以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)経営方針・経営戦略等
ア.当連結会計年度の経営環境
当社グループを取り巻く経営環境は、世界経済において米国の景気拡大とインド・東南アジア諸国の成長が続いたが、欧米での金融引締めや中国の不動産市場の停滞等を背景として、一部の地域では緩やかに減速した。一方、日本経済は、雇用・所得環境の改善等により徐々に回復したが、物価上昇や中東情勢、金融資本市場の変動など、今後の先行きには不透明感が残る状況となった。
かかる経営環境下においても、当社グループは長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、変化する社会課題の解決に挑み、サステナブルで安全・安心・快適な社会と人々の豊かな暮らしの実現に貢献していく。
イ.中期経営計画「2021事業計画」
当事業年度は2020年10月から開始した中期経営計画「2021事業計画」の最終年度であったが、「収益力の回復・強化」及び「成長領域の開拓」を柱として、収益性、成長性、財務健全性及び株主還元の4つの指標を定め、各種施策を着実に推進した。
「収益力の回復・強化」としては、サービス事業へのシフト、拠点統合による資産の最適化など構造改革を推進する一方で、価格の適正化や生産能力の増強等による既存事業の伸長を進め、過去最高水準の利益を達成し、強固な事業基盤と財務基盤を構築した。
また、「成長領域の開拓」としては、エネルギー供給側で脱炭素化を目指す「エナジートランジション」とエネルギー需要側で省エネ・省人化・脱炭素化を実現する「社会インフラのスマート化」を強力に推し進め、水素・アンモニア、CCUS*1、電化・データセンターでの事業化の可能性を見出した。
*1 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・利用・貯留)
ウ.「MISSION NET ZERO」に向けた取組み
サステナブルで安全・安心な社会の実現に向け、MISSION NET ZEROに取り組んでおり、Scope1、2*2のCO2排出量を2030年に2014年比で50%削減するという目標に対して、2023年で42%削減を見込んでいる。これに加え、三原製作所で実践的なノウハウ獲得を目指し、工場のカーボンニュートラル化を進める取組みを進めており、太陽光発電設備の導入や工場設備の省エネ・合理化で、97.7%(2021年比、目処付け分を含む)のCO2排出量の削減を実現した。また、Scope3*2については当社製品の使用に伴うCO2排出量削減(2019年比で、2030年に50%)が目標であり、この達成に向けて高砂製作所の高砂水素パーク建設をはじめとした様々なソリューションの開発・実証を進めている。
*2 Scope1は当社のCO2直接排出を、Scope2は主に電気の使用に伴うCO2間接排出を、Scope3はScope1、Scope2以外の当社グループバリューチェーン全体でのCO2間接排出を示す。算定基準は温室効果ガス(GHG)排出量の算定と報告の国際基準であるGHGプロトコルに準じる。
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループを取り巻く外部環境は大きな変化を続け、これに伴って社会課題も複雑化している。こうした中、当社グループは、脱炭素、エネルギーの安定供給、国家安全保障等への貢献に関して期待される役割を果たしていくため、2024年5月から次期中期経営計画である「2024事業計画」を実行する。
「2024事業計画」では、事業成長と収益力の更なる強化の両立に挑戦するため、「2021事業計画」で築いた事業基盤と財務基盤を活かし、「ポートフォリオ経営の強化」を進める。また、これを支える「技術・人的基盤の強化」を図るほか、「MISSION NET ZEROの推進」を継続する。「ポートフォリオ経営の強化」に関しては、「伸長事業の着実な遂行」と「成長領域の事業化推進」を重点領域とし、「事業競争力の強化」と合わせて、1.2兆円を投資する。加えて、2026年度において「売上収益5.7兆円以上」、「事業利益4,500億円(事業利益率8%)以上」、「ROE12%以上」等の定量目標を設定するとともに、中長期的な累進配当を実現する還元方針により株主還元の拡大を進めていく。
ア.伸長事業の着実な遂行
「2024事業計画」では、今後伸長が見込まれるガスタービン、原子力発電、防衛関連の事業で人的リソースの拡充と生産設備等の増強によって事業遂行能力を強化する。これにより受注済の契約を確実に遂行し、売上を約1兆円伸ばす。ガスタービンは、世界的なCO2排出規制に伴う燃料転換、データセンター向け等のオンサイト電源、さらには再生可能エネルギーの拡大に伴う調整用電源としての需要が期待されている。市場ごとの特性に応じた販売戦略を展開するとともに、水素・アンモニア焚きガスタービンや水素製造装置等の技術開発にも引き続き取り組む。また、原子力分野は、革新軽水炉「SRZ-1200」の設計推進と高速炉・高温ガス炉の実証炉開発を進めるとともに、既設プラントの最大限の活用に向けた支援を継続していく。防衛関連では、スタンドオフ防衛や統合防空ミサイル防衛への対応、次期戦闘機開発の国際共同開発等を着実に進めるほか、次世代要素技術開発にも取り組んでいく。
イ.成長領域の事業化推進
当社グループが「2021事業計画」で実績を積み上げてきたエナジートランジションやデータセンター等の成長領域では、事業化に向けてパートナリングを推進する。まず、水素・アンモニアの関係では、これまでも製品開発に取り組んできた水素・アンモニア焚きガスタービン、水素製造装置等の実証・商用化を進めるとともに、現在参画中の北米・東南アジア等のプロジェクトの具体化に向けてパートナーと協力して取り組んでいく。次に、CCUSの分野では、北米・欧州等におけるプロジェクトの受注獲得を目指すほか、次世代CO2回収技術の開発や、遠隔監視等のサービス基盤の整備と並行して、ライセンシーのネットワークを拡げて市場でのプレゼンスを更に高める。さらに、電化・データセンター分野では、熱と電気に関するエンジニアリング技術を活かし、電源システム、高効率冷却設備、高知能化EMS*3による脱炭素・省エネ化をワンストップで提供するとともに、サービス体制の更なる強化を図り、パートナリングも組み合わせて事業化を推進する。
*3 Energy Management System(エネルギーマネジメントシステム)
ウ.事業競争力の強化
上記の各種施策に加え、収益力の更なる強化を進めていく。当社の強みが活かせる市場では、ヒートポンプ、環境対応船、船舶用の代替燃料供給システム、水素ガスエンジンなどの脱炭素に寄与する製品を投入するとともに、物流分野では省人化・自動化ソリューションを引き続き提供していく。また、蓄積データの活用、AIによる故障予測・予防保全等により、顧客の抱えるニーズに応えることでサービス事業を拡大する。さらに、航空機用エンジンや民間航空機においては、MRO*4事業等の拡大を進める。加えて、当社全体の生産拠点・サプライチェーン等を最適化して業務効率化や生産性向上を図るとともに、リソースシフトなどの事業構造改革を行うことで事業運営を最適化する。
*4 Maintenance, Repair and Overhaul(整備・補修・オーバーホール)
エ.技術・人的基盤の強化
社会課題の解決には、最先端の技術とともに、当社グループが長年培った技術基盤の維持・拡充が不可欠である。このため、知財戦略を強化するとともに、技術・製品・知見を含む技術基盤を全社横断で活用し、開発の効率化を進めながら、新たな価値を創出していく。また、グローバルでの人材の確保・育成を強化しつつ、重点領域へのリソースシフトを進め、各事業の戦略に応じた人的基盤を強化していく。
オ.MISSION NET ZEROの推進
当社グループは、サステナブルで安全・安心・快適な社会の実現に向け、「MISSION NET ZERO」に取り組んでいる。三原製作所での工場のカーボンニュートラル化で得たノウハウを全社に展開し、自社工場の省エネ化・合理化・電化や、太陽光発電の追加導入など、当社のCO2排出量の更なる削減にも取り組んでいく。
当社グループは、「MISSION NET ZERO」の活動を通じ、環境価値と経済価値を両立させながらカーボンニュートラルの達成に取り組み、事業を通じた社会課題解決によってサステナブルな社会の実現に貢献していく。このように事業を発展し成長させていく上では、従来同様コンプライアンスが大前提であるとの認識の下で各種施策を進めていく。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みの状況は、次のとおりである。
