第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりである。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

(1) 経営理念および行動準則

 積水化学グループは、経営に対する理念を体系化している。企業活動の根底にある考え方や方針を示す「社是」、社是をうけて中長期で当社グループが目指す姿を示した「グループビジョン」、グループビジョンを実現していくための具体的な「経営戦略」により構成されている。

 

①社是「3S精神」

 当社の社章は、創業当時の社名「積水産業」の頭文字の「S」3つを化学記号ベンゼン環の中に配置して、

「水」という文字をかたどったものである。1959年11月、当社は、このマークに「3S精神」という明確な定義づけを行い、社是として制定した。

 「企業活動を通じて社会的価値を創造する(Service)」「積水を千仞の谿に決するスピードをもって市場を変革する(Speed)」「際立つ技術と品質で社会からの信頼を獲得する(Superiority)」の3S精神は、積水化学グループの理念体系の根幹をなすものであり、約2万7千名の全社員の間で、しっかりと共有されている。

<社是「3S精神」>

・Service  :企業活動を通じて社会的価値を創造する

・Speed   :積水を千仞の谿に決するスピードをもって市場を変革する

・Superiority:際立つ技術と品質で社会からの信頼を獲得する

 

②グループビジョン

 積水化学グループは、ステークホルダーの期待に応え、社会的価値を創造し、事業を通して社会に貢献することを目指している。

 地球規模での人口増加や気候変動、先進国を中心とする高齢化、都市基盤の老朽化などに加え、これらすべてに関連する資源エネルギー問題がこれまで以上に喫緊な社会的課題になりつつある中、グループがこれまで蓄積してきた「住・社会のインフラ創造」と「ケミカルソリューション」の分野に関する経験・知見を活用して、これらの社会課題の解決に資する価値を創造し続けることを目指している。

<グループビジョン>

積水化学グループは、際立つ技術と品質により、「住・社会のインフラ創造」と「ケミカルソリューション」のフロンティアを開拓し続け、世界のひとびとのくらしと地球環境の向上に貢献します。

 

③積水化学グループ企業行動指針

 積水化学グループは、グループの役員・従業員が従うべき行動指針である「積水化学グループ企業行動指針」を定め、日々の事業活動を通じて社会的信頼を高め、より一層魅力ある会社を目指している。

<企業行動指針>

1 社会の発展に役立つ事業活動を行う。

2 個人の能力を最大限に発揮し、活力ある組織をつくる。

3 お客様・取引先・株主・地域など広く社会から信頼される企業をめざす。

4 あらゆる企業活動において法およびその精神を遵守し、誠実に行動する。

5 よき企業市民として、サステナブルな視点で地球環境問題と社会貢献に取り組む。

 

(2) グループビジョンを実現するための経営戦略

 積水化学グループは、社是「3S精神」の下、グループビジョンに掲げる「住・社会のインフラ創造」と「ケミカルソリューション」を両輪として成長していくため、長期ビジョン「Vision 2030」、ならびに2023年度から2025年度までの3か年を対象期間とした中期経営計画「Drive 2.0」を策定し、以下の取り組みを推進している。

 

①長期ビジョン「Vision 2030

 長期ビジョン「Vision 2030」では、積水化学グループがイノベーションを起こし続けることにより、「サステナブルな社会の実現に向けてLIFEの基盤を支え『未来につづく安心』を創造していく」という強い意志を込めたビジョンステートメント「Innovation for the Earth」を掲げている。レジデンシャル(住まい)、アドバンストライフライン(社会インフラ)、イノベーティブモビリティ(エレキ/移動体)、ライフサイエンス(健康・医療)の4つの事業領域を設定し、「ESG経営を中心においた革新と創造」を戦略の軸にして現有事業の拡大と新領域への挑戦に取り組み、2030年の業容倍増を狙う。

<ESG経営>

 積水化学グループの「ESG経営」では、「サステナブルな社会の実現」と「当社グループの持続的な成長」の両立の実現を目指し、その鍵となる以下の3つのステップをステークホルダーとともに取り組んでいる。

 イ)環境・CS品質・人材の「3つの際立ち」と「ガバナンス」の磨き上げ

 ロ)3つのアプローチ(量を増やす・質を高める・持続的に提供する)で社会課題解決を加速

 ハ)4つの事業領域で「未来につづく安心」という価値の創出・拡大

 このESG経営を加速するため、当社グループ主要施策について中長期目標を定めるとともに、今中期経営計画ではESG強化費550億円(設備投資+費用)を設定し、重大インシデントにつながるリスク軽減に向けた取り組みやDX(デジタル変革)・人材・環境など経営基盤の強化を推進する。

 

②中期経営計画「Drive 2.0」

<中期経営計画「Drive 2.0」の全体像>

 長期ビジョンの第2フェーズとなる中期経営計画「Drive 2.0」では、積水化学グループの業容倍増に向け、“持続的成長”と“仕込み充実”により、長期ビジョンの実現を目指すことを基本方針とし、①戦略的創造、②現有事業強化、③ESG経営基盤強化の3つの基本戦略に取り組み、企業価値の向上を推進する。

 

<中期経営計画の数値目標>

 

2025年度目標

中期経営計画

中期増分

売上高

14,100億円

+1,674億円

営業利益(率)

1,150億円(8.2%)

+233億円(+0.8%)

親会社株主に帰属する当期純利益

820億円

+127億円

ROIC(投下資本利益率)

8.5%

+0.9%

ROE(自己資本利益率)

11.0%

+1.0%

 

海外売上高(比率)

4,800億円(34%)

+1,049億円(+4%)

EBITDA
(利払い前・税引前・減価償却前利益)

1,750億円

+329億円

 

<基本戦略>

 中期経営計画「Drive 2.0」の基本戦略は、ESG経営を実践し持続的に企業価値を向上させていくために、長期ビジョンの第2フェーズとして①戦略的創造、②現有事業強化、③ESG経営基盤強化の3つに取り組むこと、それらを牽引するドライバーとしてサステナビリティ貢献製品の創出と拡大を加速させることにある。

 イ)戦略的創造(Strategic Innovation)

   新事業領域の創出を目指した仕込みの具体化

 ロ)現有事業強化(Organic Growth)

   現有事業の着実な成長とポートフォリオの磨き上げ

 ハ)ESG経営基盤強化(Strengthen Sustainability)

   持続的成長と仕込み充実に資するESGマネジメント強化

 

<投資・財務戦略>

 中期経営計画「Drive 2.0」の3年間に獲得するキャッシュに加え、適切かつ機動的な資金調達を行うため、投資枠6,000億円を設定する。設備投資枠(戦略投資+通常投資)、M&A投資枠としてそれぞれ3,000億円を設定し、市場開拓に伴う増産投資や、M&Aによる技術やノウハウ、グローバルの販路獲得などに活用する。また、環境負荷低減、人的資本投資、デジタル変革など長期的に資本コストを抑制し、企業価値向上に寄与する取り組みを実行するために、ESG強化費550億円(設備投資+費用)を設定している。

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<株主還元>

 中期経営計画「Drive 2.0」では、株主の皆様への「剰余金の配当等に関する基本方針」の内容を見直し、株主還元のコミットを強化・明確化した。連結配当性向40%以上、総還元性向50%以上(D/Eレシオ(負債資本倍率)が0.5以下の場合)としつつ、DOE(自己資本配当率)3%以上を確保し、業績に応じ、かつ安定的な配当政策を実施する。

 

③気候変動課題への取り組み

 当社グループは、気候変動は大きな社会課題であると同時に、当社グループにとって大きなリスクであると認識し、その解決に積極的に取り組んできた。2018年、化学業界初となるSBT認証(注)を取得し、2030年にGHG

(Greenhouse Gas:二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス)排出量削減率をScope1+2を2019年度比で50%減、Scope3を2019年度比30%減とする目標を掲げ、これまでは老朽設備更新の促進などの「エネルギー消費革新」、購入電力の再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)転換や自家消費型太陽光発電設備の導入などの「エネルギー調達革新」を進めてきた。

 今後は、燃料使用設備の電化や低炭素燃料への転換の促進、さらには「生産プロセス革新」による燃料由来GHG排出量の削減という技術的難易度の高い取り組みも進め、中長期のGHG排出量削減目標の達成を目指す。なお、当社の目標値はSBT認証を取得している。

(注)SBT(Science Based Targets)認証:企業が定めた温室効果ガス削減目標が、長期的な気候変動対策への貢献と科学的に整合していると、国連グローバル コンパクトをはじめとする共同イニシアチブにより認証されたもの。

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(注)1.Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出

(燃料の燃焼、工業プロセス)

   2.Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

   3.Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出

(事業者の活動に関連する他社の排出)

 2023年度から開始した中期計画において、最終年度である2025年度は以下の目標を目指して取り組みを進めている。

脱炭素化 GHG排出量削減率(Scope1+2)   ▲33%(基準年2019年度)

     購入電力の再エネ比率  70%

 2023年度はGHG排出量の削減率については、生産量減少と電力の再エネ転換が進んだ結果、購入電力を100%再エネに切り替えた事業所は国内外31拠点、自家消費型太陽光発電設備の導入事業所は同19拠点となった。グループ全体における購入電力の再エネ比率は計画通りに進捗している。

