三菱商事は、2022年5月に、2022年度から始まる3ヵ年の新しい経営の指針として、「中期経営戦略2024 MC Shared Value(共創価値)の創出」を策定・公表しました。
当社を取り巻く経営環境は、地政学リスクの高まりにより不確実性が高まっています。また、グローバルサプライチェーンの再構築、デジタル化、脱炭素という多様化・複雑化する社会・産業のニーズに対し、先見性をもった対応が求められています。
このような経営環境において、あらゆる産業知見とグローバルネットワークを駆使したインテリジェンスを有機的に「つなげ」・「つながる」ことで、当社ならではの総合力を強化していく経営方針を、今回の「中期経営戦略2024」として纏めました。
(1)中期経営戦略2024で目指すこと
三菱商事グループの総合力強化による社会課題の解決を通じて、スケールのあるMC Shared Value(共創価値)を継続的に創出することを目指します。

(2)定量目標と株主還元
■定量目標
収益基盤の維持・拡大とともに、Energy Transformation(EX)関連やDigital Transformation(DX)関連・成長分野への投資などを通じて、着実に成長し2024年度に8,000億円の当期純利益(当社の所有者に帰属)とROE二桁水準の維持・向上を目指します。
■株主還元
持続的な利益成長に応じて増配を行う累進配当を基本とし、財務規律の下で機動的に自己株式取得を実施する方針とします。総還元性向は30~40%を目処(2024年度は40%程度を目処)とし、財務健全性、配当の安定成長、株主還元に対する市場期待の3つのバランスがとれた還元政策を実施します。
■キャッシュフロー・資本配分
企業価値向上に向けて、財務規律を維持しつつ、キャッシュフローを投資と株主還元に適切に配分します。
併せて、開示の拡充や対話を通じて、ステークホルダーからの当社事業に対する信頼性を一層高めることで、資本コストの低減を図ります。
■投資計画・事業ポートフォリオ
「中期経営戦略2024」期間で、3兆円規模の投資を計画し、EX関連分野への投資を加速します。
同時に、収益基盤の維持・拡大とDX・成長分野への投資も着実に促進します。
(3)「つなげ」・「つながる」ことによる三菱商事グループの総合力を最大化
■成長戦略 [トランスフォーメーションを主導し、成長につなげる]
・EX戦略:EXバリューチェーン全体を俯瞰し、パートナーと共に、カーボンニュートラル社会への移行・産業競争力向上に貢献していきます。
・DX戦略:DX機能を全社横断的に展開し、産業・企業・コミュニティをつなぐことで、社会全体の生産性向上と持続可能な価値創造に貢献していきます。
・未来創造:再エネなどの地域エネルギー資源の積極的な開発を通じて自給率を少しでも高めていくとともに、カーボンニュートラル新産業の創出、地域課題の解決を通じた魅力ある街づくりをテーマとして、パートナーや自治体の皆様と共に、未来創造の実現に貢献していきます。
■経営管理 [規律ある成長で未来へつなぐ]
自律的なグループ経営の強化を促す経営管理メカニズムを構築し、事業環境の変化に対応した循環型成長モデルへの取組みを加速することで、資本効率の維持・向上を図り、財務健全性を維持します。
■推進メカニズム [多様なインテリジェンスをつなぐ]
外部環境への対応力を更に強化すべく「グローバルインテリジェンス委員会(GI委員会)」を新設しました。産業横断的な全社戦略を討議・立案するMC Shared Value会議(MCSV会議)に、GI委員会の分析を反映することで、営業グループの推進力と業界を超えた連携を強化していきます。
■人事施策 [多彩・多才なヒトをつなぎ、活気に満ちた組織へ]
多様性を活かす企業風土づくりやダイナミックな人材シフト・登用などを通じて、「イキイキ・ワクワク、活気あふれる人材と組織」を実現し、人的資本の価値最大化を目指します。
■サステナビリティ施策 [多様なステークホルダーとつながり、社会から信頼され続ける存在へ]
当社が事業活動を通じて取り組む重要な社会課題を「マテリアリティ」として再定義し、取組みの指針とします。温室効果ガス(GHG)削減目標の達成に向け、各事業を気候変動の移行リスク・機会に応じて分類の上モニタリングするなど、様々な施策を通じて事業の低・脱炭素化を推進します。
サステナビリティ施策に関しては「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」もご参照ください。
当連結会計年度も「中期経営戦略2024」で掲げる循環型成長モデルを通じた企業価値向上に取り組みました。利益水準の更なる拡大を見据え、投資決定済み案件の着実な収益化に取り組む他、成長戦略に基づく投資、MCSV戦略投資の推進に取り組んでいます。

また、戦略的事業ポートフォリオの入替及び資本効率向上の取り組みを推進しました。これに加えて、柔軟な資本政策による成長戦略も加速させています。翌連結会計年度についても、企業価値向上に向けた取り組みを継続してまいります。

