文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループの経営理念は、次のとおりであります。
「創業者精神を持って、空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」
当社グループの事業の原点は、社名に冠した「空気」と「水」であり、このかけがえのない地球の資源を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献していくことが当社グループの使命であります。当社グループは、この経営理念の下、目まぐるしく変化を続ける経営環境の中でグループの総合力を発揮し、社会の発展に役立つ多種多様な製品・サービスを提供する企業であり続けることを目指しております。
(2) 中長期的な経営戦略
2030年に向けた目指すべき経営の方向性として、「地球の恵みを、社会の望みに。」をパーパスと定義した上で、「地球環境」と「ウェルネス」の2軸を設定し、2022年7月に、2030年度に目指す姿「terrAWell 30」及び2022年度から2024年度の3ヵ年を対象とした中期経営計画「terrAWell 30 1st stage」を公表しました。将来の成長に向けて、新規事業や海外展開を進めるための投資を積極的に行いながら、国内の既存事業を中心とした収益構造の強化を図ることで、成長と投資の好循環を生み出していきます。また、多様な事業、人材、技術と地域密着の事業基盤を活かした掛け算のシナジーを創出し、部分最適から全体最適によるグループ経営資源の最適化を進めることで、経済価値と社会価値の両面から企業価値を高め、持続可能な成長を目指していきます。
(3) 経営環境、対処すべき課題
世界経済は、緩やかながら成長基調で推移すると見込まれるものの、ウクライナや中東情勢、欧米での金融政策の動向、中国景気の低迷などが懸念材料として挙げられます。我が国経済は、賃上げによる所得環境の改善や企業の設備投資意欲も相まって緩やかな回復が期待されますが、エネルギー価格や為替相場の変動が及ぼす影響を注視しております。
このような先行き不透明な事業環境のもと、当社グループは、2030年度に目指す姿「terrAWell 30」及び中期経営計画「terrAWell 30 1st stage」で掲げた基本方針と事業戦略を着実に実行することで、成長領域の拡大とともに、収益力強化と新事業育成を図っております。
当社グループの中長期的な企業価値向上に向け、今後も、継続的な成長投資が不可欠であると認識しており、さらなる市場拡大が期待できる「インド・北米における産業ガス事業」に加え、我が国の産業基盤強化に向けて積極的な環境整備が図られている「半導体・デジタル産業」、「脱炭素・GX(グリーントランスフォーメーション)」、「食の安定供給を見据えた農産分野」を中心に、事業成長の源泉となる設備投資やМ&A投資を行っていく予定であります。
なお、当社グループは、2022年度において、長年目標としてきた「売上収益1兆円」を達成して以降、これまで以上に資本効率性を重視しており、2030年度に向けたROE目標を10%から12%へ上方修正しております。引き続き、グループの中核会社が一体となって、ヒト・モノ・カネや技術といった経営資源の全体最適化を図る「グループ一体経営」を推し進め、資本効率性の改善・向上に対処してまいります。
成長領域と位置付ける海外事業については、規模・成長性の両面で需要拡大が見込まれるインドと北米を重点戦略エリアとして、国内市場でこれまでに培った機器・エンジニアリング技術を活用し、ガス需要を着実に捉えたサプライチェーンを構築することにより、事業拡大を加速します。同時に、海外での事業成長を下支えするグローバル人材の育成を進めていきます。
国内事業については、グループ会社の統合再編をはじめとした構造改革を継続するとともに、高付加価値製品やサービスの充実を図ります。また、エネルギー価格や人件費等のコスト変動に対しては、価格マネジメント、物流・調達の効率化、DX(デジタルトランスフォーメーション)等の施策により、適切に対処することで一層の収益力強化に取り組みます。
社会課題解決を通じた新たな事業創出に向けては、バイオメタンをはじめとしたクリーンエネルギーの供給やCO2の回収・再利用の取り組みを進め、脱炭素社会の実現に向けた技術開発や地域の社会課題解決に貢献するビジネスモデルの構築を推進しております。また、長期的な食料不足が世界的な社会課題となる中、生産者の高齢化や担い手不足という問題に対応し、収穫などの農作業を機械化して代行するアグリサポート事業の強化や、産業ガスの低温技術を生かしたフードロス削減に向けた鮮度保持技術の向上等に努めます。業界大手企業4社による資本業務提携で構築した「米・青果流通加工プラットフォーム」を通じて、調達網のさらなる拡充と産地の分散化を進め、食料の安定供給体制を強化します。さらに、実証中である陸上養殖の事業化を推進し、食料自給率の向上に貢献してまいります。
サステナビリティの取り組みに関しては、社会環境が大きく変化する中、事業活動を通じて提供する社会価値をより重視したサステナブル経営が不可欠であると考えております。地球環境の負荷低減に向けては、「脱炭素社会」「資源循環型社会」「人と自然の共存社会」の実現に向けた取り組みを進めており、特に、カーボンニュートラルの実現に向けては、自社の温室効果ガス(GHG)排出量を減らす「責務」だけにとどまらず、事業活動を通じた社会の温室効果ガス(GHG)排出量削減への「貢献」との両面で取り組みを推進してまいります。加えて、グループの人的資源活用の最大化に向けては、自立的なキャリア形成を促す人事制度改革を実行するなど、価値創造の中核を担う人的資本の強化に努めてまいります。
なお、対処すべき課題を踏まえた各セグメントの取り組みは、次のとおりであります。
(デジタル&インダストリー)
エレクトロニクス分野は、国内への半導体工場の誘致や既存工場の生産増強が進められる中、こうした顧客に向けたガス供給プラントの投資を加速するとともに、半導体市況の回復に伴い増加する半導体関連部品や機能材料の需要を取り込みます。また、ガス精製装置や化学品の供給システムをはじめとして、半導体製造に欠かすことのできない製品・サービスを提供できることを強みに、デジタル産業の最先端ニーズから周辺分野まで幅広い需要に対応します。
産業ガス分野は、販売数量の飛躍的な拡大が望めない中、各種ガスの安定供給体制を構築するとともに、国内製造業の幅広い分野に向けて、ガスの特性を有効利用したガスアプリケーションやきめ細やかなソリューションサービスの深化に取り組みます。同時に、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメントを徹底するとともに、生産性の向上をはじめとした収益強化策に取り組みます。
(エネルギーソリューション)
日本政府による「カーボンニュートラル宣言」をきっかけに社会の低・脱炭素需要が高まる中、工業用向けのエネルギー供給分野は、顧客に向けて重油からLNG等への燃料転換を進めるとともに、輸送機器や供給設備の拡販に取り組みます。また、垂直ソーラー発電システム「VERPA」、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」、家畜ふん尿由来の「バイオメタン」など、脱炭素ソリューションの社会実装化にも注力していきます。
