第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)基本理念

 当社グループ(以下、NAGASE)は、グループ共通の価値観として、経営理念、ビジョン、ありたい姿を制定しています。また、理念体系すべてに共通する考え方としてサステナビリティ基本方針を策定しています。

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 なお、NAGASEは、2032年(創業200年)の「ありたい姿」“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”の実現に向け、NAGASEにとって重要なステークホルダーと各ステークホルダーに提供したい価値、それらを実現するためのマテリアリティ(重要課題)を下記のとおり特定しております。

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(2)中期経営計画 ACE 2.0

 NAGASEは、2032年(創業200年)の「ありたい姿」からバックキャスティングし、特定したマテリアリティを解決するために5ヶ年の中期経営計画 ACE 2.0を策定しました。ACE 2.0の位置づけを“質の追求”と掲げ2021年4月から始動しており、ACE 2.0に掲げる事項を対処すべき課題と捉えております。

※“ACE”は、Accountability(主体性)、Commitment(必達)、Efficiency(効率性)を表します。

 

ACE 2.0の定量目標および実績

ACE 2.0の定量目標および実績は、下表のとおりです。

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 2023年度は、世界的な需要の低迷を受けた樹脂販売事業や、需給バランスの悪化を受けた情報印刷関連材料事業は、販売数量の減少と販売単価の下落により、採算が悪化しました。加えて、Prinovaグループは中国廉価品が流入したことにより販売単価が下落したことや、ユタ工場における自動化設備導入の遅れにより人件費等が先行したことで、全体として収益性が悪化しました。

 足元では落ち着きつつありますが、全世界的な物価の上昇による金利負担の上昇や人件費の上昇傾向が継続し、収益構造の変革が一層求められる外部環境となっております。

 このような背景から、2023年11月に通期予想を営業利益300億円に修正し、全体の業績は、見通しどおりの着地となりました。

 また、コロナ禍におけるサプライチェーンの不安定な状況に対応するために戦略的に積み増していた在庫を圧縮したほか、注力領域における取組みの進展、改善領域における損失の縮減等、“質の追求”の面では大きな成果が出た1年となりました。

  後記の基本方針のもと、中期経営計画の最終年度である2025年度における定量目標の達成を目指し、引き続きACE 2.0を推進していきます。

 

ACE 2.0基本方針

 ACE 2.0では、NAGASEの持続的な成長を可能にするため、すべてのステークホルダーが期待する“想い”を具体的な“形”(事業・仕組み・風土)として創出し、“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”を目指し、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革と、両変革を支える機能として、DXのさらなる加速、サステナビリティの推進およびコーポレート機能の強化を図ります。

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収益構造の変革‐“ありたい姿”に向けた収益基盤の構築

 経営資源の最大効率化を図るために、経営資源の確保と再投下を実行しております。効率性および成長性の観点から、事業を「基盤」、「注力」、「育成」、「改善」の4つの領域に分類し、各領域に応じて戦略を実行し、さらにリソースシフトを加速しております。

 NAGASEは商社機能に加え、製造機能および研究開発機能を有しております。従来、4象限については事業軸で分類しておりましたが、2023年度において、今後の成長をより確実なものとするために事業ポートフォリオを機能軸で再整理し、各領域における重点分野を明確化いたしました。

 

(事業ポートフォリオの考え方)

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[収益構造の変革―取組み状況]

(基盤領域)

 商社機能を事業ポートフォリオにおける基盤領域と定義しています。商社機能はグローバルネットワークとNAGASEの人財が有する情報の目利き力を活かした課題の探索とマッチングを担います。良質な情報を注力・育成領域の事業展開に活かし将来の新規事業、新規素材の創出に欠かせない機能を果たしています。

 半導体分野においてサプライチェーンへの深い理解と、技術に関する知見、課題解決力を総合して提案活動を進めた結果、日本における最先端半導体の製造を目指すRapidus㈱の調達取り纏めのパートナーに選定されました。今後、最先端半導体の製造の実現に向けたサプライチェーンの構築・維持を通じて貢献してまいります。

 また、新型コロナウイルスの影響を受けて混乱していたサプライチェーン維持のため、戦略的に積み増していた在庫の圧縮を進めた結果、資本の適正化が進みました。

 

[取組み状況]

(注力領域)

 Prinovaグループを中心としたフード分野、ナガセケムテックス㈱を中心とした半導体分野、ナガセヴィータ㈱(2024年4月に㈱林原から商号変更)を中心としたライフサイエンス分野における製造機能を注力領域と定義しています。

 フード分野では、Prinovaグループのユタ工場における自動化設備の導入が足元では完了し、利益貢献に向けた体制が整いました。今後、収益性の高い製造加工ビジネスをグローバルに拡大するべく、M&Aなど、積極的に投資を行ってまいります。

 半導体分野ではナガセケムテックス㈱のハイエンドサーバー用途向けの液状封止材の販売が好調に推移し、今後も継続的な成長を見込んでいます。ナガセケムテックス㈱では、剥離剤等の薬液関連製品のBCPの観点から新たな製造拠点の設立の検討を進めています。加えて、パートナーであるSACHEM, Inc.との合弁会社であるSN Tech㈱において半導体の製造プロセスにおいて使用されるケミカルの回収・再生事業の開始に向けた取組みが進展しました。今後、半導体業界に対してユニークなソリューションの提供を進めてまいります。

 ライフサイエンス分野では化粧品業界や医薬品業界向けの素材を製造する㈱林原の商号をナガセヴィータ㈱に変更しました。これは生命に寄り添い、人と地球の幸せを支える企業として社会に貢献していくという想いを込めたものです。また、ナガセヴィータ㈱はEcoVadisのプラチナを取得し、サプライチェーンにおいて信頼されるパートナーとして外部機関からも最高ランクの評価を獲得しました。新たな事業領域への拡大検討を進めており、M&A等の手段も活用しながら成長を加速させていきます。

 

(育成領域)

 将来の収益の柱となるような新規素材の研究開発や、新規事業創出のためのインキュベーション、高い成長が見込まれるエリアにおける事業を育成領域と定義しています。

 研究開発機能を通じて、希少アミノ酸であるエルゴチオネインの量産化に向けた取組みが進展し、将来の事業化に向けて順調に進捗しています。また、でんぷんを主成分とし、独自の酵素技術と有機合成技術を掛け合わせ、生分解性を有しながらも従来と同等の吸水性能を持つ生分解吸水性ポリマーの開発に成功し、マーケティング活動を開始しています。加えて、足元では海洋生分解性を有するグレードの開発にも成功しました。第三者機関における試験において海洋生分解認証に求められる分解性を示すことが確認され、河川等を通じて海洋に流れ出るおそれがある緑化や農業用の保水材用途においても環境対応製品として展開できる可能性が広がりました。

 素材開発を通じた社会課題解決に貢献し続けるための研究開発機能の強化を目的として、NAGASEバイオイノベーションセンターとナガセヴィータ㈱の基盤研究機能を統合し、新たなバイオ研究拠点を新設することを決定しました。(開設は2027年4月以降を予定)

 既存事業とは異なる視点で将来の新規事業創出を促進するためにCVC(Corporate Venture Capital)を組成しました。最先端の技術やナレッジを広く獲得し、次世代のビジネスの種を見つけるべく、スタートアップへの投資を促進していきます。

 また、今後のさらなる成長を期待する分野としてグローバルサウス(インド、ブラジル、メキシコ、インドネシア)を定義し、事業部門横断でのエリア戦略立案等、取組みを進めました。今後もリソースの投下を加速していきます。

 

(改善領域)

 赤字事業や不採算取引、将来の資産の減損損失が懸念される事業を改善領域と定義しています。

 徹底したモニタリング活動を通じて不採算取引および減損損失は、2022年度と比べ大幅に減少しました。

 2023年度において、事業ポートフォリオマネジメントの高度化を図るため事業別の資本コストを用いたモニタリングを開始しました。各事業においてそれぞれの想定資本コストを上回る価値創造を実現している事業への資本投下を進めるとともに、資本コストと比べて十分な投資収益率を実現していない事業からの資本の引上げを通じた資産の入替えを今後も進めていきます。

 

 なお、持続的な成長に向け、注力・育成領域を中心として総額約800億円の投資案件については検討を継続しております。適切な検討プロセスを通じて企業価値向上に繋がる案件を精査したうえで判断を進めていきます。

 