3. 当連結会計年度のセグメント別の事業環境
主要商材であるLNGの世界需要は前年比同水準となり、2023年は約4.0億トンとなりました。なお、アジアのLNGスポット価格は、北半球の冬季にかけて百万Btu(英国熱量単位)当たり20米ドルに近づく場面もありましたが、その後、主要LNG市場である欧州・アジアでの追加需要が限定的であったことも影響し、当連結会計年度末時点では9米ドル台半ばまで落ち着きました。原油価格(Brent)は、ロシア・ウクライナ情勢による影響は落ち着きつつあるものの、中東での地政学リスクの高まりによって、当連結会計年度末時点では80米ドル台後半/バレルまで上昇しています。
北米地域では金利上昇に伴う景況感の悪化が懸念されたものの、建設・インフラ分野向けなどを中心に需要は底堅く推移しました。一方、アジア圏を中心とした素材領域では、中国の景気減速に伴う需給環境悪化と市況低迷の影響を大きく受けました。
粗原料価格は高止まりを続けたものの、各種化学製品の主要市場である中国における過剰生産及び景気減退、それに伴う中国からの輸出量増加により、国際製品市況は低迷基調となりました。加えて、地域情勢の悪化や渇水によるスエズ・パナマ運河迂回による物流費の高騰が見られました。
主力事業の一つである原料炭については、需要に大きな影響を与えるインド等の新興国経済は好調を維持しましたが、先進国での経済回復は緩慢であり、中国経済も不動産セクターの不調が長期化しました。一方、原料炭の主要生産地である豪州・カナダでの供給不安が緩和された結果、前連結会計年度比で市況は弱含みで推移しました。もう一つの主力事業である銅については、ロシア・ウクライナ情勢や、ゼロコロナ政策解除後の緩慢な経済回復による欧米及び中国経済の需要停滞に対し、供給制約が拮抗した状態となり、現物需給は引き続きタイトなマーケット構造を維持しました。
ウクライナや中東をはじめとした不透明な世界情勢によるサプライチェーンの混乱や、インフレによるコストアップ等の影響を受けた事業もありましたが、産業機械分野での底堅い設備投資需要や円安の影響等を受けて、対面業界における事業環境は前連結会計年度に比べて総じて好転しました。また、このような事業環境の中、キャピタルゲインを得る形で一部事業・資産の売却を実行しました。
自動車市場は、世界的に金利高が進む中、特にアセアンにおいて実体経済の軟化、ファイナンス(自動車ローン)審査厳格化により需要が低迷、競合各社が購買力のある顧客を巡り値引き攻勢を強める等、厳しい事業環境にありました。その中で、強固な顧客基盤を持つアセアン地域を中心に、デジタルマーケティングなどのオンライン施策と従来のオフライン施策とを組み合わせ、車両販売の拡大に努めました。
飼料価格及び原燃料費の高止まりや、円安に伴うコスト上昇が国内の食品加工・製造事業の収益を圧迫するとともに、Cermaq社では鮭鱒養殖を行うチリにて病害が発生するなど、厳しい状況にありました。一方、地政学リスクが顕在化する中、穀物の一大生産地であるブラジルにおいて食の安定調達に寄与する穀物集荷事業を伸長させたほか、資産入替を実行し、食品素材事業の製造能力増強による事業規模拡大を着実に推進するなど、循環型成長モデルの追求による事業基盤の強化に取り組みました。
原材料価格の高騰、インフレ、賃金上昇等のコスト圧力に対する影響等はあったものの、国内小売・流通業に関しては、人流回復による需要増加の取り込みに加え、従来から取り組んできたDXによるオペレーション効率化やコスト合理化により、中核事業の収益力を強化しました。また、近年の消費者市場において、業界各社が単一事業に留まらず、業界横断的な事業やサービスを展開し、各々の経済圏を構築しつつある中、今後も加速する事業環境の変化に対応すべく、KDDI株式会社及び株式会社ローソンと資本業務提携契約を締結しました。
前連結会計年度から引き続き、先進国を中心とした再生可能エネルギー(以下「再エネ」)推進施策の取組により、脱炭素に向けた再エネ容量は着実に拡大しました。このような事業環境の中、黎明期から参画した米国の太陽光発電事業において、更なる事業拡大への成長資金確保に向けた資本政策として新たな株主を招聘しました。一方、世界的なインフレや金利上昇により欧米の洋上風力プロジェクト開発に一部減速感が見られるなど、再エネ持分容量拡大に向けては選別的な取組が求められています。
米国の利上げに端を発した金利コストの上昇や金融市場の不安定化により、主力事業の一つである米国不動産関連では、市場全体の取引量が歴史的高水準であった2022年から減少しました。一方、国内においては、不動産市場は主力アセットである物流施設を筆頭に引き続き堅調であり、また、データセンターについてもクラウドの普及や生成AI需要に伴い、持続的な市場拡大が見込まれています。金融事業では、リース事業においてコロナ禍で減少していた取引が回復し、好調に推移しました。
4. 翌連結会計年度以降のセグメント別の事業環境の見通し
① 地球環境エネルギーグループ
脱炭素社会への移行には進展が見られるものの、地域や商材によってペースが異なります。次世代エネルギーは、商材によっては一部需要の後倒しが見られる一方、SAF(Sustainable Aviation Fuel)やクリーンアンモニア等、社会実装に向けて進展している商材も見られます。また、天然ガス/LNGは相対的に環境負荷が低い点等を背景に、アジアを中心に中長期的な需要増が見込まれています。
低・脱炭素化の進展や技術革新の加速化により、素材産業を取り巻く事業環境は今後も変化を続けていくことが想定されます。また、人口増を支える住宅・インフラ素材、軽量化・電化を支える素材、デジタル社会の発展を支える素材等のニーズは今後も着実に伸張することが見込まれます。
原料炭においては、インド等の新興国による需要の牽引、中国不動産セクター及び建設業の回復状況、天候等に起因する原料炭の供給制約といった海上貿易市場へ影響を与え得る事象を注視しています。銅においては、引き続き堅調な需要と生産障害の顕在化によりタイトな需給環境となる見込みです。中長期的には、新興国を中心とする世界経済の成長や、脱炭素・電化を背景とした再エネ・EVの進展により、金属資源・非鉄製品の需要は底堅く推移することが見込まれます。
米国についてはインフレ・金利動向に影響を受ける状況に変化はないものの、米国経済のファンダメンタルズは底堅く、インフレ沈静化・利下げ局面を迎え、不動産市況も徐々に回復に向かう見通しです。国内においては、ゼロ金利政策の解除以降も安定した不動産市況と、堅調な設備投資需要が継続する見込みであり、データセンターについても大手クラウド企業が日本への大型投資を相次ぎ表明するなど市場の更なる成長が期待されます。
既存のタイ・インドネシア事業を含むアセアン・新興市場を軸に、自動車バリューチェーン事業の更なる機能強化と拡張、及び長年培ってきた強固なビジネス・顧客基盤や地域密着型の強みを活かしたモビリティサービス事業を推進する中、自動車市場は、厳格なファイナンス審査の緩和の兆しは見えず、競合各社との競争激化、また電動化の進展あるいは揺り戻し等、引き続き不透明な環境が予想されます。
今後も飼料価格や原燃料費など不確実性の高い事業環境が続くものと予想されます。一方、世界的な健康志向やサステナビリティへの関心の高まりなどを背景として、鮭鱒養殖事業においては、先進国での堅調な消費に加え、旺盛な消費マインドをもった中流層が増加している新興国での新規需要により、需要が供給を上回る構図が続く見通しです。また、食料安保ニーズの高まりや食に対する嗜好の多様化などの環境変化が、世界的に浸透していくと考えています。
中長期的には国内の人口減少・高齢化に伴う消費市場縮小の流れ、短期的には原材料価格の更なる高騰や金利上昇の影響が想定されますが、当面は安定した消費動向やインバウンド需要の回復等により、対面市場は底堅く推移していく見通しです。また、海外でも、米国や東南アジア等を中心に、人口増加や経済成長に伴う対面市場の伸長や様々な事業機会が見込まれます。
生成AI普及によるデータセンター等の電力需要急増が想定される中、安定的な再エネ供給に対するニーズの一層の高まりが見込まれます。また、再エネの普及拡大に伴い、その間歇性を補うための需給調整機能も益々重要となることが予想されます。今後も脱炭素社会への移行が見込まれており、再エネ由来の電力を活用したグリーン水素をはじめとする次世代エネルギーの市場拡大も期待されています。
当連結会計年度における重要な個別案件については、「3 事業等のリスク 2.主要なリスクの概要 ⑤事業投資リスク」内の(重要な投資案件)をご参照ください。
当社の企業理念である「三綱領」には、事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力し、かけがえのない地球環境の維持にも貢献することがうたわれています。近年、様々な社会課題解決に対する企業への期待・要請が一層高まっている中、当社は、事業活動を通じて解決していく重要な社会課題である「マテリアリティ」を指針とし、「中期経営戦略2024」で打ち出したMC Shared Value(共創価値)を創出し続けることで、社会と共に成長を続けることを目指しています。マテリアリティの詳細については「
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/ir/library/esg/
(1)サステナビリティ推進体制
サステナビリティ関連のリスク及び機会に係る戦略の策定及びリスク管理は、コーポレート担当役員(CSEO)が管掌し、サステナビリティ部が方針施策を企画・立案のうえ、サステナビリティ委員会で討議後、社長室会、取締役会に付議・報告される体制となっています。社長室会を経営意思決定機関とする業務執行体制は、全社のコーポレート・ガバナンス体制のもと、取締役会、監査等委員会により監督・監査されています。業務執行体制におけるサステナビリティ関連のリスク及び機会の評価並びに管理については、「2. リスク管理」に記載しています。当社のコーポレート・ガバナンスの基本方針及び全社のコーポレート・ガバナンス体制の概要については、第4 提出会社の状況4 コーポレート・ガバナンスの状況等の「(1) コーポレート・ガバナンスの概要」に記載していますが、サステナビリティ推進に係る部分のみを抜粋すると下図のとおりとなります(2024年6月21日時点)。
なお、当社は2024年6月21日開催の定時株主総会における承認をもって、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。監査等委員会設置会社への移行については

(2)ガバナンスの状況
取締役会は経営上のサステナビリティ関連のリスク及び機会を含む重要事項の決定と、業務執行の監督について責任を負う機関です。取締役会の構成、構成する各個人のスキル、及び監督責任を果たすために適切な取締役を選任するプロセスについては
なお、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関しては、サステナビリティ関連施策の基本方針(サステナビリティ関連施策活動方針、サステナビリティ開示方針等)が報告事項となっているほか、取締役会又は社長が必要と認める事項が付議・報告されます。また、取締役会に付議される投融資案件が重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会を含む場合は、経済的側面だけでなく、環境・社会性面も含めて審議がなされています。
当社は、2024年6月21日開催の定時株主総会における承認をもって、監査等委員会設置会社へ移行しました。監査等委員会は、会社法等諸法令や定款・諸規程等に基づき、サステナビリティに関する取組も含めて、取締役の意思決定の過程や職務執行状況の監査を実施しています。なお、当連結会計年度においては監査役会の監査計画の重点監査項目の1つとして中期経営戦略の実行状況を設定しており、サステナビリティ施策も含めた主要項目の実行状況を確認しました。監査等委員会の構成、当連結会計年度における監査役会の活動状況は
社長室会はサステナビリティを含む経営方針、経営目標、全社経営計画等に関する執行側の最高経営意思決定機関です。社長、並びに社長が指名する執行役員及び職員等が委員を構成しています。サステナビリティ委員会で討議されたサステナビリティ関連のリスク及び機会に係る全社方針が付議・報告されるほか、投融資案件のうち重要性が高い案件についても付議・報告がなされており、経済的側面だけでなく、環境・社会性面からも審議がなされています。
サステナビリティ委員会は、サステナビリティの基本方針や取り組みについて討議する社長室会の下部委員会です。コーポレート担当役員(CSEO)を委員長とし、副社長、他のコーポレート担当役員、全営業グループCEO及び経営企画部長が委員を構成しています。討議においては、地球環境(気候変動・生物多様性等)、地域・社会(先住民・文化遺産等)、人権・労働(児童労働・強制労働・労働安全衛生等)といった観点を踏まえ、具体的には以下のテーマを中心に取り扱っています。
・マテリアリティ
・気候変動対応
・サプライチェーン・マネジメント
・ステークホルダー・エンゲージメント
サステナビリティアドバイザリーコミッティーは国際機関、ESG投資分野等の各ステークホルダーの幅広い視点を有する社外有識者によって構成されるコーポレート担当役員の諮問機関として2008年に設置されました。当社のサステナビリティ施策の考え方や各種取り組みに関して、定例のコミッティーを開催の上でコーポレート担当役員(CSEO)に助言・提言をしています。また、コミッティーメンバーの当社事業への理解を深める目的で、事業現場の視察を定期的に実施しています。2024年4月1日時点でのコミッティーメンバーは下表のとおりです。
以上の各機関・会議体の開催頻度、及びサステナビリティを取り上げる頻度は以下のとおりです。
2.リスク管理
(1)サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価及び管理するプロセス
当社では部門・営業グループと各リスクに対応したコーポレート専門部局が連携し、適切なリスク対応が可能な管理体制を整備しており、サステナビリティ関連のリスク及び機会についてはコーポレート担当役員(CSEO)のもとサステナビリティ部が管掌しています。当社のリスクマネジメント体制については、
全社のリスク管理方針や取組方針・戦略については、サステナビリティ推進体制のもと、サステナビリティ委員会にて討議され、社長室会及び必要に応じて取締役会への付議・報告を経て、全社施策として実行・運営されます。
また、当社では、取締役会や社長室会に付議される全ての投融資案件は、社長室会の諮問に基づき投融資委員会で審議され、社長室会へ意見具申されます。この投融資委員会には各リスクの管掌部局が参加しており、サステナビリティに関連するリスクについても、サステナビリティ部長がメンバーとして参加することで、環境や社会に与える影響も踏まえた総合的な意思決定を行う審議体制を整備しています。新規案件においては事業戦略との整合性やリスクの所在と対応策等を審議し、既存案件についても年に1度、経営計画書に基づき事業投資先の経営状況をモニタリングすることで、事業のライフサイクルなどをモニタリングし、継続的な改善・バリューアップを図っています。さらに、気候変動関連のリスク・機会が大きい一部の新規投資案件に対しては、脱炭素シナリオ下の主要前提を用いた採算指標(社内炭素価格等)に基づく採算評価を参考値として併記し、案件審議に活用しています。

