文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、創業理念(社是)「顧客第一」と社名「大気社」が示す「エネルギー・空気・水」の環境対応技術を核として、グローバルに事業領域を拡大し、安定的かつ持続的な成長を目指します。そして全てのステークホルダーにとって魅力ある会社づくりをすすめ、社会に貢献してまいります。
当社グループは、2022年5月16日に開示しました中期経営計画において、「エネルギー・空気・水の創造的なエンジニアリングにより、持続可能な社会へ貢献する」、「多様な人材・知見を活かし、インクルーシブなグローバル企業となる」ことを長期ビジョンとして掲げております。
① エネルギー・空気・水の創造的なエンジニアリングにより、持続可能な社会へ貢献する
Innovative Engineering for a Sustainable Society - with energy, air and water -
社会的課題の解決へのチャレンジを通じて、エネルギー・空気・水に関わる、ハード面の技術革新、ソフト面の経験知の蓄積、新たな領域への知的探索により、総合エンジニアリング力の強化を図ります。それが新規事業・新規顧客の開拓や既存顧客への「専門性の高い顧客ニーズへの処方箋」の提供に繋がり、当社の差別化戦略となると考えております。そして差別化によって、企業成長を実現すると同時に、社会的課題の解決、すなわち持続的な社会への貢献を目指します。その一つとして、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでまいります。
② 多様な人材・知見を活かし、インクルーシブなグローバル企業となる
Diversity & Inclusion as a Global Company
当社にもともとあった多様性を受容する企業風土をベースに、より各人が能力を発揮でき、相乗効果を生む仕組みづくりを進め、真のグローバル企業として、国を問わず活躍できる企業となることを目指します。さらに当社においては、技術開発を含む事業活動において社内外の多様な人材・技術を結合・融合させて新たな価値を生み出すこともインクルージョンの一つと捉え、二つの意味でインクルーシブな企業を目指します。
2023年3月期から2025年3月期の中期経営計画の概要は、以下のとおりであります。
非財務目標
事業活動に伴うCO2排出量を、2030年までにスコープ1・2は42%削減、スコープ3は25%削減することを目標として掲げております(いずれも2022年度実績比)。
※2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、サプライチェーン全体での排出削減の取組を進めていくため、従来のスコープ1・2の削減目標に加え、スコープ3を含めた削減目標を2024年1月に再設定しました。あわせて、温室効果ガス排出削減に関する国際的なイニシアチブでありますSBT認証の取得を申請しました。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは、長期ビジョンの実現に向けて、既存の事業ポートフォリオを「資本効率」「長期戦略との整合性」「関係会社ガバナンス」の視点で見直し、長期的に付加価値を創造できる筋肉質な事業構造へ転換していきます。中期経営計画においては、①コア事業のさらなる強化、②新たな価値創出への挑戦、③変革・成長を支える経営基盤の強化」を経営課題と定めております。
(ア)環境システム事業
・付加価値を生み出し続ける事業展開
カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素ビジネスへの取組を推進していきます。また、技術ニーズに応え続ける体制とプロフェッショナルの育成や、産業空調分野におけるノウハウ・知財の蓄積を図ります。
・技術の大気社を強化
新技術開発センターやR&Dサテライトにおける顧客ニーズの把握と共同開発を進めるとともに、営業部門と開発部門の協働による顧客への積極的な技術提案とシーズの掘り起こしを図ります。
・業務の仕組みの改善と生産性向上
働きやすさ向上のための業務のデジタル化・DX化、ムリ・ムダ・ムラをなくす業務プロセス変革、サプライヤーとの関係強化とともに成長できる仕組みづくりを推進していきます。
(イ)塗装システム事業
・国内外での確固たる地位の確立
非日系顧客のニーズに応える技術の多様化、パートナー企業との協働による非四輪新規顧客へのアプローチ、海外ネットワークを活用した現地に根差した事業展開を推進していきます。