また、人的資本及び気候変動に関する戦略並びに指標及び目標はそれぞれ、「(2)気候変動」及び「(3)人的資本に関する戦略並びに指標及び目標」に記載のとおりである。
なお、記載事項のうち将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際に生じる結果とは様々な要因により異なる可能性がある。
(1)サステナビリティ全般
①ガバナンス
当社グループは、環境問題をはじめとする地球規模の課題解決に向けて、当社の製品・技術による貢献のみならず、事業プロセス全体における各種活動を通じて様々な社会的課題の解決に取り組み、事業と連動したサステナビリティへの取組みを推進している。
当社グループは、「社業を通じて社会の進歩に貢献する」と謳われている当社社是を社員が常に念頭に行動する上で、具体的にイメージしやすい形にした「CSR行動指針」を当社グループ社員の共通の心構えとして制定しているほか、多様な経歴、国籍、文化を持つ当社グループの社員の行動における共通の規範である「三菱重工グループグローバル行動基準」を制定している。また、環境については「環境基本方針」及び「行動指針」を制定し、この方針・指針の下、環境負荷低減の取組みを進めている。加えて、人権については、世界人権宣言等の国際規範を支持・尊重し、国連人権理事会が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた「三菱重工グループ人権方針」を、取引先との取引については、「資材調達の基本方針」を制定している。
また、当社グループは、社会のサステナビリティに配慮した経営を推進するため、マテリアリティ推進会議を設置している。マテリアリティへの取組みは、サステナビリティ経営を事業面で具現化するものであり、同会議においては、マテリアリティの目標実現に向けた事業活動状況を確認し、今後の取組みの方向性を議論し事業部門へ必要な対応を指示している。
さらに、当社グループは、サステナビリティを経営の基軸に据え、「常に社会の視点に軸足を置き、社会の期待に応え、信頼される企業」を目指すため、サステナビリティ委員会を設置している。サステナビリティ委員会においては、深化するサステナビリティを巡る課題への対応に関し、ステークホルダーの視点を踏まえ、当社グループが果たすべき責任を追求し、サステナビリティ経営の推進に向けた検討を行い、ESG(環境・社会・ガバナンス)の取組みに関する基本方針等についての審議及び決定並びにその関連諸活動を推進している。
加えて、社会的な要請が高まっているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った開示、人権デューデリジェンス、自然資本・生物多様性等の各種テーマに対し、リスクと機会を特定し、企業としての対応方針を速やかに経営レベルで意思決定するとともに、これらの進捗状況を確認している。
なお、これらのサステナビリティの取組みのうち重要なものについては、定期的に取締役会に報告されており、サステナビリティ推進体制図は次のとおりである。
②リスク管理
当社グループにおいて、主要なリスクを検討するプロセスは、「
また、サステナビリティ委員会において、気候変動を含むサステナビリティ関連のリスク及び機会のうち代表的なものに関する検討結果を確認している。
さらに、人権を尊重した事業活動を行っていくために人権デューデリジェンスを行い、自社のサプライチェーンにおいて発生しうる人権リスクを特定して実態調査を実施しているほか、事業部門も交えた人権連絡会を継続的に開催し、最新の取組状況を共有し、今後の取組方針について協議している。また、自然資本・生物多様性に関してもリスクアセスメントを実施し、当社グループの主要生産拠点を中心に生物多様性の重要地域との近接状況を調査した。
③戦略
当社グループでは、社会課題の解決を通じて企業価値を向上させ中長期的に成長していくために、当社グループが取り組んでいくべき重要課題(マテリアリティ)の特定を行った。社会課題の整理、マテリアリティマップの作成、妥当性の検証のプロセスを経て特定されたマテリアリティは、「脱炭素社会に向けたエネルギー課題の解決」「AI・デジタル化による社会の変革」「安全・安心な社会の構築」「ダイバーシティ推進とエンゲージメントの向上」「コーポレート・ガバナンスの高度化」の5項目である。また、深化するサステナビリティ経営課題の動向を調査した結果、取り組むべきESG施策をサステナビリティ委員会で決定している。
2024年度から開始した中期経営計画「2024事業計画」では、前中期経営計画(2021事業計画)で築いた事業基盤と財務基盤を活かし、ポートフォリオ経営を強化するとともに、これを支える技術・人的基盤を強化するほか、サステナブルで安全・安心・快適な社会の実現に向け、「MISSION NET ZERO」の活動を通じ、カーボンニュートラル達成に取組んでいく。
④指標及び目標
当社グループは、各マテリアリティについて全社目標及び進捗モニタリング指標(KPI)を設定し、進捗をマテリアリティ推進会議にて管理している。
なお、マテリアリティの各項目に対応した全社目標は下表のとおりである。
|
マテリアリティ |
全社目標 |
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脱炭素社会に向けた エネルギー課題の解決 |
・三菱重工グループのCO2排出削減 Scope1、2を、2040年Net Zero ・2040年までにバリューチェーン全体を通じた社会への貢献 Scope3+CCUS削減貢献を、2040年Net Zero |
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AI・デジタル化による 社会の変革 |
・顧客や利用者に寄り添った便利でサステナブルなAI・デジタル製品の拡充 ・AI・デジタル化により適切かつ効率的に電力需給を管理する未来型エネルギーマネジメントで、持続可能な社会へ貢献 ・クリエイティブな製品を生み出すための環境づくり |
|
安全・安心な社会の 構築 |
・製品・事業/インフラのレジリエント化 ・製品・事業/インフラの無人化・省人化 ・三菱重工全製品の継続的なサイバーセキュリティ対策の深化 |
|
ダイバーシティ推進と エンゲージメントの向上 |
・多様な人材による新たな価値創出 ・安全で快適な職場の確保 ・社員を活かす環境づくりと健やかで活力にあふれ社会に貢献できる人材づくり |
|
コーポレート・ ガバナンスの高度化 |
・取締役会審議のさらなる充実 ・法令遵守と誠実・公平・公正な事業慣行の推進 ・CSR調達のグローバルサプライチェーンへのさらなる浸透 ・非財務情報の説明機会創出 |
(2)気候変動
①ガバナンス
当社グループは、「
②リスク管理
当社グループにおいて、サステナビリティに関するリスク管理は、「
③戦略
当社グループは、環境への影響を最小限とするため、2100年時点における世界の平均気温の上昇を、産業革命以前と比較して1.5℃以下に抑制しながら経済成長を目指す「気候変動政策厳格化により脱炭素を推進するシナリオ(脱炭素シナリオ)」と、現状ベースで化石燃料をエネルギー主体として経済成長を目指した結果、2100年時点における世界の平均気温が産業革命以前と比較して4.0℃上昇することが想定されるシナリオである「気候変動政策が厳格化されず引き続き化石燃料に依存するシナリオ(化石燃料依存シナリオ)」の2つの気候変動シナリオを設定し、2030年における各事業への影響を分析している。なお、シナリオの設定にあたっては、国際機関や日本政府の開示情報を参照している。
このうち、「脱炭素シナリオ」では、当社グループ共通の移行リスクとして、例えば炭素税等の規制が強化され、炭素排出に対するコストが大きく上昇することを想定している。しかしながら、脱炭素化に対応した当社製品・技術の強みを生かすことで、事業機会も十分に存在するものと考えている。
一方、「化石燃料依存シナリオ」では、主なリスクとして、気候変動による物理的リスクがある。当シナリオにおいても、既に各種環境規制を推進している先進諸国において今後、規制が緩和されることは想定しがたいことから、当社の脱炭素技術の優位性を提供することで事業機会が生じると考えている。
