当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
私たちは、経営理念である「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」を実現するため、「誠意と熱意を持つ者が事を成す」という創業の精神を胸に、衛生・人生・再生の「3つの生きる」を成し遂げていきます。この「3つの生きる」は経営理念の4つの柱「ものづくりへのこだわり」「地域社会とのきずな」「安全で働きがいのある企業風土」「地球環境への貢献」を通じて展開しています。
<大王グループのパーパス>
「誠意と熱意」をもって、「3つの生きる」を成し遂げ、「やさしい未来」を実現する。これが私たちの存在意義です。すなわち経営理念「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」そのものです。
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<大王グループのビジョン:3つの生きる> 衛生:人々の健康を守る 人生:人生の質を向上させる 再生:地球を再生する |
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<経営理念4つの柱>
1.ものづくりへのこだわり(Dedicated)
現場・現物・現実に基づいた新たな商品と付加価値の創造・提供を通じて、国際社会から信頼される企業グループであり続けます。
2.地域社会とのきずな(Attentive)
各国・各地域の発展に寄与するために、「良き企業市民」として高い倫理観を持って地域社会との調和ある成長を目指します。
3.安全で働きがいのある企業風土(Integrated)
持続的な企業価値の向上を図るために、安全で働きがいのある企業風土づくりに取り組み、社員相互の信頼関係に基づいた一体運営を推進します。
4.地球環境への貢献(Organic)
地球環境と調和したグローバルな事業展開を通じて環境問題に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現を目指します。
<大王グループのマテリアリティ>
大王グループでは、ステークホルダーの関心ごとと当社グループにおいて、今対応しなければ、近い将来企業価値に影響を与えるという視点から、リスクと機会(対応)を抽出するとともに、将来のありたい姿からやるべき事項を抽出し、現時点では何が重要かを取締役会などで議論し、10のマテリアリティ(重要課題)を特定しています。
(2)中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、国内市場の縮小に伴い、ホーム&パーソナルケア事業のグローバル化、新素材分野の早期事業化、そして2050年のカーボンニュートラル達成に向けたエネルギー転換という重要な課題に直面しています。一方で外部環境に目を向けると、3年間にわたるパンデミック、ロシア・ウクライナ戦争に端を発する原燃料価格の大幅な高騰や円安など、当社を取り巻く事業環境は目まぐるしく変化し、その変化の速度は年を追うごとに加速しています。このような状況下において、経営陣と従業員が常に同じ目線で目標を共有し、一丸となって業務に取り組むことが、企業価値を高めるための第一歩になると考え、第8次中期事業計画が終了する2035年度をターゲットとした長期ビジョン『Daio Group Transformation 2035』を策定しました。この長期ビジョンでは、次の4つのテーマに焦点を当てています。
① エリアのTransformation
活動領域と発想の基準を日本中心から、グローバル視点へとシフトします。
② 強みのTransformation
既存の強みに加え、「環境変化に対応できる力」「新しい製品やサービスを生み出す研究開発力・マーケティング力」も当社の強みに加えるべく変革を進めます。
③ エネルギーのTransformation
石炭依存のエネルギー構成から、地域共生型の廃棄物燃料や木質燃料への転換を進め、化石燃料由来のCO2排出量の削減を目指します。
④ 価値創造の源泉の強化
Transformationを実行するのは人です。そのため上記3つのTransformationの土台としての人財育成を経営の最重要課題として取り組んでいきます。これまでの中期事業計画では積極的な設備投資を中心としたハード面を先行して強化してきました。第5次中期事業計画では、人財とそれを支える組織文化の醸成にも投資し、これまでの中期事業計画で強化してきたハード面の投資による成長を確実なものにしてまいります。
これらのテーマに取り組むことで2035年度に連結売上高1兆2,000億円、営業利益率10%の達成を目指します。
大王グループの目指す姿
https://www.daio-paper.co.jp/ir/policy/aspiration/
(3)会社の対処すべき課題
第4次中期事業計画(2021年度から2023年度)の結果を振り返ると、新ブランド「エリエール Pet キミおもい」によるペットケア事業への本格参入やブラジルのサンテル社の業績向上などの成功があった一方で、課題としてはホーム&パーソナルケア事業の国内事業の利益率改善、海外事業の営業黒字化、2022年度に計上した多額の純損失により大きく毀損した財務体質改善が残されています。そこで第5次中期事業計画の3年間(2024年度から2026年度)を長期ビジョンの実現と第6次中期事業計画以降のさらなるステップアップに向けて力を蓄える期間と位置づけ、『Reframe ~基盤の強化~』のスローガンの下、長期ビジョンのテーマでもある「Transformation」を実行していくための人財育成と財務を中心とした経営基盤の再構築に注力します。具体的には「営業キャッシュ・フロー創出力強化」「将来成長のための厳選した投資の実行」「財務基盤の強化」の3つをテーマに掲げ、次の施策を実行してまいります。
① 営業キャッシュ・フロー創出力強化
(a)ホーム&パーソナルケア事業の海外事業
海外事業の営業黒字化を目指し、商品戦略・販売戦略の再構築と戦略的なマーケティングを推進し、既存販売エリアでの収益力強化に取り組みます。さらには長期ビジョンの実現に向けた拡大策の立案、それを支える人財の育成、組織の整備を行います。
(b)ホーム&パーソナルケア事業の国内事業
国内事業では、カテゴリーの選択と集中を通じて、2026年度に営業利益150億円(過去最高を記録した2021年度の水準)まで回復することを目標に事業を展開します。具体的には、成長分野であるファミリーケア(衛生用紙カテゴリー)とヘルスケアに開発・マーケティング費用を集中的に投下し、販売を伸長させることで増分利益を獲得していきます。
(c)紙・板紙事業
紙・板紙事業では、売上高の拡大から安定した営業利益の獲得に方針を転換し、毎期100~150億円程度の営業利益を確保することを最優先事項として事業を展開します。今後、原紙販売の伸長が見込めない中、パッケージ分野を中心に付加価値の高い最終製品の販売比率を高め、素材から最終製品までの一貫化を一段と強化してまいります。
② 将来成長のための厳選した投資の実行
第6次中期事業計画以降の再拡大への布石として、環境、新規事業、そして変革を支える人・組織への投資を行います。
(a)環境対応のさらなる推進
環境投資については、2035年までをカーボンニュートラル実現に向けた移行期と位置づけ、いわき大王製紙4号ボイラー(バイオマスボイラー)の再稼働を進め、化石燃料由来のCO2排出量削減に注力します。
(b)将来キャッシュ・フロー拡大のための新規事業強化
持続的な成長を実現するためには、ホーム&パーソナルケア事業のグローバル展開による成長に加え、新規事業の創出・育成が必要不可欠であると考えています。そこで、新規事業として昨年度本格参入したペットケア事業の育成を目的に、引き続きブランド投資に注力するほか、CNF分野では本格的な事業化に向けた準備として、CNF複合樹脂の販路開拓や販売活動を促進するための商用プラント(2025年度稼働予定)の建設に着手します。さらに、パルプの有効活用策としてバイオリファイナリーの事業化に向けた生産実証事業を開始します。これらの研究開発活動への投資も増やし、設備投資だけでなく人財強化にも力を入れることで、新規事業の育成を図ってまいります。
(c)変革を支える人・組織の整備
人・組織への投資では変化・挑戦(≒リスキリング)をサポートできる研修体制を充実させるほか、海外事業や新素材といった今後拡大・成長を図るセクションへの経験者採用も強化します。
③ 財務基盤の強化
前述のとおり、事業活動によるキャッシュ創出力を強化するとともに、中長期的な戦略シナリオに基づき投融資を厳選して行うことで、事業ポートフォリオ・マネジメントと資本効率の向上を推進してまいります。併せてノンコア資産の売却やキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善にも継続して取り組み、財務体質の改善・強化を図ってまいります。
また2024年7月に社長の諮問機関として投融資委員会を設置する予定であり、「投資戦略議論の充実」「蓋然性検証」「モニタリング」の3つの機能を強化します。本委員会を通じて投融資の意思決定におけるガバナンスをより強化することで、投資効果の最大化、財務体質改善と成長の両立を実現し、ROIC経営の浸透・向上とリスク管理の強化を推進します。
以上の取り組みを完遂することで、2026年度にグループ連結売上高7,400億円、営業利益300億円を達成し、「Transformation」を実行していくための経営基盤を再構築します。
(業績計画)
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第4次中計 2023年度実績 |
第5次中計 2026年度計画 |
(参考)長期ビジョン 2035年度目標 |
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売上高 |
