推進

・仕入先に関する人権、環境のモニタリング実施

・子供たちの未来のための支援を継続

・「ワールド・エコロモキャンペーン※2」の収益金を子供達の未来のために寄付

・環境に配慮したワークショップの定期開催

・自社工場の残布や残糸等を活用したワークショップを全国のワールドグループの店舗および地方自治体が運営する施設などで開催

・地域、社会への貢献

・ワールド北青山ビル敷地内にドックランを併設、保護犬譲渡会への協賛

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・女性活躍推進

 

・2030年までに女性の役職者(組織の責任者として役割を担っている人材(店長含む))を労働構成比と同等にする

68.10%

・管理職登用3年以内の女性、および登用候補者を対象に、女性役員や部門長とのセッションを行う「座談会」を定期開催

・管理職へのアンコンシャス・バイアス研修の実施

・多様性の確保

 

・中途採用者の管理職比率50%以上を継続維持

62.70%

・多様な経歴所有者の意見、考えを組織運営に反映できる風土醸成

 

・障がい者雇用促進

2.85%

・障がい者が活躍できる職場環境の維持改善

 

・事業と連動した多様なポジション・キャリアの提供

・事業多様化に伴う複数のキャリアパスを確保し動的化

 

・ワークライフバランスの推進

・個々のステージに応じた柔軟な働き方などの制度の継続的改善や、休暇取得などの促進

 

・男性育休取得の推進

20.00%

・男性育休取得者の体験談を社内報にて公開

・制度の周知と管理職への教育

・人材育成プログラムの促進

 

・多様な学びの場の提供

・いつでも学べるeラーニングプラットフォームの活用

・ドレッサーとしての自立~スキルアップ~マネジメントを学ぶ年間プログラムの推進

・専門部門による店舗巡回指導と育成

・職種(MD、デザイナーの工場研修、パターンナー研修等)、階層(業務職、管理職等)に応じた研修プログラムの推進

 

・事業開発を通じての人材育成

・新規事業開発に向けたブラッシュアップ型ビジネスコンテスト「NEXT WORLD」開催を通じての人材育成

・従業員エンゲージメントの継続的な向上

 

・称賛の場の創出

・店舗で活躍する社員を表彰する「WORLD GROUP AWARD」を開催。ベストルーキー、お客様からおほめを頂いたドレッサー等を表彰

 

・社員同士の「つながり」強化

・部門間の壁がない「つなぐワールド」イベントの定期開催により、同職種、同エリアなど横の繋がりを強化

 

・組織状態のモニタリングと改善

・従業員アンケートにより定期的に組織状態をスコア確認し、課題項目について改善の具体的アクションを実行

 

※1 ワールド・サスティナビリティ・プラン:https://corp.world.co.jp/csr/pdf/world_sustainabilityplan_2022.pdf

※2 ワールド・エコロモキャンペーン:https://corp.world.co.jp/csr/pdf/world_ecoromo.pdf

※3 サーキュリック:https://store.world.co.jp/s/brand/circric/

3【事業等のリスク】

 当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があるリスクには以下のようなものがあります。記載内容のうち将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経済情勢の変化に関するリスク

 当社グループの取り扱う商品・サービスは、いわゆる基礎的支出の対象(生活必需品)ではなく、選択的支出(嗜好品)の対象ととらえられており、一般に選択的支出(嗜好品)は、収入面での不安がもたらす家計の防衛意識などから、支出抑制の対象となりやすい傾向にあります。当社グループは、収益の大部分を日本国内で得ているため、日本の経済情勢の影響を強く受けます。このため消費税増税等の政策や自然災害等日本固有の要因はもとより、地政学リスクや原料高等に起因する世界的な経済活動の低迷等が日本の経済情勢に悪影響を与え、当社グループの収益に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

(2)消費者の嗜好の変化等に関するリスク

 当社グループが取り扱う衣料品、服飾・生活雑貨を中心としたファッション業界は、ファッショントレンドの移り変わりによる消費者の嗜好の変化の影響を大きく受けます。ファッショントレンドについては、SNSの浸透等により情報の発信源が広がっていることや、中長期的にはより低価格の商品が嗜好される傾向にある一方で、近時は相応の品質を備えた商品が好まれるトレンドも一部で見られるなど、消費者の嗜好は多様化しており、これを正確に予測することは従来に比して困難になっております。

 当社グループは多くのブランドを複数の販売チャネルで展開することで消費者の多様な嗜好に対応していく所存ですが、現時点で当社グループがその収益の大半を得ているブランド事業において、当社グループがこのような消費者の嗜好の変化に適時かつ適切に対応できない場合や当社グループ又はその各ブランドの消費者からの評価や支持が低下した場合には、当社グループの事業及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3)仕入価格その他の費用の増加によるリスク

 当社グループの事業活動については、製造国・地域の人件費増加、原材料費の増加、為替レートの変動等を要因とした仕入価格の上昇が発生する可能性があり、とりわけ当社グループの商品の多くが製造されている中国をはじめとする新興国における人件費の増加、世界的な物流網の混乱や原料高、米ドルに対する円安の影響を受けやすい状況にあります。

 また、国内においても、都市部を中心とする賃貸物件の賃料の上昇、原油価格の高騰や物流業界における人手不足による輸送費用の増加、各販売チャネルや製造拠点における人件費の増加又は今後の新規出店やシステム投資による減価償却費の増加も見込まれます。当社グループは、このような仕入価格や費用等の増加の影響を価格設定やその他の手段によって抑えるように努めておりますが、かかる措置が功を奏しない場合には、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4)人材に関するリスク