・グローバルな社会課題を意識した開発
カーボンニュートラル実現のため、技術開発により顧客の生産技術の変革に貢献します。また、海外拠点と連動した開発体制の構築強化を図ります。
・業務の仕組みの改善と生産性向上
業務プロセスのデジタル化による現場業務の遠隔化・自動化、グローバルな教育プログラムの設計、プロジェクト管理体制の見直しによる人員最適化を推進していきます。
自社の知財や無形固定資産を活かした経営戦略の立案・推進を図ります。また、本社支社のオフィス内にR&Dサテライトを設置して顧客ニーズを把握することで、顧客視点の開発を進めるとともに、学術機関やスタートアップ企業など外部知見との融合によるオープンイノベーションから、新規事業の開拓を図ります。
・人的資本の育成・確保
イノベーションを生み出す組織風土づくり、社員エンゲージメントの向上、計画的な人材価値の開発を推進していきます。
・新たな価値提供に向けたデジタル戦略
現場のデジタル化・DX化による生産性向上、グローバルなIT・DX体制構築とともに、研究開発や新事業創出に向けたデジタル融合を強化していきます。
・グループガバナンス体制強化
資本コストを踏まえた事業ポートフォリオマネジメントの構築と、関係会社の取締役会・監査機能の実効性強化を図ります。
(1) サステナビリティへの対応
大気社グループのサステナビリティへの考え方は「創業理念」「企業理念」に示され、従来より引き継がれてきたものですが、昨今、国際社会においてサステナビリティをめぐる課題解決への機運が高まる中、本業を通じて豊かな環境の創造と産業社会の発展に貢献していくことこそが当社グループの存在意義(パーパス)であるとの認識を深め、持続可能な社会の実現と企業の永続的成長に向けて、グローバルな社会的課題への積極的な取組を進めています。
サステナビリティをめぐる課題への対応は、中長期的な企業価値向上の観点から、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題です。こうした趣旨のもと、2050年を念頭においた経営環境の見通しやビジネスモデルの変化等をテーマに、役員のオフサイト・ディスカッションを継続的に実施しています。2023年度においては、こうした長期目線での議論に次世代の発想を取り入れるべく、将来の経営を担う若手・中堅社員が当社の未来についての提案を行い、役員とともに討議する場を設けました。次世代の社員に経営の視点で会社の未来を考えてもらう機会を早期に提供することで、未来を創造することができる人材の育成も視野に入れております。また業務執行取締役に対しては、ESG等の非財務目標を評価要素とし、企業の中長期的な成長を促すべく業績連動報酬を導入いたしました。この制度に関しては、報酬諮問委員会において客観性・透明性ある評価を実施しております。
(サステナビリティ経営の推進体制)
サステナビリティ全般に関するガバナンスにつきましては、経営会議の諮問機関として、執行側の会議体という位置づけで、2023年2月にサステナビリティ推進委員会を発足し、モニタリングを実施しております。さらに2024年2月には、社外役員の客観性のある意見を取り入れ、一層の活動推進を図るべく、新たに取締役会の第四の諮問機関として、独立社外取締役を委員長としたサステナビリティ委員会を設置いたしました。サステナビリティ委員会では取締役会からの諮問事項を討議・検討し、その結果を少なくとも年1回以上の頻度で取締役会へ答申しております。
<サステナビリティ推進体制図>

サステナビリティ全般に関するリスク管理につきましては、リスクマネジメント委員会において、当社グループの総合的な観点から、各リスクのリスク度評価、対応すべきリスクの選定、リスク低減に向けた方針等の策定・実行を行っています。同委員会は代表取締役社長を委員長として、年2回及び必要時に開催することとし、全社的なリスクマネジメントの基本方針及び責任体制、運営などを定め、周知・徹底を図っています。
当社グループにおける重要なサステナビリティ項目は以下のとおりであります。
・気候変動に関する取組
・人的資本・多様性に関する取組
それぞれの項目に係る当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
また、当社の企業統治の体制については「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治の体制の概要」をご参照ください。
