第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

(1) 会社の経営の基本方針

当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。これらには、グループ従業員等の一人ひとりが自ら挑戦し、新しい価値を社会に提供し続け、未来に向けて成長していく、という思いを込めています。

経営理念

「誠と和と意欲」をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する

経営ビジョン

「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。

経営方針

1. 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も“日々是進化”を遂げる

2. 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する

3. 進取の気性に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ

4. ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社は、キャッシュ・フロー(CF)を常に意識した経営を展開しており、「ROE (Return On Equity)」と「自己資本比率」をKPIと捉え、自己資本の効率性向上による中長期的な企業価値最大化と財務の安定性維持に取り組みます。

なお、取締役(社外取締役及び監査等委員であるものを除く。)、執行役員及び理事を対象とした現行の業績連動型株式報酬制度においては、その評価指標として、本制度の対象期間における各事業年度の期初に定める営業利益目標及び中期経営計画に掲げる営業利益を採用しています。また、金銭の業績連動型報酬(年次役員賞与)においては、当該連結会計年度における連結ROEに加え、売上高、営業利益及びESG/SDGs目標の達成度等の指標を用いています。

(3) 中長期的な経営戦略、経営環境及び対処すべき課題等

今後の見通しにつきましては、当社グループの主力である通信計測事業においては、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が今後も拡大していくことが期待できます。また、自動車の5G搭載に向けた開発、非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)関連の開発、5Gミリ波の整備などでの測定需要の拡大や「Release 18」(※1)以降で標準化される5G-Advancedや6Gに向けた測定需要の獲得を目指していきます。PQA事業においては、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要を確実に捉え、海外市場の売上拡大を目指します。環境計測事業においては、堅調な推移が見込まれる国内のEV・電池向け試験需要を確実に捉えていきます。

当社グループは、関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込めた、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針のもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。

※1 3GPPで標準化される規格番号

① 中長期的な経営戦略及び中期経営計画

当社グループは、主力の通信計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。現在の5Gシステムに代表される通信インフラの様々なイノベーションは、社会を劇的に変革するとともに、人類に「つながる」ことの豊かさを提供し、グローバル社会の進歩を生み出してきました。「誠と和と意欲」、“オリジナル&ハイレベル”を経営理念とするアンリツは、コアコンピタンスである「はかる」技術をベースに、情報通信分野と食品・医薬品分野を中心に支えてまいりました。

当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。

当社グループは、中長期経営戦略のもと、2021年4月に中期経営計画GLP2023を策定し、2024年3月期までの3年間を、5G通信計測市場のピークに向けた成長の期間であり、かつ新たな芽を成長させる期間と捉え、その実現に向けた取組を進めてまいりました。GLP2023を総括しますと、計画期間においては、コロナ禍、米中摩擦、電子部品の需給問題、インフレ等が生じ、策定当初に予測していた5G通信計測市場のピークの実現はみられず、これらの影響もあり5Gの市場は減速し、GLP2023は期間満了を迎えることとなりました。このような中、当社グループは、部材調達リスクに対して戦略的な部品在庫の確保及び適切な棚卸水準に向けた施策を実施し、また原材料価格の高騰やインフレに伴う費用の増加に対して価格転嫁の推進や業務効率化に取り組みましたが、主としてモバイル市場の不振による通信計測事業の売上収益悪化のもと、当連結会計年度の5G関連測定器の売上収益は、計画初年度(2021年3月期)に比し減少する結果となり、GLP2023での計画最終年度(2024年3月期)目標として当初掲げていた目標は未達となりました。一方で、GLP2023の3年間で新領域を開拓していく取組を立ち上げ、全社を挙げてビジネスを展開した結果、当社グループで1,100億円に迫る売上収益を確保することができました。

当社グループは、2024年4月に、新たな3ヶ年の中期経営計画GLP2026をスタートいたしました。GLP2026では、前中期経営計画GLP2023で育てた新しい芽を事業の柱へと成長させ、計画最終年度(2027年3月期)で、連結売上高1,400億円、営業利益200億円、営業利益率14%を目指します。

GLP2026の3年間は、5Gから6Gへの移行期であり、2030年度に売上高2,000億円企業となるための重要なマイルストーンと位置付けております。

GLP2026では6Gと3つの新領域ビジネスを重点的に拡大します。3つの新領域ビジネスは“産業計測”と“EV/電池”そして“医薬品/医療”です。M&Aとオーガニックで、新領域ビジネスの成長を加速し、更には来るべき6Gビジネスの需要を確実に獲得するための準備をいたします。

中期経営計画(GLP2026)基本方針

1. 成長投資に400億円以上(M&A+設備投資)

2. ROE≧10%を安定的に達成する事業ポートフォリオの構築

3. 2026年度(2027年3月期)の営業利益の25%を通信計測事業以外で創出

4. 新領域ビジネスの人材強化、全社で人材育成体制を構築

5. 事業活動における資源循環(サーキュラーエコノミー)の実現

6. 株主還元では配当性向50%以上を目指す

 

当連結会計年度の実績及びGLP2026に掲げる主な経営数値目標は下表のとおりです。なお、2024年3月期より、従前「その他の事業」に含まれていた「環境計測事業」を報告セグメントとして記載する方法に変更しております。

当社グループは、引き続き、中長期的な経営戦略及び中期経営計画の実現を図り、資本コストを意識した成長投資(含むM&A)と資本効率の改善で、企業価値KPI(ROE)の向上を目指します。

 

 

2024年3月期

(GLP2023目標)

2024年3月期

(実績)

2025年3月期

(業績見通し)

2027年3月期

(GLP2026目標)

売上収益(億円)

1,400

1,099

1,150

1,400

営業利益(億円)

270

89

110

200

当期利益(億円)

200

76

83

150

通信

計測

事業

売上収益(億円)

1,000

710

738

900

営業利益(億円)

230

75

92

150

PQA

事業

売上収益(億円)

270

253

267

300

営業利益(億円)

27

12

19

36

環境

計測

事業

売上収益(億円)

74

90

130

営業利益(億円)

5

7

14

ROE(%)

15

6.3

7

12

※ 億円未満を切り捨てて表示しています。なお、2025年3月期の業績見通しは、2024年4月25日に公表した「2024年3月期決算短信〔IFRS〕(連結)」に基づいています。

また、GLP2026では、当社グループのサステナビリティ目標を掲げ、その達成に向けた活動を推進しています。サステナビリティ推進活動、ダイバーシティ推進等の当社グループのサステナビリティに関する事項は、後記2「サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。当社グループは、ブランド・ステートメントに「Advancing beyond」を掲げ、皆様とともに進歩と進化へ向けて歩み続けていきたいという強い思いを込めて発信しています。さらなる高みを目指すとともに、お客様のビジョン実現を通じ社会のサステナビリティに貢献したいという姿勢を示しています。今後とも経営資源を最大限に活かして安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献し、企業価値の向上に努めてまいります。

② コーポレート・ガバナンスの充実

当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレート・ガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組に加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレート・ガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。

当社グループのコーポレート・ガバナンスに関する事項は、後記第4「提出会社の状況」の4「コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1) サステナビリティに関する方針

当社は2030年に向けて、2021年4月に経営ビジョンと経営方針を改定し、これに合わせてサステナビリティ方針を改定しました。本方針は、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されるという考え方に立つものであり、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられた5つのP、すなわち「People」、「Planet」、「Prosperity」、「Peace」、「Partnership」の要素を包含しています。

 

サステナビリティ方針

私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。

1. 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。

2. 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。

3. すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。

4. 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。

5. ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。

 

(2) マテリアリティ(重要課題)

当社は、『「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。』という経営ビジョンのもと、「安全・安心なインフラを整備し、持続可能な社会の建設につながる産業の創造とイノベーションの促進に貢献する」を、社会課題解決におけるグループ全体の取組としています。この実現に向けて、「事業を通じて解決する社会課題」と「社会の要請に応える課題(ESG)」への対応を両輪とするサステナビリティ経営を通じて「グローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献すること」を目指し、事業分野別とESG分野別のマテリアリティを設定しています。

マテリアリティは、社会課題の重要度と当社の企業価値向上の2つの視点で適宜見直しています。2021年4月の経営ビジョン、経営方針およびサステナビリティ方針の改定と組織体制の変更、さらに2022年1月に㈱高砂製作所をグループに加えたことから、2022年度にマテリアリティを見直しました。2024年度から始まる新たな3ヶ年の中期経営計画「GLP2026」の編成において、マテリアリティの更新が必要となるような社会や市場、顧客動向の変化は見られないと判断し、これまでのマテリアリティを継続することとしました。

 

<事業セグメント別マテリアリティ>

通信計測事業、PQA事業、環境計測事業および「その他」セグメントに含まれるセンシング&デバイス事業において、事業を通じた社会課題解決への貢献に向けて、各事業の特長や強みを踏まえたマテリアリティを設定しています。

通信計測事業:DX技術革新への対応、強靭なITインフラ整備

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、安全・安心な通信インフラの構築に通信テストソリューションで貢献する

PQA事業     :食品ロスの低減、品質保証ソリューションの提供

安全で安心できる食品や医薬品の安定供給を目指すお客さまをサポートし、高信頼・高感度の検出機と品質管理制御システムで生産ラインの品質検査工程自動化や食品ロス低減に貢献する

環境計測事業(㈱高砂製作所含む):自然災害に対する防災・減災、脱炭素社会へ貢献する製品の提供

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、情報通信ソリューションで新たなデジタル社会の変革、EV(電気自動車)や電池の評価ソリューションで脱炭素社会の実現に貢献する

センシング&デバイス事業:強靭なITインフラ整備、健康的な生活の確保

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、光デバイス事業、超高速電子デバイスで安全・安心で快適な社会の実現に貢献する

 

<ESG分野別マテリアリティ>

サステナビリティ方針に基づいて設定した社会の要請(ESG)に応えるマテリアリティは以下のとおりです。

環境(E):気候変動への対応

世界的な気候変動は、洪水や干ばつなどの自然災害を引き起こし、人々の生活や経済活動に多大な影響を及ぼすことから、当社は気候変動への対応を最も重要なマテリアリティとしています。

当社の製造拠点である福島県郡山市の東北アンリツ㈱第一工場は、過去2回にわたり河川氾濫による浸水被害に遭いました。取引先さまも被災し、当社の調達・製造・物流のバリューチェーン全体に影響をもたらしました。

気候変動に大きく影響する温室効果ガスの排出量削減のため、当社は再生可能エネルギー(以下、「再エネ」といいます。)の自家発電・自家消費に優先的に取り組んでいきます。

社会(S):人権の尊重、多様性の推進(ダイバーシティ&インクルージョン)

複雑で変化が多く予測困難な現代において企業が成長を続けていくためには、多様な価値観を持つ人材の力が必要となることから、当社は人権の尊重と多様性の推進をマテリアリティとしています。また、個々人の能力向上が会社の成長に欠かせないことから人材の育成にも取り組んでいきます。

ガバナンス(G):経営の透明性維持

当社は社会の信頼と期待に応える企業になるために、経営の透明性維持をマテリアリティとしています。

コーポレート・ガバナンス強化のために取締役会の実効性向上に取り組むほか、リスクマネジメント推進や社会的責務である情報セキュリティの強化を進めていきます。

 

区分

マテリアリティ

事業セグメント別

通信計測

DX技術革新への対応

強靭なITインフラ整備

PQA

食品ロスの低減

品質保証ソリューションの提供

環境計測

自然災害に対する防災・減災

脱炭素社会へ貢献する製品の提供

センシング&デバイス

強靭なITインフラ整備

健康的な生活の確保

ESG分野別

環境(E)

気候変動への対応

社会(S)