一方で、北海道を中心とした家庭向けのエネルギー供給分野は、人口減少を背景に需要は低減傾向にあり、かつ人手不足の問題も地方部を中心に顕在化しつつありますが、IoT技術を活用した配送の効率化や販売店の商権買収などの直売比率を高める施策により、収益力の強化に努めます。
(ヘルス&セーフティー)
医療分野は、SPD(病院物品物流管理)や病院向け滅菌受託といった医療現場との接点を活かし、医師の働き方改革、遠隔医療の推進などの医療機関のニーズを的確に捉えた製品やバックエンドサービスの拡充を図ることで、医療ガスや病院設備といった主力商材との複合提案による事業拡大を図ります。将来の成長に向けては、健康寿命の延伸や在宅医療体制の構築といった社会的ニーズを踏まえ、人々の健康増進、リハビリによる予後の改善、在宅患者様のQOL(生活の質)向上につながる医療機器や介護用製品の開発体制を強化していきます。
衛生材料、注射針、化粧品・エアゾールなどのコンシューマーヘルス分野は、人々のくらしやヘルスケアに欠かせない高品質で付加価値の高い製品・サービスの拡充を図るとともに、OEM・ODMの受託拡大や生産の内製化により収益性の向上に取り組みます。防災分野は、大規模データセンターの建設を背景に旺盛な需要が続くガス消火設備工事の受注獲得に注力していきます。
(アグリ&フーズ)
フーズ分野は、コスト上昇に対応した製品の価格改定や量目変更などの継続的な実施により、その影響を低減するとともに、物流の内製化や生産体制の効率化を図り、収益性の確保に努めます。また、成長市場である惣菜分野に対応するために、より加工度の高い商品開発を進め、事業拡大と収益性の向上の両立を目指します。
また、アグリ分野は、2023年2月に、㈱ベジテックと、デリカフーズHD㈱との資本業務提携を開始、さらに2024年3月には、㈱神明ホールディングスとの資本業務提携を行い、業界大手4社で農作物調達機能の強化や物流の効率化などに取り組んでおります。当社の主要の事業エリアである北海道における農産事業の基盤強化に注力するとともに、米・青果物の調達・加工・販売までのバリューチェーンをより強固なものとし、全国をカバーする物流ネットワークを掛け合わせることで、安全・安心な農作物をお客様のニーズに対応した形とタイミングで供給する米・青果流通加工プラットフォームの構築を目指していきます。
さらに、飲料製造を行うナチユラルフーズ分野は、脱プラスチック化に向けた紙容器高速ラインへの更新をはじめとした生産性の向上やEC事業の強化に取り組んでいきます。
(その他の事業)
グローバル&エンジニアリング事業は、市場の拡大に伴う成長と高い収益性が見込めること、また既存事業とのシナジーによって新たな需要創出ができると判断した以下3つの事業分野に注力し、新たな成長エンジンとしていくことを目指しております。
インドの産業ガス分野については、政府による積極的なインフラ投資政策を背景に、鉄鋼をはじめとしたガス需要の拡大が見込まれます。川上領域となる鉄鋼向けオンサイト供給案件の新規獲得とともに、川下領域となるローリー・シリンダー事業にかかわる製造・供給拠点の拡充を両輪で進めていきます。北米での産業ガス及び低温機器分野は、現地産業ガスディストリビューターの連携・M&Aを通じて、産業ガス供給事業の展開に向けた事業基盤の構築を図ります。さらに、カリフォルニア州を中心にカーボンニュートラルに関連する取り組みが急速に進展していることから、当社の保有する水素の製造・貯蔵・輸送などのハンドリング技術や炭酸ガスの回収・液化技術等をベースに、水素サプライチェーンの構築や関連機器市場の開拓に取り組みます。高出力無停電電源装置(高出力UPS)分野は、ロータリー式無停電電源装置を中心に、データセンターや半導体工場のBCPに不可欠な「バックアップ電源ソリューション」を提供しており、需要拡大を背景とした新規顧客の獲得による成長を目指します。
電力事業は、FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により売電価格が保証されている一方、円安影響が継続する等により発電燃料となるPKS(パームヤシ殻)や木質ペレット、その海上輸送費をはじめとした調達コスト全般が高止まりすると、厳しい事業環境が想定されます。2024年度は為替予約、発電用燃料調達の多様化や荷揚港湾施設の運用改善などによりコストの低減を図っていきます。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度では、産業ガスを中心とした価格改定が着実に進展するも、年度後半から緩やかな回復基調を想定していた半導体市況の停滞やコロナ5類移行に伴う外部環境の影響により、売上収益・営業利益共に計画を下回る結果となりました。中期経営計画の最終年度となる2024年度についても、引き続き、為替影響を含む原材料価格の上昇の影響や人手不足を背景とした物流費や人件費などが上昇するなど、全体としては不透明な事業環境が継続すると見込んでおります。足元の事業環境を踏まえ、2024年度の業績目標は売上収益1兆1,000億円、営業利益780億円を計画しております。
経営数値目標の達成に向けて、引き続き成長分野と位置付ける海外及びエレクトロニクス(半導体関連)を中心に事業拡大に向けた取組を進展させるとともに、資本効率の向上に向けて取り組んでまいります。
(注) 1 親会社所有者帰属持分当期利益率
(親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分(期首期末平均))
2 投下資本利益率=(営業利益×(1-税率))÷(資本合計+有利子負債)(期首期末平均)
3 2022年11月9日公表の通期業績予想
4 2024年5月9日公表の通期業績予想
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中に将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
当社グループでは、経営理念「創業者精神を持って空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」の下、「空気」と「水」を事業の原点とし、このかけがえのない地球の資源を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献しております。
当社グループは、パーパス(存在意義)である「地球の恵みを、社会の望みに。」をSDGsコミュニケーションコンセプトとして掲げ、空気や水に代表される地球資源を活用し、技術やビジネスモデル、ノウハウを掛け合わせることで、人々の暮らしや産業になくてはならない製品、サービス、ソリューションを生み出してまいりました。当社グループの事業活動を継続するためには、その源泉となる地球環境に対して持続可能な事業活動でなくてはなりません。
そのような中、2019年7月には、2050年の当社グループのあるべき姿として、サステナブルビジョン「地球、社会との共生により循環型社会を実現する」を定め、その実現のために国際社会が目指すSDGsを2030年のマイルストーンとして位置づけ、2021年10月には、「エア・ウォーターグループ環境ビジョン2050」を制定しました。これらの方針の下、気候変動やスマート社会に対応する「地球環境」と、人生100年時代や世界人口の増加に対応する「ウェルネス(健やかな暮らし)」の軸に沿って、経営資源である多様な事業、技術、人材を活かしてグループシナジーによる新事業を創出しながら、経済価値と社会価値の両面から企業価値を向上すべく、事業活動を通じてSDGsに取り組み、社会課題解決への貢献を果たしていきます。