なお、当該分析におけるリスク及び機会の影響度の判定に当たっては、事業規模及び脱炭素化の影響を踏まえて分析対象事業を選定した上で、2023年度の事業利益の計画値と2030年における事業利益の予測の差から事業利益への影響を分析している。その結果、脱炭素シナリオを適用した場合に、各事業に対して2030年断面に発生するリスク及び機会のうち、重要なものは以下のとおりである。
各事業部門においては、移行リスクと物理的リスクを事業計画策定の勘案要素として検討しており、またサステナビリティ委員会では、当該リスクと機会のうち代表的なものに関する検討結果を確認している。
ア.リスク
・世界的な電化への移行に従い、内燃機関に関連する製品・サービスである自動車用ターボチャージャ、エンジン式フォークリフトの需要減少や、カーボンニュートラル燃料への移行に伴いディーゼル燃料エンジンの需要減少が想定される。
・技術関連のリスクとして、水素ガスタービン等の新製品の開発遅れや、CO2回収装置における代替技術の出現が想定される。
・政策等の変更に関するリスクとして、冷媒規制等の環境規制が過度に強化され、規制に対応しない既存の冷熱製品の販売機会が失われる可能性がある。
・外部環境の影響として、化石燃料代替エネルギーとしての水素・アンモニアのサプライチェーン形成の遅れ、それに伴う新市場の立ち上がりの遅れが想定される。
イ.機会
・新興国を含む全世界で脱炭素の流れが進行する中、トランジション期間として、石炭からの燃料転換が見込まれる。国内市場では「長期脱炭素電源オークション」などの政策が追い風となり、石炭火力発電設備においてアンモニアへ燃料を転換する改造工事や、高効率ガスタービンコンバインドサイクルプラント(GTCC)、水素ガスタービンなどに対する需要増が見込まれる。また、エンジンにおいては、ディーゼル燃料から天然ガスへの燃料転換に伴うガスエンジンの需要増や、水素・バイオディーゼルなどのカーボンニュートラル燃料対応機種の需要増が見込まれる。
・カーボンニュートラル実現とエネルギー安定供給の両立に向け、日本国内においても「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、原子力については、「再稼働推進」「次世代革新炉の開発・建設」「既設炉活用(運転期間の延長)」「燃料サイクル推進」を進め、原子力を最大限活用する方針が示された。これを受け、既設PWR・BWRプラントの再稼働支援や特定重大事故等対処施設の設置、再稼働済プラントの保全に関する事業機会の拡大が想定される。また、世界最高水準の安全性を実現する革新軽水炉(SRZ-1200)の新設・建替えプロジェクトなどによる事業機会の拡大が期待される。
・CO2回収事業は法・税制度やCO2貯留地の整備が進む北米や欧州を中心に市場が拡大し、その他の地域でも制度設計や貯留地の整備に従って成長が見込まれる。当社は大型から中小型までの幅広いCO2回収製品のラインアップを有するほか、CO2回収技術とGTCCの両方を有する世界でも数少ないメーカーのひとつであり、多くの顧客ニーズに応えるソリューションを提供することができる。多様な産業分野へのCO2回収技術の適用拡大やサービスメニューの拡充に加え、CO2輸送・CO2貯留・カーボンリサイクルといったCCUSバリューチェーン全体での事業機会の拡大が期待される。
・製鉄機械では、高炉からの切り替えで、電気炉(EAF)や直接還元製鉄設備の需要拡大が見込まれる。
・物流機器では、世界的な電化への移行に伴いバッテリーフォークリフトの需要拡大が見込まれる。また、環境対応型港湾荷役装置(RTG)の需要が見込まれる。
・冷熱製品では、冷媒規制等の環境規制の強化により、低温暖化冷媒を使用した空調機やヒートポンプ式暖房機の販売拡大が期待される。
・水素関連の事業に関しては、水素ガスタービン、水素エンジン、水素還元製鉄設備、燃料電池用電動コンプレッサなど水素利用に関する製品の需要拡大に加えて、水素製造・輸送・貯蔵といった水素バリューチェーン全体での事業機会の拡大が期待される。
加えて、「脱炭素シナリオ」と「化石燃料依存シナリオ」の両シナリオにおいて、自然災害の増加に伴う当社グループ施設の被災による財物損害の増加やパートナー施設の被災によるサプライチェーン寸断等を物理的リスクとして認識している。当社グループでは過去7年間において被災した自然災害のうち約9割が、日本における主に台風・高潮、集中豪雨等の水災によるものである。その対応準備としては、災害により機能不全に陥った場合の代替手段、バックアップ体制を規定した対応要領の定期的な見直し、社員・関係者の訓練等を徹底している。また、甚大災害頻発による保険料高騰や高リスクエリアの保険引受停止等を想定し、2021年度までに国内全工場を対象として実施した「リスクサーベイ」に基づき、被災時の物損リスクを最小化すべく対応を進めている。
④指標及び目標
当社グループは、「脱炭素社会に向けたエネルギー課題の解決」をマテリアリティの一つと認識しており、2040年にカーボンニュートラルを達成する「MISSION NET ZERO」を宣言し、これを管理するため2つの目標を策定している。
第一の目標は、当社グループの生産活動に伴う工場等からのCO2排出量(Scope1、Scope2)を2030年までに2014年比50%削減し、2040年までに実質ゼロにすることである。
第二の目標は、バリューチェーン全体からのCO2排出量を2030年までに2019年比50%削減し、2040年までに実質ゼロにすることである。これは、主に当社グループの製品の使用によるお客様のCO2排出量(Scope3)の削減に、CCUSによる削減貢献分を加味したものである。
当社グループは、「MISSION NET ZERO」を通じ、省エネ化に継続して取り組んでおり、Scope1、2のCO2排出量を2030年に2014年比で50%削減するという目標に対して、2023年で42%削減を見込んでいる。これに加え、三原製作所をカーボンニュートラル工場とするための使用電力の100%グリーン化等、更なる取組みを実施している。また、Scope3については、当社製品の使用に伴うCO2排出量削減(2019年比で、2030年に50%)が目標であり、この達成に向けて高砂製作所の高砂水素パーク建設をはじめとした様々なソリューションの開発・実証を進めている。これらの目標に対する進捗をモニタリングすることで、リスクと機会への対応状況を確認している。
(3)人的資本に関する戦略並びに指標及び目標
①戦略
中期経営計画(2024事業計画)では、「各事業の戦略に応じた人材基盤の強化」を掲げ、多様な人材がグローバルに活躍する職場環境づくりを推進している。人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を含む以下の各取組みを引き続き推進していく。
ア.人材育成
当社グループの事業を取り巻く環境は、価値観の多様化や社会課題の複雑化等により加速度的に変化している。当社グループがいかなる環境の中にあっても持続的に発展していくためには、そこで働く社員一人ひとりが、お客さまのニーズに対して一人称で考え、行動することが必要である。HR部門はそれができる人材の育成とその人材を最大限に活かす企業文化の醸成、一人ひとりの主体性や活力をさらに引き出すことができるワークスタイルへの転換に鋭意取り組んでいる。
また、当社グループは、「三菱重工グループ人材育成方針」を制定しており、「長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、変化する社会課題の解決に挑み、人々の豊かな暮らしを実現する」とのミッションの実現に向けて、グループ員一人ひとりの能力の伸長とキャリア開発の支援を行い、全員が学び成長できる環境を整備する旨定めている。
イ.エンゲージメント
当社グループは、「社員のエンゲージメントを高めることが組織の活性化につながる」との考えの下、社員のエンゲージメントを重要指標と位置付け、定期的に、当社グループ全体でエンゲージメントサーベイを実施している。本サーベイ結果を受け、各部門において改善・向上活動を展開しており、HR部門としてはグループ全体の課題に対してベンチマークや水平展開、様々なツール整備を実施している。
ウ.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
多様な経歴、国籍、文化を持つ数万人からなる当社グループにとって、多様性は大切な財産であり、様々なバックグラウンドを持った社員一人ひとりが一つの共通の企業文化の下で業務に邁進している。女性活躍を一層推進していくため、女性社員数の拡大、キャリアを中断させない仕組みづくり、女性管理職の計画的な育成及び風土醸成という4つの施策に取り組んでいる。また、障がいを抱える方が安心して活躍できる職場環境づくり、職域の拡大にも積極的に取り組み、各地域での雇用も鋭意進めているほか、様々な性的指向の方にも配慮した職場環境づくりに努めている。
