第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 会社の基本方針

我が社は、信用を重んじ確実を旨とし、事業を通じて社会の進運及び民生の向上に貢献することを期する。

 

(2) 中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題

当社グループは、社会・環境の急激な変化にも適応できるよう、これまで以上に経営基盤を強化するとともに、社会課題の変化を成長機会に結びつけることで将来につながるサステナブルな経営を推進するべく、2021年度から3か年の中期経営計画に取り組んでまいりました。2023年度は、2022年度に上方修正しました数値目標(売上収益3,000億円、事業利益300億円、ROE10%)には届きませんでしたが、過去最高益の事業利益274億58百万円を達成しました。

これまでの3年間の総括を踏まえ、2030年ありたい姿からのバックキャストにより、2024年度から2026年度の新たな中期経営計画を策定するとともに、経営の重要課題(マテリアリティ)についても見直しを行いました。その骨子は、次のとおりであります。

 

2030年
ありたい姿
(数値目標)

事業利益   :550億円

事業利益率  :13%

ROE    :10%

ビジョン

お客様との価値創造を通じて

「未来に夢を提供する会社」

中期方針

“ニッチ&トップシェア”を目指し、
価値創造につながるポートフォリオ改革に挑戦する

中期戦略

①製品構成を最適化し、既存事業の収益力を強化

②SDGsに則した環境的・社会的価値を有する

新商品/新ソリューションを創出

③個人の自律性と組織の一体感を高め、全社力を最大化

2026年度
数値目標
(中期経営計画
最終年度)

事業利益  :400億円

事業利益率 :11.5%

ROE   :9%

 

 

経営の重要課題

(マテリアリティ)

環境・社会価値の創造

「価値創造のアクセル」

顧客との共創、人的資本(人材の活躍)経営、イノベーション、DX

「事業を継続する基盤」

安全衛生、製品責任、コンプライアンス、サイバーセキュリティ、

人権尊重、サステナブル調達、コーポレート・ガバナンス

 

 

新たな中期経営計画の初年度である2024年度における事業分野別の取り組みは次のとおりであります。全社取り組みの詳細については、「第2 事業の状況 2.サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。

 

(半導体関連材料)

回復、成長が見込まれる半導体市況を見据え、中国および台湾の新生産ライン増設により封止材のグローバル供給体制を強化して拡販を進め、グローバルシェアのさらなる拡大を目指します。研究開発においては、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)やパワーデバイスをはじめとする次世代半導体向けの材料開発や環境対応の推進を目的に、社外協業・共創の場となるオープンラボの拡充を図ってまいります。モビリティ分野におきましては、従来の戦略3製品(モーター磁石固定用封止材、ECU/TCU一括封止材、パワーモジュール用封止材)にステーター絶縁層・コイル封止材を加え、モビリティ戦略3+1製品と位置づけ、新生産拠点の本格稼働やオープンラボの拡充を通じてグローバル展開を加速します。

 

(高機能プラスチック)

グローバル視点での生産拠点の最適化、ならびにスマートファクトリー化推進による生産性向上等により、既存領域の製品の収益力強化を図るとともに、電動車(バッテリー、e-Axle、各種電動パーツ)、半導体関連(レジスト、パワーモジュール、センサー)、航空機(内装材)等の強化領域向けの高付加価値製品へ製品ポートフォリオ改革を推進します。また、循環型社会へ適応すべく、バイオマス製品の拡大に加え、熱硬化性樹脂のリサイクル技術の開発を推進し、早期の社会実装を目指すとともに、中長期的には他製品への応用展開につなげてまいります。

 

(クオリティオブライフ関連製品)

・医療機器事業およびバイオ事業

営業効率の向上や製品ラインナップの拡充など、引き続き、SBカワスミ株式会社との医療機器事業の統合によるグループシナジーの最大化を図ってまいります。強化領域(血管内、消化器、内視鏡領域)の製品ラインナップ拡充とあわせ、グローバル戦略として、主力製品の低侵襲医療機器、血液バッグ等については、それぞれ欧米、アジア地域への拡販を加速します。また、2024年2月に出資しました、医療機器に特化したベンチャーキャピタルファンドを活用し、スタートアップを含めた外部との協業機会の増加、新規事業の創出にも積極的に取り組んでまいります。バイオ事業においては、事業規模拡大を目指し、主力製品に加え、細胞・遺伝子治療支援製品の拡販とともに、新製品と位置づけている創薬支援用生体模倣システムの実用化を目指し、事業開発を推進してまいります。

・フィルム・シート事業

半導体関連製品のアジアへの展開強化、モノマテリアル医薬品包装製品の欧州への展開等、高シェア製品のグローバル展開を進めます。また、食品ロス削減への貢献が期待される食品包装用スキンパックの市場認知度の向上や、新たな環境対応製品の市場投入にも取り組みます。スマートファクトリー化による生産性向上を継続し、収益力の強化も図ってまいります。

・産業機能性材料事業および防水関連事業

高付加価値の機能材製品であるアイウェア、車載向け光学制御製品、および電動車向け絶縁シートを軸とした高収益ビジネスモデルへの転換とあわせ、グローバル展開による拡販を推進します。防水関連では、急増するリフォーム物件の取込み、太陽光発電向け防水部材の拡販等により、住宅領域での事業強化に取り組んでまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

近年、環境側面において、プラスチックに対するネガティブなイメージが抱かれています。しかし、安全や安心、快適性を追求しながら、プラスチックを通じてしか発現できない機能をもって社会課題を解決するという役割は、これからも重要であり続けると考えております。

当社グループの基本方針(経営理念)は『我が社は、信用を重んじ確実を旨とし、事業を通じて社会の進運及び民生の向上に貢献することを期する。』です。本基本方針に基づき、「パーパス『プラスチックの可能性を広げることで、持続可能な社会を実現する』に向かって事業活動を行うことで、持続可能な企業価値の向上を目指します。」をサステナビリティ推進方針として新たに掲げ、サステナビリティを重視する取り組みをさらに強化してまいります。プラスチックの多様な機能を追求し、その可能性を広げながら、SDGsに則した新製品・新サービスを継続的に社会実装することにより、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

2030年ビジョン「お客様との価値創造を通じて『未来に夢を提供する会社』」の実現を目指し、持続的な企業価値の向上と経営基盤の一層の強化に取り組むため、経営の重要課題(マテリアリティ)の見直しを行いました。

「環境・社会価値の創造」に関しては、SDGs貢献と気候変動対応に取り組みます。これらを推進するため、価値創造のアクセルとして、「顧客との共創」、将来の利益創出を目指して新たな価値を生み出す「イノベーション」、ビジネスモデル改革を促進する「DX」、ならびに従業員の多様性の推進、自律性の強化、組織力の向上を実現する「人的資本(人材の活躍)経営」に取り組みます。

2024年2月1日に「住友ベークライトグループ人権方針」を制定し、国際的基準である国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」等に基づく人権デュー・ディリジェンス(人権DD)に着手しました。人権DDワーキンググループ(リーダー:人事本部長、副リーダー:調達本部長・総務本部長)をリスクマネジメント委員会内に設置し、当社グループの事業活動が人権に与える負の影響を特定・評価し、重要な課題を優先的に対処するための作業を進めております。

 

(1)ガバナンス

当社グループのサステナビリティ関連のリスクと機会を監視、および管理するためのガバナンスの過程、統制および手続を下図のように構築しています。この考え方は取締役会にて決議した内部統制システム構築の基本方針にも織り込まれています。

2023年4月にサステナビリティ推進部を設置し、サステナビリティ推進委員会の運営体制を強化しました。

サステナビリティ推進委員会は、経営の重要課題(マテリアリティ)やSDGs貢献製品の認定、各委員会の提案事項等、当社グループのサステナビリティにかかる戦略の策定等を行い、取締役会へ報告しています。

取締役会はサステナビリティ全般に関するリスクと機会を監視および管理する責任と権限を持っています。サステナビリティ推進委員会で協議および決定された事項については、取締役会で審議および監督が行われます。

 


 