企業風土の変革‐“ありたい姿”に向けたマインドセット

 “質の追求”を実現するためには、経済価値と社会価値を両輪で追求していくことが必要と考え、財務情報に加え非財務情報のKPIを設定し、両KPI達成に向けモニタリングを行っています。また効率性の追求に向け、コア業務の生産性の改善を図り、また事業戦略によるROICの向上、財務戦略によるWACCの低減を行い、ROICスプレッドの改善を図ります。ROICがWACCを上回る状態を常態化させ、企業価値の向上を目指します。加えて、変革を推進する人財の強化が必要と考えており、社員と会社のエンゲージメントを向上させ、双方の持続的な成長と発展を実現します。

 

(効率性の追求)

(エンゲージメントの向上)

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[企業風土の変革―取組み状況]

 2023年度のROICは当初想定どおり在庫の縮減が進んだ効果があったものの、ACE 2.0の定量目標および実績に記載のとおり事業面における収益性が低下したことにより4.0%となりました。

 WACCはNet DEレシオが0.27倍に低下し、加重平均資本に占める株主資本の割合が上昇した影響等により5.9%となりました。

  資本効率性を向上させる取組みとして、2023年度は政策保有株式を17銘柄、71億円売却しました。また、各種施策を通じた収益性の向上を推し進めておりますが、ACE 2.0の定量目標であるROE8.0%以上の達成に向けては更なる資本効率性の向上が必要であるとの認識のもと、株主還元方針の変更を決定し、これまでの継続増配に加え、ACE 2.0の最終年度までの2年間の限定措置として、総還元性向を100%とすることを決定いたしました。

  なお、変更後の株主還元方針はACE 2.0終了時点で見直しを実施いたします。

 

(政策保有株式の売却方針および実績)

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(株主還元方針の変更)

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ACE 2.0終了(2025年度)までの限定措置。ACE 2.0終了時点で見直しを行います。

 

 変革を推進する人財の強化については、当社において、役割・職務の明確化と処遇連動性の確保、ダイナミックな人材配置・登用、多様な高度専門人材の確保・登用を目的とした人事制度改定を実施し、2024年4月1日より運用を開始しました。また、事業部毎にHRBP(HR Business Partner)を配置し中長期の事業戦略と連動した人事戦略を推進するための体制強化を進めました。その他、選択型研修の拡充を通じた学びの機会の創出や、D&I(Diversity&Inclusion)の推進を目的にした経営層や管理職向けワークショップの実施を通じて風土変革等を進めています。これらの取組みを通して、従業員エンゲージメント向上、そして競争力の強化を推進してまいります。

 また、組織運営の効率化、意思決定のスピードアップ、不採算事業の整理の実効性強化、人的資源の再配分等を目的とした11事業部から7事業部への統合を実施いたしました。加えて、外部環境の変化に応じて迅速に重要な意思決定ができるような各種会議体の見直しを進めると同時に事業部門への権限委譲も進め、効率的な経営基盤の整備を進めました。

 

変革を支える機能

 両変革を実現するために、DX、サステナビリティおよびコーポレート機能はグループ横断的に必要な機能であり、これらの機能を拡充します。

 DXを手段として活用することで、NAGASEの強みである「広域なネットワーク」、「技術知見」および「課題解決力・人財」をさらなる強みとし、顧客や社会の課題を解決できるビジネスモデルの深化・探索、イノベーションの創出および生産性の向上等を図ります。

 またサステナビリティ基本方針を根幹に置き、「ありたい姿」の実現に向け、経済価値と社会価値の追求を実現すべく、グループ全体に機能を提供していきます。

 

[取組み状況]

 DXのさらなる加速に関して、デジタルマーケティングによる顧客基盤の強化・拡大に向けたマーケティングプラットフォームの構築については一定の目途が立ち、各事業部門・地域において活用し収益を獲得するフェーズに移行しました。

 サステナビリティの推進に関して、脱炭素経営ソリューションの展開パートナーである㈱ゼロボードおよび富士通㈱との協業によりWBCSD※1のPACT※2においてサプライチェーン上のGHG排出量の一次データを収集・連携し最終製品のGHG排出量を算定する取組みを成功させる等、サプライチェーン上における気候変動対応のソリューションに関する知見を深めました。

※1 World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)

※2 Partnership for Carbon Transparency (サプライチェーン全体でのGHG排出量の一次データ交換の透明性を通じて、製品のカーボンフットプリント情報を企業間で連携するパートナーシップ)

 サステナビリティに関する活動の詳細は、「2「サステナビリティに関する考え方及び取組」」を参照ください。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティ課題全般

 サステナビリティを巡る課題への対応は、当社が経営理念に掲げる「誠実正道」の精神や、ビジョンに掲げる実現したい社会に通じます。社会・環境課題の解決に貢献する企業活動を継続することにより、持続的な成長が可能になると認識し、サステナビリティ基本方針を定めて積極的に取り組んでいきます。なお、サステナビリティに関する考え方及び取組について、①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標及び目標の4つの項目をそれぞれ開示しております。

 

① ガバナンス

 代表取締役社長が委員長を務める「サステナビリティ推進委員会」(2023年度は7回開催)では、サステナビリティ基本方針とマテリアリティ(重要課題)の策定と見直し、グループ全体の推進体制の構築と整備、各施策のモニタリング、グループ内におけるサステナビリティ経営の理解促進活動等を行い、少なくとも年1回の頻度で取締役会に報告し、その監督を受けております。

 「サステナビリティ推進委員会」は、グループ全体で取り組むべき優先順位の高いマテリアリティ(重要課題)を、「従業員エンゲージメント向上」及び「カーボンニュートラル」と決定し、取締役、執行役員、グループ会社の経営幹部等で構成されるプロジェクトを設置しました。各プロジェクトは基本方針とACE 2.0における非財務目標(KPI)の原案を策定し、取締役会にて意思決定されました。また、非財務目標の進捗を含む各プロジェクトの重要事項は、少なくとも年1回の頻度で取締役会に報告し、その監督を受けております。

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② 戦略

 当社のサステナビリティ基本方針は、経営理念、ビジョン、2032年(創業200年)の“ありたい姿”に共通する考え方として位置付けております。サステナビリティ基本方針は、1.誠実な事業活動、2.社会との良好な関係、3.環境への配慮で構成され、具体的な行動指針を示しております。

(サステナビリティ基本方針)

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※理念体系の全体像については、「1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」(1)基本理念」を参照ください。

 

 また、当社では、2032年(創業200年)の“ありたい姿”を重要なステークホルダーへの価値提供が実現できている状態と捉え、現在の姿とのギャップをサステナビリティ上のマテリアリティ(重要課題)として特定しております。

(重要なステークホルダーへの提供価値とマテリアリティ(重要課題))

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③ リスク管理

 リスク全般については、「リスク・コンプライアンス委員会」(2023年度:3回開催)が中心となり、影響度と発生可能性に基づくリスク評価を実施し、少なくとも年1回の頻度で見直した上で、取締役会および監査役会へ報告しております。特に重要と判断した8のリスク分類に関しては、リスクの定義および主な対応策を開示しております。詳細は、「第2「事業の状況」 3「事業等のリスク」」を参照ください。また、マテリアリティ(重要課題)に関するリスクおよび機会については、「サステナビリティ推進委員会」(2023年度:7回開催)が、少なくとも年1回の頻度で見直し、取締役会へ報告しております。

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④ 指標及び目標

 当社では、マテリアリティ(重要課題)の中でも「従業員エンゲージメント向上」と「カーボンニュートラル」を優先順位の高い課題と認識しており、それぞれに関する目標を設定しております。目標の詳細については、「2「サステナビリティに関する考え方及び取組」(2)気候変動 (3)人的資本」を参照ください。

 

(2)気候変動

① ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ課題全般のガバナンスに組み込まれております。詳細については、「(1)サステナビリティ課題全般 ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

 気候変動に関する様々なリスク・機会がある中で、当社にとって重要なリスク・機会を以下のとおり特定しました。

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 当社は商社機能に加え、製造・加工機能を有することから、「商社業/製造業」と「可視化/削減」の2軸4象限に分類し、全体施策および施策①~④からなる「NAGASEグループカーボンニュートラル宣言」のもと、目標達成に向け取り組んでおります。

