当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、既知及び未知のリスクや不確実性及びその他の要素を内包するものです。「3 事業等のリスク」などに記載された事項及びその他の要素によって、当社の実際の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況が、こうした将来に関する記述とは大きく異なる可能性があります。
<企業理念>
KOBELCOグループの現在のグループ企業理念は、2020年に制定したものです。2017年に公表した品質事案を契機に、閉鎖的だった企業風土を変えるべく、「我々は何者なのか」「何を目指していくのか」をあらためて見つめ直し、企業理念を明文化するプロジェクトを実施しました。その際重視したのは、ボトムアップでつくり上げるという制定プロセスです。経営層や特定のメンバーだけでなく、各職場において実施している「語り合う場」等での議論を通じ、グループ社員一人ひとりが考える機会を設けるとともに、そこからグループ社員の思いを抽出したうえで約1年をかけて制定しました。
グループ企業理念は、いわゆるビジョンやミッションにあたる「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」に、共有すべき価値観や行動規範である「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」を加えた4つの要素で構成されています。
「KOBELCOが実現したい未来」には、「末永く安全・安心に使える技術・製品・サービスを提供していくことに加え、社会に新しい価値を提供し、今を、そして、未来をより良いものにしよう」という、創業当時から脈々と受け継がれる精神が込められています。
また、「KOBELCOの使命・存在意義」は、社会のニーズに向き合う中で培ってきた多様な人材・事業・技術の掛け算により、KOBELCOならではの社会課題の解決に挑みつづけるという「あるべき姿」そのものです。
当社グループは、グループ社員が一丸となって制定したグループ企業理念を胸に「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現を目指していきます。
<KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)>
2021年にグループ企業理念を起点とし、中長期的な時間軸の中で社会課題の解決や価値創造を通じて、当社グループが持続的に成長し、社会にとってかけがえのない存在となるために取り組むべき5つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。これらの重要課題を明確にしたことで、当社グループが実現したい未来や使命・存在意義を再確認することができました。
マテリアリティの特定においては、CSR委員会(現サステナビティ推進委員会)委員長が中心となり、マテリアリティの評価プロセス及び分析結果の妥当性を検証し、優先的に取り組むべきマテリアリティを検討しました。具体的には以下の通りです。
また、マテリアリティの項目については、マテリアリティをより具体的に実現するため、指標・目標を設定し、サステナビリティ推進委員会にてその進捗を管理しております。指標・目標については、事業活動を取り巻く環境の変化等を踏まえ、定期的に見直すこととしており、「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」の検討と併せて指標・目標の見直しを行いました。
事業活動を取り巻く環境は引き続き大きく変化しています。この1年でも、気候変動対応に対するより一層の取組み強化の動きや、生物多様性に関する取組み、サプライチェーンやダイバーシティ&インクルージョンに対する取組み等といった様々な観点での対応が求められています。当社グループは、5つのマテリアリティに取り組むことでこれらの課題解決を推進し、持続的な成長を達成していきます。
当社グループの事業活動は多岐にわたっており、世界各国に拠点を有しているため、そこで働く社員も多様性に富んでいます。我々はダイバーシティ&インクルージョンに取り組み、一人ひとりの人格・個性・多様性を互いに尊重し、それぞれが最大限に能力を発揮して生き生きと働ける職場環境を実現し、社会課題の解決や新たな価値創造に取り組んでいきます。
*S+3E:Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment
<企業構造と事業領域>
当社グループは、1905年(明治38年)に鋳鍛鋼メーカーとしてスタートし、機械事業、鉄鋼の圧延、銅、エンジニアリング、建設機械、アルミ、溶接とその事業を徐々に広げてまいりました。110年を超える歴史の中で、社会のニーズに応え、選択と拡大を進めてきた結果、現在、鉄鋼やアルミなどの素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛などの素形材、溶接材料などからなる「素材系事業」、機械、エンジニアリング、建設機械からなる「機械系事業」、そして「電力事業」の3つの事業領域で事業を展開しています。これらの幅広い事業分野で培った知見や技術力をもとに、お客様や社会が抱える課題の解決に貢献できる新たな価値を創り出せることこそが当社の強みであると考えています。
当社グループが提供する製品・サービスは、輸送機、電機、建設・土木、産業機械、社会インフラなどあらゆる産業の基礎資材となっています。当社グループは、独自の技術をもとにした代替困難な素材や部材、省エネルギーや環境に配慮した様々な機械製品やエンジニアリング技術等、当社グループ独自の多彩な製品群を幅広いお客様に供給することで、競争優位性を生みだしています。また、電力事業では、極めて重要な社会的インフラである電力の供給という公共性の高いサービスを提供しており、当社グループは社会的にも大きな責任を担っているものと考えています。
素材系事業、機械系事業のいずれにおいても、競合メーカーが国内外に多数存在します。
素材系事業においては、国内外の高炉メーカー、電炉メーカー、アルミメーカーなどが競合先として存在しますが、当社グループは、鉄鋼、アルミといった様々な素材と、その圧延・鋳造・鍛造技術を活用した鋳鍛鋼、アルミ鋳鍛といった多様な素形材、加えて溶接材料・溶接技術を有する当社グループの特長を活かしたソリューション提案をお客様に行うことにより、輸送機関連の分野などで競争優位性の維持・強化を目指しています。
また、機械系事業においても、機械、エンジニアリング、建設機械のそれぞれの製品・サービス毎に国内外に競合先が存在しますが、機械においては、例えば、当社は、スクリュ・ターボ・レシプロの全ての圧縮機タイプを持つ数少ないメーカーの一つであり、お客様の用途に合わせて最適な圧縮機を提供することで競争力の維持・強化に繋げています。エンジニアリングにおいては、例えば、当社グループの持つ天然ガスを還元剤とした直接還元製鉄法(MIDREX®プロセス)が直接還元鉄の生産において世界シェア60%以上を占めています。またMIDREX®プロセスと鉄鋼の高炉操業技術を融合し、高炉工程でのCO₂排出量を大幅に削減できる技術の実証に成功するなど、継続的な技術改良への取組みを進め、加えて、天然ガスの代わりに水素を還元剤とした低炭素製鉄の実証を進め、世界初の100%水素直接還元鉄プラント商業機を受注するなど、技術革新にも挑戦する中で、競争優位性の維持を図っています。建設機械においては、油圧ショベルとクレーン事業に特化する中で、静音性・省エネ技術で高い評価をいただいており、これらの技術をさらに発展させるとともにDXの活用などで競争力強化に取り組んでいます。
電力事業においては、神戸市に石炭火力発電所を、栃木県真岡市にはガス火力発電所を有しており、いずれも現在、実用化されている発電技術の中で最高効率の発電設備を導入し、省エネルギー法で定められた発電効率基準を満たすことにより、国内の火力発電所の高効率化・環境負荷低減に寄与します。
<KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)の総括>
当社グループは、「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」で、「安定収益基盤の確立」と「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題とし、素材系を中心とする収益力強化などの取組みを深化させて、新規電力プロジェクトの立上げが完遂し、収益貢献がフルに寄与する2023年度にROIC(投下資本収益率)5%以上の収益レベルを達成することを目指してまいりました。
「安定収益基盤の確立」については、「鋼材事業の収益基盤強化」、「新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働」、「素材系事業の戦略投資の収益貢献」、「不採算事業の再構築」、「機械系事業の収益安定化と成長市場への対応」の5つの重点施策のうち、素材系事業の戦略投資案件は、アルミ系事業を中心に、需要拡大時期の後ろ倒し等により収益力が大きく低下しており、今後に課題を残しましたが、その他の施策を着実に進めるとともに、原料・資材、エネルギー価格や人件費などのコストアップ分の販売価格への転嫁にも注力した結果、2023年度の経常損益は1,609億円、ROICは6.7%と目標としていた5%以上を達成し、「安定収益基盤の確立」は計画通り推進することができました。
また、「カーボンニュートラルへの挑戦」については、多様な技術と人材を競争力の源泉として、幅広い事業を営む当社グループの強みを活かし、社会に貢献できる新たなビジネスチャンスと捉え、グループ一丸となって取り組んでおります。具体的には、国内初の低CO₂高炉鋼材“Kobenable® Steel”の販売など、生産プロセスにおけるCO₂削減に加えて、当社グループの保有するMIDREX®技術をはじめ、自動車軽量化・電動化に寄与する素材・部品供給等、多様な技術を通じたCO₂排出削減貢献の取組みについても、着実に推進しております。
<当社グループを取り巻く事業環境>
当社グループを取り巻く事業環境は、カーボンニュートラルの実現など持続可能な社会に向けた要請の高まりや、地政学リスク等を背景とした原材料調達コスト高騰や地産地消へ向かうサプライチェーンの再構築、国内人口減少に伴う国内需要逓減や働き手不足の顕在化、生成AIに代表されるデジタル技術の急激な進歩などのリスクが想定される一方で、カーボンニュートラルの実現に向けた社会変革への貢献や、様々な変化に対応した新技術の開発・実装といった、新たな成長機会の創出も期待されます。
したがって、将来の社会課題へのソリューションとなり得る技術・製品・サービスをお客様へ提供できる事業構造への「変革」や、外部環境変化に柔軟に対応できるような人材・組織・制度等の「変革」に積極的に取り組んでいく必要があります。
<KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)>
2024年5月公表の中期経営計画では、当社グループの重要な課題、当社グループを取り巻く事業環境を踏まえ、「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題といたしました。
まず、「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」の期間では、「安定収益基盤の確立」による事業の土台づくりに取り組み、一定の成果がありました。新たな「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」の期間では、「稼ぐ力の強化」によりその土台を更に強固なものとするとともに、土台から得られる様々な経営資源を「成長追求」や「カーボンニュートラルへの挑戦」に重点的に投入し、将来の成長機会も捕捉することで、新中期経営計画期間を通じて安定的にROIC(投下資本収益率)6%以上の収益レベルを確保し、好環境下においては、ROIC8%の到達も目指してまいります。さらに、将来の姿として、ROIC8%以上を安定的に確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。
「カーボンニュートラルへの挑戦」については、エネルギー転換等を新たなビジネスチャンスと捉え、当社グループの保有する多様な技術によるCO₂排出削減貢献や既存事業の拡大に加えて、技術のかけ合わせなどによる新たな事業機会の創出や新規事業化も積極的に推進してまいります。また、当社グループの生産プロセスについても、引き続き当社独自技術の開発推進、外部の革新技術の活用等により、製鉄プロセス及び電力事業のロードマップに沿った取組みの具体化を進め、2030年で2013年度比30~40%のCO₂を削減し、2050年でのカーボンニュートラル実現に挑戦し、達成を目指してまいります。
加えて、これらを実現・加速させる手段・ドライバーとして、事業構造や人材・組織・制度等の変革(X)や、人材・技術・事業のかけ算(X)など、「KOBELCOらしさ」による様々な「X=変革・かけ算」の取組みについて、AX~GXの7つの「X」を設定し、それらを「KOBELCO-X(コベルコ エックス)」と総称して、当社グループ全体でサステナビリティ経営の強化に取り組み、企業価値を向上させて魅力ある企業へ変革を果たし、「未来に挑戦できる事業体」の確立を目指してまいります。
<4つの重点施策>
最重要課題である「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「カーボンニュートラルへの挑戦」を実現するために、4つの重点施策、具体的には、「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」、「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」、「生産プロセスのCO₂削減」、「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」を着実に実行してまいります。
「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」については、需要拡大時期の後ろ倒しやものづくり力の課題等により、過去に実施したアルミ板並びにアルミ素形材分野における戦略投資案件の収益化に時間を要しておりますが、早期収益化に向けて数量増や価格改善、コストダウンなどのベース収益改善の取組みに注力するとともに、アルミ板分野の自動車パネル事業における他社との協業も含め、事業構造改革についても取り組んでまいります。加えて、鉄鋼や溶接などその他の素材系事業についても、人口減少に伴う国内需要の縮小や、新興国での需要の増加、カーボンニュートラル対応に伴う原材料管理の厳格化等による地産地消ニーズの拡大などに対応した、グローバルでの競争力維持への取組みを検討してまいります。
