文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは2029年に創立100周年を迎えます。次の100年も社会から選ばれ続ける企業であるために、「2029年 住友理工グループVision」(2029V)及び、3ヶ年の事業計画として「2025年 住友理工グループ中期経営計画」(2025P)を策定し、2023年5月30日に公表しました。
2029Vで定めている通り、当社グループは住友事業精神を根幹として、「素材の力を引き出し、社会の快適をモノづくりで支える」というパーパスのもと、コアコンピタンスである「高分子材料技術」「総合評価技術」を磨き続け、グループ内だけではなく、外部との共創による既存事業領域の深化と融合分野の事業探索によって、2029年のありたい姿「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続ける、リーディングカンパニー」への変革を目指します。
2029年 住友理工グループVision
(注)1. 投下資本事業利益率(ROIC)=事業利益/(純資産+有利子負債)
2. 親会社所有者帰属持分利益率(ROE)=親会社の所有者に帰属する当期利益/自己資本
2025Pについては、2029Vからのバックキャストによって、「未来を開拓する人・仲間づくり」「柔軟かつ強固な組織づくり」「持続可能な社会に向けた価値づくり」という、ありたい姿実現に向けた3つの方向性への取り組みを強化していきます。
また、「さらなる収益力向上と持続的成長に向けた経営基盤強化」のテーマのもと、事業を推進している中、コロナ禍からの自動車生産台数の回復に伴う生産性改善に加え、構造改革や原価低減活動等が当初想定を上回るペースで進んだことを踏まえ、「事業利益」「ROIC」「ROE」の数値目標を上方修正することとしました。配当については、当初計画通り継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針とし、25年度末での配当性向30%以上を目指してまいります。
なお、2025Pにおける、上記以外の企業価値(財務目標)・公益価値(非財務目標)、及び「2029年 住友理工グループVision」(2029V)の目標については、2023年5月の発表内容から変更はありません。
2025年 住友理工グループ中期経営計画(2025P) ※2024年5月公表
(注)3. DXコア人材:自部門でIoT・AI活用の企画から実用導入に主導的に取り組む人材
4. DXデータ分析人材:自部門でIoT・AI 等専門的ITツールを業務に使用する人材
(2) 経営環境及び対処すべき課題
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループを取り巻く環境は、サステナブルな社会実現に向けた世界的な潮流や「CASE」といった自動車業界の大変革に加え、足元では緊迫したウクライナ情勢の長期化や中東地域における地政学的リスク、原燃料価格の変動や人件費等の高騰といった影響によって先行きの不透明さはあるものの、経済活動の回復は緩やかに継続することが期待されます。
このような中、当社グループでは3ヶ年の事業計画である2025Pに基づき事業活動を推進しています。
当社グループの強みであるコアコンピタンス「高分子材料技術」「総合評価技術」を駆使した製品開発と、グローバルでの生産体制を生かした受注の拡大、原価低減活動及び間接費抑制を継続して推進することで、収益性を高め、経営基盤を強化していきます。また財務目標の達成と、ESG経営や資本コスト・株価を意識した経営の推進により、幅広いステークホルダーの皆様と共に持続的な成長と豊かな社会実現を目指していきます。
新製品の開発については、親会社である住友電気工業㈱との連携を強化し、これまで以上にシナジーを創出できるように進めていきます。
〔自動車用品部門〕
自動車業界においては、技術革新の波が進行し、企業はこれらへの迅速な対応にとどまらず、カーボンニュートラルに象徴されるような社会課題解決への積極的な関与が求められています。
当社グループにおいては、創業以来培ってきたコアコンピタンスをもとに、これからの自動車(モビリティ)に新たな価値を提供する製品の創出と開発を進めています。
現在、新商品開発センターが主体となって、CASEにおける「A:Autonomous(自動運転)」「E:Electric(電動化)」2領域の新製品開発に注力しています。
当社のコア技術より生まれた薄膜高断熱材「ファインシュライト®」は、電気自動車(EV)のネックとされる電費・航続距離問題・電池の安全性向上などといった、様々な課題解決に寄与すると考えています。
防振ゴム事業については、EV時代にあわせ、エンジンマウントから振動制御をより高度化させたモーターマウントやeAxleマウントといった製品へ進化させ、日系自動車メーカーのみならず、海外自動車メーカーへの拡販を進めています。自動車用ホース事業については、EV用の電池やモーターをはじめとする部品の熱マネジメントのニーズの高まりに合わせ、他の製品で培った流体搬送技術を生かした冷却系ホースやバッテリー冷却板等の開発にも注力しています。また、各国の環境規制に対応した燃料ホースやバイオ燃料用の燃料ホース等の拡販を継続しています。
水素社会の実現に向けては、燃料電池自動車(FCV)向けの基幹部品を供給しており、トヨタ自動車株式会社のMIRAIにも当社製品が継続採用されています。
さらに、一般産業用品部門の事業である「リフレシャイン」は、高透明遮熱・断熱窓用フィルムで、主に建物用としての展開を行ってきましたが、当社グループが2029Vで目指す、技術・事業領域の深化・融合を進めるなかで、車載用フィルムとしての用途を拡大させました。2023年度ではマレーシアを中心に採用が進みましたが、継続して東南アジア各国・インド等への拡販活動の強化や、用途の拡大に向けた共創やシナジーを拡大していく計画です。
当社グループにおける欧州の業績低迷については、先行で構造改革を実施した米州と同様に、早急に対処すべき経営課題として認識しています。EVをはじめとする市場の動向の見極めと、事業再建に向けた構造改革の着手に加え、売価改善活動や工程改善等によるロス低減にも継続して取り組むことで、収益性の改善を進めていきます。
今後も課題拠点の構造改革の完遂と、売上拡大・原価低減の三本柱によって、さらなる収益力向上と筋肉質な企業体質への転換を進めていきます。また最適なグローバル生産体制のもと、生まれの良いモノづくり基盤を確立し、他社との協業も通じて全方位での持続的な成長を目指していきます。
〔一般産業用品部門・新規事業部門〕
当社グループは、主力事業の「自動車(モビリティ)」分野に加えて、「インフラ・住環境」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」といった、社会環境基盤の構築に不可欠な分野へも事業展開しています。