 当社グループでは、人材は企業の競争力の源泉であり、企業は個人の自己実現の「媒体」であるという考えから、「人中心経営」の発展に日々努めております。しかしながら、近年の日本における労働人口の減少やこれに伴う人材獲得競争の激化及び人件費の高騰等により、経営幹部、ITエンジニア、投資人材、デザイナー・パタンナー、販売員等、有能な人材を確保、育成、雇用継続することができず、又は、これに多額の費用を要することとなり、その結果、当社グループの事業及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5)仕入先、製造委託先、物流委託先その他の取引先に関するリスク

 当社グループでは、仕入先、製造委託先、物流委託先その他の取引先の経営状況及び信用度の把握に努めております。しかしながら、取引先の経営状況の悪化や信用不安により、貸倒れ、支払いの遅延や商品の調達・販売の支障が生じる可能性があるほか、出店先である百貨店・ショッピングセンター・駅ビル・ファッションビル等の経営破綻や閉店等により、当該施設に出店する収益店舗等の営業活動が終了し、また、追加的な損失や引当の計上が必要となり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6)新規事業に関するリスク

 当社グループでは、長期的・持続的な企業価値の向上を目指すため、常に顧客のニーズの動向やマーケット・チャネルの効率性の変化を的確に捉えるべく、新たな価値を生み出すための新規事業に積極的に取り組み続けております。新規事業を開発・推進していく過程で事業投資を行う際には、十分な調査・研究を行った上で最終的な判断を下すよう留意しておりますが、市場環境の急速な変化や当社グループの新規事業での経験の不足等により当社グループの期待した成果を上げることができない場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7)M&Aに関するリスク

 当社グループでは、事業ポートフォリオの最適化又は投資成果の享受を目的として、当社グループが直接行う買収・マイノリティ出資や当社グループの出資する投資ファンドを活用したM&Aによって、設備、人材又は技術・ノウハウ等を保有する企業をグループに迎える等して、事業の継続的拡大を推進しております。しかし、M&Aにおいて、個々の案件の獲得が成功するかどうかは、当社グループが投資にかかる適切な機会を発見できるかということや、資金力のある他社との競争並びに当社グループによる投資機会についての正確な評価及び売主との交渉力に左右される可能性があり、さらに買収後も、当社グループのノウハウやリソースを投入したにもかかわらず、PMI(M&A後統合プロセス)が円滑に進まない、又は、市場経済状態の悪化等の当社グループの影響が及ばない要因により当初期待した収益や効果が得られずに目的を達成できない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、マイノリティ出資においては、出資先の経営陣が当社グループの意思に反する経営判断を下す、又は当社グループの意思に反して若しくは不利な条件で、当社グループの投資持分を売却せざるを得なくなる可能性があり、その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8)情報に関するリスク

 当社グループは、直営店舗やECサイトにおける顧客、従業員等の個人情報のほか、経営戦略上の施策、商品開発等に関する重要な機密情報を多数保有しております。

 これら個人情報及び機密情報の取り扱いについては、情報管理者を選任し、データベースへのアクセス環境、セキュリティシステム、紙情報の保管管理等の改善を常に図り、情報の利用・保管等に関する社内規程・基準を設け、情報の取り扱いに対する意識の向上を目的とした社員教育の徹底や、牽制システムの構築等、情報管理体制を整えておりますが、人為的なミス、コンピュータシステムの予期せぬトラブル等による情報流出や不正アクセスやサイバー攻撃等の犯罪行為による情報漏洩が発生する可能性があります。このような事態が発生した場合、当社グループは、顧客等からの損害賠償の対象となり又はこれに対応するための費用等が生じうるほか、行政処分の対象となる可能性があり、その結果、当社グループの社会的信用度が低下し、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)知的財産権に関するリスク

 当社グループでは、特許権、商標権等の知的財産権を所有しており、法令の定め及び社内規程に則って関係する国や地域での商標の取得を含む管理体制を整えておりますが、国・地域等によっては知的財産権の保護に関する制度や体制が十分に確保されているとは言えない場合があります。また、国内外において、当社グループ商品の模倣品が市場に流通する等、当社グループの知的財産権が第三者により侵害された場合、当社グループ又はそのブランドのイメージを侵害し、当社グループの事業及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 また、当社グループが意図せず第三者等の知的財産権を侵害してしまった場合には、当該第三者から訴訟等を提起される可能性があり、損害賠償や補償等、又は訴訟等に対応するための多大な時間、労力、費用を要する可能性があることに加え、当社グループ又はそのブランドのイメージ、評価、社会的信用を害する可能性があり、その結果、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10)ハザードに関するリスク

 当社グループでは事業継続計画(BCP:Business continuity planning)を作成する等BCM(Business continuity management)に関する取組みを行っております。しかし、異常気象や地球温暖化等の影響による天候不順、台風や集中豪雨等の予測できない気象状況の変化が起きた場合、又は、地震及び地震に起因する津波、電力不足等・風水害・落雷等不測の自然災害やパンデミック、突発的な事故、火災及びテロ行為、インフラの断絶、ITシステムの故障等により、事業の一部中断や取引先(仕入先等)に被害が生じた場合、当社グループの売上が減少するのみならず、製造及び出荷の遅滞、又は製造・物流設備の修理、取替え、再製造等に係る費用が増加し、多額の損失をもたらし、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)海外に関するリスク