(2) 気候変動に関する取組
当社グループは、優先的に取り組むべき経営上の重要課題(マテリアリティ)の一つに「気候変動の緩和と適応」を位置づけ、本業である省エネルギー性能の高い空調・衛生設備や塗装プラントの提供を通じて、環境負荷低減に取り組んでおります。
なお、2021年12月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明しております。
① ガバナンス
気候変動への対応に関してはリスクや機会を認識しビジネスチャンスとして捉え、経営戦略に織り込む活動を行っています。経営会議では、環境保全活動に係る全社的な行動計画を策定しており、当該計画について取締役会に付議し決定しています。
また、全社方針検討会では、計画に基づいた環境保全活動の取組状況を確認・評価するとともに目標の見直しを実施し、その結果を年2回以上の頻度で取締役会へ報告しています。
これらの報告を受けた取締役会では、気候関連のリスク・機会について監督を行い、目標及び進捗のモニタリングを実施しています。
気候関連リスク・機会の評価及び管理については、リスクマネジメント委員会の委員長である代表取締役社長に責任を付与しています。
② 戦略
気候関連のリスク及び機会を特定・評価し、事業に与える影響を把握するため、環境システム事業及び塗装システム事業を対象に、2035年度において、当社グループへの影響度が高いリスクと機会の要因を洗い出し、世界の平均気温上昇が2℃未満に抑制されることを想定した2℃未満シナリオと、4℃程度上昇する4℃シナリオについて、それぞれ政策や市場動向の移行に関する分析と、災害などによる物理的変化に関する分析を実施しました。当社グループは「炭素税」「顧客行動の変化」「省エネ・再エネ技術の普及」を移行の要素、「平均気温の上昇」を物理的な要素と認識し、重要なリスク・機会として特定しました。
ア 4℃シナリオ
政府による低炭素政策も限定的で、低炭素社会への移行は限定的な範囲に留まり、平均気温の上昇によりヒートストレスや自然災害リスクが高まります。これらは当社グループの事業に対し、以下のような影響をもたらすと想定されます。日本国内では炭素税が導入されない想定のため、炭素税導入による資材原価の上昇の影響は限定的です。事業ごとにみると、環境システム事業ではネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)、塗装システム事業では省エネ設計プラントの需要が広がるものの、顧客からの低炭素対応要請による売上への影響も限定的と想定されます。その一方で、平均気温の上昇に伴い、植物工場・空調システムの需要の取り込みや施工現場における熱中症・感染症対策の強化が必要になります。
イ 2℃未満シナリオ
物理リスクの影響は限定的な範囲に留まりますが、各種規制や顧客からの要請など移行リスクへの対応が必要になります。これらは当社グループの事業に対し、以下のような影響をもたらすことが想定されます。政府による低炭素政策の強化により、炭素税負担及び資材原価の上昇の影響がもたらされ、コストの上昇が見込まれます。事業別にみると、環境システム事業では、顧客からの低炭素対応要請が強まり、省エネ規制、新築のZEB義務化等により、既存の空調施工売上は減少する一方で、当該要請等に対応した製品・技術の開発により売上が拡大することが見込まれます。塗装システム事業では、塗装工程の低炭素化への需要が拡大し、低炭素化・省エネ化非対応の既存の製品売上が減少する一方で、これらの対応をした製品・技術の開発により売上が拡大することが見込まれます。
シナリオ分析の結果、当社グループの事業に影響を与える重要な気候関連のリスク及び機会、2035年度時点における財務影響は以下のとおりです。
ⅰ)移行リスク・機会
ⅱ)物理リスク・機会
詳細は当社ウェブサイトにて開示しております。
https://www.taikisha.co.jp/sustainability/taikisha/tcfd/
③ リスク管理
当社グループでは、気候変動を含む重大なリスクの低減と顕在化するリスクの最小化に努めています。
リスクマネジメント委員会においては、当社グループの総合的な観点から、各リスクのリスク度評価、対応すべきリスクの選定、リスク低減に向けた方針等の策定・実行を行っています。同委員会は、代表取締役社長を委員長として、年に2回及び必要時に開催することとし、全社的なリスクマネジメントの基本方針及び責任体制、運営などを定め、周知・徹底を図っています。