人権の尊重

多様性の推進(ダイバーシティ&インクルージョン)

ガバナンス(G)

経営の透明性維持

 

(3)サステナビリティ共通の開示

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、さまざまな要因により実際の結果と大きく異なる可能性があります。

 

①ガバナンス

当社は、取締役会がサステナビリティ経営を監督し、サステナビリティ推進担当役員が推進活動とリスク管理の責任者を務めています。2022年4月からは、気候変動をはじめとするさまざまな課題への対応の重要性を踏まえて、グループCEOが担当役員となっています。主要な部門・グループ会社の代表者からなるサステナビリティ委員会が推進活動の主体となり、重点項目を明確にして情報を共有し、改善に向けた議論を行い、その内容を各代表者から各部門に展開・浸透させています。また、サステナビリティ推進担当役員が経営戦略会議および取締役会において進捗状況を報告し、議論しています。2023年度の取締役会では、19件のサステナビリティ課題に関する議論を行いました。

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※上図は2024年4月1日現在のものです。

 

②戦略

当社のコンピテンシーである「はかる」技術を事業における取組の核とし、4つのカンパニー(通信計測、インフィビス(PQA事業)、環境計測、センシング&デバイス)と先端技術研究所のコラボレーション、強固な財務体質を生かした積極的な成長投資により、既存事業の拡大と6Gおよび3つの新領域(産業計測、EV/電池、医薬品/医療)開拓を通じて持続可能な社会づくりにおける貢献領域を広げ、2030年度に連結売上高2,000億円を目指します。ESG課題への対応は、環境や社会への悪影響を最小限に抑え、全ての人が生き生きと働き、暮らせる社会につながるものと捉え、中期経営計画(GLP)で目標を掲げて取り組みます。

また、製造会社である当社は、「強い“ものづくり”の会社」として調達能力向上・災害対策強化・生産の自動化を進め、労働生産性を高める働き方改革により社員の生活の充実を図ります。

これらにより『「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。』の経営ビジョンを実現し、グローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献いたします。

 

6Gと3つの新領域を重点的に開拓

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③リスク管理

当社は各事業部門、コーポレート部門、グループ会社がGLPを策定し、その計画はリスクと機会を構成要素の一つとしています。 経営戦略会議において、計画策定時および毎年のレビュー時にリスクの低減と機会の実現・成長について審議し、取締役会に報告しています。

④ 指標と目標

当社は社会課題の解決に向けて、GLPでサステナビリティ目標を掲げて取組を進めています。GLP2023の結果とGLP2026の目標は以下の通りです。

 

・GLP2023(2021年度から2023年度まで)のサステナビリティ目標

 

KPI

GLP2023サステナビリティ目標※1

結果

環境

(E)

温室効果ガス(Scope1+2)※2

2015年度比 23%削減※3

36.6%削減(参考値)※4

温室効果ガス(Scope3)※2

2018年度比 13%削減※3

38.8%削減(参考値)※4

自家発電比率(PGRE 30)※5

13%以上(2018年度電力消費量を基準)

10.4%(参考値)※4

社会

(S)

女性の活躍推進

女性管理職比率15%以上

11.2%(2024年3月末)

高齢者活躍推進

70歳までの雇用および新処遇制度確立

70歳までの雇用および新処遇制度運用継続

障がい者雇用促進

職域開発による法定雇用率2.3%達成

障がい者雇用率2.66%(2024年3月末)

サプライチェーンデューデリジェンスの強化

3年累積10以上

8社実施(3年累積で20社)

CSR調達に係るサプライヤへの情報発信2回/年以上、教育1回/年以上

情報発信3回、教育2回実施

ガバナンス

(G)

取締役会の多様性の推進

社外取締役比率50%以上

社外取締役比率50%継続(10名中5名)

海外子会社の内部統制構築

全海外子会社が統制自己評価(CSA)の基準を満たす

全ての項目で基準を満たす会社:90%

※1 環境分野における温室効果ガス、自家発電比率に関する目標のバウンダリーは、当社および国内子会社、海外の製造子会社(米国、英国、ルーマニア、中国、タイ)。社会分野における女性管理職比率は連結の目標値。高齢者活躍推進は当社および国内子会社の取組。障がい者雇用促進は当社および特例子会社である㈱ハピスマを合算した目標値。サプライチェーンは当社の目標。ガバナンスは当社の目標。

※2 Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)/ Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出/ Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)/ 当社ではScope3のKPIにカテゴリ1および11を採用。

※3 本目標は、カーボンニュートラル宣言前に策定し、Scope1+2は2℃目標、Scope3はWell-below2℃目標でSBTイニシアチブの認証を取得したものであり、後記(4)気候変動 <TCFD提言に沿った情報開示>で掲載している④指標と目標の値とは異なる。2℃目標は産業革命前と比較して気温上昇を2℃以内に抑える水準、 Well-below2℃目標は産業革命前と比較して気温上昇が2℃を十分に下回る水準。SBTイニシアチブは、企業に対し「科学的根拠」に基づく「二酸化炭素排出量削減目標」を立てることを求めている国際的なイニシアチブ。

※4 第三者検証前のため、参考値として記載。検証後の数値については、サステナビリティレポートや統合報告書に記載。

※5 PGRE 30:(4)気候変動 に説明を記載。

 

・GLP2026のサステビリティ目標

GLP2026(2024年度から2026年度まで)では、GLP2023の結果と課題、社会の動向を踏まえて、以下の目標を設定しました。

 

目標※1

KPI

環境

(E)

温室効果ガスの削減

・Scope1+2:2021年度比 23%以上削減

・Scope3(Category1+11):2019年度比17.5%以上削減

(2030年度で、Scope1+2は42%以上、Scope3は27.5%以上削減)

自家発電比率の向上(PGRE 30)(連結)

14%以上(2018年度電力消費量を基準)

(2030年ごろまでに30%程度まで高める)

資源循環(サーキュラーエコノミー)の実現

・資源循環に対応した製品をリリースする

・プラスチックごみを100%マテリアルリサイクル※2

社会

(S)

ダイバーシティ経営の推進

・女性の活躍推進:女性管理職比率 15%以上(連結)

・障がい者雇用促進:職域開発による法定雇用率 2.7%達成

働きがいのある労働環境の実現

・社員満足度調査の働きがいポジティブ回答率:80%以上

グローバルなCSR調達の推進
(環境、労働環境、人権などにおける社会的責任)

サプライチェーンデューデリジェンスの強化10以上/年

・CSR調達に係るサプライヤへの情報発信:3回/年、教育2回以上/年

ガバナンス

(G)

グローバルなガバナンス向上

・取締役の多様性の推進:女性取締役比率 20%以上

取締役会における経営課題の集中討議6/年

※1 環境分野における温室効果ガス、自家発電比率に関する目標のバウンダリーは、当社および国内子会社、海外の製造子会社 (米国、英 国、ルーマニア、中国、タイ)。資源循環に対応した製品は、各事業セグメントにおける取組。プラスチックごみについては、国内事業所から排出されるプラスチックごみが対象。社会分野における女性管理職比率は連結の目標値。障がい者雇用促進は当社および特例子会社である㈱ハピスマを合算した目標値。社員満足度調査は、当社および国内子会社における調査の目標値。サプライチェーンは当社の目標。ガバナンスは当社の目標。

※2 マテリアルリサイクルは、廃棄物を同じ製品の原材料として再利用する方法。

 

なお、GLP2023における事業を通じて解決する社会課題のサステナビリティ目標は、通信計測セグメントでDX技術革新や強靭なITインフラ整備に貢献する「5G、Beyond 5G、5G利活用、400G/800G向け当社製品の提供増」、PQAセグメントで食品ロス低減や品質保証に貢献する「検査精度・感度・機能を向上した新製品の売上に占める割合増」として取り組みました。GLP2026においても、同様の目標で推進します。

 

(4) 気候変動

当社は、温室効果ガスの排出量削減計画(Scope1+2:2℃目標、Scope3:Well-below 2℃目標)をSBTイニシアチブ(SBTi)に提出し、2019年12月に承認されました。検討段階では再エネ電力証書の購入も選択肢としていましたが、当社グループの事業遂行に必要な電力を自社でも発電していくことがSDGsの目指す姿に適うものと判断し、再エネ自家発電(PGRE:Private Generation of Renewable Energy)に取り組むことにしました。2020年3月に「Anritsu Climate Change Action PGRE 30 *(以下、「PGRE 30」といいます。)」を策定し、温室効果ガスの排出量削減を進めています。 主要拠点である神奈川県厚木市、福島県郡山市、米国カリフォルニア州Morgan Hillの3地区に自社消費用の太陽光発電設備を導入・増設することで、SDGsの目標7のターゲット7.2に掲げられた「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再エネの割合を大幅に拡大させる」という目標達成に貢献してまいります。

* PGRE30は、一部の子会社を除いた2018年度の当社グループの電力使用量を基準に、再エネの一つである太陽光自家発電比率を、2018年度の0.8%から2030年頃を目途に30%程度にまで高めていく野心的な目標です。

2022年12月には、2050年までにScope1+2における温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す宣言を行い、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)のRace To Zeroに参加しました。この実現に向けて、2030年をターゲットとする中期目標を再検討し、Scope1+2の温室効果ガス削減目標を1.5℃目標[※]に引き上げました。Scope3(Category1、Category11)においても削減目標を再設定しました。2023年5月にこれらの目標をSBTiに再申請し、2024年2月に承認されました。

※ 産業革命前と比較して気温上昇を1.5℃以内に抑える水準

 

<TCFD提言に沿った情報開示>

① ガバナンス

当社は、取締役会が気候変動全般に関する課題や取組を監督しています。気候変動に関する取組の推進は、グループCEOおよびCFOが責任を負っています。リスクと機会の管理は、グループ全体のリスクマネジメントシステムに組み込まれ、環境総括役員がリスク管理責任者としての責務を負っています。環境総括役員は、グループ全体の環境戦略を担う環境・品質推進部を所管するとともに、国内グループの環境管理委員会の委員長、海外グループのグローバル環境管理会議の主宰者を務め、リスクと機会をグローバルに評価・管理しています。現在は、気候変動対応の重要性を踏まえて、グループCEOが自ら環境総括役員に就いています。

取締役会は、経営戦略会議において審議されたSBTiへの申請計画や、PGRE 30に基づいて実施する再エネ発電設備導入や省エネルギー設備導入などの投資案件を決議するとともに、温室効果ガス排出量削減目標やPGRE 30の進捗などを確認しています。また、気候変動に関する情報開示内容は、GLPの策定もしくはレビューとして毎年度経営戦略会議で審議・承認し、取締役会に報告しています。

役員報酬における短期インセンティブの報酬の算定には、各人の貢献度をはかる指標として、売上高、営業利益およびサステナビリティ目標の達成度を用いており、目標には気候変動関連の目標(温室効果ガス排出量の削減、自家発電比率の向上)が含まれています。

 

② 戦略

気温が1.5℃あるいは4℃上昇する場合のシナリオをベースに、短期(1年)・中期(3年)・長期(~30年)のリスクと機会を抽出し、気候変動に関する分析を実施しています。シナリオ分析において、規制強化の影響や生産拠点の一部での物理的な影響を想定し、対応策を検討しました。また、気候変動への対応を最も重要なマテリアリティと位置づけ、バリューチェーン全体に与える影響を含めて、事業戦略および財務計画への影響を考慮した対応策を策定しています。