 当社グループは、中国、台湾、タイでの販売事業と中国をはじめとするアセアンでの生産管理及び貿易業務を行っております。当社グループの連結売上高に占める海外売上高の割合は現時点では軽微ですが、今後海外で販売・生産の両面を進める上において、現地における自然災害や感染症、テロや戦争、政変や経済情勢の悪化、為替レートの変動、インフレの発生や生産コストの上昇、運輸・物流の未整備、現地従業員の雇用問題、地政学的問題等の社会情勢、知的財産権訴訟を含む法律や制度及びその改正、消費者の嗜好及び購買行動の差異といったリスクが内在しております。

 海外における事業に関しこれらのリスクが現実化した場合には、取引工場の操業が困難になり、日本国内への商品供給体制(仕入活動)に支障が出る等の問題が発生することや海外での売上が減少することにより、当社グループの事業及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12)外国為替相場の変動に伴うリスク

 当社グループの商品の多くは海外で生産されていますが、大半の商品は日本国内で販売されているため、当社グループの商品の仕入価格は外国為替相場の変動により影響を受けます。

 また、海外子会社の財政状態及び経営成績、外貨建ての取引並びに資産及び負債は、当社グループの連結財務諸表の作成時に円建てに換算されるため、当社グループの財政状態及び経営成績は外国為替相場の変動により影響を受けます。

 

(13)減損に関するリスク

 当社グループは、2024年2月29日現在、2006年4月のMBOを含む過去のM&A等により生じたのれん60,317百万円を連結財政状態計算書に計上しているほか、その他の有形・無形の固定資産も有しています。今後、これらの固定資産に係る事業の収益性が低下する場合、当該固定資産の帳簿価額と公正価値の差を損失とする減損処理により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 なお、当社グループが認識しているのれんは、各連結子会社を資金生成単位として配分し、減損テストを実施しております。当社グループにて実施しているのれんの減損テストについては後記「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 13.無形資産」を参照下さい。

 

(14)多額の借入金、金利変動及び有利子負債の財務制限条項への抵触に関するリスク

 当社グループは、金融機関からの融資契約(シンジケートローン)及び金銭消費貸借契約(永久劣後特約付ローン)を含む借入により事業資金を調達しております。永久劣後特約付ローンは、元本の弁済期日の定めがなく利息の任意繰延が可能なことなどから、国際会計基準(IFRS)における「資本性金融商品」に分類され、本劣後ローンによる調達額は、当社連結財務諸表上、「資本」に計上されることになるため、2024年2月29日現在における総資産に対する借入金の割合は31.0%となっております。

 当社グループは、中長期的に借入金の削減を行っていく予定ですが、かかる削減が進行しない場合、借入金及び金融費用・支払利息の計上により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループの借入金のほとんどについては変動金利となっているものの、現在の金利動向等に鑑みて、当社グループは金利変動へのヘッジを行っていないことから、市場金利が上昇等により調達金利が変動した場合には、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、当社グループが締結している融資契約(シンジケートローン)に基づく借入金については、一定の財務制限条項が付されております。かかる財務制限条項は、純資産維持及び利益維持に関する一般的な数値基準を設けるものであり、当該金融機関からの調達以降、本書提出日現在において財務制限条項には一度も抵触しておりませんが、仮に今後これらに抵触し、かつ貸付人の請求がある場合は、当社グループは当該契約上の期限の利益を失うため、ただちに債務の弁済をするための資金の確保が必要となり、当社グループの財政状態及びキャッシュ・フローに影響を及ぼす可能性があります。

 

(15)気候変動がもたらすリスク

 当社グループは、気候変動に関わる課題を当社グループの経営に重要な影響を与える主要なリスクのひとつとして認識しております。気候変動による影響は一部顕在化しており、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。リスクが当社の経営に与える影響と影響に対する対応策については、前記「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)戦略」を参照ください。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度の末日現在において判断したものであります。

 

①経営成績の状況及び分析

 当連結会計年度(2023年4月1日~2024年2月29日)の経営成績は、売上収益が2,023億42百万円、コア営業利益が135億69百万円、営業利益が120億4百万円、税引前当期利益が111億86百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は67億64百万円となりました。

 当連結会計年度は、2023年5月8日に公表した中期経営計画「PLAN-W」の初年度にあたり、構造改革効果の一巡や従業員報酬の拡充等も踏まえて「上期勝負」を掲げ臨んだ上期を順当に乗り切りました。そして下期も、第3四半期連結会計期間はコア営業利益の連続増益記録を12四半期に伸ばして決算期変更前の有終の美を飾り、通期でもコア営業利益以下全ての損益段階で計画達成したのみならず、全利益段階で当期11ヶ月間が前期12ヶ月間を上回りました。

 売上収益では、新型コロナウイルス感染症の5類移行による経済・社会活動の正常化が一段と進み、外出需要や都市集客の回復が継続したことなどから、既存店売上は2024年2月まで24ヶ月連続で前年超過を達成し、店舗売上はアパレルが牽引する格好で成長が持続しました。

 利益面においては、店舗とECの両販路で残暑や暖冬などの気温変化に販売掛率のきめ細かなコントロールで対応した結果、売上総利益率は58.5%となりました。販売費及び一般管理費では、従業員処遇の改善に伴う人件費の増加や店舗売上の増加による家賃・賃借料の増加はありましたが、経費コントロールを徹底し販管費率は51.8%となりました。本業の稼ぐ力であるコア営業利益が原動力となる形で、全ての利益段階において「PLAN-W」初年度の目標を達成しました。

 なお、当連結会計年度は、決算期の変更により、2023年4月1日から2024年2月29日までの11ヶ月間となっております。このため、前年同期比較については記載しておりません。

 