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施策例① サプライチェーンにおける排出量の可視化

<「Zeroboard」を活用した脱炭素経営ソリューションの提案>

 当社は、GHG排出量算定・可視化クラウド「Zeroboard」を展開する㈱ゼロボードに出資しております。

カーボンニュートラル達成に向け化学、自動車、電子機器、塗料や化粧品、出版印刷、繊維、半導体関連装置等、幅広い分野におけるサプライチェーン上のGHG排出量可視化・削減に寄与しております。

 2023年度はこれまでの活動に加え、新たな法規制である欧州電池規則に対応する新ソリューションZeroboard for batteriesを展開し、関係企業の課題解決を支援する基盤を構築しました。また、年々高まるサプライチェーン上のCFPデータを収集し、つなぐという必要性に応えるべく、化学業界のみならず、自動車、電子機器業界におけるサプライチェーンの広い範囲での脱炭素経営支援の取り組みを行いました。その一環として、World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)が主催するPACT Implementation Programに、プログラムの中心的役割を担うサプライチェーンの中核企業である富士通㈱のもと、㈱ゼロボードと共同で参加しております。富士通㈱が販売するノートパソコンのサプライチェーンを対象に、素材、成形、組み立て製造を含む複数の段階でGHG排出量の一次データを収集・連携し、最終製品のGHG排出量を算出することに成功しております。

 

施策例② 戦略製品のライフサイクルアセスメント(以下、LCA)算出

<グループ内でLCA算定人材を育成>

 LCAは、原材料の調達から、生産、流通、使用、廃棄に至る製品のすべてのライフサイクルにおける投入資源、環境負荷およびそれらによる地球や生態系への潜在的な環境影響を定量的に評価する手法です。

 当社グループは、グループ製造会社の戦略商品を中心にLCA算定をすすめております。グループ製造業連携委員会においてLCA算定研修を実施し、LCA算定の実務を学ぶ機会を各社に提供しました。

 また、当社では勉強会やオンラインでの情報交換による学びを支援する「セルフ・イノベーション・チャレンジ」制度で、社員の「LCA初級検定」受験・学習支援を行っております。今後もLCA算定により、設計段階でのCO排出量など環境影響指標の算定の取り組みを推進しております。

 

施策例③ 削減ソリューションの提供

<削減ソリューション冊子「NEXT」の発行>

 2023年4月に当社グループのGHG排出量削減に向けた取り組みをまとめた冊子「NEXT」を発行しました。この「NEXT」は、製品・サービスのライフサイクルである、原料調達、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルの各工程で、当社グループが有するGHG排出量の削減ソリューションを紹介し、取引先との対話を行うことで、サプライチェーン全体でのCO削減に取り組んでおります。「NEXT」では化学品業界において共同物流のパートナーを紹介する「化学品AI共同物流マッチングサービス」、当社グループ内の製造会社で培った工場排水処理のノウハウを活かし、取引先の潜在課題の特定・抽出に貢献する「排水ソリューション」、取引先のScope2に該当する電力由来のCO削減に貢献する「再生可能エネルギー電力の供給/環境価値の提供」などが紹介されております。

 

施策例④ 再エネ活用

<オンサイトPPA・バーチャルPPAの活用>

 当社が掲げるカーボンニュートラル達成に向けて、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)の仕組みを導入しております。オンサイトPPAとして、産業用蓄電池を併用した再エネ供給事業の実証をグループ製造会社である福井山田化学工業㈱で開始しました。これは工場敷地内に太陽光パネル(497kW)並びに、蓄電池(538kWh)を設置し、工場に電力を供給する自家消費型オンサイトPPAのビジネス実証です。

 また、当社グループの敷地外に建設する専用発電所で発電された再エネ電力の環境価値のみを当社が調達する手段である、バーチャルPPAの仕組みも導入しております。これは2024年3月、当社と㈱クリーンエナジーコネクトとの契約によるもので、この契約に基づいて当社は、新たに開発する非FIT太陽光発電所が創出する追加性のある環境価値の全量を非FIT非化石証書として長期にわたって調達します。

 

③ リスク管理

 気候変動に関するリスク管理は、サステナビリティ課題全般のリスク管理に組み込まれております。詳細については、「(1)サステナビリティ課題全般 ③リスク管理」を参照ください。

 

④ 指標及び目標

 当社は、2050年までにGHG排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの達成を掲げております(Scope1,2)。加えて、2030年までにScope1,2を46%削減(2013年度比)、Scope3を12.3%以上削減(2020年度比)することとしております。ACE 2.0期間中の目標については、(温室効果ガス排出量実績と目標(Scope1,2))に記載のとおりです。なお、Scope3は今後のサプライチェーンとの対話により目標値の更新も検討します。

 

(温室効果ガス排出量実績と目標(Scope1,2))

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(各指標の実績)

 

 

 

 

 

単位:t-CO2

指標

2013年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

連結

Scope1,2削減率(2013年度比)

26%

30%

34%

33%

 

Scope1

86,197

30,538

33,132

31,099

31,382

 

Scope2(マーケット基準)

33,105

27,057

25,611

26,784

 

合計

63,643

60,189

56,710

58,166

再生可能エネルギー発電・購入による削減量

(累計)

10

523

7,488

長瀬産業

(単体)

Scope2

2,514

2,014

1,810

※連結データの対象は、長瀬産業㈱・ナガセケムテックス㈱・ナガセヴィータ㈱です。

※2023年度データは、第三者保証前の暫定値です。

(3)人的資本

① ガバナンス

 人的資本に関するガバナンスは、サステナビリティ課題全般のガバナンスに組み込まれております。詳細については、「(1)サステナビリティ課題全般 ①ガバナンス」を参照ください。

 

② 戦略

 中期経営計画ACE 2.0では、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」による“質の追求”を目指しております。このための戦略として、①「変革」をリードするイノベーティブでグローバルな人財の育成、②誰もが快適・安全に創造性高く働ける環境の整備、そして③挑戦と多様な個性を受容する文化と風土の醸成を推進し、その結果として従業員のエンゲージメントを向上させることで社員と会社の持続的な成長と発展に努めます。戦略を実現する上で、ダイバーシティは重要かつ不可欠な要素の一つであり、「採用」・「定着」・「登用」の各段階においてグローバルに施策を講じていきます。なかでも女性活躍は優先順位の高い課題として捉えており、重点的に取り組んでおります。

 

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施策例① 戦略の浸透を目指した社内交流(タレントマネジメント・D&I)

 当社グループ全体の連携強化や社内コミュニケーションの活性化を目的として、軽食と飲み物を楽しみながら経営陣とグループ社員が直接対話をして交流を深めるイベント「N-Meet up!!」を定期的に実施しております。2023年度は各拠点において延べ7回実施いたしました。

 

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 さらに経営戦略について理解を深め、社員が率直に広く意見交換をする場として「変革にむけたオープンな対話」をグループ社員を対象に各拠点にて定期的に実施し、各回社員8名~10名で経営戦略についてざっくばらんな議論を行いました。

 これらの取り組みは戦略の浸透と当社グループの連携強化に寄与し、当社の従業員エンゲージメントサーベイから導いた課題の一つである「タテの対話」と「ヨコの連携」の強化により相互理解につなげ、新たな理解や行動変革のきっかけとなることを目指しています。

 

施策例② 人事制度の改定(人事ポリシー・タレントマネジメント)

 当社では、変革を推進するイノベーティブでグローバルな人財の強化を目的として、2023年度に人事制度の改定についての検討を重ね、2024年度より新制度の運用を開始いたしました。新制度では役職者の年功的運用を廃止し、役割・職務を明確化して処遇と高い連動性を持たせることで、よりダイナミックな人財配置と登用、多様な高度専門人財の獲得と登用を行います。個人の成長の促進と組織のパフォーマンスの最大化を通じてエンゲージメントを高め、社員と会社の持続的な成長と発展に繋げます。

 

施策例③ グローバルでのグループ人事戦略の共有(タレントマネジメント)

 グローバルにおける人事戦略の連携と推進を目的として、人事部門のグローバル会議を2020年より定期的に実施しており、人事戦略のグローバル展開および課題やナレッジの共有を促進しております。東京本社において実施した会議には、世界6カ国、5地域から約25名の人事部門メンバーが参加し、中長期の人事戦略や2024年度の重点施策など様々なテーマについて議論し実行していくことを確認いたしました。

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施策例④ 両立支援のための取り組み(働き方改革・D&I・健康経営)