タイプ

要因

シナリオ

想定シナリオの詳細

時間的視点

想定される影響

影響度※

対応策

移行

リスク

炭素税の課税

1.5℃

温室効果ガス排出量への課税

長期

・事業活動に伴うコストの増加

やや大

・1.5℃目標でSBT認証を取得したScope1+2の削減

・インターナルカーボンプライシングの導入

1.5℃

物価上昇で景気が停滞

中期

・顧客の投資が縮小・遅延して売上が減少

・調達難や部材コスト増により利益が減少

・ソフトウエアベースの仮想化試験環境とソフトウエア無線を組み合わせたソリューション開発を推進し、部材価格の変動影響が少ないビジネスモデルを構築

物理

リスク

自然災害の頻発化・激甚化

4℃

各地で異常気象が頻発化・激甚化

長期

・生産工場の操業や部材の調達に影響

・東北アンリツ㈱第二工場に新棟を建設して災害リスクを低減

・部材生産地をマップ化し、調達への影響を最小化

・複数社購買可能な体制を構築

・海外製造拠点の浸水対策を実施

長期

・気温上昇により、製造工程における品質保証が難しくなる

・2023年度に外気温の変動に左右されない空調管理システムを導入し、運用を開始

機会

エネルギーミックスの変化

1.5℃

再エネ発電比率が高まる

長期

・太陽光発電設備の導入コスト低下

やや大

・PGRE 30の推進で自家発電比率を高め、電力料金を低減

 2023年度は東北アンリツ㈱第二工場でメガソーラー級発電設備と蓄電池を組み合わせたシステムを運用するとともに、厚木地区で616kWの太陽光発電設備を増設

省エネ技術の進展

1.5℃

投資により新技術が普及

中期

・新たな省エネ技術の採用で製品の環境付加価値向上

やや大

・環境配慮型製品の開発推進で製品を省エネ化

・省エネ部品を積極採用

市場の変化

1.5℃

高機能と環境性能を備えた製品の需要拡大

中期

・試作機不要の開発を望む顧客が増加し、仮想化等、シミュレーション試験環境の需要増

・ソフトウエアベースの仮想化試験環境ソリューションを提供

中期

・次世代グリーンデータセンターの省エネ化に向け光電融合デバイスの開発・製造用測定器の需要増加

やや大

・光電融合デバイスの開発・製造向けソリューションを提供

長期

・EV普及により高効率パワートレインや電池の開発用評価機器の需要増加

・社会インフラにおける再エネや燃料電池を効率的に活用するエネルギーマネジメントシステムの需要拡大

・高品質なパワートレインや電池の開発を効率化するテストソリューションを強化

・パートナー企業との協働によりエネルギーマネジメントシステムの事業機会を獲得

自然災害の頻発化・激甚化

4℃

気象の激甚化による食糧生産、需給環境の悪化

長期

・食品廃棄ロスのさらなる削減のため、原材料段階での異物検出や不良品のピンポイント選別の需要が拡大

やや大

・原材料段階で色、成分、虫、細菌、成分などの品質不良を識別できるソリューションの実用化

・DX、AI、ロボットを活用した異物検出精度向上や生産ラインのモニタリング、不良品選別ソリューションを提供

各地で異常気象が頻発化・激甚化

長期

・防災投資が増加して河川や道路の監視ソリューションの需要増加

・パートナー企業と映像情報システム等、防災・減災ソリューションの対応力を強化

※「影響度」は、売上・利益等の財務上の影響額とそのリスクと機会が顕在化する可能性を考慮して、「大、やや大、中、やや小、小」の5段階で当社独自の基準に基づいて判断したものです。なお、影響度の低い「やや小」と「小」の掲載は省略しています。

 

③ リスク管理

リスクと機会については、各事業部門、コーポレート部門、グループ会社がGLPで抽出しています。環境管理委員会は、それらの発生の可能性と影響度から重要な項目を抽出し、対応策や取組を特定しています。その結果は、定期的に経営戦略会議で審議・承認され、取締役会へ報告されています。また、気候変動のリスクと機会は「3 事業等のリスク」に記載の環境リスクに含まれ、グループ全社で総合的に管理するリスクマネジメントシステムに組み込まれています。

 

④ 指標と目標

SBT認証を取得した温室効果ガス(CO2換算)排出量(Scope1+2およびScope3)削減目標、再エネ自家発電比率を指標としています。

KPI

目標

2023年度進捗

Scope1+2:温室効果ガス排出量の削減

2030年度までに2021年度比で42%削減する

25.6%削減(参考値)

Scope3:温室効果ガス排出量の削減

2030年度までに2019年度比で27.5%削減する

29.0%削減(参考値)

太陽光自家発電比率の向上

2018年度のアンリツグループの電力消費量を基準に、2030年ごろまでに0.8%から30%程度まで高める(PGRE 30)

10.4%(参考値)

※ 策定時に当社の100%子会社ではなかったATテクマック(株)(現アンリツテクマック(株))の電力消費量は除く。

 

Scope1+2のCO2排出量の削減については、その大部分がエネルギー消費によるものであるため、工場やオフィスでの省エネ活動およびPGRE 30の推進が主な取組となります。2023年度は、東北アンリツ㈱第二工場で発電容量1,100kWの太陽光発電設備と定格容量2,400kWhの蓄電池を組み合わせた大規模太陽光発電システムを導入し、運用を開始しました。夜間に必要な電力の一部を蓄電した再エネで賄っています。また、厚木本社では616kwの太陽光発電設備を増設しましたが、この稼働開始が当初の計画から10ヶ月遅れの2024年1月末となったことと、東北アンリツ第二工場の蓄電池も電力会社からの許可取得に時間を要し、2023年4月から6月まで稼働できなかったことにより、2023年度の太陽光自家発電比率は10.4%(目標は13%以上)にとどまりました。

省エネ活動では、2023年3月に省エネ対策チームを立ち上げました。適切な空調管理と実験室での節電を徹底するとともに社内イントラネットで電力使用量を確認できるコンテンツを設け、従業員の省エネ意識を高めました。上記のPGRE 30の進捗、電力会社のCO2排出係数切り下げもあり、Scope1+2のCO2排出量は2021年度比25.6%削減(参考値)となりました。

Scope3では、Scope3総排出量の約86.5%(2023年度実績)を占める「購入した製品・サービス(Category1)」と「販売した製品の使用(Category11)」の削減に取り組んでいます。取引先さまとの協働や環境配慮型製品の開発、顧客への紹介などに継続して取り組んでいます。2023年度は2019年度比29.0%削減(参考値)となり、取組の成果が上がっています。

 

(5) 人権の尊重

当社は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が企業に求める人権尊重に対する責任を果たすために、2022年12月にアンリツグループ人権方針を制定しました。これに続き、当社の事業活動が人権に与え得る負の影響を特定・評価し、防止・軽減、対処していくために、人権デューデリジェンスの仕組みを構築し、継続運用しています。

人権デューデリジェンスにおいては、NPO法人経済人コー円卓会議(CRT)日本委員会の協力の下、最初のステップとなる人権リスクアセスメントを実施し、「職場における多様性の受容」「労働環境や働き方の変化への対応」「部品・機器調達先の労働環境調査の推進」の3点を今後優先的に取り組む人権課題として特定しました。

今後も国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権尊重の取組を充実させていきます。

 

(6) 人的資本

経営環境がめまぐるしく変化している今日、既存事業の拡大と新規ビジネスの創出に資する源泉は“人”であり、多様性であると考えています。下記の人材ビジョンのもと、会社と従業員がサステナブルな未来を共有し、社会課題の解決を目指す、“人”と“組織”づくりを推進しています。

人材ビジョン

会社と多様な従業員がベクトルを合わせ、事業(社会)貢献意識を持ち、仕事と私生活のバランスを取りながら生き生きと働いている

 

① ガバナンス

人的資本については、人事総務担当役員の報告をもとに、経営戦略会議および取締役会において、GLP人材戦略・施策およびその進捗状況、従業員や組織の状況、エンゲージメント調査結果等を議論しています。また、サステナビリティ委員会、企業倫理推進委員会、採用委員会、管理職登用委員会、研修・表彰委員会を設置し、各委員会の担当役員が報告する経営戦略会議および取締役会において、人的資本に関する活動内容を議論しています。

・サステナビリティ委員会:サステナビリティに関する課題、人的資本に関しては主に人権およびダイバーシティに関する課題に取り組む

・企業倫理推進委員会  :倫理法令遵守(コンプライアンス)、人的資本に関しては、各種ハラスメントや36協定違反等のモニタリングと改善に取り組む

・採用委員会      :従業員の採用に関する活動(計画策定・実行・採用当否判定・レビュー)を実施し、求められる人材の継続的な量的・質的確保をはかる

・管理職登用委員会   :管理職の登用審査を実施し、その当否を判定するとともに会社事業の発展に資する管理職の継続的輩出をはかる

・研修・表彰委員会   :従業員のエンゲージメント向上および研修を推進して人材の育成をはかる

役員の指名および報酬については、社外取締役を委員長とする指名委員会および報酬委員会を設置し、役員の選任、解任と報酬の妥当性および透明性の確保をはかっています。

 

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※ 上図は2024年4月1日現在のものです。

 

② 戦略

2030年度連結売上高2,000億円企業を目指し、既存事業の拡大とともに、これまでの概念にとらわれず、“「はかる」を超える” 新規事業領域の開拓に取り組むという経営戦略のもと、GLP2026で人材戦略を策定し、人的資本を最大化するための取組を進めています。

 

GLP2026 人材戦略

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(2024年4月公表 中期経営計画 GLP2026資料より抜粋)

 

<成長事業・重点領域の人材確保と育成>

当社は、GLP2026において「新領域ビジネス(産業計測、EV/電池、医薬品/医療)の重点的な拡大」を掲げており、そのための人材確保と育成を人材戦略の最重要課題としています。これまで人員計画は各カンパニーが主体となって策定し、経営層および人事部門が調整・承認する形式でしたが、今後は経営層、経営戦略部門、人事部門が一体となり、トップダウンで経営戦略からカンパニー横断の人員計画を策定する「人財戦略レビュー」を実施し、より戦略的な人材確保、配置、育成を実行します。

また、新領域でのビジネス拡大に向けた人材育成強化を目的として、2024年4月に「Anritsu SKILLs training center(A-SKILLs)」を立ち上げました。A-SKILLsは、EV/電池や汎用計測器に関する技術知識および販売スキルを向上するための教育の企画・実行を担い、3年間で新領域ビジネス人材を2倍に増強することを目指しています(図1)。

このほか、開発力強化を目的としてエンジニア育成を専門とする組織を2024年4月に立ち上げました。AI活用等の新技術獲得に向けた育成施策の企画と全社展開やリスキリング施策導入などを担い、より戦略的にエンジニアを育成していきます。

 

(図1)Anritsu SKILLs training center(A-SKILLs)について

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(2024年4月公表 中期経営計画 GLP2026資料より抜粋)

 

<若年/リーダー層の積極採用と育成、シニア層活用強化>

当社は新卒採用数の変動が大きかったことにより、現在の人員構成は30代後半~40代前半が最も少なく、50代が最も多い状況となっています。そのため2030年に向けて事業推進のコアとなるリーダー/管理職層の不足、60代以上のシニア層の増大が予測されており、「若年/リーダー層の積極採用と育成」によるコア人材の確保と「シニア層活用強化」による事業推進力の維持・向上を重要課題としています。

「若年/リーダー層の積極採用と育成」においては、これまでリーダー層から管理職層をターゲットとしていた経験者採用を若年~中堅層にも広げ、積極的な採用活動を推進していきます。育成では、階層別研修により段階的育成を行う仕組みづくりを行っていることに加え、「若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム」によりソフトウエアエンジニアを目指す新入社員に対し3年間の集中的な育成を行っています。

「シニア層活用強化」においては、50代の従業員を対象としたキャリア研修を導入し、60代以降のありたい姿や貢献領域を考えるプログラムを実施しています。今後もリスキリング施策の導入や配置転換を進め、従業員が長く生き生きと活躍するための取組を推進します。