一般産業用品部門のうち、住環境分野においては、ビル用制震システム・TRCダンパーが新規開業した中日ビル(愛知県名古屋市)に採用されました。制震システムのさらなる採用の広がりによって、地震が多い我が国を中心に防災・減災への貢献が期待されます。インフラ分野における高圧ホースについては、原価低減とともに補修品市場への積極的な参入や未進出エリアを中心にグローバル拡販を進め、収益性向上を目指します。エレクトロニクス分野では、事務機器市場の成熟や働き方の変化による需要変動に対して、柔軟に対応できる体制への転換を目的とした構造改革を進めています。ヘルスケア分野では、SRセンサを応用した「モニライフシリーズ」が令和5年度中部地方発明表彰において「文部科学大臣賞」と、令和5年度愛知発明表彰「発明奨励賞」を受賞しました。本製品を用いて、宿泊業界では宿泊者への睡眠解析サービスや質の高い睡眠環境の提供への活用が検討され、当社グループの技術・製品開発を通じて、人々の暮らしと健康への貢献を目指していきます。
新規事業部門では、社会の要請に応えられるよう投資すべき重点事業分野を見極め、事業基盤の強化を図っていきます。特に、2029Vに沿って、当社グループの技術領域の融合を進め、他社との共創や新領域への挑戦をより一層強化し、新たな収益の柱となる事業を見いだしていきます。すでに、培養肉や再生医療といった分野への挑戦を、積極的に進めています。
「ファインシュライト」は、その高いレベルでの保温・保冷機能から、食品や医薬品等の定温輸送に活用されてきたほか、アウトドア用品にも採用されました。また、工場設備に取り付けることで、熱効率が向上し省エネにつながったという実証結果も得られており、カーボンニュートラルを目指す社会ニーズにマッチし、採用が進んでいます。引き続きファインシュライトの応用性を模索し、新事業展開や更なる用途拡大に向けた協業先探索を行っていきます。
これら以外にも、サーキュラーエコノミーへの取り組みとして、ランザテック社及び住友ゴム工業㈱・住友電気工業㈱との協業が進んでいます。製品を供給するだけではなく、廃棄物の回収・再利用といった循環型社会の実現を目指して、長期的な目線をもった取り組みを進めています。
私たちはこれまで、モノづくり企業として90年以上にわたって培ってきたコアコンピタンスを軸に、住友事業精神が謳う「萬事入精(ばんじにっせい)」「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」を忠実に守りながら、「安全・環境・コンプライアンス・品質(S.E.C.Q.)」の取り組みを積み重ねてきました。これからも世界中で必要とされる“Global Excellent Manufacturing Company”への成長を目指して、創立100周年に向け、着実な歩みを続けていきます。
株主の皆様におかれましては、今後とも一層のご理解とご支援を賜りますよう、お願い申しあげます。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、実際の結果とは様々な要因により異なる可能性があります。
(1)気候変動への取り組みとTCFDへの対応
当社グループは、住友理工グループ経営理念の一つとして「地球環境に配慮し、よりよい社会環境作りに貢献します。」を掲げ、気候変動を重要な経営課題として位置づけています。また、2023年5月に公表した、創業100周年となる2029年に向けた長期ビジョン(2029V)では、「気候変動・自然資本に配慮した事業活動」をマテリアリティの一つとして掲げ、気候変動への対応を事業戦略に織り込んでいます。加えて、脱炭素対応をはじめとする環境課題解決にフォーカスした行動指針として、環境長期ビジョン2050及びそのバックキャストである環境2029Vision(環境2029V)を策定し、その達成に向けて全社一丸で取り組んでいます。
また、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを促進する観点から、TCFD提言に沿った分析を行っており、下記の通り開示いたします。今後も、ISSB基準や企業サステナビリティ報告指令(CSRD)等の国際的なサステナビリティ開示基準の動向等も踏まえ、分析をより深化してまいります。
①ガバナンス
気候変動を含むサステナビリティ関連の事項については、社長が委員長、役付執行役員らが委員を務めるCSR・サステナビリティ委員会にて活動方針の承認や、活動推進状況のチェック及びフォローを行います。
CSR・サステナビリティ委員会で検討した内容等は、年2回以上取締役会で報告し指示を受けるなど、適切な監督体制を整えています。
(CSR・サステナビリティ委員会の概要)
また環境テーマに関する活動推進のため、環境分野所管の役付執行役員が協議会長を務める全社環境活動協議会をCSR・サステナビリティ委員会の下部組織として設置しています。加えて、当社の各製作所、グループ子会社の環境関連業務の代表者で地域環境部会を組織し、法令・条例改正情報・環境事故情報等を相互に共有することで、グループ一体での環境マネジメントの強化に取り組んでいます。
(全社環境活動協議会)
(地域環境部会)
②戦略
a. シナリオ分析
当社グループでは、気候変動が事業にもたらすさまざまなリスクと機会について具体的に把握するために、シナリオ分析を実施しました。シナリオ分析は、2030年の時間軸を中心に、移行面で影響が顕在化する「カーボンニュートラルな世界」に向かうシナリオ(1.5℃シナリオ)と、物理面で影響が顕在化する「悲劇の世界」に向かうシナリオ(4℃シナリオ)の2つにより、実施しています。
(参考)参照した主なシナリオ
b. リスク・機会の特定、分析
上記シナリオを前提に、下表の通り当社グループが想定するリスク・機会の整理を行いました。
特定したリスク・機会については、当社財務数値への影響度も評価の上、各項目について対応の方向性を設定いたしました。
(移行リスク・機会)
(物理的リスク)
※顕在期間 …短期:2025年度(中期経営計画の最終年度)、中期:2029年度(2029Vの最終年度)、
長期:2050年
※影響度 …小:売上50億円/費用5億円未満、中:売上50億円~300億円未満/費用5億円~50億円未満、
大:売上300億円/費用50億円以上
(2029年度時点の想定。移行リスクは1.5℃シナリオ、物理リスクは4℃シナリオを想定。)
c. 戦略のレジリエンス
2030年の世界では、世界平均気温の上昇1.5℃以下を目指して脱炭素に移行させる「カーボンニュートラルな世界」への動きがさらに進むと考えました。その際に顕現化するリスクは主として移行リスクであると考えており、GHG規制強化への対応コスト増加や天然ゴムをはじめとする原材料の調達コスト増加、EVシフトに伴う内燃機関向け製品の売上減少といった影響が生じる可能性があります。中でも、自動車市場を主戦場とする当社グループにとって、EVシフトは事業への影響が特に大きい項目であると認識しています。
しかしながら、EVシフトにおいて当社の主力製品の防振ゴムは、現状の「エンジンマウント」用製品から、従来以上の静粛性を有する「モーターマウント」用製品等への置き換えが進むとともに、ウレタン製品はEV 駆動ユニットから発生する特有の音等を抑える「制遮音製品」等製品の更なる付加価値化が可能になります。