気候変動を含む重大なリスクに関しては、各所管部門において項目を抽出し、「経営への影響」や「発生の頻度」を考慮に入れ、大・中・小の3段階で「リスク度(重要度)」を判定しています。その中で戦略や財務上、重要な影響を与える大の項目に関しては、優先的に対応すべきリスクとして選定し、重点管理方針・目標の立案を行った上でリスクマネジメント委員会へ報告します。これを受け、リスクマネジメント委員会では、全社的・統合的な観点から各リスクのリスク度評価及び重点管理方針・目標について討議し、基本方針の策定を行います。その後、各所管部門では活動計画の遂行状況のモニタリングを実施し、結果をリスクマネジメント委員会へ報告します。リスクマネジメント委員長(代表取締役社長)は、全社のリスクマネジメントの状況を取りまとめ、内部統制委員会での討議を経て、年に2回、取締役会への報告を行います。
また、経営全般の重要事項を決定する経営会議では、気候変動のリスクや機会に対する討議をはじめ、気候変動シナリオの見直しや長期戦略への反映を行っています。気候変動リスクを含めた関連の課題に関しては、リスクマネジメント委員会の報告と並行して、取締役会への報告の検討も行います。
④ 指標と目標
ア 気候関連のリスク及び機会の管理・評価に用いる指標
気候関連のリスク及び機会の管理のため、温室効果ガス(GHG)排出量だけでなく、エネルギー消費量や水使用量、廃棄物排出量等の指標を設定して種々の対策を実行しています。
(注) 1 上記GHG排出量につきましては、株式会社サステナビリティ会計事務所による第三者保証を取得しています。
2 2023年度のGHG排出量につきましては、2024年10月発行の統合報告書で開示予定です。
イ 削減目標
当社グループは、気候変動問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、事業活動に伴うCO2排出量を指標とし、SBT認定を視野に、2030年度までに2022年度比でスコープ1・2を42%削減、スコープ3を25%削減する目標を設定しました。今後も当社グループの設計施工による設備の運用段階におけるCO2排出削減に関して積極的に提案活動に取り組むとともに、国内・海外拠点の使用電力の再エネメニューへの切り替えや、オフサイトPPA導入などを通じて脱炭素社会の実現に貢献していきます。なお、これらの情報については、当社ウェブサイトや統合報告書でも開示しております。
https://www.taikisha.co.jp/sustainability/taikisha/tcfd/#anc-04
https://www.taikisha.co.jp/sustainability/report/
(3) 人的資本・多様性に関する取組
当社では、人的資本・多様性に関する経営上の重要課題(マテリアリティ)について「人材確保と人材育成」「働きやすい職場環境の整備」を位置づけ、イノベーションを創出し、競争力を支える優秀な人材の確保・定着・育成を行い、会社の原動力を高め、企業理念である「永続的に成長し、社会に貢献する会社づくり」の実現を目指しております。
中期経営計画(2022年度~2024年度)において、「変革・成長を支える経営基盤の強化」を基本方針の一つに掲げ、断続的に付加価値を創造できる事業構造への転換に向けて、「イノベーションを生み出す組織風土づくり」「社員エンゲージメントの向上」「計画的な人材価値の開発」に取り組んでおります。
なお、本項に記載する方針及び指標については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組が行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、本項は連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。
① 戦略
Ⅰ 育成(人材の育成・確保)
(ア) 人材育成・スキルアップ
エンジニアリング会社である当社の最大の資産は「人」であり、「人材育成」を最も重要な経営課題の一つと位置づけ、プロフェッショナル及びリーダー人材の育成を目指しております。
育成は社員の能力を最大限に発揮できるように、階層(新入社員、若手・中堅・幹部社員)に合わせた研修プログラムを実施しております。具体的には経営知識を高め経営感覚を養う「経営職候補者育成プログラム制度」を設け、新たに高度な専門性を追求する「高度専門人材認定制度」、主体的な自己のキャリア形成を目指す「社内公募制度」を導入し、社員が成長できる機会を提供しております。