6,717 |
億円 |
7,400 |
億円 |
1兆2,000 |
億円 |
|
営業利益 (営業利益率) |
144 (2.1 |
億円 %) |
300 (4.1 |
億円 %) |
1,200 (10.0 |
億円 %) |
|
経常利益 |
96 |
億円 |
210 |
億円 |
- |
|
|
ROE |
1.9 |
% |
4.5 |
% |
- |
|
|
設備投資額(3ヵ年計) |
1,435 |
億円 |
915 |
億円 |
- |
|
|
ネットD/Eレシオ |
1.5 |
倍 |
1.2 |
倍 |
- |
|
|
為替レート |
144.6 |
円/ドル |
150.0 |
円/ドル |
- |
|
(事業別計画)
|
|
2023年度実績 |
2026年度計画 |
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|
|
売上高 (億円) |
営業利益 (億円) |
営業利益率 |
売上高 (億円) |
営業利益 (億円) |
営業利益率 |
|
紙・板紙事業 |
3,553 |
160 |
4.5% |
3,500 |
100 |
2.9% |
|
ホーム&パーソナルケア事業 |
2,931 |
△41 |
- |
3,600 |
185 |
5.1% |
|
(内訳)国内事業 |
1,970 |
77 |
3.9% |
2,300 |
145 |
6.3% |
|
海外事業 |
961 |
△118 |
- |
1,300 |
40 |
3.1% |
|
その他事業 (調整額を含む) |
233 |
25 |
10.6% |
300 |
15 |
5.0% |
|
合 計 |
6,717 |
144 |
2.1% |
7,400 |
300 |
4.1% |
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。
(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン
大王グループでは、当社グループのサステナビリティ戦略として、2021年5月に「大王グループサステナビリティ・ビジョン」を策定しました。その戦略に沿った取組を推進するため、当社グループは、経営に社会課題解決を織り込んだサステナビリティ活動を進めていきます。
・大王グループサステナビリティ・ビジョン
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/2021_daio-sustainability-vision.pdf
① ガバナンス
大王グループでは、代表取締役社長を委員長とした「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティに関する戦略や方針等を議論しています。サステナビリティ戦略である「大王グループサステナビリティ・ビジョン」についても「サステナビリティ委員会」で議論の上、取締役会で策定しました。
「サステナビリティ委員会」の下に「ESG小委員会」を設け、その小委員会では、サステナビリティを巡る動きやマテリアリティと連動する8つの部会(①地球温暖化対策部会、②物流GHG削減部会、③環境負荷低減部会、④SDGs調達推進部会、⑤TCFD対応部会、⑥森林・生物多様性対応部会、⑦価値共創部会、⑧ESG情報開示充実部会)を設置し、具体的なマイルストーンや取組項目を決めて実行しています。
「サステナビリティ委員会」は四半期に1度、年4回開催し、部会の具体策を評価・進捗確認します。これらの情報も含め、サステナビリティの課題や課題に対する取組、進捗状況を定期的に取締役会に報告しています。
② 戦略
当社グループのパーパスは「誠意と熱意」をもって「3つの生きる(衛生・人生・再生)」を成し遂げ、「やさしい未来」を実現することです。経営理念の4つの柱「ものづくりへのこだわり」「地域社会とのきずな」「安全で働きがいのある企業風土」「地球環境への貢献」を体現するなかで、過去から取り組んできた社会課題解決とSDGsを連動させて、ありたい姿「やさしい未来」を実現していきます。
ありたい姿「やさしい未来」の実現にあたっては、マテリアリティに沿って取組を進めています。マテリアリティについては、
マテリアリティのうち、「気候変動への対応」「循環型社会の実現」「森林保全と生物多様性の維持」は、「3つの生きる(衛生・人生・再生)」の3つ目の「再生(地球の再生)」に関する重要課題であり、特に「気候変動への対応」は当社グループにとっての最重要課題と認識しています。
また、当社グループは、持続的な企業価値の創造に挑戦する人財を育成していくため、安全で働きがいのある企業風土の構築を目指しています。その実現のために、「人権尊重と人財育成、社員への思いやり」をマテリアリティの一つとしており、人的資本への対応を重要課題と位置づけ、取組を進めています。
③ リスク管理
大王グループでは、サステナビリティに関する総合的な管理は「サステナビリティ委員会」に集約しています。
「サステナビリティ委員会」の体制として、ESG小委員会を設け、さらにその下に8つの部会を設立しました(①地球温暖化対策部会、②物流GHG削減部会、③環境負荷低減部会、④SDGs調達推進部会、⑤TCFD対応部会、⑥森林・生物多様性対応部会、⑦価値共創部会、⑧ESG情報開示充実部会)。部会で議論されたサステナビリティに関する取組、国内外の動向や当社グループを取り巻く状況変化、取組のKPIに対する進捗状況などの報告を受け、審議しています。
「サステナビリティ委員会」で審議された事項は、四半期に1回、取締役会に報告され、当社グループの運営に反映されます。同様に、コンプライアンス違反、不祥事を含む経営に重大な影響を及ぼす恐れのあるリスクの識別・評価は、リスク・コンプライアンス担当の取締役を委員長とする「リスク・コンプライアンス委員会」で審議され、取締役会に定期的に報告の上、反映されます。
④ 指標及び目標
大王グループでは、サステナビリティ戦略と連動する以下のKPIを設定しています。上記のガバナンス体制に沿って、各指標の進捗状況を具体的に評価・確認し、目標達成に向け取り組んでいます。
|
経営理念の 4つの柱 |
マテリアリティ |
貢献するSDGs |
事業戦略・主な取組み |
事業を通じた主な社会課題解決 及び目標とする指標 (2030年度KPI) |
2021年度 実績 (注1) |
2022年度 実績 (注1) |
|
|
1.ものづくりへのこだわり |
事業ポートフォリオの戦略的変革 |
|
新聞・洋紙事業 ●生産体制・販売構成の見直し ●川下の印刷事業の強化 産業用紙・段ボール事業 ●国内での安定供給の継続 ●海外展開の加速 |
●洋紙から板紙への転抄 →マシン稼働継続による雇用維持 |
(注2) |
(注2) |
|
|
グローバル展開の加速 |
H&PC国内事業 ●吸収体事業と国内シェア向上 ●衛生用紙と複合事業モデル確立 H&PC海外事業 ●既進出国での複合事業化 ●新規市場に進出し事業基盤構築 |
●海外各拠点での地域発展に貢献 →技術・開発能力の向上・雇用維持・創出 |
(注2) |
(注2) |
|||
|
新規事業の創出 |
新規事業 ●セルロースナノファイバー ●RFID(ICタグ) |
セルロースナノファイバー商品化分野数 |
7 |
2 |
2 |
||
|
●RFIDによる業務効率化・働き方改革 |
(注2) |
(注2) |
|||||
|
●環境配慮型商品(脱プラスチック等)の販売 |
|||||||
|
●感染症対策商品(マスク・除菌ウェット等)の販売 |
|||||||
|
2.地域社会とのきずな |
地域社会との共生 |
|
●南米チリで地域の農業・酪農を支援する生活・灌漑用水の安定供給 ●アテントマイスター・プロ資格認定者数 |
- |
(注2) |
(注2) |
|
|
アテントマイスター・プロ資格認定者 |
22,000名 |
2,778名 |
4,787名 |
||||
|
持続可能なサプライチェーンの構築 |
●CSR調達 |
サプライヤーアンケート回収率 |
100% |
95% |
96% |
||
|
|
5段階評価で3.5以上の取引先数 |
90% |
62% |
61% |
|||
|
●森林認証 |
国内外での森林認証の維持継続 |
100% |
100% |
100% |
|||
|
3.安全で働きがいのある企業風土 |
人権尊重と人財育成、社員への思いやり |
|
(注3) |
||||
|
公正で透明性の高い経営 |
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4.地球環境への貢献 |
気候変動への対応 |
|
●バイオマス由来燃料への転換、廃棄物燃料の有効利用など |
化石由来のCO2排出量削減 (対2013年度比)(注4) |
46% |
3.2% |
7.0% |
|
循環型社会の実現 |
●難処理古紙の利用促進(基幹工場である三島工場板紙への配合率) |
板紙への配合率 |
30% |
15.7% |
14.2% |
||
|
●ゼロエミッション |
再資源化率 |
100% |
98.4% |
97.1% |
|||
|
●水の循環・再利用、適正な用排水処理による排水の浄化 |
用水・排水COD売上高当り原単位 |
(対前年度比) 1%/年削減 |
用水 5.6% COD 9.9% |
用水10.5% COD 6.0% |
|||
|
森林保全と生物多様性の維持 |
●南米チリの天然記念物「アレルセ」を現地NPOと連携し保護 |
約28,000haを天然林として維持 |
増減なし |
増減なし |
|||
|
●希少淡水魚「カワバタモロコ」を徳島県と連携し、繁殖・放流 |
植林面積拡大 15,000ha (2050年度までに) |
約400ha |
約200ha |
||||
(注1)2023年度実績につきましては未確定のため2022年度までの実績を掲載しています。
(注2)KPIの設定については今後検討してまいります。