また、EV においては不必要となる「燃料用ホース製品」に代わり、EVのサーマルマネジメントに必要不可欠である「ホース製品(冷却系ホース)」や、EVの心臓部であるリチウムイオン電池の安全性を確保する「電池セル間断熱材」等、電費の向上に資する製品の需要増加が見込まれます。
このような市場ニーズの変化を捉え、素材の配合・合成・改質により高機能な製品を生み出す「高分子材料技術」や、製品の信頼性を精緻に評価・検証する「総合評価技術」をはじめとする当社技術を活かした新製品開発を行うことで、EVシフトへ柔軟に対応することが可能と考えています。
また、非自動車の事業分野では、建設機械や鉄道車輛のクリーン動力源への移行や、防災・減災のための社会インフラの強靭化、熱対策が必要な電子機器、住宅・構造物等幅広い用途での断熱対策等、脱炭素社会への移行に伴って生じる市場ニーズの変化を捉え、自動車向け先端技術のノウハウと産業用の独自技術を活かし、対応商品の開発を進めてまいります。
なお、「悲劇の世界」に向かう場合(4℃シナリオ)は、主として物理的リスクが顕現化し、異常気象の激甚化等により、操業停止等の影響が生じる可能性があります。当社グループは、このようなリスクも認識の上、リスク評価を継続するとともに、各拠点における災害発生後の「初動対応」と「復旧対応」の毎年の見直し等、BCPの運用管理のしくみを継続的に更新することで、着実に対応の高度化を進めています。
今後も、社会や市場環境の変化を注視しながら分析をアップデートしつつ、各種対応策の推進をより効果的なものとしていくことで、気候変動の影響に対する更なるレジリエンスの強化を図ってまいります。
当社グループは、グループ全体のリスクを横断的に管理する体制として、社長を委員長とするリスク管理委員会を設置するとともに、同委員会の事務局機能を務めるリスク管理専任組織であるリスク管理センターを設置しています。
同委員会は事務局のリスク管理センターを通じて「リスク管理規定」及び「グループ危機ガイドライン」に基づき、国内外のグループ会社において毎年リスク調査を実施しています。「重要なリスク」として認識・特定されたリスクを同委員会で共有し、グループ全体でのリスクの把握に努め、その分析・評価に基づき、対応すべき選別・対応方法を選択し、事業運営への影響の極小化に取り組んでいます。
当社グループでは、燃料の燃焼等によるCO2の直接排出「Scope1」、購入した電力等の使用に伴う間接排出「Scope2」といった当社グループ自身の事業活動による排出量だけでなく、原材料の製造・調達や販売した製品の使用・廃棄による排出等サプライチェーン全体で発生する間接排出 「Scope3」をGHG プロトコルに従って把握し、CO2排出削減活動に取り組むことが重要と認識し、目標を明確にして活動しています。
a. 2022年度目標と実績
当社グループでは、2022年度を最終年度とする中期経営Vision(2022V)にてCO2の排出量の削減目標を設定していました。
太陽光発電設備の導入等、各種の削減活動により、2022年度原単位削減目標(Scope1+2 2017年度比)-8%に対して、実績は-32.4%、総量削減の社内目標(Scope1+2 2017年度比)-5%に対して-21.1%と大幅に目標を達成いたしました。
※社内目標値
b. 2025年度目標、2029年度目標
2050年カーボンニュートラルを見据えた中間目標として、2029年度を最終年度とする長期ビジョン(2029年住友理工グループVision)及び2025年度を最終年度とする中期経営計画(2025年住友理工グループ中期経営計画)においてもCO2排出削減目標を設定し、取り組みを実施しております。
目標のうち、自社排出の削減(Scope1+2)に対しては、(1)省・少エネ活動、生産性向上、(2)新技術開発(革新製法、新商品)、(3)事業構造改革、(4)再エネ・創エネ活用を四本柱とし、CO2排出削減推進人材の育成とともに取り組んでおります。
上記取組の推進により、削減率実績は既に2025年度の目標並みの進捗である一方、今後の売上成長による生産量増加に伴い、成行では排出量の増加が見込まれますが、取組の更なる進展により、目標達成を目指します。
また、当社グループではサプライチェーン全体でのCO2排出量のうちScope3が90.3%を占めることから、環境配慮型製品の提供や技術進化・新製品開発等を通じた排出量削減の取り組みを行っていきます。

(2)人的資本
①考え方
当社グループは創立100周年を迎える2029年に向けて「2029年 住友理工グループVision」(以下2029V)を策定しました。(詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題」を参照ください。)
長年に亘り「人材育成に優る事業戦略なし」の考えのもと、人材を単なる経営資源ではなく価値創造の主体と位置付け、社会環境や経済状況といった幾多の時代変化に対応してまいりました。環境変化が常態化し、将来予測が困難な現代においても、素材と製品の両方を扱うことができる当社グループの特徴を発揮しながら、社会課題の解決に貢献し、そして持続的な成長を達成するという想いが2029Vには込められています。
経営戦略である2029Vの実現に向けて、これからの100年も当社グループの総合力を支える重要な経営基盤の一つである人的資本を持続的・総合的に向上していくために、4つのテーマの掛け合わせからなる「人的資本向上の方程式」を人材戦略の中心に位置づけ活動を推進しております。(図1参照)
(図1:人的資本の考え方)

②方針
③取組
a. 住友事業精神
当社グループの従業員にとって住友事業精神は、全ての事業活動における拠り所であり判断基準です。
事業環境が目まぐるしく変化する中においても、「萬事入精(ばんじにっせい)」「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」という理念のもと、社会から信頼され、持続的な成長を実現する企業として発展を目指します。
従業員は、何事にも心を込めて一生懸命向き合うことの大切さを胸に刻み、日々の活動に邁進してまいります。
(図2:住友事業精神に関する教育受講者累計人数)

b. ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
当社グループでは、経営理念に「従業員の多様性、人格、個性を尊重し、活力溢れる企業風土を醸成します」と掲げ、多様な人材がいきいきと働ける環境づくりに向けてD&Iを深化させる取組を推進しています。
○ 女性活躍推進
採用の強化、研修、制度整備等の施策を行い、女性が安心して継続就業し、キャリアアップを目指せるよう取組を推進しております。
※1 育児・介護理由に限定した許可要件を撤廃し、政府の提唱する「新しい生活様式」で示される「働き方の新しいスタイル」に対応しました。
「第1 企業の状況 5 従業員の状況 (4)多様性に関する指標」も併せてご参照ください。