同時に、サステナブルビジョン実現のために、地球、社会とともに将来にわたり持続的に存続、発展するための重要課題として、7つの「成功の柱(マテリアリティ)」である「気候変動への対応」「資源循環の実現」「環境影響物質の抑制」「地域社会との共存共栄」「ウェルネス(健やかな暮らし)」「働く人々のWell-beingの実現」「グループガバナンスの強化」を特定し、KPIとして以下の目標を設定し、取り組みを進めております。マテリアリティの特定プロセスは、当社WEBサイトにおいて開示しております。
当社グループは、この中で特に「気候変動への対応」と「働く人々のWell‐beingの実現」を企業価値に大きな影響をもたらす要因として捉えております。
当社グループは、気候変動や資源不足などの環境問題、人と自然との共存、進化し続けるデジタル技術の活用、人材の多様性や人的資本への投資、健康寿命の延伸と、サステナビリティに関わる社会の課題に対し、担当部門において各施策を検討した上で、中長期的な経営課題への対応方針や取組計画等は、代表取締役会長・CEOを議長とした最高経営委員会で審議し、その中で重要な事項は取締役会に報告され、取締役会は、報告された内容に対し適切に監督する態勢を構築しております。取締役会は、毎月1回以上開催され、サステナビリティに関する知識、経験を有した取締役も含まれております。取締役会ではサステナビリティに関わる社会課題への取り組みだけでなく、サステナビリティに関するリスク及び機会への対応の観点からも監督を行っております。
2022年11月からは、経営戦略と一体化させるために経営企画室の傘下に「SDGs事業推進グループ」※を設置し、当社グループのSDGs活動推進のための諸施策を立案・実施しているほか、当社グループ内にSDGsの取り組みの浸透を図るとともに、方針の周知と進捗の確認を行っております。また、SDGsに関わる課題解決の取り組みの具体的な内容については事業グループ・ユニット、地域事業会社にSDGs事業推進担当者を選任し、全社的な推進を行っております。
※「経営企画室SDGs事業推進グループ」は、2024年4月1日から「カーボンニュートラル推進室」にその機能を移管しております。
当社グループでは、経営の健全性・安定性を確保しつつ企業価値を高めていくために、業務やリスクの特性に応じてリスクを適切に管理し、コントロールしていくことを経営上の重要課題の一つとして認識し、リスクマネジメント体制を整備しております。
当社グループは、全社的なコンプライアンス、保安防災、環境保全および人権に関わるリスクについては、「CSR推進室コンプライアンスグループ」※が統括部門として「リスクマネジメント検討会」を定期的に開催し、グループ全体におけるリスク管理体制の強化を推進しております。また、気候変動関連のリスク及び機会については、「経営企画室SDGs事業推進グループ」がTCFDの推奨するシナリオ分析の手法に基づいて、事業グループのTCFD推進責任者と共に評価・分析する体制としております。
それぞれ統括部門は、重要リスク及び機会実現の戦略・対策案について最高経営委員会及び取締役会に付議・報告することで全社のリスクマネジメントプロセスに統合する体制をとっております。
その他情報セキュリティを含むサステナビリティ関連の個別リスク及び機会については、それぞれの担当部門において、社内規程の制定、マニュアルの作成ならびに教育研修の実施などを行うとともに、事前審査や決裁制度を通じて当該リスク及び機会を管理しております。
一方、事業グループ、事業ユニットでは、事業に関連するサステナビリティのリスク及び機会の抽出・検討を行い、事業への影響度の大きい重要リスク及び機会を特定し、3か年毎の中期経営計画策定時や年度ごとの年度活動計画に具体的な戦略・対策を立案し、計画の進捗管理によりリスク及び機会の管理を行っております。
※「CSR推進室コンプライアンスグループ」は、2024年4月1日から「コンプライアンス室」に組織名称が変更になっております。
1.気候変動に関する取り組み
当社グループは、2021年8月、金融安定理事会(FSB)「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明し、TCFDの提言に沿って気候変動関連の重要情報を当社WEBサイトにおいて開示しております。本項目は、抜粋を掲載しております。
当社グループは、気候変動への対応は「成功の柱(マテリアリティ)」の一つとして、事業の戦略との統合を図っております。
当社グループは、自らのGHG排出量削減という<責務>と製品・事業を通じた社会のGHG排出削減という<貢献>の両面からカーボンニュートラルに取り組んでおります。自らが排出するGHGの削減として、2030年の30%削減目標達成までの道筋や課題、期日などを明確化するためにロードマップを策定しております。このロードマップでは以下の優先順位でGHG削減に取り組むこととしております。社会のGHG排出削減として、具体的には、産業ガス事業で培った精製・分離・貯蔵などのガスコントロール技術を駆使し、バイオガス、メタン、水素などのガス供給やCO2回収・利活用といった低炭素・脱炭素に寄与するカーボンニュートラル技術の開発などを行っております。2024年4月には「エア・ウォーター・グリーンデザイン㈱」を発足させ、炭酸ガス・水素の事業インフラと関連技術を結集することでCO2の回収・利活用や低炭素水素といったイノベーションを加速し、カーボンニュートラル市場に向けた事業展開を推進していきます。

また、気候変動という予測困難で不確実な事象に関するリスクと機会を特定し、それらのリスクと機会がどのように事業の戦略に影響を与えるのかを確認するためにシナリオ分析を行っております。2023年度は全ての事業ユニットとその他の主要事業を対象に、「4℃シナリオ」と「1.5℃シナリオ」を用いて分析を行いました。その結果、リスク、機会共に「1.5℃シナリオ」の方が影響は大きいが、「4℃シナリオ」、「1.5℃シナリオ」のいずれも十分な対応策や機会獲得・拡大を見込んでおり、不確実な長期的な将来に対し、当社の基本戦略は十分なレジリエンスを有していることを確認しました。
事業部門ごとのシナリオ分析の詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
(注) 1 長期:2030年~2050年 中期:2024年~2030年
2 大:売上収益/コスト 100億円以上 中:売上収益/コスト 10億円以上100億円未満
①温室効果ガス(GHG)排出量
当社グループでは、気候関連に係るリスクと機会を測定・管理するための指標として温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1,2,3)を選定しております。GHG排出量の算定にあたっては、2020年度からGHGプロトコルに基づいた算定をしております。
GHG排出量の詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