 セグメント別の状況は次のとおりです。

 

a. ブランド事業

 ブランド事業においては、ブランドポートフォリオ戦略を機動的に修正し、ブランド事業セグメント全体最適の視点で成長性と収益性のバランスを図っています。

 百貨店を中心に展開するミドルアッパーブランドは、ブランドらしさを残しながら差別化された付加価値の高い商品開発を行う一方で、生活様式の変化へ柔軟に対応することが求められています。また、今まで以上にお客様とのより強いつながりを構築するため、マルチチャネル化やOMO(Online Merges with Offline)戦略を推進することで、新たな機会を通じた関係構築へ積極的に取り組んでおります。このほか、世界的な物価上昇や円安の為替動向に左右されないよう、自社工場体制を活かした国内生産への回帰も着々と進めております。

 ショッピングセンターを中心に展開するミドルロワーブランドにおいては、プロパー販売月とセール月の境目がなくなりつつあるなか、春夏や秋冬といった従来の大きなシーズン括りに捉われず、仕入から販売期間が終わるまでの商品ライフサイクルを今まで以上に短く捉えてプロパー主体の販売に注力しております。また、チャネルレスの進行などを背景として、第1四半期連結会計期間より、SC主体のミドルロワー事業を1社に集約してスケールメリットも追求しております。

 ライフスタイルブランドでは、「暮らしの今を、もっと素敵に!もっと楽しく!」をテーマに、暮らしに寄り添った衣・食・住を生活雑貨や服飾雑貨で提案し、引き続きお客様の支持拡大に努めています。また、ブランドのコンディションに応じて、積極出店など成長を目指す子会社、抜本的な収益構造の改革に取り組む子会社、収益基盤を固める子会社など、それぞれ異なるミッションを追求しています。もともとNB(ナショナルブランド)が強い領域ですが、事業規模の拡大を背景に、自主企画のオリジナル商品の開発にも挑戦しております。

 一方、投資グループにおいては、プラットフォーム導入によるシナジー追求や収益構造の向上・確立をテーマに掲げております。開発・改革ブランドでは構造改革とそれに続く成長戦略の推進に取り組んでいます。また、M&Aブランドでは「靴」のバリューチェーンの大半を自社でカバーする神戸レザークロス㈱や、質の高い革小物で世代を跨って支持を得る㈱ヒロフを展開しており、前連結会計年度末にはラグジュアリーセレクトを運営する㈱ストラスブルゴの完全子会社化により、高価格帯の事業ポートフォリオを拡張しました。

 こうしたなか、当連結会計年度では、人流の店頭回帰で店舗販路の収益の回復・成長が鮮明となり、利益面においては特にミドルロワーのアパレルブランドの改善が顕著でした。

 この結果、ブランド事業の経営成績は、売上収益が1,754億25百万円(うち外部収益は1,727億43百万円)、コア営業利益(セグメント利益)が97億18百万円になりました。

 

b. デジタル事業

 デジタル事業においては、「B2Bソリューション」と「B2Cネオエコノミー」から成り立っており、B2Bはこれまでの積極投資の回収を、B2Cは「選択と集中」による成長加速を目指しております。

 B2Bソリューションでは、ECの運営受託サービスにおいて、自社ブランドを中心に販売する直営ファッション通販サイト「ワールドオンラインストア(WOS)」をはじめ、他社公式ECサイトの開発・運営を受託しております。自社サイト運営においては、アプリの機能改善やOMO活動の強化を背景に、直営店舗とのシームレスなサービス改善をブランド事業と一体で推進しております。また、ソリューションサービスでは、物流業界の2024年問題に対する自社グループの物流コスト抑制の取り組みや基幹システムの更新に留まらず、他社への在庫コントロールシステムの導入・運用サービスを提供しており、売上拡大に向けた営業活動を強化しております。

 B2Cネオエコノミーにおいては、「サーキュラー」というキーワードへ焦点を当てる形で、これまで様々なテーマで実験してきた事業の「選択と集中」による成長戦略を追求しています。ラクサス・テクノロジーズ㈱ではブランドバッグに特化したサブスクリプション型レンタルサービスを営むほか、保有資産であるバッグの稼働率に着目したバッグ試用販売等で事業サービスを拡充しております。また、ユーズドセレクトショップ「RAGTAG」を運営する㈱ティンパンアレイは店舗とECの相互活用による仕入・販売両面のOMO戦略で成長を追求するほか、カジュアル業態「usebowl」の実験開始や、オフプライスストア「& Bridge」との事業連携を推進しています。

 そして、当連結会計年度から、サーキュラー事業への特化が早くも奏功してきており、「RAGTAG」では海外からの入国制限の緩和によるインバウンド需要の追い風も受けました。

 この結果、デジタル事業の経営成績は、売上収益は296億48百万円(うち外部収益は117億79百万円)、コア営業利益(セグメント利益)が17億61百万円になりました。

 

c. プラットフォーム事業

 プラットフォーム事業においては、ワールドグループが培ってきた様々なノウハウと仕組みを活用したプラットフォームの外部企業へのオープン化を推進し、業界の枠組みを超えた新たな事業領域の拡大に取り組んでいます。

 中間持株会社の㈱ワールドプラットフォームサービスは、プラットフォーム事業の収益モデルを整える事業マネジメント機能と外部企業(クライアント)へのマーケティング機能を有します。各プラットフォームのノウハウ・仕組みを横断的に組み合わせ、クライアントのニーズに最適なサービスをワンストップで提案・提供します。