(2)気候変動関連のリスク、機会の管理及びモニタリング
当社は上記のプロセスに基づき、気候変動関連のリスク及び機会を重大なサステナビリティ関連のリスク及び機会として識別しています。これは、異常気象の頻発による水資源への影響や、人口動態・自然界の生物多様性に与える影響、これに伴う食糧資源や自然資源への影響等、気候変動がもたらす影響は、地球環境や人類、企業活動にとり重大であるとともに、当社事業の継続性、並びに当社の経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があるためです。
気候変動に関連して生じるリスクは、カーボンプライシング(炭素税等)や各種規制強化による操業・設備コストの増加、既存技術に依拠する製品・サービスの陳腐化等の移行リスク(政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク等)と、渇水・洪水等による事業の操業への影響等の物理的リスクに大別されます。
当社は、気候変動は重大なリスクであると同時に、イノベーションや新規事業の実現を通じ新たな事業機会をもたらすものと考えており、「脱炭素社会への貢献」をマテリアリティの一つに掲げ、持続可能な成長を目指す上で対処・挑戦すべき重要な経営課題の一つとしています。
これらのリスク及び機会を管理、モニタリングし、ポートフォリオの脱炭素化・強靭化を進めるためのメカニズムの基礎として、“MC Climate Taxonomy”を導入しています。“MC Climate Taxonomy”では、当社の約130の全ビジネスユニットを対象に、気候変動の移行機会が大きいものをグリーン事業、移行リスクが大きいものをトランスフォーム事業、どちらにも該当しないものをホワイト事業と3つに分類しました。この事業分類を踏まえて、グリーン事業・トランスフォーム事業に対して、投融資案件審査時の脱炭素採算評価の実施、投融資計画策定時のGHG削減計画確認を行い、当社事業が個別案件及び全社事業戦略の両面において2050年ネットゼロに向けたシナリオと整合することを確認する適切なリスク管理制度としました。トランスフォーム事業の選定にあたってはGHG排出量(Scope 1/2/3)の多寡とGHG排出量の削減ハードルの両方を考慮しています。具体的な削減ハードルの判別には、当社単独での排出削減が困難であるScope 3カテゴリー11(販売した製品の使用に伴うGHG排出量)と、Scope 1 6.5ガス(事業を行う以上排出が避けられないもの)を座礁資産化回避の観点から指標として使用しています。具体的な分類のプロセスは以下のとおりです。なお、分類については最低でも年度に一度見直しを行っています。

※1 脱炭素シナリオ下での2050年時点の需要がBusiness as usualシナリオ(特段の気候変動への対策を行わない場合のシナリオ)と
比較し、+20%以上であるビジネスを選定。
※2 まずはEU Taxonomyに基づきGHG排出量が高い業種を特定した上で、これに当てはまらなかった業種についてもScope 1の自社
データ、Scope 3 カテゴリー11の外部データに基づき、他業種と比べ突出して高い場合には、トランスフォーム事業に分類。
※3 Scope 1や、Scope 3カテゴリー11ベースで判定。
その他のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関しては、
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/ir/library/esg/
(1)ポートフォリオの脱炭素化と強靭化への取組
「2.リスク管理」で記載したとおり、当社は、気候変動関連のリスク及び機会を当社の事業戦略に重要な影響を与えるサステナビリティ関連のリスク及び機会として特定しています。その上で、"MC Climate Taxonomy"による分類に基づきモニタリング対象として特定した一部のグリーン及びトランスフォーム事業に対して、1.5℃シナリオ分析を実施し、これらのリスク及び機会がビジネスモデルとバリューチェーンに与える影響を評価しています。この評価結果を事業戦略へ落とし込むべく、シナリオ分析を実施したトランスフォーム事業については、トランスフォーム・ディスカッション(※)にて事業の方向性を左右する要素につき議論しています。同議論内容も踏まえて、事業戦略会議にて社長及び各営業グループCEOがGHG削減目標を踏まえた投資計画を討議します。
以上のような、気候変動に係るリスク管理及び戦略への織り込みに加え、対外開示までを一つのサイクルとしてとらえて、効果的な運用を行っています。
※トランスフォームに分類された事業を対象に、移行リスクとして注視すべき需給の動向や技術革新の動向を特定し、事業への影響
を経営レベルで毎年モニタリングするもの。