エ.安全衛生・健康
当社グループは、「人命尊重の精神に徹し、安全を何よりも優先する」ことを労働安全衛生における基本方針とし、その方針を実現するために社員がとるべき行動指針を反映した「三菱重工グループ安全衛生方針」を制定し、全世界にまたがる事業場において安全かつ安心して業務を遂行でき得る環境の実現を目指している。また、衛生面では社長による「社員とその家族が健康で幸せであることが全ての基本であり、そのような職場環境づくりに全力で取り組む」旨の健康経営宣言の下、健康経営を推進し、健やかで活力にあふれた社会に貢献できる人材づくりに努めている。
②指標及び目標
当社グループは、「(1)サステナビリティ全般 ③戦略」に記載のとおり、マテリアリティの特定を行った。「①戦略」で記載した方針に関しては、「ダイバーシティ推進とエンゲージメントの向上」に向け、多様な人材による新たな価値創出、安全で快適な職場の確保及び社員を活かす環境づくりと健やかで活力にあふれ社会に貢献できる人材づくりをテーマに、安全や多様性、エンゲージメントに関する指標を設け、以下のとおり取り組んだ。
・将来の幹部候補社員に対して、HR部門と事業部門が連携し、計画的な指導、育成を継続中
・全ての社員がキャリアを継続するため、育児や介護などに配慮した様々な支援制度の拡充に取り組み、仕事と家庭を両立しやすい職場環境・組織風土の構築を推進中
・「三菱重工グループにおける人権尊重」に関する教育コンテンツ(e-ラーニング)の充実化を検討中
・過去に発生した災害をベースにAIシステムや手引きを活用して発生予兆検知や災害発生時の真因分析等を行い、部門横断で対策を検討・立案
・2023年3月に実施した第4回当社グループ社員意識調査の結果を踏まえて取組方針を整理
・社長タウンミーティングを国内外7拠点で開催
・パルスサーベイツール*の全社展開及び運用改善による高度化を実現
* 社員意識調査よりも高い頻度で簡易な質問によるアンケートを実施し、より早期に職場に応じた課題の解決を目指す手段
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクには、以下の(3)に挙げるようなものがある。
当社グループでは、これら主要なリスクを含めた各種リスクに対して考えうる対応策をあらかじめ講じているが、これらを完全に回避することは困難である。当社グループは、これらのリスクに留意しながら事業計画に従い事業活動を進めるとともに、これらが顕在化した場合の影響の最小化に努めている。
主要なリスクには中長期的に事業環境や社会構造の更なる変化をもたらす可能性があるものも含まれており、当社グループは、将来を見据え、そのような動きに対応できるよう、先んじて対策を取っていかなければならないと認識している。
なお、記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)主要なリスクを検討するプロセス
当社グループでは、事業遂行上のリスクを抽出・討議する経営管理プロセスを策定し、これに基づきリスクの一覧化に取り組んでいる。リスク抽出に当たっては、社外の知見も取り入れて当社グループに関連するリスクの網羅的なリストを作成し、これに基づき概ね10年以内に顕在化する可能性が懸念される具体的なリスクの洗出しを実施している。その上で、講じている対応策の効果も踏まえて当該リスクが顕在化した場合の影響度と蓋然性の検討を行い、当社グループの事業に重要な影響を与える可能性があり、かつ定量化可能なリスクを特定し、以下のようなリスクマップに整理している。これに加えて、定量化の難しい定性的なリスクについても上述のリスクの網羅的なリストに基づき特定している。
(2)当社グループにおけるリスクへの対応策
当社グループでは、各種リスクを適切に管理するため、リスクの類型に応じた管理体制を整備し、管理責任の明確化を図っている。また、リスクを定期的に評価・分析し、必要な回避策又は低減策を講じるとともに、内部監査によりその実効性と妥当性を監査し、定期的に取締役会及び監査等委員会に報告することとしている。加えて、重大リスクが顕在化した場合に備え、緊急時に迅速かつ的確な対応ができるよう速やかにトップへ情報を伝達する手段を確保し、各事業部門に危機管理責任者を配置している。
また、当社グループでは、「事業リスクマネジメント憲章」により、リスクマネジメントの対象・要領等を明確化し、これを遵守・実践している。「事業リスクマネジメント委員会」においては、トップマネジメントレベルでの重要リスク情報の共有や対応方針を協議することにより、体制の明確化と経営幹部・事業部門・コーポレート部門の役割の明確化を図っており、事業リスク管理部を責任部門として、経営幹部・事業部門・コーポレート部門の三者が一体となって事業リスクマネジメントに取り組んでいる。
なお、以下「(3)主要なリスク」の①から⑥までの各項目のア.において、各項目に関して当社グループがあらかじめ講じている具体的な対応策を例示しているが、当社グループは、これらに限らず、主要リスク以外のものも含め、各種リスクの類型や性質に応じて、リスクを回避・低減するための取組みを進めるとともに、①から⑥までの各項目の「イ.経営成績等の状況に与えうる影響」等のリスクが顕在化した場合の影響の最小化に努めている。
(3)主要なリスク
①事業環境の変化
ア.当社グループを取り巻く事業環境の変化
当社グループを取り巻く事業環境は、非常に速いスピードで変化するとともに複雑化している。例えば国際情勢としては、米中対立に加え、ウクライナや中東での軍事行動の激化や、グローバルサウスの台頭等も含めた国際秩序の不安定化・分断が進行している。これに伴い、世界的な軍事予算の増額、安全保障・治安維持関連の法制強化、経済安全保障を目的としたレアメタル等の各種輸出規制及び知的財産やデータなどの移転に係る制限等の施策が相次いで打ち出されている。また、資源価格をはじめとする諸物価の高騰や物流の停滞・混乱、半導体等の電子部品の需要逼迫が発生しているほか、為替レートの急激な変動といった経済環境の変化も生じている。我が国においては、社会構造の変化として、人口減少・少子高齢化の一層の進展による人材不足の深刻化と人材獲得競争の激化、人材流動化、廃業の増加、技術・技能の断絶等が懸念されている。さらに、全世界的に経済発展と環境負荷低減の両立が社会的な課題となっており、様々な分野で環境規制が強化されている。特にエネルギー分野では、新興国経済の発展や電気自動車の普及等の電化の進展により、今後、世界の電力需要が伸びていく一方で、燃料価格の高騰とともに地球温暖化を契機とした脱炭素化の一層の浸透も求められている。加えて、昨今、米国のインフレ抑制法(IRA)に代表されるように、エネルギー安全保障・気候変動対策のために税額控除及び補助金を制度化する世界各国の脱炭素政策の後押しによって、水素・アンモニアの製造・利用やCO2回収・利活用の技術に対するニーズが高まるなど、当社グループの置かれている環境は、大きく変化している。
これらの事業環境の変化に対応すべく、2024年4月には、当社グループが成長戦略として取り組むエナジートランジション事業を推進する事業部門として、「GX(Green Transformation)セグメント」を新設し、複数の部門にまたがっていたエナジートランジション関連部門を再編し、プロジェクトマネジメント機能及びエンジニアリング機能を強化した体制とすることで、顧客ニーズへのワンストップ対応を可能とし、共通するリソースを有効活用して対応能力の向上を図っている。また、研究開発や設備投資を通じて、性能・信頼性・価格・環境対応等に関する製品競争力の維持・強化を図ることを前提としつつ、社外の知見も取り入れて市場の動きを先取りした新たな機能やソリューションの提案に注力している。このほか、事業環境を踏まえて各種製品分野で企図するM&A・アライアンスに関しては、入口での審議やモニタリングといった活動により、円滑なPMI*1の推進に向けた取組みを実践している。
*1 Post Merger Integration
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