 

 ④資源循環の実現に向けた対応

 当社グループは2050年にサーキュラーエコノミーを実現し、持続可能な社会を目指す。この長期ゴール実現のために2020年度に下記の資源循環方針を定めた。

 イ)資源循環に関するイノベーションを推進する

 ロ)事業活動で使用する非化石由来および再生材料の使用を拡大する

 ハ)ライフサイクルにおいて排出される廃棄物においてはマテリアルへの再資源化を最大化する

 2023年度から開始した中期計画において、最終年度である2025年度は以下の目標を目指して取り組みを進めている。

 再資源化の促進

  廃プラスチックのマテリアルリサイクル率(国内)65%

 

 2023年度の廃プラスチックのマテリアルリサイクル率(国内)は、事業所毎に廃棄物の性状を再調査するとともに、再生技術を有するリサイクラーの適用範囲の再確認を行うことでマッチングを行い、リサイクラーの見直しを進め計画通りに進捗している。

 

⑤サステナビリティ貢献製品による「持続可能な開発目標(SDGs)」への貢献

 気候変動などの社会課題が深刻化し、企業に対しては持続可能な社会の実現への貢献を求める声が高まっている。積水化学グループにおいても、さまざまな製品や事業を通じて、2030年までに世界が成し遂げるべき「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた企業活動を推進している。

 なかでも、自動車向け遮音・遮熱中間膜や太陽光発電システム搭載住宅、管路更生SPR工法といった、自然環境および社会環境における課題解決への貢献度が高い製品をサステナビリティ貢献製品と認定し、連結売上高に占めるサステナビリティ貢献製品比率を高めている。

 グループビジョンに「世界のひとびとのくらしと地球環境の向上に貢献する」ことを掲げる企業として、サステナビリティ貢献製品の創出と市場における拡大を通じ、SDGsをはじめとする社会課題解決への貢献と企業としてのさらなる成長を目指す。

 

⑥人的資本経営の取り組み

 積水化学グループは、人材理念に「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」と定め、人的資本を企業価値向上の源泉と位置づけている。長期ビジョンを実現し、全員が挑戦したくなる活力あふれる会社の実現に向け、今中期は「挑戦する風土の醸成」「適所適材の実現」「ダイバーシティの実現」を人事戦略に掲げ、各種施策を展開している。また従業員のキャリア拡大への投資、ならびにグループ各社の人員確保(労働条件の改善、人員の補強、働く環境の整備)として、3年で120億円を人的資本に投資することとしている。

イ)挑戦する風土の醸成

 “挑戦の場づくり”としては、グループ人材公募などによるキャリア機会の実現とともに、社内起業制度の導入など新たなチャレンジ機会の提供を推進している。“挑戦の後押し”としては、上司層の意識改革を図るための長期ビジョン展開活動の継続とともに、キャリアに関する上司部下間の面談を強化している。挑戦風土の醸成状況は、年に1回“挑戦行動発現度”として測定し改善に努めている。

ロ)適所適材の実現

 持続可能な組織とするためには、人材のバトンを次に繋げることが必要である。“ビジネスリーダーの育成”としては、役割型人事制度に基づき、年功によらず最適な人材をライン長に任命するとともに、全社をあげて後継者候補の認定およびその育成に取り組んでいる。“プロ人材の確保”としては、競争力の源泉となる高度専門人材の確保に努めるとともに、事業ニーズに即したリスキルを強化すべく2023年度からDXやグローバル領域における育成プログラムを開始した。

ハ)ダイバーシティの実現

 “多様な人材の活躍推進”としては、多様な人材(女性、障がい者、キャリア採用等)を受けいれる環境整備と雇用の実現、両立支援(育児、介護、病気)と定着支援を推進している。“個と職場の活力を高める環境の実現”としては、働き方改革を通じた働きやすい環境の整備とともに、健康経営の推進(からだ・こころ・そしき)を通じた安心して働き続けられる環境確保に努めている。

 

(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

2024年度目標

連結売上高   13,267億円

親会社株主に帰属する当期純利益 780億円

連結営業利益   1,020億円

ROE(自己資本利益率)     10.0%

 2024年度は、中期経営計画「Drive 2.0」の2年目として、引き続き事業ポートフォリオ改革に取り組み、「成長」へのシフトを加速していく。

 市況については徐々に回復していくと見込んでいる。引き続き社会課題解決に資する高付加価値事業・製品販売の拡大を図るとともに、スプレッドの維持、新築住宅事業の収益体質強化策の着実な推進などにより、全てのセグメントで増収・増益、全社での売上高の過去最高更新、営業利益および親会社株主に帰属する当期純利益の最高益更新の見通しである。

 

 

<住宅カンパニー>

 2024年度は、リフォーム、不動産、まちづくり各事業の売上拡大や、新築住宅事業におけるコスト削減により、増収・増益の見通しである。

 新築住宅事業では、2023年度の受注棟数減少の影響があるものの、売上高は2023年度並みの見通しである。引き続きリフォーム事業などの成長領域への人員シフトなどによる収益性強化に取り組むとともに、各エリアのニーズに応じた商品開発や販売戦略を推進し、受注棟数増大や棟単価向上を図る。

 リフォーム事業では、営業人員の拡充や、断熱リフォームを軸とした改装の拡販に加え、セキスイハイムオーナー以外の一般リフォーム市場における需要獲得に向けた取り組みに注力する。

 不動産事業では、管理戸数増大による賃貸事業の拡大や、仲介や買取再販など流通事業の拡大に注力する。

 まちづくり事業では、新規プロジェクトの発売により、売上増大を図る。

 

 

<環境・ライフラインカンパニー>

  2024年度は、国内の住宅・非住宅建築市況は、上期は引き続き停滞するものの下期から緩やかに回復すると

想定する。社会課題解決に資する重点拡大製品と海外売上の拡大に注力し、増収・増益の見通しである。また諸原料高、物流費の上昇に加え、賃上げなど事業に関わる総コストの増加に対応した売値改善を進める。

 パイプ・システムズ分野では、引き続き人手不足やインフラ老朽化などの社会課題解決に資する重点拡大製品の拡販を図るとともに、下期より回復が見込まれる半導体向けプラント設備投資需要の取り込みと、CPVC樹脂の販売エリア拡大に注力する。

 住・インフラ複合材分野では、不燃性ウレタン製品を中心に耐火材料事業の拡大、大型高排水システムや介護用製品の拡販を推進する。またFFUについては、欧州工場の安定稼働を早期に実現し、海外での鉄道まくらぎ用途の採用を加速させる。

 インフラ・リニューアル分野では、管路更生の海外での受注拡大、高機能パネルタンクの販売強化などにより売上拡大を図る。

 

 

<高機能プラスチックスカンパニー>

 2024年度は、労務費の増加や原材料高騰の影響を受けるものの、為替の効果に加え、モビリティ分野や半導体を中心としたエレクトロニクス関連需要の回復を見込み、販売数量を大幅に拡大することにより、増収・増益の見通しである。

 エレクトロニクス分野では、スマートフォン市況については当期並みと想定する一方、半導体関連の需要については緩やかな回復を見込んでおり、基板・半導体関連をはじめとする非液晶分野での拡販を加速させ、増収を図る。

 モビリティ分野では、引き続き自動車関連需要は堅調に推移すると見込んでおり、ヘッドアップディスプレイ用を中心とした高機能中間膜の拡販を推進するとともに、航空機需要についても一定の回復を見込み、増収を図る。

 インダストリアル分野では、欧米や国内の建築・消費財需要の低迷が続くも、下期の市況回復を見込み、成長領域に定めている断熱材、長尺クラフトテープなどの施工省力化製品や環境対応製品の拡販を推進するとともに、売値改善の継続により増収を図る。

 

 

<メディカル事業>

 2024年度は、国内外での検査需要の確実な取り込みと、医療事業での新規受注獲得に注力する。国内および中国での血液凝固機器・試薬の拡販に加え、米国において、新製品となるインフルエンザ・新型コロナウイルス感染症検査コンボキットの拡販に注力し、大幅な増収増益、過去最高益の更新を目指す。

 

(4) 株主との建設的な対話に関する基本方針

 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、株主との対話を行うことは極めて重要である。当社は、社長および経営戦略部担当取締役を中心に、株主総会はもとより四半期毎の決算説明会や国内外の投資家面談などを積極的に行い、株主との建設的な対話に努めている。

 当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、株主との建設的な対話に関して、以下の基本方針を定めている。

①中長期的経営戦略の立案およびIRを統括する経営戦略部担当取締役を責任者と定め、投資家との間で建設的な対話を実現するための体制整備・取り組みを行う。

②経営戦略部担当取締役は、各カンパニー、経営管理部、法務部、コーポレートコミュニケーション部、その他関係部署を中心に、インサイダー情報の漏洩に留意しつつ、対話を補助する部門間での情報共有を確実に行うなど有機的な連携を確保する。