 育児・介護などと仕事の両立支援のための制度・施策の拡充により、社員が働き続けられる風土の醸成にも注力しています。近年では、育児休業を取得する男性従業員一人当たりの取得日数が増加しています。2023年度は、治療と仕事の両立のためのガイドラインを制定しました。ガイドラインでは従業員本人の取り組み、関係者の役割、環境整備、支援の進め方を明文化しており、従業員の業務継続への安心感の醸成やモチベーション維持に繋がっています。

制度・施策

概要

産前産後休暇

出産前6週間、出産後8週間の休暇

育児休業

育児のための休業(男女ともに)

子の看護休暇

子の看護のための休暇

育児のための短時間勤務制度

育児のための短時間勤務を認めるもの

育児のためのシフト勤務制度

育児のためのシフト勤務を認めるもの

介護休暇

介護のための休暇

介護休業

介護のための休業

介護のための短時間勤務制度

介護のための短時間勤務を認めるもの

介護のためのシフト勤務制度

介護のためのシフト勤務を認めるもの

治療と仕事の両立のためのガイドライン

両立支援の背景・内容とその申請方法

 

(男性社員の育児休業取得実績)

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施策例⑤ 健康経営の推進(健康経営)

 当社グループでは、従業員の健康の維持向上を支援すべく「NAGASE健康宣言」を策定・公表し、これを推進しています。当社では健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度である健康経営優良法人の認定取得を2018年度より継続しています。その取り組みはグループにも拡大し現在は当社を含め計7社が認定取得しています。

 具体的な取組みの一つとして、健康保険組合と協業し従業員およびその家族を対象とした「オンライン禁煙プログラム」を推進、プログラム終了まで自己負担なしで受診可能としております。2023年度より禁煙サポートの施策として「NAGASE禁煙塾」を年に2回実施しており、グループ社員を含めたプログラム参加者の約8割の方が禁煙に成功しています。そのほか、世界禁煙デー(5/31)に始まる禁煙週間を「NAGASE禁煙週間」とし喫煙室を利用禁止とすることで喫煙と職場環境を考える機会としています。

 

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施策例⑥ 障がい者雇用の推進(働き方改革・D&I)

 当社では、東京、大阪、名古屋の各事業所では、障がい者雇用のマッサージ師によるマッサージ室を設置しております。社員は自由に利用でき、福利厚生の向上に貢献しています。その他、清掃や在宅による入力業務等、各々の障がい特性に合わせた雇用を実現しています。また2022年8月より障がい者6名と管理人2名を採用し、㈱エスプールプラスが運営する屋内農園「わーくはぴねす農園Plus横浜」(横浜市)にて就労を開始、親しみを持ってもらうために「NAGASEまごころグリーンファーム」と命名いたしました。屋内農園では、水耕栽培設備で葉もの野菜を栽培しており、収穫した野菜は、障がい者雇用への理解促進のために、グループ会社を含めた社員への配布を行っています。

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 グループ会社のナガセケムテックス㈱では、障がいのある方や働き続けたい高齢者に向け、安全・安定・安心な働く機会を提供し、地域社会へのつながりを深めるために、2023年度にナガセミライ㈱を設立しました。ナガセケムテックス播磨事業所内で庶務・清掃などの受託サービスを開始し、将来的には、地域課題に寄り添いつつ、農産物の生産・加工・販売を含め、さらなる働く機会の拡充を目指します。

 

施策例⑦ ダイバーシティに関する施策(D&I)

 多様性のある組織を作る戦略上の意味合いを理解した上で、リーダーとして多様な人財をマネジメントするポイントを理解することを目的として、部課長クラスを対象としたダイバーシティ・マネジメント研修を開始し、定期的に実施しております。第1回目は、D&Iを推進する意義や多様な部下の育成などについて議論を重ねました。その中で、D&Iに取り組む意義を再確認し多様な考え方に触れるとともに、マネージャーとして現行の組織課題についても深く考える場といたしました。

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 第2回目は、女性の身体・生理的課題や組織・環境的な課題解決に取り組む一般社団法人「Women’s Ways」による研修を実施し、同団体の代表を務める元バドミントン日本代表・潮田玲子氏、理事を務める元プロバレーボール選手・狩野舞子氏、元飛び込み選手・中川真依氏の3名にご登壇いただきました。当社およびグループ会社より約130名が参加し、男女の身体的・心理的違いなどについて参加者がディスカッションいたしました。今後も性別のみならず国籍や宗教など多様性あふれる社員がそれぞれの働き方を追求できる職場を目指して継続開催してまいります。

 

 また、当社では総合職女性採用比率および女性管理職比率を女性活躍に関するKPIとして掲げ、女性総合職の「採用」・「定着」を推進し将来的な女性管理職比率の向上に向けて取り組んでおります。そのなかで、特に「定着」にフォーカスした様々な施策を行う活動を「N-Circle」と称し2023年度より活動を開始いたしました。

 2023年度は、女性総合職を4~6名ずつのグループに分け座談会を実施し、女性総合職同士の社内ネットワークの形成や、さらなる女性活躍促進に向けた意見交換を行いました。この「N-Circle」活動を継続していくことで、女性総合職にとってより働きやすく活躍のできる環境を整えるとともに、ロールモデルの発見を促し、将来の管理職候補を増やしていきたいと考えております。

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③ リスク管理

 人的資本に関するリスク管理は、サステナビリティ課題全般のリスク管理に組み込まれております。詳細については、「(1)サステナビリティ課題全般 ③リスク管理」を参照ください。

 

④ 指標及び目標

 戦略を実現するためのモニタリング指標として、2025年度末までに総合職女性採用比率30%以上、女性管理職比率6%以上の2つの目標を掲げ、中期経営計画ACE 2.0の非財務目標である従業員エンゲージメントサーベイトータルスコア60以上の達成に向け、取り組みを進めております。

 

テーマ

指標

2021年度

2022年度

2023年度

2025年度目標

従業員エンゲージメント

向上

グループ全社:定期的にエンゲージメントサーベイを実施している割合

41%

81%

86%

100

長瀬産業(単体):エンゲージメントサーベイトータルスコア※1

52.4

56.5

56.0

60以上

参考:長瀬産業(単体)エンゲージメントサーベイ回答率

98%

96%

96%

-

 

女性活躍推進

長瀬産業(単体):総合職女性採用比率※2

17%

17%

25%

30%以上

 

長瀬産業(単体):女性管理職比率

4.6%

4.3%

5.0

6%以上

※1 エンゲージメントサーベイトータルスコア「60」は、株式会社リンクアンドモチベーションによって算出された偏差値(データ総数1万社以上)であり、その組織状態は「信頼し合えている」と定義されております。当社は、「会社(組織)と従業員が相互に理解し合い、お互いを高め合う状態」すなわち「信頼し合えている状態」を目指すため、サーベイトータルスコア「60」を中期経営計画ACE 2.0の目標として設定しております。

※2 総合職女性採用比率につきまして、新卒採用者については採用活動を行った内定日基準で前期まで算出しておりましたが、今期より入社日基準に変更し算出しており、過年度の実績も含め修正しております。

 

 

3【事業等のリスク】

当社グループは、機能素材、加工材料、電子・エネルギー、モビリティ、生活関連、全社(共通)セグメントにおいて、商社機能(トレーディング、マーケティング)、研究開発機能、製造機能を活用し、グローバルかつ多角的に事業を展開しております。そのような事業の性質上、様々なリスクに晒されております。

当社グループは、現在、リスク・コンプライアンス委員会が中心となり、リスク項目の洗い出しとリスクシナリオの作成を通じて可視化を図り、持続的なリスクマネジメント体制の構築をしております。

なお、本項において、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末において判断したものであります。

 

〈リスク評価に関して〉

具体的なリスク評価は、全てのリスク項目でリスクシナリオを作成し、所管部署にて「影響度」と「発生頻度・可能性」の二軸でのリスク評価を実施した後、主管部門であるリスク・コンプライアンス委員会が取り纏めを行い、重要リスクを特定しております。

 

〈リスク評価の指標〉

 リスクシナリオの評価指標は以下のとおり設定しております。

①影響度

 

 

財務的要素

非財務的要素

 

 

財務(カネ)

ヒト

モノ

ブランド・評判

 

 

財務的な影響を評価

人命や健康への影響を評価

人的リソースへの影響評価

物的リソースへの影響評価

自社の社会的な影響評価

 

 