(2)リスク管理

サステナビリティ関連のリスクおよび機会の識別、評価、ならびに管理は、当社グループのリスクマネジメントプロセスに準拠し、実施しています。詳細については「第2 事業の状況 3.事業等のリスク (1)当社グループのリスクマネジメント体制」をご参照ください。

 

(3)戦略

SDGs貢献

2015年9月の国連サミットで採択された世界共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)は、社会ニーズそのものであり、当社グループの基本方針にも通じるものであると考えております。当社グループでは、SDGsの目標3、7、8、9、12、13、14を重点的に取り組むべきSDGs領域「6+1」として定めるとともに、SDGsに寄与する製品を「SDGs貢献製品」と認定し、その売上収益比率を増加させる取組をSDGs推進委員会で行っております。

 

気候変動対応

当社グループは2021年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、再生可能エネルギー由来の電力への切り替えやSDGs貢献製品比率アップに取り組むとともに、同年、全社横断のTCFDタスクチームをリスクマネジメント委員会の中に編成し、TCFD提言に基づく情報開示に向けた活動を推進しています。同タスクチームを中心に、2040年を想定した「気候関連シナリオ分析」を実施し、気候変動に伴う潜在的なリスクと機会を抽出しました。その中で、比較的財務影響が大きくなるであろうと想定されるリスクと機会を「シナリオ分析表」のとおり特定しました。

なお、2030年と2050年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標は、カーボンプライスの引き上げ、GHG排出規制の強化、化石燃料価格の変動等(これらは1.5/2℃または4℃シナリオにおいてリスクとして抽出)への対応策として取り組んでいます。それら取組の前倒しを図り、長期的な移行リスクを短・中期の事業機会へと転換し、売上拡大を図ります。

2023年度に引き続き、新中期経営計画の初年度となる2024年度もリスクマネジメント委員会が中心となって(本シナリオ分析結果からのバックキャストによる)短期的な施策の具体化を図り、社内関係部門へ展開、スピード感をもって実行・推進しています。

 

 

◆シナリオ分析表

<1.5℃/2℃シナリオ>

 

ドライバー

想定し得るシナリオ要素

(世の中の動き)

当社影響

インパクト評価

リスク

機会

政策および法規制

カーボンプライスの引き上げ

・カーボンプライスの上昇

<1.5℃シナリオにおけるカーボンプライス(先進国)>

 2030年:140USD/t-CO2

 2040年:205USD/t-CO2

 2050年:250USD/t-CO2

 (2022年 IEA World Energy Outlook)

・製造にかかるエネルギーコストの増加による操業コストの増加

リスク

・輸送コストの増加

リスク

市場

低炭素技術の進展

・再生可能エネルギー由来の電力需要の高まりによる電力価格上昇

・操業コストの増加

リスク

・バイオマス由来原料の需要の高まりによる原料の価格上昇

・バイオマス原料の高

リスク

低炭素技術の進展に伴うガソリン需要の減少

・ナフサはこれまでの副産品でなく主産品としての地位を得る

・ガソリンやディーゼル油とともにナフサは安定的に供給されるものの、価格は上昇

・ナフサの価格上昇による仕入・調達コストの増加

リスク

人やモノの移動のデジタル代替

・炭素税やGHG排出規制などの影響により人やモノが移動するための費用負担が大きくなる

・デジタルデバイスに搭載される半導体の需要増加

・半導体関連製品の販売拡大による売上増加

機会

低炭素技術の進展

・顧客からの資源循環の要求

・3R+Renewable(持続可能な資源)関連製品への切替加速

・3R+Renewable製品の早期上市による売上増加

機会

低炭素技術製品の需要拡大

・低炭素社会へとシフト

・炭素税やGHG排出規制が強化

・経済性を考慮したCO2輸送技術の開発やそのインフラ整備が進む

・低炭素製品/サービスの販売拡大による売上増加

機会

EV関連需要の拡大(電池用部材、自動車用軽量化素材)

・自動車販売台数に占めるEV車の割合は着実に増加し、EV車の販売台数は増加

・EVを対象とした製品/サービスの販売拡大による売上増加

・自動車用軽量化素材の売上増加

機会

 

 

 

<4℃シナリオ>

 

ドライバー

想定し得るシナリオ要素

(世の中の動き)

当社影響

インパクト評価

リスク

機会

市場

化石燃料価格の変動

・原油、天然ガスは価格が上昇
原油 2021年:69USD/barrel
   2030年: 82USD/barrel
    2050年: 95USD/barrel

 天然ガス 日本 2021年:10.2USD/MBtu*
             2030年:10.9USD/MBtu*
             2050年:10.6USD/MBtu*

日本は下落 他の地域は上昇
(2022年 IEA World Energy Outlook)

*MBtu:百万英熱量

・仕入・調達コストの増加による原料コストの増加

・製造にかかるエネルギーコストの増加による操業コストの増加

リスク

物理リスク:急性

サイクロンや洪水などの異常気象の重大性と頻度の上昇

サイクロン、集中豪雨、洪水、干害などの激甚化、頻度上昇

・主要原料サプライヤー:操業停止

・自社製造拠点(国内外):操業停止

・操業の一時停止による売上減少

リスク

「レジリエントな都市づくり」が推進される

→自然災害に強い建材、産業用資材の需要増
(要求機能例:軽量/高耐久/耐衝撃/高断熱・遮熱/耐火等)

・建材向け各種シート製品、防水シート製品/サービスの売上増加

機会

・食肉用家畜の減少 → 長期保存用食品/加工品包装材の需要増

・農作物の収穫量の減少 → 青果物包装材の需要増

・各種包装フィルム製品の売上増加

機会

感染症/気温上昇に伴う疾病・移動制限

・地域病院・自宅等での診断および遠隔診断の必要性増

・環境変化に敏感な幼児・高齢者に対する医療機会(診断・治療)の増大

→POCT(POCT:Point of Care Testing)/医療機器の需要増大

・ヘルスケア製品の販売拡大/売上増加

・医薬品パッケージの需要増

機会

 

 

DXに関する取り組み

当社グループは、2030年のありたい姿の実現に向けてDXを全社横断で推進しております。研究開発では、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)*の活用による研究・開発能力増強に向けて、デジタルスキルを有する人材の育成に力を入れております。さらに、人に頼らない生産システムの進化、業務プロセスや営業活動にデジタル技術・データを活用する取り組みなど、人生産性向上・働き方改革を推進する取り組みを行っております。これにより、DXを通じてビジネスモデルの変革を実現し、新たな顧客価値の創出に貢献してまいります。

特にデジタルスキルを有する人材の育成については、2023年度に教育講座の増設、褒賞制度も含めたデータサイエンティスト社内認定制度を導入しました。これらを修了したデジタル人材の活躍により、データ科学技術を取り入れた研究・開発業務の効率化や省コスト化、製品機能の向上など、多くの成果が生まれています。

 

*MI(マテリアルズ・インフォマティクス)とは、データ科学と物質・材料に関するデータとを駆使して新規材料の発見や高機能化など材料科学の諸問題を解明するための科学技術的手法。

 


 

 

(4)指標及び目標

当社グループは、経営の重要課題(マテリアリティ)のそれぞれについて、指標を設定しています。この指標を元に進捗状況の管理と開示を進めてまいります。

 

SDGs貢献

指標

目標

実績

SDGs貢献製品
売上収益比率

2023年度末 50%

2030年度末 70%

2022年度末 54.5%

2023年度末 61.3%(見込み)

 

自動車の電動化に欠かせないモーター磁石固定用材料、化石燃料を使わない植物由来のフェノール樹脂、フードロス削減にも寄与するスキンパック用フィルム、環境に配慮したバイオマス樹脂を用いた医薬品包装用シートなど、新商品・新技術の中からもSDGs貢献製品が次々と生み出されており、SDGs貢献製品売上収益比率を2023年度に50%とする目標は達成することができました。2030年度の目標である70%の達成に向けて、2026年度の目標を新たに65%以上に設定し、引き続き売上収益比率向上を推進してまいります。

 

気候変動対応

 

指標

目標

実績

温室効果ガス(GHG)

排出量削減

(Scope1+Scope2)

2030年度

46%以上削減

(2013年度比)

2023年度

47%削減見込み

(2013年度比)

 