また、人材育成の中核として個人の成長とスキルアップを目指す中長期的な「キャリアプラン制度」を導入しております。本制度では全社員が自律的に能力開発に取り組むためのキャリアプランを作成し、定期的な上司との1on1面談を通じて、目標達成に向けた必要なスキルや能力の向上と可視化を進めております。
(イ) 日本国内組織のグローバル教育
日本国内組織向けに運用されている経営職候補者育成プログラムを海外現地法人向けに展開させる形で、将来の海外組織の経営幹部育成を目指し、外国籍社員とともに日本国内組織の上位職層を対象とした育成を推進しております。
2024年度から海外経営候補者の早期育成を目的とし「海外トレーニー制度」を導入し、年間3~5名程度、若手社員(20~30歳代前半を目安)を対象として、様々な海外現地法人に約1年間派遣し、実務経験と海外生活を通じてグローバルな社会に通用する人材の育成に努めてまいります。
Ⅱ エンゲージメント(人材の育成・確保)(社内環境整備)
当社の最大の資産である「人」の潜在能力を引き出し、成長できる仕組みづくりの一環としてエンゲージメント調査を実施しており、管理職が集団分析結果から自組織の現状を把握し、職場環境の改善に役立てております。今後はより様々な視点からエンゲージメントを測る「パルスサーベイ」を短期間のPDCAサイクルで実施し、職場環境のより一層の改善や人事施策等の効果検証を行ってまいります。
また、心理的安全性に関する研修を行い、コミュニケーションや相互理解といった社員間の関係性の質を高めることで、エンゲージメントの向上につなげてまいります。
(ア) ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントを「①仕事に対して好奇心・ワクワク感を持ち、②果敢に挑戦している状態」とし、これらを高めることで、新たな価値を断続的に生み出す職場環境を目指しております。
(イ) エンプロイーエンゲージメント
エンプロイーエンゲージメントを「組織へ愛着があり、信頼関係が構築されている状態」とし、これを高めることで経営層と社員がともに成長を実感できる職場環境を目指しております。
Ⅲ 流動性(人材の育成・確保)(社内環境整備)
(ア) 採用・維持
採用市場の状況を踏まえたうえで、人事部と事業部による社員年齢構成の将来予測と長期的な事業計画に基づいた採用計画を作成し、積極的な採用活動を行っています。一方、人材の流出を抑制するため当社離職者の就業環境や離職理由を把握・分析し、社内環境の整備等の施策に取り組んでおります。また、日本への留学生を中心とした新卒・キャリア採用に加え、海外拠点から日本への出向・短期派遣等の人的交流を行い、日本国内組織のグローバル化への対応強化を進めております。
(イ) 高年齢者の就業機会確保
高年齢者の就業機会確保の施策として、2022年度に60歳定年後再雇用制度を廃止し、定年年齢を65歳とし、社員自身が60歳から65歳の間で退職年齢を決定できる選択定年制を導入しました。2024年度は会社が求める人材要件に合致する社員について、職種限定社員として最長70歳まで雇用する制度を導入します。
これにより、高年齢者の就業意欲を向上させ、恒常的な人員不足の解消と次世代への高年齢者の技術継承につなげてまいります。
Ⅳ ダイバーシティ(人材の育成・確保)(社内環境整備)
(ア) ダイバーシティ&インクルージョンの推進
当社は2016年4月に「ダイバーシティマネジメント推進のための基本方針ならびに活動方針」を策定し、年齢、性別、人種、国籍、宗教、障害の有無等にかかわりなく、様々な価値観や考え方を有した人材が最大限に能力を発揮できる職場環境に整え、企業価値の向上に結び付く施策に取り組んでおります。
2023年4月にはダイバーシティアンドインクルージョン推進課を新設し、「ダイバーシティ&インクルージョンが根付く企業文化・組織風土の醸成」「多様な人材の確保と個性の尊重・発揮」「自分らしくいきいきと働ける環境づくり」を柱として活動計画を立て、段階的に実施してまいりました。
(イ) ワークライフバランスの支援
仕事と家庭の両立支援に向けた様々な施策に断続的に取り組み、働きやすい職場環境の整備を進めております。育児・介護においては、一部法律を上回る制度を取り入れ、社員が有効活用できるように社内報や社内アンケート等を通して啓発活動を進めております。
(ウ) 女性活躍推進
当社では女性活躍推進法に基づく行動計画において、管理職に占める女性管理職の割合を2024年度末までに3%以上とする目標を掲げておりますが、2023年度は3.2%となり、前倒しで目標を達成いたしました。