当期純利益へのインパクト

顧客・グループ従業員の

・死者、重傷者の有無

・健康被害の程度

人材流出、不足、不適応のレベル

固定資産、棚卸資産等への影響

報道のレベル

影響度


大きな影響

1名以上の死者が発生

事業継続に影響を及ぼす、基幹・主要業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

事業継続に影響を及ぼす重要な資産の毀損・滅失、顧客への商品・サービス提供不可となる棚卸資産毀損・滅失

長期間に渡る全国紙等のメディアおよびSNS等への掲載、各種メディアによるネガティブ特集やキャンペーンの発生


中程度以上~やや大きめの影響

2名以上の重傷者が発生

全般的な日常業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

修繕・回復・再調達に3ヵ月以上を要する資産(棚卸資産含む)の毀損

全国紙等のメディアおよびSNS等への短期間掲載のうち、トップ紙面等扱いが大きいもの


軽微超~中程度未満の影響

1名の重傷者が発生

一部の日常業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

修繕・回復・再調達に1ヵ月以上を要する資産(棚卸資産含む)の毀損

全国紙等のメディアおよびSNS等への短期間掲載のうち、小欄等扱いが小さいもの


軽微な影響

軽微

通院治療を伴わない軽微な怪我・健康被害

業務の効率性低下につながる人材流出、人材不適応

1ヵ月未満での修繕・回復・再調達が可能な資産(棚卸資産含む)の毀損

地方紙などの特定の地域に限定されたメディアへの短期掲載、単発のネガティブ報道の発生

 

②発生頻度・可能性

 

発生可能性の評価基準の定義

基準例

いつ起きてもおかしくない

1年に1回以上

起きる可能性が高い

5年に1回以上~1年に1回未満

起きるかもしれない

10年に1回以上~5年に1回未満

ほとんど発生しない

10年に1回未満

 

〈リスク項目の分類〉

リスクの定義を検証し、81項目のリスク項目を以下のリスクに分類しました。

分類

リスク項目

社会・経済環境の変化に関するリスク

景気後退、業界再編対応失敗、少子高齢化、消費行動の変化、外部環境変化の見逃し

商品市況の変動に係るリスク

商品市況価格変動

為替変動に係るリスク

為替変動

金利変動に係るリスク

金利変動

地政学に関するリスク

台湾有事、米中対立、ウクライナ侵攻、経済安全保障法制、テロ・暴動、その他地政学問題

取引先との関係に関するリスク

コア技術の他社依存、仕入・販売戦略の誤り、倒産・回収遅延、特定サプライヤーへの依存、反社・制裁対象先、不利な契約条件、法務リスク把握漏れ、問題のある取引先、ライセンサー契約

投資に関するリスク

PMI失敗、事業撤退による損失、新技術・サービスの開発遅延・失敗、技術革新失敗、DX推進失敗、投資判断誤り、保有株式価格変動、新規事業参入失敗

製品・サービスの品質に関するリスク

サービス上の障害・不備、在庫品の品質劣化、仕入先品質等問題、不適切なアフターサービス、不良品の納品または納期遅延

法令・規制等に関するリスク

FTA活用失敗、紛争鉱物調達規制、インサイダー取引、法務リスク把握漏れ、法令変化対応失敗、訴訟・係争の発生、他社知財侵害、環境規制対応失敗、各種法令(物流関連、各種業法、リコール・PL、独禁法、他)違反

情報システムおよび情報セキュリティに関するリスク

システム・ネットワーク障害、システム開発失敗、個人情報利活用、サイバー攻撃、機密情報漏洩

自然災害等に関するリスク

パンデミック発生、自然災害発生、火災・事故

気候変動に係るリスク

気候変動リスク

サプライチェーンの維持・寸断に関するリスク

天然資源枯渇、原材料・素材の調達難、在庫不足、サプライチェーン寸断、自然災害による物流寸断、物流価格高騰

人財の確保・流出等に関するリスク

労務管理安全衛生、良好な組織風土、ハラスメント、重要人物・若手退職、DEI失敗、労働争議発生、高度専門職採用、報酬・人事制度、不適切な人事評価、人件費高騰

社会的な要求に関するリスク

ESG対応、サプライチェーン上の社会的要請、人権対応失敗

不正に関するリスク

贈収賄発生、不適切な会計、不適切な税務、子会社取締役不正、親会社取締役不正、犯罪・事故、不正・横領・背任等

管理不備・機能不全に関するリスク

子会社経営目標の未達、取締役会機能不全、業績管理不備

非効率な資金運用・調達に関するリスク

過剰在庫、資金調達失敗、非効率な資金運用、不要・遊休資産

情報発信に関するリスク

広報PR失敗、IR・情報開示不備

競争優位性喪失に関するリスク

競合の台頭、当社知財に対する侵害、競合他社のイノベーション、デジタルプラットフォーマーの台頭、他業界企業参入、サービス更新・アップデート失敗、海外戦略失敗

 

〈リスクマップ〉

 各リスク項目でリスク評価を実施したうえで、分類毎に一定のルールでリスクマップを作成しました。

 

 

発生可能性

 

 

影響度

 

・自然災害等に関するリスク

・情報発信に関するリスク

・社会的な要求に関するリスク

・気候変動に係るリスク

・不正に関するリスク

・社会・経済環境の変化に関するリスク

・取引先との関係に関するリスク

・法令・規制等に関するリスク

・投資に関するリスク

・商品市況の変動に係るリスク

・地政学に関するリスク

・人財の確保・流出等に関するリスク

・競合優位性喪失に関するリスク

・為替変動に係るリスク

 

・情報システムおよび情報セキュリティに関するリスク

・管理不備・機能不全に関するリスク

・サプライチェーンの維持・寸断に関するリスク

・金利変動に係るリスク

・製品・サービスの品質に係るリスク

 

 

・非効率な資金運用・調達に関するリスク

 

 

 当社グループにて、特に重要と判断いたしました計8のリスク分類に関して、リスクの定義および主な対応策を以下のとおり記載しております。また、記載をしていない各リスク項目に対しましても、所管部署がリスク評価を実施し、日々のオペレーションでの対応を実施しております。

 

 

気候変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・政策・法規制に対応できないことで、顧客に対する提供価値の低下によるビジネスの機会を喪失するリスク

・政策・法規制や脱炭素、脱石油等の消費者選好に対応できないことでのレピュテーションが低下するリスク

・環境負荷の高い商材の取扱量が減少または消滅するリスク

・大規模自然災害によるサプライチェーンの寸断や販売・生産活動の停滞が起こるリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、社会・環境課題の解決に貢献する企業活動を継続することにより、持続的な成長が可能になると認識し、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置しており、「サステナビリティ基本方針」を定めて積極的に活動に取り組んでおります。当社グループでは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた方針(NAGASEグループカーボンニュートラル宣言)を策定しており、また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同表明も行っております。(具体的な施策に関しては、第2「事業の状況」 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」 (2)気候変動をご覧ください)しかしながら、気候変動による自然災害の激甚化を含めた異常気象の深刻化や、温暖化に伴う海面上昇等の物理的なリスクが顕在化した場合には、当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす可能性があり、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

社会的な要求に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・社会的な要求に対する対応への遅れ・不足によりレピュテーションが毀損されるリスク

・社会的な要求に対する対応が遅れ・不足により、当社がサプライチェーンから排除されることにより、事業機会を喪失するリスク

・サプライチェーンにおける人権・環境上の問題が発生しレピュテーションが毀損されるリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、生態系サービス(供給サービス、調達サービス、生息生育地サービス、文化的サービス)を支える生物多様性に配慮し、その維持・保全に努めることは重要な環境課題であると認識しており、生物多様性に重大な影響を与える可能性がある事業活動に関して、どのように生物多様性に依存しているのか、また、どのような影響を与えているのかを把握し、生態系への影響を最小化し、回復にも寄与することに努めております。具体的な取り組み関しましては、下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/environment/biodiversity/

また、人権の尊重に関する当社のポリシーを改めて確認し、「NAGASEグループ人権基本方針」を策定しました。実際の文章は下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/social/human-rights/

為替変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・輸出入および貿易外取引による外貨建て取引における為替変動リスク

・海外グループ会社における外貨建て財務諸表(主に米国ドルおよび人民元)の日本円換算における為替変動リスク

〈主な対応策〉

外貨建てによる輸出入および貿易外取引に対し、為替予約によるヘッジを行い、為替変動リスクを最小限に止める努力をしております。

投資に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・新規事業参入の失敗や投資判断の誤りにより投下した資本が回収できず損失が発生するリスク