(注3)取組やKPIにつきましては、「(3)人的資本に対する考え方」を参照ください。
(注4)基準の2013年度以降に当社グループとなった子会社の排出量を含んでいます。
(2)気候変動への対応
当社グループでは、「気候変動への対応」をマテリアリティの1つに掲げ、最重要課題として位置づけ、取り組んでいます。
2021年5月の「大王グループサステナビリティ・ビジョン」の策定と同時にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明しており、TCFDの提言に沿った気候変動関連のリスク・機会評価を行い、経営戦略やリスク管理などに反映させ、財務上の影響などの情報開示の充実を進めています。
① ガバナンス
気候変動への対応に関する基本的なガバナンスはサステナビリティ戦略全体のガバナンスに含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。
当社グループでは、特に「気候変動の対応」をマテリアリティのひとつに挙げ、石炭ゼロ化の推進に力を入れています。サステナビリティ戦略全体のガバナンスの中で、気候変動に関する具体的な取組については「サステナビリティ委員会」の下部組織「ESG小委員会」の下に設置した8部会のうち、「地球温暖化対策部会」「TCFD対応部会」「物流GHG削減部会」「森林・生物多様性対応部会」「価値共創部会」の5部会を中心に検討・推進しています。「ESG小委員会」は、これらの取組の進捗も含めて管理しています。特に石炭ゼロ化の推進は、生産部門担当の取締役常務執行役員を責任者として位置づけ、社内の取締役、執行役員が出席する会議体の中でも、その取組を報告、モニタリングする体制としています。
② 戦略
大王グループは、国内紙・板紙部門とホーム&パーソナルケア部門において、気候変動による事業への影響を1.5℃シナリオと4℃シナリオの2つのシナリオを基に、中期(2030年)、長期(2050年)で分析しました。
各シナリオの前提条件はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)のシナリオなどを参照し、物理的リスクについてはWRI(世界資源研究所)や文部科学省気象庁、Four Twenty Seven、Encore、UNEPのデータを基にリスク評価を行いました。
<気候変動におけるリスクと機会>
以下で示す気候変動のシナリオ分析におけるリスクと機会の財務インパクトは、大:150億円以上、中:50億~150億円、小:50億円未満、-:分析中です。
|
リスク項目 |
事象の詳細 |
2030年1.5℃ |
2050年1.5℃ |
戦略・対応策 |
|
|
政策・ 法規制 |
CO2排出量削減の義務化 GHG排出量の規制強化 カーボンプライシングの上昇 |
・GHG排出規制とカーボンプライシングの導入 ・エネルギー価格上昇による原価アップ |
大 |
中 |
・FITボイラー自社消費へ転換 ・太陽光等の再生可能エネルギーの導入 ・2030年までにリサイクルボイラーを設置等により、石炭ボイラー2缶停止による化石燃料から廃棄物燃料への転換 ・省エネルギー技術導入、投資継続実施 ・植林面積の拡大 ・四国中央市カーボンニュートラル協議会等の取り組み推進 ・リサイクルボイラー・石炭ボイラーでブラックペレット燃焼 ・水素・アンモニア燃焼技術の導入 ・CCUS (四国中央市カーボンニュートラル協議会等にての取り組み) |
|
・炭素税導入により、各種資材価格が上昇 |
中 |
大 |
・商品開発段階からGHG排出量がより少ない資材を選定しコスト上昇を抑制 |
||
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市場 |
環境対応商品へのシフト |
・環境不対応商品の販売減 ・CFP開示遅れによる販売減 ・エシカル消費による需要減少 |
- |
- |
・環境対応への設計変更 ・CFP表示等の推進、対応 ・再生プラスチック化推進 |
|
技術 |
商品物流を低炭素 エネルギーへ転換 |
・物流手段の低炭素化の取組として新技術の導入等によるコスト増加 ・燃料転換 |
小 |
小 |
・トラックから内航船・RORO船へのモーダルシフトと輸送距離の短縮の推進、ダブル連結等を推進 ・今後の自動運転や水素・合成燃料トラック等の技術革新にあわせて導入を推進 |
|
リスク項目 |
事象の詳細 |
2030年4℃ |
2050年4℃ |
戦略・対応策 |
|
|
急性的 |
台風の多発、 集中豪雨の多発 |
・自然災害による生産活動への影響(洪水) ・道路・鉄道・港湾設備被害によるサプライチェーン寸断、商品や原材料輸送の停止 |
小 |
小 |
・BCP(事業継続計画)・BCM(事業継続マネジメント)対応の推進 |
|
慢性的 |
降水・気象パターンの変化や平均気温上昇 |
・植林地、原料調達先が被害を受け、安定調達に影響が出る |
小 |
小 |
・調達先の多角化による調達の安定化 ・植林の推進による原材料の調達量の確保 ・植林する地域・気候に適した樹種の選定、育種開発 |
|
機会項目 |
事象の詳細 |
2030年1.5℃ |
2050年1.5℃ |
戦略・対応策 |
|
|
商品とサー ビス |
需要家の品質要求が変化 技術革新による新商品・サービスの開発 |
・環境配慮型商品(FSC商品、脱プラ・減プラ商品)の需要増加 ・環境貢献商品(制汗、防災・避難グッズ商品)の需要増加 ・リサイクルに対する認識の変化 ・産業廃棄物を減らす風潮 ・水資源の節約から節水型商品の増加
|
小 |
小 |
(紙・板紙部門) ・脱プラ製品、包装機能材の拡大 ・FSC等の認証品拡大 ・CNF素材、RFIDの開発推進、製品拡大 (H&PC部門) ・脱プラ包装材への転換 ・マスク、衛生用品等の気候変動対応商品の拡大 ・制汗商品、熱中症対策商品の開発、販売拡大 ・水に溶けやすい商品等の開発、節水支援 |
|
廃棄物、余剰の有効利用 |
・バイオ素材・製品の需要増加 |
- |
- |
・製紙素材を利用したバイオマスの化成品、素材の開発、販売拡大 |
|
|
資源効率 |
原料のリサイクル 資材の再利用 |
・原材料のリサイクルシステム構築による費用逓減 ・消費者環境政策要求の満足度向上 |
- |
- |
・使用済み紙おむつを回収、リサイクルする仕組みの構築 ・素材を再利用する設備導入 ・環境配慮型商品の上市 |
③ リスク管理
気候変動への対応に関する基本的なリスク管理はサステナビリティ戦略全体のリスク管理に含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。
特に、気候関連リスクの識別・評価においてはシナリオ分析を行い、移行リスク、物理的リスク、機会に分けて網羅的に抽出して、財務に影響を与える項目を整理しました。また、リスクの特定や不確実性の高/低の評価、定性的・定量的な財務インパクトの検討を行っています。
気候変動リスクの識別・評価は、「サステナビリティ委員会」の下部組織「ESG小委員会」の下に設置した8部会のうち、「地球温暖化対策部会」「TCFD対応部会」「物流GHG削減部会」「森林・生物多様性対応部会」「価値共創部会」の5部会において実施しています。
④ 指標と目標
2021年5月の大王グループサステナビリティ・ビジョンの公表・TCFDへの賛同表明と同時に、事業戦略と連動させる形で、地球温暖化対策の長期ビジョンとして「2050年 カーボンニュートラル」を目指すことを発表しました。そのマイルストーンとして、Scope1+2における「2030年化石由来CO2排出量46%削減(2013年度比)」を掲げ、ロードマップも開示しています。
・大王グループ統合レポート2023(P71-72)
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads//pdf/2023/DAIO_2023_all_re.pdf
ロードマップでは、2050年までに主要工場の三島工場で保有する石炭ボイラー全3缶停止の方針を掲げ、再生可能エネルギーや低炭素燃料(LNGなど)への燃料転換、省エネルギーを推進するとともに、地域における廃棄物等を燃料とするリサイクルボイラー(現在環境アセスメントを実施中)の導入により、地域全体でのCO2削減を進めていきます。
さらに、植林拡大によるCO2吸収・固定量増にも取り組み、排出削減と吸収・固定で2050年までにカーボンニュートラルを実現していきます。
Scope3については、現在グループ全体の定量把握を進めており、2022年度は大王製紙単体に加え、国内生産会社まで算出が完了しています。今後、グループ全体の目標を設定し開示するとともに、サプライチェーン全体での排出削減に取り組んでいきます。
<2022年度実績>
化石由来CO2排出量:3,511千トン
化石由来CO2排出量削減率(2013年度対比):7.0%
GHG排出量:4,158千トン
(うち、Scope1:3,491千トン、Scope2:667千トン)
(注)2022年度に株式取得をした吉沢工業株式会社(2022年5月)と株式会社大貴(2022年10月)を含みます。
2023年度の実績は2024年9月発行予定の当社「統合レポート 2024」に記載する予定です。
Scope3は大王製紙単体の2022年度実績のみであることから、2022年度のGHG排出量に含めていません。なお、2022年度の大王製紙単体のScope3排出量は2,297千トンでした。
<四国中央市カーボンニュートラル協議会について>
当社グループは地域全体での脱炭素化に取り組んでいくため、四国中央市カーボンニュートラル協議会に幹事会社の1社として積極的に関わっています。2023年3月に公表したロードマップに基づき、製紙産業においてのカーボンニュートラルを実現するため、多様な関係者が連携した取組を進めています。本協議会は、事業者、自治体、地元地方銀行、地元教育機関、地元業界団体等の結節点として、地域のカーボンニュートラル実現及び地域課題の解決に今後も貢献してまいります。