化学産業界の一員として、SDGsの中でも気候変動への対応は特に重要であると考えております。2020年3月に策定した「環境ビジョン2050(ネットゼロ)」をもとに、国内すべての工場・研究所と欧州のグループ会社で再生可能エネルギー由来の電力に切り替え、さらに太陽光発電パネルの設置を拡大することで、日本政府目標である2030年度温室効果ガス(GHG)排出量46%削減(2013年度比)を、2023年度に前倒しで達成する見込みとなりました。今後のGHG排出量削減の取組を加速させるため、1.5℃基準に適合した新目標を設定するとともに、サプライチェーン全体でのGHG排出量削減(Scope3)にも取り組んでまいります。

 


住友ベークライトグループGHG排出量および削減計画

 

 

DXに関する取り組み

 

DXの取組における、データサイエンティストの育成に関わる指標および目標は下表のとおりです。

 

指標

目標

実績

データサイエンティスト認定者

2023年度末 40名

2026年度末 90名

2030年度末 150名

2023年度末 45名

データサイエンススキル保有者

2023年度末 95名

2026年度末 250名

2030年度末 450名

2023年度末 96名

 

データサイエンティスト認定者、データサイエンススキル保有者ともに2023年度の目標値を達成しました。

その他、指標および目標を含め、経営の重要課題(マテリアリティ)に関する詳細な情報については2024年9月に公表予定の統合報告書2024年度版をご参照ください。

 

人材育成および社内環境整備に関する方針

当社グループは、従業員の多様性の推進、自律性の強化、組織力の向上を実現する「人的資本(人材の活躍)経営」に取り組みます。

 

(3)戦略
DE&Iの推進

当社は、経営として取り組む重要課題の一つとして「DE&I」(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を掲げ、2022年10月に策定した「DE&Iの実現に向けた方針」に基づき、多様な人材が個性や能力を発揮し、一人ひとりの状況に応じた公正な機会が提供され、相互の理解と尊重のもとで生き生きと活躍できる会社の実現に向けて取り組んでおります。

まずは、女性の活躍推進を第一歩として、女性社員が自身のライフイベントキャリアを両立できるよう、女性社員が次の3点を実現できることを目標に掲げて各種施策に取り組んでおります。

・安定的、長期的に働き続けることができる

・高いパフォーマンスを発揮することができる

・高い職位を目指すことができる

また、2023年4月にDE&I推進室を設置し、女性活躍をはじめとして、シニア層の活躍、介護者の支援、外国人の採用、障がい者雇用の拡大等の推進に取り組んでおります。

2023年度は女性活躍の推進の一環として、「女性活躍ワーキンググループ」を発足させ、日本国内の全ての事業所の女性従業員を対象とした座談会を開催しました。女性社員同士がそれぞれの考え方や意見を共有し、相談できる関係の構築を促すことに加えて、参加者の声をもとに、制度の改定・啓発活動の強化など、女性の活躍に繋がる有効性の高い施策を実行しています。

 

人材育成の充実化

<人材教育(SBスクール)>

当社では人材育成に関わる教育研修や仕組みの体系を“SBスクール”と銘打ち、当社グループ事業の持続的成長に必要な多くのことを学び、体験する場を提供しております。事業活動に関わる全部門・全階層に対して、必要な教育プログラムを企画し、体系的かつ計画的に実施することにより、事業に有為な人材の育成を行い、当社グループ事業の持続的成長と企業価値の向上を目指しております。

 

 

“SBスクール”は、従業員一人ひとりの成長こそが、事業の持続的成長の源泉になると考え、在籍するすべての従業員を受講対象としており、在学期間は従業員が当社に入社してから退職するまでの全ての期間です。

求める人材・育てたい人材

住友ベークライト流自立的人材像

■仕事に必要な新知識・新技能の習得に意欲的な、成長志向型人材

■今が最悪、絶えずもっとよい仕事を考える、変革志向型人材

■より高い仕事の成果のため、自身の力と周囲の力の和が発想できる、チーム型人材

■知識と技能に優れ、国内・外の仕事において通用し成果を生み出す、プロフェッショナル人材

 

 

当社では、2024年度を初年度とする新たな中期経営計画に基づき、自律性の強化を目的とした360°評価を用いたリーダーシップを高める教育の幅広い層への展開と、個人及び組織のパフォーマンスを向上させること(組織力の向上)を目的としたマネジメント教育の充実に重点的に取り組んでおります。

 

(4)指標及び目標

DE&Iの推進

「戦略」において記載した多様な人材の確保と活躍に関する方針および社内環境整備に関する方針に係る指標について、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組が行われているものの、必ずしも連結グループに属する全ての会社において行われているわけではないため、連結グループにおける記載は困難であります。このため、次の指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。

 

<連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のデータ>

指標

目標

実績(当事業年度)

女性管理職比率

2025年4月まで5

3.7

男性の育児休業取得率

2024年3月まで70

65.5

障がい者雇用率

2025年3月まで2.7

2.9

 

 

・女性管理職比率の向上

これまでも性差なく管理職への登用を行ってきましたが、積極的な女性採用と離職の防止などの施策に加え、DE&I活動を通じた各種施策により、同比率の向上を目指していきます。

 

●管理社員における女性比率の推移

 


(注) 1 執行役員を除く管理社員を対象としています。

2 管理社員の資格を有した出向者を含みます。

3 比率は各年度末の値です。

4 提出会社の数値です。

 

・男性の育児休業取得率の向上

当社では育児目的休暇として「妻の出産休暇」を設けており、出産日を基準に3日前から2週間後までの間に断続的に5日(有給)の休暇を取得することを可能としています。また、2022年10月の法改正により新たに創設された「出生時育児休業」については、男性従業員の育児休業取得の妨げとならないよう、取得期間の初めの5日を有給(100%)としております。その結果、妻の出産休暇との合計で10労働日について有給での休暇取得が可能となっております。

これらの育児に関する制度を周知するとともに、男性従業員が育児に参加するために柔軟に休暇が取得できる職場環境を整備し男性育児休業取得率は前年比で大幅に向上しました。(2022年度25.9%→2023年度65.5%)今後も更なる向上に取り組んでまいります。

 

・男女の賃金の差異の低減

男性従業員の支払い賃金を100とした場合の女性従業員の賃金割合は、全労働者69.1%、正規雇用労働者69.7%、パート・有期労働者75.6%となります。

当社の賃金(例月の基準内賃金、諸手当、賞与)において、性別により支給条件が異なる賃金項目はありませんが、正規雇用労働者については管理社員の平均勤続年数が男性と女性で差があること(男性は女性の1.4倍)、非正規労働者については、再雇用嘱託社員の賃金水準が採用区分で異なっており現時点で定年を迎えている賃金水準の高い本社採用社員のほとんどが男性であることから賃金差異が生じております。これらの要因に対して、積極的な女性採用と離職の防止、管理社員への登用拡大等により、男女の賃金差異の低減に取り組んでまいります。

 

・障がい者雇用率の維持・向上

当社は法令に定めるとおり障がい者を雇用していくことを、企業の社会的な使命の一つと捉えております。障がいがありながら仕事をしていくために必要な配慮を行いつつ、ほかの従業員と同様に安全・安心な職場で、その能力を継続的に発揮・育成できる環境づくりに努めております。

また、障がいのある学生をインターンシップとして受け入れるなど、個人にあった仕事や働き方を見つける機会を提供するとともに、継続的な採用活動に取り組んでおります。

 

●最近5年間の障がい者雇用率推移

 


(注)各年度の障がい者雇用率は、各月1日時点の障がい者数の合計値を、同時点の常用雇用者数の合計値で除して算定しています。

 

人材育成の充実化

当社では「戦略」において記載した人材育成の充実化について、「360°評価に基づく教育の受講者数」「マネジメント教育受講者数」の指標を用いております。当該指標に関する目標および実績は次のとおりであります。

 

 

2023年度実績

2024年度目標

2025年度目標

2026年度目標

360°評価に基づく教育の受講者数

31名

50名

60名

70名

マネジメント教育受講者数

49名

50名

60名

70名

 

 

 

3 【事業等のリスク】

 