・事業撤退により投下資本が回収できず損失が発生する、また事業撤退判断が遅れ・先送りにより損失が拡大するリスク

・株価下落により保有資産価値が低下するリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、新規投資においては、投資ガイドラインに沿って投資チェックリストと投資採算表を作成し、戦略適合性、市場規模・成長性、参入障壁、競争優位性、事業運営リスク、事業継続リスク、資金調達、撤退条件などの様々な要因と事業の採算性を幅広い視点から評価・分析し、定量基準や定性評価に基づき意思決定しております。投資実行後は、定期的にモニタリングを実施し、当初計画通りに進行していない案件は、再建プランを策定し、投資価値の評価・見直しを行うことで、損失の極小化に努めております。このように投資決定プロセスおよびモニタリングに係る体制、手続きを整備しておりますが、こうした管理を行ったとしても投資リスクを完全に回避することは困難であり、投下資金の回収不能、撤退の場合の追加損失の発生など当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。また、株価の下落に関しましては、年金資産の運用が悪化した場合には、退職給付費用の増加により損益に影響を与える可能性があります。

 

 

商品市況の変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・取扱商品の市場価格の変動による調達コストの増加、販売価格への転嫁ができない、販売価格が下落することにより収益性が悪化するリスク

〈主な対応策〉

直送取引においては、仕入と売上を紐づけて計上すること等によりリスクの最小化を図っております。また、在庫取引においては、顧客の引取り保証の確保に努めるとともに、長年にわたる当該市場での取引経験などから需給予測を行い、在庫水準の適正化を図っております。しかしながら、その価格変動により、当該取引の売上と損益に影響を与える可能性があります。また、当社グループにおいて製造する一部製品に穀物由来の原料を使用しております。当該原料の価格は穀物相場の価格により大きく変動する場合があり、原料の上昇分を販売価格に転嫁できない場合には、損益に影響を与える可能性があります。

地政学に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・米中対立の影響による貿易規制・経済制裁が行われた結果、米国・中国市場における事業活動が制約されるリスク

・特定地域での政治的・軍事的な緊張の高まりにより事業活動に制約を受け、サプライチェーンに影響が生じるリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、グローバルでの政治・経済情勢や法規制の動向を把握し、最適な取引形態の提案・構築を推進しており、特定の国・地域、サプライヤーに依存しないサプライチェーンの構築に努めております。ただし、予測不能な事態が発生し、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

人財の確保・流出等に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・人財の流出、高度専門職人財が採用できないことによる人的経営資本が不足するリスク

・人財の多様性・公平性・包括性への対応に失敗する事で競争力の源泉を失うリスク

・ハラスメント行為、社内規程違反、倫理上の問題発生に伴う組織風土の悪化により従業員エンゲージメントが低下するリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、中期経営計画ACE 2.0のマテリアリティとして、多様な人財の活用、職場環境と企業文化の提供を挙げております。具体的な取り組みとして、グループ会社における定期的なエンゲージメントサーベイの取組みを通して、従業員が理解しあい、コミュニケーションをしっかりとり、誰一人取り残すことなく活躍することを目指しております。また、様々な業種・職種でキャリアを築いてきた幅広い世代の人財のキャリア採用を積極的に実施することで、多様な個性が輝き、挑戦し続ける文化、風土の醸成に取り組んでおります。(具体的な施策に関しては、第2「事業の状況」 2「サステナビリティに関する考え方及び取組」 (3)人的資本をご覧ください)ハラスメントを含めた倫理上の問題発生に対しては、グローバルでのグループ相談・通報窓口を社内、社外に設置しております。また、社外の専門家等による研修、eラーニング、情報発信等の啓発活動の実施を通して、役職員の心理的安全性の担保およびコンプライアンス意識の向上に取り組んでおります。

 

 

競争優位性喪失に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・競合他社の台頭により当社グループの主要事業領域における市場シェアが縮小し、損失が発生するリスク

・競合他社のイノベーションにより、当社グループの取扱製品やサービスの競合優位性が失われるリスク

・特定海外地域への投下リソースの過度な集中、特定海外地域から他地域へのリソースシフトの遅延等の海外戦略における失敗により損失が発生するリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、顧客の需要変化に対し常に注意を払い情報収集に努めております。状況に応じ仕入先の拡充、地域戦略の変更、新規商品・サービスの開発といった対策を実施しております。また、地域間でリソースシフトを行う際には、移転先市場での迅速な現地体制の整備・強化を試みております。ただし、予測不能な事態が発生し、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 経営成績の状況

 当連結会計年度における世界経済は、ウクライナおよび中東情勢の長期化、欧米におけるインフレおよびそれに伴う金融引締め政策の継続、また中国における不動産市場の停滞などから景気減速が懸念される状況となっております。

 当社グループがビジネスを展開する地域を概観すると、グレーターチャイナでは、不動産市場の停滞が個人消費を押し下げていることから景気が減速しております。米州では、物価上昇が継続するもペースは鈍化しており、個人消費の増加や雇用増などによる景気の持ち直しが続く見通しです。アセアンでは、内需・インバウンドを中心に景気は堅調に推移しております。日本では、マイナス金利政策解除による金利上昇や地政学リスクなどによる為替の急激な変動、消費節約志向の高まりといった下振れ要因があるものの、実質賃金の改善、企業の設備投資の底堅さ、インバウンド需要の継続など引き続き景気回復が期待されます。

 このような状況の下、当連結会計年度の業績は次のとおりとなりました。

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

912,896

900,149

△12,746

△1.4

売上総利益

155,410

164,719

9,309

6.0

営業利益

33,371

30,618

△2,753

△8.2

経常利益

32,528

30,591

△1,937

△6.0

税金等調整前当期純利益

33,137

32,665

△472

△1.4

親会社株主に帰属する

当期純利益

23,625

22,402

△1,222

△5.2

・当連結会計年度の業績は、為替が円安に推移したこともあり、売上総利益は増益となりました。

・営業利益は、売上総利益は増加したものの、販売費及び一般管理費が増加したことにより減益となりました。詳細は以下のセグメント別の業績をご覧ください。

・親会社株主に帰属する当期純利益については、投資有価証券評価損の減少があったものの、12億円減少の224億円となりました。

 

 セグメント別の業績および主な要因は、次のとおりであります。

 なお、当連結会計年度の2023年10月1日より、報告セグメントの区分を一部変更しており、前年同期比の金額および比率については、前連結会計年度を当連結会計年度において用いた報告セグメントの区分に組み替えて算出しております。

 ※セグメント区分の変更の詳細については「第5経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照ください。

 

機能素材

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

156,161

146,804

△9,356

△6.0

売上総利益

29,889

28,123

△1,765

△5.9

営業利益

10,486

8,629

△1,856

△17.7

・塗料原料の販売が減少

・半導体関連等の電子業界向けの原料販売が減少

・情報印刷関連材料は製造業の収益性が低下し、販売も減少

・営業利益は売上総利益の減少を受け、減益

 

加工材料

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

220,955

198,543

△22,412

△10.1

売上総利益

24,248

23,614

△634

△2.6

営業利益

7,678

6,804

△874

△11.4

・OA・ゲーム機器業界等向けの樹脂販売は需要の減少および顧客の在庫調整の影響等により、減少

・営業利益は売上総利益の減少を受け、減益

 

電子・エネルギー

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

136,975

144,758

7,782

5.7

売上総利益

30,770

34,226

3,456

11.2

営業利益

9,273

11,327

2,053

22.1

・半導体市況の悪化はあるものの、商材の拡充により半導体業界向け材料販売が増加

・変性エポキシ樹脂関連は主にハイエンドサーバー用の半導体向け、モバイル機器向けの需要増加により、販売が増加

・電子デバイス向けフォトリソ材料の販売が増加

・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

 

モビリティ

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

125,560

132,117

6,556

5.2

売上総利益

14,432

15,235

803

5.6

営業利益

4,794

4,933

138

2.9

・自動車生産台数の増加および既存顧客向けへのシェア拡大等により樹脂の販売が増加

・内外装・電動化用途の機能素材・機能部品の販売が増加

・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

生活関連

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

273,161

277,779

4,617

1.7

売上総利益

55,907

63,436

7,528

13.5

営業利益

10,581

10,321

△259

△2.5

・Prinovaグループはユタ新工場の稼働もあり、全体として販売が増加

・ナガセヴィータ㈱(2024年4月1日に㈱林原から社名変更)は主に香粧品素材の販売が増加

・中間体・医薬品原料の販売が増加

・営業利益は売上総利益が増加したものの、主にPrinovaグループの人件費等の一般管理費の増加、ユタ新工場の利益貢献の遅れ等の影響により、減益

 