③株主との建設的な対話を促進するため、株主構造の把握に努め、また対話の手段として、以下の取り組みを実施し、対話の充実に努める。

 イ)社長や経営戦略部担当取締役などによる四半期毎の決算説明会の実施

 ロ)国内外投資家との個別面談の実施

 ハ)株主・投資家向け事業説明会などの適宜実施

 ニ)当社ウェブサイトにおける国内外投資家へ向けた情報開示の充実(統合報告書、決算説明会資料、音声など開催模様含む)

 ホ)当社ウェブサイトにおける意見投稿機会の確保

④経営戦略部担当取締役は「企業情報開示規則」に則り、対話によって得られた投資家の意見などを取りまとめ、適時適切に取締役会などで共有し、経営に活かす。

⑤「企業情報開示規則」および「インサイダー取引規制規則」に則り、情報管理を強化していく。株主との対話においても細心の注意を払う。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりである。

 なお、文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、様々な要因により実際の結果とは異なる可能性がある。

 

(1) サステナビリティ課題全般

①ガバナンス

 当社グループでは、監督機能としての取締役会と、執行機能としての「サステナビリティ委員会」および傘下の8分科会からなる監督・執行体制により、ESG経営をグループ一体で進めている。

 取締役会:

 サステナビリティ委員会で審議した方針・戦略、全社リスクについて年2回報告を受け、最終決定するとともに、サステナビリティに関する執行側の取り組みを監督している。

 サステナビリティ委員会:

 社長を委員長、ESG経営推進部担当専務執行役員を副委員長とし、住宅カンパニー、環境・ライフラインカンパニー、高機能プラスチックスカンパニーの各プレジデントを含む業務執行取締役で構成され、年2回開催している。

 委員会では、将来当社グループが直面する可能性のある全社的なリスクや機会を抽出・特定してマテリアリティを適宜見直すとともに、全社方針やKPIの決定、全社実行計画を策定している。また各分科会委員長による報告を受け、各マテリアリティの取り組み状況をモニタリングしている。

 分科会:

 サステナビリティ委員会の傘下組織として、当社グループのマテリアリティに関わる「環境」「CS品質」「人材」「安全」「コンプライアンス」「サイバーセキュリティ」「DX」と2024年4月新設の「人権」の8分科会を設置している。人権分科会を除く7つの各分科会は、コーポレートの担当役員を委員長とし、3カンパニーの担当役員および各カンパニー、コーポレート、コーポレート傘下のメディカル事業の主管部門長で構成され、原則として年2回開催している。人権分科会は、コーポレートの執行役員人事部長を委員長とし、関係するコーポレート各領域を担当する執行役員で構成されている。各分科会は「サステナビリティ委員会」の決定内容に基づいたカンパニー別の具体施策立案と実行計画への落し込み、取り組み状況のモニタリングを行っており、その結果を各分科会委員長が「サステナビリティ委員会」に参加して報告、審議を行っている。

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②戦略

 当社グループでは、社会課題解決に取り組むことは、社会の持続性向上に直結しており、貢献の対価である売上高は、社会課題解決貢献量であると考えている。そしてその貢献の質・量を向上させることで当社グループの持続的な利益ある成長を図ることができ、またそのことで、お客様、株主、従業員、取引先、地域社会・地球環境といったすべてのステークホルダーへの貢献をさらに拡大していくことができると考えている。

 ・積水化学のESG経営

  “Innovation for the Earth”というステートメントを中心に捉え、「サステナブルな社会の実現」と「グループの持続的な成長」の両立の実現を目指し、その鍵となる「Ⅰ.際立ち」「Ⅱ.社会課題解決」「Ⅲ.未来につづく安心」の3つのステップをステークホルダーとともに実践していくことを、当社のESG経営としている。

  そして長期ビジョン「Vision 2030」実現のため、ガバナンス(内部統制)、DX、環境、人的資本、イノベーションをESG重要課題(マテリアリティ)と特定し、各マテリアリティにそれぞれKPIを設定してESG経営の取り組みを進めている。

 

積水化学グループのESG重要課題

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  <3つのステップ>

Ⅰ.際立ち

 社会に信頼される企業体制を「ガバナンス(内部統制)」と通じて実現し、際立つ「人材」の挑戦を原動力に「環境」「CS品質」で圧倒的な差異を持つ製品・サービスを生み出していく

Ⅱ.社会課題解決

 「際立ち」をもとに、3つのアプローチ(貢献の量を増やす、質を高める、これらを持続的に提供していく)で社会課題解決を加速

Ⅲ.未来につづく安心

 未来の世代も含めたあらゆる世代に安心してもらえるよう「未来につづく安心」という価値を、4事業領域(レジデンシャル、アドバンストライフライン、イノベーティブモビリティ、ライフサイエンス)で創出・拡大

 

 ・SEKISUI環境サステナブルビジョン2050

  気候変動を含む環境課題に関しては、2050年に向けた方向性を「SEKISUI環境サステナブルビジョン2050」の通り描いている。また、“環境”における重要課題を認識し、2050年の到達目標からバックキャストして、中期にやるべきことを考え、環境中期計画を策定している。

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  当社グループが2050年に目指す地球の姿は、気候変動、資源循環、水リスクのすべての環境課題のゴールが同時に実現することで、生物多様性が健全な状態に保たれた、“生物多様性が保全された地球”である。企業活動において、地球上の自然資本、社会資本を利用していることを認識し、(1)サステナビリティ貢献製品の市場拡大と創出、(2)環境負荷の低減、(3)環境の保全、の3つの活動によって自然資本、社会資本のリターンに貢献し、気候変動、資源循環、水リスク、生物多様性といった地球上の課題解決に貢献する。そしてリターンへの貢献を加速していくために、当社グループのみならずステークホルダーの皆様と連携し、取り組みを推進していく。

 

③リスク管理

 当社グループでは、リスクと機会の重要性を踏まえて、定期的にモニタリングを実施している。まず、各国の法規制・ソフトロー・開示規制、ステークホルダーエンゲージメント、有識者ダイアログ等から、社会と当社グループにとっての課題を網羅的に把握。そしてそれらの課題を、「起こりやすさ」と「インパクト」「バリューチェーン上における波及効果」の3軸から点数づけするなどして、全社リスクマップに落とし込み、各分科会委員長が参加する全社リスク検討部会(年1回開催)で議論の上、社会の持続性と当社グループの持続的成長にとってリスクまたは機会となりうる短中長期の課題を特定するとともに、優先順位付けを行っている。

特定した課題は、サステナビリティ委員会での審議、取締役会での承認を経て、重要課題として認定し、戦略および全社と各カンパニーの実行計画に反映させている。中でも、重大インシデントにつながる可能性が高い「全社重大リスク」に関しては、組織別リスク管理活動におけるアセスメントの実施を必須化し、重大インシデント発生の抑止を図っている。

 

④指標及び目標

 当社グループは、ESG経営(社会のサステナビリティ向上と当社グループの持続的な成長の両立)を象徴するKPIとして、「サステナビリティ貢献製品の売上高」を置き、現中期経営計画における目標を1兆円超と設定している。また、重要課題であるガバナンス(内部統制)、DX、環境、人的資本、イノベーションにおいても、それぞれにKPIと目標を定め、取り組んでいる。

マテリアリティ

KPI

中長期目標

ガバナンス(内部統制)

5領域重大インシデント発生件数

2025年度 ゼロ

DX

直接/間接人員あたり売上高

2030年度 直接生産性30%増、

間接生産性43%増、

(2019年度比)

環境

気候変動 GHG排出削減率

2025年度  △33%(2019年度比)

資源循環 廃プラマテリアルリサイクル率

2025年度 国内65%

人的資本

挑戦行動の発現度

2025年度   60%

後継者候補準備率

2025年度   100%

定着率

前年比維持・向上

イノベーション

オープンイノベーション件数

非公開

(アウトプット)

サステナビリティ貢献製品売上高

2025年度 1兆円超

 ※サステナビリティについての取り組みの詳細は、サステナビリティレポート2023を発行し、当社webサイトで開示を行っている。なお、サステナビリティレポート2024の発行は2024年7月を予定している。

  <サステナビリティレポート>

  https://www.sekisui.co.jp/sustainability_report/

 

(2) 気候変動への対応(TCFD提言に沿った気候変動関連の情報開示)

①ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、前述のサステナビリティ課題全般のガバナンスに組み込まれている。特に、気候変動を含む環境課題の監督・執行体制については以下の通りである(2024年4月1日現在)。

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 環境責任者会議:

 再生可能エネルギーや資源循環など、重要案件ごとに設定し、定期的に開催(1回/月)。コーポレートとカンパニーの環境責任者が参加し、課題解決の進捗を確認し、解決策を検討している。

 

②戦略

 気候変動が当社グループおよび当社グループ事業に及ぼすリスクの抽出と、長期リスクに備えるための戦略を確認するにあたっては、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次・第6次評価報告書を参考にし、気候変動シナリオ設定を行っている。