・四国中央市カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ(当社ホームページ開示資料)
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/Attachment-Roadmap.pdf
(3)人的資本に対する考え方
長期ビジョン「Daio Group Transformation 2035」に掲げるグローバル展開、研究開発力・マーケティング力の強化、化石燃料から廃棄物・木質燃料へのエネルギー転換といった重要な変革テーマを実行していく上での“価値創造の源泉”は人であり、一人ひとりが会社の成長や変革の担い手であると考えています。紙・板紙事業やホーム&パーソナルケア国内事業においても教育やジョブローテーション等を通してリスキリング、専門性の強化を進めるとともに、グローバルに活躍する人財や新規事業分野での高度専門性人財の確保と育成に注力していきます。
① ガバナンス
人的資本への対応に関する基本的なガバナンスはサステナビリティ戦略全体のガバナンスに含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。
② 戦略
変化や挑戦に前向きなマインドを持つ人財の育成に重点を置いて取り組んでおり、そのような人財が絶えず活躍する企業風土として「誰かの挑戦を後押しできる企業文化」の醸成を目指しています。社員の学びの意欲と努力によるスキルの獲得が個人と会社双方の成長につながると考えており、意欲・自発性を高める教育・成長機会の提供を人財育成の基本方針としています。
社員一人ひとりが画一的ではなく自律的にキャリアを形成できる環境と教育を進めています。
<自律的なキャリア形成支援について>
社員のキャリア自律を促進する施策として「Daio Career Challenge」(キャリア選択社内公募制度)を2020年より実施し、現在24名がこの制度を利用して異動しています。また、「自己申告制度」(ジョブローテーションなどの希望を申告できる制度)も導入しており、個々人の適性も考慮してローテーションに活かしています。また、他にも階層別教育として中堅社員対象のキャリアデザイン研修、新任管理職研修などを実施するとともに、社員の自己啓発を促進する通信教育受講補助制度などの教育制度を導入しています。
<グローバル人財育成について>
グローバルに活躍する人財育成の強化を目的として、国内外でのMBA取得支援、語学研修費用補助や海外勤務ワークショップの定期開催とともに、2024年4月より若手社員を対象とした海外語学留学の実施や、技術系社員の留学プログラムを再開し、グローバル人財の早期育成に取り組んでいきます。
変化や挑戦に前向きなマインドを持つ人財を多く生み出すために、企業の基本姿勢として全体最適に基づく発案を歓迎し、挑戦に報い、積極性を評価する制度の構築やメンバーの意見を積極的に促し傾聴し対話を通して変化・挑戦を支援していくことで「誰かの挑戦を後押しできる企業風土」への転換を進めています。
<評価・処遇制度改定について>
施策の一つとして、2024年4月には総合職の評価基準・行動要件を改定し、能力基準に加えて、積極的な姿勢やオープンなコミュニケーションといった仕事への基本姿勢・行動を評価項目とし、変化へのチャレンジやチームでの貢献を促す仕組みとしています。また、処遇においては年功的な制度から実力に基づく制度に改めたことにより、評価と処遇の透明性を高め、変化や挑戦を促し一人ひとりの成長に繋げていきます。
当社グループの発展を支える今後の事業展開において新たなイノベーションの創出には不可欠であり、それには多様な人財を活かす風土が欠かせません。当社グループでは代表取締役社長を委員長とするダイバーシティ委員会を設置し、多様な人財が挑戦・活躍できる成長機会を提供しています。
<女性活躍推進について>
当社の多様性拡大の中心にジェンダーギャップ縮小(女性活躍)を置き、当社グループの成長エンジンであり、女性活躍のフィールドが広がってきているホーム&パーソナルケア部門を中心に、積極的に女性の採用・配置を増やすとともに、全部門で女性リーダー層に対し異業種交流研修を実施するなど、育成強化に取り組んでいます。また、女性が十分に実力を発揮する環境を整備するために、これまで女性の負担が大きかった「家事・育児」の領域に男性が参加することが重要と考えており、男性の育児休業100%取得を目標に掲げています。子供が生まれる3ケ月前から育休取得希望を上司・会社と共有することで計画的な取得を可能とし、2023年度取得率が90.9%、平均取得日数が48.0日まで伸長しています。
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女性リーダー※率(総合職) |
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男性育休取得率※ |
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※女性リーダーとは:役員・管理職ではない総合職の役職者(係長、主任、チーフなどの役職がつく者)。
※男性育休取得率範囲:大王製紙株式会社単体。
<風土改革について>
女性活躍推進や男性の育児参画推進から開始した「風土改革」は、社内に新しい価値観・着眼点を生み働き方改革による生産性向上、社員の相互理解による連帯力の強化を促し、その先のイノベーション創出に繋がると考えています。さらにアンコンシャスバイアスへの対応、LGBTQ+や障がいのある方への理解促進等を通して真の多様性ある職場作りを目指し、毎年テーマを決めて研修を行っており、2023年はLGBTQ+についての研修を全社員対象に実施しました。他にも、ドレスコードのカジュアル化といった従来の価値観に変化を与え受容性醸成に取り組んでいます。
<エンゲージメント向上について>
当社では社員のエンゲージメントを高めることがイノベーションを生み出し、企業価値の持続的な向上に繋がると考えており、2021年に従来の「従業員満足度調査」を「エンゲージメント・サーベイ」に変更し、年1回サーベイを実施しています。各ユニット単位でサーベイ結果から読み取れる組織運営上の課題解決を各管理職の業績評価の1項目に挙げて会社全体でエンゲージメント向上を推進しています。
<健康経営について>
2014年度に公表した「大王グループ健康宣言」で、「活力ある健全な企業グループとして永続的に進化・発展していく」を掲げ、心身の健康増進に取り組んでおり、2024年3月には3度目となる「健康経営銘柄」、7年連続で「健康経営優良法人(大規模法人部門)~ホワイト500~」に選定されました。
健康の維持・増進に向け、「ライフ・ワークバランスの推進」、「生活習慣の改善」、「メンタルヘルスケアの充実」、「疾病の早期発見・早期治療」を健康経営の4本柱として、全社員参加の下、実行、推進し、人も企業も健康であることに努めます。
<安全衛生の取組みについて>
『事業所内で働くすべての人の安全を守る』ことを経営の最重要事項の一つとして掲げ、「安全な意識」「安全な環境」「安全な仕事」を3本柱に、「大王グループ安全衛生目標」を設定し、重篤災害につながるリスク抽出と対策を継続実行し、2023年度は重篤災害ゼロでした。リスクアセスメントによる職場改善や安全教育の実施、さらに災害時対策訓練などの安全活動を通じて、社員の安全を守ると共に、地域社会からも信頼される事業活動を展開しています。
③ リスク管理
人的資本への対応に関する基本的なリスク管理はサステナビリティ戦略全体のリスク管理に含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。
④ 指標と目標
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主なKPI |
単体 |
連結 |
対象範囲 |
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2023年度 実績 |
2023年度 実績 |
目標 |
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2.7% |
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提出会社及び国内・海外の連結子会社 |
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男性育休取得率 |
90.9% |
-(注1) |
100.0% |
提出会社及び男性育休取得率の開示義務がある常時雇用の労働者1,000名を超える国内連結子会社 |
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81.3% |
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提出会社及び国内・海外の連結子会社 |
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一般社員時間外 労働時間 |
21.3h/月 |
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提出会社及び国内・海外の連結子会社 |
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2.6% |
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提出会社及び障がい者の雇用義務がある常時雇用の労働者43.5名以上の国内連結子会社 |
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3年後新卒定着率 (総合職) |
82.7% |
-(注3) |
90.0% |
新卒総合職定期採用制を導入している大王製紙単体 ※2019年度~2021年度入社者の平均値を算出 |