 生産プラットフォームの㈱ワールドプロダクションパートナーズは、自らの商社機能を発揮して直接貿易スキームの構築や、製造子会社群の生産性改善の指導・支援をするほか、外販主体の専門商社である㈱イディオムや㈱ラ・モード等の工場では、他社アパレルの商品開発及び製造(OEM・ODM事業)の受託も強化しております。

 販売プラットフォームの㈱ワールドストアパートナーズでは、商品在庫の最終的な換金に不可欠なアウトレット「NEXT DOOR」や他社ブランドの出店も年々増やしてきたファミリーセール等の催事を運営するほか、様々な業種業態の販売代行業務といった外販サービスも着実に拡充してきております。

 こうしたアパレル起点の生産・販売プラットフォーム以外では、㈱アスプルンドに代表される子会社群が、空間創造や什器・備品の製造販売(建装)、家具や雑貨の卸からコントラクトに至るライフスタイル領域も手掛けております。プラットフォーム事業のサービスラインやクライアント層の幅を拡張することに寄与しています。

 当連結会計年度においては、円安等に応じた取引条件の変更による粗利確保や案件単位の採算性も考慮した外販受注などが進みました。

 この結果、プラットフォーム事業の経営成績は、売上収益は673億26百万円(うち外部収益は176億70百万円)、コア営業利益(セグメント利益)が5億28百万円になりました。

 

d. 共通部門

 事業セグメントに属さない共通部門においては、子会社からの配当や経営指導料等を収入として計上し、当社(ホールディングス)のコーポレートスタッフ等の費用を賄うことを基本的な収益構造としておりますが、子会社からの配当は予めセグメント利益から除いております。

 共通部門は、「グループ経営本部」、「グループ人事統括室」といったコーポレートスタッフに加えて、グループの商品鮮度向上とソフト開発を監修する「クリエイティブ・マネジメント・センター」、社外並びにグループ内へのコミュニケーションを推進する「IR・グループコミュニケーション室」などで成り立っています。

 ホールディングスは重点分野への集中投資という自らの役割を果たすため、子会社からホールディングスのスタッフ等の実費を上回る経営指導料等で回収することを原則としておりますが、機能集約化などを不断に進めて自らの生産性の改善に努めております。

 当連結会計年度においては、グループ各社の収益拡大に伴って料率方式の経営指導料収入が増加した反面、事務所の集約による受取賃料の減少や従業員処遇の改善に伴う人件費の増加の影響を受けました。

 この結果、共通部門の経営成績は、売上収益は69億20百万円(うち外部収益は1億50百万円)、コア営業利益(セグメント利益)が16億32百万円になりました。

 

<サステナビリティ(持続可能性)への取り組みについて>

 当社グループは、『価値創造企業グループ』として長期的・持続的に価値を創造し提供し続けるためには、「持続可能な社会の実現」への貢献が不可欠であり、環境負荷及び社会活動に関する取り組みを企業経営における重要課題の一つと位置づけております。そして、分散構造故に見える化が進んでいないファッション業界において、環境負荷の見える化を進めるとともに、「ワールド・ファッション・エコシステム」を通じて、ファッション産業の多様性と持続性の両立を目指し、産業全体の構造的課題の解消に積極的に取り組んでおります。

 これまでも掲げてきた「ワールド・ファッション・エコシステム」の構築を一段と高次元なものに昇華させることで、新たな成長機会の創出や社会が共感できる価値を創造すべく、ワールドグループならではのサスティナビリティ社会に向けた戦略指針を具体化し、2022年6月にTCFD提言への賛同表明とともに、脱炭素社会の実現に向けて当社グループ独自の「ワールド・サスティナビリティ・プラン※1」を公表し、目標達成に向けた各施策を推進しております。また、この各施策の推進と並行して、環境省による「脱炭素化推進モデル事業」として、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出削減計画の策定・実行にも取り組みました。

 当連結会計年度に取り組んだ主なサスティナビリティ活動は次のとおりです。

 

■Environment(環境)

・温室効果ガス排出量削減のため、シーズン毎にサスティナブル素材使用の計画策定と実績管理をしております。また、2023年秋冬よりサスティナブル素材ブランド「サーキュリック※2」を活用した商品の販売を開始しました。

・お客様から不要な衣料品等を引き取り、リユースにつなぐ「エコロモキャンペーン※3」を、従来の百貨店中心での開催からショッピングセンターなどにも大幅拡大しました。

■Social(社会)

・「エコロモキャンペーン」の収益金を子供達の未来のために寄付しており、これまでの寄付総額は1億9百万円になります。また「エコロモ キャンペーン」や「グループ社員によるエコロモへの参加」の収益金を令和6年能登半島地震の義援金として寄付を行っております。

・自社工場の残布や残糸等を活用したワークショップを、全国のワールドグループの店舗および地方自治体が運営する施設などで開催し、当期は累計7,674名に参加頂きました。

・ワールドグループ社員の子供達が、親の職場を訪問する「ワールドこども参観日」を開催し、これまで累計34回にて、730家族、997名の子供達が参加しました。

■Governance(ガバナンス)

・サスティナビリティに関する取り組みは、代表取締役 社長執行役員のもと組織されるサスティナブル委員会の下に担当役員及び担当部署を設置し、推進しております。

・独立社外取締役が過半以上の取締役会では、社長及びサスティナブル委員から定期的に報告を受け、その進捗の監視・監督を行っております。

■人的資本経営

・ESGそれぞれの施策と連動した「人材開発、ワークライフ、多様性、処遇改善など、ヒトが中心の各種施策」を進めております。

・推進テーマを「知識の利用可能性向上(ナレッジ共有の進化)」「ワークフォースの最適化(生産性の向上)」「多様性向上」「エンゲージメント(組織力向上)」と定め、これらのテーマでKPIを設定しております。グループ全体で目標数値達成に向け、PDCAを回して企業価値の向上を目指します。