世界経済のデカップリングの進行、新たな外交・安全保障政策の導入又は既存方針の転換等に伴い、商談への参加、サプライヤー選定等の場面で当社グループの事業活動に制約が生じた場合や、為替レートの急激な変動、原材料価格の高騰、物流の停滞・混乱が発生した場合、我が国における人材不足の深刻化や製造現場の空洞化等により当社グループの競争力の維持が困難又は低下することとなった場合には、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。環境規制に関しては、火力発電システムや自動車向けターボチャージャ、化学プラント関連のエンジニアリングなどの事業において、環境意識の高まりによって、製品・サービスの需要が減少し、事業規模が縮小する可能性や投下資本の回収が困難となる可能性がある。また、火力発電システム事業は、化石燃料由来の電力需要の激減、競合他社との競争激化やこれに伴う競合他社によるサービス商談獲得の影響も考えられ、これらにより受注が減少するおそれがある。環境規制の強化や燃料価格高騰といった事業環境の変化を踏まえ、顧客が自らの判断で火力発電プラントなどの営業運転を停止することとした場合には、これに伴うサービス事業の停滞等により、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。さらに、事業計画策定時の想定を超えて更に各種環境規制が厳格化され、これへの対応に課題が生じた場合には、市場競争力の低下や受注機会の逸失等により、当社グループの事業計画の推進に影響を与えるおそれがある。このほか、全体として脱炭素を目指しながらも現実的な着地点を模索する動きによってエナジートラジションが当社事業計画策定時の想定よりも停滞した場合には、CCS*2などの当社製品・サービスの実装が著しく遅延するなど、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。加えて、当社グループは、各種製品事業において、他社とのM&A・アライアンスを行っているが、市場環境の変化、事業競争力の低下、他社における経営戦略の見直し、その他予期せぬ事象を理由として、これらのM&A・アライアンス対象事業が目論見どおり進捗しない場合、資産の評価見直しによって減損損失等を計上するなど、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
*2 Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯蓄)
②各種の災害
ア.自然災害や戦争・テロ等の発生
地震、津波、豪雨、洪水、暴風、噴火、火災、落雷、感染症の世界的流行等の自然災害の発生、その発生頻度の上昇や被害の甚大化、戦争・テロ、政情不安、反日運動、人質・誘拐等の犯罪、不当拘束、社会インフラの麻痺、労働争議、停電、設備の老朽化・不具合等の人為的な要因によるものや労働災害等により、様々な物的・人的被害が生じ、円滑な経済活動が阻害され、さらには社会基盤が破壊されるといった事態が考えられる。なお、自然災害については、気候変動等に伴いその影響が甚大化することが想定される。当社グループでは、これらの影響を低減するため、災害対策支援ツールの活用、連絡体制・事業継続計画(BCP)の策定・整備、工場の点検や設備の耐震化、各種訓練の定期的な実施に加え、適切な保険を付保するとともに、各国の情勢や安全に関する情報収集やこれを踏まえた各種対応、関連省庁との連携等を進めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
当社グループは、製品・サービスを提供するための拠点を世界各地に有しているが、特に日本やタイなどに生産拠点が集中しているため、これらの国・地域において、大規模な地震・津波・洪水といった災害が発生した場合、当社グループの生産能力に重要な影響を及ぼす可能性がある。具体的には、生産設備の滅失・毀損、サプライチェーンの停滞・混乱、生産に必要な材料・部品等の不足やサービスの提供停止、生産拠点の操業低下・稼働停止等のほか、代替となる生産設備や取引先の喪失、損害保険等で補填されない損害の発生等の可能性がある。これらの影響に伴う受注や売上の減少等により、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
③製品・サービス関連の問題
ア.製品・サービスに関連する品質・安全上の問題、コスト悪化等
当社グループは、ものづくりとエンジニアリングのグローバルリーダーとして、エナジー、プラント・インフラ、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙の幅広い分野で高度な技術力を活かしてソリューションを提供している。当社グループは、製品の品質や信頼性の向上に常に努力を重ねているが、製品の性能・納期の問題や製品に起因する安全上の問題が生じる可能性がある。また、仕様変更や工程遅延等に起因するコスト悪化、材料・部品等の調達や工事に伴う予期しない問題の発生、納期遅延や性能未達等による顧客からの損害賠償請求や契約解除、顧客の財務状況の悪化等の問題が生じる可能性がある。サプライヤーとの間でも、製品・サービスなどに起因して、同様の問題が発生する可能性がある。また、重要かつ代替性の限られる特定の材料・部品のサプライヤーと取引不能となった場合に代替調達先の手配ができないことや、労働関係法令の規制強化によってパートナー側での労働力不足が発生することなどにより、生産活動や顧客への製品・サービスの提供等に影響が生じるおそれがある。
当社グループでは、これらのリスクに対して、各種規則の制定・運用、事業リスクマネジメント体制の整備・強化、個別案件の事前審議や受注後のモニタリング、プロジェクト遂行責任者や事業部長クラスへの教育の実施、製品安全に関する講座の継続的な開催等を行うとともに、過去に生じた大口赤字案件については、その原因や対策を総括するとともに、社内教育に反映するなど、再発防止に努めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
このような製品・サービス関連の問題発生等を理由として、追加費用の発生、顧客への損害賠償、社会的評価及び信用の失墜等に繋がる可能性がある。また、顧客・サプライヤーやその他第三者から国内外で訴訟・仲裁を提起されることがあり、当社グループは、これらに対応している。訴訟・仲裁においては、当社グループの主張が認められるように最大限の対応を取っているものの、当社グループにとって不利な判断が下される可能性は否定できない。また、当社グループが最終的に支払うべき賠償額等の負担が、各種の保険で必ずしも補填されるとは限らない。このような製品・サービス関連の問題だけでなく、重要かつ代替性の限られる顧客、サプライヤー、協業パートナーの経営状況の悪化や事業方針の転換等も、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
④知的財産関連の紛争
ア.当社グループの知的財産に対する侵害、当社グループによる第三者の知的財産に対する侵害等
当社グループは、研究開発の成果である知的財産を重要な経営資源の一つと位置づけ、グローバルに活用している。しかしながら、当社グループに対して、第三者から知的財産を侵害していると主張されるような事態が生じる可能性がある。
当社グループでは、知的財産を特許権等により適切に保護し、また、第三者の知的財産を尊重し、当社グループによる侵害回避に努め、必要に応じて当該第三者から技術導入を行うなど適切な対応を取っている。具体的には、製品の基本計画・設計・製造の各段階で他者が保有する知的財産を十分に調査することによる知的財産関連の紛争の未然防止、教育・人材育成を通じた知的財産部門の専門性向上等の対策を進めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
当社グループの知的財産の利用に関して競合他社等から訴訟等を提起されて敗訴した場合、損害賠償責任を負うほか、特定の技術を利用することができなくなり、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。また、当社グループが事業遂行のために必要とする技術の権利を第三者が保有している場合に、当該第三者からの技術導入を受けられず、当社グループの事業遂行に支障を来たすおそれがある。
⑤サイバーセキュリティ上の問題
ア.情報セキュリティ問題の発生等
当社グループは、事業の遂行を通じて、顧客等の機密情報及び当社グループの技術・営業その他事業に関する機密情報を保有しており、業務上も情報技術への依存度は高まっている。これに対して日々高度化・悪質化しているサイバー攻撃等が現在の想定を上回るなどして、コンピュータウイルスへの感染や不正アクセスその他の不測の事態が生じた場合には、機密情報が滅失又は社外に漏洩する可能性がある。また、サイバー攻撃等の結果、端末やサーバなどの使用に障害が出る可能性がある。