(注)1.「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではないため連結子会社を含め集計しておらず、記載を省略しています。
(注)2.「障害者雇用促進法」(第43条第1項)の規定による雇用義務の対象でない国内連結子会社は、障害者雇用納付金の申告申請手続きをしていないため、集計に含んでいません。
(注)3.連結子会社については、新卒採用が定期に行われないなど採用方針が異なり、一律の設定が困難であるため、指標に関する目標及び実績は提出会社のみを記載しています。
有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重大な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。
また、リスク管理の体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要」に記載しています。
(1)需要・市況変動による影響
当社グループは、紙・板紙事業、ホーム&パーソナルケア事業及びその他の事業を行っていますが、主力製品である紙・板紙製品及び家庭紙商品の大幅な需要減少、製品市況の著しい下落により販売数量・販売金額の減少が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
紙・板紙事業部門においては、品種毎の需要変動や市況変動に対し、基幹工場である三島工場・可児工場にて柔軟に生産品種のシフトを行うといった生産体制の整備・見直しを実施しています。
また、ホーム&パーソナルケア事業部門においては、家庭紙商品における大幅な需要減少、製品市況の著しい下落により販売数量・販売金額の減少が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。これに対して、特定の商品カテゴリーにおける需要変動又は市況下落が全体に及ぼす影響を極小化できるよう、衛生用紙から吸収体製品まで幅広い商品ラインナップを持ち、それらを複合的に組み合わせた営業戦略を遂行するとともに、生活者から支持される商品を提供することを通じて、市況の変動に負けない強い営業スタイルを確立しています。
(2)原燃料価格変動、及び為替相場の変動による影響
当社グループは木材チップ・古紙・薬品・重油・石炭等の原燃料を国内及び海外から購入しており、原燃料価格の変動に加え、外貨建てで取引されている原燃料の調達に関しては為替相場の変動も、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
また、為替相場変動については、海外への紙・板紙製品及び家庭紙商品の輸出販売や海外子会社での販売活動にも影響を与える可能性があります。なお、当社グループでは為替相場変動による経営成績への影響を軽減する目的で、一部の取引に為替予約を利用したリスクヘッジを実施しています。また、原燃料価格変動に対する取引先を含めた体制強化や情報交換の活発化の重要性を踏まえ、「SDGs調達」を推進することで、取引先と一体となってCSRやSDGsに配慮しつつ、公平・公正な取引の実現、品質・技術力の向上、事業継続計画の策定による安定供給体制の確保を図っています。
(3)海外事業による影響
当社グループは成長戦略のひとつとして、ホーム&パーソナルケア海外事業部が中心となって中国、韓国、東南アジア諸国、トルコ、ブラジル等での事業展開に取り組んでいますが、海外における事業展開には為替相場の変動や現地政府による規制、外交関係や国民感情の悪化、政治不安等による経済環境の変化等が発生するリスクがあり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
これらに対し当社グループでは、グループ各社や日本の担当部署が収集した最新情報を関係者間で共有し、適切に対応することで、リスクの最小化を図っています。
(4)自然災害及び感染症等による影響
当社グループの生産、物流拠点等がある地域で災害が発生した場合には、生産設備の破損、操業の中断や遅延、物流機能の停止、原材料・製品・商品の滅失、復旧費用の発生等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
また、感染症等の拡大が発生した場合には、世界的な景気の悪化により販売数量の減少や原材料価格の高騰、原材料確保の難化、物流機能の低下等が生じ、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
そうした中で当社グループでは、災害発生時の被害の極小化、事業の早期復旧を図るため、グループを横断したBCM(事業継続マネジメント)の整備、実効性向上に向けた取り組みを進めています。
(5)法的規制・訴訟による影響
① 法的規制に関するリスク
当社グループは、環境規制、知的財産権、製品及び原材料の品質・安全性、商品の表示に関する法令や競争法、労働法令等その他様々な国内外の法規制等の適用を受けて事業を行っています。
当社グループでは、海外子会社を含むグループ全体へ「大王グループ行動規範」を周知・教育する等してコンプライアンスの強化に取り組んでいますが、法規制等について遵守できなかった場合や変更・改正が生じた場合には、当社グループの事業又は業績に影響を及ぼす可能性があります。
リスクを識別・評価するとともに、リスクの重要性に応じた適切な対応策を講じることで、リスクの顕在化を未然に防止し、法規制等を遵守した運営に取り組んでいます。
② 訴訟に関するリスク
当社グループは事業活動に関連して各種の訴訟等に巻き込まれるおそれがあり、その結果によっては当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
訴訟等やレピュテーションに悪影響を及ぼす事象が生じた場合には、弁護士事務所と連携し、対応する体制を整備しています。迅速な対応を行い、必要に応じて適切な情報を公表することで、当社グループのレピュテーションの維持に努めていきます。
(6)情報セキュリティに関するリスク
当社グループは、サイバー攻撃による事業停止や情報漏洩を重要なリスクと認識しています。そのため、ファイアウォールによる不正通信の遮断や次世代ウィルス対策ソフトの導入、不正アクセスの監視、メールフィルタリング、セキュリティパッチの適用、セキュリティ診断等を実施しており、復旧計画に基づき定期的なシステム復旧訓練も行っています。
個人情報漏洩防止に関してはAI機械学習等の最新のウィルス対策の導入やクラウドサービスの利用により特に強化を図っています。教育面では、標的型攻撃メール訓練を毎年実施するとともに、ITセキュリティ管理規則を制定し、外部デバイスの使用禁止等のセキュリティ対策を社員に徹底しています。
(7)金利変動による影響
当社グループは有利子負債の削減に取り組んでいますが、大幅な金利の上昇が生じた場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループでは金利変動による経営成績への影響を軽減するため、主として固定金利の長期借入にて資金調達を行うことにより、短期的な金利上昇リスクへの対応を図っています。
(8)財務制限条項の付された借入契約による影響
当社グループが複数の金融機関との間で締結している借入契約の一部には、各年度の決算期の末日における連結貸借対照表の純資産の部の金額や、各年度の決算期における連結損益計算書の経常損益等を基準として財務制限条項が付されており、これに抵触した場合には借入金の返済を求められ、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(9)投資有価証券の価格変動による影響
時価のあるその他有価証券は決算日の市場価格等に基づく時価法により評価するため、決算日の株価によっては、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループでは政策保有株式の縮減を進めており、保有株式を削減することで価格変動による影響も総額として縮小させていく方針です。
(10)固定資産の減損会計による影響
当社グループは、有形固定資産やのれん等の固定資産を保有していますが、これらの資産については減損会計が適用されており、当該資産から得られる将来キャッシュ・フロー又は当該資産の正味売却価額の何れか高い方の金額によって資産の帳簿価額の回収可能性を検証し、減損処理が必要な資産については適切に処理を行っています。しかし、経営環境の著しい悪化により事業の収益性が低下した場合や市場価格が著しく下落した場合等には、固定資産の減損会計の適用による減損損失が発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(11)気候変動に関するリスク
気候変動に関するリスク内容、対応策については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応」に記載のとおりです。
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものであり、次期の見通しについては、不確実性、あるいはリスクを含んでいるため、将来生じる実際の結果と乖離する可能性があります。
(1)経営成績の状況
当連結会計年度におけるわが国経済は、コロナ禍からの経済活動の正常化が進み緩やかな回復基調をたどりました。一方で、国際情勢の不安定化や円安に伴う原材料・エネルギー価格等をはじめとする物価動向の不確実性、及び世界的な金融引き締めの長期化懸念等、依然として景気の先行は不透明な状況です。
当社グループは、2021年度から2023年度を対象期間とする第4次中期事業計画において、「強靭な事業ポートフォリオの確立」「財務体質強化」「気候変動問題への対応」を基本方針に掲げて事業運営を行ってきました。