今後は、新卒・キャリア採用の女性社員数を増加させることで、女性社員構成比率を高め、また、仕事と家庭の両立支援制度を浸透させることで、女性の働きやすさと意欲向上を図り、次期管理職候補の育成を進めてまいります。組織の中にある無意識の性別役割意識の影響を最小限にするために、理解を高めるアンコンシャスバイアス研修等を実施してまいります。
(エ) 障害者雇用推進
当社では国内主要事業所での雇用に加え、指定障害者福祉サービス事業所と連携しリモート雇用に取り組んでおります。勤務場所を事業所内に限らないことで社員が安心して働くことが出来る環境づくりを実現し、合理的配慮を実施しております。
(オ) 海外事業における人的資本の強化
①グローバル体制
当社は1954年に初めて海外プロジェクトを手掛けて以来、現在に至るまで積極的に海外展開を進めております。当連結会計年度末現在、19の国と地域に28社の海外連結子会社を有し、社員数は、連結ベースで5,031人、単体ベースで1,654人となっており、海外では多くのナショナルスタッフが活躍しております。
②海外現地法人の経営体制のグローバル化と社員の能力向上
当社では昨今のグローバル化の流れに沿って、現地雇用社員の技術力・経営力の強化を図り、営業活動から設計・調達・工事活動をはじめ、顧客サービスに至る一連の対応を現地で完結できる一貫体制の実現を目指しております。同時に、経営体制の現地化への移行を進めており、2021年に米国、2024年4月にインドネシアの現地法人社長に現地雇用社員を任命しております。
今後も経営職を担う後継者候補の育成を目的とし、計画的・継続的な教育を実施し、その国の事業環境に合致する資質・能力を含む適性を見極めながら積極的に登用を進めてまいります。また、各国の慣習や特性を勘案しつつ、個々の社員の目標管理を実効性のあるものとし、社員の業務能力・意欲の向上を図り、当社グループへの帰属意識を高めてまいります。
Ⅴ 健康・安全(社内環境整備)
(ア) 社員の健康
社員は会社の成長を支える人材として重要な経営資源の一つであることから、社員の心身の健康維持・増進を重要な経営課題の一つと位置づけ、2020年に「健康経営宣言」を発表し、2021年度から4年連続で「健康経営優良法人ホワイト500」を取得しております。
代表取締役社長を健康管理責任者とする社員の健康推進体制を構築し、社員の健全な心と体の維持・増進のため、生活習慣や健康意識の改善施策を計画・実行し、評価・改善を行っております。
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https://www.taikisha.co.jp/sustainability/society/health-management/#anc-02
・健康戦略① 長時間労働の低減
2024年度の時間外労働の上限規制順守と社員のワークライフバランス向上のため、経営企画本部長を議長とする「長時間労働対策会議」において、労使が一体となり長時間労働の現状把握と意見交換及び各部門での支援策の報告を行っております。2023年度は間接部門の社員への分業の推進、現場のデジタルツール採用による効率化、社員の業務量の可視化による標準化の推進等、現場業務に従事する社員の業務量軽減対策を検討し、実施しました。
・健康戦略② 生活習慣の改善
社員の健全な心と体の健康維持・増進を図るため、社員それぞれが健康管理の目標を定めて自身の体の状態に関心を持ち、運動習慣の定着や食生活の改善といった健康的な生活習慣の確立を目指した活動を推進しております。
また、当社全体の施策としてウォーキングイベント・禁煙支援・禁煙タイムの設定、健康に関するeラーニング等を実施しております。定例化したウォーキングイベントが評価され、スポーツ庁より「スポーツエールカンパニー2024」の認定を受けております。
・健康戦略③ ヘルスリテラシーの向上
健康セミナーやeラーニングを通じて、健康情報の理解、適切に行動する力を向上させ、心身の不調や病気の予防に努めております。セミナーの動画や資料はいつでも視聴できるよう、社内イントラネットに掲載しております。
・健康戦略④ メンタルヘルスの向上
メンタル不調に陥ると正常な業務遂行が困難となり、仕事・私生活にも大きな影響を与えると考えられております。そうした不調の兆しがある社員を早急に見極め、就労環境や人間関係を是正していくことが求められております。当社では、その対策として産業医・産業保健師と連携しながら社員に対して支援を行っております。また、産業医・衛生管理者の職場巡視以外にも産業保健師による建設現場を中心とした職場巡視を実施しており、メンタル不調者の早期発見・早期対応に向けて取り組んでおります。