(1) 当社グループのリスクマネジメント体制

 当社グループのリスクマネジメント体制は次のとおりであります。

[サステナビリティ推進委員会]

当社グループのサステナビリティ活動を継続的かつ全社的に行う母体として設置しています。下部委員会であるリスクマネジメント委員会の方針・計画・実績・外部公表する項目および数値について承認し、これらを取締役会に報告しています。

[リスクマネジメント委員会]

当社グループの経営成績等に重要な影響を与える主要リスクの選定、主要リスクの対応策の妥当性確認、追加検討すべき対策についての指示などを個別リスク主管部、各事業部門に対して行っています。

リスクマネジメント委員会の委員は、社長、事業統轄役員、個別リスク主管部の長で構成されています。2023年度は3回開催されました。

[個別リスク主管部]

総務本部・人事本部・経理企画本部・生産技術本部・研究開発本部・IT推進本部・調達本部などの個別リスク主管部は、所管するリスクについて、当社グループの各事業部門と連携を取りながら、当社グループ全体の対応策を立案・推進しています。

[各事業部門]

当社グループの営業部門、工場、研究開発部門などの各事業部門は、本来業務の一部として、自部門、自社の業務遂行上のリスクを適切に管理するためにさまざまな対策を講じています。

 

 

 

●リスクマネジメント体制図

 


 

なお、上記のほか、当社グループは、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりの企業統治体制を整え、リスクマネジメントを含む内部統制システムを整備・運用しております。

 

当社グループにおける主要リスクの選定・承認は年1回実施しており、そのプロセスは次のとおりであります。

・リスクマネジメント委員会は、各事業部門・個別リスク主管部の統轄役員から「主要リスク抽出質問票」(リスクの内容と当該リスクが顕在化した場合の影響、発生可能性、影響度、現状とっている主な対応について、事業部門・個別リスク主管部としての評価を記入)の回答を収集。また、社長からのヒアリングを実施。

・「主要リスク抽出質問票」で抽出されたリスクについて、影響度と発生可能性をもとに算出したリスク指数が高いものを主要リスク候補として、リスクマネジメント委員会にてリスクマップの作成、主要リスクの選定・承認、主要リスクに対する次年度の対応計画への反映を実施。

・サステナビリティ推進委員会は、選定された主要リスクおよび主要リスクに対する対応計画を承認し、取締役会に報告。

 

●主要リスクの選定・承認フロー


 

■  発生可能性のレベル選択の目安

レベル

発生可能性のレベル選択の目安

1) 発生可能性-低

100年に1回程度~10年に1回程度

2) 発生可能性-中

数年に1回程度~年に1回程度

3) 発生可能性-高

年に複数回以上

 

 

■  影響度のレベル選択の目安

レベル

影響度のレベル選択の目安

 (下記の複数が当てはまる場合は、一番影響度のレベルが高いものを選択)

金銭的影響

人命

評判(レピュテーション)

稼働への影響

1)影響度-小

~5,000万円

・医師の手当てが必要な

 傷病者が発生

・日常の管理で解決する

・1拠点に限り数日程度

  の稼働に影響

2)影響度-中

5,000万円~

10億円

・入院が必要な傷病者が

 発生

・マスメディアやWEB媒

  体に(悪い意味で)小さ

  く取り上げられる

・一部の取引先や消費者

  の信用を失う

・1拠点に限り数週間の

  稼働に影響

・複数拠点で数日程度の

  稼働に影響

3)影響度-大

10億円~

・死亡者が1名以上発生

・傷病者が多数発生

・マスメディアやWEB媒

  体に(悪い意味で)大々

  的に取り上げられる

・取引先や消費者の信用

  を著しく失う

・1拠点に限り数ヶ月以

  上稼働に影響

・複数拠点で数週間の稼

  働に影響

 

 

 

(2) 主要リスクの内容と顕在化した際の影響、主要リスクへの対応策

本報告書に記載した当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要リスクには、下記のものがあります。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。また、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、「第2 事業の状況」の他の項目、「第5 経理の状況」の各注記、その他においても個々に記載しておりますので、併せてご参照ください。文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

      主要リスクとして挙げた各リスク項目のリスクマップ上の位置

 

発生可能性

影響度

・法令および規制への対応

・製品の品質

・ 災害・事故・パンデミック

・ 地政学リスク

・ 情報セキュリティインシデント

・ 環境負荷低減対策(気候変動対応を含む)

 

 

 

・ 原材料の供給問題、価格変動

・ 人的資本リスク

 

 

 

 

 

 

1.災害・事故・パンデミックについて

発生時期:不定

発生可能性:中

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・当社グループでは、想定される災害・事故等のうち「地震」「爆発・火災」「風水害」「パンデミック」を重大事態と位置付けております。特に近年、気候変動による大型の「風水害」や、新型コロナウイルス感染症に代表される世界規模の「パンデミック」が現実の事態となっており、当社グループのみならずサプライチェーン全体への影響を考える必要があります。

・これらの事態が発生した場合は、近隣住民・従業員の人的被害、施設・設備の損壊や電気・ガス・水道・通信機能の停止により、製品の供給を継続できない状況が発生する恐れがあります。また、顧客・調達先・物流の機能停止によるサプライチェーン分断により、事業活動の継続性が確保できない可能性があります。これらの結果、多額の損害賠償の請求を受けるなど、経営成績等に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

 

[ リスクへの対応・機会 ]

当社グループでは、災害・事故等の発生時の事業の継続性を確保するためBCP(事業継続計画)を策定し、必要に応じて関係先と共有しております。また、減災対応や持続性確保として、これまでも適正在庫の確保、国内外事業所での生産体制の二重化、予備品の増強や復旧体制の制度化といった対策を行ってきました。なお、東日本大震災の際には、宇都宮事業所の建屋や設備の一部に損壊がありましたが、このBCPに従った行動で当社グループにおける被害を最小限に抑えることができました。

一方で、当社グループでは、気候変動の影響や科学技術の進歩により、災害・事故等の発生頻度や影響の大きさ・範囲は、毎年変化するものであると認識しております。最新の情報を踏まえてこれらの対策の妥当性を毎年検証し、今後もBCPの見直しおよび訓練を実施してまいります。

調達先各社の協力を得て実施しているサプライチェーンの上流におけるBCP確認と追加対応策の検討については、後述の「7.原材料の供給問題、価格変動について」のリスクへの対応・機会欄に記載のとおりであります。

・また、上記災害のうち、当社グループの要因で引き起こされる可能性のある「爆発・火災」については、国内外の事業所で発生したヒヤリハット情報も取り込み、原因解明・対策立案・当社グループ全体への対策展開を進めております。日本国内で導入されている爆発・火災事故に直結する機器への異常予兆管理システムを海外事業所へ展開中です。

・新型コロナウイルス感染症への社内の対応については、本社に緊急対策本部と対策事務局を設置し、感染状況に応じた対策を検討し、都度通知文を発信するなど柔軟に運用いたしました。また、これらの運用を踏まえて「全社『新型感染症』対策マニュアル」の見直しを適宜行っております。関係会社においても、このマニュアルを参考に、所在国の法令・規制や就業規則の違いなどを考慮した上で、それぞれ対策体制、行動計画等を策定しました。

・近年では、顧客による取引開始や取引継続の条件の一要素として、BCPの整備・運用、生産体制の二重化、サプライチェーンのBCP対応が重要視されております。このため、上述のようなBCP対応を充実化させることは当社グループにとっての「機会」にもなると考えております。

 

 

 

2.地政学リスクについて

発生時期:不定

発生可能性:中

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・米中貿易摩擦、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの国際関係の変化を背景に、各国の経済安全保障政策が強化され、最先端技術の国外流出を阻止するための法規制や、制裁・法規制の対象となった企業との輸出入取引や資金決済が停止となる可能性があります。これらの情勢変化や政策に適切に対応できない場合、刑事罰や行政罰や民事訴訟、さらにブランドに対する社会的信頼の喪失につながる可能性があります。また、戦争・紛争が発生した場合には、当社グループ社員の人命・資産が脅かされることに加え、物流・調達・インフラの寸断により事業継続に支障をきたす可能性があります。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・戦争・紛争テロ・暴動等のリスクに対しては、リスクコンサルタント等の専門家や政府関係機関等より情報収集を行うとともに、従業員の安全確保を最優先としつつ、事業継続や情報管理の観点も考慮した海外拠点の危機管理マニュアルの整備、実効性の強化を進めております。