その他

 特記すべき事項はありません。

 

② 財政状態の状況

 

 

 

 

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率

(%)

流動資産(百万円)

530,132

542,470

12,337

2.3

固定資産(百万円)

232,556

249,865

17,309

7.4

総資産(百万円)

762,688

792,336

29,647

3.9

負債(百万円)

384,300

391,021

6,720

1.7

純資産(百万円)

378,388

401,315

22,926

6.1

自己資本比率(%)

48.2

49.7

+1.5ポイント

・流動資産は、棚卸資産の減少があったものの、現預金および売掛金の増加等により増加

・固定資産は、投資有価証券の時価上昇、有形固定資産および無形固定資産の増加等により増加

・負債は、短期借入金の返済による減少があったものの、買掛金、未払法人税等およびリース債務等の増加等により増加

・純資産は、自己株式の取得および配当金の支払いによる減少等があったものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上、その他有価証券評価差額金および為替換算調整勘定の増加等により増加

・以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の48.2%から49.7%へ1.5ポイント上昇

 

 

③ キャッシュ・フローの状況

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

9,414

72,959

投資活動によるキャッシュ・フロー

△8,031

△11,627

財務活動によるキャッシュ・フロー

△17,247

△48,046

・営業活動による資金の増加額は、法人税等の支払額88億円があったものの、運転資本の減少による資金の増加330億円、税金等調整前当期純利益326億円の計上および減価償却費による資金留保139億円があったこと等によるもの

・投資活動による資金の減少額は、投資有価証券の売却による収入71億円があったものの、有形固定資産の取得による支出140億円および無形固定資産の取得による支出37億円があったこと等によるもの

・財務活動による資金の減少額は、短期借入金の純減少224億円、配当金の支払額92億円、自己株式の取得による支出80億円および連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出60億円があったこと等によるもの

 

④ 販売の状況

 「① 経営成績の状況」および「第5経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照願います。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

① 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に際し、資産、負債、収益、費用の報告数値に影響を与える見積りおよび仮定を用いておりますが、見積り特有の不確実性があるため実際の結果は異なる可能性があります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。

・ 有形固定資産および無形固定資産の減損評価

 当社は、のれんを含む有形・無形固定資産の価値が毀損していないかどうかを確認するために、各資産または資産グループの減損兆候の有無を調査した上で、割引前将来キャッシュ・フローに基づき減損損失の認識の判定を行っております。その結果、減損損失の認識が必要と判断された場合には、資産の帳簿価額のうち回収不能部分について減損損失を計上しております。

 この減損損失の認識・測定に用いる将来キャッシュ・フローの基礎となる事業計画や使用価値の算定に用いる割引率等は、その性質上会計上の判断や仮定を伴うものでありますが、割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額の下落を引き起こすような事業環境の変化により見積りの見直しが必要になった場合には、追加的な減損損失が発生する可能性があります。

 当連結会計年度においては、機能素材セグメントの情報印刷関連材料ビジネスに属する連結子会社の福井山田化学工業㈱(以下、福井山田)のカラーフォーマー製造事業等に係る有形・無形固定資産(事業用資産)について減損損失を計上しました。

 福井山田は、テクノポート福井に所在し、レシート、チケット等の情報印刷用紙に使用されるカラーフォーマーの製造・販売を中核事業として行っております。

 福井山田を取り巻く足元の事業環境は、海外市場を中心としたサプライチェーン上の在庫過多による需要減少、および、中国メーカーの台頭・価格競争の激化による販売価格下落の影響を受け、非常に厳しい状況となっております。このような事業環境のもと、2024年3月期において営業損失を計上し、さらに、将来の事業計画を見直した結果、将来キャッシュ・フローの見積りの総額が資産グループの帳簿価額を下回ったことから当連結会計年度において事業用資産の減損損失を計上することになりました。

 当該減損損失の測定にあたっては、使用価値と正味売却価額を比較した結果、回収可能価額として正味売却価額を用いております。

 使用価値(福井山田の最新の事業計画を基礎とし、将来の不確実性を加味して見積もった将来キャッシュ・フローの割引現在価値)の算定における主要な仮定は事業計画に含まれる主要製品であるカラーフォーマーの販売数量、販売単価、機能性色素等の新規開発案件の売上高であります。また、正味売却価額の算定における主要な仮定は福井山田が所在する土地の時価評価額であります。

 詳細については「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(連結損益計算書関係)および (セグメント情報等) 関連情報 報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報」をご参照ください。

 

・ 繰延税金資産の回収可能性の判断

繰延税金資産は、事業計画に基づき納税主体毎の将来の課税所得の見積りを行った上で、将来の税金支払額を軽減する効果が認められる範囲において計上しております。したがって、将来の課税所得が大きく減少するような事業環境の変化が生じた場合には、繰延税金資産を取崩し、当該期間の税金費用を増加させる可能性があります。

 

・ 退職給付に係る負債および資産の測定

当社グループの従業員に対する確定給付型退職給付制度について、退職給付債務と年金資産の差額を連結貸借対照表上退職給付に係る負債(または資産)に計上しております。退職給付債務は、簡便法を採用している場合を除き、退職率、死亡率、割引率等の基礎率を設定して算定しますが、特に割引率が重要な仮定であります。割引率は安全性の高い債券(一定格付以上の社債)の利回りを基礎として適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では1.6%(加重平均値)を設定しています。

年金資産に係る主な仮定は長期期待運用収益率であり、現在および予想される年金資産の配分と、年金資産を構成する多様な資産からの現在および将来期待される長期の収益率を考慮して適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では2.0%を設定しております。

この割引率を含む基礎率を見直した場合や、見積りと実績に差額が生じた場合は数理計算上の差異が発生し、主に発生時の翌連結会計年度に全額費用処理しております。従って、多額の数理計算上の差異が発生した場合には、将来の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。詳細については「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(退職給付関係)」をご参照ください。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、下記文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

A)財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社グループの当連結会計年度の経営成績等につきましては、「(1)経営成績等の状況の概況 ①経営成績の状況 ②財政状態の状況 ③キャッシュ・フローの状況 ④販売の状況」をご参照ください。

 事業ポートフォリオの観点では、成長ストーリーと各領域において注力する分野を明確化し、今後の成長をより確実なものとするために事業ポートフォリオを機能軸で再整理いたしました。また、不採算事業の整理などの Quick Win施策を実施することで収益性の向上を推し進めております。詳細につきましては、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中期経営計画 ACE 2.0」をご参照ください。

 また、前年度から引き続き政策保有株式の売却を実施し、特別利益を計上しております。なお、ここから得られた資金は将来に向けた成長投資や株主還元等に効果的・効率的に活用し、収益力の向上を図ることに加え、資本効率性を高めることで、企業価値の向上を図ります。

 

B)当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因

「3.事業等のリスク」をご参照ください。

 

C)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「第3 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、以下のとおりであります。

 当社グループの資金需要は商品の仕入、製造費、販売費、研究開発などの一般管理費、設備投資、デジタルマーケティングなどへの新規成長投資、M&Aによる株式や営業権取得が主なものです。持続的成長の実現に向け、これらの資金需要に対応するための安定的かつ機動的な資金の確保は重要な戦略と考えています。

 資本の財源としましては、営業活動によるキャッシュ・フローに加え、資金調達手段として金融機関からの借入の実施、社債ならびにコマーシャル・ペーパーの機動的な発行による資本市場からの調達など、多様化を図りながらバランスの良い調達を実施しております。

 また、金融・資本市場における不測の事態や急な資金需要が発生した場合に備え、複数の金融機関と長期・短期のコミットメントライン契約を締結し流動性を確保しております。

 当社グループの資金管理については日本国内における当社と国内子会社間においては日本円、中国国内の現地法人間においては人民元および米ドル、また米国と一部アジア地区およびメキシコにおける現地法人間においては米ドルのキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、資金の効率化を図ることで、流動性確保と金融費用の削減に努めております。

 本報告書提出時点における格付けについては、株式会社格付投資情報センター(R&I)から発行体格付と長期債格付ともに「A」(シングルAフラット)を、短期格付で「a-1」(aワン)を取得しており、また取引先金融機関とは良好な関係を維持しております。