・ダイバーシティ&インクルージョン推進に向けた具体的な施策として、「アンコンシャス・バイアス研修」、「女性活躍推進座談会」を実施しました。

 

※1 ワールド・サスティナビリティ・プラン:https://corp.world.co.jp/csr/pdf/world_sustainabilityplan_2022.pdf

※2 サーキュリック:https://store.world.co.jp/s/brand/circric/

※3 エコロモキャンペーン:https://corp.world.co.jp/csr/pdf/world_ecoromo.pdf

 

 詳細は前記「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。

 

②財政状態の状況及び分析

当社グループの財政状態の状況及びその要因につき、次のとおり分析しております。

 

(資産)

 資産合計は2,396億85百万円と前連結会計年度末に比べて117億37百万円減少しました。

 この主な要因は、店舗不動産の契約期間の経過に伴う償却によって使用権資産が約31億円、売上債権及びその他の債権が約49億円、前連結会計年度における当社の共同支配企業であるW&Dインベストメントデザイン投資事業有限責任組合による㈱ストラスブルゴの株式売却に伴う一連の会計処理により持分法で会計処理されている投資が約19億円それぞれ減少したことによるものです。

 

(負債)

 負債合計は1,512億67百万円と前連結会計年度末に比べて109億25百万円減少しました。

 この主な要因は、店舗不動産のリース料の支払いが進んだことでリース負債が約31億円、借入金の返済に伴い借入金が約43億円、仕入債務及びその他の債務が約22億円、それぞれ減少したことによるものです。2023年9月に永久劣後特約付ローンから通常の長期借入金へ約50億円借り換えを実施し借入金が50億円増加しましたが、当連結会計年度において返済が進み、前連結会計年度の借入金残高と比較すると約43億円減少しております。

 

(資本合計)

 資本合計は884億18百万円と前連結会計年度末に比べて8億12百万円減少しました。

 この主な要因は、当期利益を約73億円計上したことで、利益剰余金及び非支配持分が増加した一方、当社及び㈱ナルミヤ・インターナショナルにおいて、利益剰余金と非支配持分合わせて約22億円が配当金の支払いで減少したほか、当社グループが㈱ナルミヤ・インターナショナルの株式を追加取得したことで、非支配持分が約8億円、永久劣後ローンの一部償還によってその他資本性金融商品が約49億円、永久劣後ローンの利払いにより利益剰余金が約3億円、それぞれ減少したことによるものです。

 

(在庫)

 当社グループではブランド事業が売上収益の大半を占めておりますが、ブランド事業におけるアパレルブランドの事業特性から、売上債権と棚卸資産の合計から仕入債務を差し引いた運転資本のコントロール、とりわけ棚卸資産(在庫)の抑制を重視しております。

 当連結会計年度末の運転資本は218億91百万円と前連結会計年度末に比べて約28億円の減少となりました。決算期の変更により前連結会計年度末は3月末日時点の運転資本と比較しております。運転資本が減少した背景は、売上債権の減少によるものですが、季節要因により例年2月に比べ3月の売上債権が大きく増加し、それに比例して運転資本も増加する傾向にあります。なお、前連結会計年度の2月末日の運転資本は197億22百万円となり、当連結会計年度と比較すると約22億円増加しております。

 

(ネットD/Eレシオ)

 当社グループでは、債務返済の能力及び事業の収益性・成長性を持続的に向上できるよう、有利子負債と株主資本の最適な資本構成を検討する目的から、従来のD/Eレシオに替えて、新たにネットD/Eレシオを財務体質の健全化指標といたしました。中長期的にネットD/Eレシオ0.5倍を目指してまいります。

 当連結会計年度のネット有利子負債は581億18百万円と前連結会計年度末より約49億円、親会社の所有者に帰属する持分合計については約4億円、それぞれ減少しました。その結果、当連結会計年度のネットD/Eレシオは前連結会計年度末の0.76倍から0.71倍と0.06ポイント改善しました。この間において資本勘定である永久劣後ローン50億円を借入金にて借り換えたことを考慮すれば、この結果は財務体質の健全化が着々と進んでいることの証左と考えられます。

 

(ROE)

 当社グループでは、2023年5月8日に公表した中期経営計画「PLAN-W」において、株主資本コスト(COE)を超過する株主資本当期利益率(ROE)として10%超の実現を3年以内に目指す、と説明いたしました。現在では、これまでの業績等の進捗状況も踏まえて、「PLAN-W」最終年度の2026年2月期に12%に近づくよう努めています。

 当連結会計年度の実績を反映した12ヶ月換算のROEは、前連結会計年度の7.1%から2.5ポイント改善の9.6%となりました。このROEの上昇には、分母の親会社所有者に帰属する持分合計が株主配当の増加や永久劣後ローンの一部償還で抑制された側面もありますが、それ以上に分子である親会社の所有者に帰属する利益の大幅な向上が原動力となっており、ROE2桁超の目標達成に向けて順調な進捗となっているものと評価しております。

 

(ROIC)

 当社グループでは、次期の中期経営計画で本格的な成長戦略を追求できるよう、価値創造的な状態を「PLAN-W」で創り上げることが重要と認識しております。具体的には、「PLAN-W」において、最適資本構成の下でROEがCOEを超過する状態や、投下資本利益率(ROIC)が加重平均資本コスト(WACC)を上回る状態を目指します。