・輸出入規制や経済制裁、物流・調達・インフラの寸断の影響を軽減、極小化するため、輸出入規制や経済制裁などの情報収集、マルチファブ化やマルチソース化を進めております。

 

 

 

3.情報セキュリティインシデントについて

発生時期:不定

発生可能性:中

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・近年、サイバー攻撃は巧妙化、高度化しており、不正アクセスやサイバー攻撃を受け、企業が保有する情報が流出する事件が多発しています。当社グループがサイバー攻撃を受け、重要なシステムの誤作動や停止、保有する機密情報の流出が発生した場合、社会的信用の失墜、事業活動の混乱や停滞、取引先等への補償などの費用発生により、当社グループにおける経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・当社グループでは、情報セキュリティインシデント発生に備えた組織横断的機関である「SUMIBE-CSIRT」を設置し、定例会議などを通してトピックスの共有、情報セキュリティ事故発生を未然に防ぐための対策策定、事故発生時の対応手順の整備を行う一方で、有事の際には経営層を含めた対応や外部セキュリティ関係機関との連携を行う体制としております。

・情報セキュリティインシデントを予防するための具体的な取り組みとしては、不正攻撃の標的となる脆弱性への対応の徹底、セキュリティ対策製品の導入によるリスク検知、外部セキュリティ企業とも連携したサイバー攻撃の常時監視、外部機関によるセキュリティ評価等の対策を行っております。さらに、日本シーサート協議会やサイバー情報共有イニシアティブ(J-CSIP)等、サイバー攻撃に関する情報共有や対応強化を行う外部団体に参加し、積極的な情報入手を図っております。引き続き、外部セキュリティ企業支援のもと、グローバルで連携したインシデント対応体制の確立を進めていきます。

・また、差し迫るサイバーリスクに対しては、適宜当社グループ内に注意喚起を発信、また国内外の全役員、従業員を対象に、サイバーリスクのトレンドを踏まえた情報セキュリティ教育を定期的に実施する等、情報セキュリティインシデントへの予防強化と情報セキュリティへの意識向上に取り組んでおります。セキュリティインシデント発生時の被害の最小化と早期復旧を図るべく、社内でのインシデント発生訓練に加え、外部団体との合同訓練にも参加する等、体制の強化にも取り組んでおります。

 

・社内セキュリティ人材の強化策として、国家資格である「情報処理安全確保支援士」の取得を進めており、2024年3月末時点で情報システム部門に所属する人員のうちの約10%がこの資格を有しております。また、日本国外の拠点におけるセキュリティ人材配置・育成も進めていきます。

近年では、顧客による取引開始や取引継続の条件の一要素として、上記のような情報セキュリティ管理体制の整備・運用が重要視されております。このため、上述のような情報セキュリティ管理体制の整備・運用の維持改善をすることは当社グループにとっての「機会」にもなると考えております。

 

 

 

4.環境負荷低減対策について(気候変動対応を含む)

発生時期:中長期

発生可能性:中

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・日本政府による2050年カーボンニュートラル宣言、2030年度に温室効果ガス(GHG)の46%削減(2013年度比)が表明された後、2021年のCOP26では1.5℃目標に向かって世界が努力することが合意され、さらに2023年のCOP28では1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性が明記されました。地球規模での気候変動問題に対して、企業においても緊急的な行動が求められています。温室効果ガス排出規制の強化、カーボンプライシングなどが具体的なリスクとして考えられますが、これらの対策が遅れている企業は市場から淘汰されていくリスクがあると認識しております。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・2050年に向けたカーボンニュートラルの達成は、有機化学産業に属する当社グループにとっての重要課題と認識しております。当社グループは、気候変動への取組み強化を進める中で「環境ビジョン2050(ネットゼロ)」を掲げ、2021年6月には、2030年目標として「温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1+2)46%以上削減(2013年度比)」を、2050年目標として「カーボンニュートラルに挑戦」を設定し、各種排出量削減の取り組みをしております。その結果、2023年度の排出量実績が目標を上回る47%削減を達成する見込みとなりました。

 これを受けて基準年を見直し、1.5℃目標に準じた2030年目標を新たに設定し、Scope1+2のGHG排出量削減目標を、従来の2013年度比46%削減から2021年度比48%削減(2013年度比57%削減)に更新しました。Scope3のGHG排出量削減についても、削減目標を設定し、サプライチェーンとの協力により削減の取り組みを加速してまいります。

・上記のGHG排出量削減の2030年度目標の前倒しでの達成は、2022年1月から開始した再生可能エネルギー由来の電力への切り替え拡大をはじめ、太陽光発電の導入拡大、プロセス効率改革活動を推進してきたことが寄与しております。

・環境負荷低減については、当社グループは、長年にわたり継続して取り組んでいるレスポンシブル・ケア活動の一環で、環境負荷低減対策にも積極的に取り組んでまいりました。経営トップを長とするサステナビリティ推進委員会およびその下位委員会であるカーボンニュートラル推進委員会において、GHG削減や省エネルギーの目標の策定、進捗管理、モニタリングを行っております。

・環境負荷低減に必要なイノベーション技術の開発については、社内開発はもとより、産学官連携プログラムや産業界プロジェクトに積極参画し、遅滞ない開発を目指してまいります。技術的なイノベーションをより計画的に進めていけるよう、2035年までの全社環境開発ロードマップの策定も行いました。

・気候変動は当社グループにとってリスクである一方で、機会としても捉えております。当社グループとして設定したSDGs重点項目(気候変動含む7項目:SDGs目標3、7、8、9、12、13、14)を設定し、SDGs貢献製品の2023年度売上収益比率50%以上を目標に取組んでおります。2023年度売上収益比率は61.3%の見込みであり、2023年度目標を大幅に上回る見通しです。これを受けて、新たに中期目標としてSDGs貢献製品の売上収益比率を2026年度65%以上と設定しました。

・リスクマネジメント委員会では、TCFDタスクチームを設置し、当社主要事業についてシナリオ分析を行いました。EVを中心とした自動車関連製品、半導体関連製品、常温保存や鮮度保持機能を有する食品包装用高機能フィルム等が「機会」になると見込んでおります。また機会に関連して、使用する原料や製品の廃棄について、資源循環(3R+Renewable)の観点からケミカルリサイクル、マテリアルリサイクル技術の確立、バイオマス原料の活用が不可欠と認識しており、早期の戦略立案とその実行に努めてまいります。

・これらの活動の状況と結果は統合報告書やCDP(カーボンディスクロージャープログラム)他を通じ継続的かつ積極的に外部発信してまいります。

 

 

 

 

5.法令および規制への対応について

発生時期:不定

発生可能性:低

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・当社グループはグローバルに事業活動を展開しており、日本および諸外国において、様々な分野にわたる広範な法令および規制に服しております。このうち、機能性化学品メーカーである当社グループの事業内容に密接に関わる法令および規制としては、化学物質規制、廃棄物・排水・粉塵の排出に係る規制などがあります。例えば、化学物質規制に関しては、POPs条約への規制物質追加に伴う日本の化審法の第一種特定化学物質が増加予定、欧州REACHやCLPに改正の動きなど、世界的に大きく変化しています。これらの法令や規制の変更に対しては、新たな対策コストが発生する可能性があります。

・また、万一当社グループが現在または将来の法令および規制を遵守できなかった場合には、刑事罰・課徴金・民事訴訟による多額の損失発生、信用失墜などにより経営成績等への悪影響を及ぼす可能性があります。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・当社グループは、事業活動を進めるにあたって、法令および企業倫理を順守することが極めて重要であると認識し、コンプライアンス重視の経営を推進しております。当社グループのコンプライアンス違反リスクの極小化、コンプライアンスのための仕組みづくりの推進、コンプライアンス意識の啓蒙活動の推進を行うため、「コンプライアンス委員会」を設置しております。2023年度は、コンプライアンス委員会を1回開催し、内部通報制度の実効性や対応の妥当性の確認などを行いました。