初年度に当たる2021年度は、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益で過去最高益を更新するとともに、財務体質の改善が進み信用格付でA格を取得する幸先の良いスタートを切ることが出来ましたが、2022年度には、原燃料の調達価格をはじめとするあらゆる製造コストが急速かつ大幅に悪化したことで、上場以来初の営業赤字となりました。これに対し、営業面では、各製品で複数回にわたる販売価格改定の実施及び改定後の販売価格の維持に取り組み、生産面では、エネルギー構成や生産体制の最適化によるコストアップの軽減、及び省力化を含む聖域なきコストダウンを推進しました。
この結果、最終年度である2023年度は、国内のメディア用途の紙の一層の市場縮小やホーム&パーソナルケア事業における中国での苦戦はありましたが、収益力の復元が一定程度進んだことに加え、ブラジル子会社の収益貢献等の事業ポートフォリオの充実化が進み、1年間で全ての段階利益が黒字に転換しました。
一方で、第4次中期事業計画の数値計画に対しては、原燃料価格をはじめとする製造コストの悪化を全て吸収するには至っていないことに加え、想定為替レート等の前提が乖離した影響もあり、未達となりました。第4次中期事業計画の数値目標及び当連結会計年度の連結業績は以下のとおりです。
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第4次 中期事業計画 数値計画 |
2023年度 (2024年3月期) 連結業績 |
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売上高 |
7,200億円 |
6,717億円 |
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営業利益 |
510億円 |
144億円 |
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営業利益率 |
7.1% |
2.1% |
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ホーム&パーソナルケア 海外売上比率 |
18.8% |
14.3% |
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ROE |
10%以上 |
1.9% |
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ネットD/Eレシオ |
1.0倍 |
1.5倍 |
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(前提)為替 |
110.0円/ドル |
144.6円/ドル |
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ドバイ原油 |
63.0ドル/bbl |
82.3ドル/bbl |
当連結会計年度の連結業績は、以下のとおりです。
① 売上高
売上高は、紙・板紙事業及びホーム&パーソナルケア事業において、国内需要減等の影響により一部で販売数量が減少したアイテムがありましたが、前連結会計年度から取り組んでいる価格改定の浸透等により、前連結会計年度に比べ25,475百万円増加(前年同期比 3.9%増)し、671,688百万円となりました。
② 営業利益
営業利益は、原燃料の調達価格の高騰や海外事業の業績悪化等のマイナス要因を価格改定効果で吸収したこと等により、前連結会計年度に比べ35,808百万円増加(前年同期は営業損失△21,441百万円)し、14,367百万円となりました。
③ 経常利益
経常利益は、支払利息やデリバティブ評価損が増加しましたが営業利益の増加の影響が大きく、前連結会計年度に比べ33,673百万円増加(前年同期は経常損失△24,050百万円)し、9,622百万円となりました。
④ 特別損益
特別利益は、主に国庫補助金の減少により、前連結会計年度に比べ3,135百万円減少し、5,276百万円となりました。特別損失は、主に減損損失の減少により、前連結会計年度に比べ19,682百万円減少し、3,880百万円となりました。
⑤ 親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ39,213百万円増加(前年同期は親会社株主に帰属する当期純損失△34,705百万円)し、4,507百万円となりました。
この結果、1株当たり当期純利益は前連結会計年度に比べ236円11銭増加し、27円10銭となりました。
当連結会計年度のセグメントの状況は、次のとおりです。
なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しており、以下の前年同期比較については、前年同期の数値を変更後の報告セグメント区分に組み替えた数値で比較分析しています。
① 紙・板紙
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売上高 |
355,307百万円 |
(前年同期比 5.0%増) |
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セグメント利益 |
15,974百万円 |
(前年同期はセグメント損失△12,369百万円) |
紙・板紙事業においては、新聞用紙は、発行部数及び頁数の減少により販売数量は前年同期から減少しましたが、価格改定の浸透によって販売金額は前年同期を上回りました。
洋紙(新聞用紙を除く)は、デジタル化の加速に伴う需要減少によってチラシやパンフレット用途の紙を中心に販売数量は前年同期から減少しましたが、価格改定の浸透によって販売金額は前年同期を上回りました。
包装用紙は、物価高騰による消費者の買い控えや省包装化の進行等に伴う需要の減少によって販売数量は前年同期から減少しましたが、価格改定の浸透によって販売金額は前年同期を上回りました。
板紙・段ボールは、主要用途である食料品や日用品の値上げによって国内需要が低迷し、輸出についても中国をはじめとする国際市場の停滞の影響を受けたことで販売数量は前年同期から減少しましたが、国内での価格改定の浸透によって販売金額は前年同期を上回りました。
これらの結果、紙・板紙事業では、売上高及びセグメント利益は前年同期を上回りました。
② ホーム&パーソナルケア
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売上高 |
293,064百万円 |
(前年同期比 5.1%増) |
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セグメント損失(△) |
△4,087百万円 |
(前年同期はセグメント損失△12,608百万円) |
ホーム&パーソナルケア事業において国内事業では、衛生用紙は、汎用品から付加価値品への販売シフトに取り組むとともに、トップメーカーとして生活者に支持される価値の提供と価格改定の浸透の両立を推進しました。紙加工品は、生活者の要望を反映した新商品やリニューアル商品、著名人やアウトドアブランドとのコラボレーション商品、及びデザイン企画品を連続して市場に投入し好評を得ました。また、2023年9月に立ち上げた新ブランド「エリエール Pet キミおもい」によって、ペットケア事業に本格参入しました。この結果、国内事業全体としては、新型コロナウイルスの5類感染症移行に伴う需要の減少により除菌関連商品やマスク等で前年同期から販売数量は減少しましたが、価格改定の浸透により販売金額は前年同期を上回りました。
海外事業では、中国は、フェミニンケアの販売拡大が進んだ一方で、主力のベビーケアで景況感の悪化、出生人口の減少、及びALPS処理水の影響を受けて減速したことに加え、生活者の購買動向や市場変化への対応が遅れたことで販売金額は前年同期を下回りました。ブラジルは、各商品の価格改定の浸透に加え、衛生用紙、ベビーケア、フェミニンケアにおける付加価値品の販売が伸長したことで販売金額は前年同期を上回りました。
これらの結果、ホーム&パーソナルケア事業では、売上高は前年同期を上回りましたが、セグメント利益は、中国での収益悪化の影響が大きく、セグメント損失となりました。
③ その他
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売上高 |
23,316百万円 |
(前年同期比 19.2%減) |
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セグメント利益 |
2,420百万円 |
(前年同期比 30.8%減) |
主に売電事業、機械事業、木材事業及び物流事業であり、売電事業の外部向けの販売減少等により、売上高は前年同期を下回りました。
<主要品種別販売数量・金額増減要因>
紙・板紙セグメント
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品種 |
数量 |
金額 |
動向 |
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新聞用紙 |
- |
+ |
新聞発行部数及び頁数の減少、価格改定の浸透 |
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洋紙 |
- |
+ |
印刷・情報用紙の需要減少、価格改定の浸透 |
|
包装用紙 |
- |
+ |
包装用紙の需要減少、価格改定の浸透 |
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板紙・段ボール |
- |
+ |
段ボール等の需要減少、価格改定の浸透 |
ホーム&パーソナルケアセグメント(国内)
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品種 |
数量 |
金額 |
動向 |
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衛生用紙 |