(千t-CO2e)
(注) 1 Scope3は<速報値>:2024年9月末に確定値公表予定
2 2022年度以降は旧エア・ウォーター&エネルギア・パワー山口㈱は連結対象外のため算定対象に含めておりません。
②GHG排出量の削減目標
当社グループは2021年10月、「エア・ウォーターグループ環境ビジョン2050」を制定しました。その中で掲げている脱炭素社会の実現に向けて、2050年までに自社の事業活動でのカーボンニュートラルの実現とサプライチェーン全体でのGHG削減に取り組むとともに、脱炭素ビジネスにより社会に環境価値を提供していきます。環境ビジョン2050の制定を契機に、そのマイルストーンとなる2030年度のGHG削減目標※を2020年度対比で30%削減することを目標としております。※国内連結子会社のエネルギー起源CO2が対象
③GHG排出量の削減状況(2023年度実績)
2023年度のGHG排出量は、バウンダリーの構造的変化、製造プロセスの省エネ、再エネの導入および事業成長による増加などにより、国内エネルギー起源CO2において基準年度比で0.4%増となっております。
④エネルギー種別のGHG排出量
GHG排出量のエネルギー種別について、当社グループは産業ガスを製造する工場において原料空気から酸素・窒素・アルゴンを分離・精製するために、多くの電力を使用しておりGHG排出量(Scope1,2)のうち、電力使用が8割以上を占めております。
2.人的資本
当社グループは「多様な事業・人材・技術」を創造的に掛け合わせることで生み出されるシナジーによって、『社会課題の解決を通じた新たな企業価値の創造』を目指しております。そのなかでも重要となるのが「人材」であります。「人を活かす経営」が当社グループの人的資本経営の基軸にあります。とりわけ「次世代経営人材の育成」「多様性の尊重(DE&I)」「リカレント教育」「健康経営の推進」の4つの取り組みを重視し、「自主自立」「個の尊重」「人が育つ風土の醸成」を人事基本方針に掲げながら、人事戦略を推進しております。
複雑化する社会課題に向き合い、答えを出していくためには、多様な人材が自らを高め、磨き続ける必要があります。2023年度より社内公募制度の導入やグループ内の人事交流の推進、チャレンジを促す人事制度への刷新、グローバル人材育成に向けた取り組みなど、グループ一体となり将来の成長を牽引する経営人材の採用・抜擢・異動・育成を進めております。同時に、育児・介護支援をはじめ福利厚生制度の充実を含めて、下記の方針を立て、さまざまな取組みを進めるとともに、生産性の向上と継続的な賃上げを実施し、従業員のWell-beingの向上を目指します。
① 人材育成方針
当社グループは、「人を活かす経営」の実現に向け、新たな成長を牽引できる経営人材を育成・輩出するとともに、当社では従業員に挑戦の機会を提供し、従業員個人も会社もともに発展できる好循環を創出するための人事制度改革をおこなっております。管理職を対象に年齢や社歴に関わらず、従業員と会社が合意したミッションの大きさに応じたジョブグレードにより、処遇を決める「ミッショングレード制度」を導入し、挑戦する意欲と実力があれば20代での管理職登用も可能になります。一般職層も同様に2024年4月より社員の挑戦への姿勢を尊重し、加点評価するとともに、各自のキャリア選択や成長スピードに応じた早期の抜擢昇格を可能とする「チャレンジグレード制度」を導入しチャレンジ機会の提供を拡大しております。また、同じ人材が一つのポジションに長期滞留しないよう社内公募制度を用いた自立的な異動ローテーションを年2回行い、それぞれの従業員が多様な経験を積み、専門性を高めることで活躍の場をグループ全体に拡げていく仕組みとしております。このような従業員の自立的キャリア形成を支援し、若い人材が積極的に挑戦し、登用・抜擢される風土を醸成していきます。
② 社内環境整備方針
さまざまなライフイベントを迎える従業員が、それぞれの能力を最大限に発揮するためには、「安心して働ける職場環境づくり」が求められます。当社はこれまで、育児中の従業員を支援する育児休業制度、短時間勤務制度、子の看護休暇制度に加え、配偶者転勤時の休職を認める配偶者休職制度、ジョブリターン制度を整備してきました。2023年11月には、当社のワークライフバランス推進に関する取り組みが評価され、プラチナくるみんマークを取得しております。一方で、急速な高齢化により、介護保険制度上の要支援・要介護認定者数が急速に増加しているわが国では、介護をしながら働く従業員の就業をいかにサポートしていくかが大きな社会課題となっております。そこで介護支援に関する全社的な取り組みを進めるとともに、福利厚生制度を見直し、介護により就業が制限される従業員にも多様な就業支援を行い、継続してキャリアを形成できる環境を整備していきます。このほか、柔軟な働き方を通じた生産性の向上を図るため、フレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入しております。
◇女性活躍の推進
多様性ある組織の構築によって企業が一層の成長をしていくために、女性活躍推進法に基づく行動計画では、重点取り組みとして、女性管理職比率を10%以上とする目標を掲げておりました(2023年度実績:5.5%)。メンター制度によるキャリア構築支援や女性リーダー育成プログラムの強化を図っておりますが、今後もこれらの取り組みを継続した上で、新たな取り組みとして候補者の上司への研修を通して周囲の意識変化にも取り組んでいきます。また、将来的な女性管理職登用を見据えた取り組みとして、女性社員の積極的な採用と女性主任・係長層の登用も進めております。新卒採用者に占める女性比率目標40%以上に対し、21‐23年度における平均値は53.5%と、目標を上回る結果となっております。女性主任・係長層の登用については2023年度末で24.0%となり、着実に育成が進んでおります。

(注) 人的資本に関する連結数値目標は、現在検討中のため、単体数値として記載。
◇男性育児休業・休暇の取得推進
男性社員の育児参加を後押しするため、男性の育休取得率を2024年度に40%以上とすることを目標に掲げていました。2023年度においては、配偶者が出産した男性社員が育児休業・休暇を取得し、早期に目標達成しました。対象者とその上司への声掛けや、人事担当者との個別面談の実施、働き方改革の推進など、本人だけでなく周囲を巻き込んだ取り組みの効果により、社内における男性育休取得の風土醸成は着実に進んでおります。2023年11月には「プラチナくるみん」を取得し、仕事と家庭の両立を図ることができる働きやすい会社へと一層の進化を続けております。今後も、高い育休取得率の維持を目指すとともに、十分な育休期間の取得についても継続して取り組んでいきます。男性育休のさらなる社内浸透を目指し、育休取得者との座談会や社内セミナー、対象者と上司への育休取得推奨の働きかけを継続実施していきます。

(注) 1 上記「育休」には、育児休業(育児・介護休業法第2条に基づく休業)および育児休暇
(年休特別積立規則に基づく育児を目的として取得する5日以上の休暇)を含みます。
2 人的資本に関する連結数値目標は、現在検討中のため、単体数値として記載。
当社グループの事業展開上、事業の状況、経理の状況等に変動を与え、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 当社のリスクマネジメント体制