・総務本部(贈収賄・競争法・安全保障貿易管理コンプライアンスなど)、人事本部(労務コンプライアンス)、生産技術本部(化学品規制・排出規制・安全衛生コンプライアンスなど)、研究開発本部(知財コンプライアンス)、経理企画本部(会計・税務コンプライアンス)などの個別リスク主管部は、当社グループの各部門と連携を取りながら、社内ルールなどの仕組みづくりや教育の実施、事業部門への指導・支援を適宜進めております。例えば、上記で例示した化学物質規制への対応に関しては、当社グループでは各国の最新の化学物質規制への対応もキャッチアップ可能な化学物質管理システムを運用・維持管理することにより、各国の法規制に対する抜け漏れを防ぎ、リスクの低減に努めております。

・当社の監査室、生産技術本部、総務本部等の内部監査を担当する部署では、「内部統制システム構築の基本方針」「内部監査規程」「財務報告に係る内部統制基本規程」「モノづくり監査規程」「安全保障輸出管理規程」等に基づき、当社および海外を含む関係会社を対象として、実地での往査と被監査部門での自己監査結果の点検による書面監査を適宜組み合わせて監査・評価を行っております。監査・評価は、各部門における業務の適法性および各種基準への適合性の観点からモニタリングを行っており、発見され指摘事項として挙げられた不備については、当該部門に対して書面による是正報告を求めております。2023年度のコンプライアンス状況については、環境、人権、労働、安全衛生、製品・サービスの提供や使用、顧客情報やデータの管理、適切な会計処理、公正な取引などの観点でこれらの監査・評価を行った結果、法令や規則に対する重大な違反はありませんでした。

 

・当社グループでは、コンプライアンス違反の早期発見・未然防止を図るため、コンプライアンス違反またはそのおそれを知った場合に、社内窓口(監査室長)または社外窓口(弁護士)に通報できる、内部通報制度(当社グループでは「コンプライアンス通報制度」と称しています。)を導入しております。当社グループの役員、従業員だけでなく、当社グループのステークホルダー(退職者、採用応募者、取引先を含む)も通報することが可能です。通報者のプライバシーを厳重に保護するとともに、通報により通報者が不利益を被らないよう必要な措置を講じております。また、当社グループ共通の「コンプライアンス通報制度」に加え、関係会社によっては、所在国の法令上の要求や会社の規模などを考慮した上で独自の内部通報制度を設置しております。

・近年では、顧客による取引開始や取引継続の条件の一要素として、上記のような法令・規制への対応、コンプライアンス体制の整備・運用が重要視されております。このため、上述のような法令・規制への対応、コンプライアンス体制の整備・運用の維持改善をすることは当社グループにとっての「機会」にもなると考えております。

 

 

6.製品の品質について

発生時期:不定

発生可能性:低

影響度:大

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・当社グループの製品は、自動車・航空機・医療機器・電子材料等の直接・間接に人命に関わる用途にも使用されております。そのため、大規模な製品事故が発生した場合、顧客に損害を与えたり、社会に悪影響を及ぼしたりする結果、損害賠償やリコール等で多額の費用負担が発生するばかりでなく、当社グループに対する信用失墜により、経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

・また、科学技術の進歩や顧客市場や使用方法の変化により、上市後に顧客等から求められる品質管理水準が高くなり、予期せぬ品質問題が生じることもあります。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・当社グループは国際的な品質管理基準(ISO 9001のほか、製品の用途に応じてIATF 16949(自動車部品)、ISO 13485(医療機器)、AS9100(航空宇宙産業)など)に準拠した品質マニュアルに従い、各種製品の設計管理から製造・販売までの一貫した品質管理体制をとっております。

・当社グループでは、有資格者による内部監査や外部監査による現地品質監査により、品質管理状態の検証を年1回行い、各所で抽出された懸念事項を全社で共有して改善する活動を進めるとともに、FMEA、FTAという手法を用いた潜在的品質リスクの洗い出しとその低減対応を行うなどの改善活動を行っております。変更管理、初動管理には特に注意を払った活動を行っております。直近では、海外関係拠点のマザー機能を有する国内主要4拠点においてAI/IoT技術を駆使した人的変動要素の排除とトレーサビリティの強化を行っており、現在、海外主力5工場への展開を進めております。

・また、当社グループでは国内外の全事業所で発生した品質問題について直ちに共有し、一元管理するシステムを構築して、対応の遅れが無いよう逐次監視すると共に、品質問題の初動対応と被害拡大防止、発生と流出防止の対策が効果的であるかの検証を行っております。

・すべての製品に完全に不良や欠陥が無いこと、および将来にわたって全く品質クレームやリコールが発生しないことまでは保証できませんが、これらの取り組みにより、安心して使用できる製品提供に努めてまいります。

・顧客による取引開始や取引継続の条件の一要素として、上記のような国際的な品質管理基準に沿った品質管理体制の整備・運用、認証の取得などが重要視されています。このため、上述のような品質管理体制の維持改善をすることは、当社グループにとっての「機会」にもなると考えております。

 

 

 

7.原材料の供給問題、価格変動について

発生時期:短期

発生可能性:高

影響度:中

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・長引く景気後退による需要減によりサプライヤーが減産、事業縮小、撤退など事業ポートフォリオを見直す動きが増えてきています。その結果、川上原料が入手困難になり廃番などのリスクも増えてきております。各地の紛争等の地政学要因、気候変動、地震など自然災害などによる供給問題、また、物流の2024年問題や法令改正・環境規制の強化による供給不安、円安、原油・非鉄金属などの相場に連動した価格の高騰が起こる可能性があり、そのような場合には、売上減少や収益性の悪化、事業の継続に支障が生じる可能性があります。

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・当社グループでは安定調達を第一に考え、重要原料につき調達先の複数化、適正在庫の確保などによりリスクの低減に努めております。日本国内から調達している重要原料の調達先約100社については、水害・地震・火災・パンデミックなどのBCPについて調達先との協議を重ね、対策実施あるいは計画作成まで完了しました。欧米や中国から調達している重要原料の調達先約80社についても、代替品や安全在庫3ヶ月分以上の確保に向けた対応を進めております。また、新規原材料の採用にあたっては、BCP対策有無の確認に加え、現在製造や流通が禁止されている物質だけではなく、将来的に製造や流通が禁止される蓋然性の高い物質を含まないことを採用の基準の一つとし、リスク低減を図っております。

・植物や鉱物などの天産物由来の原料については、地域が変わることによって生じる組成や成分の違いをコントロールする技術開発にも継続して取り組んでおります。

・主要原材料の価格変動については顧客と協議の上、フォーミュラ制(原料価格変動分を製品価格に自動反映)を適用することも進めております。

・近年では、顧客による取引開始や取引継続の条件の一要素として、サプライチェーンのBCP対応が重要視されております。このため、上述のような対応を充実化させることは当社グループにとっての「機会」にもなると考えております。

 

 

 

8.人的資本リスクについて

発生時期:中長期

発生可能性:高

影響度:中

[ リスクの内容および当該リスクが顕在化した場合の影響 ]

・下記により、事業活動の継続性が確保できず、当社グループにおける経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

- 少子高齢化による労働力人口の減少により、必要な人材の確保・維持ができない

- 未来予測が困難な時代に即した柔軟な組織マネジメントができない

- DX推進に必要な人材が確保できない

- キーパーソン・有能な社員の離職転職、人材採用の遅滞による重要業務の停止・停滞・遅延

 

[ リスクへの対応・機会 ]

・DE&Iを推進することにより、多様な人材の活躍によるイノベーションを創出します。未来の予測が困難な時代においては、多様な視点を持つ人材が異なる意見を持ち寄り柔軟な発想で対応することが必要です。女性の活躍推進、介護や障がい等で就業に制約がある社員や、文化的背景が異なる外国人、LGBTQの方など、多様な人材が活躍できる会社にしていきます。

・マネジメント教育の充実、360°評価を用いた教育の拡大により、マネジメント層のリーダーシップを強化することで、個人および組織のパフォーマンスの向上につなげていきます。