 

○階層別研修

リーダー研修とサブリーダー研修は、ステップアップの動機づけと成長支援を目的としています。当社グループ合同で実施しており、組織を超えた横のつながりを作り、お互いに触発しあう機会としています(図2)。

2024年度は次世代リーダーと部下育成にフォーカスした新たな管理職研修を導入し、管理職昇進後も段階的な成長を支援する育成プログラムを構築します。

 

(図2)キャリアパスと教育プログラム全体像

 

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○若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム

変化する事業環境の中で、さまざまな製品開発に対応できる経験を積んだエンジニアが必要であり、「若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム」を導入しています。

ソフトウエアエンジニアを目指す新入社員は、エンジニアリング本部(各カンパニーのソフトウエア開発、AI/クラウド/データ分析等の先端技術開発を担当するカンパニー横断のシェアード開発部門)に配属され、3年間さまざまな製品開発プロジェクトで経験を積み、ソフトウエアエンジニアとしての基礎知識とスキルを身に付けます。カンパニー横断の開発業務に携わることで、各カンパニー内技術のサイロ化防止とイノベーション創出、将来的な人脈づくりにつなげていきます。育成プログラムはOJTと集合教育で構成され、当社独自のスキル標準で成長目標を明確化し、一人ひとりの育成計画をデザインしています。OJTは、原則1年ごとに担当をローテーションし、技術指導担当のトレーナーと会社生活全般の相談役となるメンターがサポートします。集合教育は、実践に役立つ技術教育、先輩社員を交えたコミュニケーションやリーダーシップ等の研修のほか、有志の勉強会も開催されており、同世代エンジニアと学び・教えあう交流の場にもなっています。育成プログラム修了後、各人の適性やキャリア志向に応じてカンパニー等への配属先を決定するため、働きやすさや働きがいの向上にもつながると考えています(図3)。

 

(図3)若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム構成

 

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<経営/人材ビジョン実現に向けた職場風土醸成>

ⅰ 成長・挑戦の促進

“自らの壁を取り払い、新たな領域に好奇心を持って取り組む人材、ステークホルダーや他社と共に社会課題の解決を目指す人材を育成する。”を掲げる人材育成方針のもと、経営ビジョンおよび経営戦略の実現に向けて目標・期待役割共有の徹底による挑戦・成長意欲の向上をはかっています。

そのための取組として、2022年度に「役割共有面談」制度を導入し、部門方針・課題と各人の役割・期待を共有する面談を年2回実施しています。

また、階層別研修のリーダー研修およびサブリーダー研修に「経営方針・キャリアパス教育」を組み込み、各階層で会社方針と期待役割の理解促進を行っています。

従業員一人ひとりが自発的に自らの強みを一層磨き、壁を取り払い、レベルアップし、会社とともに成長していく風土・環境づくりを推進していきます。

 

ⅱ 多様性の受容促進

“価値観や考え方も含め多様性を持つバラエティに富んだ人材が混ざり合い、多様な視点と強みを活かし新たな価値を創造する。”を掲げる人材多様性推進方針のもと、女性活躍推進、経験者採用強化、障がい者雇用推進などを重点的に進めています。これらの活動は一定の成果を上げていますが、引き続き「多様性の受容度の向上」を重要課題とし、経験者採用時のオンボーディングをはじめとした、多様な人材の受入体制強化を行います。LGBTQに関する対応や取組も強化し、同性パートナーシップ制度を始めとした各種制度整備、社内研修等による理解促進、社内コミュニティ活用推進などを実施していきます。

 

○女性活躍推進・経験者採用に関する取組

女性活躍推進においては、新卒採用、経験者採用の強化に取り組むとともに、生活と仕事を両立しながら働き、事業の成長と企業価値向上に貢献できるキャリア形成支援に継続して注力しています。自分のライフステージ、ライフスタイルに合わせて働くことができる管理職コースや、妊娠、出産、育児期間中の在宅勤務制度の導入により、ライフワークバランスをより重視したキャリア形成が可能となっています。管理職に占める女性の割合は、2023年度末で国内3.8%、連結11.2%であり、GLP2023の目標値である「連結15.0%以上」は未達となりました(表1)。しかしながら、前述の取組により2024年4月1日付で新たに10名の女性が管理職に昇進し、女性管理職比率は国内5.7%、連結12.1%となりました。「女性管理職比率連結15.0%以上」の目標はGLP2026で継続し、採用活動の更なる推進やリーダー育成により目標達成を目指します。

これまでの取組の成果として、女性活躍に関する取組状況が優良な企業であることを示す「えるぼし(3段階目)」の認定を2023年3月に取得しています。

 

経験者採用は、多様なバックグラウンドを持つ外部人材、新規事業領域に取り組む人材の獲得、ならびに、女性管理職および管理職候補の採用を目的として2020年度より活動を強化しています。2023年度は、2022年度より新規採用者に占める経験者採用比率は減少しましたが、女性経験者比率は70.6%と大幅に増加しました(表2)。

 

(表1)管理職に占める女性の割合 (女性管理職数÷全管理職数)(単位:%)

 

2019年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

日本

1.8

2.3

2.8

3.1

3.8

米州

18.3

17.9

21.6

17.4

22.7

EMEA *

21.6

24.2

20.3

20.3

17.3

アジア他

23.4

24.0

23.7

22.3

21.6

連結

10.4

10.8

10.9

10.5

11.2

*EMEA(Europe, Middle East and Africa):欧州・中近東・アフリカ地域

 

(表2)新規採用者に占める経験者の割合および女性の割合 (単位:%)

 

2019年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

経験者採用比率 ※1

6.9

20.9

44.2

36.5

28.8

女性経験者比率 ※2

0.0

11.1

32.4

30.4

70.6

※1 経験者採用比率:経験者採用数÷新規採用数

※2 女性経験者比率:経験者採用のうちの女性採用数÷経験者採用数

 

ⅲ ライフワークバランス、就業環境整備

「働き方改革」を経営戦略の一つとしており、“「生活と仕事のバランスを考えて、働きやすく人生を楽しめる会社」と「労働生産性が高く働きがいがある会社」の両立に向けた制度・環境を整備する”という環境整備方針のもと、多様な従業員が生活と仕事を両立しながら、生産性を高めることができる環境づくりを推進しています。労使による「両立支援推進委員会」を適時開催し、在宅勤務制度の導入、育児・介護などによる在宅勤務の日数拡大、男性の育児休業利用推進、ライフイベントに応じて柔軟な勤務が可能な管理職コースの新設など、働き方やキャリアの多様化に向けた施策を行っています。

 

○育児に対する支援

妊娠中・育児中の従業員に対し、法定を上回る休暇・休業・短時間勤務制度の提供や在宅勤務日数の拡大等を行っており、育児と仕事を両立できる環境を整備しています。

近年は男性の育児休業利用促進に注力しており、「産後パパ育休」の施行に合わせ、2022年度に4週間の育児休業取得者に対し給与を実質100%補償する制度を導入しました。制度導入にあたり、全管理職に対して研修を実施し、男性育児休業取得推進の意識づけを行っています。これらの取組の結果、2022年度に45.2%だった男性の育児休業取得率は2023年度に90.3%となりました。今後も男性も当たり前に育児休業を取得できる環境づくりに努めていきます。

当社は2015年、2018年、2020年に厚生労働大臣から「子育てサポート企業」と認定され、通算3回「くるみんマーク」を取得しています。

 

○エンゲージメント調査による状況把握

当社および国内子会社では、全従業員に対するエンゲージメント調査を毎年実施し、「働きやすさ」と「働きがい」の現状把握、組織課題の抽出を行っています。調査結果は社内イントラネットで全従業員に公開するとともに、各部門にフィードバックし改善に活用しています(表3)。

 

(表3) エンゲージメント調査の結果 (単位:%)

 

2018年度

2019年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

回答率

92

98

98

97

98

97

働きやすさ満足度

88

87

90

90

90

89

働きがい満足度

70

70

75

75

72

71

 

○健康経営の推進

「働き方改革」の基盤を従業員の健康と考え、「アンリツグループ健康経営方針」のもと健康経営を推進しています。

 

アンリツグループ健康経営方針

アンリツグループは、社員一人ひとりが健康で活き活きと働いていることが、企業価値の源泉であると考えています。全ての社員が健康について関心を持ち、自身の健康上の課題を認識し、健康保持・増進に向けて自律的な取組を進めている状態を目指し、アンリツグループ各社とアンリツ健康保険組合が一体となり、健康経営の実現に向けた活動を進めます。

 

具体的な取組として、年1回の定期健康診断における法定項目を超える検査の実施、集団歯科検診や女性特有疾患検診の実施など、各種検査の拡充を行っています。また、定期健康診断結果のフォローアップを重視し、精密検査対象者の受診促進、高リスク者への個別面談等を実施しています。これらの取組により疾患の早期発見に繋げ、予防に向けた施策を拡充することにより、従業員の健康リスク低減をはかっています。

当社は、2022年度に続いて2023年度も経済産業省と日本健康会議が主催する健康経営優良法人認定制度の大規模法人部門における「健康経営優良法人2024(ホワイト500)」に認定されました。本制度が開始された2016年度から通算6回目の認定となります。

 

③ リスク管理

当社グループの力を最大限に発揮して既存事業の拡大と新領域開拓を目指す上で、人材不足や生産性の悪化による事業遂行力の低下が最大のリスクと考えています。カンパニー制を採用している当社ではカンパニーごとに人事責任者を置き、密に連携することで人材状況の把握と問題への対策を行っています。また、執行役員ごとに採用計画や後継者育成状況のヒアリング等を行う「人財レビュー」を毎年実施することにより人材計画を擦り合わせ、リスク低減に努めています。「人財レビュー」は今後見直しを行い、2024年度より「人財戦略レビュー」として実施を予定しています。「人財戦略レビュー」では経営層、経営戦略部門、人事部門が一体となり、経営戦略実現に向けた人材戦略を推進していきます。

 

④ 指標と目標

 

項目

GLP2023目標

2023年度実績 ※1

人材多様性推進

 

女性活躍推進

女性管理職比率15%以上

女性管理職比率11.2%(連結、2024年3月末)

男性の育児休業取得率90.3%

男女の賃金差:全労働者76.9%、正規雇用労働者77.2%、パート・有期労働者71.5%

シニア層活用強化

70歳までの雇用および新処遇制度導入

・65歳定年70歳雇用延長および新処遇制度運用継続

障がい者雇用推進

法定雇用率2.3%達成

障がい者雇用率2.66%(2024年3月末)

(当社および特例子会社である㈱ハピスマの合算)

経験者採用

新規採用者数に占める割合30.0%以上

新規採用者数に占める割合28.8%

人材育成

教育費用・教育時間

従業員一人当たり教育費36,510

従業員一人当たり教育時間15.8時間

環境整備

エンゲージメント指数

働きやすさ満足度90%

働きがい満足度80%

※2

働きやすさ満足度89%(当社および国内子会社計)

働きがい満足度71%(当社および国内子会社計)

健康経営

「健康経営優良法人(ホワイト500)」認定

・「健康経営優良法人2024(ホワイト500)」認定

※1 算出基準について特に記載がないものは当社実績。

※2 「働きやすさ満足度」および「働きがい満足度」とは、当社および国内子会社を対象とした「エンゲージメント調査」において、働きやすさ・働きがいに関する設問で肯定的な回答をした従業員の割合。

 

GLP2026では下記の目標を掲げています。

 

項目

KPI※1

サステナビリティ目標

 

ダイバーシティ経営の推進

・女性管理職比率15%以上(連結)