当社グループの事業活動において特に重要なリスクであると認識しているコンプライアンス、保安防災及び環境保全に係るリスクについては、代表取締役の直轄組織である「コンプライアンス室」がその統括部門として、当社及び子会社を横断的に管理する体制としております。
情報セキュリティ、知的財産、海外事業展開および契約などに関わる個別リスクについては、それぞれの担当部門において、社内規程の制定、マニュアルの作成ならびに教育研修の実施などを行うとともに、事前審査や決裁制度を通じて当該リスクを管理する体制としております。また、コンプライアンス室を事務局とするリスクマネジメント検討会を定期的に開催し、当グループにおける主要なリスクの把握とその対策状況についての検討などを行い、グループ全体におけるリスク管理体制の強化を推進しております。海外子会社については、当該会社を管理する事業ユニットと連携し、リスクマネジメント体制を構築しております。各海外子会社を対象に、年一回、リスクの特定、影響度合いと発生確率に応じたリスクの分析・評価、リスク対応策の検討という一連のプロセスでリスクアセスメントを実施し、その結果を踏まえてBCP(事業継続計画)を策定しております。コンプライアンス室では、これらのリスクアセスメントおよびBCPに対して指導・助言を行うことにより、全社的なグローバルリスクを管理しております。
また、事業活動への影響が大きいと想定されるリスクが発生した場合には、「危機管理規程」に基づき、直ちに危機管理委員会を社内に設置し、発生したリスクに対し迅速かつ適切に対処する体制を整えております。

(2) 事業等のリスク
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当連結会計年度の売上収益は1兆245億4千万円(前期比102.0%)、営業利益は682億7千2百万円(同109.8%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は443億6千万円(同110.5%)となり、過去最高業績を更新しました。
当連結会計年度の我が国の経済は、新型コロナウイルス禍から社会経済活動の正常化が進み、将来に向けた半導体分野や省力化、脱炭素化などに伴う設備投資が底堅く推移するなど、緩やかな回復基調で推移しました。一方で、ウクライナや中東情勢のさらなる緊迫化、欧米での金融引き締め政策の継続、半導体市況の低迷、為替市場での大幅な円安の進行などから、依然として先行き不透明な状況が継続しました。
このような事業環境の中、国内産業ガス事業を中心とした価格改定等により収益性が改善し、全社業績を下支えするとともに、木質バイオマス発電事業の大幅回復等が業績に寄与しました。
(主な取り組み)
当社グループは、ユニット制を基軸としたグループ一体経営によって、国内既存事業の収益力を強化する一方、今後の成長領域である海外事業の基盤構築と、社会課題解決に向けたカーボンニュートラル関連や農産関連の取り組みを進めました。
国内既存事業では、各事業ユニットで自律的な成長を果たす「中核会社」を形成するべくグループ会社の統合再編を進めました。また、製品・サービスの価値に見合った利益水準の確保に向けて、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメントを徹底するとともに、生産性の向上をはじめとした収益強化策に取り組みました。
海外事業では、重点戦略エリアである北米とインドにおいて、積極的な投資を実行し、産業ガス事業のインフラを拡充しました。北米では、複数のガスディーラーを買収するとともに、ニューヨーク州で北米初の自社ガス製造拠点となるオンサイトガスプラント建設に着手したほか、ヘリウム事業にも参入しました。インドでは、新たに国営鉄鋼公社であるSAIL(Steel Authority of India Limited)社向け大型オンサイトガス供給案件を受注したほか、同国南部での液化ガス製造拠点や北部ガス充填拠点の建設が計画どおり進展しました。
社会課題解決を通じた事業創出に向けて、カーボンニュートラル関連では、垂直ソーラー発電システム「VERPA」や、LNG(液化天然ガス)の代替燃料となる家畜ふん尿を原料とした「バイオメタン」のサプライチェーン構築に取り組みました。また、CO2回収・再利用、低炭素水素、アンモニアといった多様な脱炭素需要を見据え、全社横断的な事業推進体制の構築を進めました。農産関連では、食料安全保障や食料自給率の向上が社会課題となる中、北海道の農産・加工事業体制を再構築するとともに、業界大手企業4社での資本業務提携によって青果流通加工プラットフォームを強化しました。
セグメントの業績及び概況につきましては、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しております。当連結会計年度の比較・分析は、変更後の区分に基づいております。詳細は「4.事業セグメント」の「(2)報告セグメントの変更等に関する事項」をご参照ください。
<デジタル&インダストリー>
当セグメントの売上収益は3,394億1千万円(前期比100.4%)、営業利益は335億6千3百万円(同128.5%)となりました。
事業全体では、機能材料事業が半導体市況の低迷等による影響を受けましたが、産業ガスを中心とした価格改定に加え、業務効率化や生産性向上に取り組んだことで、収益力が大きく向上しました。
インダストリアルガス事業は、産業ガス需要が全般的に弱含みで推移する中、大手企業を中心とした新規取引の獲得により産業ガスの拡販を進めるとともに、エネルギーや物流などのコスト上昇に対応し、生産性の向上や産業ガスの価格改定に取り組んだ結果、収益改善が大きく進展しました。さらに、炭酸ガスについては、原料ガス不足の影響を大きく受けた前年度から回復基調で推移しました。
エレクトロニクス事業は、半導体市況が停滞し、需要減の影響を受ける中においても、大手半導体工場向けのオンサイトガス供給が一定の稼働率を維持するとともに、半導体製造の前工程で使用される高純度薬品や塗布材料などが伸長し、業績を下支えしました。また、国内で半導体工場の新増設が相次ぐ中、特殊ケミカル供給機器などの販売が拡大したことで、半導体製造装置向け熱制御関連機器の販売が減少した影響を補いました。
機能材料事業は、半導体製造装置向けOリング(シール材)や精密研磨パッドなどのエレクトロニクス関連製品が顧客の在庫調整による影響を受けたことに加え、顧客における農薬製品の生産調整を背景にナフトキノンの販売が低調に推移し、前年度を下回りました。
<エネルギーソリューション>
当セグメントの売上収益は665億8千8百万円(前期比96.2%)、営業利益は40億4千2百万円(同94.9%)となりました。
エネルギー事業は、低・脱炭素需要が高まる中、顧客に対して重油からLNGへの燃料転換を積極的に進めました。このような状況の下、LNGタンクローリーや小型LNGサテライト設備の販売が順調に推移しました。また、北海道を中心とした家庭向けLPガス供給は、IoT技術を活用した配送の効率化や販売店の商権買収などの直売比率を高める施策により、収益力の強化に努めました。しかしながら、輸入価格に連動してLPガスの販売価格が前年度より下回ったこと、在庫評価影響等により、売上・利益ともに前年度を下回りました。
<ヘルス&セーフティー>