(事業所内託児所「コアラぽっけ」外観)
○ 障がい者雇用の推進
当社グループでは、各部門で障がい者の雇用及び就労を支援しており、受入れ職場との対話を通じて、それぞれの適性に合った職務を割り当てています。2013年11月に障がい者雇用促進と社会貢献を目的として、特例子会社「住理工ジョイフル」を設立し、障がい者の積極的な雇用確保と個性を活かした就労支援に努めています。
今年度は2029Vの策定を受け、国内グループ全体での雇用率向上を目指して目標を立てました。2025年度には2.70%、2029年度には3.00%の雇用を目指し取組を進めてまいります。
(図3:障がい者雇用率の推移と今後の目標)
厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告及び障害者雇用状況報告」の算出条件に基づく数値

○ グローバル人材の活躍促進
当社グループの全従業員の約8割は海外地域で働いており、もとより外国人と日本人をとりわけ区別して取り扱うことはありません。多種多様なバックグラウンドを持つ従業員がそれぞれの強みを発揮することで、共創による新たな価値創造を目指しています。
2023年7月にはGMM(Global Management Meeting)を開催し、14ヶ国から84名が来日し対話や交流を行いました。
また「リーダーシップ開発」「住友事業精神の理解促進」「ネットワーク形成」を目的に、親会社である住友電気工業㈱が主催するグローバル・リーダーシップ開発プログラムに参加しております。世界各地から集まった海外事業会社の幹部がワークショップやディスカッションを行い、また、400年を超える歴史を体感するため住友ゆかりの地を視察します。このプログラムを通じてグループ全体で人材育成と人材交流を進めています。

<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・ダイバーシティ&インクルージョン
https://www.sumitomoriko.co.jp/sustainability/society/inclusion/
・働きやすい環境に向けた制度や仕組み
https://www.sumitomoriko.co.jp/sustainability/society/improvement/work.html
c. 人材育成
当社グループでは「人材育成に優る事業戦略なし」との考え方のもと、当社グループの従業員として相応しい人格と知識を持ち、グローバルに活躍できる人材の育成を目指しています。その実現に向け、従業員の各キャリアステージで求められる知識やスキルを習得できる教育コンテンツを拡充し、様々な学習機会を提供しています。
○ 全社教育体系の整備
「次世代幹部候補者の選抜型教育」「グローバル人材育成」「各部門の専門教育」「全社共通教育」の4領域からなる全社教育体系を整備し、幅広く社員に教育研修を実施しています。(図4参照)
2023年度は、次世代経営幹部候補者の育成に注力しました。これまでに100人以上の卒業生を輩出している「経営塾」を全面刷新し、学習範囲はリベラルアーツを含む経営リテラシー全般に広げました。変化の激しい時代においても、当社の将来像を描き、牽引していく人材づくりを目指しています。
また、近い未来の役員候補者を育成するプログラム「Executive Management Program(略称:EMP)」に加え、2023年度は経営の次代を担う社員を対象とした「若手人材育成プログラム」を新たにスタートしました。抜擢された15名のメンバーが、経営戦略やマーケティング等の研修を受講しました。
今後もこれらの選抜型教育プログラムによる経営幹部候補者育成をはじめとする、全社教育体系をベースとした人材教育の継続的な実践を通じて「未来を開拓する人づくり」を推進してまいります。
(図4:全社教育体系図)

<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・人材育成
https://www.sumitomoriko.co.jp/sustainability/society/improvement/upbringing.html
○ DX人材の育成
デジタル化による変革を牽引するDX人材の確保及び育成は当社グループにとって重要な課題の一つと位置付けており、2023年度はDX人材の定義と教育体系の構築に注力しています。
DX人材を「DXコア人材」と「DXデータ人材」に層別し、それぞれに求められるスキルを設定しました。
次に座学と実践を組み合わせた当社独自の教育体系を構築し、2024年度から選抜メンバーを対象にDX人材の育成を本格始動し、2025年度までに当社グループ全体で「DXコア人材200名」「DXデータ分析人材700名」の育成を目標に活動を推進してまいります。
また、全社のDX推進を目的に、選抜社員と有志社員で構成される「DX推進プロジェクト」が主催する勉強会を定期的に開催しています。2022年5月に始まった勉強会はこれまでに87回開催され、延べ約8,000人が参加しました。勉強会では、DX推進に求められる思考法や知識を学ぶほか、デジタル活用の成功事例の共有や、これからの会社の在り方についての討論を行っています。
加えて、ITリテラシーの底上げをすべく、約80個の動画コンテンツを全社公開しております。(例:Office操作、DX基礎理解、機械学習概論、AI学習、データサイエンス講座等)
さらに、モノづくりとITの融合についても、情報システム部門による支援サービスとして16個のコンテンツを用意しており、画像処理を利用した外観検査システムの導入支援等、生産現場においてもIT基礎教育とDX推進が実際の改善に繋がるように取組を推進しております。
d. エンゲージメント
エンゲージメントが高い組織やチームでは、従業員やメンバーが意欲的に仕事に取り組むことができ、生産性や創造性が促進されると当社グループでは考えています。そのため、誰もが自分の能力を十分に発揮できるよう、各々の心身の安定を図り、互いにコミュニケーションをとりながら事業を進められる環境づくりを推進しています。
○ ビジョン浸透の取組
GMM(Global Management Meeting)の中で、2029V策定において中心的な役割を担った中堅メンバーが、国内外のグループ会社の幹部層に対してビジョン策定に込めた想い等を直接説明しました。その後も、社長やビジョン策定メンバーが、国内外の事業所やグループ会社を個別に訪問し、各地で2029Vに関する説明と対話を積み重ね、ビジョン浸透の取組を推進しております。
○ 健康経営
当社グループは、2017年に制定した住友理工グループ健康経営宣言に基づき、経営トップを健康経営責任者として全社一体で健康経営を推進しています。
健康経営で解決したい経営課題は主に二つで、一つ目は「従業員の心身両面における健康状態の向上」です。当社グループ従業員のプレゼンティーズム※1やアブセンティーズム※2の数値を最小限に抑えるため、国内グループ各社の産業保健窓口と健康経営方針・健康KPIを共有し、メンタル不調対応に関するグループ共通のガイドラインづくり、動画ツールを活用した健康教育の展開等、グループ一体となった取り組みを強化しています。