・障がい者雇用率 2.7%達成(当社および特例子会社である㈱ハピスマの合算)

働きがいのある労働環境の実現

・エンゲージメント調査の働きがいポジティブ回答率 80%以上(当社および国内子会社計)※2

グローバルなガバナンス向上

・女性取締役比率 20%以上

人材戦略に関する目標

成長事業・重点領域の人材確保と育成

・新領域ビジネス人材数 2倍(連結)

若年/リーダー層の積極採用と育成、およびシニア層活用強化

・新規採用者数に占める経験者採用者割合30%以上

・新卒採用者確保率80%以上

経営/人材ビジョン実現に向けた職場風土醸成

・エンゲージメント調査の成長・挑戦ポジティブ回答率:80%以上(当社および国内子会社計)※2

・エンゲージメント調査の多様性受容ポジティブ回答率:90%以上(当社および国内子会社計)※2

・エンゲージメント調査のライフワークバランスポジティブ回答率:90%以上(当社および国内子会社計)※2

・PRIDE指標「ゴールド」認定の取得

・「健康経営優良法人(ホワイト500)」認定の継続

・プラチナくるみん認定の取得

※1 算出基準について特に記載がないものは提出会社のKPIとなります。連結会社ベースの算出としていない項目については、各社・各地域の独自性あるいは法令に合わせた運用としているものです。

※2 エンゲージメント調査における「ポジティブ回答率」とは、該当設問で肯定的な回答をした従業員の割合です。

 

多様性に関する指標は、「第1 企業の概況 従業員の状況」にも記載しています。その他、人的資本に関する目標は「(3)④指標と目標」にも記載しています。

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(方針及び体制)

当社グループは、リスクを適切に管理することは、企業価値を継続的に高め、社会的責任を果たすために、極めて重要な経営課題であると認識しており、リスク管理体制を整備しています。また、企業価値を維持、増大し、企業の社会的責任を果たし、当社グループの持続的発展を図るため、経営者はもとより、全社員がリスク感性を向上させ、全員参加により、リスクマネジメントを推進する取り組みに注力しています。

当社グループは、グループCEOのリスクマネジメント統括のもと、主要リスクを①経営の意思決定と業務の執行に係るビジネスリスク、②法令違反リスク、③環境リスク、④製品・サービスの品質リスク、⑤輸出入管理リスク、⑥情報セキュリティリスク、⑦感染症・災害リスクであると認識し、リスクごとにリスク管理責任者を明確にしています。各リスク管理責任者は、当該リスクに関する関係部門の責任者及びグループ会社管理責任者で構成する委員会を主管し、当該リスクマネジメントに関わるグループ会社全体を統括します。リスクマネジメントの対策、計画、実施状況及び年間を通したマネジメントサイクルの結果は、必要に応じ、経営戦略会議において審議され、取締役会に報告されております。また、リスクマネジメント推進部門は、規則、ガイドラインの制定、教育研修などを主管し、事業の継続発展を確保するための、リスク管理レベルの向上に必要な体制を整備しています。なお、各リスク管理責任者は、当該分野に関し、海外グループ会社の活動を支援しています。また、コンプライアンスリスクに関しては、各地域の統括会社の責任者が年度計画を策定し、リスクアセスメントを実施しています。

 

(主要リスクの概要)

(1) 当社グループの技術・マーケティング戦略に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは高い技術力により開発された最先端の製品とサービスをいち早く提供することで顧客価値の向上に努めております。しかしながら、当社グループの主要市場である情報通信市場は技術革新のスピードが速いため、当社グループが顧客価値を向上させるソリューションをタイムリーに提供できない事態や、顧客のニーズやウォンツを十分にサポートできない事態が生じた場合は、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

(2) 市場の変動に関するリスク(①ビジネスリスク)

経済や市場状況の変化、技術革新などの外的な要因は、当社グループが展開する製品群の収益に影響を及ぼし、グループの財政状態及び経営成績に大きな変動をもたらす可能性があります。

通信計測事業は、情報通信市場向けの売上比率が高いため、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、スマートフォン・携帯電話メーカー、半導体・デバイスメーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。サービス・プロバイダは、急増するデータ・トラフィックに対応しながら、IoTサービスやクラウドサービスなど様々なニーズを実現するネットワークの構築が求められており、コスト効率を意識した設備投資を進めています。また、当社グループの収益の柱であるモバイル市場の業績は、携帯電話サービスの技術革新や普及率、加入者数及びスマートフォン等の買い替え率の変化に影響されます。

PQA事業は、食品産業向けの売上収益が8割以上を占めているため、食品メーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。

環境計測事業は、EV・電池向け試験装置の売上比率が高いため、自動車メーカー、自動車部品メーカー、バッテリメーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。

(3) 戦略投資に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは、コンピテンシーである「はかる」を極めていくと共に、内外の異なる発想や技術をさらに掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させるため、外部との連携やM&Aを含めた戦略的成長投資を強化しています。投資の実行にあたっては、事前に事業計画の検証やデューデリジェンスを実施したうえで、投資判断を行っています。また、投資後もPMI(Post Merger Integration)計画を策定、実行し、投資後のビジネス立ち上げに万全の体制で取り組んでいます。

しかしながら、予期せぬ外部環境の変化や、市場環境や競合状況の変化等によっては当初期待した成果が得られないリスクがあります。このような場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(4) 海外事業展開に関するリスク(①ビジネスリスク、②法令違反リスク、⑤輸出入管理リスク)

当社グループはグローバルに事業を展開しており、海外売上比率は当期実績で約70%を占めています。顧客の多くもグローバル規模で事業を展開しているため、海外諸国の経済動向、国際情勢の変化、遵守すべき法令対応によって、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

 

(5) 製品の供給に関するリスク(①ビジネスリスク、⑦感染症・災害リスク)

当社グループは、電子部品等の安定調達を目指して、取引先との強固な関係構築に努めるとともに、部品調達リスクを速やかに把握する仕組み作りや、戦略的な部品在庫の確保などの対策を講じています。あわせて、リスクの高い部品については代替品への変更などによりリスクの最小化を図っています。

しかしながら、災害等に起因するサプライチェーンの混乱や需要の急激な高まりによる部品供給の逼迫等が生じた場合は、電子部品等の調達や主要製品の製造が困難な状況になり、製品の供給に遅延や停止が発生するリスクがあります。このような場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(6) 感染症の蔓延に関するリスク(⑦感染症・災害リスク)

当社グループは、大規模な感染症の流行が発生した場合、従業員の安全確保と社内外の感染抑止を最優先に取り組んでいきます。また、事業への影響を最小限に抑えるべく、必要に応じて対策本部を設置し、情報収集と必要な対応を行います。しかしながら、感染拡大の状況によっては、サプライチェーンの寸断や当社グループ、顧客及び取引先の工場の操業停止や事業拠点の休業などの事業活動の制限等による影響により、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

(7) 災害等に関するリスク(⑦感染症・災害リスク)

当社グループはグローバルに生産・販売活動を展開しているため、地震、台風、気候変動に伴う異常気象等の自然災害、火災、戦争、テロ及び暴動等が発生した場合には、当社グループや仕入先、顧客の主要設備への被害等により事業活動に支障が生じ、また、これらの災害等が政治不安又は経済不安を引き起こすことにより、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

当社では、災害・緊急時の被害最小化と事業活動の早期回復を図り、円滑な事業活動を継続することを目的として、各部門がBCP(Business Continuity Plan)を作成しています。当社グループの製造拠点である東北アンリツ(株)では、地震や大雨による河川の氾濫などの自然災害を重要なリスクとして位置づけ、災害発生後になすべきことを具体的にプロセスごとに明確化しています。実際の大規模災害での教訓を受け、BCP緊急発動基準を見直し、より幅広いリスクに備えるとともに各リスク発生時の対応手順の精緻化を行っています。

(8) 外国為替変動に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社では売掛金の回収などで発生する外貨取引への為替先物予約等によりリスク・ヘッジに努めておりますが、急激な為替変動は当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(9) 在庫陳腐化のリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは顧客のニーズやウォンツをきめ細かく捉え、製品やサービスを市場に提供するよう努めております。しかし、特に通信計測事業における製品群は技術革新が極めて速いため、製品及び部品の陳腐化が起こりやすく、在庫の長期化・不良化を招くことで当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(10) 人材確保に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループの持続的成長のためには、人材の獲得、確保、育成は非常に重要な要素となっています。当社グループは、国籍や性別などにこだわらない多様な人材の採用活動を積極的に行うことにより、優秀な人材の獲得に努めるとともに、社員の自発的成長を支援する教育研修体系の整備を継続的に進めています。また、ライフワークバランスを重視し、働き方や価値観の多様化に対応した労務環境の整備に取り組んでいます。しかしながら、人材の確保及び育成が想定どおりに進まない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(11) コンプライアンスに関するリスク(②法令違反リスク)

当社グループは、事業を展開する各国において当該国の法的規制の適用を受けています。これらの法令等に違反した場合、あるいは社会的要請に反した行動等があった場合には、法令による処罰、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループが社会的責任を遂行するにあたり、あるべき行動の指針とする「アンリツグループ行動規範」を定めるとともに、教育啓発活動を随時実施し、企業倫理の向上及び法令遵守の強化に努めています。国内アンリツグループのコンプライアンスの推進は、経営戦略会議の議長であるグループCEOが率先垂範しています。そして、経営戦略会議の下に、コンプライアンス担当執行役員を委員長とし、国内アンリツグループ各社の社員がメンバーとして参加する企業倫理推進委員会が、コンプライアンス推進活動を統括しています。また、企業倫理推進委員会およびその事務局である法務部は、法令対応の関連委員会とともに、海外アンリツグループ各社に対し、各国・各地域の法令・文化・慣習などを踏まえた倫理法令遵守を促し、必要な支援を行っています。さらに、海外アンリツグループ各社のコンプライアンス責任者と連携して、グローバルな推進体制を構築しています。なお、コンプライアンス推進体制が適正に機能しているかを内部監査部門が監査し、必要に応じて、提言・改善要請を行っています。

 

(12) 環境問題に関するリスク(③環境リスク)

当社グループは、気候変動、エネルギー、大気、水、有害物質、廃棄物、商品リサイクルなどさまざまな環境に関する法令及び規制等の適用を受けています。当社グループでは、事業活動や製品に関わる環境コンプライアンスの徹底はもとより、気候変動対策、循環型社会の形成、環境汚染予防に取り組んでいます。

しかしながら、環境規制の更なる強化や過去の行為に起因する環境責任の発生、自然災害などに起因した環境汚染の発生等が考えられます。これらの事象によって、法令遵守や環境対策のために必要なコストの増加等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、ステークホルダーからの要請に応えるため、製品のライフサイクル全体にわたり環境とのかかわりを意識した製品を開発し、提供しています。また、地球温暖化防止、生物多様性保全などの観点から、オフィス・ファクトリーの省エネルギー化によるCO2排出量の削減、3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進による廃棄物の削減、環境汚染防止に関して法、条例の規制より厳しい自主管理基準の設定による環境汚染リスクの低減に努めています。

(13) 製品の品質に関するリスク(④製品・サービスの品質リスク)

当社グループでは、品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001の認証を1993年から取得し、製品の設計・開発から製造・サービス・保守に至るまでの一貫した品質管理をグローバルに展開しています。しかしながら、予測し得ない品質上の重大な欠陥といった事象の発生や製造物責任につながる事態が発生した場合には、社会的信用の失墜、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等に加え、補償や対策に伴うコストが発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、製品品質の維持・向上と保証を図り、品質マネジメントシステムを適切に運用するために、品質マネジメントシステム委員会や内部品質監査委員会等を設けています。また、万一製品事故が発生した場合の体制の整備や製品事故予防のシステム及び再発防止に向けた取組について、検討を行っています。