(2)気候変動関連のリスク及び機会に係るシナリオ分析
気候シナリオとは、脱炭素化の速度や程度に影響を及ぼす社会経済・政策・市場・技術等に関する一連の仮定を置き、その結果として将来どの様な社会が実現されうるかを描くものです。1.5℃シナリオを用いてシナリオ分析を行う場合は、産業革命以前に比べた気温上昇が1.5℃に抑えられた世の中が実現しているという仮定のもと、地球温暖化や気候変動そのものの影響や、気候変動に関する長期的な政策動向による事業環境の変化等を予想し、事業戦略への影響を検討することとなります。したがって、財務諸表における会計上の見積りの基礎となる、最新の入手可能な信頼のおける情報に基づく合理的な見積りと、シナリオ分析における一連の仮定は異なるものです。また、シナリオ分析は需給等に関する市場全体の傾向を仮定しますが、当社の保有資産の優位性あるいは劣後性や、売買契約等の特殊性により、市場全体の傾向と当社の事業への影響が一致しない場合もあります。加えて、シナリオ分析が数十年単位の超長期的な影響を分析するのに対し、財務諸表における資産及び負債の測定においては、数年から十年といった中長期的な時間軸の影響が大きく、足元の事業環境がより強く反映されることとなります。以上より、仮にシナリオ分析において、当社の事業に関連する資産の価値毀損等あるいは負債の増加等の影響が示された場合にも、それらが直ちに財務諸表における資産及び負債の測定に影響を及ぼすとは限らないと考えられます。会計上の見積りにおける気候変動の影響の考え方については、
気候シナリオについては、国際エネルギー機関(International Energy Agency (IEA))、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC))、気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(Network for Greening Financial Services (NGFS))等を始めとする機関・団体のほか、気候変動の移行リスク・機会が大きい事業を保有し、同事業の検証・評価に特に関心が高い一部の民間企業も独自に策定、公表しています。
当社は、ポートフォリオの脱炭素化と強靭化の両立に向けては、これら気候シナリオを参照した「シナリオ分析」を行い、各事業について気候変動の移行リスク・機会を適切に把握し、それらも踏まえた事業戦略を策定することが重要と考えています。その観点から、当社は、2019年度より気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿う形で、主にIEAの気候シナリオを用いたシナリオ分析を実施しており、2021年度からは2050年ネットゼロ実現を前提とした1.5℃シナリオを使用した分析を開始しました。当社が2021年度に実施した1.5℃シナリオ分析では、IEAの“Net Zero Emission by 2050 Scenario(IEA NZE)”を参照しましたが、IEA NZEでは分析に必要となる十分な粒度のデータが提供されておらず、当社事業の特性や、地域戦略等を踏まえた定量面も含む詳細な分析を行うことは困難でした。これを踏まえ、前連結会計年度は外部の第三者機関と協働し、可能な限り主要な前提をIEA NZEと整合させた上で、地域別・商材別の需要といった、より細かい粒度のデータを含む独自の1.5℃シナリオ(2022年度1.5℃シナリオ)を策定し、これを参照して分析を行いました。なお、当連結会計年度において外部機関が公表した気候シナリオや当社の事業環境等を踏まえたうえで 、事業戦略の策定において引き続き2022年度1.5℃シナリオを用いています。
気候変動がもたらしうるリスク・機会の影響が特に大きいと想定される事業をシナリオ分析対象とするべく、下記の方針に沿って選定を行いました。
リスクサイドの事業選定に当たっては、GHG排出量と資産規模の二つの指標を勘案しました。具体的には、“MC Climate Taxonomy”に基づき、GHG排出量が多く、かつ排出量削減の難易度が相対的に高いことから気候変動リスクが大きいトランスフォーム事業に分類された事業のうち、資産規模が特に大きい「天然ガス・LNG」、「原料炭」、「発電(化石燃料)」事業(これら3事業はトランスフォーム事業における当社の投融資残高の約7割を占める)を分析対象候補とした上で、既に「新規の石炭火力発電事業には取り組まずに段階的に撤退、2050年までに非化石比率100%」という明確な事業方針を掲げている「発電(化石燃料)」事業は例外的に対象外とし、最終的に「天然ガス・LNG」、「原料炭」事業を2022年度1.5℃シナリオ分析の対象として選定しました。
機会サイドについては、“MC Climate Taxonomy”に基づいて気候変動機会が大きいグリーン事業に分類されたもののうち、当社の主力事業であり既に具体的な案件が複数存在する「再生可能エネルギー」事業を2022年度1.5℃シナリオ分析の対象として選定しました。
(天然ガス・LNG事業)
天然ガス・LNGは移行期において重要な役割を担うエネルギー源であり、分析に用いた2022年度1.5℃シナリオ下においては、長期的には天然ガス・LNGの需要減が見込まれるものの、当社LNG事業の戦略地域であるアジア地域では長期に亘り一定程度の需要が想定されています。掛かる事業環境認識に基づき、「中期経営戦略2024」のとおり、当社はエネルギー・資源の安定供給と社会・経済活動の低・脱炭素化の両立を目指し、以下のとおり「LNG事業の強靭化」と同時に「LNGバリューチェーンの低・脱炭素化」にも注力いたします。より中長期的には、技術イノベーションや各国政府による政策動向等を含めた事業環境を見極めた上で、LNG事業の更なる低・脱炭素化の取り組みを進めるとともに、LNGポートフォリオの最適化及び次世代エネルギー分野への投資を本格化していきます。
「LNG事業の強靭化」と「LNGバリューチェーンの低・脱炭素化」に関するより詳細な取組みは以下のとおりです。
<LNG事業の強靭化>
既存のLNG事業については、生産量の大部分が長期契約に基づいて販売されていますが、生産効率の向上やコスト削減等による競争力強化を図ると同時に、継続的にポートフォリオの最適化を検討していきます。
新規のLNG案件については、脱炭素化が急速に進展した場合の座礁資産化のリスクも念頭に置き、2022年度1.5℃シナリオ下における投資採算も考慮して新規投資判断を行います。
<LNGバリューチェーンの低・脱炭素化>
「LNG事業の強靭化」と並行して、本邦最大級のLNG事業者の立場・強みを活かし、LNGバリューチェーン自体の低・脱炭素化に資するCCUS等の推進、ブルー水素やe-methane(合成メタン)等の次世代エネルギーの製造・供給等に関する取り組みを進めることで事業機会を取り込みつつ、脱炭素社会への移行の一翼を担っていきます。
これらは、過去50年超に亘る当社の天然ガス・LNG事業への取り組みから得られた経験・知見・ネットワークが活用可能な領域であり、既に具体的な検討を進めています。
(原料炭)
鉄鋼業は今後長期にわたる移行期間に入ると想定されますが、BMA事業の主要商品である高品位原料炭は高炉製鉄プロセスの低炭素化に貢献することから、低品位の原料炭との比較において必要性が相対的に高まる見通しです。一方、許認可の取得難化等、開発難易度が高まることから、新規炭鉱投資が一段と減速し供給の減少が想定されます。BMA事業は、高品位の原料炭の安定供給を継続します。
また、当社はGHG排出削減を積極的に推進しており、BMA事業においても、再生可能エネルギー調達、メタンガス処理やディーゼル代替等に関する取り組みを検討・推進しています。一例として、2020年にBMAは炭鉱の電力需要の半分を再生可能エネルギー由来の電力に切り替える契約を締結しました。2020年代半ばまでにScope 2排出量を半減させる計画です。
また、パートナーであるBHP社、製鉄大手及び大手エンジニアリング会社と共同で、製鉄所でのCO2回収技術の実証試験等を共同で実施する旨の協業契約を締結する等、製鉄バリューチェーン全体でのGHG排出削減に取り組んでいます。
当社は金属資源事業においても、「脱炭素」・「電化」・「循環型社会」の三つの切り口でEX戦略を推進していきます。製鉄バリューチェーンでの脱炭素化に加え、電化に不可欠な銅・電池原料等や、リサイクル事業への取り組みを強化していきます。
(再生可能エネルギー)
再生可能エネルギーの導入や蓄電池の普及、及びこれに伴う電力供給システムの分散化傾向は、政策・規制、技術革新等の状況により国・地域による差異があり、発現するタイミングが大きく異なる可能性があります。当社は、再生可能エネルギーを「つくる(発電)」、天候により変動する電気を「整える(需給調整)」、整えた電気と付加価値の高いサービスを「届ける」、といったこれら電力バリューチェーン上の各機能の強化を通じて、洋上風力の成長が見込まれる日本や、N.V. Enecoをプラットフォームに持つ欧州を中心に、米州・アジア等でも再生可能エネルギーを起点とする事業拡大を目指します。具体的な目標として、「2030年度までに再生可能エネルギー発電容量を2019年度比倍増(3.3 GW → 6.6 GW)」を掲げており、これの達成に向けて取り組んでいきます。
2022年度1.5℃シナリオにおける主要な前提、及びIEA NZEとの比較、事業環境分析、並びに事業環境を踏まえた方針・取組等の詳細は
(1)目標
当社は、パリ協定と整合する2050年ネットゼロ/1.5℃目標に基づき、ポートフォリオの脱炭素化と強靭化の両立を図り、MC Shared Value(共創価値)の創出を推進していきます。そのために、脱炭素社会の実現に向けた以下3つの目標を掲げています。
① GHG排出量(Scope 1及びScope 2)の削減目標
2050年GHG排出量ネットゼロを前提とし、2030年度時点での中間目標として2020年度比GHG排出量半減を掲げています。この目標達成に向けて、火力発電資産のダイベストメントを中心としたポートフォリオ入替を含む具体的な削減計画を策定しています。また、削減努力を進めた上で、なお残存する排出量については、炭素除去を含めた国際的に認められる方法でオフセットを行う前提です。
なお、当社は、収益基盤としても重要性の高い関連会社のGHG排出量を含む削減目標とすることが適切と考え、本目標の前提となるGHG排出量の算定には、関連会社分のGHG排出量も対象に含むGHGプロトコルに基づく出資比率基準を採用しています。

② 発電事業における非化石比率
既存火力発電容量の削減、及びゼロエミッション火力への切り替えで、2050年までに当社発電事業における非化石比率100%化を目指します。なお、石炭火力発電事業については、受注済みのベトナム/ブンアン2案件を最後として今後新規事業は手掛けず、段階的に撤退することで、2030年度までに2020年度比で持分容量を3分の1程度まで削減し、2050年までに完全撤退する方針です。
2030年度までに再生可能エネルギー発電容量2019年度比倍増を目指します。
(2)目標に対する進捗
2030年度までに基準年度(2020年度、2,530万トン-CO2e)比でGHG排出量(Scope 1及びScope 2)を半減させるという目標に対して、当連結会計年度の実績値は以下のとおりです。前連結会計年度対比の主な増加要因は6.5ガスの排出係数の変更に伴う増加です。仮に、前連結会計年度において変更後の排出係数を用いた場合、当連結会計年度のGHG排出量は前連結会計年度の実績値を下回っています。
当連結会計年度におけるセグメント別の排出量(Scope1及びScope2の合計)の実績は以下のとおりです。
上記の数値は第5 経理の状況の連結財務諸表における連結子会社、共同支配事業、関連会社、共同支配企業を対象として集計しており、報告日についても第5 経理の状況 連結財務諸表注記3「(1)連結の基礎⑥報告日」と同様の方針としています。なお、実務上の負荷等を勘案し、一部の会社について収集を省略するなど、連結財務諸表の報告範囲との差異が生じていますが、当該差異が上記の数値に与える影響には重要性がないと判断しています。出資比率基準でのGHG排出量算出にあたっては、連結財務諸表で用いる持分比率を適用しています。
また、Scope 1/2とScope 3の区分にあたって、GHG Protocol等の基準を参照していますが、一部当社としての判断を行使している場合もあります。例えばリース契約においては契約形態に応じた会計上の取扱いを参照し区分することが可能ですが、業界慣習や排出量の情報取得の難易度等も勘案し、事業ごとに異なる整理をしている場合があります。将来的に集計に係る基準の明確化等により当該整理に変更が必要な場合、かつ当該変更に関連する排出量に重要性がある場合は、当年度以前の数値についても遡及的に修正する可能性があります。
なお、Scope 3については重要性が高く、かつ高い精度での集計が可能となったカテゴリーを開示する方針としており、現在開示しているカテゴリー11の2022年度実績については、
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/ir/library/esg/
(1)人的資本に関するガバナンス
人的資本に関連する戦略・リスクについては、コーポレート担当役員(人事)のもと人事部が管掌しています。人事制度、人事施策、人材開発、人員政策に関する重要事項及び経営幹部人材の育成活用に関する事項については、HRD委員会(委員長:コーポレート担当役員(人事))にて討議され、所定の基準に基づき社長室会及び取締役会への付議・報告を経て、全社施策として実行・運営されます。
(2)「中期経営戦略2024」における人事施策
中期経営戦略2024において掲げた「イキイキ・ワクワク、活気あふれる人材と組織」を通じた人的資本の価値最大化に向け、各種人事施策に取り組んでいます。
「人材戦略」においては、当社ならではの多様な経験・研修機会の提供などを通じた次世代のリーダーの戦略的育成に向けた取り組み、また、「エンゲージメント強化」では、多彩・多才な人材が、エンゲージメント高く、組織の壁を越えてつながり、活躍することのできる組織風土の醸成に向け各種施策を展開しています。
a. 多様な経験を通じた戦略的育成
当社にとって、時代のニーズを先取り・先読みし、高い志をもって常に社会課題解決にチャレンジしてきた 多彩・多才な人材こそ価値創出の源泉であり、最大の資産であると捉えています。