・人材確保だけでなく、DE&Iの観点からも、新卒+キャリアのハイブリッド採用を推進していきます。

・データサイエンスの活用および全社的なDXをさらに推進するため、関連する教育講座を増設するとともに、褒賞制度も含めたデータサイエンティスト社内認定制度を導入しています。認定者以外にも、各種教育を通じてプログラミングやデータ分析技術に精通し、課題解決が可能な「データ活用人材」の輩出を目指します。

・エンゲージメントサーベイによる科学的な分析結果をもとに、必要な施策をとり、従業員のエンゲージメント向上によるパフォーマンス向上を図ります。

 

 

 

なお、「第2 事業の状況 1. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の経営の重要課題(マテリアリティ)と主要リスクとの対比は次のとおりであります。

 

経営の重要課題(マテリアリティ)

主要リスク

環境・社会価値の創造

環境負荷低減対策(気候変動対応を含む)

価値創造のアクセル

 

顧客との共創

人的資本(人材の活躍)経営

人的資本リスク

イノベーション

DX

人的資本リスク

事業を継続する基盤

 

安全衛生

災害・事故・パンデミック

製品責任

製品の品質/法令・規制への対応

コンプライアンス

法令・規制への対応

サイバーセキュリティ

情報セキュリティインシデント

人権尊重

法令・規制への対応

サステナブル調達

原材料の供給問題、価格変動について/災害・事故・パンデミック/地政学リスク

コーポレート・ガバナンス

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況)

(1) 当期の経営成績の状況

当期の経済環境は、新型コロナウイルス感染症の収束により経済活動は回復に向かいましたが、ウクライナ情勢の長期化や中東情勢の悪化による物価上昇や、主要国の金利引き上げにより回復は鈍化しました。米国では個人消費が堅調に推移しましたが、金融の引き締めの継続により企業の生産活動は回復には至りませんでした。欧州では、インフレによる個人消費の冷え込みにより、景気の回復が停滞しました。中国では輸出入に回復の兆しが見えるものの、不動産不況を背景とする景気悪化が継続し、内需の回復には至りませんでした。為替相場は第3四半期末に一時的に円高・ドル安方向に変動しましたが足元では反転し、近年にない円安・ドル高の水準になっております。

このような情勢のもと、当社グループの売上収益は、円安為替評価による海外売上の増加に加え、原料価格上昇に対応して製品価格改定を行った結果、前期と比べ0.8%増(以下の比率はこれに同じ)の2,872億67百万円となりました。事業利益は、販売品種の高付加価値品へのシフトや価格改定などの収益構造の改善により、7.9%増の274億58百万円、営業利益は、9.6%増の272億円となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、受取利息の増加、為替差益等により7.6%増の218億31百万円となり、いずれも過去最高益となりました。

ROEにつきましては、分子である親会社の所有者に帰属する当期利益が前期と比べ増加したものの、為替変動の影響により分母である親会社の所有者に帰属する持分の増加額が上回った結果、0.6%減の7.8%となりました。

 

(セグメント別販売状況)

① 半導体関連材料

[売上収益 82,917百万円(前期比 4.2%増)、事業利益 16,139百万円(同 5.3%増)]

 

半導体封止用エポキシ樹脂成形材料は、パソコン、スマートフォンなどの需要が世界的に低迷していることから、情報通信機器向けの販売の苦戦が続いておりますが、モビリティ用途ではEV向けの需要が鈍化したものの、HV向けの販売増により販売数量・売上収益は前期を上回りました。

感光性ウェハーコート用液状樹脂は、DRAM向けに回復の兆しが見えてきた一方、昨年の秋から在庫調整の局面に入り、売上収益は前期を下回りました。

半導体用ダイボンディングペーストは、LED向けの販売増加等、中国での拡販活動の成果が出始めたものの、台湾などの情報通信機器向けの販売不調により売上収益は前期を下回りました。

半導体パッケージ基板材料「LαZ®」シリーズは、中国製スマートフォン向けの販売が順調に伸び、売上収益は前期を上回りました。

 

② 高機能プラスチック

[売上収益 101,401百万円(前期比 0.9%減)、事業利益 5,302百万円(同 14.3%増)]

 

工業用フェノール樹脂およびフェノール樹脂成形材料は、国内および中国、アジア地区では自動車や電機部品向けの需要が堅調に推移しましたが、北米の自動車タイヤ用や欧州の建築断熱材用は十分な水準まで回復しておらず、売上収益は前期比では減少しました。

銅張積層板はエアコンを含む家電の需要が低迷しており、売上収益は大幅に減少しました。

航空機内装部品は、新型コロナウイルス感染症の収束による旅客輸送の増加にともない、航空機の生産機数の増加による旺盛な需要が期初から継続し、売上収益は大幅に増加しました。

フェノール樹脂成形品は、中国での自動車用部品の拡販が好調なことから販売が増加しました。

 

 

③ クオリティオブライフ関連製品

[売上収益 102,186百万円(前期比 0.1%減)、事業利益 9,723百万円(同 5.6%増)]

 

医療機器製品は、国内・アジア・米国向けの血液関連製品の販売が大幅に増加し、透析用ろ過装置も堅調に推移したことで売上収益は前期を上回りました。

バイオ関連製品は、新型コロナウイルス感染症の流行による需要が落ち着き、売上収益は減少しました。

ビニル樹脂シートおよび複合シートは、医薬品包装用途はジェネリック医薬品の在庫拡充を背景に好調を継続しておりますが、食品包装用途はカット野菜での需要が落ち込み、産業用途は中国を中心とした需要が足元は回復基調にあるものの、十分な水準まで回復しておらず売上収益は前期比で減少しました。

ポリカーボネート樹脂板および塩化ビニル樹脂板は、サングラス用偏光板や車載用ヘッドアップディスプレイなどの高付加価値製品で販売数量を伸ばした一方、タブレットPC、電源アダプター向けの絶縁材や主力の国内建材用途、成型用産業用途の販売数量減により、売上収益は前期比で減少しました。

 防水関連製品は、集合住宅向けが好調に推移し、売上収益は増加しました。

 

(2) 当期の財政状態の状況

①資産の部

資産合計は、前連結会計年度末に比べ627億5百万円増加し、4,411億62百万円となりました。

主な増減は、現金及び現金同等物、有形固定資産およびその他の金融資産の増加であります。

②負債の部

負債合計は、前連結会計年度末に比べ166億69百万円増加し、1,374億35百万円となりました。

主な増減は、コマーシャル・ペーパーの発行による増加であります。

③資本の部

資本合計は、前連結会計年度末に比べ460億35百万円増加し、3,037億27百万円となりました。

主な増減は、当期利益の計上および為替変動影響による増加と、配当金の支払および自己株式の取得による減少であります。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金および現金同等物(以下、資金)は、前連結会計年度末に比べ220億16百万円増加し、1,216億35百万円となりました。

①営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動により得られた資金は402億17百万円となりました。

これは主に、税引前利益および減価償却費による収入と、法人所得税の支払による支出の結果であります。前期と比べると165億99百万円の収入の増加となりました。

②投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動に用いた資金は211億18百万円となりました。

これは主に、有形固定資産の取得による支出の結果であります。前期と比べると54億70百万円の支出の増加となりました。

③財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動に用いた資金は62億76百万円となりました。

これは主に、コマーシャル・ペーパーの発行による収入と、配当金の支払および自己株式の取得による支出の結果であります。前期と比べると166億78百万円の支出の減少となりました。

 

 

(4) 資本の財源および資金の流動性に係る情報

  ①財務戦略の基本的な考え方

 当社グループは、健全かつ安定した財務基盤の維持を前提に、資本効率の向上を図り、事業活動の成長と拡大のための投資を継続的に行い、安定かつ継続的に株主還元を行うことを財務戦略の基本方針としております。

 財務基盤に関しては、親会社所有者帰属持分比率は65%を超え、ネットキャッシュは650億円超のプラスという状況で、安定した水準を維持しております。引き続き財務体質の改善、信用力向上のための取組みに努めてまいります。また、資産効率に関しては、以下の施策をこれまで以上に強力に推進してまいります。