- |
+ |
ソフトパックティシュー、長尺トイレット等の付加価値品の 販売伸長、ペーパータオルの需要減、価格改定の浸透 |
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ベビーケア |
- |
→ |
少子化に伴う需要減少、価格改定の浸透 |
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大人用ケア |
+ |
+ |
高付加価値パッドの販売伸長、価格改定の浸透 |
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フェミニンケア |
- |
+ |
価格改定に伴う汎用品の販売減少、価格改定の浸透 |
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ウエットティシュー |
- |
- |
新型コロナウイルスの5類感染症移行に伴う需要減少、 トイレクリーナーの販売伸長 |
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ペットケア |
+ |
+ |
ペット市場に本格参入 |
(2)財政状態の状況
当連結会計年度末の総資産は、現金及び預金の増加等により、前連結会計年度末に比べ15,958百万円増加し、939,490百万円となりました。
負債はコマーシャル・ペーパーや支払手形及び買掛金の減少があるものの、その他流動負債の増加等により、前連結会計年度末に比べ798百万円増加し、679,659百万円となりました。
純資産は為替換算調整勘定やその他有価証券評価差額金の増加等により、前連結会計年度末に比べ15,160百万円増加し、259,831百万円となりました。
この結果、自己資本比率は前連結会計年度末に比べ0.8ポイント上昇し、26.3%となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末と比較して21,345百万円増加し、123,750百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により獲得した資金は、59,297百万円(前連結会計年度は26,233百万円の支出)となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益11,018百万円、減価償却費45,124百万円によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により支出した資金は、26,543百万円(前連結会計年度比31,406百万円の支出の減少)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出30,101百万円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により支出した資金は、13,612百万円(前連結会計年度は96,437百万円の獲得)となりました。これは主に、長期借入れによる収入75,031百万円、コマーシャル・ペーパーの純減額(支出)5,000百万円、長期借入金の返済による支出80,465百万円によるものです。
(4)資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、事業運営上必要な資金の流動性と資金源泉を安定的に確保することを基本方針としています。
事業活動における資金需要の主なものは、運転資金需要と投資資金需要です。運転資金需要のうち主なものは、生産・販売活動における原材料及び商品仕入、製造費や販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資資金需要の主なものは、事業戦略の遂行に必要な投資や品質改善・安全・環境のために必要な設備投資等です。
運転資金につきましては主に金融機関からの短期借入金で調達し、投資資金につきましては主に長期社債及び金融機関からの長期借入金により調達しています。また、今後の資金需要や金利動向等の調達環境、既存借入金や長期社債の償還時期等を総合的に考慮し、調達額及び調達手段等を適宜判断して実施することとしています。
なお、当社は国内子会社との間で導入しているキャッシュマネジメント・システムの一層の機能充実による資金効率化により、成長投資を進めながらも財務規律の維持に努めています。
(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表及び財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しています。その作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。
(6)生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
紙・板紙 |
321,076 |
98.3 |
|
ホーム&パーソナルケア |
221,856 |
101.3 |
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報告セグメント計 |
542,932 |
99.5 |
|
その他 |
30,492 |
117.8 |
|
合計 |
573,425 |
100.4 |
(注)1.金額は製造原価によっています。
2.当連結会計年度より、従来「紙・板紙」セグメントに含めていた事業の一部を「ホーム&パーソナルケア」セグメントに移管しており、前年同期比は、変更後のセグメントの区分に組み替えた数値によって算出しています。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)セグメント情報 1.報告セグメントの概要」に記載のとおりです。
(7)受注実績
紙・板紙事業及びホーム&パーソナルケア事業の製品については、需要を予測して見込生産を行っており、特に受注生産は行っていません。
(8)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
紙・板紙 |
355,307 |
105.0 |
|
ホーム&パーソナルケア |
293,064 |
105.1 |
|
報告セグメント計 |
648,372 |
105.0 |
|
その他 |
23,316 |
80.8 |
|
合計 |
671,688 |
103.9 |
(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しています。
なお、総販売実績に対する割合が10%以上の相手先がないため、「相手先別の販売実績」は記載していません。
2 当連結会計年度より、従来「紙・板紙」セグメントに含めていた事業の一部を「ホーム&パーソナルケア」セグメントに移管しており、前年同期比は、変更後のセグメントの区分に組み替えた数値によって算出しています。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)セグメント情報 1.報告セグメントの概要」に記載のとおりです。
(9)次期の見通し
国内においては、人口の減少や長期化する物価高、物流2024年問題による物流費の高騰が見込まれ、海外においても地政学リスクが高まるなど、当社をとりまく事業環境は不透明な状況が続くことが予想されます。
紙・パルプ業界においては、原燃料価格の高止まりや急激な円安といったコストの面における不安定要素に加えて、新聞用紙、印刷用紙等のグラフィック用紙の市場縮小の傾向が顕著となっています。
このような状況の中、当社グループは、紙・板紙事業を安定基盤としながらも、今後の成長を担うホーム&パーソナルケア事業へのウエイトシフトを積極的に進めています。国内では、2023年に本格参入したペットケア事業の規模拡大や衛生用紙の価格改定等による収益の最大化に取り組み、ブラジル、中国等の海外では、市場ニーズに沿った商品の展開及び複合事業化を進め、持続的な成長に向けた経営基盤の強化を図ってまいります。
これらの取り組みにより、2025年3月期の連結業績については、売上高700,000百万円、営業利益15,000百万円、経常利益7,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益1,000百万円を予想しています。
当社は、2024年5月15日付で北越コーポレーション株式会社との間で戦略的業務提携に係る基本契約(契約期間:契約締結の日より5年間、以降1年毎の自動更新)を締結しました。本業務提携により、生産技術、原材料購買、製品物流を中心とする取り組みから開始し、両社の中長期的な企業価値向上を図ってまいります。なお、詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」に記載のとおりです。
当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は
(1)紙・板紙事業
紙・板紙事業では、メディア用途の紙から梱包・包装用途の紙へのシフトを進めており、営業と工場部門が一体で行動することで、マーケットの変化や需要動向をいち早く捉え商品開発に生かせるよう取り組んでいます。
研究体制は、国内の主要な生産拠点に開発部員を配置しています。商品開発・企画推進グループでは、特殊紙分野の新商品開発を担当しており、昨今の脱プラスチック・環境配慮の要求に対応しながら、市場ニーズに合った紙製品・プラ代替商品の企画提案・開発を行っています。生産技術グループでは、ユーザーと直接対話を行いながらFSC認証製品化、再生紙化といった国内ユーザーのニーズを満たす商品のリニューアルや新規紙商品開発の他、海外で差別化が図れる高強度の板紙生産技術開発に取り組んでいます。また、昨今の古紙資源の海外輸出増加による古紙不足に対応するため、未利用古紙(難処理古紙)のリサイクル技術確立を進めています。