こうした「経営マインドをもって事業価値向上にコミットする人材」をこれからも継続的に輩出し続けるために、一人ひとりのキャリアステージに応じ、OJT・Off-JT両面から段階的に様々な経験を積む機会を提供しています。

(リーダーシップ開発)
部下の成長支援スキル、多彩・多才な人材を活かすマネジメントスキルの開発など、事業経営モデルにおいて価値創出をリードしていくために必要なリーダーシップを段階的に開発する施策を展開しています。
(グローバルでの経験)
事業の更なるグローバル展開に対応し、人材面でのグローバル競争力の強化に向け、語学堪能者の育成や社員が海外実務経験を積む機会を設けています。また、それぞれのキャリアステージに応じたプログラムにて海外のビジネススクールに派遣し、最先端の経営スキルの習得や、グローバルな人的ネットワークの構築を図っています。
(事業環境変化への対応力強化(DX関連研修))
各々の人材の「軸」となる強み・専門性とDX知識・スキルを掛け合わせ事業へ活用できるよう、全社員向けのIT・デジタル関連スキルの習得を目的としたオンデマンド講座や、 DX/事業開発担当者向けの実践的な研修プログラム、プロジェクトマネージャーを対象としたワークショップ講座など様々な施策を展開しています。
※こうした取り組みに係る進捗状況を示す指標については「(4)指標及び目標」もご参照ください。
b. 経営戦略への即応に向けた人材の可視化
当社ならではの様々な経験を経て、連結ベースで重要な役割を担う人材「重要職務就任者※」約700名が、循環型成長モデル・ EX/DX一体推進等の経営戦略の実現に向け、国内外の様々な拠点・地域、事業会社において事業経営に取り組んでいます。これら、重要度・難易度の高い職務と、それを担い得る人材の可視化に注力し、当該職務への適任者の最適配置に向けたマッチングを図っています。

※当社の役員、本部長・部長、国内・海外全拠点長、当社社員が担う当社グループ企業の経営幹部など。
a. エンゲージメント強化に向けたKPI
経営戦略と連動した人事施策の推進を通じた「イキイキ・ワクワク、活気あふれる人材と組織」の実現に向け、社員のエンゲージメントは最重要テーマであるとの考えのもと、組織風土調査の実施頻度を3年に1度から毎年実施に変更すると共に、定量的なKPIを設けました。
また、調査の結果については、各所属員へフィードバックし、自組織の活性化に向けて活用するほか、経営レベルでも結果について分析・討議の上、全社として取り組むべき課題を抽出し、施策に反映しています。

b. エンゲージメント強化に向けた各種取り組み
組織・役職・世代を越えてのコミュニケーションが促進されることで多様性を活かす組織風土を醸成するとともに、多彩・多才な人材が最大限に能力を発揮し、活躍できるよう社員自らキャリアを切り開いていく土壌を整備していくことで、仕事へのエンゲージメントを更に高め、当社の持続的な成長につなげていきたいと考えています。
(社長とのタウンホールミーティング)
社長と社員の開かれた対話の場として継続実施しています。当連結会計年度はテーマ別・地域別の実施回も設け、より多様で活発なコミュニケーションとつながりの醸成を実現しています。
(キャリア自律施策)
多様な個の就業観・価値観を尊重し、キャリア自律を後押しするために、手挙げ制の異動制度「Career Choice制度」、社内他部署における複業制度「Dual Career制度」、国内外での学位取得を目的とした「サバティカル休職制度」を継続運用しています。事業構想や経験を存分に活かす場が更に増えたことで、多彩・多才な人材の更なる能力発揮を実現しています。
c. ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)
(DE&I推進)
「多彩・多才」な人材の多様な価値観を受容し、一人ひとりが最大限に能力を発揮できる環境整備に向け、2023年に社長直掌に全社横断で構成された「DE&Iワーキンググループ」を組成し、多様なバックグラウンドのメンバーによりDE&I推進に向けた課題整理・施策検討を実施しました。
「DE&Iは、当社が持続的に成長するための必須条件」と位置付けを明確化した上で、課題については、「DE&Iの必要性」「組織・人」「制度」の3つの重点課題に整理しました。また、重点課題に基づいて対象層別の施策を検討し、ロードマップの策定・提言を行いました。これを受けて各種施策を実行に移しています。
(女性活躍推進)
DE&I推進の各種取り組みの中でも、女性活躍推進には特に注力しています。
具体的には、「女性経営幹部を継続的に輩出するためのパイプライン強化」を重要テーマとして掲げ、ライフイベント等を経た後も、海外駐在や出向含め多様な業務経験を通じて能力・スキルを開発できる環境整備、責任ある職務への積極的な登用、また、採用における女性比率の向上を優先課題と認識し、様々な取り組みを推進していきます。
こうした取り組みにドライブをかける目的で、採用・パイプラインにおけるマイルストーンを設定しました。この実現に向けて、キャリア支援のための施策の導入や体制強化、両立支援の拡充などを、スピード感をもって実行し各種施策を設定していくことで、あらゆる階層でクリティカルマスとされる女性比率30%以上の早期実現を目指します。

※女性活躍推進に係る指標については第1 企業の概況 5 従業員の状況の「3 多様性に関する指標」もご参照ください。
(当社グループ従業員への価値観共有)
当社グループ約8万人の総合力強化を図ることを目的とし、価値観の共有、強固なネットワークの構築に向け、具体的には以下の様な取り組みを行っています。
・「海外拠点在勤者との対話」:当社経営層と、現地社員を含む当社海外拠点在勤者との対話を通じて、
経営戦略やMC HR Vision等の浸透を促進しています。
・「グローバルHR会議」:海外拠点の人事担当者が一堂に会し、本店/拠点双方向のコミュニケーションを
深めながら、人事戦略・人事関連テーマについての意見交換・共有やネットワーキング強化を推進し
ています。
・「MC Group Gateway Program」: 当社の理念・価値観の共有や当社グループへの理解を深めることを目的
として、当社海外拠点・国内外のグループ企業の社員を対象に導入研修を開催しています。
(3)10年後を見据えた MC HR Vision「DEAR(多彩・多才な人材を活かし、育て、報いる)」
中期経営戦略2024にて掲げた方針に則り、各種施策を推進すると共に、変化の激しい事業環境下においても、当社の最大の資産であり、価値創出の源泉である「多彩・多才」な人材がやりがいと誇りをもって、社会や産業の課題解決に挑み、MC Shared Value(共創価値)を創出し続ける会社であるために、10年後を見据えたMC HR Vision「DEAR」を策定しました。
会社として「人」こそ最も大切にしたいという想いを込めて、“親愛なる”を意味する英単語である「DEAR」と表現し、4つのアルファベットそれぞれに意味を設けています。
「D・“Diversity /多彩・多才な人材”」:
性別・年齢・国籍・バックグラウンドに関わらず、多様な人材が集まり、みんなで価値を創出していけるように、まさに彩りある人材ポートフォリオを目指します。
「E・“Energize /活かす”」:
当社に集まった多彩・多才な人材の誰もが受容され、互いにつながり、健康でいながら、その能力を最大限活かすことで、イキイキ・ワクワク/チャレンジできる組織風土を醸成します。
「A・“Accelerate /育てる”」:
多様な経験を積める場を創出し、一人ひとりの自律的なキャリア形成と成長を支援していくとともに、変化対応力を高めるリスキルやリーダーシップ強化にも取り組んでいきます。
「R・“Reward /報いる”」:
多様な人材を惹きつける報酬水準・体系を実現し、広い母集団の中から適材適所の配置を行い、職務と成果に応じた一層メリハリある処遇を徹底することで、成果主義を備えた、活力ある組織を実現します。