気候変動シナリオ

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 設定した気候変動シナリオをもとに、気候変動リスクがもたらす事業領域ごとのインパクト分析を実施し、長期リスクに備える戦略を検討している。分析に際しては、1.5℃シナリオと4℃シナリオを元に、気候変動の緩和が進む/進まないという軸と社会システムが地方に分散する/大都市に集中するという軸の2軸を設定し、さらに他の環境課題が気候変動課題と相互に及ぼし合う影響も考慮して、4つの気候変動シナリオを想定している。

 

気候変動リスクのインパクト分析結果

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緑字:1.5℃シナリオ見直しに伴った改定事項

太字:イノベーション関連項目

 

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 これら想定される社会において、考えられる当社グループのリスクと機会の分析を行い、各シナリオで描いた社会が実現した場合に適応するための当社グループの戦略について検討した結果の概要は以下の通りである。

 

A) 脱化石スマート社会/1.5℃×集中化シナリオ

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B) 循環持続社会/1.5℃×分散化シナリオ

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C) 地産地消社会/4℃×分散化シナリオ

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D) 大量消費社会/4℃×集中化シナリオ

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③リスク管理

 気候変動に関するリスク管理は、前述のサステナビリティ課題全般のリスク管理に組み込まれている。

 

④指標及び目標

 当社グループは、気候変動は大きな社会課題であると同時に、当社グループにとって大きなリスクであると認識し、これまで老朽設備の更新、燃料使用設備の電化や低炭素燃料への転換を進めてきた。今後は、さらに「生産プロセス革新」による燃料由来GHG排出量の削減という技術的難易度の高い取り組みも進め、中長期のGHG排出量削減目標の達成を目指す。なお、下記の目標値はSBT認証(注)を取得している。

(注)SBT(Science Based Targets)認証:企業が定めた温室効果ガス削減目標が、長期的な気候変動対策への

貢献と科学的に整合していると、国連グローバル コンパクトをはじめとする共同イニシアチブにより認証

されたもの。

 ・GHG排出量削減目標

 

目標

目標達成の手段

Scope1+2

基準年:2019年

目標年:2030年

削減率:50% (1.5℃目標)

購入電力の再エネ化、低炭素燃料へ転換、電化、生産革新による燃料由来GHG削減の取り組みを推進

Scope3

基準年:2019年

目標年:2030年

削減率:30%

資源循環の取り組み(非化石原料へ転換、再生材料の使用拡大、廃棄物の再資源化)を追加し、原材料起因や生産プロセス、お客様での廃棄の際の削減を促進

(注)Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)

   Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

   Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

 

 ・2022年度の進捗

 

排出量合計

(千t-CO2)

削減率

Scope1

187

24.4%削減(2019年度比)

Scope2

468

Scope3

3,917

 4.8%削減(2019年度比)

 

※サステナビリティについての取り組みの詳細は、サステナビリティレポート2023を発行し、当社webサイトで開示を行っている。サステナビリティレポート2024の発行については2024年7月を予定している。

  <サステナビリティレポート>

  https://www.sekisui.co.jp/sustainability_report/

 

※TCFD提言に沿った気候変動関連の情報開示の詳細は、TCFDレポート2023を発行し、当社webサイトで開示を行っている。TCFDレポート2024の発行は、日本語版を2024年8月、英語版を9月に予定している。

  <TCFDレポート>

  https://www.sekisui.co.jp/sustainability_report/report/#tcfd

 

(3) 人的資本に関する開示

 「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」という考え方に基づき、従業員が活き活きと働くことができる環境づくりに取り組むとともに、一人ひとりが自分の“得意技”を磨き、挑戦を通じて成長していくことを支援するさまざまな機会を提供する。

 

①考え方

 Vision 2030 の実現に向けて、「全従業員が挑戦したくなる会社」すなわち「革新や創造がなされ、社会課題解決への貢献が拡大する姿」を目指し、人材マネジメントを転換(役割軸の人材マネジメント、挑戦の促進)する。計画的な人材の獲得や抜擢と合わせて、事業の成長スピードや変化に対応する人材を育成し、「適所適材」を実現する。また従業員のキャリア拡大や労働条件改善など、人的資本への重点的な投資(中期経営計画3年間で120億円規模)を開始した。

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②ガバナンス

 人的資本戦略の実現に向けて、2022年度に「ダイバーシティ推進委員会」を設置した。委員会は年2回開催され、監督側と執行側の役割を明確にし、戦略や情報開示、ダイバーシティ推進の強化に取り組んでいる。監督側は、人的資本経営や人材の多様性確保に関する事項につき、監理ならびに執行に関する助言を行う。執行側は、サステナビリティ委員会のもと設置された、各カンパニーの人事部門長で構成する「人材分科会」にて、監督機関で決定した人的資本経営施策の執行内容を決定する。そしてコーポレート・カンパニーの人事部門が労働組合と連携しながら、迅速に取り組みを執行している。

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③戦略

 全員が挑戦したくなる活力あふれる会社の実現に向け、人材育成方針(※1)のもと、事業の成長スピードや変化に対応する人材を育成する。また社内環境整備方針(※2)のもと、各国・地域に対応した多様な働き方・安心して働ける職場づくりを図る。

 具体的な人的資本戦略(※3)としては、「挑戦する風土の醸成」「適所適材の実現」「ダイバーシティの実現」を掲げている。万全な備え(人的資本)を活かして果敢にチャレンジし、経営戦略である「戦略的創造」と「現有事業強化」を実現する。

 ※1.人材育成方針

A) ダイバーシティの促進

一人ひとりが持ち味を発揮し、活き活きと活躍できる風土をつくる

B) 挑戦の奨励

自ら手を挙げ、挑戦し続ける人材を応援する

C) 際立つ人材の育成

学び自ら成長し、得意技を持つ人材を支援する

※2.社内環境整備方針(ダイバーシティマネジメント方針)

 「100年経っても存在感のある企業グループであり続ける」ためには多様性が不可欠との認識に立ち、従業員一人ひとりの「仕事・生活両面における志向」や「持ち味」が異なることを理解し、認め、積極的に活かす。その組織風土創りに向け、雇用や活躍機会の提供、成長を支援する様々な環境整備を、従業員との対話を通じて図り続ける。

※3.人的資本戦略

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④主な取り組み

イ) 「挑戦する風土の醸成」

1) 挑戦の場づくり

・手挙げによるキャリア実現の加速

 「従業員個人の自己実現」と「会社の成長」を両立する仕組みとして、2000年に人材公募制度を開始した。年4回の実施を通じ、従業員と部署のマッチングを実現している。従業員は自身のキャリアを考え、それに向けた能力開発、自己研鑽を行う。そして自ら活躍する場(機会)に対して手を挙げ、挑戦する人がステップアップのチャンスを得る。会社は手を挙げた人材の中から、必要な人材を決定する。

・チャレンジ機会の提供

 定年延長の実施(60歳から65歳に延長)に伴い、60歳以降を対象に兼業制度を新設した。働き方の選択肢を増やし、一人ひとりの活躍機会の拡大や、セカンドライフへの助走に繋げている。

 

2) 挑戦の後押し

・挑戦風土醸成活動の更なる強化

 従業員の挑戦意欲を引き出すためには「自律的なキャリア開発」が重要であり、全従業員に対し「キャリア面談」を実施している。従業員一人ひとりのキャリア志向を、上長に加えて部門長や人事部門も把握することで、従業員のキャリア開発を検討している。面談を効果的に運用するため、上司向け研修と本人向け研修を実施している。また、従前は年代別に開催していたキャリア教育は、人材マネジメントの転換に合わせて、役割別に開催している。

・キャリア自律に向けた風土醸成

 挑戦の土台となる会社に対してのエンゲージメントを、毎年測定している。2023年度のスコアは133と、前年に比べて改善した(2019年度のスコアを100とする。2022年度は114)。調査結果は各組織単位で分析し、組織ごとの課題に対応した改善施策を実施している。また組織横断の取り組みとして、国内グループ会社の人事部門が集まり「エンゲージメントDriveプロジェクト」活動を行っている。先進他社事例や社内好事例の共有、組織開発手法のセミナーなどを実施し、活動のレベルアップを図っている。

 

ロ) 適所適材の実現

1) 両利きのビジネスリーダーの育成

・経営幹部候補の抜擢・育成強化

 「新規事業の創出(探索)」と「現有事業の着実な成長と磨き上げ(変革)」を両利きで推進するビジネスリーダーの確保が重要となる。

 経営幹部候補の抜擢・育成強化を推進するため、「人材コミッティ」を設置している。経営戦略の実現に必要な役割を適切に管理し、それを担う人材と後継者が継続的に育成されている状態を目指している。役割軸のグレード制度の導入や登用の見極め期間廃止により、年齢に捉われない抜擢を加速している。

・経営幹部の役割見える化と多面評価

 「役割の見える化」を推進するため、人事システムを活用して、各ポストの役割とミッション要件を定義し、順次公開を進めている。社内でのキャリアの見える化を図り、目指すべき領域の特定と自律的なキャリア形成を促進している。

 

2) 際立つプロ人材の確保強化

・高度専門人材の確保強化

 高度専門人材を社内に確保し続ける仕組みとして、S職(スペシャリティ職)制度を設けている。競争力の源泉となる専門性の深耕に加え、技術強化の牽引を通じて後進を育成し、事業貢献を推進する。2023年度は弁護士などに対する専門資格手当の導入や、DXや法務などスタッフ部門における専門人材の定義を行い、高度専門人材の確保を加速した。