「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」については、エネルギー転換等に関連した事業拡大や新規需要を絶好の機会と捉え、機械やエンジニアリング事業を中心に、既存製品の拡販強化に加えて、新規事業化も積極的に推進してまいります。また、建設機械事業を中心に、従来のものビジネスを中心とした事業活動で培った情報や技術・ノウハウと、DX関連技術のかけ算により、コト売りやソリューションビジネス等の新たな事業領域の拡大にも取り組んでまいります。
「生産プロセスのCO₂削減」については、鋼材と電力の事業継続に向けて、鋼材事業では高炉へのHBI多配合等に取り組むとともに、HBI多配合のための低炭素鉄源確保については、エンジニアリング事業と協力して事業化を推進してまいります。また、電力事業についても、石炭火力発電所におけるアンモニア混焼等に取り組み、生産プロセスにおけるCO₂削減目標の達成への道筋具体化を進めてまいります。
「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」については、2024年4月より取締役会のモニタリング機能の更なる強化と、執行側の推進体制の強化を目的とした組織改正を実施しており、今後はこの体制のもと、KOBELCOらしい変革である「KOBELCO-X」に取り組んでまいります。具体的には、「既存事業の深化」×「新たな事業機会の探索」という「両利きの経営」を意味するAXにより「稼ぐ力の強化」×「成長の追求」を推進するとともに、「当社グループのカーボンニュートラルの実現」×「グリーン社会への貢献」を目指すGXにより「カーボンニュートラルへの挑戦」に取り組んでまいります。加えて、AXとGXは事業戦略の両輪と位置付けており、BX、CX²、DX、EX、FXの5つの「X」が推進力となって事業戦略の実現を図るとともに、企業活動の前提となる経営基盤の強化にも継続的に取り組み、サステナビリティ経営の強化を目指してまいります。
<事業管理指標>
当社グループは、7つの事業管理指標を設定し、2019年4月より運用を開始しておりましたが、本年4月より、グループ企業理念の実現に向けた中長期的な重要課題であるマテリアリティに関する指標・目標を再設定するとともに、その中で重点管理する指標を事業管理指標とする運用に変更しております。引き続き非財務指標も含めてグループ全体で企業価値向上に向けた取組みを推進・強化してまいります。
なお、マテリアリティに関する指標・目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。
<財務戦略>
財務戦略の基本方針は、未来に挑戦できる事業体の確立に向けて「稼ぐ力の強化」や「成長の追求」を行いつつ、外部環境の変化による業績変動リスクや将来の大型投資に耐え得る財務基盤の更なる強化に取り組み、事業成長を支える財務体質への変革を図ってまいります。新中期経営計画期間においては、2026年度末の純資産比率40%台前半、グロスD/Eレシオ※0.7倍台半ばを財務目標数値として定めております。
※プロジェクトファイナンスを含む有利子負債÷自己資本
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ共通
①ガバナンス
(ⅰ)グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営の推進
当社グループは、事業活動を支える「経営基盤領域」と、事業成長を実現する「価値創造領域」とに分けて、グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営の推進を行っております。「KOBELCOが実現したい未来」を見据え、「KOBELCOの使命・存在意義」を果たすことにより、持続的に成長し、中長期的な企業価値向上を追求してまいります。
なお、「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」においては、変革(KOBELCO-X)を通じたサステナビリティ経営のさらなる強化に取り組んでまいります。詳細は
(ⅱ)サステナビリティ経営の推進体制
サステナビリティ経営の推進においては、重要課題について経営審議会の補佐機関であるサステナビリティ推進委員会を中心にマネジメントサイクルを回すことを基本としつつ、積極的な情報開示とESG外部評価やSDGs等の推進ツールも活用しながら、取締役会によるモニタリングも行う体制としております。サステナビリティ推進委員会では、重要課題に対応するために、各課題に応じた部会を設けることで、実効性のある活動を推進しています。
サステナビリティ推進委員会体制と機能
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委員長(責任者): |
代表取締役副社長執行役員 永良 哉 |
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取締役会への報告: |
1回程度/四半期 |
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開催頻度: |
1回程度/四半期 |
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機能: |
サステナビリティに関わる当社グループの課題の抽出/サステナビリティ推進活動のスケジュールの作成/グループ中期経営計画への提言/サステナビリティ推進活動のモニタリング及び提言/イニシアティブへの参画等の表明・発信と取組みの推進/環境、社会、ガバナンスに関わる外部評価等への対応 |
なお、2024年度からは取締役会のモニタリング機能強化の一環として、全取締役で構成する「サステナビリティ経営会議」を新設し、当社グループのサステナビリティに関する主要な活動(カーボンニュートラル、人材、品質等の分野における全社戦略)について、事業部門を含む執行側との幅広いかつ定期的な認識共有や意見交換を行うこととしています。加えて、執行側の推進体制の強化としては、GX戦略委員会の新設や、サステナビリティ推進委員会の直属部会として人材戦略推進部会を設置(D&I・働き方変革部会を強化)する等の組織改正を行い、GXや人材戦略等により注力していきます。
また、2024年度より、取締役(社外取締役及び監査等委員である取締役を除く。)及び執行役員を対象とした役員報酬制度について、ESG指標を導入します。詳細については
②リスク管理
全社規程「リスク管理規程」に則り、国際規格である「COSO」を参照しながら当社グループの持続的発展及び企業価値向上を妨げる要因を抽出し、対策を講じる活動を行っております。全社的なリスク管理の対象として、当社グループ及びステークホルダーの皆様に重大な影響を及ぼし、グループを横断した対応が必要なリスクを「トップリスク」「重要リスク」として選定しております。この「トップリスク」「重要リスク」には人権・安全管理・気候変動・自然災害といったESGリスクが含まれます。全社のリスク管理体制については
③戦略
グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営をより効果的に推進するために、「価値創造領域」「経営基盤領域」における機会やリスク等も踏まえ、経営資源を重点的に投入する中長期的な重要課題(マテリアリティ)を特定しております。マテリアリティの特定プロセス等も含めた詳細については
なお、マテリアリティの一つ「グリーン社会への貢献」内にて「気候変動への対応」を掲げておりますが、気候変動対応については「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」及び「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」においても「カーボンニュートラルへの対応」を最重要課題としておりますとおり、当社グループが取り組まなければならない喫緊の課題と認識しています。
(2)気候変動(TCFD提言に基づく関連情報開示)
[基本的な考え]
当社グループはCO₂削減への取組みを経営上の最重要課題であると認識しており、2021年5月にはKOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)の中で、2050年のカーボンニュートラルへ挑戦し、カーボンニュートラルへの移行の中で企業価値の向上を目指すことを表明しました。
当社グループはこれからもCO₂削減を通じて、「KOBELCOが実現したい未来」である「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現に貢献していきます。
①ガバナンスとリスク管理
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気候関連リスク及び機会に係る課題を専門的に取り扱う組織として、サステナビリティ推進委員会(委員長:代表取締役副社長執行役員)のもとにCO₂削減推進部会を設置し、気候変動に関する戦略的な検討を行うこととし、気候関連のリスクと機会について全社横断的に検討・活動を行っています。 CO₂削減推進部会の検討結果や活動成果は、サステナビリティ推進委員会を通じて四半期に一度、取締役会へ報告を行ったうえで、取締役会の監督・指導を受けており、取締役会が気候変動に関わるリスクに対して直接ガバナンスを行う体制としています。 なお、2024年度からは、より一層対応を強化し、具体化していくフェーズに移行したという認識のもと、CO₂削減推進部会を「GX戦略委員会」と改称のうえ、経営審議会の補佐機関として体制を強化するとともに、新設する「サステナビリティ経営会議」において、カーボンニュートラルを重要テーマの一つとして、事業部門を含む執行側との幅広いかつ定期的な認識共有や意見交換を行うこととしています。 |
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②戦略
当社グループでは、国際エネルギー機関(IEA)等が提示する社会シナリオ、(一社)日本鉄鋼連盟や(一社)日本アルミニウム協会等の業界団体が策定・公表している長期ビジョンや、国のエネルギー政策等を考慮し、中長期的な気候関連のリスクと機会の分析を進めています。また、その分析により、当社グループ実行項目の適正性を評価しています。
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<気候関連リスク> 今後、カーボンプライシング導入をはじめとする気候変動に関する環境規制の強化等が当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を与える可能性があります。また、近年、洪水・台風に関する被害が激甚化する傾向にあり、気候変動による災害の増加により、生産量低下、サプライチェーンの混乱等が予想されます。 |
<気候関連機会> 気候関連問題の国際的な関心の高まりを背景に、CO₂排出量が少ない製品・サービスへの需要が増加しており、自動車軽量化やMIDREX®プロセスといった当社グループのCO₂削減貢献メニューの需要が中長期的に増加することが期待されます。 |
③リスクと機会への対応(研究開発)
(ⅰ)生産プロセスにおけるCO₂削減
製鉄プロセスのCO₂削減に向けて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する事業に鉄鋼他社とともに参画し、実用化に向けて技術開発を推進しています。その一つ「製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」は国の「グリーンイノベーション(GI)基金事業」に採択されており、2050年のカーボンニュートラルに向けた取組みを推進しています。
(ⅱ)技術・製品・サービスによるCO₂排出削減貢献
既存の削減貢献メニューである自動車軽量化に貢献する素材・部品、ヒートポンプ等では、更なるCO₂削減効果の追求を目的として、継続的な技術開発を進めています。また、新たなCO₂削減貢献技術・製品・サービスの開発にも積極的に取り組んでおり、MIDREX H2™(100%水素直接還元)等の開発を進めています。
④シナリオ分析
将来の気候関連のリスクと機会を把握するため、中期(2030年)及び長期(2050年)におけるシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析にあたっては、国際エネルギー機関(IEA)が公表する2℃シナリオ(SDS)、1.5℃シナリオ(Net Zero by2050)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の4℃シナリオを用いており、それに加えて(一社)日本鉄鋼連盟や(一社)日本アルミニウム協会等、当社グループ所属の業界団体が公表する長期ビジョンも参照して分析・評価を実施しています。なお、電力事業については、日本国のエネルギー政策と密接に関係するため、日本政府のエネルギー政策をベースとしてシナリオ分析を実施しています。また、外部環境の変化も踏まえ、定期的にリスクと機会の分析・評価の見直しを行っています。
(ⅰ)ビジネスへの影響
当社グループのCO₂排出量の90%以上は製鉄プロセスに由来するため、鉄鋼業の中長期的な動向は当社グループのビジネスに最も大きな影響を与えます。(一社)日本鉄鋼連盟の「長期温暖化対策ビジョン『ゼロカーボン・スチールへの挑戦』」によると、経済成長と1人当たりの鉄鋼蓄積量には一定の相関があり、また人口が増えれば鉄鋼の蓄積総量は拡大することが示されています。したがって、今後、世界の経済成長と人口増加により鉄鋼の需要は増加し続けると予測されます。
鉄鋼の生産は、天然資源(鉄鉱石)からの生産(主に高炉、直接還元鉄)と、スクラップの再利用(主に電炉)による生産に大別することができ、(一社)日本鉄鋼連盟の予測によれば鉄鋼の蓄積総量の拡大によりスクラップの再利用が大きく増加することが見込まれています。一方で、スクラップの再利用だけでは鋼材需要を満たすことはできず、天然資源(鉄鉱石)からの生産も引き続き現在と同程度必要となることが予測されています。
気候変動への対応やその情報開示に対する関心が高まる中、鉄鋼業においてもCO₂削減への取組みの重要性は今後も高まることが見込まれています。そのため、政府・地方自治体の皆様、投資家様、お客様等のステークホルダーの皆様から、自社設備からのCO₂排出量の削減への取組みと、CO₂削減貢献メニューの拡販に対する関心等がさらに増加するものと予測しています。
(ⅱ)リスクと機会
当社グループは、主力事業の一つとして鉄鋼製品の生産・販売を行っており、エネルギー多消費型の素材産業に該当します。当社グループのCO₂排出量は15.6百万t(2022年度、Scope1,2)であり、日本の製造業の中でも上位に位置しています。そのことから、カーボンプライシングをはじめとする将来の気候変動に係る政策、法令・規制の動向は、経営に重大な影響を与える可能性がある移行リスクと認識しています。