(14) 訴訟に関するリスク(②法令違反リスク)

当社グループは、事業に関わる各種法令を遵守するとともに、知的財産権の適正な使用、契約条件の明確化、相手方との協議の実施等により紛争の発生を未然に防ぐよう努めています。

当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす訴訟等は提起されていません。しかしながら、重大な訴訟等が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響をもたらす可能性があります。

(15) 情報セキュリティに関するリスク(⑥情報セキュリティリスク)

当社グループは事業活動を行ううえで、顧客及び取引先、株主、従業員などすべての関係者の情報を適切に保護することが社会的責務であり、また、情報資産が当社グループ及びすべての関係者にとって重要な財産であると認識しています。これらの情報資産について、サイバー攻撃による情報セキュリティ事故が発生した場合、当社グループの社会的信用の失墜、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、情報セキュリティ管理体制を構築し、徹底した管理とセキュリティの維持・向上への取組や情報セキュリティ教育の実施などを継続的に行っています。グローバルに事業を展開する当社では、世界中のオフィスをネットワークで接続し、情報の共有化を進めてきました。情報セキュリティにおいては一カ所でも脆弱な部分があると、全体のセキュリティレベルに影響を及ぼすことから、グローバルで強固かつ均一なセキュリティシステムを構築することに取り組んでいます。

(16) 繰延税金資産に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは、税効果会計を適用し、繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産の計算は、将来の課税所得に関する見積りを含めた予測等に基づいており、実際の結果が予測と異なる可能性があります。将来の課税所得の見積りに基づく税金負担の軽減効果が得られないと判断された場合、当該繰延税金資産は取り崩され、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(17) 確定給付制度債務に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社及び一部の子会社の従業員を対象とした確定給付年金制度から生じる退職給付費用及び債務は、割引率等の数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されておりますが、確定給付制度債務の見込額を算出する基礎となる割引率等の数理計算上の仮定に変動が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、当期より、従来「その他事業」に含まれていた「環境計測事業」について報告セグメントとして記載する方法に変更しています。以下の前年同期比較については、前年同期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較分析しております。

 

1) 財政状態及び経営成績の状況

通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、インフレによる5Gスマートフォン価格の高騰等もあり、世界的にスマートフォンの出荷台数の減少が継続していますが、AIを搭載した高機能スマートフォンの登場により、今後の市場の活性化が期待されます。

「Release 17」(*1)の標準化完了によって更に進展した5G利活用の領域では、Automotive分野での5G活用に向けた研究開発や、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が始まっています。IoT分野では、米国のラストワンマイルで利用されるCPE(Customer Premises Equipment、顧客構内設備)の需要が増加してきており、5G無線モジュールの開発に加えてWi-Fi 7(*2)の開発需要も生じています。非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)としては、衛星を用いた通信サービスが相次いで始まっており、5G規格に準拠する端末のリリースが待たれています。2024年6月に標準化完了予定の「Release 18」(*1)では、AI/ML(Machine Learning)に関する仕様の策定により、AI搭載に関する強化が行われる予定です。また、2023年12月に開催された世界無線通信会議「WRC-23(World Radiocommunication Conference 2023)」において、5G-Advancedの周波数が合意されました。更に、次世代の通信規格である6Gの研究開発も始まっています。

5Gのネットワークでは、無線アクセスネットワークのオープン化に取り組むO-RANアライアンスが活動を進めてきました。これまでメーカー独自のインターフェースで構成されていた基地局装置に対してO-RANの標準仕様を適用することで、マルチベンダーでの無線アクセスネットワークの構築が容易になりました。これにより、世界各地のオペレータがO-RANの導入を進めています。

また、生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。ネットワークの更なる高度化を進めるサービス・プロバイダでは、100Gbpsサービスが本格化するとともに、ネットワーク機器メーカーでは、PCIe(Gen5/6)(*3)の開発や400GE/800GEネットワーク装置の開発も進展しています。さらに、オール光化を目指すIOWN(*4)の研究開発も始まっています。

当社グループは、主としてモバイル市場の不振による通信計測事業の売上収益悪化の下、原材料価格の高騰やインフレに伴う費用の増加に対して、価格転嫁の推進や業務効率化に取組んでいます。以上の結果、当社グループの経営成績は次のとおりとなりました。

当期は、受注高は107,277百万円(前年同期比2.6%減)、売上収益は109,952百万円(同0.9%減)、営業利益は8,983百万円(同23.5%減)、税引前利益は9,951百万円(同20.0%減)、当期利益は7,674百万円(同17.1%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は7,675百万円(同17.2%減)となりました。

当連結会計年度末の資産合計は、161,085百万円となり、前期末に比べ8,847百万円増加しました。

当連結会計年度末の負債合計は、35,559百万円となり、前期末に比べ837百万円増加しました。

当連結会計年度末の資本合計は、125,525百万円となり、前期末に比べ8,009百万円増加しました。

なお、当社グループの当連結会計年度の財政状態の状況は、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 2) 財政状態」に記載しています。

 

(*1)3GPPで標準化される規格番号

(*2)第7世代のWi-Fi規格で、Wi-Fi 6の使用帯域幅160MHzを320MHzまで拡張し、高速化を実現

(*3)第5/第6世代のPCI Express規格(シリアル転送方式の拡張スロット用インターフェース規格)

(*4)Innovative Optical and Wireless Networkの略で、IOWN Global Forumが検討を進めている、オール光ネットワークなど革新的技術を用いた新しい通信基盤

 

セグメントごとの経営成績は以下のとおりです。各セグメント別の売上収益は外部顧客に対する売上収益を記載しています。

① 通信計測事業

当事業は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。

当期は、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要は堅調であるものの、世界的な5Gスマートフォンの開発投資需要の減少により、前年同期比で減収減益となりました。この結果、売上収益は71,005百万円(前年同期比2.4%減)、営業利益は7,544百万円(同30.6%減)となりました。

② PQA事業

当事業は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。

当期は、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要が堅調に推移し、前年同期比で増収となりました。費用面では、第4四半期に固定資産除却損317百万円が発生したことにより、営業利益は前年同期と同水準となりました。この結果、売上収益は25,373百万円(前年同期比2.1%増)、営業利益は1,295百万円(同2.7%減)となりました。

③ 環境計測事業

当事業は、EV・電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の映像監視用モニタリングソリューションの開発、製造、販売を行っています。

当期は、国内においてEV・電池向け試験需要が堅調に推移し、前年同期比で増収増益となりました。この結果、売上収益は7,438百万円(前年同期比16.7%増)、営業利益は537百万円(同943.9%増)となりました。

④ その他の事業

当事業は、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等からなっております。

当期は、売上収益は6,134百万円(前年同期比11.6%減)、営業利益は810百万円(同44.8%増)となりました。

 

2) キャッシュ・フローの状況

当期における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の期末残高は、45,657百万円となり、前期末に比べ8,823百万円増加しました。なお、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたフリー・キャッシュ・フローは、12,929百万円のプラス(前期は897百万円のプラス)となりました。

当期における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

① 営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動の結果獲得した資金は、純額で16,573百万円(前年同期は6,114百万円の獲得)となりました。これは、税引前利益の計上及び棚卸資産の減少により資金が増加したことが主な要因です。なお、減価償却費及び償却費は5,888百万円(前年同期比195百万円増)となりました。

② 投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動の結果使用した資金は、純額で3,643百万円(前年同期は5,216百万円の使用)となりました。これは、有形固定資産及び無形資産の取得による支出が主な要因です。

③ 財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動の結果使用した資金は、純額で6,578百万円(前年同期は11,409百万円の使用)となりました。これは、配当金の支払額5,266百万円(前年同期の配当金支払額は5,332百万円)及びリース負債の返済による支出が主な要因です。

 

3) 生産、受注及び販売の実績

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

通信計測(百万円)

67,903

94.8

PQA (百万円)

25,308

101.9

環境計測 (百万円)

7,541

119.7

報告セグメント計(百万円)

100,753

98.0

その他(百万円)

6,157

91.7

合計(百万円)

106,911

97.6

(注)金額は販売価格によっております。

 

② 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

通信計測

68,897

97.2

22,968

101.6

PQA

25,089

102.1

6,585

100.6

環境計測

7,254

95.0

3,750

94.4

報告セグメント計

101,240

98.2

33,303

100.5

その他

6,036

86.0

1,372

97.4

合計

107,277

97.4

34,676

100.4

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

通信計測(百万円)

71,005

97.6

PQA (百万円)

25,373

102.1

環境計測 (百万円)

7,438

116.7

報告セグメント計(百万円)

103,817

99.8

その他(百万円)

6,134

88.4

合計(百万円)

109,952

99.1

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合については、その割合が100分の10以上に該当する相手先がないため記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであり、実際の結果は、将来に関する事項の記述とは異なる可能性があります。その主な要因については、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しておりますが、それらに限定されるものではありません。

 

1) 経営成績

当社グループは、通信計測事業、PQA事業および環境計測事業の3つを報告セグメントとしています。

① 通信計測事業

当社グループの売上収益の65%を占める通信計測事業は、「モバイル市場」「ネットワークインフラ市場」「エレクトロニクス市場」向けの3つのサブセグメントに区分しております。

a. モバイル市場

モバイル市場には、携帯電話サービスを行うサービス・プロバイダの端末受入検査用途向け計測器や、スマートフォン等の携帯電話端末、ICチップセット、その他関連電子部品メーカーの設計、生産、機能・性能検証、保守用途向け計測器等を含めております。

当市場の需要は、携帯電話サービスの技術革新や普及率、加入者数の推移のほか、端末/チップセットメーカーの新規参入又は撤退、端末やチップセットのモデルチェンジや出荷数等に影響される傾向があります。

現在、5G通信システムを用いたサービスが世界各国で開始されているものの、インフレによる5Gスマートフォン価格の高騰等もあり、世界的にスマートフォンの出荷台数の減少が継続していましたが、AIを搭載した高機能スマートフォンの登場等により、今後の市場の活性化が期待されます。

5G利活用の領域においては、Automotive分野における研究開発や、プライベート領域での5Gネットワーク構築調査、実証実験のフィールド用計測器の需要が継続しています。その他、米国等ではラストワンマイルで利用されるCPE (Customer Premises Equipment, 顧客構内設備)の需要が増加しています。

加えて、衛星を用いた通信サービスの非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)等に関する3GPP Release18の仕様策定により、関連した開発の需要が見込まれます。また、2023年12月に開催された世界無線通信会議「WRC-23(World Radiocommunication Conference 2023)」において5G-Advancedの周波数が合意され、5Gの各性能をさらに高めた次世代の通信規格である6Gの研究開発も始まっています。

当社は、引き続き競争力のある最先端計測ソリューションを提供するとともに、開発ポートフォリオ・マネジメントを的確に遂行することで、収益基盤の強化に努めてまいります。

 

b. ネットワークインフラ市場

ネットワークインフラ市場には、有線・無線通信事業者のネットワーク建設、保守、監視及びサービス品質保証用途向けのソリューションや、ネットワーク機器メーカーの設計、生産、試験及び調整用途向けソリューション等を含めております。

当市場においては、クラウドサービスの高度化や5Gサービスの進展、生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。ネットワークの更なる高速化を進めるサービス・プロバイダでは100Gbpsサービスの導入が本格化し、ネットワーク機器メーカーでは、PCIe(Gen5/6) のコンプライアンス試験や400GE/800GEネットワーク装置の開発が進展しています。これに伴い、関連する計測ソリューションの需要も堅調に推移しています。さらに、オペレータが無線ネットワークをより柔軟に構築できるように無線アクセスネットワークのオープン化が進められているほか、ネットワークのオール光化を目指すIOWN の研究開発も始まっています。