(4)指標及び目標
「人的資本の価値最大化」に向けた施策の進捗状況に関する主な指標及び目標は以下のとおりです。
当社では、部門・営業グループと各リスクに対応したコーポレート専門部局が連携し、適切なリスク対応が可能な管理体制を整備しています。なお、以下については当連結会計年度末以降提出日までの管理体制に係る変更等を反映しています。

① 世界マクロ経済環境の変化によるリスク
世界的な、又は地域的なマクロ経済環境の変化は、個人消費や設備投資と深く関係し、商品市況にも影響を及ぼします。その結果、当社がグローバルかつ多様な産業領域に展開している事業の商品・製品価格、取扱量やコストなどに変動をもたらし、経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度においては、インフレが継続する中でも、世界経済は底堅い成長を維持しました。世界経済の先行きは、利下げ開始など欧米の金融政策の転換も見込まれるなか、引き続き緩やかな成長を維持していくと見られますが、中国経済の先行き懸念等とともに、米中対立、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢等地政学リスクにも留意が必要であり、動向を注視しています。
以下「当期純利益」は、「当社の所有者に帰属する当期純利益」を指しています。当期純利益への影響額は、他に記載のない限り当社の当連結会計年度の連結業績を踏まえて試算した、翌連結会計年度に対する影響額を記載しています。
当社は、商品の売買取引や保有する資源エネルギーの権益における生産物の販売、そして関係会社の製造する工業製品の販売などの活動を通じて、様々な商品価格の変動リスクを負っています。特にエネルギー資源及び金属資源の取引においては、売買価格の変動を通じて当社の業績に大きな影響を及ぼします。
また、投資の評価においても商品価格が重要なインプットとなる場合があります。特に事業期間が長期に及ぶ場合、短期的な価格の動向よりも中長期的な価格見通しの方が、投資の評価により重要な影響を与えるため、将来の需給環境等のファンダメンタルズや、社外の金融機関等の提供するデータ等を考慮して、商品ごとに当社としての見通しを策定しています。商品市況の長期的な低迷又は上昇が想定される場合には、保有する有形固定資産や持分法で会計処理される投資などの減損及び減損戻入を通じて、業績に影響を与える可能性があります。当社の重要な投資案件については、「⑤ 事業投資リスク(重要な投資案件)」をご参照ください。
(エネルギー資源)
当社は北米、東南アジア、豪州などにおいて、天然ガス・石油の開発・生産事業、液化天然ガス(LNG)事業を行っており、天然ガス・原油価格は当社の業績に重要な影響を与えます。
原油(Brent)価格は、OPECプラスが2024年末まで協調減産方針を延長したことや、米国の石油製品在庫の減少が続いたこと、中東で地政学リスクの高まりが意識されたこと等を背景に、12月末の1バレル70米ドル後半から3月末には1バレル80米ドル後半まで上昇しました。今後も地政学リスクの高まり、各国経済情勢、OPEC/非OPECの生産動向等によって価格が上下するボラティリティの高い展開が続くと認識しています。
なお、当社のLNG販売の大半は長期契約であり、LNG価格は原油価格にリンクしているものが大宗となります。1バレル当たりの原油価格が1米ドル変動すると、当社の当期純利益は主に持分法による投資損益を通じて年間約15億円増減すると試算されます。ただし、LNG・原油の価格変動が当社の業績に影響を及ぼすまでにはタイムラグがあるため、価格変動が直ちに業績に反映されるとは限りません。
また、当社のLNG販売の一部はスポット契約にて販売しています。1月初めのアジアのLNGスポット価格は、百万Btu(英国熱量単位)当たり11米ドル付近で開始しましたが、暖冬による需要低迷と堅調なLNG在庫積み上がりの影響を受け、2月中旬には8米ドル付近を推移しました。その後、気温低下を受け一時的に9米ドル後半まで上昇したものの、需要の先細りにより、3月末時点では8米ドル台後半まで下落しました。
(金属資源)
当社は、100%出資子会社の三菱デベロップメント社(MITSUBISHI DEVELOPMENT PTY LTD、本社:豪州ブリスベン、以下「MDP社」)を通じて、製鉄用の原料炭を販売しており、石炭価格の変動はMDP社の収益を通じて当社の業績に影響を与えます。また、MDP社の収益は、石炭価格の変動の他にも、豪ドル・米ドル・円の為替レートの変動や悪天候、労働争議等の要因にも影響を受けます。
銅についても、生産者としての価格変動リスクを負っています。1トン当たりの価格が100米ドル変動すると当期純利益で年間32億円の変動をもたらす(1ポンド当たりの価格が0.1米ドル変動すると当期純利益で年間70億円の変動をもたらす)と試算されますが、粗鉱品位、生産・操業状況、再投資計画(設備投資)等、価格変動以外の要素からも影響を受けるため、銅の価格のみで単純に業績への影響額が算出されない場合があります。
当社は、輸出入、及び外国間などの貿易取引において外貨建ての決済を行うことに伴い、円に対する外国通貨レートの変動リスクを負っています。これらの取引では必要に応じて、先物為替予約などによるヘッジ策を講じていますが、それによって完全に為替リスクが回避される保証はありません。
また、当社の海外事業に対する投資については、為替変動により、外貨建の受取配当金や海外連結子会社・持分法適用会社の持分損益の円貨換算額が増減するリスクが存在し、外国通貨に対して円高が進むと当期純利益にマイナスのインパクトを与えます。米ドル・円のレートが1円変動すると、当社の当期純利益は年間約50億円増減すると試算されます。
加えて、在外営業活動体の換算差額を通じて自己資本が増減するリスクが存在するため、一部の大口の投資については主に先物為替予約を用いたヘッジ策を講じています。
当社は、当連結会計年度末時点で、取引先や関連会社を中心に1兆3,711億円(時価)の市場性のある株式を保有しており、株価変動のリスクを負っています。上記の価格は3,308億円の評価益を含んでいますが、株式の動向次第で評価益は減少するリスクがあります。また、当社の企業年金では、年金資産の一部を市場性のある株式により運用しています。よって、株価の下落は年金資産を目減りさせるリスクがあります。
当社の当連結会計年度末時点の有利子負債総額(リース負債除く)は5兆1,280億円であり、一部を除いて変動金利となっているため、金利が上昇する局面では利息負担が増加するというリスクがあります。
しかし、この有利子負債の相当部分は金利の変動により影響を受ける営業債権・貸付金等と見合っており、金利が上昇した場合に、これらの資産から得られる収益も増加するため、金利の変動リスクは、タイムラグはあるものの、相殺されることになります。また、純粋に金利の変動リスクにさらされている部分についても、見合いの資産となっている投資有価証券や固定資産からもたらされる取引利益、配当金などの収益は景気変動と相関性が高いため、景気回復の局面において金利が上昇し支払利息が増加しても、見合いの資産から得られる収益も増加し、結果として影響が相殺される可能性が高いと考えられます。ただし、金利の上昇が急である場合には、利息負担が先行して増加し、その影響を見合いの資産からの収益増加で相殺しきれず、当社の業績は一時的にマイナスの影響を受ける可能性があります。
このような金利などの市場動向を注視し、機動的に市場リスク対応を行う体制を固めるため、当社ではALM(Asset Liability Management)委員会で金利変動リスクの管理を行っています。
当社は、様々な営業取引を行うことによって、売掛金、前渡金などの取引与信、融資、保証及び出資などの形で取引先に対して信用供与を行っており、取引先の信用悪化や経営破綻等による損失が発生する信用リスクを負っています。また、当社は主としてヘッジ目的のためにスワップ、オプション、先物などのデリバティブ取引を行っており、デリバティブ取引の契約先に対する信用リスクを負っています。
当社では当該リスクを管理するために、取引先ごとに成約限度額・信用限度額を定めると同時に、社内格付制度を導入し、社内格付と与信額により定めた社内規程に基づき、与信先の信用状態に応じて必要な担保・保証などの取付けを行っていますが、信用リスクが完全に回避される保証はありません。取引先の信用状態悪化に対しては取引縮小や債権保全策を講じ、取引先の破綻に対しては処理方針を立てて債権回収に努めていますが、債権等が回収不能になった場合には当社の業績は影響を受ける可能性があります。
当社は、海外の会社との取引や出資において、国の政治・経済・社会情勢に起因した、代金回収や事業遂行の遅延・不能等が発生するカントリーリスクを負っています。
当社においては、国ごとのリスク状況の把握、カントリーリスク対策制度の立案・管理を、コーポレート担当役員(CFO)を委員長とするALM委員会で行っています。
カントリーリスク対策制度では、各種リスク要因を踏まえ各国を区分の上、区分ごとに枠を設定する等の手法でカントリーリスクを一定範囲内にコントロールしています。また、個別案件のカントリーリスクについては、保険を付保するなど、案件の状況に応じて適切なリスクヘッジ策を講じています。ロシア、ウクライナ両国宛てリスクについても、同制度を通じて管理しています。