二つ目は「従業員の生産性、エンゲージメントの向上」です。毎年4月に実施するストレスチェックで測定する「活き生き度※3」の改善に向けて役員と共に改善策を検討し、定期的に経営レベルで活動をモニタリングする等会社全体でPDCAのサイクルをまわすべく、健康投資の戦略マップや健康KPIを策定しました。
現在、健康経営優良法人に8年連続で認定を受けていますが、2025年度までにホワイト500に選出されることを目標に活動を推進しています。
※1 プレゼンティーズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し業務遂行能力や労働生産性が低下している状態
※2 アブセンティーズム:病欠、病気休業している状態
※3 活き生き度:ストレスチェックで測定している職場の活性度を示す当社独自の指標
<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・健康経営
https://www.sumitomoriko.co.jp/sustainability/society/health/
○ 働き方改革
従業員が「活き生き※1」と働くことが組織の活性化につながり、ひいては業績の向上に繋がるという考え方のもと、当社では2017年度より「活き生き5(ファイブ)活動」を実施しています。
「活き生き5活動」では、従業員一人ひとりの状況に合わせ、柔軟な働き方が可能な環境の整備に努め、「働きやすさ」の制度を拡充してきました。2023年度からは次のステージに進むべく、従業員の「働きがい」に関する情報収集や高負荷者の負荷軽減にターゲットを絞り、「活き生き5 Ver1.5」を展開しています。(図5参照)
※1 「活き生き」とは、活力あふれる「活き活き」と健康的な「生き生き」を重ねた当社独自の造語
(図5:活き生き5活動のロードマップ)

「活き生き5活動」の結果について、総労働時間は一定の効果が出ています。2023年度は経済活動がコロナ禍から正常化し、一部生産現場において高稼働な状況が続いたことから、平均総労働時間は微増の見込みですが、活動を始めた2017年度と比較し、6%の総労働時間低減を達成することができました。また有給休暇の平均取得日数についても年々取得日数が増加しております。(図6参照)
(図6:総労働時間の推移及び年次有給休暇の平均取得日数)

<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
働きやすい環境に向けた制度や仕組み
https://www.sumitomoriko.co.jp/sustainability/society/improvement/work.html
○ 柔軟で強い製造現場づくり
モノづくりの会社である当社グループにとって製造現場の人材力・組織力は生命線です。様々な事業領域を抱える当社では、現場の課題も多種多様であるため、人事勤労部門を中心に、個々の現場課題に寄り添った活動を推進しています。
これらの取組の結果、インライン率※2が57%改善、活き生き度が24%改善する等の効果が出始めております。
※1 はじめる行動:コミュニケーション改善に向けた具体的な行動を監督者がメンバーに宣言し、実行に移すことで活気のあふれる組織を目指す活動
※2 インライン率:監督者が製造ラインに入る割合を示す当社独自の指標
③目標及び進捗状況
(注)特に記載がない限り、当社グループの数値を示しております。
当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のある主要なリスクには、以下のものがあります。本項における将来に関する記載は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(政治経済情勢・需要変動等に係るリスク)
部品メーカーである当社グループの経営成績は、顧客である完成品メーカーの生産動向の影響を受けますが、特に売上高の9割以上を占める顧客である自動車メーカーの国内外での生産動向の影響を大きく受けます。中長期的には自動車メーカーを取り巻く環境の変化が当社製品の需要に影響を及ぼす可能性があります。
加えて、顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短期化、グローバル化の進展による競争構造の変化等により、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループでは、海外売上高が連結売上高の約7割を占めており、海外の政治経済や社会情勢が経営成績等に影響を与える可能性があります。
(法律・規制の変更等によるリスク)
当社グループの事業は、国内外の法律・規制の変更等があった場合、その影響を完全に回避することができないため、経営成績等に影響が及ぶ可能性があります。これらの要因としては、輸出入規制や関税率の引き上げ、各国の国内及び国際間取引に係る租税制度の変更、外貨規制等があります。
(訴訟、規制当局による措置その他の法的手続きに係るリスク)
当社グループは、事業を遂行するうえで、訴訟、訴訟規制当局による措置その他の法的手続により、当社グループが損害賠償請求を受け、罰金その他の制裁金を賦課され、又は事業の遂行に制約が課される可能性があります。当社グループは、これらの法的リスクを未然に防止し、また顕在化したリスクに適切に対応する体制の整備を進めていますが、かかる対応にもかかわらず、法的リスクが顕在化した場合には経営成績等への影響が及ぶ可能性があります。
また、当社は海外での事業展開や新事業への進出を積極的に進めており、一方、消費者等の権利意識の高まりや国内外における競争政策、贈賄防止、移転価格、消費者保護等の分野での規制当局の法執行が積極化していることから、国内外における集団訴訟や当局の調査に対し適切に対応するために要する費用により財務負担が増加する可能性があります。
(災害等のリスク)
当社グループは、地震、火災、落雷、破裂・爆発、風・雪・水災、航空機の墜落、伝染病の流行、テロその他の犯罪、内戦等により被災することにより直接・間接の損失を被る可能性があります。特に、当社グループの主要な生産・営業拠点が、東海及び東南海・南海地震の防災対策強化地域や首都直下型地震の地域に所在しているため、地震発生も想定した事業継続計画を策定するなどの対策を進めていますが、顧客、原材料等の供給元の被災、電力・情報通信・物流網等の復旧の状況等により、影響が長期化する可能性があります。
(資金調達に係るリスク)
当社グループは、資金需要、金融市場環境及び調達手段のバランスを考慮し資金調達を行っています。当社グループの資金調達は、設備投資資金として長期固定金利の社債発行や長期借入による調達を中心としています。そのため、金利の短期的な変動による影響は比較的受けにくいものの、金利が中長期的に上昇した場合は、社債等による資金調達コストを上昇させ、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの借入金に係る金融機関との契約には、財務制限条項が付されているものがあります。当該財務制限条項に抵触した場合、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(為替レートの変動によるリスク)