当社は、通信機器の研究開発向けソリューションに加え、通信インフラの構築・監視からサービス品質保証までの総合ソリューションを提供することで、事業の拡大に取り組んでまいります。

 

c. エレクトロニクス市場

エレクトロニクス市場には、通信ネットワークに関連する通信機器やその他の電子機器に使用される電子デバイスの設計、生産、評価をはじめ、エレクトロニクス分野で幅広く利用されている計測器等を含めております。

当市場の需要は、通信機器や情報家電、自動車等に使用される電子部品及び電子機器の生産規模に影響を受ける傾向があります。IoTサービスの拡大により、多岐にわたる用途の無線モジュールの開発・製造用計測ソリューション需要が増加しております。また、6Gに向けた研究開発の始まりに伴い関連する測定器の需要が顕在化しています。

当社は、エレクトロニクス市場に対するソリューションを拡充し、更なる事業の拡大に努めてまいります。

 

② PQA事業

PQA事業は、当社グループの売上収益の23%を占めています。当事業は、食品産業向けの売上収益が8割以上を占めているため、食の安全安心に関する意識の高まりや食品メーカーの業績に影響を及ぼす消費支出水準の変化に大きな影響を受けます。

主力製品には、食品製造ラインにおいて高速搬送しながら高精度に計量する重量選別機や食品中に混入する金属や石等の異物を高感度に検出し製造ラインから排除する異物検査機器(X線検査機等)等があります。日本市場においては、原材料・エネルギー価格の高騰等から一部顧客で設備投資に慎重な姿勢がみられるものの、異物混入に対する顧客の関心は引き続き高く、食品生産ラインの自動化や省人化を目的とした設備投資はインバウンド需要の回復にも支えられ底堅く推移しました。

また、海外市場では、欧米の食肉市場の減速やアジアの設備投資抑制継続の影響を受けたものの、各地域での加工食品を中心とした市場の需要は堅調に推移しました。なお、当事業の海外売上比率は約5割となっています。

食品メーカーの品質検査への関心は高く、この需要に応えるために、新製品及び品質保証ソリューションの開発に努めるとともに、海外現地生産を含むサプライチェーンの最適化とグローバルオペレーションの効率化を推進し、事業拡大と収益性の向上に取り組んでまいります。

 

③ 環境計測事業

環境計測事業は、脱炭素、産業DX、社会インフラの3つの領域で社会課題の解決に貢献する事業を展開しており、当社グループの売上収益の7%を占めています。当事業は、EV・電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の遠隔監視用装置および帯域制御装置の開発、製造、販売を行っています。EV・電池向け試験装置の売上収益が大きな比重を占めており、当市場の需要は各国のEVシフトに向けた政策や税制優遇による顧客投資の環境変化に大きな影響を受けます。

世界的な脱炭素化の流れにより、自動車メーカーのEVシフトが加速しており、バッテリ、インバータ、モータ等の開発投資が拡大しています。子会社である㈱高砂製作所は、高度なエネルギー制御技術を活かした電源システムに強みを持ち、自動車メーカーや自動車部品メーカー、バッテリメーカー等に、EVの駆動系やバッテリの試験装置を提供しており、国内においてEV・電池向け試験需要が好調に推移しました。

産業DXの分野においては、工場の省人化や生産性の向上に貢献する遠隔監視システムを開発し市場展開を開始しました。社会インフラの分野における設備投資は底堅く推移しました。

脱炭素に向けた動きは世界的に拡大を継続しており、当社はこの分野に向けて積極的な開発投資を進めソリューションを拡充し、更なる事業の拡大に努めてまいります。

 

2) 財政状態

① 資産

資産合計は、161,085百万円となり、前期末に比べ8,847百万円増加しました。主な増加要因は、現金及び現金同等物8,823百万円です。一方で、棚卸資産が1,968百万円減少しました。

② 負債

負債合計は、35,559百万円となり、前期末に比べ837百万円増加しました。主な増加要因は、その他の流動負債903百万円、その他の金融負債676百万円です。一方で、営業債務及びその他の債務が1,066百万円減少しました。

③ 資本

資本合計は、125,525百万円となり、前期末に比べ8,009百万円増加しました。主な増加要因は、その他の資本の構成要素5,344百万円及び利益剰余金2,621百万円です。

 

この結果、親会社所有者帰属持分比率は77.9%(前期末は77.0%)となりました。

有利子負債残高は7,193百万円(前期末は6,584百万円)、デット・エクイティ・レシオは0.06(前期末は0.06)となりました。

(注)デット・エクイティ・レシオ:有利子負債/親会社の所有者に帰属する持分

 

3) キャッシュ・フロー

当社グループは、当連結会計年度末において45,657百万円の資金を保有していることから、将来の予測可能な資金需要に対して不足が生じる事態に直面する懸念は少ないと認識しています。

当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、「(1) 経営成績等の状況の概要 2) キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

当連結会計年度の設備投資額は、4,167百万円(前年同期比22.4%減)となりました。主に新製品開発と原価低減に向けた投資を継続するとともに、事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル実現に向け、太陽光発電設備の増設を行いました。研究開発投資については、9,943百万円(前年同期比12.9%減)となりました。主に新製品開発とソリューションの競争力強化に向けた投資を実施しました。これらの設備投資額及び研究開発投資は、主に自己資金によって賄われました。

翌連結会計年度においては、約4,500百万円の設備投資と約10,000百万円の研究開発投資を予定しています。設備投資額は、開発環境基盤強化を目的とした投資等を見込んでおります。研究開発投資については、更なる事業拡大にむけて、主力の通信計測事業においては、競争力の強化、PQA事業については、グローバルビジネス展開を目的とした投資を行っていく他、環境計測事業においては、製品競争力の強化に向けた投資を行います。これらの設備投資額及び研究開発費投資を、主に自己資金によって賄う予定です。

 

4) 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの資金需要は、製品の製造販売に関わる部材購入費や営業費用などの運転資金、設備投資資金及び研究開発費が主なものであり、主に営業活動によって獲得した内部資金のほか、直接調達・間接調達により十分な資金枠を確保しています。また、2023年3月に設定した借入枠75億円のコミットメントライン(2026年3月まで有効)により財務の安定性を確保しています。今後とも、大きく変動する市場環境のなかで、国内外の不測の金融情勢に備えるとともに、運転資金、長期借入債務の償還資金及び事業成長のための資金需要に迅速、柔軟に対応してまいります。

当期末の有利子負債残高は、7,193百万円(前期末の有利子負債残高は6,584百万円)となりました。また、デット・エクイティ・レシオは0.06(前期末は0.06)となりました。

今後ともROEの向上、CCC(注)向上によるキャッシュ・フロー創出及びグループ内キャッシュ・マネジメント・システム等による資金効率化に取り組み、強固な財務体質の維持に努めてまいります。

当社の格付(R&I:㈱格付投資情報センター)は、発行体格付が「A」、短期格付が「a-1」となっています。当社は、更なる格付向上に向けて、新たな経営ビジョンのもと、安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。

株主還元については、連結当期利益の上昇に応じて、親会社所有者帰属持分配当率(DOE:Dividend On Equity)を上げることを基本に、連結配当性向50%以上の配当を行うとともに、総還元性向も勘案した株主還元施策も機動的に行っていくことを基本方針としています。

また、剰余金については、5G市場における競争力強化、IoTを活用した産業分野への事業拡大、クラウドサービス市場等への事業展開、新成長分野の開拓及び6Gをはじめとした次世代技術の獲得等に向けた戦略的投資(含むM&A)のための資金需要等に備える計画です。このような新規事業への投資も含めて、企業価値の向上に取り組みます。

(注)CCC:キャッシュ・コンバージョン・サイクル

 

5) 経営戦略と今後の方針について

経営戦略と今後の方針は、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。

 

6) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準(IFRS)に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、予想される将来のキャッシュ・フローや、経営者の定めた会計方針に従って財務諸表に報告される数値に影響を与える項目について、経営者が見積りを行うことが要求されます。これらの見積りは過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、結果として、これらの見積りと実際の結果が異なる場合があります。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4. 重要な会計上の見積り及び判断」に記載のとおりです。

 

5【経営上の重要な契約等】

特記すべき事項はありません。

6【研究開発活動】

当連結会計年度の研究開発投資(無形資産に計上された開発費を含む)の内訳は、次のとおりです。

 

 

当連結会計年度

 

売上収益比率(%)

通信計測事業

7,496百万円

 

10.6

PQA事業

1,625百万円

 

6.4

環境計測事業

417百万円

 

5.6

その他の事業

129百万円

 

2.1

基礎研究開発

274百万円

 

-

合 計

9,943百万円

 

9.0

 

また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。

 

(1) 通信計測事業

1) ME7873NR/ME7834NR RF/プロトコル コンフォーマンス試験・通信事業者受入試験システムの機能拡充

コンフォーマンス試験は、モバイル通信サービスの品質を保つための世界的な評価基準で、世界中の通信事業者に広く受け入れられています。また、多くの先進的な通信事業者は、このコンフォーマンス試験に加え、独自の端末品質評価体系を整備し、運用しています。

ME7873NR及びME7834NRは、RFとプロトコルそれぞれのコンフォーマンス試験及び通信事業者受入試験に対応した自動試験システムです。すでに数多くの試験機能が認証団体(GCFやPTCRB) (注1)や大手通信事業者に認証され、実際の5G端末コンフォーマンス認証試験や端末受け入れ試験に使用されています。

当社は、従来のスマートフォン向け通信におけるDownlink 4CC, Uplink MIMOなどデータ速度向上に寄与する機能の認証に加え、IoT市場向けの認証にも対応しました。また、RF、プロトコルコンフォーマンス試験の両方で、5G IoT用途機器向けの通信であるRedCap(Reduced Capability)や NTN(Non-Terrestrial Network)の認証取得を開始しました。通信事業者受入試験に関しては、主に各事業者のSA(Stand Alone)サービスの拡大に向けた試験に対応しました。特に、日本においてはネットワーク障害時の緊急呼試験の検討会に参加し、技術基準適合試験の仕様策定等に貢献しました。引き続き、日本及び米国の主要通信事業者7社の端末受入試験を提供する唯一のメーカーとして、5G端末の品質向上に貢献します。

 

2) MT8000A ラジオ コミュニケーション テストステーションの機能拡張

MT8000A ラジオ コミュニケーション テストステーションは、2018年の販売以来、第5世代通信システム(5G NR)のプロトコル試験、無線特性試験及びアプリケーション機能試験に対応した、チップセットなどのデバイス開発を含むモバイル端末開発用試験プラットフォームとして活用され、LTEネットワークとの組み合わせで5G技術を活用するNSA(Non Stand Alone)方式、およびLTEネットワークに頼らないSA方式、FR1/FR2周波数帯、高速大容量(eMBB : Enhanced Mobile Broadband)/超高信頼性低遅延(URLLC : Ultra Reliable Low Latency Communication)など、様々な方向に進化を続ける5G NR通信技術の普及と発展に貢献しています。

5G NR通信は、IoT市場向けのRedCapやモバイル通信のカバレッジ拡張、災害時の非常時におけるネットワークの確保が期待されるNTN技術の導入が進んでおり、当社は、MT8000Aへの機能拡張を進めることで、これらの新しい技術に対する5G端末の評価に貢献してきました。また、MT8000Aは、B5G/6Gで新たな周波数帯として検討が進められているFR3(7.125GHz-24GHz)への対応も進めており、パートナー企業との協業を継続しながら、5Gおよびその先のBeyond 5G/6Gへの発展に貢献すべく、先端技術への対応を継続しています。