当セグメントの売上収益は2,308億6千5百万円(前期比97.8%)、営業利益は150億7千8百万円(同97.4%)となりました。
事業全体では、コロナ禍を経て変化する医療現場の様々なニーズに対応するため、グループ会社の統合再編を実行するとともに、原材料や人件費の上昇に対応する生産合理化や価格改定に取り組みました。データセンター向けガス消火設備の受注が拡大する防災事業は総じて堅調に推移したものの、コロナ関連の需要が減少した影響により、売上・利益ともに前年度を下回りました。
メディカルプロダクツ事業は、医療ガス分野において価格改定や低採算案件の見直しにより収益性が向上したほか、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加しました。また、介護施設向けシャワー入浴装置「美浴」の販売が順調に拡大しました。一方、酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が前年度末に終了した影響を受けました。
防災事業は、国内及びシンガポールにおける病院のリニューアル工事が回復基調で推移するとともに、データセンター向けのガス消火設備工事の受注増加や消防向け呼吸器の販売回復により、堅調に推移しました。
サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて新規顧客の獲得を進めましたが、SPD(病院物品物流管理)の新規受注に伴う立上げコストが発生したほか、一部大型病院との契約終了の影響を受けました。
コンシューマーヘルス事業は、エアゾール・化粧品分野において積極的な提案営業により化粧品の受託製造が伸長しましたが、マスクや手指消毒剤などの感染管理製品やワクチン針の需要が減少した影響を受けました。
<アグリ&フーズ>
当セグメントの売上収益は1,626億1千万円(前期比106.4%)、営業利益は69億1千7百万円(同125.4%)となりました。
事業全体では、価格改定や生産効率の改善を通じて収益力が向上しました。また、飲料の製造受託量が増加するとともに、青果小売分野の拡大やM&Aに伴う新規連結効果により、好調に推移しました。
フーズ事業は、ハム・デリカ分野では商品開発に注力したコンビニエンスストア向け総菜の新規採用が進み、スイーツ分野では鶏卵不足が緩和されたものの、一部製品においてインフレ影響による買い控えの影響を受け、総じて前年度並みとなりました。
ナチュラルフーズ事業は、飲料充填ラインの増強投資や自社ブランド商品の拡充とともに、得意とする野菜・果実系飲料や大口顧客向けのペットボトル飲料などの受託製造が拡大し、好調に推移しました。
アグリ事業は、北海道を中心とする農産・加工分野において農産品の生育不良や不安定な相場が継続しましたが、青果小売分野においてコロナ禍の収束により全国的に客足が回復したことに加え、農産物直売所の新規出店効果もあり、順調に推移しました。また、九州で青果仲卸事業を展開する丸進青果㈱を新規連結しました。
<その他の事業>
当セグメントの売上収益は2,250億6千7百万円(前期比107.8%)、営業利益は108億2百万円(同210.3%)となりました。
物流事業は、低温物流ネットワークの拡充による新規顧客の獲得とともに、受託料金の改定や働き方改革、業務効率化に資するデジタル活用を進めました。しかしながら、コロナ禍にて特需のあった感染性廃棄物の取扱量減少や、新設した低温物流センターが本格稼働するまで一時的な費用が先行したことで、前年度を下回りました。
㈱日本海水は、石炭や資材などの価格上昇に対応して、製品価値に見合った適正価格での販売及びコスト削減に努めました。電力分野では、発電燃料の海上輸送コストが下落基調で推移したことに加え、苅田バイオマス発電所(福岡県苅田町)が2023年8月より営業運転を開始したことで、売上・利益ともに前年度を上回りました。
グローバル&エンジニアリング事業では、インド産業ガス分野は、旺盛な需要を背景に鉄鋼向けオンサイトガス供給及び外販ガス供給ともに、堅調に推移しました。北米産業ガス分野は、現地ガスディストリビューターを通じた外販ガス供給が順調に推移するとともに、米国カリフォルニア州を中心に水素供給インフラ整備の本格化を背景に、水素関連機器の販売が順調に推移しました。なお、北米においてヘリウムガス供給事業を展開するAmerican Gas Products,LLCを新規連結しました。高出力UPS(無停電電源装置)分野は、アジアや欧州における工事遅延などの解消に加え、生成AIの利用拡大を背景にした市場成長に伴い、東南アジアにおいて、大型データセンター向けの無停電電源プロジェクトを受注したことで、好調に推移しました。
電力事業は、発電燃料の海上輸送コストが下落したことに加え、荷揚げ港湾施設における滞船日数の短縮化の取り組みを進めたことで、前年同期より業績が大きく改善しました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。
(注) 金額は、販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。
製品のほとんどが見込生産であります。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。
(2) 財政状態
(資産の部)
総資産は、有形固定資産及びその他の金融資産の増加などにより前連結会計年度末に比べて1,310億5千万円増加し、1兆2,226億9千6百万円となりました。
負債は、社債及び借入金の増加などにより前連結会計年度末に比べて690億4千7百万円増加し、7,142億1千万円となりました。
資本は、親会社の所有者に帰属する当期利益の積み上げなどにより前連結会計年度末に比べて620億3百万円増加し、5,084億8千5百万円となりました。
以上の結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は前連結会計年度の1,892.36円から2,140.68円に増加しております。また、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度の39.4%から40.0%となりました。また、親会社所有者帰属持分当期利益率は前連結会計年度、当連結会計年度共に9.7%となっております。
(3)キャッシュ・フロー
① 資本政策の基本的な考え方
当社は、当連結会計年度において、2030年度に目指す姿『terrAWell 30』の目標水準のうち、資本効率性に関する目標水準を見直し、資本コストを意識した経営の実現に向けて取り組みを強化しております。(2030年度目標:ROE12%以上、ROIC8%以上)
継続している積極投資の回収が進むことに加え、事業規模の拡大からより収益性・効率性を重視した成長戦略を推進してまいります。バランスシートのコントロールを強化するとともに、安定的にフリーキャッシュ・フローを稼げる収益構造を構築していくことで、親会社所有者に帰属する当期利益の30%を配当性向の基準とし、安定的な配当を継続していくことを基本方針としております。
② キャッシュ・フローの状況