また、物理的リスクとして地球温暖化の進行により、大気中の水蒸気が増加することで降水量が増加し、大雨や台風による被害が激甚化する傾向があることが各種研究機関や気象庁等から報告されています。当社グループでも、近年の台風や大雨の激甚化による生産停止やサプライチェーン混乱のリスクが顕在化しつつあり、気候変動に伴う台風や洪水等の自然災害の激甚化は、生産活動の停止につながる経営に重大な影響を与える可能性があるリスクと認識しています。
当社では、全社のリスク管理規程上、「気候関連規制」と「自然災害への備え、復旧」を事象発生時の影響が特に重大と予想されるリスクである「トップリスク」に位置付け、リスク管理の強化を図っています。
一方で機会に関しては、気候関連問題の国際的な関心の高まりを背景に、CO₂排出量が少ない製品・サービスへの需要が増加しており、自動車軽量化に貢献する素材・部品やMIDREX®プロセスといった当社グループのCO₂削減貢献メニューの需要が中長期的に増加することが期待されます。
⑤指標と目標
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<指標A 生産プロセスにおけるCO₂削減> |
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[目標] 当社グループは2021年5月に2050年のカーボンニュートラルへ挑戦し、カーボンニュートラルへの移行の中で企業価値の向上を目指すことを表明しました。また、中期的な目標として2030年目標を設定しています。 |
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[CO₂排出量の実績] 日本の鉄鋼業はオイルショックを契機として1970年代以降1990年代までに、工程の連続化や工程省略等による省エネルギーや排熱回収設備の設置によるエネルギーの有効利用を進めてきました。1990年代以降も排熱回収設備の増強や設備の高効率化を進め、廃棄物資源の有効利用の対策にも取り組み、近年では高効率ガスタービン発電設備の導入等を行ってきました。 当社グループでも、積極的な設備投資により、様々な省エネルギー・CO₂削減対策を講じてきました。例えば、2009年度から2014年度にかけて、加古川製鉄所に高炉ガスを利用した高効率ガスタービン発電設備を導入し、CO₂排出量を大幅に削減しました。 2022年度のCO₂排出量は、前年度と比較して、生産量減少に伴い減少し、削減率は2013年度比20%になりました。 製鉄プロセスにおいては、MIDREX®プロセスで製造したHBI(還元鉄)を高炉に多量に装入し、高炉工程でのCO₂排出量を約20%削減できることを実証試験で確認・完了しました。今後も引き続き、このHBI装入技術やAI操炉技術をさらに追求し、高炉でのCO₂排出量を削減して2030年度の目標達成に向けて取り組んでいきます。また、2050年カーボンニュートラルに向けては、「既存の高炉を活かしたCO₂削減」と「大型電炉での高級鋼製造」の複線アプローチで検討を進め達成を目指します。
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[エネルギー起源CO₂排出量の実績] 当社グループは2022年度、グループ全体で15.6百万tのCO₂を排出しました。そのうち、約92%が鉄鋼アルミ関連事業、約3%が素形材関連事業、約4%が電力事業で排出されています。 |
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<指標B 技術・製品・サービスによるCO₂削減>
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[目標] 当社グループは、独自の技術・製品・サービスを通じて、社会の様々な分野でCO₂排出削減に貢献しています。当社グループはCO₂排出削減貢献量について、2030年目標、2050年ビジョンを設定しています。 排出削減に貢献する技術・製品・サービスについては、排出削減貢献量を社内認定する制度を設けています。なお、認定における計算式については、国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門IDEAラボ田原聖隆ラボ長にご指導いただいています。
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[CO₂排出削減貢献の実績]
CO₂削減推進部会において承認された当社グループの技術・製品・サービスによる2022年度のCO₂排出削減貢献量は58.9百万tと推計しています。
(注)1.「(2)気候変動」に関する詳細データは、「KOBELCOグループESGデータブック2023」15頁から26頁をご参照ください。
2.指標A、指標Bの2023年度の実績については、2024年9月発行予定の統合報告書及びESGデータブックの中で開示を予定しております。
(3)人的資本多様性
①当社グループの人材戦略
当社グループは、企業としての社会的責任を果たし、新たな価値を創造するために、グループ企業理念を理解し実践できる人材を育成することが重要だと考えております。
幅広い事業分野を有する当社グループにおいて、多様な背景、価値観、技術を持った人材を有し、時代・社会の変化の中で、社会への貢献とその実現に向けて果敢に挑戦することは、更なる強みの強化につながると考え、最大限活躍できる環境を整備してまいります。
②主な施策
(ⅰ)組織の多様性を高める
<ダイバーシティ&インクルージョン>
多様な背景や価値観を持つ人たちが職場で十分に力を発揮し、組織全体の成長力を高めることにより、活力ある事業展開につながると考えております。D&I推進の目指す姿と基本方針を設定し、活動を加速させております。
(ⅱ)一人ひとりの成長・挑戦を促す
<人材育成>
職場でのOJTを人材育成の基本とし、業務を通して上司や先輩社員とのコミュニケーションを重ね、早期の業務習得を促しています。また、新たな知識の習得を狙った多様な教育研修プログラムを用意し、OJTと研修を重ねることで、実践力の強化に取り組んでいます。
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スタッフ職への取組み(管理職・総合職・基幹職事技系列) 2022年度開始した動画教材を活用した自律自走教育の定着を推し進めており、利用する社員も増加しております。2023年度は隙間時間や移動中の学習環境を一歩進めるため、会社貸与・個人所有の端末を問わず学べる体制を整え、学びの好事例を共有・横展開する場を設けています。受講者同士の良い刺激が、より自律的な学びの習慣化につながることを期待した取組みとなっています。 また、学習管理システム(LMS)を活用し、学びの質や量の定量的な把握・促進を行っています。 |
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現場技能職への取組み(基幹職技能系) 競争力の源泉となる「ものづくり力」の維持・向上のため、職場におけるOJTを基本に、階層別・職種別の各種教育プログラムを整備しております。入社5年目までの若手社員については、毎年、加古川の研修センターに集合し、業務に必要な知識や技能の教育を行っております。また、毎年の技能競技大会の開催、技能検定の取得促進等により、技能レベルの向上に取り組んでおります。 職場の要となる管理監督者には、安全、環境、品質等の基礎知識は当然ながら、マネジメントやコミュニケーションに特化した教育プログラムを準備し、よりよい職場環境の構築に向けた研修を行っております。今後も、社内外の環境変化に応じて、都度、教育内容・体系の見直しを行ってまいります。
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(ⅲ)活躍できる環境を整備する
<働き方変革推進>
生産性の向上、働きやすさ・働きがいのある職場環境整備に向けて、様々な活動に取り組んでいます。
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柔軟な働き方の推進 テレワークと出社の組み合わせの定着化や両立支援の拡充につながる新たな休暇制度の導入、フレックスタイム制のコアタイム廃止、デジタルツールの活用等を推進しています。 テレワークやオンライン会議の浸透に合わせたオフィスの見直しも順次行い、生産性高く働ける職場環境の構築に取り組んでいます。 |
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業務改善の促進 業務そのものやプロセスの見直しを行い、仕事の質をより高めるために業務改善の取組みを推進しています。 また、業務改善の風土醸成に向けて、各職場における業務改善・効率化の取組みを対象とした「業務改善表彰」の実施や改善事例の全社展開を行っています。
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<人権尊重の取組み>
当社グループは、グローバルに事業展開する企業グループとして、国際連合で採択された「国際人権章典」を尊重し、国際基準に則った取組みを実施しています。2021年3月には、国際連合が提唱する「国連グローバル・コンパクト」に参加しています。引き続き、人権の保護、不当な労働の排除等の原則に賛同する企業としてその実現に向けて努力を継続し、人権侵害問題を発生させない取組みを強化しています。
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人権デューディリジェンスの実施 当社グループの事業活動における人権への負の影響の特定と評価を行い、その防止や軽減を適切な方法で実施します。 2023年度は国内の主要グループ及び一部海外グループ会社を対象に、人権に関するリスクアセスメントを進めており、引き続き人権デューディリジェンスプロセスの確立を目指します。
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社員への人権基本方針・人権尊重に関する教育及び啓発活動 当社グループでは、全社員に配布している「社員のための行動手引き」に人権尊重の行動基準を定め、一人ひとりに人権を尊重して行動することをうながすとともに、新入社員研修や昇進時の研修等で人権基本方針及び人権意識の向上につながる教育を組み入れ、人権問題の発生防止に努めています。今後も役員をはじめとするすべての社員に対して、人権尊重に関わる必要な教育を定期的に実施していきます。 また、毎年12月の世界人権デーに合わせて、役員メッセージの配信や人権啓発ポスターの展開等の取組みを行い、差別やハラスメントを許さない姿勢を明確にするとともに、人権意識を国内外のグループ全体に深く浸透させ、人権尊重について考える機会としています。 |
<安全衛生>
「安全・衛生・健康は経営の基盤であり、全ての事業活動に優先する」という基本理念のもと、安全で安心して働くことのできる活気あふれた職場の実現に向けて、関係法令の遵守は当然のこと、様々な安全衛生活動を行っております。
③指標と目標
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指標 |
目標 |
2022年度 実績 (注) |
2023年度 実績 (注) |
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(ⅰ)組織の多様性を高める |
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b.総合職技術系 15%以上 c.基幹職技能系 15%以上 |
a.48% b.10% c.8% |
a. b.13% c.9% |
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3.0% |
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2.64% |
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(ⅱ)一人ひとりの成長・挑戦を促す |
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35.9h |
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(ⅲ)活躍できる環境を整備する |
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17.0日 |
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2,050h |
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79.9% |
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0.21 |
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(注)当社グループの人材戦略のもと、グループ各社において課題に応じた指標と目標を設定していることから、代表として提出会社における指標と目標を記載しております。
当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、下記の(1)事業環境の変化及び(2)グループ経営全般に重大な影響を及ぼす事項のとおりであります。
当社グループでは、事業推進上想定される事業環境変化に伴うリスクについては、経営者の意見を踏まえて、事業部門又は本社部門が中心となってリスク対策に取り組んでいます。また、事故や災害、法令違反等、グループ経営全般に重大な影響を及ぼすリスクを経営者の意見を踏まえて抽出しています。
リスクマネジメント体制としては、全体の管理者である全社総括責任者として社長、全社リスク管理統括責任者として内部統制・監査部総括役員を置き、個々のリスクのグループ横断的な管理活動の推進者として担当役員(リスクオーナー)、リスク対策実行責任者には事業部門長や本社担当役員を指名することにより、全社的なリスク管理体制を構築しています。また、経営審議会の補佐機関として設置したリスクマネジメント委員会では、リスクマネジメント全般に関する基本方針の立案・評価、リスクマネジメントの重要課題に関する具体方針の立案、「トップリスク」「重要リスク」のリスク対策実行計画の評価、全社リスク管理計画の立案・評価などを行っています。委員長には全社リスク管理統括責任者、また、委員には全リスクオーナーを指名しています。リスクマネジメント委員会の活動状況は定期的に経営審議会へ報告し、経営審議会での議論結果を踏まえてリスクオーナーへの指示を行います。