事業ニーズに即したリスキル強化

 事業にニーズの変化に合わせ、グローバル・DX・ものづくり等における専門スキル教育を進めている。特にグローバル教育については、実務に直結したスキル研修に加え、グローバルな仕事をより身近に感じてもらうため、駐在員から直接話を聞くキャリアイベントを開催している。また、短期トレーニーや海外研究機関への学術派遣等、海外で働く機会を多く提供している。

 

ハ) ダイバーシティの実現

1) 多様な人材の活躍推進

・多様な人材の雇用と定着促進

 持続経営力強化に向け、長期視点での採用規模による新卒採用を進めている。同時に事業環境の変化に合わせ、キャリア採用の拡大にも注力している。定着促進については、女性・障がい者・シニア等の多様な人材が定着できるよう、フレックス勤務や在宅勤務制度など働き方の多様化に対応した制度の整備や、介護・育児・病気などのライフイベントと仕事の両立支援を推進している。

・ダイバーシティ推進と両立支援

ジェンダーダイバーシティの推進

 女性活躍推進としては、「女性採用の強化」「定着と活躍」「管理職創出」「基幹職登用後の育成」の4段階に分け、取り組みを進めている。2023年度の採用比率は単体31.4%(前年度+3.3%)となった。さらなる加速に向けて採用HPを刷新し、ダイバーシティの取り組みを紹介するページを設けた。管理職登用に向けた支援では、2014年からキャリアディベロップメントプログラム研修を継続開催し、これまでに116名が管理職に昇格した。またグループ一体での女性活躍を後押しする取り組みとして、全従業員を対象に毎年様々なセミナーを開催している。

・障がい者の活躍推進

 障がい者の活躍推進としては、採用、定着の2つの面から取り組みを進めている。採用では、障がい特性を考慮しながら、職場見学・体験実習・採用実習の複数のステップを通じ、業務や職場との適性を考慮した配属を実施している。2023年度は就農モデル(農園)を開始し、職域の拡大を実現した。定着については、グループ全体の人事担当者を対象とした情報交換会を実施している。障がい特性や採用でのポイントなどを共有し、雇用促進と定着支援に取り組んでいる。

 

2) 個と職場の活力を高める環境に実現

・安心して働ける環境の整備

 労働時間削減の取り組みに加え、仕事の生産性向上に取り組んでいる。限られた時間で成果を最大化する生産性の高い働き方を追求するためには、従業員が自律的に働くことと上司による自律支援型マネジメントが重要であり、「働き方改革ガイドライン」「働き方改革e-ラーニング」「自律支援型上司研修」を展開している。柔軟な働き方の実現に向けては、グループ全体で在宅勤務やフレックス勤務などの制度を展開しており、出社とリモートワークの共存が定着した。

・健康で働きやすい環境の確保

「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」という考えのもと、従業員の心身の健康推進に取り組んでいる。2019年3月には当社グループが目指す健康経営の理念やあり方をまとめた「健康宣言」ならびに「健康経営基本方針」を策定し、各種施策を展開している。

 

⑤指標と目標

 当社グループでは下記に記載した、人的資本における14の指針については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難である場合は、提出会社単体の指標と目標を開示している。

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※1 長期ビジョン達成に向けた挑戦行動を、従業員が実際に発現したかをアンケートで測定。

※2 ビジネスリーダー最上位ポストの後継候補者数÷同ポスト数

※3 (1-(1年間の離職者数/当該年4月時点の従業員数))×100

※4 エンゲージ関連行動質問6問(6点満点)の平均が4.5点以上の従業員の割合について、2019年度の実績を100としたときの指数

※5 年度における従業員一人当たりの研修受講時間

※6 制度上の賃金格差はなく、労務構成(年齢および資格)比による格差

※7 所定内労働時間(7.5時間)+所定外労働時間-有給休暇取得時間

※8 当該年においてメンタルヘルス不調を理由に1か月を超える休暇をした従業員の比率

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがある。なお、当社は、当社グループにおける各種リスク発生の可能性を把握し、発生の回避及び発生時に迅速・的確な対応ができるようにするための体制の確立に努めている。

 また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものである。

 

(1) 経営環境に関するリスク

 当社では、下記①~⑤に記載する、経済、市況、金融、災害、政治・社会をはじめとした各環境変化に対して迅速な対応をはかるべく、毎月の取締役会、および四半期ごとの予算編成会議において、各事業部門からの報告に基づいて対応策の議論と意思決定を行い、また、経営計画における指標や財務状況の適時・適切な見直しと開示に努めている。

①経済動向および製品市況の動向

 当社グループ製品の事業展開エリアである日本、北米、欧州、アジアなどでの経済環境の動向や、モビリティ、エレクトロニクス、住宅、建築、インフラなどの市場の動向は、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性がある。

 具体的には、世界的に収束に向かっているとみられるCOVID-19の感染状況や、ロシアのウクライナ侵攻を契機とした原燃料価格の高騰、そこから波及した世界的な物価高は、消費マインドを減退させているが、今後の状況によって、当社グループの業績にも影響を及ぼす。

 事業別に見ると、高機能プラスチックスカンパニーの事業のうち、モビリティ分野の事業が対象とする市場は、グローバルな自動車産業や航空機産業の景況・需要動向の影響を受けやすく、エレクトロニクス分野の事業が対象とする市場は技術的な進歩が速く、また需要の変動も大きく、短期間に需要が縮小する場合もある。それらのリスクへの対応として、サプライチェーンのコスト革新に継続的に取り組み、またR&Dセンター強化検討や新技術・M&A候補の探索を進めている。また、住宅カンパニーの事業では、国内の住宅取得に関する政策や税制、金利動向および個人消費や各エリアの経済動向の影響を受けるが、エリア別の商品戦略を取ることでリスクを低減している。また、建設業就業者数が減少傾向であることから必要な労働者を確保できず工期の遅れや労務費の上昇に繋がるリスクがある。その対応として、ユニット住宅の生産工場内の物流効率化等の生産革新計画を進めており、また現地での施工工数削減についてもテーマ化し研究を進めている。環境・ライフラインカンパニーの事業は、官公庁との取引を含むため、政府および地方自治体の政策によって決定される公共投資の動向による影響を受ける可能性がある。更に住宅、非住宅の着工戸数の動向にも影響を受ける可能性があるが、それらの対応としてエリア(国内/海外)や顧客(公共/民間)等のポートフォリオを組み、管理していくことでリスク分散している。ライフサイエンス分野の事業では社会環境変化等を背景とした医療制度改革に影響を受ける可能性があるが、その対応として事業領域の拡大や新製品開発に注力することでリスクヘッジしていく。

 また、当社グループ全体としても、事業の多角化や展開地域のグローバル化等によりリスクをヘッジしているが、製品需要が大きく変動した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。

②原材料の市況変動及び調達

 当社グループの生産活動に使用される鉄鋼、木材、塩化ビニル・オレフィン等石油関連の原材料の価格は、世界各国の経済環境や需給バランスの変動による供給の逼迫や遅延、供給国の通商政策の影響を受ける。また、一部の希少な原材料については、安定調達に関わるリスクがある。

 急激な原材料価格の高騰は、生産コスト上昇につながり、また、希少原材料の需要動向やサプライヤでのトラブルは当社グループの製品供給に支障をきたす可能性がある。

 当社グループでは、原材料調達ソースの多様化等により、安定的な調達に努めるとともに、原材料価格の上昇に対しては、継続的な原価低減施策を行うと同時に、製品の付加価値を高め、必要に応じて販売価格の改定を行い、それらのリスクをヘッジしているが、価格変動が大きな場合等は、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。

③為替・金利・保有資産価格の変動

 当社グループは、グローバルに事業展開しており、2024年3月期の海外売上高比率は30.8%となっている。そのため、外貨に対する円の価値変動は、外国通貨建ての取引や、在外連結子会社等の財務諸表項目の円換算額に影響を及ぼす可能性がある。外国通貨建ての取引では社内為替レートを使用しているが実勢の乖離を回避すべく、四半期ごとに米ドルおよびユーロの社内為替レート見直しを行っている。また、現在の事業展開と規模において、乖離が出た際の営業利益への影響額は1円/米ドルにつき約5億円、1円/ユーロにつき約1億円と認識して開示している。

 また、金利の変動は、当社グループにおける受取利息・支払利息の増減や、住宅事業の需要に影響を与える可能性がある。

 当社グループが保有する土地などの不動産、その他棚卸資産や有形固定資産、のれんなどの無形固定資産、投資有価証券等の投資その他の資産についても、市場環境や経営環境の変化により減損処理が必要となるリスクがある。

 これらによって、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。

④大地震、自然災害等

 当社グループの事業拠点における大地震・津波等の自然災害および感染症の蔓延等の発生に伴い、当社グループの事業活動の中断などのリスクが存在する。

 それに伴い生ずる社会的信用の失墜、補償等を含む産業事故災害への対応費用、生産活動の停止による機会損失および顧客に対する補償等により、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。