しかしながら、上記のようなリスクヘッジ策を講じていても、当社の取引先や出資先若しくは進行中のプロジェクト所在国の政治・経済・社会情勢の悪化によるリスクを完全に回避することは困難です。そのような事態が発生した場合、当社の業績は影響を受ける可能性があります。
なお、ロシア・ウクライナ情勢の影響については、第5 経理の状況 連結財務諸表注記2 「(5)重要な会計上の判断、見積り及び仮定」をご参照ください。
当社は、株式・持分を取得して当該企業の経営に参画し、商権の拡大やキャピタル・ゲイン獲得などを目指す事業投資活動を行っていますが、この事業投資に関連して投下資金の回収不能、撤退の場合に追加損失が発生するリスク、及び計画した利益が上がらないなどのリスクを負っています。事業投資リスクの管理については、新規の事業投資を行う場合には、投資の意義・目的を明確にした上で、投資のリスクを定量的に把握し、事業特性を踏まえて決定した投下資金に対する利回りが、期待収益率を上回っているか否かを評価し、選別を行っています。投資実行後は、事業投資先ごとに、毎年定期的に「経営計画書」を策定しており、投資目的の確実な達成のための管理を行う一方、計画した収益を上げていない先については、持分売却・清算による撤退を含め、保有方針を明確にすることで、効率的な資産の入替を行っています。
このような投資評価の段階での案件の選別、投資実行後の管理を厳格に行っていますが、期待する利益が上がらないというリスクを完全に回避することは困難であり、事業環境の変化や案件からの撤退等に伴い、当社の業績は影響を受ける可能性があります。
なお、事業投資に含まれる商品市況リスクについては、「② a. 商品市況リスク」をご参照ください。
(重要な投資案件)
a. 豪州原料炭及びその他の金属資源権益への投資
当社は、1968年11月にMDP社を設立し、炭鉱開発(製鉄用の原料炭)に取り組んできました。2001年には、MDP社を通じ、約1,000億円で豪州クイーンズランド州BMA原料炭事業(以下「BMA」)の50%権益を取得し、パートナーのBHP社(BHP Group Limited、本社:豪州メルボルン)と共に事業を運営しています。現在では、BMAは世界最大規模の原料炭事業に成長しています。また、当連結会計年度末のMDP社の固定資産帳簿価額は9,627億円となっています。
当連結会計年度末において、MDP社が権益の50%を保有するブラックウォーター炭鉱、及びドーニア炭鉱に関する資産(主に鉱物資源関連資産などの有形固定資産)1,976億円を売却目的保有に分類し、帳簿価額で測定しています。 これは、豪州のWhitehaven Coal Ltdに当該資産を売却することについて2023年10月18日に合意に至り、通常又は慣例的な条件にのみ従って1年以内の売却が見込まれることになったものです。当該資産に直接関連する負債(主に資産除去債務)656億円があります。
なお、2024年4月2日に、当該資産及び負債について売却が完了しました。詳細については、第5 経理の状況 連結財務諸表注記41をご参照ください。
b. チリ銅資産権益への投資
当社は、アングロ・アメリカン社(Anglo American Plc、本社:英国ロンドン、以下「アングロ社」)、チリ国営の銅生産会社であるCorporación Nacional del Cobre de Chile社(本社:チリ国サンチャゴ)と三井物産株式会社の合弁会社(以下「合弁会社」)と共に、チリ国銅資源権益保有会社アングロ・アメリカン・スール社(Anglo American Sur S.A.、本社:チリ国サンチャゴ、以下「アングロスール社」)の株式を保有しています。アングロスール社への出資比率は、アングロ社グループが50.1%、合弁会社が29.5%、当社グループが20.4%となっており、当社の取得額は45.1億米ドルです。
同社は、チリ国内にロスブロンセス銅鉱山、エルソルダド銅鉱山、チャグレス銅製錬所、並びに大型の未開発鉱区等の資産を保有しています(同社合計の2023年銅生産量実績は約26万トン)。
当社はアングロスール社への投資に対して持分法を適用しています。同社宛ての投資に関しては、持分法で会計処理される投資として減損の兆候判定を行っています。同社の生産・開発計画は長期間に及び、短期的な価格動向よりも中長期的な価格見通しの方が、投資評価により重要な影響を与えるため、最新の銅価見通しや開発計画を含め、中長期的な観点から評価し判断しています。当連結会計年度末の帳簿価額は1,555億円となっています。
c. ペルー銅資産権益への投資
当社は、アングロ社と共同で、ペルー共和国ケジャベコ銅鉱山プロジェクト(以下「ケジャベコ」)の権益保有会社であるアングロ・アメリカン・ケジャベコ社(Anglo American Quellaveco S.A.、本社:ペルー共和国リマ、以下「AAQ社」)の権益40%を保有しています。
ケジャベコは約8.2百万トン(銅分換算)の埋蔵量を見込む大規模鉱山で、高いコスト競争力を有しており、2022年に銅精鉱の生産を開始しました(2023年銅生産量実績は約32万トン)。
当社はAAQ社への投資に対して持分法を適用しています。AAQ社宛ての投資に関しては、持分法で会計処理される投資として減損の兆候判定を行っています。ケジャベコの生産計画は長期間に及び、短期的な価格動向よりも中長期的な価格見通しの方が、投資評価により重要な影響を与えるため、最新の銅価見通しや開発計画を含め、中長期的な観点から評価し判断しています。
当連結会計年度末の投資及びAAQ社に対する融資額の帳簿価額は5,476億円となっています。
d. モントニー・シェールガス開発プロジェクト/LNGカナダプロジェクト
当社は、カナダにおいて上流資源開発からLNGの生産・輸出販売に至る天然ガスバリューチェーンを構築しています。上流事業として、パートナーのOvintiv社と共に、当社100%出資子会社のCUTBANK DAWSON GAS RESOURCES LTD.社を通じてシェールガスの開発事業を行っています。当社グループの権益保有比率は40%で、当連結会計年度末の「持分法で会計処理される投資」の帳簿価額は2,501億円となっています。
また、生産された天然ガスの一部をLNGとして輸出販売するため、事業パートナーと共に2018年にLNGカナダプロジェクトの最終投資決定をしました。同プロジェクトは、年間1,400万トンの生産能力を持つ天然ガス液化設備を建設し、日本など東アジアの需要国向けにLNGを輸出販売する事業で、2025年中ごろの生産開始を予定しています。当社は子会社のDiamond LNG Canada Partnershipを通じて参画しており、パートナーであるShell社、Petronas社、PetroChina社、韓国ガス公社と共に同プロジェクトを推進しています。当連結会計年度末のDiamond LNG Canada Partnershipの固定資産帳簿価額は3,419億円となっています。
e. ローソン社への出資
当社は、2017年に株式会社ローソン(以下「ローソン社」)の発行済株式数の16.6%を株式公開買付により取得し、それまで保有していた33.4%と併せて、発行済株式の過半数を保有することとなり、同社を連結子会社としました。ローソン社は、コンビニエンスストア「ローソン」のフランチャイズシステム及び直営店舗の運営を行うとともに、海外コンビニエンス事業及びそれ以外の周辺事業を運営しています。ローソン社の店舗網は、2024年2月末時点で、日本全国に約14,600店、海外に約7,300店の合計約21,900店の規模になっています。
なお、当社は、2024年2月6日付けで、KDDI株式会社(以下「KDDI」)との間で、ローソン社の株式に対する、KDDIによる公開買付け(1株当たり10,360円)実施に関する取引基本契約及び取引完了後の会社運営などに関する株主間契約を締結し、2024年3月28日付けでKDDIがローソン社株式の公開買付けを開始、2024年4月25日付けで同公開買付けが完了・成立しました。詳細については、第5 経理の状況 連結財務諸表注記11をご参照ください。
f. Enecoへの投資
当社は、2020年3月に、中部電力株式会社と共同で設立したDiamond Chubu Europe B.V.を通じて、欧州で総合エネルギー事業を展開するN.V. Eneco(以下「Eneco」)の100%の株式を約5,000億円で取得しました。
Enecoは、再生可能エネルギー(以下「再エネ」)開発・供給事業、トレーディング事業、小売・新サービス事業それぞれの事業分野で高い競争力・適応力を有する総合エネルギー事業会社です。
当社は、Enecoの再エネに関する技術力・ノウハウを活用し、欧州及び欧州外で再エネ開発を加速させ、経済価値、社会価値、環境価値の三価値同時実現に資する取り組みを強化する方針です。
電力需要や欧州マクロ経済が低迷する場合には、Enecoの業績や、取得時に認識したのれんの減損などを通じて当社の業績に影響を与える可能性があります。当連結会計年度末の「のれん」の帳簿価額は1,459億円(持分比率勘案前)となっています。詳細については、第5 経理の状況 連結財務諸表注記14をご参照ください。