なお、経済安全保障リスクやウクライナ情勢等の地政学的リスクへの対応など複数のリスクに跨る場合には、リスクマネジメント委員会の下でグループ横断的な対応を検討しています。
投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、「第2 事業の状況」の他の項目、「第5 経理の状況」の注記事項、その他においても記載しておりますので、併せてご参照ください。また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)事業環境の変化
①主要市場の経済状況等
当社グループの国内向け販売は、自動車、造船、電気機械、建築・土木、IT、飲料容器、産業機械などを主な需要分野としております。海外向け販売は、当連結会計年度の売上高の32.6%であり、最大の需要国である中国を含むアジア地域が、海外売上高の過半を占めております。
当社グループは鉄鋼やアルミなどの素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛などの素形材、溶接材料などからなる素材系事業と産業用機械、エンジニアリングや建設機械といった機械系事業、さらに電力事業と複数のビジネスドメインを持つことで、安定性を担保するとともに、たゆまぬ技術開発を行って競争力の維持を図っておりますが、当社グループの業績は、これらの需要分野の動向、需要地域における経済情勢等により、売上高や受注高の減少の影響を受けることに加え、お客様の財政状態の悪化による債権回収の遅延等の影響を受ける可能性があります。また、海外の各需要地域における地政学的リスク、各地域における事業の監督や調整の困難さ、労働問題、関税、輸出入規制、通商・租税その他の法的規制の動向が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、各製品市場において、国内外の競合各社との厳しい競争状態にあり、競合各社による当社製品よりも高性能な製品開発や迅速な新製品の導入等、その状況次第では売上高や受注高の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
②製品需給・価格の変動
当社グループは各製品の市場及び地域的な市場において競合他社との競争を行っております。経済市況や市場動向の変化、地政学的リスク、法規制及び競争環境の変化等を受けて需要家の事業戦略や購買方針に当社グループの想定を超えて変更が発生する場合、売上高や受注高の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
特に鉄鋼事業において中国における過剰生産能力問題が十分な解決に至っておらず、過剰供給に起因する国際市場での厳しい競争は国内外での鋼材の需給状況や製品価格の変動の原因となっております。当社グループの国内鋼材販売の形態は、大きくは製品数量・規格等を直接お客様との間で取り決めて出荷する「紐付き」と、お客様が不特定の状態で出荷する「店売り」とに分かれますが、当社の場合ほとんどが「紐付き」であります。鋼材の需給状況が変動した場合、「店売り」価格の方がより敏感に連動するものの、最終的には「紐付き」価格も影響を受けることになります。また、鋼材販売数量のおおよそ20%を占める輸出鋼材の販売数量・価格についても、各需要地域における鋼材需給等により影響を受けます。これらの変動が想定を超えて発生する場合、売上高の減少や収益の悪化等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
機械系事業においては、汎用品、受注生産品ともに、その製品需給が当社グループの想定以上に急激に変動する可能性があり、価格については、特に海外市場向けの製品について、通貨価値の変動等により影響を受ける可能性があります。これらの急激な変動を受け、売上高の減少、契約キャンセルによる損失の発生、債権回収の遅延等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
③原材料等の価格変動等
当社グループが調達している鉄鉱石、石炭、合金鉄・非鉄金属、スクラップ等の鉄鋼原料価格及びそれらの輸送に関わる海上運賃等は、国際的な市況、為替相場、法規制、自然災害、地政学的リスク等により影響を受けます。特に、鉄鉱石及び石炭については、大きな消費国となった中国における需給状況と世界的にも限られた原産国や供給者の供給能力が、国際市況に与える影響が大きくなっています。調達先の分散や調達先との関係強化などを通じてこれらの安定調達に努め、また、原材料等の価格変動の製品価格への転嫁にも努めておりますが、原材料価格・運賃が大幅に変動する場合には、コストの変動等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、アルミ、銅につきましては、地金価格の変動は基本的にお客様に転嫁する仕組みとなっております。しかしながら、地金価格の市況が短期間に大きく変動した場合には、会計上の在庫評価影響などによって、当社グループの業績に一時的に影響が生じる可能性があります。
さらに、当社グループは、耐火物等の副資材、機械製造関連と設備投資関連の資材及び電装品、油圧機器、内燃機器等の資機材を外部調達しており、価格変動を抑える取組みはしているものの、これら資機材の価格が変動する場合、機械製造コストや設備投資コストの変動につながり、当社グループの業績に影響を及ぼします。
④サプライチェーンにおけるリスク
当社グループのサプライチェーンにおいて、調達先の分散や調達先との関係強化などを通じて原材料や資機材等の安定調達に努めておりますが、調達先との取引関係に重大な変更があった場合や、災害や事故、地政学的リスク等による混乱が生じた場合、売上高の減少やコストの増加等によって当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループではCSR調達基本方針を策定し、お取引先の皆様と社会的責任を共有し、“責任あるサプライチェーンの構築”に向けた取組みを推進しておりますが、サプライチェーンで法令違反や人権・労働等に関する問題が発生した場合には、調達や生産への影響に加えて、当社グループの信頼の毀損に繋がり、売上高の減少によって当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2)グループ経営全般に重大な影響を及ぼす事項
①労災、設備事故等
当社グループの生産設備の中には、鉄鋼の高炉、転炉など高温、高圧での操業を行っている設備があります。また、高熱の生産物、可燃性のガス、化学薬品等を取り扱っている事業所もあります。日常的に、高温高圧部分や可動部の多い設備の取扱い、高所での作業、危険物の取扱いがあるなど、従業員の労働環境としても、労働災害の主要な原因となる、「転落・墜落」や「挟まれ・巻き込まれ」、「飛来・落下」等の事象が他業種に比べ発生しやすい環境にあります。対人・対物を問わず、安全や防災に関する法令を遵守し、事故の防止対策には万全を期しておりますが、万一重大な労働災害や設備事故等が発生した場合には、当社グループの生産活動等に支障をきたし、生産量減少に伴う売上の減少や破損設備の復旧に伴う費用の発生、事故に関連する補償の実施等、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
②自然災害、パンデミック、戦争・テロ
当社グループの国内外の製造拠点等においては、大規模地震や台風等の自然災害、感染症等の大規模流行、戦争やテロ、暴動に対して発生時の損害を最小限に抑えるため、緊急対応策の準備、連絡体制の整備、定期的な見直しや訓練の実施等を行っております。しかし、これら大規模災害等により直接的に被害を受ける、もしくは物流網や供給網の混乱、インフラの障害等により事業活動に支障が生じた場合には、売上高や受注高の減少、生産コストの上昇や復旧コストの発生等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、新型コロナウイルス感染症等のパンデミックへの対策として、感染者が増加した場合には、事業継続のため、勤務体制の見直しや補助人員の確保等を行うこととしています。加えて、政府が発出する要請事項や市中感染状況を踏まえ、事業活動継続と感染リスク抑制の両面の観点より、当社グループ全体に対して感染予防のための行動ガイドラインや関連する通達を適宜発信し、感染予防・感染拡大防止の周知・徹底を図っております。しかしながら、当社グループの事業所において大規模な感染が発生して事業運営が一時的に困難になる場合や、国内・海外ともに需要家の活動水準が低下し、製品需要の大幅な下振れが発生する場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
③品質に関するリスク
当社グループは、品質不適切行為を踏まえ、品質ガバナンス体制を再構築するなどの活動を鋭意遂行し、信頼の回復に努めてまいりました。前中期期間では、お客様からの更なる信頼回復と向上、不適切事案の風化防止などを目的とした「信頼向上プロジェクト」を設置し、社長直下で、各事業のマネジメントを強化し、お客様や社会に役立つために課題を設定し、全員参加でこれを達成することを目的にした「KOBELCO TQM推進会議」と、「お客様信頼向上会議」にて、お客様との接点を強化する活動や現場への信頼回復・向上活動の意義浸透を推進する活動を進めてまいりました。2024年度より、これらの活動を、経営審議会の補佐機関である「KOBELCO TQM推進委員会」に移行することで、グループ全体でKOBELCO TQM活動の取組みを強化・推進することといたしました。
JIS等の規格を基に社内で設定した基準のもと、製品の品質と信頼性の維持向上に努めておりますが、万一、品質ガバナンス体制に運用上の問題が発生した場合や製品に品質上の欠陥が発生した場合、訴訟もしくはその他のクレームによる費用の発生や、販売量の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
④環境規制、気候関連規制等の影響
鉄鋼やアルミ、銅を中心に、その生産活動の過程において廃棄物、副産物等が発生します。当社グループでは、国内外の法規制に則った適切な対応に努めておりますが、関連法規制に違反するような事象が発生した場合、原状回復や対策実施に多額の費用が発生する可能性があります。また、関連法規制の強化等によって、過去に売却した工場跡地等であっても土壌汚染の浄化のための費用が発生するなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループはCO2排出量が多いと指摘される鉄鋼事業や電力事業を主要な事業として営んでおり、CO2削減関係の重要事項は経営に重要な影響を与えうることから、全社横断的に検討・活動を行っております。しかし、今後CO2等の排出に関連して規制や税の賦課が導入された場合には、鉄鋼や電力を中心に当社グループの事業活動が制約を受け、売上高の減少やコストの増加等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、CO2削減への取組みの詳細は「第2 事業の状況」、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」の「(2)気候変動」をご参照ください。
⑤法令・公的規制
当社グループは、国内、海外において多岐にわたる分野で事業活動を行っており、その遂行にあたっては、当社グループが展開している様々な事業に関連する法令(安全保障貿易管理、独占禁止、贈収賄規制などに関するもの)、その他の公的規制や社会規範を遵守し、公正で健全な企業活動を行うことを指針としております。しかしながら、法令違反等を理由として罰金等を科される状況が発生した場合には、当社グループの業績や社会的信用力に影響を及ぼす可能性があります。
⑥訴訟等のリスク
当社グループは国内、海外において多岐にわたる分野で事業活動を行っており、その遂行にあたってはそれぞれの国の法令や公的規制、社会規範を遵守することを指針としております。万一これらに反する事象が発生し、訴訟等が提起された場合もしくは、すでに提起された訴訟等において当社グループに不利な判断がなされた場合には、損害賠償等の関連する費用の発生等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは、国内外において多岐にわたるJV契約や受注契約、購買契約、技術契約、電力供給契約、プロジェクトファイナンス関連契約などを締結しております。これらの契約の締結に際し、当社グループに不利もしくは履行不能な条件が無いか、必要条件の欠落が無いかなど、社内で十分な審査を行うよう努めております。しかし、契約締結後に当初想定できなかった経済環境の変化や契約内容の検討不足、予測できない商務的もしくは技術的なトラブルが発生し、契約相手との間でペナルティーの支払い、追加費用の発生、事業上の制約の発生等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑦人材確保に関するリスク
当社グループは、事業の維持・成長に必要な人材の確保のために、多様な背景を持つ社員一人ひとりが持てる能力や専門性を最大限発揮し、活き活きと働くことが出来るよう、労働条件の改善、職場環境の整備や人材育成の取組を進めています。しかし、今後、少子化や人材の流動化の加速、また労働市場の需給バランスの変化などによって人材の確保が想定どおりに進まない場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑧財務リスク
a)為替レートの変動
当社グループの外貨建取引は主として米ドル建で行われております。当社グループは、短期的な対応として為替予約等を実施しておりますが、変動リスクを完全に排除することは困難であり、為替レートの変動は、外貨建取引に関わる損益の変動や海外子会社の業績の変動等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
b)金利率の変動等
当連結会計年度末における当社グループの有利子負債残高は5,805億円(電力プロジェクトファイナンスを含めると8,234億円)であります。当社グループは新規の長期借入金・社債等に関し、固定金利での調達や金利スワップ契約等を実施しておりますが、中長期的な金融情勢の変化等による金利率及びその他の条件の変動等が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
c)融資・債務保証等
当社グループは、関係会社等に対して融資等、及び関係会社やお客様等における一部の金融機関借入等に対して債務保証等を行っております。将来、これらの融資等の回収が滞ったり、債務保証等の履行を求められる状況が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
d)棚卸資産の価値下落