当社グループは、在外連結子会社及び在外持分法適用関連会社の個別財務諸表を主に現地通貨ベースで作成し、連結財務諸表の作成時に円換算しています。従って、現地通貨ベースでの業績に大きな変動がない場合でも、円換算時の米国ドル、ユーロ等の為替レート変動が経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、中長期にわたる大幅な為替変動は、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(原材料等の調達に係るリスク)
当社グループの製品は、天然ゴム、合成ゴムや鋼材等を原材料として使用しています。これら原材料や副資材、燃料等の市況価格の急激な上昇等があった場合は、製品価格に適切に反映させることができず、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、原材料等の供給元の倒産や罹災により、必要量の調達が困難になる可能性があります。
(知的財産に係るリスク)
当社グループは、特許権、意匠権、その他の知的財産権の取得により自社技術の保護を図るとともに、他社の知的財産権に対しても注意を払っています。
しかしながら、新事業分野における製品開発の増加や海外での事業活動の拡大に伴う流通経路の複雑化等により、当社グループの製品が意図せず他社の知的財産権を侵害した場合に、販売中止、設計変更等の処置をとらざるを得ない可能性があり、その場合、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(保有資産の価値変動に伴うリスク)
当社グループは、様々な有形固定資産や無形資産を保有しております。こうした資産は、価値の下落や、期待通りのキャッシュフローを生み出さない状況になるなど、その収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなることにより減損処理が必要となる場合があり、減損処理した場合、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(繰延税金資産の回収可能性に伴うリスク)
当社グループは、将来の課税所得を合理的に見積もった上で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上しておりますが、実際の課税所得が予測と異なり回収可能性に疑義が生じた場合、若しくは税率の変更等を含む各国の税制の変更があった場合には、繰延税金資産の計算の見直しが必要となります。その結果として、繰延税金資産の取崩が必要となった場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(情報の流出によるリスク)
当社グループは、事業遂行に関連して多くの個人情報や機密情報を有しています。これらの情報の秘密保持については必要な対策を講じていますが、不測の事態により、情報が漏洩する可能性があります。このような事態が生じた場合、事業戦略の遂行に支障が生じたり、損害拡大防止費用や損害賠償責任の負担が生じたりすることにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(情報システム・セキュリティに係るリスク)
当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用に当たっては十分なセキュリティの確保に努めていますが、ハッカーやコンピュータウイルスによる攻撃、不正使用やインフラ障害等により、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(製品の欠陥によるリスク)
当社グループは、全社的な品質管理の体制を構築・運用することにより、製品の品質保持に万全の注意を払っていますが、予期せぬ事態により、大規模な市場回収や製造物責任による賠償費用等の負担が生じる可能性があります。
また、顧客との間での品質問題に関する交渉等のために要する費用の負担により、経営成績等に影響を与える可能性があります。
(人事・労務に係るリスク)
当社グループは、事業領域の拡大やグローバル化に対応するため、人材確保・人材育成に努めていますが、事業領域・規模の拡大や新規事業への投資等に伴いグループの人員が増加していることから、人材不足や人事・労務問題が生じた場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(新事業展開によるリスク)
当社グループは、「2029年 住友理工グループVision」で定めたありたい姿「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続ける、リーディングカンパニー」に向けて、コアコンピタンスである「高分子材料技術」「総合評価技術」を軸に既存事業の強化と新規事業の展開を進めております。特に新規事業には既存事業と異なる事業リスクが存在するため、事業化の検討の各段階において必要に応じて外部専門家の意見も取り入れ、十分な調査に基づく慎重な判断を行うものとしています。
しかしながら、当社グループは新規事業分野での十分な事業経験を有していないことから、事業化の遅延やマーケティング手法の不備等の原因で投資回収の遅延や不能が生じ、経営成績等に影響を与える可能性があります。また、同様の理由から、既存事業と比べ、訴訟、規制当局による措置その他の法的手続きに係るリスクが高まる可能性があります。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概況並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。
当連結会計年度における世界経済は、経済活動の正常化が進みました。一方で、長期化する世界的な物価の高止まりや金融引き締めに伴う為替変動に加え、中国をはじめとする景気の減速、ウクライナや中東地域における地政学的リスクにより、依然として先行き不透明な状況が続いています。
当社グループの事業に関する業界について、主に自動車市場においては原燃料価格や人件費等の高騰影響を受けながらも、供給制約の緩和と堅調な需要により、主要顧客の生産台数は高水準で推移しました。
このような中、当社グループでは「2029年住友理工グループVision」(2029V)で定めた、ありたい姿「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続ける、リーディングカンパニー」への変革に向けて、3ヶ年の事業計画である「2025年住友理工グループ中期経営計画」(2025P)に基づき、事業活動を推進しております。