当社グループでは、これらのリスクに対して、CTO*3直轄のサイバーセキュリティ推進体制を構築し、当社グループのサイバーセキュリティ統制(基準整備・対策実装・自己点検・内部監査)やインシデント対応等の対策を進めている。
*3 Chief Technology Officer
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
情報漏洩が生じると、当社グループの競争力の大幅な低下、社会的評価及び信用の失墜等によって当社グループの事業遂行に重大な影響が生じうる。また、当局等による調査の対象となるほか、顧客等から損害賠償請求等を受ける可能性がある。加えて、サイバー攻撃等の結果、サーバなどの使用に障害が出た場合には、業務の遂行に大きな影響が生じ、その結果生産活動や顧客への製品・サービスの提供等に影響が生じるおそれがある。このようにサイバーセキュリティ上の問題は、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
⑥法令等の違反
ア.重大な法令等の違反
当社グループは、国内外の様々な法令・規制(租税法規、環境法規、労働・安全衛生法規、独占禁止法・下請代金支払遅延等防止法・反ダンピング法等の経済法規、贈賄関連法規、貿易・為替法規、建設業法等の事業関連法規、金融商品取引所の上場規程、個人情報保護法等をいい、これらを総称して以下「法令等」という。)を遵守し、役員及び従業員にも遵守させなければならず、決してリスクとリターンをトレードしてはならない厳守事項として周知と対策を徹底している。具体的な対策としては、当社グループの全ての役員・従業員を対象とした「三菱重工グループ グローバル行動基準」や各種規則の制定・運用を行うとともに、コンプライアンス委員会の定期的な開催、内部通報体制の整備、法令遵守の徹底に関する経営層からのメッセージの発信、コンプライアンス・情報管理・ブランド戦略等の各種社内教育の充実と継続的な実施、各部門の課題を踏まえた内部監査等を行っている。しかし、一部の役員・従業員が法令等の違反を生じさせる可能性は完全には排除できない。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
万一法令等の違反が生じた場合、当局等による捜査・調査の対象となるほか、当局等から過料、更正、決定、課徴金納付、営業停止、輸出禁止等の行政処分若しくはその他の措置を受け、又は当局やその他の利害関係者から損害賠償を請求されるおそれがある。さらに、法令等の違反が生じた場合には、当社グループの事業遂行が困難となるなどの影響を受ける可能性があり、また、社会的評価及び信用の失墜等に繋がるおそれがある。特に当社グループの事業の性質に鑑み、国内外の独占禁止法、贈賄関連法規、貿易・為替法規、建設業法、下請代金支払遅延等防止法等の違反に関しては、当社グループへの影響は一層重大なものとなる可能性がある。このように法令等の違反は、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりである。次の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)財政状態の状況の概要及びこれに関する分析・検討内容
当連結会計年度における当社グループの資産は、「その他の非流動資産」及び「営業債権及びその他の債権」の増加等により、前連結会計年度末から7,814億46百万円増加の6兆2,562億59百万円となった。
負債は、「契約負債」及び「営業債務及びその他の債務」の増加等により、前連結会計年度末から2,547億77百万円増加の3兆8,956億4百万円となった。
資本は、退職後給付制度における確定給付負債(資産)の再測定による「その他の資本の構成要素」の増加等により、前連結会計年度末から5,266億69百万円増加の2兆3,606億54百万円となった。
以上により、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は35.9%(前連結会計年度末の31.8%から+4.1ポイント)となった。
(2)経営成績の状況の概要及びこれに関する分析・検討内容
当連結会計年度における当社グループの受注高は全ての部門で増加し、前連結会計年度を2兆1,827億23百万円(+48.5%)上回る6兆6,840億35百万円となった。
売上収益についても全ての部門で増加し、前連結会計年度を4,543億50百万円(+10.8%)上回る4兆6,571億47百万円となった。
さらに、事業利益も全ての部門で増加し、前連結会計年度を892億17百万円(+46.1%)上回る2,825億41百万円、税引前利益も前連結会計年度を1,240億60百万円(+64.9%)上回る3,151億87百万円となった。
また、親会社の所有者に帰属する当期利益も前連結会計年度を915億71百万円(+70.2%)上回る2,220億23百万 円となった。
この結果、受注高、売上収益、事業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益のいずれも、過去最高を更新した。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりである。
ア.エナジー
活況なグローバル市場の中でシェア1位を維持しているGTCCや既設プラントの再稼働対応で原子力発電システムが増加したことなどにより、受注高は、前連結会計年度を6,362億38百万円(+35.5%)上回る2兆4,280億35百万円となった。
売上収益は、航空機用エンジンや原子力発電システムが増加したことなどにより、前連結会計年度を228億93百万円(+1.3%) 上回る1兆7,615億69百万円となった。
事業利益は、スチームパワーやGTCCが増加したことなどにより、前連結会計年度を564億10百万円(+66.2%)上回る1,415億70百万円となった。
なお、火力発電システムに関連する一部の投資について、グループ内での管理体制の見直しにより、当連結会計年度から「全社又は消去」に含めている。これに伴う前連結会計年度のセグメント情報への影響は軽微である。
イ.プラント・インフラ
米国・アジアを中心とした移動需要の増加等により全自動無人運転車両システム市場が好調なエンジニアリングが増加したことなどにより、受注高は、前連結会計年度を219億63百万円(+2.6%)上回る8,673億64百万円となった。
売上収益は、製鉄機械やエンジニアリングが増加したことなどにより、前連結会計年度を1,196億8百万円(+17.7%)上回る7,952億74百万円となった。
事業利益は、製鉄機械やエンジニアリングが増加したことなどにより、前連結会計年度を220億75百万円(+67.4%)上回る548億26百万円となった。
ウ.物流・冷熱・ドライブシステム
世界的な需要拡大を背景として物流機器やエンジンが増加したことなどにより、受注高は、前連結会計年度を 1,036億31百万円(+8.5%)上回る1兆3,186億47百万円となった。
売上収益は、物流機器や冷熱製品、エンジンが増加したことなどにより、前連結会計年度を1,108億12百万円(+9.2%)上回る1兆3,145億88百万円となった。
事業利益は、価格の適正化や増収により物流機器が増加したことなどにより、前連結会計年度を338億73百万円(+87.0%)上回る728億18百万円となった。
エ.航空・防衛・宇宙
日本政府の防衛力の抜本的強化に関する方針を受けて飛しょう体や防衛航空機、特殊機械が増加したことなどにより、受注高は、前連結会計年度を1兆3,650億15百万円(+194.0%)上回る2兆687億9百万円となった。
売上収益は、民間航空機や飛しょう体が増加したことなどにより、前連結会計年度を1,721億4百万円(+27.8%)上回る7,915億47百万円となった。
事業利益は、民間航空機や飛しょう体、防衛航空機が増加したことなどにより、前連結会計年度を327億11百万円(+81.8%)上回る726億92百万円となった。
(3)キャッシュ・フローの状況の概要及びこれに関する分析・検討内容