当社グループが保有している棚卸資産について、収益性の低下等に伴い資産価値が低下した場合は、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
e)投資有価証券の価値変動等
当社グループが保有する投資有価証券の当連結会計年度末の連結貸借対照表計上額は2,450億円であります。上場株式の株価変動などに伴う投資有価証券の価値変動は、当社グループの業績に影響を及ぼします。
加えて、年金資産のうち退職給付信託を構成する上場株式の株価変動により、退職給付会計における数理計算上の差異が生じ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。退職給付信託を除く年金資産については、年金制度の予定利率や財政状態を勘案したうえで、元本毀損リスクの極力低い安全性資産中心の運用を行うよう努めております。
f)繰延税金資産の計上
当社グループでは繰延税金資産について、将来の課税所得を合理的に見積り、回収可能性を判断して計上しております。しかしながら、今後将来の課税所得の見積り等に大きな変動が生じた場合には、繰延税金資産の取崩しが発生し、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
g)固定資産の価値下落
当社グループが保有している固定資産について、時価の下落・収益性の低下等に伴い資産価値が低下した場合は、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。なお、詳細な内容については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」をご参照ください。
h)資金調達
当社グループは、主に銀行借入、社債発行及びコマーシャル・ペーパーの発行等により事業活動に必要な資金を確保しております。従って、景気の後退や金融環境の悪化、当社グループの信用低下等により、資金調達が想定どおりの条件で適時に実施できない場合には、事業計画の変更や資金調達コストの上昇等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは業界の二酸化炭素削減方針に従って、二酸化炭素削減の対応策を講じておりますが、昨今の二酸化炭素排出企業に対する厳しいダイベストメントの動向次第では、その影響を受け、資金調達が想定どおり行えなくなる可能性があります。
⑨中期経営計画の実現等
当社グループは、2024年5月に「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」を策定し、公表しております。主要な取組みとして、「稼ぐ力の強化と成長追求」と「カーボンニュートラルへの挑戦」を掲げております。本中期経営計画は、策定時点で入手可能な情報による判断及び仮定に基づいており、判断や仮定に内在する不確定性及び今後の事業運営や内外の状況変化による変動可能性など様々な要因によって、計画した成果が得られない可能性があります。
⑩知的財産権の保護及び第三者の権利侵害
当社グループでは保有する知的財産の適切な保全(特許・実用新案・意匠権等の取得や技術情報の秘密管理)に努めております。しかし、第三者により製品や技術等が模倣されたり、意図せぬ技術流失が発生した場合、当社グループの製品や技術等が陳腐化するなどの影響が発生し、売上高の減少等により当社グループの業績に影響を与える可能性があります。
また、当社グループでは、製品等の開発やエンジニアリング、製造、使用及び販売、その他の事業活動によって、第三者の知的財産権、その他の権利を侵害しないよう、あらかじめ調査を行い、必要に応じて実施許諾を受けるなどの措置を講じております。しかし、第三者からの知的財産権、その他の権利の侵害に関して紛争が生じた場合、紛争に関連する製品等の製造・販売等の差し止めや多額の損害賠償金・和解金の支払い等により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。
⑪情報セキュリティ
当社グループは事業活動において顧客情報・個人情報等を入手することがあり、また営業上・技術上の秘密情報を保有しており、グローバルに様々なシステムを構築し事業活動を行っております。当社グループはサイバー攻撃等による不正アクセスや情報漏洩等を防ぐため、管理体制を構築し適切な安全措置を講じております。しかし、顧客情報・個人情報等の漏洩や滅失等の事故が発生した場合には、損害賠償や当社グループの社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、営業上・技術上の秘密情報の漏洩や滅失等の事故が発生した場合や、第三者に不正使用された場合、サイバー攻撃等によるシステム障害が発生した場合には、生産や業務の停止、競争優位性の喪失、社会的信用の低下等により当社グループの業績に影響を与える可能性があります。
なお、当連結会計年度末現在では予測できない上記以外の事象の発生により、当社グループの財政状態及び経営成績が影響を受ける可能性があります。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営成績の状況
当連結会計年度の我が国経済は、物価上昇や世界的な需要低迷を背景に一部で足踏みが見られるものの、個人消費や企業の生産活動を中心に持ち直しの傾向が継続しました。海外経済は、米国では堅調な雇用情勢及び個人消費を背景に景気は底堅く推移している一方、欧州では金利上昇に伴う景気の下押し圧力により足踏み状態が続きました。また、中国では金融緩和等により景気の押上げが図られているものの、不動産市場の低迷などにより国内需要は伸び悩んでおり、景気回復ペースは不透明な状況が続きました。
このような中、当社はKOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)に掲げる「安定収益基盤の確立」に向けた重点施策を着実に実行するとともに、引き続きものづくり力の強化や販売価格の改善に努めてまいりました。
この結果、当連結会計年度の売上高は、前連結会計年度比706億円増収の2兆5,431億円となり、営業利益は、鉄鋼アルミでの販売数量の減少や在庫評価影響の悪化などがあったものの、原料炭価格の下落と販売価格改善の進展に伴う鉄鋼メタルスプレッドの改善、機械・エンジニアリングでの売上高の増加、電力での神戸発電所4号機の稼働や燃料費調整の時期ずれ影響の改善、売電価格に関する一過性の増益影響(売電価格の指標となる石炭の輸入貿易統計価格と当社購入価格の差異)などにより、前連結会計年度比1,002億円増益の1,866億円となりました。経常利益は、建設機械における北米でのエンジン認証に関する補償金収入の剥落や、自動車向けアルミパネル事業の再構築に伴う持分法による投資損失の計上などの減益要因があったものの、営業利益の増益により、前連結会計年度比540億円増益の1,609億円となりました。特別損益として、素形材などで固定資産の減損損失や、自動車向けアルミパネル事業の再構築に伴う合弁契約関連費用引当金の計上があったものの、子会社において固定資産の譲渡益を計上したことから、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比369億円増益の1,095億円となりました。
当連結会計年度のセグメント毎の状況は、次のとおりであります。
なお、従来、「その他」の区分に含めていたコベルコ科研は、所管の変更に伴い、当連結会計年度より「機械」セグメントに含めております。以下の前連結会計年度比較については、前連結会計年度の数値を所管変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較分析しております。
<素材系事業>
[鉄鋼アルミ]
(鉄鋼)
鋼材の販売数量は、自動車向けの需要が増加した一方、厚板工場・仕上圧延機の更新影響などにより減少したことから、前連結会計年度を下回りました。販売価格は価格改善の進展などにより、前連結会計年度を上回りました。
この結果、売上高は、前連結会計年度比2.0%減の8,916億円となりました。経常利益は、原料炭価格の下落と販売価格改善の進展に伴うメタルスプレッドの改善があったものの、販売数量の減少や在庫評価影響の悪化などにより、前連結会計年度比97億円減益の392億円となりました。
(アルミ板)
アルミ板の販売数量は、自動車向けは前連結会計年度並であった一方、需要の調整局面にあるIT・半導体向けの大幅な減少により、前連結会計年度を下回りました。販売価格は、価格改善の進展などにより、前連結会計年度を上回りました。
この結果、売上高は、前連結会計年度比2.2%減の1,911億円となりました。経常損益は、販売数量の減少や在庫評価益の縮小に加えて、自動車向けアルミパネル事業の再構築に伴う持分法による投資損失の計上により、前連結会計年度比160億円悪化の231億円の損失となりました。
鉄鋼アルミ全体では、売上高は、前連結会計年度比2.0%減の1兆827億円となり、経常利益は、前連結会計年度比258億円減益の161億円となりました。
[素形材]
素形材の販売数量は、造船向け需要を取り込んだ鋳鍛鋼、自動車向け需要が回復したアルミ押出、サスペンションで前連結会計年度を上回りました。一方、IT・半導体向け需要の減少により、銅板、アルミ鋳鍛で前連結会計年度を下回りました。
この結果、売上高は、前連結会計年度比7.3%増の2,981億円となり、経常利益は、固定費を中心としたコストの増加などがあったものの、販売数量の増加や販売価格改善の進展などにより、前連結会計年度比22億円増益の32億円となりました。
[溶接]
溶接材料の販売数量は、国内は前連結会計年度並の一方、中国、東南アジアでの需要回復が遅れ、中国での日系自動車・建設機械向け需要減等により、前連結会計年度を下回りました。販売価格は価格改善の進展などにより、前連結会計年度を上回りました。
この結果、売上高は、前連結会計年度比5.8%増の935億円となり、経常利益は、販売数量は減少したものの、販売価格改善の進展などにより、前連結会計年度比20億円増益の49億円となりました。
<機械系事業>
[機械]
受注高は、石油化学やエネルギー分野を中心に好調に推移したこと等により、前連結会計年度比2.9%増の2,737億円となり、受注残高は2,518億円となりました。
売上高は、既受注案件の進捗やサービス案件の増加により、前連結会計年度比15.3%増の2,345億円となり、経常利益は、好調な受注を受けた受注採算の改善もあり、前連結会計年度比138億円増益の296億円となりました。
[エンジニアリング]
受注高は、還元鉄関連事業で海外大型案件を受注したことや廃棄物処理関連事業での堅調な受注などにより、前連結会計年度比36.0%増の2,143億円となり、受注残高は4,336億円となりました。
売上高は、前連結会計年度比17.5%増の1,706億円となり、経常利益は、前連結会計年度比82億円増益の124億円となりました。
[建設機械]
油圧ショベルの販売台数は、北米等で増加したものの、需要が低迷した中国やエンジン認証問題により欧州で減少したことから、前連結会計年度を下回りました。クローラクレーンの販売台数は、欧州でのエンジン認証問題や生産・出荷のずれにより減少したものの、エンジン認証問題対応の進展等で北米を中心に増加したことにより、前連結会計年度を上回りました。
この結果、売上高は、販売台数の減少があるものの、販売価格改善の進展等により、前連結会計年度比5.8%増の4,040億円となり、経常利益は、販売価格改善の進展や円安による輸出採算の改善の一方、エンジン認証問題に関する補償金収入の剥落などにより、前連結会計年度比32億円減益の91億円となりました。
<電力事業>
[電力]
販売電力量は、神戸発電所4号機の稼働により、前連結会計年度を上回りました。販売電力単価は発電用石炭価格の変動に伴い前連結会計年度比で下落しました。
この結果、売上高は、前連結会計年度比2.6%減の3,159億円となり、経常利益は、神戸発電所4号機の稼働や、神戸発電所3・4号機における燃料費調整の時期ずれ影響の改善、神戸発電所1~4号機における売電価格に関する一過性の増益影響などにより、前連結会計年度比612億円増益の857億円となりました。
<その他>
売上高は、前連結会計年度並の108億円となり、経常利益は、前連結会計年度並の48億円となりました。
(2)財政状態の状況
当連結会計年度末の総資産は、将来の資金需要に備え現金及び預金が増加したことに加え、時価の上昇により投資有価証券が増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ450億円増加し2兆9,197億円となりました。負債については、原料価格の下落等により支払手形及び買掛金が減少したことなどから、前連結会計年度末に比べ1,046億円減少し1兆7,924億円となりました。純資産については、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことや、その他有価証券評価差額金が増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ1,496億円増加し1兆1,273億円となりました。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
|
目標指標推移 |
|||||
|
目標指標 |
目標 (2023年度) |
2020年度 (実績) |
2021年度 (実績) |
2022年度 (実績) |
2023年度 (実績) |
|
ROIC (税引後事業利益/投下資本) |
5%以上 |
1.1% |
4.7% |
4.9% |
6.7% |
|
D/Eレシオ(注1) (有利子負債/自己資本) |
0.7倍以下 |
1.11倍 (注2) |
0.80倍 (注3) |
0.65倍
|
0.55倍
|
|
グロスD/Eレシオ(ご参考) (プロジェクトファイナンスを含む有利子負債/自己資本) |
- |
1.49倍 |
1.19倍 |
1.00倍 |
0.83倍 |
|
純資産比率(ご参考) (純資産/総資産) |
- |
29.8% |
32.0% |
34.0% |
38.6% |
(注)1.プロジェクトファイナンスを含まない
2.2021年度分借入金の前倒し調達(1,862億円)含む
前倒し調達除く2020年度D/Eレシオ:0.84倍
3.2022年度分借入金の前倒し調達(1,011億円)含む
前倒し調達除く2021年度D/Eレシオ:0.68倍
「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)の総括」については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。
(4)生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当連結会計年度における下記セグメントの生産実績は、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