当連結会計年度における連結業績については、売上高は615,449百万円(前期比13.8%増)、事業利益は37,033百万円(前期比107.2%増)、営業利益は33,977百万円(前期比105.2%増)、税引前当期利益は30,805百万円(前期比106.6%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は18,641百万円(前期比178.9%増)となりました。
※事業利益は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除し、持分法による投資損益を含めて算出しております。
各セグメントの業績は、次のとおりです。
<自動車用品>
外部顧客への売上高は、前年同期における顧客の減産からの回復や、円安の進行による為替換算の影響もあり、559,516百万円(前期比16.5%増)となりました。
事業利益は、販売数量増加や原燃料価格高騰分の一部価格転嫁などにより、34,383百万円(前期比132.7%増)となりました。
<一般産業用品>
外部顧客への売上高は、55,933百万円(前期比7.9%減)となりました。高圧ホース及びプリンター向け機能部品は主要顧客の生産台数減少により、減収となりました。
事業利益については、原燃料価格高騰分の価格転嫁が進んでいるものの、売上減少により、2,650百万円(前期比14.4%減)となりました。
事業セグメント別実績
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
このため生産、受注の状況については、セグメントの業績に関連付けて示しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1.セグメント間の取引19,625百万円については相殺消去しております。
2.主な相手先の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
<資産>
資産合計は、441,764百万円(前連結会計年度末比21,756百万円増)となりました。
流動資産は239,169百万円(前連結会計年度末比14,053百万円増)となりました。これは、現金及び同等物が12,514百万円増加したこと、営業債権及びその他の債権が1,358百万円増加したことによるものです。
非流動資産は202,595百万円(前連結会計年度末比7,703百万円増)となりました。これは、退職給付に係る
資産が2,580百万円増加したことによるものです。
<負債>
負債合計は、219,307百万円(前連結会計年度末比11,035百万円減)となりました。これは主に、社債及び借入金が21,863百万円減少したことによるものです。
<資本>
資本合計は、222,457百万円(前連結会計年度末比32,791百万円増)となりました。これは主に、利益剰余金が
18,893百万円増加したことによるものです。親会社所有者帰属持分比率は44.4%(前連結会計年度末は39.8%)となりました。
① キャッシュ・フロー
当連結会計年度における連結キャッシュ・フローの状況につきましては、営業活動により68,547百万円の増加、投資活動により24,145百万円の減少、財務活動により32,407百万円の減少、現金及び現金同等物に係る換算差額により519百万円の増加の結果、当連結会計年度末には42,008百万円となり、前連結会計年度末(29,494百万円)に比べ12,514百万円(42.4%)の増加となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により得られた資金は、前連結会計年度(33,339百万円)に比べ35,208百万円増加し、68,547百万円となりました。これは、税引前当期利益が15,897百万円増加したことや、営業債権及びその他の債権の増減が9,183百万円増加したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により使用した資金は、前連結会計年度(25,512百万円)に比べ1,367百万円減少し、24,145百万円となりました。これは、有形固定資産及び無形資産の売却による収入が3,303百万円増加したことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により使用した資金は、前連結会計年度(8,906百万円)に比べ23,501百万円増加し、32,407百万円となりました。これは、短期借入金及びコマーシャル・ペーパー純増減額が23,340百万円減少したことなどによるものです。
② 資本の財源及び資金の流動性
(財務政策)
当社グループは、「2029年 住友理工グループVision」で設定したROIC、ROE等の目標達成のため、成長投資管理の強化に加え、運転資金を継続的に効率運用することにより資産回転率の向上を目指します。また、親会社所有者帰属持分比率50%以上を中長期的に維持することを財務規律のガイドラインとしています。これにより、営業キャッシュ・フロー増加のため成長投資を推進する局面でも財務安定性を確保しています。なお、当連結会計年度末において、㈱日本格付研究所より「A(長期)、J-1(短期)」の信用格付を取得しております。
(資金需要)
当社グループの資金需要のうち主なものは、事業運営に必要な設備資金や運転資金です。また、企業価値向上の源泉となる営業活動によるキャッシュ・フローの増加を支える成長投資管理は、住友理工グループ投資採算基準と、投資後の事業環境変化への迅速な対応の仕組み及び財務規律ガイドラインにより実施しています。
(資金調達)
当社グループの必要資金については、自己資金の充当及び金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債発行等により、調達しております。なお、突発的な資金需要の発生や市場の流動性が著しく低下したときなどの緊急的な事態に備えてコミットメントラインを設定しております。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因や当該事項への対応については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
(6) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、「売上高」、「事業利益」、「ROIC」、「ROE」、「配当性向」を重要な指標として位置付けております。2024年5月31日に更新した中期経営計画「2025年 住友理工グループ中期経営計画」においては、2025年度の目標として、売上高620,000百万円、事業利益32,000百万円、ROIC10%以上、ROE9%以上、配当性向30%以上をそれぞれ掲げております。
当連結会計年度は、販売数量増加や原燃料価格高騰分の一部価格転嫁等により、売上高615,449百万円、事業利益37,033百万円、営業利益33,977百万円となりました。