 現状の資金調達および資金繰りに問題はないと認識しておりますが、外部環境の変化により資金需要が高まる場合は、手元流動性を厚めに保有するなどの手段を講じる場合があります。

 

D)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況について

 中期経営計画 ACE 2.0における重要指標は以下のとおりです。

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ACE 2.0の基本方針、定量目標および実績、取り組み状況については、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中期経営計画 ACE 2.0」をご参照ください。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、グループの総合力を結集し、新規事業創出のため、マーケティング活動に基づく新技術・新製品の開発と技術情報の発信を目的に研究開発活動を行っております。

研究開発を専門とする組織としては未来共創室、ナガセイノベーションセンター、NAGASEアプリケーションワークショップがあり、それに加えて各製造会社を中心とした研究開発活動を行っております。

未来共創室では、本社事業部・グループ会社で活用できるブロックチェーン、センサー、システムの開発、これから伸長が期待される医療分野、エネルギー分野の新規開発、スタートアップ投資を活用して新規領域における情報取得により次の開発領域への下地づくりを行っております。具体的にはSaaS型マテリアルズ・インフォマティクス支援サービス、5Gネットワークインフラの低遅延化と処理性能をアクセラレートするIPコア“Axonerve”、五感センシング技術、ブロックチェーン技術によるトレーディングサポートシステム、等の開発を推進しております。

ナガセバイオイノベーションセンターでは、サステナブル社会の実現に向けて、独自技術の放線菌の育種・発酵技術:N-STePP®(注1)と大腸菌の育種・発酵技術:Nagase U-E’s Technology®(注2)を活用して、現在は化学合成困難とされる自然界に存在する希少有用物質を持続性のある微生物発酵法で高効率生産できるように「プロセスイノベーション」(=Unavailable Made Available&Sustainable)を目指して取り組んでおります。発酵法は従来の抽出法や化学合成法に比べ、「安全・安心、高効率、環境にやさしい」と言う特徴があります。現在は、藻類由来の紫外線吸収物質(マイコスポリン様アミノ酸)、キノコや麹菌に含有される希少抗酸化アミノ酸(エルゴチオネイン)、新規酵素、バイオ色素等の放線菌特有の機能性物質の発酵生産を検討しています。これらの有用物質を、機能性食品、化粧品、および工業用品として広く展開されるよう開発を進めると同時に将来の事業化を見据えて、戦略的に特許や商標並びに意匠を出願・登録しております。また、グループのバイオテクの総力を活かし、イノベーション創出に向けたテーマ創生を推進しております。このように当センターは、グループ独自の技術を活用して、グループの将来の事業を先導する新規事業の芽の創出をミッションとして、活動し続けております。

(注1)Nagase Streptomyces Technology for Protein/Precious Productsの略称、弊社の国内登録商標

(注2)Nagase Ultra E.coli Technologyの略称、弊社の国内登録商標

ナガセアプリケーションワークショップ(NAW)では、プラスチック、コーティング材料の分野で素材の評価分析、用途開発から、それら素材を使った処方開発を行うことができる設備と専門性の高い技術スタッフを有しております。取引先やグループ製造会社が持つ素材や加工技術を組み合わせ、グループネットワークを活かしたマーケティング機能で得た市場ニーズに応えるソリューション提案を行っております。新規材料や技術の目利きを行い、各種アプリケーションで求められる性能を満たす処方開発を行うことで、CMF(注)、機能性UP、Green材料開発等におけるお客様の課題解決をサポートします。現在、AIセンサーやPFAS代替材料の提案にも取り組んでいます。また新しく3Dプリンティング材料開発体制を整備し、日本国内での市場拡大に貢献してまいります。これらの活動により当社グループ独自の商社業の差別化戦略を支えるとともに、商社が運営するソリューションラボならではの自由な発想でサステナブルな新規事業開発に貢献することを目指して活動しています。

(注)モノの表面を表すColor(色) Material(素材) Finish(加工方法)の略

ナガセケムテックス㈱では、「バイオマテリアル」分野を育成事業領域の1つとして注力しております。なかでも、医療材料、医療機器分野における低エンドトキシン化ニーズに応えるべく、弊社独自のエンドトキシン除去・低減化技術を活用したビジネス展開を鋭意進めております。これまで、低エンドトキシンプルラン・ゼラチン・アルギン酸ナトリウムなどの素材をアルコフェリスシリーズとして順次リリースしておりますが、更なるラインナップの拡充へ向け開発を継続中です。また、エンドトキシン除去技術の応用展開として、大阪大学と3Dバイオプリンター用のインクの共同開発を開始するなど、産学連携による技術力の強化や応用展開を積極的に推進しております。

また、長瀬産業㈱、ナガセヴィータ㈱(2024年度4月1日に㈱林原から社名変更)と協業して、ナガセヴィータ㈱の有する酵素技術とナガセケムテックス㈱の樹脂製造技術を組み合わせ、澱粉を主原料とした高バイオマス度の高吸水性ポリマー(SAP)の開発を行っております。現在主流であるポリアクリル酸系SAPが、石油由来かつ非生分解性であるため、環境負荷が大きいという課題を抱えているのに対し、本開発品は、バイオ由来原料を使用し、さらに生分解性も有することから、環境負荷低減に大きく貢献することが期待されます。本製品は、農業・緑化、化粧品、衛生材料など、幅広い分野への適用が期待されており、今後、各用途に向けたプロトタイプの完成および、量産に向けた検討を鋭意進めてまいります。

INKRON Oyでは、独自のシロキサン合成技術により、光学デバイスおよび電子デバイス向け機能性材料の開発・製造を行っております。特に次世代デバイスとして開発が進む拡張現実(AR)/複合現実(MR)ウェアラブルディスプレイ向けには、幅広い屈折率に対応した屈折率調整材料、光透過・光吸収材料など、当該デバイス全般に向けた光学材料の開発が進捗しております。さらに、インクジェット印刷やナノインプリントなど、ユーザー課題の解決に向けた幅広いソリューション提供にも貢献し続けております。ナガセケムテックス㈱にて長年にわたって蓄積してきたナノ粒子分散技術、量産化技術、品質管理システムとの補完的相乗効果により、次世代デバイス向け先端材料のグローバル供給を通じて顧客のイノベーションに貢献してまいります。

ナガセヴィータ㈱では、食品はもとより、化粧品、医薬品・医療から、農業、工業分野に至るまで様々な領域において、「トレハ®」・「プルラン」・「ファイバリクサ®」をはじめとする糖質製品、「AA2G®」・「ナリンビッド®」等の糖転移製品を広くご利用頂くべく、研究開発活動を行っております。主力商品である「トレハ®」については、「トレハロースで導くサステナブルな未来」をテーマに、「第25回トレハロースシンポジウム」を開催しました。また、一昨年度上市した水溶性食物繊維水あめ「テトラリング®」で大阪工研協会「第73回工業技術賞」受賞など各種学会での学術活動、「食品開発展2023」など各種展示会への出展を通じて、商品の提供価値の認知度を上げると共に、新・成長方針に基づいた価値開発ならびに新規用途開発活動を強化しております。新規素材については、NAGASEグループテーマであるエルゴチオネイン上市に向けて、高純度・安定生産検討と素材価値向上に向けた研究開発に努めてきました。医薬品素材開発にも注力し、SOLBIOTE™ブランドの製品ラインナップ追加の取り組みを行ってきました。引き続き、NAGASEグループとして協業し、早期の上市に向けた研究開発活動を推進すると同時に、微生物からの新規酵素生産菌の探索を行い、独自酵素を用いて生み出される素材、あるいは微生物発酵によって製造される素材の研究開発を進めております。さらに、新たな素材を次世代の主力製品として育成するために、特許・知財戦略も考慮しながら有用な利用法の提案、市場分析、アプリケーション開発等の活動を推進しております。また、光や熱を吸収して様々な機能を発揮する機能性色素の研究開発活動としては、保有する豊富な機能性色素ライブラリーを活用しながら、写真・印刷刷版等の工業分野に加えて、色素耐久性の改善による用途拡大、伸長している医薬品や検査薬等のライフサイエンス分野への展開に注力した開発活動を継続してまいります。

 

なお、当連結会計年度におけるセグメントごとの研究開発費は次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

機能素材

1,010

加工材料

522

電子・エネルギー

2,341

モビリティ

176

生活関連

1,663

全社(共通)(注)

272

合計

5,987

(注)全社(共通)は特定のセグメントに関連付けられない基礎研究等に関する費用です。