区分 |
生産数量(千トン) |
|||
|
前連結会計年度(2022年4月~ 2023年3月) |
当連結会計年度(2023年4月~ 2024年3月) |
差異 |
前期比 (%) |
||
|
鉄鋼アルミ |
粗鋼 |
6,248 |
6,020 |
△228 |
△3.6 |
|
アルミ板 |
349 |
319 |
△30 |
△8.5 |
|
|
素形材 |
アルミ押出 |
40 |
42 |
2 |
5.0 |
|
銅板 |
55 |
53 |
△1 |
△2.7 |
|
(注)粗鋼には、高砂製作所の電炉の生産数量を含めております。
b.受注実績
当連結会計年度における下記セグメントの受注実績は、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
区分 |
受注高(百万円) |
|||
|
前連結会計年度(2022年4月~2023年3月) |
当連結会計年度(2023年4月~2024年3月) |
差異 |
前期比 (%) |
||
|
機械 |
国内 |
99,340 |
96,090 |
△3,249 |
△3.3 |
|
海外 |
166,646 |
177,705 |
11,058 |
6.6 |
|
|
合計 |
265,987 |
273,795 |
7,808 |
2.9 |
|
|
エンジニアリング |
国内 |
120,869 |
141,905 |
21,035 |
17.4 |
|
海外 |
36,677 |
72,394 |
35,717 |
97.4 |
|
|
合計 |
157,546 |
214,300 |
56,753 |
36.0 |
|
|
セグメントの名称 |
区分 |
受注残高(百万円) |
|||
|
前連結会計 年度末 (2023年3月) |
当連結会計 年度末 (2024年3月) |
差異 |
前期比 (%) |
||
|
機械 |
国内 |
48,966 |
69,791 |
20,825 |
42.5 |
|
海外 |
165,762 |
182,073 |
16,310 |
9.8 |
|
|
合計 |
214,729 |
251,864 |
37,135 |
17.3 |
|
|
エンジニアリング |
国内 |
283,065 |
312,950 |
29,884 |
10.6 |
|
海外 |
88,061 |
120,702 |
32,641 |
37.1 |
|
|
合計 |
371,127 |
433,653 |
62,525 |
16.8 |
|
(注)従来、「その他」の区分に含めていたコベルコ科研(特殊合金他新材料(ターゲット材等)、各種材料の分析・解析等)は、所管の変更に伴い、当連結会計年度より「機械」セグメントに含めて開示しております。
なお、前連結会計年度の受注実績は、所管変更後の報告セグメントの区分に基づき作成したものを開示しております。
c.販売実績
当連結会計年度におけるセグメント毎の販売実績は、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
||||
|
前連結会計年度 (2022年4月~ 2023年3月) |
当連結会計年度 (2023年4月~ 2024年3月) |
差異 |
前期比 (%) |
||
|
|
鉄鋼 |
909,704 |
891,621 |
△18,082 |
△2.0 |
|
|
アルミ板 |
195,462 |
191,101 |
△4,361 |
△2.2 |
|
鉄鋼アルミ |
1,105,166 |
1,082,722 |
△22,443 |
△2.0 |
|
|
素形材 |
277,765 |
298,105 |
20,339 |
7.3 |
|
|
溶接 |
88,429 |
93,529 |
5,099 |
5.8 |
|
|
機械 |
203,463 |
234,515 |
31,052 |
15.3 |
|
|
エンジニアリング |
145,224 |
170,644 |
25,419 |
17.5 |
|
|
建設機械 |
381,781 |
404,056 |
22,275 |
5.8 |
|
|
電力 |
324,369 |
315,950 |
△8,418 |
△2.6 |
|
|
その他 |
10,965 |
10,804 |
△160 |
△1.5 |
|
|
調整額 |
△64,657 |
△67,186 |
△2,528 |
- |
|
|
合計 |
2,472,508 |
2,543,142 |
70,633 |
2.9 |
|
(注)1.従来、「その他」の区分に含めていたコベルコ科研(特殊合金他新材料(ターゲット材等)、各種材料の分析・解析等)は、所管の変更に伴い、当連結会計年度より「機械」セグメントに含めて開示しております。
なお、前連結会計年度の販売実績は、所管変更後の報告セグメントの区分に基づき作成したものを開示しております。
2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
|
相手先 |
前連結会計年度 (2022年4月~2023年3月) |
当連結会計年度 (2023年4月~2024年3月) |
||
|
金額 (百万円) |
割合 (%) |
金額 (百万円) |
割合 (%) |
|
|
神鋼商事(株) |
292,648 |
11.8 |
280,071 |
11.0 |
(5)資本の財源及び資金の流動性に関する情報
①資本の財源及び資金の流動性
a.財務戦略
「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」における財務戦略の基本方針は、新規の設備投資・投融資を厳選したうえで、投資キャッシュ・フローを営業キャッシュ・フローの範囲内とし、2023年度末のD/Eレシオの目標を0.7倍以下とすることとしておりました。また、運転資金改善等の活動を継続して進めるとともに、営業キャッシュ・フローの下振れリスクに備えて、モニタリング強化による投資案件の精査・厳選、事業用資産の売却・流動化、政策保有株式売却等のバックアップ策の検討・準備を進めてまいりました。
本方針のもと、設備投資・投融資委員会を通じた新規設備投資・投融資の厳選、事業ポートフォリオ管理委員会によるキャッシュ・フローのモニタリングを継続するとともに、ROIC管理を通じた投下資本の管理強化に取り組みました。
その結果、当連結会計年度末のD/Eレシオ(プロジェクトファイナンスを除く)は前連結会計年度末の0.65倍から改善し0.55倍となり、目標である0.7倍以下を引き続き堅持し、本中期経営計画期間で財務基盤は大幅に改善しました。
「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」における財務戦略については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。
b.資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動については、生産活動に必要な運転資金(材料・外注費及び人件費等)、受注獲得のための販売費、製品競争力強化・ものづくり力強化に資するための研究開発費が主な内容です。投資活動については、設備老朽化に伴う更新投資や事業伸張・生産性向上を目的とした設備投資及び事業遂行に関連した投融資が主な内容です。
今後、将来見込まれる成長分野での資金需要や、最新の市場環境及び受注動向も勘案し、資産の圧縮及び投資案件の選別を行う一方、必要な設備投資や研究開発投資等を継続してまいります。
②当連結会計年度の実績
a.プロジェクトファイナンスを除くキャッシュ・フローの状況の分析
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、営業活動によるキャッシュ・フローに係る収入が1,285億円、投資活動によるキャッシュ・フローに係る支出が△373億円、財務活動によるキャッシュ・フローに係る支出が△528億円となりました。
以上の結果、フリーキャッシュ・フローは911億円の収入となり、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末に比べ432億円増加の1,887億円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
前連結会計年度に比べて、鉄鋼における販売価格改善の進展や電力における一過性の増益影響などにより、税金等調整前当期純利益が増益となったことから、当連結会計年度の運転資金は改善いたしました。
この結果、当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べて586億円収入が増加し、1,285億円となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産売却による収入が増加したことなどから、当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べて326億円支出が減少し、△373億円となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
社債の発行などにより収入が増加したことから、当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べて507億円支出が減少し、△528億円となりました。
|
|
|
|
(単位:億円) |
|
|
2022年度 |
2023年度 |
差異 |
|
営業キャッシュ・フロー |
698 |
1,285 |
586 |
|
投資キャッシュ・フロー |
△700 |
△373 |
326 |
|
フリーキャッシュ・フロー |
△2 |
911 |
913 |
|
財務キャッシュ・フロー |
△1,035 |
△528 |
507 |
|
(うち、株主還元) |
(△177) |
(△276) |
(△99) |
|
株主還元後のフリーキャッシュ・フロー |
△179 |
634 |
813 |
|
現金及び現金同等物の期末残高 |
1,454 |
1,887 |
432 |
(ご参考)
|
プロジェクトファイナンスを含むキャッシュ・フロー |
|
(単位:億円) |
|
|
|
2022年度 |
2023年度 |
差異 |
|
営業キャッシュ・フロー |
1,196 |
2,052 |
855 |
|
投資キャッシュ・フロー |
△972 |
△537 |
435 |
|
フリーキャッシュ・フロー |
224 |
1,515 |
1,291 |
|
財務キャッシュ・フロー |
△855 |
△812 |
43 |
|
(うち、株主還元) |
(△177) |
(△276) |
(△99) |
|
株主還元後のフリーキャッシュ・フロー |
46 |
1,238 |
1,191 |
|
現金及び現金同等物の期末残高 |
2,033 |
2,787 |
753 |
b.プロジェクトファイナンスを除く有利子負債の状況
有利子負債は、借入金の返済等により前連結会計年度から100億円減少の5,805億円となり、株主資本は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上により、761億円増加の9,143億円となりました。
当社グループは比較的工期の長い工事案件が多く、生産設備も大型機械設備を多く所有していることなどから、一定水準の安定的な運転資金及び設備資金を確保しておく必要があり、当連結会計年度末の有利子負債の構成は、返済期限が1年以内のものが1,371億円、返済期限が1年を超えるものが4,433億円となっております。
|
|
|
(単位:億円) |
|
|
2022年度 |
2023年度 |
|
有利子負債(注1) |
5,905 |
5,805 |
|
有利子負債(注2) (プロジェクトファイナンスを含む) |
8,618 |
8,234 |
|
株主資本 |
8,382 |
9,143 |
|
D/Eレシオ (プロジェクトファイナンスを除く) |
0.65倍 |
0.55倍 |
|
(注1)当連結会計年度末現在の有利子負債の内訳 |
(単位:億円) |
||
|
|
合計 |
1年内 |
1年超 |
|
短期借入金 |
426 |
426 |
- |
|
長期借入金 |
4,228 |
944 |
3,283 |
|
社債 |
1,150 |
- |
1,150 |
|
合計 |
5,805 |
1,371 |
4,433 |
|
(注2)当連結会計年度末現在の有利子負債の内訳(プロジェクトファイナンスを含む) |
(単位:億円) |
|||
|
|
合計 |
1年内 |
1年超 |
|
|
短期借入金 |
426 |
426 |
- |
|
|
長期借入金 |
6,657 |
1,232 |
5,424 |
|
|
社債 |
1,150 |
- |
1,150 |
|
|
合計 |
8,234 |
1,659 |
6,574 |
|
(6)重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない連結財務諸表を作成し適正に表示するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用しております。
連結財務諸表の作成にあたり、経営者は、連結貸借対照表上の資産及び負債の計上額、並びに、連結損益計算書上の収益及び費用の計上額に影響を与えるような会計上の見積りを行う必要があります。会計上の見積りは、過去の経験やその時点の状況として妥当と考えられる様々な要素に基づき行っておりますが、前提条件や事業環境等に変化が生じた場合には、見積りと将来の実績が異なることがあります。
会計上の見積りが必要となる項目のうち、経営者が当社グループの財政状態又は経営成績に対して重要な影響を与える可能性があると認識している主な項目は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
(1) その他の経営上の重要な契約
1)United States Steel Corp.との契約
1990年3月に、当社はUSX Corp.(現 United States Steel Corp.)と米国において溶融亜鉛めっき鋼板の製造・販売に関する合弁事業契約を締結し、合弁会社「PRO-TEC Coating Company(現PRO-TEC Coating Company,LLC)」を設立いたしました。2010年12月に同契約を改定し、既存事業に加え、高張力冷延鋼板の製造・販売に関する合弁事業も行うことといたしました。
2017年9月には、同契約を再度改定し、現有の製造設備に加え、新たに溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備を1基増設いたしました。
2)鞍鋼股份有限公司との契約