⑤政治・社会

 当社グループは成長戦略の1つとしてグローバル展開を進めており、現在は22ヵ国に拠点を構え、生産および販売活動を行っている。

 海外における事業活動では、世界経済全体の動向に加え、テロ・戦争などの政治的混乱、関税報復措置、予期しない政策・法律・規制の変更、税制改正、産業基盤の脆弱性、自然災害、感染症、人種差別、不買運動その他の要因による社会的または政治的混乱のリスクが存在する。

 これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの海外での事業活動に支障が生じ、当社グループの業績および将来計画に影響を与える可能性がある。

 当社グループは米国・欧州・中国・ASEANの4か所に地域統括会社を設置し、当社グループが拠点を構える各国の経済・社会・政治的状況や、各国法規制の動向について情報を収集している。

 また対応が必要な事象が生じた際には、当該グループ会社、地域統括会社および日本本社の専門部門が連携して適宜対応している。

 

(2) 業務リスク

 積水化学グループでは、当社の持続的な成長および企業価値を毀損する可能性のあるリスク項目のうち、特に重大なものを全社重大リスクとして位置づけ、領域別の各分科会、サステナビリティ委員会、取締役会を経て、対応方針と施策を決定し、各部署の実行計画に落とし込んでいる。また、当社のサプライヤに対しても「持続可能な調達」調査の実施などにより、責任あるサプライチェーンを構築し、持続可能な調達の実現・維持に向けて取り組んでいる。

①安全・衛生、産業事故

 当社グループの工場および研究所における周辺地域に影響する大きな産業事故(火災や爆発、有害物質漏洩等)、それに伴い生ずる社会的信用の失墜、補償等を含む産業事故災害への対応費用が発生するリスクが存在する。

 当社グループでは、火災や爆発、有害物質漏洩等の産業事故の未然防止に向けて、自然災害も想定した各生産拠点でのリスクマネジメント活動によるリスク抽出と対応を行うとともに、本社の専門部門による実地監査と是正指導(設備本質安全化等)をグローバルで定期的に実施している。

 あわせて海外においては、海外危機管理事務局が中心となって地域統括会社とともに自然災害を含む危機管理情報の共有やタイムリーな注意喚起等を行っている。

②製品、品質

 当社グループでは品質に万全を期すための品質保証・向上の取り組みを継続している。

 しかしながら、それらにも関わらず、重大な製品事故が発生した場合、製品に対する安全性・環境問題・各国法規制対応等に疑義が持たれた場合、知的財産に係る紛争が生じ当社グループに不利な判断がなされた場合等において、商品の回収や製造中止およびこれらに伴う補償や顧客からの信頼を失うリスクがある。

 これらのリスクが顕在化した場合には、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。

 当社グループは、お客様に継続的に選択していただける価値を常にお届けする「CS 品質経営」に取り組んでいる。「重要品質問題ゼロ」を当社グループの重要指標の1つとして設定し、商品化後に起こりうる品質リスクの開発段階での事前予測による品質問題の発生の未然防止、製造部門が実行すべき日常の管理の基本的指針の徹底など、バリューチェーン全体で一貫した品質管理を行い、そのレベルの向上を図っている。

 また、当社グループでは、技術の「際立ち」を最大限に活かすために知的財産戦略を重視し、強い特許の獲得による事業競争力確保を目指しているが、あわせて他者の知的財産を侵害しないよう調査を行うとともに、知的財産侵害に対する回避・予防策などの適切な措置をとっている。

③コンプライアンス

 当社グループは事業の遂行にあたり、様々な法規制の適用を受けている。

 これらの法規制の改正や予期しない法規制の導入等に起因した違反事案や、業績目標達成のプレッシャー等に起因した不正等の重大なコンプライアンス違反事案が発生した場合、その対応に要するコストに加え、顧客からの信頼を失い、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。

 当社グループでは、2003年に「コンプライアンス宣言」を制定し、「社会への貢献」「信頼される企業」「法やその精神の遵守」などの考え方を基本として、当社グループの理念体系や企業行動憲章に掲げられた精神に則り、コンプライアンスを通じて社会から高い信頼を獲得する姿勢を明確にしてきた。2020年10月には、当社社長加藤のもと、当社グループにとって成長の基盤となるものがコンプライアンスであり、役員・従業員(一人ひとり)が社会常識に反する行為をせず、高い倫理観と責任感を持った行動をとることを宣言している。

 また、取締役会において、「コンプライアンスに関する基本方針等」の審議を行うとともに、当社および当社グループ会社におけるコンプライアンス体制の構築および実践を図ることを目的として、社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会の専門分科会として「コンプライアンス分科会」を設置し、コンプライアンスに関する重要事項の企画、検討及び決定を行っている。さらに、本社の専門部門による監査と是正指導をグローバルで定期的に実施している。

 当社グループが広く社会から信頼されるよう、コンプライアンス意識の向上に今後も取り組んでいく。

④情報管理

 当社グループは、生産、販売、研究開発、調達、会計などのビジネスプロセスにおいて、ITを効率的に活用する一方で、ITシステムへの依存度は高くなっている。また、これらビジネスプロセスの機密情報に加え、住宅事業ではその特性上、多くのお客様の個人情報を取り扱っている。

 そのため、サイバー攻撃や停電、自然災害、機器やソフトウェアの障害・欠陥等に伴う事業の中断や損害賠償の発生、個人情報や高度な技術情報を含む機密情報の漏洩等のリスクが存在する。これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの事業活動に支障が生じ、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。

 当社グループでは、指針となる「情報セキュリティ方針」を制定の上、対応強化のためにCSIRT(シーサート、Computer Security Incident Response Team)を設置し、システム上でインシデント発生の有無を常時監視するとともに、万一の発生時には適切な対応と再発防止を図る体制を整備し、従業員教育による人的な情報漏洩の未然防止も図っている。

 また、大地震などの自然災害等による基幹システム停止リスクに対しては、データセンターの複数か所への分散設置、重要業務システムの完全二重化等の対策を講じている。

 更に、より機密性の高い特定の事業においては、関係省庁のサポートを受けながら情報管理を推進している。

⑤気候変動・環境問題

 気候変動や、資源枯渇、水リスク、海洋プラスチックごみ等は社会の共通課題であるとの認識が世界で共有される中、環境保護を後押しする政策や規制への対応の遅れは、炭素税等によるエネルギー調達コストの上昇、製品の低炭素化に必要な材料の調達難、社会からの信頼の喪失・レピュテーションや競争力の低下につながり、財務状況に影響を与える可能性がある。

 当社グループは、環境や社会の課題解決に寄与することで地球および社会のサステナビリティを向上するサステナビリティ貢献製品の創出・認定とその市場拡大、温暖化対策としての2030年までの購入電力の100%再生可能エネルギー化、燃料使用設備の電化や低炭素燃料への転換、非化石由来および再生材料の使用拡大、廃棄物の再資源化などにサプライヤとも連携してサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいる。また、海洋プラスチック問題を解決するための企業イニシアティブの「CLOMA※1」や「JaIME※2」にも参加するなど、産官学での連携を通じ、同問題の解決を促進する活動も行っている。

 ※1 経済産業省と農林水産省が主体となる海洋プラスチックに対処する企業イニシアティブ

 ※2 日本化学工業協会が主体となる海洋プラスチックに対処する企業イニシアティブ

⑥人的資本

 当社グループは長期ビジョンにおいて、2030年の貢献量倍増を目指し、戦略的創造による成長の加速と現有事業の強化を推進している。一方で、採用競争力の低下や離職の増加、挑戦機会やマネジメント経験の不足、労務構成の偏りや事業ニーズにスキルが適合しない場合等、人的資本の不足によって事業計画の未達や想定する成長スピードが実現できない可能性がある。

 これを解消すべく、「挑戦する風土の醸成」「適所適材の実現」「ダイバーシティの実現」を推進している。人材公募制度などの挑戦機会の提供やキャリア自律に向けた風土づくり、ビジネスリーダー候補者の早期育成と抜擢や高度専門人材の確保と事業ニーズに即したリスキル、多様な人材の活躍推進と健康で安心して働ける環境整備、これらに取り組むことで、長期ビジョンを実現するサステナブルな組織を目指している。

 

(3) 戦略リスク

 第三者との提携や合併・買収、およびR&D活動を通して新規事業への参入を模索する可能性があるが、その取り組みが成功しないことや想定以上に期間がかかるといったリスクが存在する。また、新規事業への参入が成功した際にも、当該市場における新たな経営環境リスクが発現することが考えられる。

 

(4) リスクの特定、管理体制

 積水化学グループでは、専門領域別および海外地域別にリスク情報を網羅的に収集し、「起こりやすさ」と「インパクト」「バリューチェーン上における波及効果」の3軸で評価を行っている。その結果を踏まえ、各専門領域の管掌役員による全社リスク検討部会において一元的評価を行い、全社重大リスクを特定している。これらリスクの発現を未然に防止する活動(全社リスク管理:ERM)と、リスクが顕在化した時に対応する活動(危機管理)を一元的に管理するリスクマネジメント体制を推進しており、この一元化により、組織の状況に応じて、常に変化するリスク危機に適応できる体制を構築している。