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ836億23百万円増加し、4,312億87百万円となった。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりである。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、3,311億86百万円の資金の増加となり、前連結会計年度に比べ2,502億98百万円収入が増加した。これは、「税引前利益」が増加したことや受注拡大に伴う契約負債の獲得などによるものである。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、1,310億48百万円の資金の減少となり、前連結会計年度に比べ854億72百万円支出が増加した。これは、「事業(子会社を含む)の取得による支出」が増加したことなどによるものである。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、1,589億3百万円の資金の減少となり、前連結会計年度に比べ1,400億円支出が増加した。これは、「債権流動化等の返済による支出」が増加したことなどによるものである。
(4)生産、受注及び販売の状況
① 生産の実績
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
|
|
金額(百万円) |
前連結会計年度比(%) |
|
|
エナジー |
1,816,238 |
+2.7 |
|
プラント・インフラ |
773,544 |
+19.2 |
|
物流・冷熱・ドライブシステム |
1,326,558 |
+9.1 |
|
航空・防衛・宇宙 |
795,491 |
+24.4 |
|
全社又は消去 |
49,999 |
― |
|
合計 |
4,761,831 |
+11.1 |
(注)1.上記金額は、大型製品については契約金額に工事進捗度を乗じた額、その他の製品については完成数量に販売金額を乗じた額を基に算出計上している。
2.セグメント間の取引については、各セグメントの金額から消去している。
3.「全社又は消去」の区分は、報告セグメントに含まれない生産高である。
4.上記金額には、消費税等は含まれていない。
② 受注の実績
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
|||
|
受注高 (百万円) |
前連結会計年度比 (%) |
受注残高 (百万円) |
前連結会計年度比 (%) |
|
|
エナジー |
2,428,035 |
+35.5 |
4,283,891 |
+28.8 |
|
プラント・インフラ |
867,364 |
+2.6 |
1,569,657 |
+4.0 |
|
物流・冷熱・ドライブシステム |
1,318,647 |
+8.5 |
58,369 |
+6.5 |
|
航空・防衛・宇宙 |
2,068,709 |
+194.0 |
2,474,222 |
+111.1 |
|
全社又は消去 |
1,277 |
― |
14,434 |
― |
|
合計 |
6,684,035 |
+48.5 |
8,400,576 |
+38.6 |
(注)1.受注高については、「エナジー」、「プラント・インフラ」、「物流・冷熱・ドライブシステム」及び「航空・防衛・宇宙」にはセグメント間の取引を含んでおり、「全社又は消去」でセグメント間の取引を一括して消去している。また、「全社又は消去」の区分は、報告セグメントに含まれない受注高を含んでいる。
2.受注残高については、セグメント間の取引を各セグメントの金額から消去しており、「全社又は消去」の区分は、報告セグメントに含まれない受注残高である。
3.上記金額には、消費税等は含まれていない。
③ 販売の実績
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
|
|
金額(百万円) |
前連結会計年度比(%) |
|
|
エナジー |
1,761,569 |
+1.3 |
|
プラント・インフラ |
795,274 |
+17.7 |
|
物流・冷熱・ドライブシステム |
1,314,588 |
+9.2 |
|
航空・防衛・宇宙 |
791,547 |
+27.8 |
|
全社又は消去 |
△5,831 |
― |
|
合計 |
4,657,147 |
+10.8 |
(注)1.「エナジー」、「プラント・インフラ」、「物流・冷熱・ドライブシステム」及び「航空・防衛・宇宙」にはセグメント間の取引を含んでおり、「全社又は消去」でセグメント間の取引を一括して消去している。また、「全社又は消去」の区分は、報告セグメントに含まれない販売金額を含んでいる。
2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりである。なお、前連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は100分の10未満であるため記載を省略している。
|
相手先 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
||
|
金額(百万円) |
割合(%) |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
|
防衛省 |
― |
― |
489,778 |
10.5 |
3.上記金額には、消費税等は含まれていない。
(5)資本の財源及び資金の流動性に係る情報
ア.資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動については、生産活動に必要な運転資金(材料・外注費及び人件費等)、受注獲得のための引合費用等の販売費、製品競争力強化・ものづくり力強化及び新規事業立上げに資するための研究開発費が主な内容である。投資活動については、事業伸長・生産性向上及び新規事業立上げを目的とした設備投資並びに事業遂行に関連した投資有価証券の取得が主な内容である。
今後、成長分野を中心に必要な設備投資や研究開発投資、投資有価証券の取得等を継続していく予定である。
イ.有利子負債の内訳及び使途
2024年3月31日現在の有利子負債の内訳は下記のとおりである。
|
(単位:百万円) |
|
|
合計 |
償還1年以内 |
償還1年超 |
|
短期借入金 |
72,074 |
72,074 |
― |
|
長期借入金 |
371,153 |
75,489 |
295,664 |
|
社債 |
225,000 |
30,000 |
195,000 |
|
小計 |
668,227 |
177,563 |
490,664 |
|
ノンリコース借入金 |
60,755 |
996 |
59,759 |
|
合計 |
728,983 |
178,560 |
550,423 |
当社グループは比較的工期の長い工事案件が多く、生産設備も大型機械設備を多く所有していることもあり、一定水準の安定的な運転資金及び設備資金を確保しておく必要がある。当連結会計年度においては、当社グループは継続的に資金創出に努め、事業拡大局面においても運転資金を抑制しつつ、期限の到来した借入金を返済してきた結果、当連結会計年度末の有利子負債の構成は、償還期限が1年以内のものが1,785億60百万円、償還期限が1年を超えるものが5,504億23百万円となり、合計で7,289億83百万円となった。
これらの有利子負債により調達した資金は、事業活動に必要な運転資金、投資資金に使用しており、具体的には火力発電システムのほか、物流機器・冷熱製品を含む中量産品等の伸長分野及び「2021事業計画」で掲げている成長分野が中心である。
ウ.財務政策
当社グループは、運転資金、投資資金については、まず営業活動によるキャッシュ・フローで獲得した資金を投入し、不足分について有利子負債による調達を実施している。
長期借入金、社債等による長期資金の調達については、事業計画に基づく資金需要、金利動向等の調達環境、既存借入金の償還時期等を考慮の上、調達規模、調達手段を適宜判断して実施していくこととしている。
一方で、有利子負債を圧縮するため、キャッシュマネジメントシステムにより当社グループ内での余剰資金の有効活用を図っており、また、営業債権、棚卸資産の圧縮や固定資産の稼働率向上等を通じて資産効率の改善にも取り組んでいる。
自己株式については、事業計画の推進状況、当社の業績見通し、株価動向、財政状況及び金融市場環境等を総合的に勘案して取得を検討していくこととしている。
(6)経営方針・経営戦略及び経営指標等に照らした経営成績等の分析・検討