2013年10月に、当社は鞍鋼股份有限公司と中国において自動車用冷延ハイテンの製造・販売に関する合弁事業契約を締結し、2014年8月に、合弁会社「鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板有限公司」を設立いたしました。
3)Millcon Steel Public Company Ltd.との契約
2016年2月に、当社はMillcon Steel Public Company Ltd.とタイにおいて線材の圧延・販売に関する合弁事業契約を締結し、合弁会社「Kobelco Millcon Steel Co., Ltd.」を設立いたしました。
4)Novelis Korea Ltd.との契約
2017年5月に、当社はNovelis Inc.の100%子会社であるNovelis Korea Ltd.と韓国においてアルミ板圧延品を製造する合弁事業契約を締結し、2017年9月に、合弁会社「Ulsan Aluminum, Ltd.」を設立いたしました。
5)電力供給事業に関する契約
当社の連結子会社である(株)コベルコパワー神戸、(株)コベルコパワー真岡、(株)コベルコパワー神戸第二における電力供給事業に係る契約は次のとおりであります。
|
契約会社 |
相手会社 |
契約内容 |
契約期間 |
|
(株)コベルコパワー神戸 (連結子会社) |
関西電力(株) |
電力受給に関する契約 (石炭火力発電140万kW [1、2号機各70万kW]) |
2017年4月1日から 2029年3月31日まで (1号機の受給開始の日から12年間) |
|
(株)コベルコパワー真岡 (連結子会社) |
金融機関等16社 |
電力供給事業の事業資金に関する限度貸出契約(2024年3月31日現在の借入残高419億円) |
2016年3月31日から 2031年3月31日まで (借入金返済期限) |
|
(株)コベルコパワー真岡 (連結子会社) |
(株)ニジオ |
電力供給に関する契約 (ガス火力発電124.8万kW [62.4万kW2基]) |
2014年9月29日から 2034年12月31日まで (後発機の受給開始の日から15年間) |
|
(株)コベルコパワー神戸第二 (連結子会社) |
金融機関等12社 |
電力供給事業の事業資金に関する限度貸出契約(2024年3月31日現在の借入残高2,009億円) |
2018年8月31日から 2036年3月31日まで (借入金返済期限) |
|
(株)コベルコパワー神戸第二 (連結子会社) |
関西電力(株) |
電力供給に関する契約 (石炭火力発電130万kW [65万kW2基]) |
2015年3月31日から 2052年1月31日まで (先発機の受給開始の日から30年間) |
6)日本製鉄(株)との契約
当社は、事業競争力の強化を目的に日本製鉄(株)と提携関係にありますが、これに係る契約は次のとおりであります。
|
契約会社 |
相手会社 |
契約内容 |
契約期間 |
|
(株)神戸製鋼所 (当社) |
日本製鉄(株) |
スラブ取引に関する合意書 |
2005年6月17日から 2033年5月14日まで |
|
(株)神戸製鋼所 (当社) |
日本製鉄(株) |
提携施策の検討継続及び買収提案を受けた場合の対応に関する覚書 |
2022年11月14日から 2027年11月14日まで 但し、5年毎の自動更新条項あり |
当社グループ(当社及び連結子会社)は、幅広い技術分野での高度な技術力を源泉として、当社グループならではの顧客価値を実現する製品の創出と、それに必要な「ものづくり力」の強化を中心に取り組み、また、拡販のための技術支援、ソリューション提案など多くの成果をあげています。
当社グループでは、2023年3月末に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)助成事業の大規模水素エネルギー利用技術開発プロジェクトとして2022年3月に採択された「液化水素冷熱の利用を可能とする中間媒体式液体水素気化器の開発」(以下、本事業)において、運転圧力1MPa以下での実証試験を予定通どおり完了しました。本事業では、液化天然ガス気化器で実績のある中間媒体式気化器※1の要素技術をベースに、CO2排出を冷熱回収の形で抑制する冷熱回収型液化水素気化器を採用しました。この実証試験において、実用規模では世界で初めて安定した気化性能及び冷熱回収が可能であることが確認できました。また、水素発電において求められる臨界圧(約1.3MPa)以上での課題点の抽出・検証を行うために、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/(ロ)地域モデル構築技術開発」の2023年度第1回公募「水素CGSの地域モデルにおける水素燃料供給システムの効率化・高度化に向けた技術開発」に川崎重工業(株)と応募し、2023年6月に採択されました(実施期間:2023~2024年度)。
また、「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の実証試験を予定どおり2023年3月から当社高砂製作所(兵庫県高砂市)内で開始するとともに、2023年6月より試験用ボイラーへの水素供給による水素燃焼試験において、水素混焼を開始しました※2。さらにNEDOから調査委託として採択された「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発」に係る水素製造・利活用ポテンシャル調査では、主要なエネルギー消費設備であるボイラー及び加熱炉でのCO₂フリー水素の利活用について、当社高砂製作所で実稼働する設備を対象とした水素利用ポテンシャルの調査と水素利活用モデルの検討を行い、100基以上の加熱炉で消費される化石燃料を水素に置き換える場合、最大36,000t/年の水素利活用ポテンシャルがあるとの試算結果が得られました。本調査で抽出された課題解決に向けた方策として、実機規模のボイラー及び加熱炉での水素利活用を「ハイブリッド型水素ガス供給システム」を用いて実証することを、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/(ロ)地域モデル構築技術開発」の2023年度第1回公募「熱エネルギー消費が主体の工場の脱炭素化に向けた燃焼式工業炉での水素利活用の実証」に応募し、2023年6月に採択されました(実施期間:2023~2025年度)。今後、各種実証試験において水素気化器と水電解式水素発生装置の同時運転等を行い、水素供給時の水素コストやCO₂発生量/炭素集約度を評価し、安価で安定した水素供給ができる運転マネジメントシステムの構築を行っていきます。
また、加古川製鉄所の大型高炉(4,844 m3)でCO2排出量を25%削減(高炉単体、SCOPE1+2)できる技術の実機実証に成功しました。これは、2021年2月に当社が公表した「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO2低減ソリューション」での実証結果(約20%)を大幅に上回る結果であり、高炉実機でのCO2削減手法としてこれまで公表されている中では、世界最高水準のCO2削減効果を有する極めて先進的な技術です。多様な事業を営む企業としての特長を活かし、エンジニアリング事業のミドレックス技術※3と鉄鋼事業の高炉操業技術がより一層、融合・深化した結果となっています。当社グループは、今回の実機実証実験の成功も含めて、生産プロセスにおける2030年のCO2排出削減目標の実現に向けた取組みを着実に進展させていきます。
※1 気化熱源として海水や工業用水を用い、プロパン等の中間媒体を介して、液化天然ガス(LNG)等の低温流体を気化させるタイプの気化器
※2 本システム実証の一部は、NEDOによる「水素社会構築技術開発事業」に採択されています。
※3 当社の100%子会社(Midrex Technologies, Inc.)が有する直接還元製鉄法に関する技術
本社部門では、2024年4月1日付で、2050年のCN(カーボンニュートラル)に向けた対応や、将来的な人材不足リスクへの対応(工場の省力化など)といった、中長期での全社共通課題に対する技術戦略立案を目的に、「技術戦略企画部」を新設しました。全社技術開発に関する機能及びものづくり力強化に関する機能に加え、全社活動である「研究開発委員会」や「ものづくり変革WG」の推進役を担うとともに、「GX戦略委員会」に設置する「CN技術検討部会」の推進役も担います。
技術開発本部では、①CNやデジタル化に関する先進技術の開発、②新規事業創出活動の加速、③既存事業の競争力向上、の3点に注力します。将来の成長分野・新規分野への取組みでは、未来洞察型の研究開発を推進することで、KOBELCOの事業ポートフォリオ変革に挑戦していきます。また、幅広い事業分野で培った技術資産を当社グループ内に広く展開し、複合経営ならではのシナジーを追求していきます。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、
[鉄鋼アルミ]
鉄鋼アルミでは、特殊鋼線材、自動車用高強度鋼、ディスク用アルミ板などの戦略製品の差別化による拡販と生産性・歩留まり向上による収益改善のための技術開発に注力しています。また、CO2排出量削減に直接貢献できる技術開発にも引き続き取り組んでいます。
鉄鋼では、当社の低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」が、トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ自動車)の競技車両「GR86(カーボンニュートラル燃料車)」に使用される(株)青山製作所製のエンジン部品締結ボルトに、自動車用特殊鋼線材としては初めて採用されました。採用された鋼材は、マスバランス方式により鋼材製造工程におけるCO2排出量を100%削減した「Kobenable Premier」です。また、本ボルトは、非調質ボルト用鋼を使用することで「焼鈍(軟化熱処理)」と「調質(焼入れ焼戻し熱処理)」というボルト製造工程における熱処理を省略しており、鋼材の製造工程とボルトの製造工程の両面においてCO2排出量を低減した製法で製造されています。
また、厚鋼板に疲労亀裂の発生を抑制する機能を付加し、疲労亀裂発生寿命を改善した耐疲労鋼板「EX-Facter®」を商品化しました。金属材料の疲労過程は、亀裂発生と亀裂進展に分けられます。当社は、厚鋼板の疲労亀裂発生までの損傷に着目し、最適成分設計とTMCP技術※1を駆使した製造法により、亀裂の発生を抑制可能とする業界初の鋼板を新たに開発しました。全厚試験片での疲労試験の結果、従来鋼に比べて繰返し数1千万回における疲労強度が36%向上したことを確認しました。「EX-Facter®」は特に造船分野における従来以上の燃費効率の改善及び橋梁分野における路面下の床構造部位である鋼床版の疲労損傷対策の課題解決に貢献でき、耐久性・安全性向上に関するお客様のニーズに応えるべく、「EX-Facter®」の特長を活かした利用技術の開発、提案活動を通じ、当社グループのマテリアリティのひとつである「安全・安心なまちづくり・ものづくりへの貢献」を推進していきます。
また、塗装とのマッチング機能を具備させた高湿潤環境対応型耐食鋼板「エコビュー プラス®」を鉄鋼業界で初めて開発、商品化し、2024年2月20日付けで国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)※2に登録されました。鋼橋の桁端部は狭隘、閉鎖的空間のうえ、路面端部に設置されている伸縮装置が経年劣化した場合、路面からの凍結防止剤や雨水、土砂の流れ落ちや堆積により、高湿潤環境になり易いため、部材腐食が生じ易く、腐食進行も速いと考えられています。「エコビュー プラス®」は当社のロングライフ塗装用鋼板(商品名:エコビュー®)にTa、Mg、REMを適量添加することで、高湿潤環境下でも塗装弱点部からの腐食進行を抑制することが可能となり、従来鋼に比べて塗装塗り替え周期が1.5倍に長期化すると考えています。当社は、「エコビュー プラス®」の特長を活かした提案活動を通じ、当社グループのマテリアリティのひとつである「安全・安心なまちづくり・ものづくりへの貢献」を推進していきます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
※1 Thermo Mechanical Control Process(熱加工制御)の略。鋼板圧延時の温度と圧下率、圧延後の冷却速度を管理する製造方法
※2 NETIS(New Technology Information System):国土交通省が民間で開発された優れた新技術を公共工事に積極的に活用していくために、これらの新技術に関わる情報を広く開示・提供することを目的としたシステム。NETIS登録されることで、お客様が設計及び施工段階において容易に採用できるようになる。
[素形材]
素形材では、自動車、航空機、船舶、半導体分野向けの主力製品の開発と、生産基盤の強化に注力しています。また、カーボンニュートラルに資するリサイクル関連の技術開発にも引き続き取り組んでいきます。
チタンでは、燃料電池セパレータ用チタン圧延材「NCチタン」が、トヨタ自動車とともに「市村産業賞 功績賞」を受賞しました。NCチタンは、チタン表面の緻密な酸化皮膜中に導電性のカーボン粒子を分散含有させており、プレス成形でも皮膜が剥離せず、燃料電池内部の腐食環境でも表面導電性を維持できます。これにより、従来セパレータ製造において、律速となっていたプレス成形後の表面処理を省略できるプレコート型セパレータの実用化を可能としました。また、トヨタ自動車とともに、コイル状チタン材への連続表面処理技術を確立し、NCチタンの量産化を実現しました。NCチタンはトヨタ自動車の「MIRAI」に独占的に供給されています。今後、乗用車に限らず、商用車や鉄道、船舶等へと適用を拡大し、水素社会実現に貢献していきます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
[溶接]
溶接では、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」の実現を目指し、突出した単一の技術もしくは複数技術の組合せにより、お客様の溶接に関する課題解決を図ります。溶接材料と溶接プロセス・溶接機器・ロボットによる「溶接ソリューション」を提供する企業として、引き続き特徴ある製品の開発に注力しています。
溶接材料では、NEW REGARC™プロセスに最適なソリッドワイヤを新たに2銘柄リリースしました。400MPa級鋼用FAMILIARC™ MG-50R(A)、550MPa級鋼用FAMILIARC™ MG-60R(A)では、新ワイヤ表面技術により、安定したワイヤ送給性、良好な耐チップ摩耗性を実現しました。従来よりも多様な鋼種で、NEW REGARC™プロセスによる高能率な溶接が可能になります。引き続き、溶接の自動化を課題とする国内外の建築鉄骨市場向けに生産性向上を提案していきます。