 また、万一の災害、事故等の発生時においてグローバルでの早急に把握する緊急連絡網の体制を構築するとともに、適切な初動対応のための従業員教育を強化している。

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4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりである。

① 財政状態及び経営成績の状況

 2023年度は積水化学グループの長期ビジョン「VISION 2030」に基づき策定した、中期経営計画「Drive 2.0」の初年度として、国内の新築住宅市況の低迷が長期化したが、自動車関連需要などは一定の回復が見られた。

 そのような環境のもと、高付加価値品の販売拡大に加え、為替の効果もあり、売上高は過去最高となった。

 また、高付加価値品の販売拡大、スプレッドの確保、固定費の抑制に努め、為替の効果もあり、営業利益は増益となった。経常利益は、為替差益などにより過去最高益を更新した。親会社株主に帰属する当期純利益は、投資有価証券売却益などにより過去最高益を更新した。

 その結果、売上高は前連結会計年度比1.1%増の1,256,538百万円、営業利益は3.0%増の94,399百万円、経常利益は1.6%増の105,921百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は12.5%増の77,930百万円となった。

 

セグメントごとの経営成績は次のとおりである。

 

イ)住宅事業

 当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比1.4%減の529,693百万円、営業利益は前連結会計年度比15.5%減の27,729百万円となった。当連結会計年度は、売上高はリフォーム事業および不動産事業が増収となる一方、新築住宅事業において受注棟数が前期を下回ったことで、前期をやや下回り減収となった。また、営業利益は為替影響を含む部材価格上昇の影響もあり、減益となった。

 施策面については、新築住宅、リフォーム、まちづくりの各事業でスマート&レジリエンスの訴求を図った。

 新築住宅事業では、物価上昇による購買意欲減退の影響などにより、受注棟数は前期を下回った。ウェブサイトと展示場・ショールーム・工場見学やイベントを連携したマーケティング活動に注力したほか、商品や分譲地のデザイン向上を図った。加えて、リフォーム事業などの成長領域への人員シフトを中心とした、収益性強化策が進捗した。

 リフォーム事業は、営業体制強化や、断熱リフォームを軸とした改装などの拡販により、受注が前期を上回った。

 

ロ)環境・ライフライン事業

 当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比0.2%増の234,787百万円、営業利益は前連結会計年度比4.4%増の22,129百万円となった。当連結会計年度は、国内の住宅・非住宅建築市況が低調であったことに加え、塩素化塩ビ(CPVC)樹脂の需要低迷の影響があったものの、売値改善によるスプレッドの確保、水道・建築・工場向けポリエチレン管、耐火材料などの重点拡大製品の販売伸長により、売上高は増収、営業利益は2期連続で過去最高益を更新し、増収増益となった。

 パイプ・システムズ分野では、国内の住宅向け非住宅向けとも需要が想定を下回るも、売値改善の定着、重点拡大製品の拡販により、売上高は前期を上回った。

 住・インフラ複合材分野では、耐火・不燃材料、大型高排水システムなどの重点拡大製品や合成木材(FFU)の国内での売値改善、堅調な受注が進んだものの、住宅向け需要が低迷し、売上高は前期を下回った。

 インフラ・リニューアル分野では、管路更生の海外での新規物件の獲得、パネルタンクの需要回復などにより、売上高は前期を上回った。

 

ハ)高機能プラスチックス事業

 当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比4.2%増の412,897百万円、営業利益は前連結会計年度比27.0%増の50,931百万円となった。当連結会計年度は、欧米や国内における建築・消費財需要の低迷の影響があったが、自動車関連の需要回復や、為替の効果、売値の維持・改善に努めたことなどにより、増収増益となった。

 エレクトロニクス分野では、スマートフォン市況は一定程度回復したものの、半導体関連の需要については低迷が継続する中、主に非液晶製品の拡販が進捗し、売上高は前期を上回った。

 モビリティ分野では、売値の改善が進捗したことや為替の効果、自動車関連の需要の回復、ヘッドアップディスプレイ用を中心とした高機能中間膜の拡販などにより、売上高は前期を大きく上回った。また Sekisui Aerospace Corporation の生産性改善の取り組みが進捗した。

 インダストリアル分野では、欧米や国内の建築・消費財需要の低迷が続き、売上高は前期を下回った。

 

ニ)メディカル事業

 当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比3.3%増の92,620百万円、営業利益は前連結会計年度比12.5%減の10,952百万円となった。当連結会計年度は、感染症を中心に増加した国内検査需要の確実な取り込みや医療事業での新規原薬の販売が堅調に推移し、中国での血液凝固機器・試薬の拡販に注力するとともに、為替影響もあり、売上高は増収となった。一方、営業利益は米国での新型コロナウイルス感染症検査キットの販売減などの影響が大きく、減益となった。

 

ホ)その他事業

 当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比1.8%減の7,252百万円、営業損失は前連結会計年度比73百万円減の10,821百万円となった。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末より41,160百万円増加し、当連結会計年度末には126,367百万円となった。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりである。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において営業活動の結果増加した資金は106,632百万円(前連結会計年度は71,543百万円の増加)となった。これは、税金等調整前当期純利益111,479百万円、減価償却費51,195百万円、法人税等の還付額10,453百万円等の増加要因が、法人税等の支払額27,717百万円、仕入債務の減少額17,858百万円、売上債権及び契約資産の増加額11,355百万円等の減少要因を上回ったためである。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において投資活動の結果減少した資金は18,515百万円(前連結会計年度は59,430百万円の減少)となった。これは、主に重点及び成長分野を中心とした有形固定資産の取得による支出46,070百万円、無形固定資産の取得による支出14,385百万円等の減少要因が、投資有価証券の売却及び償還による収入22,073百万円、関係会社株式の売却による収入16,739百万円等の増加要因を上回ったためである。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において財務活動の結果減少した資金は53,023百万円(前連結会計年度は62,906百万円の減少)となった。これは、配当金の支払額29,094百万円(非支配株主への配当金の支払額を含む)、自己株式の取得による支出16,173百万円、リース債務の返済による支出5,701百万円等があったためである。

 

 

③ 生産、受注及び販売の状況

イ)生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

住宅

537,919

△ 4.3

環境・ライフライン

236,451

1.0

高機能プラスチックス

415,982

0.1

メディカル

99,543

11.6

報告セグメント計

1,289,897

△ 0.8

その他

8,212

△ 0.6

合計

1,298,110

△ 0.8

 (注)金額は販売価格による概算値であり、セグメント間の内部振替前の数値によっている。

 

ロ)受注状況

 当連結会計年度における住宅事業の受注状況を示すと、次のとおりである。

なお、住宅事業を除くセグメントで取扱う製品については、主として見込生産を行っている。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

住宅

393,025

△1.3

139,200

△15.3

 

ハ)販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりである。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

住宅

529,416

△ 1.4

環境・ライフライン

221,949

0.3

高機能プラスチックス

407,894

4.4

メディカル

92,620

3.3

報告セグメント計

1,251,880

1.1

その他

4,657

27.4

合計

1,256,538

1.1

 (注)セグメント間の取引については相殺消去している。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 (財政状態)

 当連結会計年度末の総資産は前連結会計年度末から95,112百万円増加し、1,323,243百万円となった。

イ)資産

 流動資産については、前連結会計年度末より63,914百万円増加し、685,564百万円となった。主な要因は現金及び預金が37,491百万円、営業債権が合計で20,926百万円増加したためである。

 また、固定資産については、31,198百万円増加し、637,679百万円となった。

ロ)負債

 未払法人税等が13,269百万円、前受金が3,921百万円増加した一方、支払手形、電子記録債務、買掛金の仕入債務が12,745百万円減少したことなどにより負債合計で6,712百万円増加し、502,318百万円となった。

ハ)純資産

 当連結会計年度末の純資産は88,400百万円増加し、820,925百万円となった。主な要因は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上77,930百万円、為替換算調整勘定28,572百万円、退職給付に係る調整累計額13,514百万円及びその他有価証券評価差額金13,361百万円の増加があった一方、配当金の支払27,845百万円及び自己株式の取得16,173百万円の減少があったためである。

 

 (経営成績)

イ)売上高及び営業利益

 当連結会計年度の売上高は1,256,538百万円(前連結会計年度比+1.1%、14,016百万円増)となった。

 また、当連結会計年度の営業利益は94,399百万円(前連結会計年度比+3.0%、2,733百万円増)となった。

 なお、売上高及び営業利益の詳細については、「(1)経営成績等の状況の概要」に記載している。

ロ)営業外損益

 営業外収益については、為替差益が1,762百万円増加した一方、持分法による投資利益が1,410百万円及び固定資産売却益が954百万円減少したことなどにより、前連結会計年度と比較して181百万円減少した。営業外費用については、支払利息が231百万円増加したことなどにより、前連結会計年度と比較して871百万円増加した。

ハ)特別損益

 特別利益については、投資有価証券売却益13,701百万円、関係会社株式売却益540百万円を計上した。

 特別損失については、減損損失4,128百万円、投資有価証券評価損2,453百万円、固定資産除売却損1,773百万円、関係会社株式評価損330百万円の合計8,684百万円を計上した。