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針・経営戦略等」に記載のとおり、当社グループは、中期経営計画「2021事業計画」において、「収益力の回復・強化」及び「成長領域の開拓」に優先的に取り組み、長期安定的に企業価値を向上させることを目指して事業を遂行してきた。これは、規模の拡大を目指すのではなく、足元の収益力の回復を図り、事業基盤を強化することに主眼を置いたためである。
「2021事業計画」においては、「事業利益率7%」、「ROE12%」及び「有利子負債0.9兆円維持」を当連結会計年度の目標として設定していたが、実績は「事業利益率6.1%」、「ROE11.1%」及び「有利子負債7,289億円」となった。
事業利益率とROEについては、「2021事業計画」の目標には届かなかったものの、サービス事業へのシフト、拠点統合による資産の最適化など構造改革の推進、価格適正化の取組み及び円安影響等で、前連結会計年度に対し両指標とも向上した。また、受注高、売上収益、事業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益のいずれも、過去最高を更新した。
一方、有利子負債については、成長領域の強化のための投資を実施したが、キャッシュ・フローは黒字を確保し、「2021事業計画」の目標である「有利子負債残高0.9兆円維持」から更に圧縮した。
(7)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されている。この連結財務諸表の作成に当たり、見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っている。
詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表」の注記「2.作成の基礎(5)見積り及び判断の利用」及び「3.重要性がある会計方針」に記載している。
当社は、2024年2月28日開催の取締役会において、経営資源の有効活用と財務体質の強化を図るため、当社が所有する以下の資産を譲渡することを決定し、譲渡先との間で譲渡契約を締結した。
譲渡契約の概要は以下のとおりである。
(1)譲渡資産の内容
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資産の内容及び所在地 |
譲渡益(億円) |
現況 |
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土地 横浜市中区錦町38-8 ほか |
約500億円 |
工場用地(本牧工場の一部) |
(注)1.譲渡価額及び帳簿価額については、譲渡先の要望により開示を控えるが、競争入札による市場価格を反
映した適正な価格での譲渡である。譲渡益は、譲渡価額から帳簿価額及び諸費用を控除した概算額であ
る。
2.本譲渡資産を信託設定した上で、同信託設定に基づく信託受益権を譲渡する予定である。
(2)譲渡の相手先の概要
譲渡先については、譲渡先の要望により開示を控える。
なお、譲渡先と当社との間には、資本関係、人的関係及び取引関係はない。
また、譲渡先は当社の関連当事者には該当しない。
(3)譲渡の日程
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契約締結日 |
2024年2月29日 |
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引渡日(予定) |
2024年9月30日/2025年3月31日 |
(注)上記の引渡日は、当該固定資産に係る信託受益権の譲渡の期日である。
譲渡対象土地を2分割して引き渡す予定である。
(4)当該事象の損益に与える影響額
当該固定資産の譲渡により、2025年3月期の個別財務諸表において、固定資産売却益として約500億円を計上する
見込みである。
当社グループ(当社及び連結子会社)は、各製品の競争力強化や今後の事業拡大に繋がる研究開発を推進している。
各セグメント等の主な研究開発の状況及び費用は次のとおりであり、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は総額で
(1)エナジー
2050年までのカーボンニュートラル社会の実現、低コストでのエネルギーの安定供給といった多様化する社会課題を解決するべく、これまで培った技術を駆使して、革新的で付加価値の高い製品やサービスの開発に取り組んでいる。
当セグメントに係る研究開発費は
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトへの参画によるCO2を排出しない水素ガスタービン、運搬や貯蔵に優れたアンモニアを燃料とするアンモニアガスタービンの開発
・水素製造から水素ガスタービンによる発電にわたる技術の一貫した実証、水電解に加えメタンガス熱分解等の次世代水素製造技術の開発
・グリーンイノベーション基金事業への参画によるアンモニア専焼バーナーの開発、ボイラーでのアンモニア高混焼の社会実装に係る開発
・地震・津波・テロへの高い耐性を備え、革新技術の導入により世界最高水準の安全性を実現する革新軽水炉「SRZ-1200」と、将来における社会の多様化ニーズを見据えた高温ガス炉、高速炉、小型炉及びマイクロ炉の開発
(2)プラント・インフラ
市場・需要の多様化に対応した製品固有の研究開発を行うとともに、カーボンニュートラル社会の実現に向けた幅広い製品の開発に取り組んでいる。
当セグメントに係る研究開発費は
・次世代CO2回収技術、回収したCO2の輸送を容易にするCO2液化実証及び地域と連携したCCU実証等、幅広い産業の脱炭素化に貢献するCO2エコシステム構築に向けた製品・技術の開発
・プラントや交通システムの運転・保守を総合的に支援するデジタルサービスプラットフォーム「ΣSynX
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Supervision」の、小型CO2回収装置「 |
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(コンパクト)」への導入及び交通システムへの実装検証 |
・最適燃焼プロセス及び最適ストーカ構造により、ごみ焼却施設の高燃焼効率化及び長寿命化を実現する次世代ストーカ炉の開発
・車では検知できない交通情報を自動運転車に提供し、車の安全走行を実現するシステムの開発
(3)物流・冷熱・ドライブシステム
量産技術の情報共有と製品共通技術の統一により製品間でのシナジーを創出し、省エネ・省人化・脱炭素化等の市場ニーズに対応した付加価値の高い製品開発に取り組んでいる。
当セグメントに係る研究開発費は
・低炭素・脱炭素社会で想定される様々な燃料に対応するための、舶用代替燃料の適用に向けた要素技術の開発及び分散型発電機市場に向けた水素混焼・専焼エンジンの開発・実証
・燃料電池車の普及による車両用動力源の脱炭素化を見据えた、燃料電池に高圧空気(酸素)を供給する小型で高効率な遠心式電動コンプレッサの開発
・大規模地域冷暖房システム向けの低GWP(地球温暖化係数)冷媒を適用した大容量ターボ冷凍機の開発
・無人フォークリフト(AGF: Automated Guided Forklift)によるトラックへの荷積み自動化システムの実証
(4)航空・防衛・宇宙
日本のリーディングカンパニーとして、長年にわたり航空・防衛・宇宙開発で培った技術を駆使して、最先端の製品開発に取り組んでいる。
当セグメントに係る研究開発費は
・軽量機体の普及による航空輸送のCO2削減に貢献する、次世代民間機への複合材構造の適用拡大を目指した軽量化・生産高レート化・複雑形状化技術の開発
・無人機及びAI技術を活用した監視システムの開発
・重要インフラの制御システム向け等のサイバーセキュリティ技術の開発
・低コストで高い信頼性を有する「H3ロケット」の開発
・宇宙機開発で培った技術力を活用した月面探査や有人探査に関連する技術の開発
(5)その他・共通
当社グループ次期製品の市場競争力確保のために必要となるキー技術や、次期・次世代の製品開発に必要かつ複数製品の共通基盤となるプラットフォーム技術の開発に取り組んでいる。
「その他・共通」に係る研究開発費は22,647百万円であり、主な研究開発は次のとおりである。
・脱炭素社会に向けた水素製造・バイオマス合成燃料製造・水素発電・アンモニア発電等の技術開発・実証
・水素ステーション向け超高圧液体水素昇圧ポンプの開発
・データセンター向けのユーティリティシステム及び次世代冷却技術の開発
・最少の調達数で、欠品なく在庫割り当てを可能とする在庫保有量最適化技術の開発