当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。
① 脱プラ・減プラ商品の開発に関する取組
紙という生分解性があり再生可能な原料を使用して脱プラ・減プラに貢献できるよう「FSエリプラ」ブランドの開発を進めてきました。
(a)プラスチック代替素材の開発
ナイフ、マドラーなどの高い剛性と耐水・耐油性が求められるプラスチックの代替として、「FSエリプラペーパー」、「FSエリプラ+(プラス)」など3品種とこれらの加工品を上市しています。
(b)プラ製フィルム包材やラベルの代替素材の開発
・従来のフィルム包材と同等の強度を持ちながら印刷適性も良好なラミネート紙「FSエリプラライト」
・ラミネートしなくてもヒートシール適性を持つ「FSエリプラヒートシール」など5品種
・耐水性を持つ紙製ラベルの「FSエリプラ耐水紙ラベル」
② 輸出向け高破裂強度板紙開発の取組
デジタル化による印刷用紙の需要減少に対し、新興国で需要が拡大する板紙需要を取り込むため、2020年4月にN7マシンの板紙への転抄を行い、海外への販売を強化しています。N7マシンでの板紙生産開始当初は、薄物クラフトライナーボード(古紙パルプの配合率が低く、強度が高い段ボール原紙)の代替として、高破裂強度製品の開発と増産を進めてきました。現在は、自動車部品のような重量物を運ぶケースや紙製パレットに使用される高米坪で強度の高い板紙を開発・生産して、国内外への販売を開始しています。
また、簡易包装化による環境負荷低減のニーズに対応できるよう、複数のマシンで再生クラフト紙・厚物クラフト紙を生産できる体制を確立しました。
③ 紙おむつ用フラッフパルプ開発の取組
紙・板紙事業以外への用途転換として、15号マシンをフラッフパルプ生産設備へ転換し、2023年7月から営業運転を開始しました。当社グループでの使用以外に、国内外の紙おむつ製造会社に適応したフラッフパルプの開発と販売拡大に取り組んでいます。
紙・板紙事業に係る研究開発費は、
(2)ホーム&パーソナルケア事業
ユーザーニーズの変化に対応した新商品開発と既存商品の改良に加え、SDGs推進の一環として環境配慮型商品に主眼を置き、付加価値商品の売上比率を増やすべく開発を進めています。
研究体制は、国内・海外の市場変化への素早い対応だけでなく、グローバル市場全体で品質とブランド価値を確立できるよう東京本社と国内2工場に開発部員を配置しています。また、中国、タイ、インドネシア、トルコ、ブラジルの海外子会社5社にも開発部員を配置し、世界で共通した商品価値の提供ができるようにしています。
当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。
① 衛生用紙での取組
日常使いできるワンランク上のトイレット新市場を開拓するために、“柔らかさ”と“丈夫さ”の両立により、「ふんわりした柔らかな肌触り(ロイヤルタッチ)」、「柔らかいのに水に濡れても破れにくい設計」、「吸水力が従来製品の約2倍(当社通常品比:当社測定方法による)」を実現した 『The エリエール』を上市しました。また贅沢保湿ソフトパックの追加上市を行いました。さらに長尺品ニーズへの対応として、i:na(イーナ)トイレット長尺品のシート幅統一リニューアル及び3.2倍巻き12ロールの上市を行いました。キッチンペーパーでは100カット仕様(晒・無漂白)を上市しました。キッチンシートについては、ドライクレープの技術を活かして、吸水量と柔らかさを同時に向上させたリニューアルを行いました。
② ウエットワイプでの取組
SDGs推進の一環として、2023年10月に生分解性繊維を100%配合した不織布を用いた『除菌できるメガネレンズクリーナー』を新発売しました。また、コロナ禍後の生活者ニーズの多様化に合わせて、掃除用セグメントでは“香り・消臭”の新機軸構築に注力し、2023年4月に『キレキラ!キッチンクリーナー 徹底キレイ おそうじシート 捨てるだけで生ゴミ消臭』、『キレキラ!トイレクリーナー 1枚で徹底 おそうじシート 香りが残りにくい無香性』を新規にラインナップしました。一方、対人用セグメントでは“保湿”に着目し、2023年10月にエリエール贅沢保湿ティシューをベースとした保湿剤成分を配合し、使用後の肌にうるおいを与える『エリエールウエットティシュー 純水タイプ 贅沢保湿』をラインナップに加えました。
③ ペットケア用品での取組
エリエールで培ってきた商品開発力や生産技術を活用して、“どこまでペットと人にやさしくできるか”をテーマに、「エリエール Pet キミおもい」ブランドで5カテゴリー、31SKUを発売しました。犬用ペットシーツは『たっぷり吸収 パワフル消臭シート』を6SKU、犬用紙おむつは『のびのび動ける アクティブウェア』を2SKU、『おうちくつろぎ リラックスウェア』を5SKU、システムトイレ用猫砂は『パワフル消臭・抗菌 システムトイレ用ネコ砂』を砂が散らばりにくい大粒サイズと砂がかきやすい小粒サイズの2SKU、システムトイレ用シートは『パワフル消臭・抗菌 システムトイレ用シート』を3~4日用や1週間用など計5SKU、ノーマルトイレ用猫砂は『カチッと固まるネコ砂』(鉱物タイプ)と『おしっこチェックできる固まる紙のネコ砂』で計4SKU、ウェットシートは『徹底キレイおそうじシート』『肌にやさしいウエットティシュー』『全身すっきりシート』で計7SKUをラインナップしました。
④ ベビー用紙おむつでの取組
2023年10月に『グーンまっさらさら通気パンツ』を『グーンぐんぐん吸収パンツ』にリニューアルしました。独自に開発したエンボスを吸収体に施し、吸収体内での尿の拡散性を向上させ、繰り返しおしっこを素早く吸収することで漏れにくさを向上させました(スピード吸収体)。また、Mサイズのウエストの長さを従来品から約1cmアップし、体型の変化が大きい時期に長く使える大きめ設計とし経済性を持たせました。通気性もそのままで、おむつ柄には「くまのプーさん」(M/Lサイズ)と「ミッキー&フレンズ」(BIG/BIGより大きいサイズ)を起用し、楽しくおむつ替えができるようにしました。
⑤ 大人用紙おむつでの取組
介護負担の軽減を目的に、2023年10月に病院・施設用の主力商品である『アテント Rケア うす型さらさらパンツ』をダブルギャザーと脚まわりすっきり形状に変更し、横モレ防止機能と着脱性を高める商品にリニューアルしました。また市販用では、2023年10月に紙パンツの新たな選択肢として、普段の下着のように使えるスタイリッシュなグレーとホワイトのカラーを採用した『アテント うす型パンツ 下着気分ボクサータイプ』を新発売しました。2024年3月には紙パンツとの併用率が高まっている「紙パンツ用パッド」を、フィット性の高いギャザーとトリプル消臭機能を備えたモレやにおいの悩みに応える商品にリニューアルしました。
⑥ フェミニンケアでの取組
エリス初のショーツ型生理用ナプキン『エリスショーツ』を2023年9月に新発売しました。スタイリッシュなブラックカラーを採用することで、夜だけでなく昼にも安心して使用できる仕様としました。また、吸水ケアブランド「ナチュラ」からは、『ナチュラ 夜つけて朝あんしん 吸水パッド』を2023年10月20日に新発売しました。“瞬間吸収スリット”を採用することで、就寝前にパッドを使用し、朝の尿モレ対策を行う“眠る前の新習慣”を他社に先駆けて提案しました。
ホーム&パーソナルケア事業に係る研究開発費は、
(3)CNF(セルロースナノファイバー)
第5次中期事業計画(2024年から2026年まで)での本格的事業化を目標に、市場が期待でき汎用性材料としてコスト優位性がキーとなる複合樹脂について、2021年度に稼働させたパイロット設備での一貫製造プロセス開発を進め、2025年度には三島工場内への商用設備の導入を目指して開発を進めています。また、これまでに卓球ラケット、レースカー部材での採用実績がある成形体、乾燥体も複合樹脂に引き続いて事業化を目指すべく、既存パイロット設備での用途展開と量産プロセスの開発を進めています。
研究体制は、CNF事業化に向けて、2021年度に稼働させた複合樹脂設備を含む3つの実証設備にてCNF量産化を検討する事業化グループ、CNFの用途展開を進める開発グループ、ユーザーと連携した用途開拓を進める東京駐在グループの3グループ体制で開発を進めています。また、東京本社には、技術営業部隊としてCNF事業化プロジェクトを配置しています。
当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。
① 製造プロセスに関する取組
複合樹脂の製造プロセス開発は、パイロット設備での開発成果を基盤として、2025年度の稼働に向けて年産2,000トンの商用プラント設置計画を立案しました。
② 用途開発に関する取組
複合樹脂の用途開発は、“日本一の紙のまち”である地元自治体の四国中央市の「日常生活で身近にCNF製品を使用する」という企画の下、回覧板に採用されました。また、パイロット設備の供給力を活かして、自動車部材等の試作が進み、展示会で多数の大型部品を展示できる水準まで試作評価が進展しました。
③ 水分散液に関する取組
新たに高透明度CNF『ELLEX-C(エレックスクリア)』の開発に成功し、2024年4月からサンプル供給を開始しています。より環境にやさしい製造技術として、従来の亜リン酸エステル化CNF『ELLEX-☆(エレックススター)』とは異なる化学処理を採用しました。水分散液の用途開発として、富士紡ホールディングス株式会社(住所:東京都中央区)と共同でホルムアルデヒドを含まない防縮・防シワ剤の材料の開発に取り組みました。『ELLEX-C』を用いることで、生地の色を変えずに寸法安定性を付与し、防縮・防シワ加工を実現できたため、機能性繊維加工「memory cotton®(メモリーコットン)*」に採用されました(*「memory cotton®」は、富士紡ホールディングス株式会社の登録商標です)。
CNFに係る研究開発費は、紙・板紙事業に係る研究開発費に含んでいます。