当社は、国内外で多くの拠点を持ち、あらゆる産業を事業領域としてビジネスを展開していることから、関連する法令・規制は多岐にわたっています。具体的には日本の会社法、税法、金融商品取引法、独占禁止法、贈収賄関連諸法、安全保障貿易管理等貿易関連及び制裁関連諸法、環境関連諸法や各種業法を遵守する必要があり、また海外で事業を展開する上では、それぞれの国・地域での法令・規制に従う必要があります。特に、足元ではロシア・ウクライナ情勢に起因する各国経済制裁が導入・強化されていますが、当社はその動向を適時にフォローし、チーフ・コンプライアンス・オフィサーを当社最高責任者として、適切な対応を行っています。
当社はコンプライアンス委員会を設け、その委員会を統括するチーフ・コンプライアンス・オフィサーが連結ベースでの法令・規制遵守を指揮・監督しています。その指揮・監督の下、各営業グループ・部門のコンプライアンス・オフィサーが、固有のコンプライアンス施策の立案・実施をするなど、コンプライアンス意識を高めることに努めています。また、当社は、子会社及び関連会社(上場会社は除く)に対して、当社と同等の水準で各社に適したコンプライアンス管理体制を構築させ、又はさせるように努めています。
しかしながら、このような施策を講じてもコンプライアンス上のリスクは完全に回避できない可能性があり、関連する法令・規制上の義務を実行できない場合には、当社の業績は影響を受ける可能性があります。
地震、大雨、洪水などの自然災害・異常気象や、新型インフルエンザ等の新興感染症、大規模事故、テロ・暴動、東アジア・欧州・中東等における地政学的要因による有事発生、その他国内外における危機的な事象が発生した場合、当社の社員・事業所・設備やシステムなどに対する被害が発生し、営業・生産活動に支障が生じる可能性があります。
当社では、緊急危機対策本部を設置し、危機発生時における当社関係者の安全確保・安否確認等の初動対応、重要業務の事業継続計画(BCP)の整備、建物・設備・システム等の耐震対策(データ等のバックアップを含む)、定期訓練、必要物資の備蓄等の各種対策を講じています。また、あらゆる事象を想定したリスク・影響度分析に基づく初動対応・事業継続計画(BCP)の策定、継続的なPDCAサイクルの実施等の包括的なマネジメント活動である事業継続マネジメント(BCM)を推進し、各種危機に備えています。しかし、全ての被害や影響を回避できるとは限らず、かかる事象の発生時には当社の業績は影響を受ける可能性があります。
「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」の「2. リスク管理」に記載しています。
財務諸表の作成にあたり、経営者は、決算日における資産及び負債の報告金額、偶発資産及び負債の開示、報告期間における収益及び費用の報告金額に影響を与える様な見積りを行う必要があります。見積りは、過去の経験やその時点の状況として妥当と考えられる様々な要素に基づき行っており、他の情報源からは得られない資産及び負債の帳簿価額について当社及び連結子会社の判断の基礎となっています。経営者は見積りが必要となる項目に関する評価は合理的であると判断しています。ただし、これらの評価には経営者としても管理不能な不確実性が含まれているため、前提条件や事業環境などに変化が見られた場合には、見積りと将来の実績が異なることもあります。
当社及び連結子会社の財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目の詳細は、第5 経理の状況 連結財務諸表注記2「(5)重要な会計上の判断、見積り及び仮定」をご参照ください。
当連結会計年度においては、インフレが継続する中でも、世界経済は底堅い成長を維持しました。日本経済に関しては、インフレの下で個人消費が弱含みつつも底堅く推移するとともに、堅調な企業収益を背景に設備投資には持ち直しの動きが見られ、景気は緩やかな回復基調を維持しました。
このような環境下、当連結会計年度の業績の概況は、以下のとおりとなりました。経営戦略の進捗状況、当連結会計年度以降における主な取り組み、及び経営環境に関しては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。
※四捨五入差異により縦計・横計が合わないことがあります(以下同様)。
事業セグメント別の「当社の所有者に帰属する当期純利益」は下表のとおりです。セグメント別の事業内容及び業績の詳細は、第5 経理の状況 連結財務諸表注記6をご参照ください。
「(2) 当連結会計年度の業績の概況」及び第5 経理の状況 連結財務諸表注記24をご参照ください。
仕入は販売と概ね連動しているため、記載は省略しています。
販売までの期間が1年以内の受注は販売と概ね連動しているため、記載は省略しています。販売までの期間が1年超の受注については、第5 経理の状況 連結財務諸表注記24をご参照ください。
当社では事業活動を支える資金調達に際して、低コストでかつ安定的に資金が確保できることを目標として取り組んでいます。資金調達にあたっては、コマーシャル・ペーパーや社債等の直接金融と銀行借入等の間接金融とを機動的に選択・活用しており、その時々でのマーケット状況での有利手段を追求しています。当社は資本市場でのレピュテーションも高く、加えて間接金融についても、メガバンク以外に外銀・生保・地銀等の金融機関とも幅広く好関係を維持しており、調達コストは競争力のあるものとなっています。今後とも長期資金を中心とした資金調達を継続するとともに、十分な流動性の確保を行っていく方針です。当連結会計年度の資金調達活動としては、前連結会計年度に引き続き、財務健全性の向上に努めつつ調達を行いました。
これらの資金調達活動の結果は以下のとおりです。
1. グロス有利子負債のうち、4,860億円はハイブリッドファイナンスであり、格付機関は残高の50%である2,430億円を資本と同等に扱っています。
2. ネット有利子負債はグロス有利子負債より現金及び現金同等物、並びに定期預金を控除したものです。
翌連結会計年度は、引き続き資金調達ソースの多様化等を通じて、中長期的に安定した調達基盤を維持する方針です。また、連結経営の深化を見据え、連結ベースでの資金効率の向上に向けた取組みも継続します。
金融市場の環境は、地政学的リスクや主要国の金融政策の変化など、引き続き予断を許さない状況のため、細心の注意を払って対処すべく、現預金等及び銀行融資枠(コミットメントライン)を十分に確保し、流動性を維持してまいります。
連結ベースでの資金管理体制については、当社に加え、国内外の金融子会社及び特定の海外現地法人(以下、財務拠点)において集中して資金調達を行い、子会社へ資金供給するというグループファイナンス方針を原則とし、資金調達の一元化による資金効率の向上、流動性の確保を図っています。結果として、当連結会計年度末では、連結有利子負債のうち87%が当社及び財務拠点による調達となっています。
当連結会計年度末時点の当社及び財務拠点でコマーシャル・ペーパー及び1年以内に償還を予定している社債を合わせた短期の市場性資金が9,483億円あるのに対して、現預金、コミットメントライン、一年以内に満期の到来する公社債が合計で2兆1,274億円あり、カバー超過額は1兆1,791億円と十分な水準にあると考えています。なお、当社のコミットメントラインについては、協調融資枠として円貨で5,100億円を国内主要銀行より、外貨で主要通貨10億米ドル、ソフトカレンシー1.5億米ドル相当を欧米を中心とした国内外の主要銀行より取得しています。
当社ではグローバルな資金調達とビジネスを円滑に行うため、格付投資情報センター(R&I)、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の3社から格付けを取得しています。
当連結会計年度末の当社に対する格付けは以下のとおりです。
当連結会計年度末の資産及び負債・資本の概況は下表のとおりです。
また、セグメントごとの前連結会計年度及び当連結会計年度における情報は以下のとおりです。
(前連結会計年度)
(単位:億円)
(単位:億円)
(当連結会計年度)
(単位:億円)
(単位:億円)
③ キャッシュ・フロー
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ3,054億円減少し、1兆2,516億円となりました。キャッシュ・フローの内訳は下表のとおりです。
財務会計上の営業キャッシュ・フローとは別に、将来の新規投資や株主還元などの原資を適切に表すべく、運転資金の増減影響を控除した営業キャッシュ・フローに、事業活動における必要資金であるリース負債支払額を反映した「営業収益キャッシュ・フロー(リース負債支払後)」と、更に投資活動によるキャッシュ・フローを加えた「調整後フリーキャッシュ・フロー」を定義しています。
投資キャッシュ・フローの主な内容は下表のとおりです。
配当は持続的な利益成長に合わせて増配していく「累進配当」を行う方針としています。自己株式の取得は、総還元性向の水準及び資本構成の適正化のために実施したものです。負債による資金調達は、流動性と財務健全性の観点で適切な水準を維持する方針としています。
特に記載すべき事項はありません。
特に記載すべき事項はありません。
(注意事項)
本資料に記載されている業績見通し等の将来に関する記述は、当社が当連結会計年度末時点で入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、当社としてその実現を約束する趣旨のものではありません。実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。