 

3) MT8862A ワイヤレスコネクティビティテストセット IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)機能追加

IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)は、11axに続いて6 GHz帯をサポートし、既存技術を拡張して最大チャネル幅320MHz、最大シンボル数4096QAM、空間多重技術は16ストリームまでをサポートします。無線通信で30Gbps超のデータスループットを低遅延で提供することにより、4Kを超える高解像度のビデオストリーミングやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)などの最新アプリケーション・サービスを支える基盤技術となることが期待されています。

MT8862Aは、WLAN IEEE 802.11 a/b/g/n/ac/ax/be(2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯)搭載機器のRF送受信特性測定器です。ダイレクトモードによる柔軟な測定環境の提供に加え、標準WLANプロトコルメッセージング(WLANシグナリング)を使用して、被測定物(DUT:Device Under Test)と接続することで送受信測定が可能となるネットワークモードを搭載しているのが特長です。ネットワークモードは、通信チップとテスタ双方に実装されているデータリンク層通信プロトコルを利用し、通信チップとテスタ間の通信を確立させた実動作状態でRF送受信特性を評価する方法です。当社は、本ソリューションの提供を通じて、有線接続(Conducted)試験によるRF評価のほか、無線接続(OTA:Over the Air)試験(注2)に対応することで、WLAN搭載機器の接続性改善、信号品質向上に貢献します。

 

4) MP1900A PCI Express 5.0/6.0対応ソリューションの開発

AI(人工知能)やML(機械学習)の普及に伴い超高速・大容量に対応するネットワークインフラの整備、およびデータセンターの高速大容量化、省電力化が社会課題となっています。データセンターを構築する伝送装置やサーバでは、内部インターフェースの高速化に向けてPCI Express 5.0(32GT/s) (注3)の採用が進んでおり、MP1900Aは認証機器としてデバイス認証試験(ワークショップ)や、PCI-SIG®の認証試験プログラム設備として採用されています。

次世代PCI Express 6.0規格では、信号速度は64GT/sに高速化し、PAM4(Pulse Amplitude Modulation)変調方式やFEC(Forward Error Correction)が採用され、IPや先端デバイスベンダーの研究開発が進んでいます。当社は、自社製の超高速デバイスによる高品質波形生成、高感度測定に加え、試験に必要なPCI Express 6.0 Link Training機能や、FECシンボルエラーのリアルタイム測定によるエラー訂正解析機能を業界に先駆けリリースしました。

 

5) MT1040A MU104014B OpenZR+測定ソリューションの機能拡張

データセンターやメトロネットワークの増設が急速に進む背景には、生成AIやクラウドサービスの普及、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などの社会的要請があります。これまではデータセンター間接続(DCI)には大手通信キャリアが提供する高額なWDM回線が広く使用されていましたが、これに代わり、マルチベンダーの光トランシーバ相互接続を可能にし、100Gから400Gまでの伝送速度を低価格かつ長距離伝送に対応したOpenZR+規格が策定されました。当社は、ネットワークマスタプロ MT1040Aのモジュールとして「400G(QSFP-DD) マルチレートモジュール MU104014B」をリリースし、OpenZR+を使用したデータセンターネットワーク試験に対応しました。

 

6) 標準化活動

通信計測事業における研究開発活動の重要な取組のひとつとして、国内外の標準化活動へ積極的に参画しています。情報通信産業における最先端の知識・技術を常に製品へ反映し、競争力に優れたソリューションをタイムリーに提供するために、主要な標準団体として現在3GPP、ITU-T、IEEE、PCI Express、IOWN等へ参加し、4G/5G、データセンター、IoT/M2M、コネクテッドカーといった有線・無線通信事業の戦略立案や情報収集に役立てています。

特に移動通信システムの規格を策定する3GPPにおいては、 基地局と携帯端末の通信手順試験用コンフォーマンステスト(端末認証試験)の仕様策定に際し4G/5Gの規格策定段階から参画しています。国内外の通信オペレータ、チップセットベンダ、端末ベンダとも協業し今年度はNTN, RedCapなどのリリース17、18規格策定および、既存規格保守に取り組みました。中でも5G用ミリ波通信周波数帯(注4)においては国内法整備も考慮し、希少な測定器ベンダとしてバンドn259(40GHz帯通信周波数)のOTA(Over The Air)の測定限界、測定方法の検討、および、測定の不確かさ算出に貢献しました。これら試験規格を端末の認証試験用プログラムとして四半期毎に製品に取り込んでおり、認証団体(GCFやPTCRB)を介して無線通信端末の市場投入をサポートしています。

また、PCI ExpressではPCI-SIG®の会合へ参加し、次世代6.0, 7.0の規格化や認証試験に向けた測定手順書の作成、規格化に向けた測定結果の提示、測定課題解決に向けた提案、更にはワークショップでのデバイス認証のための測定サポートを行うなどPCI Expressの普及発展に貢献しています。

NTTが主導するIOWN構想では、2023年3月に初めての商用サービスとして、APNを用い低遅延を実現したIOWN1.0の提供を開始されました。2025年に開催される大阪・関西万博においてIOWN2.0サービスの商用化を目指し、IOWN2.0に向け各社共同検証等を発表しています。アンリツはOFC2024においてNTTやテキサス大学ダラス校(UTD)とのIOWN Open APN向けエンドツーエンド通信品質評価の共同検証に参加しました。また、2030年の最終的なIOWN構想実現に向けて、標準化活動や、IOWNの各タスクフォースでの会合に参加するだけではなく、参加企業・団体と協力し、技術の実証実験となるPoC活動にも取り組んでまいります。

 

(注1)GCF/PTCRB

GCF: Global Certification Forum

PTCRB: PCS Type Certification Review Board

それぞれヨーロッパ発祥、アメリカ発祥の認証機関であり、携帯端末が3GPPの規格に準拠していることの認証を行うとともに、コンフォーマンステストシステムの認証の役割も担っている。

(注2)OTA (Over The Air)

物理的にケーブル接続を行い通信するのに対し、無線での通信、電波の測定を行うこと。5Gのミリ波帯通信信号の携帯端末・基地局内における品質劣化を防ぐために回路の集積化が進められた結果、従来は携帯端末や基地局と測定器間は物理的にケーブルを用いて接続されていたのに対し、5Gのミリ波帯では携帯端末・基地局のアンテナから送信される無線信号を測定器のアンテナで受信し、その品質を評価する形となった。

(注3)PCI Express

PCI ExpressはPCI-SIGによって策定されたコンピュータの拡張バスの標準仕様で、CPUやメモリなどと通信するためのI/Oシリアルインターフェース。5.0は32GT/s、6.0は64GT/sのデータ転送速度。

(注4)ミリ波通信周波数帯

3GPPリリース15より採用された移動通信システム用通信周波数帯の一つ。採用されている周波数としては24.25 GHz~29.5 GHz、37.0 GHz~43.5 GHz、47.2 GHz~48.2 GHzがある。その周波数帯では既存の6 GHz以下の周波数帯と比較し広い帯域を用いた高速大容量通信が可能である反面、電波の空間伝送損失が非常に大きいため通信信号の品質劣化が大きく、通信可能な距離に制約があるため端末性能の評価がより重要となる。

 

(2) PQA事業

1) 超高速タイプ自動重量選別機の開発

食品・医薬品メーカーは、市場のグローバル化、原料コストの高騰、労働人口の減少などの環境変化を背景に、生産ラインの高速化や自動化など、さらなる生産性と品質向上の両立に取り組んでいます。そのため、包装機の高速化も進んでおり、当社の検査機においても検査選別能力の向上が求められています。

AW9シリーズ超高速タイプ自動重量選別機は、当社の強みである電磁平衡式はかりの性能を向上させ、従来機比で70%アップとなる世界最高水準の選別能力1,000個/分を実現しました。新開発のデジタル振動制御やフレーム構造など、多面的な振動除去技術により、振動影響が無視できない高速ラインで高精度を実現しました。さらに、高速で搬送される商品の揺れを抑制する小径ローラーを採用したことにより、サイズの小さな商品でも安定計量を実現しました。これらの高速・高精度計量技術によって、従来では対応が難しかった超高速計量ラインへの導入を可能にしました。

 

2) AIを搭載し検査性能を高めたX線検査機の開発

当社が以前から研究開発に取り組んでいる深層学習技術をベースにした独自の異物検出用AIは、近年のAI技術の急速な進歩を活用し、その学習・判断能力を飛躍的に高め、実用に供するまでに至りました。

当社は、このAIを高精細なX線撮像能力を持つX線検査機XR75シリーズHRタイプに搭載することにより、その検査性能を大きく向上させました。

高品質な食肉への需要が世界的に高まる中、加工工程での確実な骨の検出と除去が課題となっています。当製品は、食肉の中でも特に検出難度が高い鶏肉における軟骨や樹脂系異物を自動検出し、従来機では検出が困難であった異物の排除に威力を発揮します。また、食肉加工食品のソーセージにおける折れや欠けなどの形状不良検査に対しても、ソーセージ同士の重なりなどの検出難度が高い条件下で高精度な検出を可能にしました。

 

(3) 環境計測事業

1) 製造業のDXを加速するAccelVisionやローカル5Gパフォーマンスモニタの開発

製造業では、労働人口の減少に対する生産性の維持・向上が課題となっています。当社は、映像及び通信のコンピテンシーを活用し、ヒト・モノ・コトを繋げて見える化を加速する産業DXソリューションであるAccelVisionを開発しました。これにより、生産現場で生じる様々な事象を技術者や作業員の“目”の代わりとなっていち早く収集・伝達します。製造現場の工程ごとに散在していた生産情報を一元的に可視化し、トラブル発生時の生産ロスを大幅に削減することが期待されます。

また、ローカル5Gは広帯域・低遅延・高セキュリティなどの特徴により製造現場での活用が期待されていますが、電波は目に見えないため、異常発生時に状況把握が困難という課題がありました。

当社は、通信計測技術とパートナーである株式会社構造計画研究所のシミュレーション技術を融合し、電波環境を可視化する「ローカル5G運用パフォーマンスモニタ」を開発しました。複数のプローブ端末で多点同時測定を行うことで、時間変動も考慮した電波環境が把握でき、ヒートマップと時系列グラフで電波環境を可視化することで、通信障害の迅速な復旧や未然防止を支援します。

 

2) 大容量ズーム直流電源(DZ-X)、電力回生型双方向電源(RZ-XA)の開発

カーボンニュートラル社会の実現に向け、自動車市場では内燃機関から EVやFCVへのシフト(電動化)の動きが急速に進んでいます。その流れは自動車から、建機や農機、船舶といった市場へと広がっており、搭載されるモータやインバータ、電池が多様化し、各メーカーでは試験の効率化や試験環境構築のための投資最適化が課題となっています。当社はモータやインバータの特性試験、電池の充放電試験、さらには車載電装品の試験を行うことができる大容量の電源装置を販売しており、設備投資費や運用コストの大幅な削減に貢献しています。

この度、開発時の試験から生産ラインにおける出荷検査まで幅広い場面での活用を想定した2種類の電源装置を開発し、販売を開始しました。DZ-X は直流給電専用電源装置、RZ-XA は電力供給(力行)と電力吸収(回生)の機能を併せ持つ双方向電源装置です。また、RZ-XAは試験対象のモータなどで回生した電力を系統側に戻し、電力を再利用することができます。どちらも当社が強みとする電源制御技術により、装置を直列/並列で複数台接続し、お客様の試験環境に必要な電源容量を実現できます。さらに、当社のオリジナルであるズーム機能により、多様化する試験ニーズに合わせた出力設定が可能です。装置の高さも従来比で1/3にコンパクト化を達成し、試験環境最適化に貢献します。