 固定資産除売却損の内訳については「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等](1) [連結財務諸表]の[注記事項](連結損益計算書関係)」に記載のとおりである。

ニ)親会社株主に帰属する当期純利益

 以上の結果、当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は前連結会計年度に比べて11,984百万円増加し、111,479百万円となった。税金費用と非支配株主に帰属する当期純利益を控除した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は77,930百万円となった。

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析・検討内容は、「(1) 経営成績等の状況の概要②キャッシュ・フローの状況」に含めて記載している。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、中期経営計画において、「負債も活用し、積極的に成長を志向する」ことを基本方針としており、資金調達については、内部資金を活用すると共に、必要に応じて借入・社債発行等による外部調達を行うこととしている。なお、外部調達に関しては、運転資金については借入金またはコマーシャル・ペーパーで、生産設備・M&A等の長期資金需要には長期借入金または普通社債の発行で調達している。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等](1) [連結財務諸表]の[注記事項](重要な会計上の見積り)」に記載のとおりである。

 

5【経営上の重要な契約等】

標章使用許諾に関する契約

  当社が締結している標章使用許諾に関する契約は次のとおりである。

①相手方    積水ハウス株式会社、積水化成品工業株式会社、積水樹脂株式会社 他

②契約の内容  当社の標章(商標を含む)の使用許諾

③対価     それぞれの関係会社等につき、一定の額

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックス、メディカルのそれぞれの事業部門で定めた狙いに対して、基礎研究や応用技術から新規事業の開拓まで、先端技術で際立つための研究・開発を進めた。

 当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、41,701百万円である。また、各セグメント別の研究開発内容及び研究開発費は次のとおりである。

(1) 住宅事業

 住宅事業では、「地球環境にやさしく、60年以上安心して快適に住み続けることのできる住まいの提供」という事業ミッションのもと、新築住宅分野では、鉄骨系及び木質系ユニット住宅の新製品開発・要素技術の開発を、リフォーム分野では、ストック型住宅事業の強化に向けたリフォーム技術・メニュー開発を行っている。

 当連結会計年度の主な成果としては、以下の通りである。

 新築住宅分野では、ZEH+水準の省エネルギー性能や断熱等性能等級6相当の高断熱性能に加え、災害時のレジリエンス性能を備えた環境住宅パッケージ『ミライクラス+(プラス)』を発売(3月)したほか、多雪地域や、都市・地方など各地域のニーズに対応した戸建住宅や集合住宅の開発に注力した。

 リフォーム分野では、外壁・バス・蓄電池を中心とした商品ラインアップの拡充と対応力の向上に加えて、鉄骨系住宅「セキスイハイム」の既存住宅を対象としたZEH水準の断熱性能を目指すリノベーション『あったかハイムTR』を発売(10月)した。

 

 当事業に係る研究開発費は3,414百万円である。

 

(2) 環境・ライフライン事業

 環境・ライフライン事業の研究開発は、社会課題解決にむけて挑戦し続ける技術集団へ成長し、イノベーションを通して持続可能な社会インフラ構築に貢献する を方針とし、パイプ・システムズ、住・インフラ複合材、インフラ・リニューアルの戦略3分野、および革新領域において、新製品の企画・開発、市場導入、基盤技術開発、知的財産権構築を行っている。

 当連結会計年度の主な成果は以下の通りである。

 売上のトップライン引き上げに資するA型新製品は、住・インフラ複合材分野では、大型建築物向けにサイフォン技術を用いて効率的に雨水排水可能な超芯V-MAXを、不燃ウレタンであるPUXFLAMEシリーズに自主規制分野に対応したPUXFLAME-UNIおよび新配合製品を上市した。インフラ・リニューアル分野では、海外売上増大を目指して主に米国市場向け老朽管リニューアル市場の価格競争力を強化するSPR-TFを上市した。

 基盤技術開発では、汎用品収益改善および生産性向上施策の発現に資する生産技術革新で8テーマ、成長エンジンとなる新製品開発に必要なKey Technology構築で3テーマ、地球環境貢献に資する資源循環技術構築で1テーマを工場および新製品開発部門に技術移管した。

 革新領域のひとつである水活用・水循環分野では、低消費電力で汚泥発生量が少なく、維持管理容易な水処理方式であるMABR型水処理膜(Membrane-Aerated Biofilm Reactor)のユーザーおよび自社水処理施設への実機導入・評価を行い、地球環境に貢献する水処理事業の創出・拡大を目指している。

 

 当事業に係る研究開発費は7,605百万円である。

 

 

(3) 高機能プラスチックス事業

 高機能プラスチックスカンパニーでは、高機能素材、成形加工品の新製品及び新素材、生産技術の開発を推進している。

 当連結会計年度の3戦略分野別の主な成果は以下のとおりである。

 エレクトロニクス分野では、次の成長領域と位置づける半導体・実装関連で、工程材(セルファⓇ)や高速通信基板に必要な層間絶縁フィルムなどの部材を上市済みであり、さらに開発を継続中である。情報通信分野では、5G電波死角エリア解消を目的とした透明フレキシブル電波反射フィルムの新製品開発を進めている。また、融合強化領域と位置づけるカーエレクトロニクス部材(分野横断)では、環境対応車のリチウムイオンバッテリー向け放熱材料の拡販、新製品開発を進めている。

 モビリティ分野では、自動車の軽量化・省エネ・高度情報化に対応した新製品の開発に注力している。具体的には、自動車用中間膜において、EV市場の拡大、および、ADASの発展により、それらに適した高性能遮音・遮熱などの新製品を上市した。また、発泡成形技術を利用した自動車用軽量化部材、薄膜技術を活用したADAS用ミリ波レーダーに用いる電波吸収体などの新製品開発・市場開拓を進めている。

 インダストリアル分野では、高齢化社会に向けた介護士の負担を減らすセンサー(商品名ANSIEL®)の新たな機能として、「覚醒」「浅眠」「睡眠」状態を検知・モニタリングできるサービスを開発・発売した。この機能により、利用者居室への夜間訪室回数の削減ができ、介護士の業務負担軽減と、利用者の安眠時間確保につなげることが期待できる。その他、昨今の新型コロナウイルスによる抗ウイルス製品ニーズの高まりを受け、建材市場(壁・床材など)に向けSIAA規格に準拠する製品の開発を進めている。

 

 当事業に係る研究開発費は13,837百万円である。

 

(4) メディカル事業

 メディカル事業では、検査事業と医療事業の研究開発を推進している。

 検査事業分野では、新領域への参入と機器ビジネスの更なる伸長のための新プラットフォーム開発に注力している。具体的には、高感度免疫測定技術で「がん」、「ホルモン」領域の拡大、および、感染症遺伝子POCTシステムによる遺伝子検査市場参入を推進している。

 医療事業分野では、医薬品モダリティに対応した医薬合成、創薬支援技術獲得に注力している。具体的には、新たな医薬品独自合成技術の開発とInVitro毒性評価技術の展開を推進している。

 

 当事業に係る研究開発費は9,089百万円である。

 

(5) その他事業

 その他事業では、「新事業創出による新たな社会的価値の創出と社会貢献」を目指し、主に環境・エネルギー分野、ライフサイエンス分野などの社会課題の解決に繫がるイノベーション創出に注力している。

 環境・エネルギー分野では、再生可能エネルギーの活用に向け、独自技術である「封止、成膜、材料、プロセス技術」を活かし、発電効率15%、耐久性10年相当のフィルム型ペロブスカイト太陽電池のロール・ツー・ロール製造プロセス(30cm幅)を確立。東京都(下水道)、NTTデータ(既設ビル壁)、世界最大級の発電事業者であるJERA(沿岸施設)、JR西日本(一般共用施設)など分野毎の共同実証実験を推進。また、国内初となる既設ビル外壁への本施工設置を大阪本社ビルにおいて実施し、発電電力の利用を開始している。並行してNEDOのグリーンイノベーション基金を活用し、1m 幅での製造プロセスの確立、耐久性や発電効率のさらなる向上に向けた開発を進め、2025年の事業化を目指している。

 また、定置型リチウムイオン電池事業では、災害に強いレジリエント住宅用の蓄電池開発に注力し、エネルギー自給自足型の暮らしに特化した大容量蓄電池システムに採用されている。

一方、持続可能な社会への大きな貢献が期待される炭素資源循環システムであるバイオリファイナリー技術(可燃ごみ由来のガスから微生物の力でエタノールを製造)の事業化に向けて、岩手県久慈市に建設した商用1/10規模プラントで実証運転を進めている。さらに製鉄の際に排出されるガスからCO2を分離・回収し、再利用の技術開発にも取り組んでおり、世界をリードする鉄鋼および鉱業会社であるArcelorMittal, S.A.と鉄鋼プロセスに活用するカーボン・リサイクルの国際共同研究開発を推進している。

 ライフサイエンス分野では、細胞培養ソリューションとして足場材などの開発を進めている。

 

 当事業に係る研究開発費は7,754百万円である。