 このため、これまでのROA(コア営業利益ベース)に替えて、新たにROICを経営指標に設定しており、当中期経営計画「PLAN-W」最終年度には目標値8.5%を射程圏とできるよう努めます。また、事業別ROICの設定準備にも入っており、ROICがWACCを恒常的に超過する状態を創り上げられるよう、経営と現場が一体となった改善活動を推進してまいります。当連結会計年度の実績を反映した12ヶ月換算のROICは、前連結会計年度の4.8%から1.4ポイント改善の6.2%でした。

 

 ※各指標に関しては、下記の定義の通り算出しております

 ・ネットD/Eレシオ=「期末のネット有利子負債」÷「期末の親会社所有者に帰属する持分合計」

 ・ネット有利子負債=「借入金」+「日本基準におけるファイナンスリース負債」-「現金及び現金同等物」

 ・ROE=「過去一年間の親会社所有者に帰属する当期利益」÷「親会社所有者に帰属する持分合計」

     親会社の所有者に帰属する持分合計は期首期末平均で算出。

 ・ROIC=「過去一年間の営業利益-法人所得税-非支配株主持分に帰属する当期純利益」÷「ネット有利子負債+親会社所有者に帰属する持分合計」

      ネット有利子負債及び親会社所有者に帰属する持分合計は期首期末平均で算出。

 ・当期ROE・ROICには、決算期変更に伴い、2024年2月期実績に中期経営計画の2024年3月計画を加えて求めております

 

③キャッシュ・フローの状況及び分析

 当社グループの各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因につき、次のとおり分析しております。当連結会計年度においては、決算期の変更に伴い11ヶ月間のキャッシュ・フローを集計しております。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 274億59百万円の収入(前年同期比20億70百万円 収入増)となりました。

 この主な要因は、税引前当期利益の増加が約9億円と堅調だったうえ、棚卸資産の減少約20億円に代表される運転資本の圧縮が大きく寄与したことによるものです。加えて、消費税の確定納付額減少に伴う支出の減少が約12億円あった一方で、前連結会計年度に計上した段階取得に係る差損益約10億円がキャッシュ・フロー上のプラス要因となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 19億61百万円の支出(前年同期比24億18百万円 支出減)となりました。

 この主な要因は、前連結会計年度においてW&Dインベストメントデザイン投資事業有限責任組合から㈱ストラスブルゴの株式を取得したことによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 255億円の支出(前年同期比37億29百万円 支出増)となりました。

 この主な要因は、外部からの借入金(約14億円)および返済額の減少(約67億円)により手元資金が増加した一方で、短期借入金が約70億円減少したことや、2023年9月に永久劣後特約付ローン150億円のうち50億円を一部償還したことによるものです。

 

 これらの結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末より1億63百万円増加して、208億48百万円となりました。

④生産、受注及び販売の実績

 当連結会計年度は、決算期の変更により、2023年4月1日から2024年2月29日までの11ヶ月間となっております。このため、前年同期比較については記載しておりません。

 

a. 生産実績

 当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ブランド事業

39

プラットフォーム事業

5,293

合計

5,332

(注) 上記金額には、セグメント間の内部取引高を含んでおります。

 

b. 仕入実績

 当連結会計年度の仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

ブランド事業

74,502

デジタル事業

2,844

プラットフォーム事業

58,462

小計

135,809

 IFRS調整(注)2

396

合計

136,205

(注)1 上記金額には、セグメント間の内部取引高を含んでおります。

2 IFRS調整は、為替予約における調整金額を記載しております。

 

c. 販売実績

 当連結会計年度における販売実績は次のとおりであります。

 販路別売上状況

セグメント

区分

金額(百万円)

前年同期比(%)

ブランド事業

 

ミドルアッパー

45,216

ミドルロワー

87,646

国内アパレルブランド

132,862

国内ライフスタイルブランド

23,189

海外

1,434

 

開発・改革ブランド

5,119

 

M&Aブランド

10,138

投資

15,258

小計

172,743

デジタル事業

B2Bソリューション

3,627

B2Cネオエコノミー

8,152

小計

11,779

プラット

フォーム事業

生産プラットフォーム

3,060

販売プラットフォーム

5,656

シェアードサービスプラットフォーム

90

ライフスタイルプラットフォーム

8,864

小計

17,670

共通部門

150

売上収益

202,342

 

 なお、「受注実績」につきましては、該当事項はありません。

 

(参考)

当社グループのEC化率は以下のとおりであります。

EC化率

金額(百万円)

前年同期差

 

EC取扱高

連結取扱高

 

 

43,816

201,230

 

21.77

+0.11

(注)EC化率とは商品の取扱高を分母にし、そのうちECの取扱高を分子にしたものであります。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討結果は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営成績等の状況に関する分析・検討内容につきましては、前記「(1)経営成績等の状況の概要」をご参照下さい。

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、当社は、前記「3 事業等のリスク」に記載のとおり、経済情勢の変化、消費者の嗜好の変化、在庫管理、出店・閉店、仕入価格その他費用の増加等様々なリスク要因が当社の経営成績に重要な影響を与える可能性があると認識しております。そのため、当社は常に市場環境等に留意しつつ、内部管理体制を強化し、優秀な人材を確保し、消費者や市場のニーズに適時適切に対応していくことにより、経営成績に重要な影響を与えるリスク要因を分散・低減し、適切に対応を行って参ります。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローは、前記「(1)経営成績等の状況の概要」をご参照下さい。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループは金融機関からの借入金のほか、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュフロー及びリース負債の返済を差し引いた実質的なフリー・キャッシュ・フローを資金の源泉と考えております。当連結会計年度における資金使途について、主に出店・改装に伴う店舗設備やシステムへの投資に係るものであります。資金調達に係る借入金の残高については後記「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 20.借入金」に記載しております。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

 なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、後記「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

 特記すべき重要な事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 特記すべき重要な事項はありません。

 

第3【設備の状況】

1【設備投資等の概要】

 当連結会計年度に実施しました設備投資の総額は、7,438百万円であります。

 その主なものは、出店・改装に伴う店舗設備やブランドの価値向上を目的としてブランド事業への投資に2,317百万円を投資したほか、ECサイト運営を中心としたデジタルソリューション事業への強化やサーキュラー事業の成長にむけての投資推進のため、デジタル事業へ4,769百万円の投資を実施いたしました。

 

2【主要な設備の状況】

 当社及び連結子会社の当連結会計年度末における主要な設備の状況は以下のとおりであります。

(1)提出会社

事業所名

(所在地)

セグメントの

名称

設備の

内容

帳簿価額(百万円)

従業

員数

(名)

(注)3

建物及び構築物

機械装置及び運搬具

土地

(面積㎡)

リース

資産

その他

(注)2

合計

本社ビル

(兵庫県神戸市中央区)

(注)4

事務所

1,772

0

3,723

(8,296)

207

12

5,715

59

(-)

北青山ビル

(東京都港区)

(注)4

事務所

2,363

6

20,267

(1,878)

39

65

22,741

179

(-)

松本技術研究所

(長野県松本市)

(注)5

プラットフォーム事業

縫製工場

(縫製子会社に対する賃貸設備)

122

0

397

(11,261)

6

0

524

(-)

淡路技術研究所

(兵庫県洲本市)

(注)5

プラットフォーム事業

縫製工場

(縫製子会社に対する賃貸設備)

17

0

532

(17,666)

7

0

556

(-)

岡山工場

(岡山県岡山市中区)

(注)5

プラットフォーム事業

縫製工場

(縫製子会社に対する賃貸設備)

624

(9,571)

624

(-)

ワールドディストリビューションセンター 南船橋I

(千葉県船橋市)

デジタル事業

物流倉庫

0

(-)

961

6

968

15

(78)

(注)1 上記は、日本基準に基づく帳簿価額であります。

2 帳簿価額のうち「その他」は、器具備品及び建設仮勘定等であります。

3 従業員数欄には、提出会社と委任契約を締結している人員数を含んでおります。また、従業員数欄の(外書)は、臨時従業員の延べ人数を記載しております。

4 すべてのセグメントにおいて使用している設備であります。

5 連結子会社である㈱ワールドインダストリーファブリック及び㈱ワールドインダストリーニットに貸与しております。

6 現在休止中の重要な設備はありません。

7 上記に記載している他、複数拠点がありますが、主要な設備ではないため記載を省略しております。

 

(2)国内子会社

会社名

事業所名

(所在地)

セグメントの

名称

設備の

内容

帳簿価額(百万円)

従業

員数

(名)

(注)3

建物及び構築物

機械装置及び運搬具

土地

(面積㎡)

リース

資産

その他

(注)2

合計

㈱アルカスインターナショナル

営業店舗

(国内)

ブランド事業

営業用設備(店舗)

1,214

(-)

816

16

2,045

787

(1,128)

㈱フィールズインターナショナル

営業店舗

(国内)

ブランド事業

営業用設備(店舗)

175

(-)

410

12

597

783

(285)

㈱ライフスタイルイノベーション

営業店舗

(国内)

ブランド事業

営業用設備(店舗)

1,867

(-)

113

1,980

162

(1,016)

神戸レザークロス㈱

事務所

(兵庫県

神戸市

長田区)

ブランド事業

事務所

41

0

94

(697)

0

135

17

(6)

営業店舗

(国内)

ブランド事業

営業用設備(店舗)

35

251

(115)

8

294

38

(53)

ラクサス・テクノロジーズ㈱

事務所他

(広島県広島市)

デジタル事業

営業用設備(その他)

46

(-)

2,514

2,560

45

(38)

㈱ティンパンアレイ

営業店舗

(国内)

デジタル事業

営業用設備(店舗)

390

(-)

84

474

152

(174)

(注)1 上記は、日本基準に基づく帳簿価額であります。

2 帳簿価額のうち「その他」は、レンタル用資産、器具備品及び建設仮勘定等であります。

3 従業員数欄には、提出会社と委任契約を締結している人員数を含んでおります。また、従業員数欄の(外書)は、臨時従業員の延べ人数を記載しております。

4 現在休止中の重要な設備はありません。

5 上記に記載している他、複数拠点がありますが、主要な設備ではないため記載を省略しております。

 

(3)在外子会社

 主要な設備はありません。

 

3【設備の新設、除却等の計画】

(1)重要な設備の新設等

 当社及び連結子会社の設備投資につきましては、販売計画、需要予測、投資収益率等を総合的に勘案して計画しており、設備投資は原則として当社及び連結子会社が個別に策定した上で、当社及び連結子会社の全体最適となるよう当社を中心に調整を図っており、当連結会計年度においては、7,438百万円を計上しました。

 今後、引き続き業務効率化やスマホアプリ改修等のため、システム投資を実施していくほか、店舗にかかる営業設備に対してこれまでの効率性を重視した投資から再成長に向けた積極的な投資を計画しております。なお、重要な設備投資の計画はありません。

 

(2)重要な設備の除却等

 当社及び連結子会社の設備の除却等につきましては、主に直営店舗における改装・退店に関わるものを予定しております。