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益及び減価償却費などから法人所得税の支払などを差し引いた結果、前連結会計年度に比べ226億7千2百万円収入が増加し、796億2千5百万円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出が減少したものの、事業譲受による支出及び貸付による支出が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ268億3千1百万円支出額が増加し、979億6千6百万円の支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、借入による収入が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べて45億3千3百万円減少し、147億2千3百万円の収入となりました。
(現金及び現金同等物)
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ9億6千9百万円減少し、649億7千5百万円となりました。
③ 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
中長期的に企業価値を高めていくために必要な成長投資の資金については、事業で創出されるキャッシュ・フローを充当し、不足する分は銀行借入或いは社債発行による負債調達を基本としております。
手元資金については、資金効率を重視し事業継続に必要な適正水準を維持する方針としております。なお、資金の機動的かつ安定的な調達に向け、取引銀行3行との間に総額200億円のシンジケーション方式によるコミットメントライン契約を締結しております。
成長投資については、経済活動の停滞が長期化した局面に備えて十分な財務の安全性を維持するため、今後のM&A投資及び設備投資は、事業環境の変化を慎重に見極めながら厳選していきます。
株主還元については、配当性向の目標を親会社所有者に帰属する当期利益の30%を目安としており、中長期的な成長のための戦略的投資等に必要な内部留保の充実に留意しつつ、将来にわたって業績に見合った安定的な配当を行うことを基本方針としております。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに基づいて作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績や現状を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
翌連結会計年度の事業環境については、ウクライナや中東情勢のさらなる緊迫化、欧米でのインフレやそれに伴う金融政策の継続、為替市場での円安の進行など不透明な経済環境が当面の間継続することを仮定しております。その前提に基づき、当連結会計年度において会計上の見積りを行った結果、当連結会計年度における連結財務諸表に及ぼす影響は軽微なものと判断しております。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「3.重要性がある会計方針」に記載しておりますが、特に以下の重要性がある会計方針が連結財務諸表における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えております。
① 非金融資産の減損
当社グループは決算日において、棚卸資産及び繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、又は減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額としており、資産又は資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、 当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。
これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
② 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。
当社グループは、将来の課税所得及び慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用及び計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(5) 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標の進捗状況については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
当連結会計年度の研究開発活動につきましては、エア・ウォーターグループの技術の源泉であるガス関連技術のさらなる深化を図るため、グループ横断基幹開発センターとして、グループテクノロジーセンター内に「ガス技術開発センター」 を新設しました。また、事業グループごとに開発センターを設置し、技術開発リソースを集約するとともに、開発から事業化までの一貫体制を構築しました。
さらに、2023年9月には、「ウェルネス(健やかな暮らし)」に関わる新事業の創造、開発、発信するための拠点として、新しいオープンイノベーション施設である、エア・ウォーター健都を開業いたしました。地域と“つながる”ことで産官学民連携によるオープンイノベーションを推進し、体験・実証を通じた「健やかで楽しい暮らし」に関わる新事業の創造により、人生100年時代の社会に貢献していきます。
エア・ウォーターグループの全事業の基盤である、ガス関連技術のさらなる深化と、これまでに培ったそれぞれの事業グループのコア技術をさらに磨くことで様々な分野へ応用展開を図っていきます。また、オープンイノベーションによる積極的な技術開発により、今まで以上に事業の継続的な成長と社会に貢献できる新事業成果の結実に取り組んでまいります。
事業グループごとの研究開発活動につきましては、次のとおりであります。
(デジタル&インダストリー)
デジタル化の急速な進展に伴い、データセンターの処理能力やデータ通信速度の更なる高速化に対応できる材料のニーズが高まっております。また、脱炭素社会の実現に向け、電気自動車の航続距離の伸長や急速充電に対応できる材料が求められております。これに対応するため、半導体や二次電池などのエレクトロニクス分野における幅広い領域を中心として、エア・ウォーターグループ内及び外の技術シナジー発現による差別化商品創出に注力しつつ、新たな材料開発を推進しております。
・エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル㈱においては、高機能を有する電子材料や食品機能材料の開発に注力しております。また、分散している開発拠点を集約し、技術の集中・高度化を図るため、新研究棟の建設を進めており、2025年2月に竣工する予定であります。
・脱炭素社会でますます重要となる蓄電デバイスについては、リチウムイオン電池高性能化のための電解液添加剤の開発の他、リチウムイオン電池及びナトリウムイオン電池でも寿命・容量を向上させる負極用真球状ハードカーボンの材料開発を推進しており、大学との共同研究もスタートしました。
・脱炭素社会の実現に向け、従来とは異なるCO2回収技術の開発を大学との共同研究にてスタートしており、2030年度の社会実装に向け、開発を推進しております。