溶接システムでは、新たな立向溶接法SESLA™へ対応した新エレクトロスラグ溶接装置SG-3用の「リモートモニタリング機能」を開発しました。溶接装置から離れた場所で、溶接波形のモニタリングや溶接完了予定時間の表示が可能となります。SG-3は、SESLA™法に加え、以前より定評のあるエレクトロガスアーク溶接を用いるSEGARC™法も適用可能であり、トーチや水冷摺動銅板の動作をすべてデジタル制御することで、溶接品質の向上に加え、操作性向上による作業負荷軽減と技能レス化を実現しており、造船分野への採用決定や、エネルギー分野でも洋上風力発電への採用の検討が進んでいます。モニタリングデータの活用により施工管理・品質管理を効率化することで、お客様の製造現場での、更なる生産性向上に貢献していきます。
また、建築鉄骨市場向けに、「鉄骨梁CAD連係ソフトウェア SMART TEACHING™」を開発しました。一般的に溶接ロボットは、溶接線位置と溶接施工条件をロボットに記憶する教示作業が必要になります。特に梁部材はすみ肉溶接が主体の多様な形状であるため、建築構造物における梁部材数量は非常に多いものの、教示作業に時間を要するなどの課題から、溶接自動化が遅れています。これに対し、鉄骨製作のために設計されたモデルの梁部材の3Dデータから溶接に必要な情報を取り込み、ロボットの動作軌跡や溶接条件データを自動生成する機能を実現しました。既に鉄骨ファブリケータより受注しており、今後、国土交通省の建築BIMデータ利用拡大の推進も背景に、溶接の自動化を課題にする建築鉄骨市場向けでの拡販が期待されます。
新たな溶接プロセスとして、短絡フリーワイヤ送給制御プロセス「AXELARC™」を開発しました。本プロセスは、ワイヤ送給方向を反転させた際の「慣性」を利用して溶滴移行を制御する、世界初のアーク溶接プロセスです。低電流から高電流にわたる広い条件範囲において低スパッタかつ低ヒューム溶接が可能となり、深い溶込みを維持します。同プロセスを用いることで、高溶着かつ高速度溶接をも実現することができ、中・厚板分野の溶接品質及び能率向上に大きく貢献します。今後、中・厚板溶接の市場に対し、これまでの溶接プロセスの枠を超える新たな溶接ソリューションとして提案していきます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
[機械]
機械では、「2050年のカーボンニュートラルの実現に貢献する」をキーワードに、オンリーワン・ナンバーワン技術や商品を創出することで独自性を徹底追求するとともに、マーケット及び生産の両面から更なるグローバル化を推進し、世界トップレベルの「ものづくり」の実現を目指しています。
産業機械関連分野では、一般社団法人未来生産システム学協会が主催する岩木トライボコーティングネットワークアワード※1(以下、岩木賞)において事業賞を受賞しました。この度、主に切削工具の表面処理において、寿命向上や難加工を可能とするコーティング技術の確立と新型装置の設計、販売実績が評価され事業賞の受賞に至りました。当社は従来上限とされてきたAl含有率65at%に対して、高硬度かつ良好な皮膜構造を維持した状態でAl含有率70at%以上という画期的な皮膜開発に成功しました。また、精密加工に有効な皮膜の表面粗度を大幅に改善する技術も確立し、2023年の春に新型PVD※2コーティング装置(製品名:AIP-iX(アイピックス))の販売を開始しました。
また、分析・試験技術分野では、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、土木・建築、環境など広範囲にわたる分析・試験技術を蓄積するとともに、高度で先端的な評価・解析技術の開発を進めています。開発を効果的・効率的に進めるために、事業所別であった技術組織を要素技術別の組織へと再編を行いました。また、ターゲット材料・半導体ウェハ検査装置分野に関しては、高移動度酸化物ターゲット材料の用途拡大や、半導体ウェハ向け検査・測定装置の高精度、高機能化のための開発にも取り組んでいます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
※1 トライボコーティング技術研究会(会長:大森整 理化学研究所 主任研究員)によって2008年度に創設され、表面改質、トライボコーティング分野で多大な業績を上げた故・岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業を讃えて、当該技術分野とその関連分野での著しい業績を顕彰するものです。
※2 PVD(Physical Vapor Deposition)は物理蒸着と呼ばれる薄膜形成技術の総称。AIP(Arc Ion Plating)はPVDの一種で、真空中のアーク放電によって材料を蒸発・イオン化させて、母材に薄膜をコーティングする技術。耐摩耗性、低摩擦化等の特性を母材に付与することが可能で、工具や金型、機械部品などに用いられる。
[エンジニアリング]
エンジニアリングでは、循環型社会、脱炭素社会の実現に向け、将来の成長が見込まれる分野における独自プロセス・技術の開発、更なる差別化、競争力強化に向けた開発を推進しています。
還元鉄関連分野では、天然ガスを還元剤とするMIDREX NG™に加え、天然ガスを最大100%まで柔軟に水素に置き換えることが出来るMIDREX Flex™や、水素を100%還元剤として用いるMIDREX H2™の競争力維持・強化に向けた開発を継続しています。
(株)神鋼環境ソリューションでは、長崎県長崎市にDX推進の新たな拠点として「デジタルイノベーションLab長崎」を新設することを決定しました。技術系大学等から優秀なIT関連人材を多く輩出し、IT企業も充実している長崎県に新拠点を設置し、2024年8月より事業を開始する予定です。新拠点を設置することで、研究開発等におけるDX推進(データ分析による課題提起・ソリューション提供等)を加速するとともに、産学官での連携によるイノベーション創出や更なる変革へ挑戦していきます。
水処理関連分野では、日本下水道事業団と共同で、下水処理における「水熱炭化技術」の実証実験を富士市西部浄化センターで開始しました。従来、下水汚泥を炭化方式で固形燃料化する場合、乾燥工程と炭化工程で多くのエネルギーを必要としていましたが、本技術では汚泥を低温かつ湿式状態で炭化することで、固形燃料化に要するエネルギーの大幅削減が可能になります。下水汚泥のメタン発酵と本技術を組み合わせて導入することにより、CO2排出量を実質ゼロにすることを目指します。
廃棄物処理関連分野では、大栄環境(株)、DINS関西(株)、三菱ガス化学(株)、三菱化工機(株)とともに、環境省の「令和4年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」に採択された「廃プラスチックのガス化及びメタノール化実証事業」に取り組みました。今後も開発を継続し、これまで廃棄されていたプラスチックについてケミカルリサイクルによる資源循環システム構築を目指します。
水素事業においては、グリーン水素需要の高まりを見据え、水電解式水素発生装置の大型化や次世代技術の開発を推進しています。次世代エネルギーとして期待される水素の普及拡大及び低炭素化社会の実現に貢献できるよう、水電解式水素発生装置の新商品開発に取り組んでいきます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
[建設機械]
建設機械では、主力製品である油圧ショベル、クローラクレーンなどの安全性向上、省エネ性向上、排ガス対応・騒音低減などの環境対応に加え、建設リサイクル機械・金属リサイクル機械の開発に取り組んでいます。クラウドやAI、IoT等の先進テクノロジーの活用により「建設現場のテレワーク化」を実現し、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保などを目指しています。
ショベルでは、コベルコ建機(株)(以下、コベルコ建機)は、(株)安藤・間(以下、安藤ハザマ)と、これまでの共同研究や現場実験を踏まえ、1人の作業管理者が2台の自動運転ショベルの運転管理を同時に行う実証実験を行いました。今回の実験では、ダンプトラックへの土砂積込みの作業時間について、有人運転(1人で1台)と自動運転で比較を行い、1人で2台の自動運転ショベルを管理することにより、1人あたりの土砂積込み量が有人運転時より約3割増加することを確認しました。このことで、建設現場での省人化と生産性の向上に寄与すると考えています。本件は、初期段階での結果であり、今後、お客様の現場毎に動作を最適化することで生産性をさらに向上できると考えています。
コベルコ建機は遠隔就労を実現するプラットフォーム「JIZAIPAD」の開発を手掛ける(株)ジザイエ(以下、ジザイエ)に対し、Human Augmentation(人間拡張)を投資テーマに掲げるベンチャーキャピタルである15thRock Fund等とともに出資を行いました。今回の出資に合わせ、コベルコ建機はジザイエと遠隔技術分野における業務提携を行いました。本業務提携により、コベルコ建機は、自身が長年培ってきた遠隔技術分野に関する技術・ノウハウをジザイエに提供し、ジザイエが他業種展開も可能な知的財産・技術として発展させて活用することによって成長し、その技術を当社K-DIVE®等へ還元すること、さらには本取組みによって豊かな社会の建設に貢献していくことを期待しています。
また、カーボンニュートラルに向けた取組みの一環として、燃料電池式電動ショベルの試作機を開発し、水素を駆動源とした稼働評価を開始しました。この試作機は、中型油圧ショベルに電気駆動システムを搭載し、トヨタ自動車の燃料電池ユニットと水素タンクを採用しています。評価結果では、従来のエンジン搭載機と遜色がない動作速度、圧倒的な低騒音、CO₂排出量がゼロであることを確認しました。今後、試作機での改善を進め、従来のエンジン搭載機と同等の作業性能を実現させ、商品化を目指す予定です。また、KOBELCOグループの総合力を活かし、安全性と信頼性の確立に向けた研究開発、及び水素供給と充填方法等インフラ面での課題解決に取り組み、上市販売に向けた環境構築を加速します。
コベルコ建機と(株)冨島建設は、国土交通省近畿地方整備局主催の「建設技術展2023近畿」の「2023年度インフラDX※1」で、K-DIVE®を活用した重機遠隔操作の実用化検証により「優秀技術賞」を受賞しました。今回の実用化検証では、土砂災害の対策工事現場でK-DIVE®を使用して油圧ショベルの無人化施工を問題なく、実施できることを確認しました。 K-DIVE®は、建設現場の生産性向上、多様な人材活用、働き方改革に加え、無人化施工により、災害現場での安全確保にも役立ちます。
コベルコ建機と安藤ハザマは、K-DIVE®に自動運転機能を搭載し、コックピットから遠隔操作と自動運転を切り替えながら、2台の油圧ショベルを、同時に稼働させる現場検証を行いました。現在、建設現場の生産性向上等を実現するため、建設機械の自動化、遠隔化技術が期待される一方、現場における安全に関する新たなルールが必要となります。今回、国土交通省が募集した「建設機械施工の自動化・遠隔化技術に係る現場検証」として、油圧ショベルと人が混在するエリアでは、K-DIVE®の非常停止機能を使うというルールに基づき、2台の油圧ショベルを同時に稼働させ、ダンプトラックへの土砂積み込み作業を安全に実施できました。
また、コベルコ建機と安藤ハザマは、現場人員が自動運転システムを扱うのは難しいという課題に対し、「システム設定に関する手順書を作成、加えてタブレット内アプリの設定に関するユーザーインターフェース(UI)を再設計」と、「システム操作に関しても直感的に扱えるようにUIを再設計、加えて分かりやすい取扱説明書を作成」の改良を加えたうえで、シールド工事にて自動運転ショベルでダンプトラックに土砂積込みを実施、その効果検証を行いました。結果、ショベル搬入から自動運転システムの初回設定迄を半日程度で完了でき、また、誤操作等によるトラブルは発生せず2週間自動運転ショベルを安全に稼働できました。本検証により、機能面と安全面に加え、実用面でも、自動運転ショベルの本格展開について一定の目途がついたと考えています。今後、さらに自動運転の適用工種の拡大と現場展開に向けた取り組みを加速させる予定です。
クレーンでは、国土交通省が従前よりBIM/CIM※2の活用を推奨しており、2022年度に「建築BIM加速化事業」を創設、さらに2023年4月以降に入札を開始する小規模を除く、全ての公共工事へのBIM/CIM原則適用を開始しました。これらによりBIM活用の流れは加速しており、その潮流にこたえるべく、コベルコ建機は、安全性と生産性向上に貢献するためのツールとして、クレーン施工計画の策定支援ソフト『K-D2 PLANNER®』の一般販売を開始しました。開発にあたり多くのお客様のご意見をもとに製品改良を重ね、直感的な操作性や現場へ施工計画を共有するためのプレゼンテーションに加え、クレーンブームのたわみ・接地圧等のシミュレーションや最適クラスのクレーン選定等、建機メーカならではの機能も実装しました。これらにより施工計画が容易に作成でき、運用経費の削減に繋がるとともに、現場の安全性と生産性の向上が期待できます。
また、クローラクレーン「Mastertech7200G NEO」が機械工業デザイン賞 IDEA※3の日本産業機械工業会賞を受賞しました。このクローラクレーンは、従来のコンパクトボディを継承しながらも、つり上げ能力が最大25%向上し、大幅な作業性能向上を達成しています。また、新型運転席「delight(デライト)キャブ」やオペレータアシスト機能等、安全性や快適性にも配慮しています。受賞理由として、ヒューマンコンセプト・クレーンを基軸に、輸送性・組立性・省エネ性等の既得性能を継承しつつ、機能・性能・品質をより向上させ、ハードとソフトにバランスの取れた完成度の高い仕上がりとした点が評価されました。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
※1 国土交通省近畿地方整備局は、これまで生産性向上として取り組んできたi-Construction 等をより進化させるため、インフラ分野のDXに活用できる優れた技術を発掘、試行フィールドを提供することによってインフラDXを推進しています。
※2 BIMはBuilding Information Modeling、CIMはConstruction Information Modelingの略を示します。
※3 (株)日刊工業新聞社が、日本の工業製品におけるデザインの振興と発展を目的に1970年に創設した賞であり、製品の機能や外観だけではなく、市場性や社会性、安全性等、さまざまな面から総合的な審査を行います。審査委員会は関係省庁や大学、各工業団体の専門家等で構成されています。
[電力]
電力では発電所設備の予防保全および低炭素化等に関する研究開発を行っています。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、
[その他]
上記外の事業セグメントに係る当連結会計年度における研究開発費は、