中期経営計画における目標達成に向けて、「第2 事業の状況1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針・経営戦略等」に記載の施策に取り組んでいきます。
該当事項はありません。
当社グループは、事業を取り巻く環境がダイナミックに変化する中、将来に向けて持続的に成長・発展するために新事業の創出が不可欠であることから、当社グループのコア技術である高分子材料技術と総合評価技術をベースに技術領域の融合・協業を推進し、スピーディーな新技術の創出とタイムリーな商品開発を目指しています。
2023年5月末に発表した、「2029年 住友理工グループVision」に基づき、パーパスである「素材の力を引き出し、社会の快適をモノづくりで支える」に沿って、社会に価値を提供し続けてまいります。
研究開発にあたっては、主に、新機能・高品質の材料設計開発を担う材料技術統括部と、当社グループのコア技術の深化、シミュレーション等を活用したデータ駆動型開発の体制構築を担う基盤材料開発研究所で進めています。
研究テーマとしては、環境対応、新事業創出、既存製品性能向上、コア技術等を掲げており、その中でも、CE(サーキュラーエコノミー)への取り組みとしては、2022年からランザテック社と廃棄物の回収・再利用といった循環型社会の実現を目指した協業を進めています。また2023年からは同活動に対して、住友ゴム工業㈱・住友電気工業㈱にも協業の輪が広がり、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みを加速させています。
各事業部門では、「自動車(モビリティ)」「エレクトロニクス」「インフラ・住環境」「ヘルスケア」に該当する新製品の研究開発を実施しているほか、2020年4月には品種別に分かれていた開発センター等を統合した「新商品開発センター」を設置しました。開発領域の選択と集中を実施しつつ、開発のスピードアップと早期事業化を図っています。
さらに、親会社である住友電気工業㈱との連携をより一層強化し、グループ全体での製品開発を進めていきます。
なお、当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費の総額は
セグメント別の研究開発活動を示すと、次のとおりであります。
① 自動車用品
自動車(モビリティ)分野においては、CASEといった技術革新への迅速な対応にとどまらず、サステナブル社会の実現に向けて、環境問題をはじめとする社会課題解決への積極的な関与が求められています。「防振」「自動車用ホース」「ウレタン」の3事業本部とファインエラストマー事業部では、NVH(騒音、細かい振動、衝撃音)を中心としたOEMメーカーの要求スペックやエンドユーザーのニーズに適合する製品やCASEに関する技術等について、研究開発・技術確立を進めています。
また、設計から量産工程まで一貫したDXを推進しており、そのひとつとして、長年にわたり蓄積したデータをもとにした独自の加硫シミュレーション技術確立に取り組んでいます。この技術を用いることで、設計段階において量産時のばらつきを考慮した高品質な製品を設計する事ができるため、製造工程ではより競争力の高い生産が可能となります。さらに、グローバルでの水平展開によって、グループ全体でのスマート工場の実現を目指します。
新商品開発センターでは、圧力の検知により、生体情報(心拍成分や呼吸成分等によるバイタルデータ)を推定することが可能な当社独自開発の「スマートラバー(SR)センサ」を応用し、SRセンサを座席に設置する「モニライフ・モビリティ(ドライバーモニタリングシステム)」を開発中です。上市を見据え、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と「住友理工-産総研 先進高分子デバイス連携研究室」を2020年10月に設立し、テストコース(茨城県つくば市)を活用した実証実験を通し、両社の知見を生かしながら、新たな技術・製品の開発を加速させています。また、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)向けの基幹部品についても、次世代車種を見据えた研究開発を継続実施しております。EVで注目される熱マネジメントへの対応製品においては、車室内の断熱効果を高める薄膜高断熱材「ファインシュライト®」を2020年9月に発売しました。省エネや環境負荷低減に貢献できる製品で、さらなる技術開発を進めています。他にも、EV用の電池をはじめとする部品の熱マネジメントへの対応として、冷却系ホースや電池用断熱材、バッテリー冷却板等を開発し、受注に向けた取り組みを進めています。
親会社の住友電気工業㈱とは、同社の主力製品であるワイヤーハーネスと、当社の制遮音品や内装品、ホース等の製品とを組み合わせたシステムの提案等をはじめとして、さらなる協業体制の構築を目指していきます。
当連結会計年度における自動車用品に係る研究開発費は、
② 一般産業用品
エレクトロニクス分野においては、環境面で注目される水現像フレキソ版材や、高機能、高精度部品の材料開発を進めています。インフラ・住環境分野では、鉄道車両用防振ゴム・高圧ホース等のコア技術の強化・再構築を図るとともに、住宅市場でのさらなる事業展開を継続し、事業体質の強化・新規事業の創出を図っています。ヘルスケア分野では、SRセンサを応用した「モニライフシリーズ」が令和5年度中部地方発明表彰「文部科学大臣賞」と、令和5年度愛知発明表彰「発明奨励賞」を受賞しました。本製品を用いて、宿泊業界では宿泊者の睡眠状態を「見える化」するサービスの導入や、ルームマネジメントシステムと連携させて、照明や空調の自動制御を行うことで、質の高い睡眠環境の提供が検討されています。
また、2015年12月に九州大学及び糸島市(福岡県)との間で3者協定を締結し、フレイル*予防に関する研究を進めてきました。この成果をもとに、小牧本社・製作所がある愛知県小牧市においても、2021年1月に小牧市と協定を締結のうえ、フレイル予防を推進しています。医療機関や研究開発機関、介護施設や企業等への当社製品・サービスの提供を通じて、ヘルスケア分野での新たな製品開発につなげ、人々の暮らしへのさらなる貢献を目指していきます。一方、「ファインシュライト®」は、その断熱性能が認められ、令和4年度愛知発明表彰「愛知発明賞」を受賞しました。自動車に先んじてフードデリバリー専用の温熱シートやコロナワクチンの定温輸送用ボックス、アウトドア用品にも当社製品が採用されました。今後も継続して新たな製品用途の拡大と協業パートナーの探索を目指し、展開・拡販を取り組んでいます。
このほか、インテグリカルチャー㈱が主宰する細胞農業オープンイノベーションプラットホームへの参画や、㈱ギンレイラボと共同開発を行っている動物実験代替ツール「生体模倣システム」については、基本技術の確立が進んだことで順調に試作品受注を獲得するなど、新たな事業共創に向けて積極的に取り組みを進めています。
当連結会計年度における一般産業用品に係る研究開発費は、
※「フレイル」とは、加齢とともに身体機能や認知機能が低下して虚弱となった状態のこと。