・収益性向上による営業キャッシュ・フロー確保のため、低採算・不採算事業の撲滅改善、製造原価の低減に加え、開発効率の向上や間接業務の効率化等の費用削減。

・資産のスリム化のため、売掛債権の回収促進、棚卸資産の適正水準や滞留の管理強化、政策保有株式の適宜見直し、不要・遊休資産の処分・売却の徹底、グローバルおよびリージョナルファイナンスによるグループ内資金の効率的な活用。

 

②資金需要

 当社グループの資金需要の主なものは、生産効率および品質の維持向上、生産能力増強を目的とした設備投資等の長期の資金需要と、製品製造のための原材料および部品の購入費、製造経費、販売費及び一般管理費等の運転資金需要のほか、M&A、DX等の戦略的投資のための需要があります。

 

③資金調達

 当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、自己資金および外部資金を有効に活用しております。

 資金調達にあたっては、様々な手段の中から、その時々の市場環境も考慮したうえで、当社グループにとって最適かつ有利な手段を機動的に選択しております。

 当社グループは、主要な取引先金融機関との間で長年にわたり良好な関係を維持しており、長期借入金、短期借入金、シンジケートローン等による資金調達のほか、緊急時の手元流動性と資金調達枠の確保を目的として、取引先金融機関との間に短期借入金枠およびコミットメントラインを設定しております。さらに金融市場からの安定的な資金調達能力の維持向上に努め、国内2社の格付機関から格付けを取得し、コマーシャル・ペーパーの発行による資金調達も行っております。

 これらにより運転資金および設備資金に加え、戦略的な投資に対しても十分な流動性が確保でき、機動的かつ円滑な資金調達が可能となっております。

 

(5) 生産、受注および販売の実績

①生産実績および受注実績

当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産を行わないため、セグメントごとに生産規模および受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

このため生産の実績については、「第2 事業の状況 4.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (セグメント別販売状況)」に関連付けて示しております。

 

 

②販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前期比増減(%)

半導体関連材料

82,917

4.2

高機能プラスチック

101,401

△0.9

クオリティオブライフ関連製品

102,186

△0.1

その他

763

△1.6

合計

287,267

0.8

 

(注) セグメント間取引については、相殺消去しております。

 

(6) 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、売上収益、事業利益およびROEを業績目標の指標に設定しております。

中期経営計画で掲げた最終年度(2026年度)の数値目標は「第2 事業の状況 1.経営方針、経営環境および対処すべき課題」および「第2 事業の状況 2.サステナビリティに関する考え方及び取組」に、各指標の当連結会計年度における達成状況については「(1) 当期の経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

(7) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積りおよび見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

  該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社は、経営方針の一つとして、持続可能な世界を実現するために2015年に国連で採択されたSDGsについて、全社規模で必要な施策を推進しております。当連結会計年度の研究・開発においても、社会課題解決につながる顕在ニーズのみならず潜在ニーズにも応えていくために、3つの創生領域として掲げる「高集積デバイス」、「自動車・航空機」、「ヘルスケア」領域において、SDGsを意識したイノベーションによる未来価値(環境価値、社会価値、経済価値)・競争優位性の高い革新的製品および技術の開発を推進しております。また、3R(リデュース、リユース、リサイクル)活動やカーボンニュートラルを目指した環境課題に研究・開発段階から取り組むと共に、LCA(ライフサイクルアセスメント)による環境影響評価ができる人材育成を推進しております。

当社グループは、中長期的視野に立ち新製品およびそれに必要な要素技術の研究を担当する先端材料研究所およびバイオ・サイエンス研究所、生産技術開発を担当するコーポレートエンジニアリングセンター、全社のデータ駆動型の研究・開発を推進するMI推進プロジェクト、ならびに新製品の商品化および現製品の改良研究を担当する各製品別5研究所(情報通信材料研究所、HPP技術開発研究所、フィルム・シート研究所、産業機能性材料研究所、およびSBカワスミ株式会社の殿町メディカル研究所)、さらに放熱材料事業開発部、光電気複合インターポーザ事業開発推進部、次世代電動アクスル事業化推進プロジェクトチーム、光回路材料開発プロジェクトチーム、電子調光デバイス開発推進プロジェクトチームという体制で、当社のコア事業分野である①半導体関連材料、②高機能プラスチック、③クオリティオブライフ関連製品における各マーケット動向に即座に対応すべく、研究・開発活動を進めております。

今期MI推進プロジェクトでは、従来では難しかった放熱性向上のための新規ポリマー構造を見出すことができました。また、複数特性を両立する処方の迅速な発見(従来比30%短縮)等の成果をあげました。さらにデータサイエンティストの養成と社内認定を行い、実践的なスキルと経験を有する人材を延べ45名認定しました。今後も情報科学技術の活用と実践による、さらなる価値創出およびデータ活用能力の向上を目指していきます。

また、コーポレート部門は海外研究・開発拠点として米国以外にもベルギーに技術駐在員を置くことにより一層ワールドワイドでの情報収集能力を強化しました。情報通信材料関係は中国、台湾、シンガポール、米国、ベルギーにオープンラボ機能を持った研究・開発拠点があります。高機能プラスチック関係は米国、カナダ、ベルギー、スペイン、中国、インドネシアに研究・開発拠点があり、米国とベルギーにはオープンラボ機能を併設しています。国内組織と緊密な連携をとりながらグローバル市場のニーズに対応しております。

さらに今期は2022年度に新規事業・研究開発テーマを継続的かつ着実に創出できる組織を目指して導入したイノベーション・マネジメントシステムを活用・推進しました。これにより、全社の売上に貢献する新プロジェクトになり得る大型テーマの発掘を目指します。

 

当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は12,641百万円であります。なお、この中には基礎研究等費用3,155百万円が含まれております。

各セグメント別の研究・開発活動は次のとおりであります。

 

①半導体関連材料

半導体封止用エポキシ樹脂成形材料、半導体用液状樹脂、半導体用感光性樹脂およびパッケージ基板用材料の開発に重点を置いております。当連結会計年度は、下記5製品を開発、上市しました。

開発・上市品

インジェクション成形対応車載センサー向けエポキシ樹脂封止材

絶縁ゲートドライバー向け高耐圧エポキシ樹脂封止材

次世代パネルレベルパッケージ用顆粒封止材

パワーモジュール向け高放熱TIM用Agシンタリング材

パワー半導体埋込基板向け高熱伝導樹脂フィルム材

 

なお、当セグメントに係る研究開発費は、4,088百万円であります。

 

②高機能プラスチック

高機能成形材料と精密成形技術を基盤技術として、自動車、電機部品用等の産業資材用樹脂、成形材料および成形品の開発を進めております。特に環境対応材料に注力した開発を進めております。当連結会計年度は、下記7製品を開発、上市しました。

開発・上市品

軸受け用高摺動高耐熱フェノール樹脂成形材料

バッテリー用高難燃フェノール樹脂成形材料

自転車ブレーキ用高耐熱高剛性フェノール樹脂成形材料

コイルエンド用高絶縁エポキシ粉体塗料

12W高放熱ボンディングシート

コーティング用超低モノマーフェノール樹脂

センサー用高耐熱ポリシクロオレフィン樹脂

 

なお、当セグメントに係る研究開発費は、1,821百万円であります。

 

③クオリティオブライフ関連製品

医療機器・器具、バイオ関連製品、医薬・食品等各種包装用材料および建築材料を中心に開発を進めております。医療機器については特に低侵襲治療分野に注力した開発を進めております。当連結会計年度は、下記12製品を開発、上市しました。

開発・上市品

狭窄治療用ステント

・狭窄治療用ステント中央部拡張力強化型

・胆管狭窄治療用ステント後端くびれ型

・大腸狭窄治療用ステント低剛性型

採血用デバイス

・翼状針ワンタッチ誤刺防止機能付き

・血液移管キット

内視鏡用デバイス

・黒色ソフト先端筒

・把持具

糖鎖分析自動前処理用サンプル調製キット

レーザー切断用ダイシングテープ

高防湿・耐UV医薬品包装用シート

キャパシタバスバー向け絶縁シート加工品

ヘッドアップディスプレイ用高耐光ハードコート付き光学カバーシート

 

なお、当セグメントに係る研究開発費は、3,578百万円であります。