・㈱FILWELでは、ハードディスクドライブ、シリコンウエハなどの精密研磨に使用されるパッド材の技術を有しております。現在はSiCパワーデバイスの需要拡大に伴い、SiCバルク基板用の研磨パッドの技術開発に注力しております。
(エネルギーソリューション)
2030年までに2013年と比べてCO2を46%削減するという政府方針の実現に向けて、カーボンニュートラルエネルギー関連技術について、産・官・学との連携を通じて、技術の蓄積、洗練、高度化を推進しております。
・当社では、NEDO水素社会構築技術開発事業として「北海道豊富町未利用天然ガスを活用した地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」に向けた取組みを推進しております。本実証事業では、豊富町で自噴する天然ガスを用いて、メタン直接改質(DMR)法によりCO2を直接排出することなく高純度水素及びカーボンナノチューブを製造します。製造した水素は近隣の需要家へ供給し、地産地消型水素サプライチェーンの構築を進めてまいります。2024年5月に建屋の建設に着工し、国内初となるDMR法を用いた商用規模での水素製造を目指しております。
・2022年に発表した小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」の商用化設計を進め、実装に向けた準備を進めております。また、CO2回収の省エネ化を目的とし、NEDOグリーンイノベーション基金事業において、「Na-Fe系酸化物による革新的CO2分離回収技術の開発」を推進しております。2025年には大阪・関西万博において実証を行う予定であります。
・地産地消エネルギーによる資源循環モデルの開発施設「地球の恵みファーム・松本」の建設を進めております。地球の恵みファーム・松本は「バイオマスガス化発電」「メタン発酵発電」「スマート陸上養殖プラント」「スマート農業ハウス」の4施設で構成されており、「メタン発酵発電」を除く3施設について稼働を開始しました。地域で発生する未利用バイオマス資源を有効活用してエネルギー生産を行うとともに、発生する熱やCO2を養殖設備や農業に利用します。未利用資源からエネルギーを獲得し、排出される廃棄物を最小化することで、エネルギーの地産地消と資源循環モデルを実現します。
・家畜糞尿などに由来するバイオガスを活用した新たなバイオエネルギーサプライチェーンの構築に取り組んでおります。環境省が推進する「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の優先テーマとして、バイオガスを用いて液化バイオメタン(LBM)に加工することでLNGの代替燃料として活用する実証を完了し、2024年5月よりバイオメタンの商用販売を開始しております。今後、自治体や企業とのさらなる連携を通じて、環境負荷の少ない地産地消エネルギー社会の実現に貢献してまいります。
(ヘルス&セーフティー)
医療事業において、医科向けや歯科向けの病院内機器製品やサービスの開発ならびにOEM事業を推進していきます。
・ヘルスケア開発センターでは、医療事業を軸に医科向け、歯科向けの開発に取り組んでいきます。今後は、「光センサー技術」・「音解析技術」・「映像解析技術」のコアコンピタンスを活かして医療事業のみならず、美容・審美歯科領域にもビジネスを拡大し開発を推進していきます。
・在宅医療、遠隔診療用途として肺の呼吸音を可視化および解析が出来る電子聴診器システムおよびそれを利用するIoTプラットフォームの開発をしております。音により、いち早く病態変化に気づけるよう病院内または在宅で使用出来る機器・サービスの開発を目指しております。
・慶應義塾大学発GI型POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバー)技術を応用し極細内視鏡の開発を推進しております。極細硬性内視鏡の使用により、患者の関節内を低侵襲で手術前後に直接観察でき、迅速かつ正確な病状把握や、手術後の経過観察を効率よく行うことが可能になります。これにより、外来や在宅での検査・治療が可能となり、患者の肉体的負担、医療現場の負担が大幅に軽減されます。
・エア・ウォーター・メディカル㈱では、既存主製品の酸素濃縮器の開発に加えて、新たにOEM事業を展開しております。血液透析治療向けに、ヘルスケア開発センターで開発した電子聴診器システム技術を展開し血流音を可視化するHVSIモニターの製品化を行い2024年5月より製造、販売しております。これにより、医療従事者の主観評価を数値化し定量的に判断出来るようになり医療現場の負担が軽減されます。
・エア・ウォーター・リアライズ㈱では、エアゾール事業、化粧品事業、注射針事業を展開しております。高付加価値製品の開発、産学連携による新技術と新素材の開発、顧客・消費者のニーズを先取りする提案型開発研究にて事業の拡大を目指しております。
(アグリ&フーズ)
農作物の栽培・加工・保存技術や食品・飲料の品質向上、分析・機能性及び新技術・商品開発を推進しております。
・農業従事者の減少と食糧問題への取組であるスマート農業開発において、2020年12月より実施している東京大学との共同研究では、主力品のひとつであるブロッコリーの収穫適期予測プログラムを開発いたしました。また、観察技術とデータ技術を応用して肥料使用適切化の開発にも着手し、生産性・品質向上の両立を目指しております。農産物の鮮度保持技術においては、エチレンガスの制御に着目し、北海道大学の保持技術であるプラチナ触媒を利用して当社の流通・販売・加工の改善を目指して実証試験を行っております。また、室蘭工業大学とは鮮度保持と連携した分析技術を活用し、地域ブロックチェーンへの導入の試みを行っております。
・当社事業の強みをさらに高めるため、農産自社資源の活用・分析による機能性研究によって付加価値を与え市場参入を目指しております。鮮度保持技術と連携し、品質の向上とともに、食と健康への取組を活性化しております。
・当社が資本業務提携している㈱ベジテック、デリカフーズ㈱との研究分科会を発足し、事業上で重要な農産品の保存性向上の取組を進めております。事業や実情に応じた、生きた研究活動が始まりました。栽培・食品・飲料・分析の各分野での研究により、かぼちゃ収穫機・生ハム新製法の確立・食品成分の一斉分析法(332成分)、植物性発酵飲料・農作物栄養成分の迅速分析法を開発しました。バリューチェーン全体の技術力向上と、品質向上・新商品開発の取組を進めて参ります。
(その他の事業)
・㈱日本海水では,SDGs実現に向けた研究開発を行っております。NEDOの研究開発委託事業に採択された「海水を用いたCO2鉱物化法の開発(ブルーカーボンリサイクル技術の開発)」について,発電所や工場などから排出されるCO2の固定化,資源化に向けた新技術開発と実用化を進めております。また,これまでに培ってきたヒ素・フッ素などの水処理用吸着剤の製造技術を応用し,南米の塩湖からバッテリーなどに用いられるリチウム回収に向けたリチウム吸着用樹脂の造粒技術の開発に着手しました。「海水資源の活用」をキーワードに,産学官との技術連携による研究開発を積極的に進めることで,新たなビジネスを創出するとともに、SDGs実現にも貢献していきます。
なお、当連結会計年度の研究開発費用の総額は