2023年度は特定大型現場の管理職層を対象としてラインケア研修を実施し、心身の不調の早期発見のための知識の習得を図りました。今後も研修等を通してメンタルヘルス向上の取組を全社的に展開してまいります。
(イ) 職場の安全
建設業界における「安全第一主義に徹した計画・施工」を実践するため、労働安全衛生法に則った教育に加え、当社で発生した過去の労働災害の事例を基に動画を作成し、安全教育に活用し、海外拠点に対しても展開しております。また、VRによる危険体感を交えた安全研修を実施し、テクノロジーの活用も進めております。
今後は、大型現場の巡視強化による管理体制の評価・改善の実施、社内ルール順守状況のモニタリング強化、階層別の安全研修を実施することで、当社グループの安全管理技術の向上を目指してまいります。
※1 労働災害の発生状況を評価する指標で、100万延べ実労働時間当たりの労働災害による死傷者数で労働災害の頻度を表したものです。統計をとった期間中に発生した労働災害のうち、4日以上の休業災害による死傷者数を同じ期間中の全労働者延べ実労働時間数で割り、それに100万を掛けた数値です。
※2 1,000延べ実労働時間当たりに起こった労働災害により、どの程度の損失が発生したかの程度を表したものです。統計をとった期間中に発生した労働災害による延べ労働損失日数(労働災害により労働不能となった日数)を同じ期間中の全労働者の延べ実労働時間数で割り、それに1,000を掛けた数値です。
Ⅵ 労働慣行(人材の育成・確保)(社内環境整備)
(ア) 人権
当社は、グローバルに事業を展開する企業として、人権尊重を最も重要な事項の一つとして認識しております。当社グループの事業活動における人権に関する規範として「大気社グループ人権方針」を定め、「大気社行動規範」においても基本的人権を尊重し、差別的取り扱いやハラスメントなどの個人の尊厳を損なう行為は行わないことを規定しております。
また、「世界人権宣言」や「労働における基本原則及び権利に関する国際労働機関(ILO)宣言」など国際的に認められた人権を尊重するとともに、国連が示した「ビジネスと人権に関する指導原則」や「国連グローバル・コンパクト」の10原則を支持しております。
今後も国際規範や人権方針などに基づき、お客さまやお取引先を含めたステークホルダーの皆さまとも連携しながら、人権尊重に向けた具体的な取組を推進してまいります。
(イ) 組合との関係
当社では労働組合が結成されていないため、法的に求められる労使協議において「組織風土改善委員会」が社員の過半数を代表する組織として存在し、「組織風土改善委員長」が労働者代表としての役割を担っております。
組織風土改善委員会は全社員が「労使一体の精神」を基本方針とし、働きがいを感じられる組織風土を作ることを目的として発足しました。発足以来、労使が双方の立場から職場環境の改善・働きがいの向上のための活動に取り組み、社員の意見が積極的に取り入れられる組織風土の醸成に資する組織体となっております。当社は社員の意見が起点となる活動が活発に行われることを奨励し、一定の予算を付けながら活動支援を行っております。
(ウ) 福利厚生
当社では「魅力ある会社づくり」の一環として、2019年10月よりGLTD(団体長期障害所得補償保険)制度を導入し、就労不能時のセーフティネットとして、所得補償が受けられるようになっております。万一、病気やケガ・介護で長期間休職するような状況となった際に社員とそのご家族を守る制度となります。経済的な心配や不安を小さくし、安心して治療や療養・介護に専念でき、早期の就労復帰が目指せる環境の整備と介護休業期間の長期化による介護離職リスクの抑制を目的としております。定年延長に伴い、2023年4月より補償対象期間を65歳まで拡大しております。
Ⅶ コンプライアンス(人材の育成・確保)(社内環境整備)
(ア) コンプライアンス・倫理
社員のコンプライアンス意識の醸成と知識の定着を図るため、コンプライアンス教育を実施しております。全社員を対象とするeラーニングで入札談合防止、工事原価の不正処理防止、ハラスメント防止等、当社の社員として理解しておくべき事項を取り上げるほか、職種別や新入社員を対象とした研修を実施しております。毎年10月に実施するコンプライアンス推進月間では、全社員を対象としたコンプライアンス・マニュアルの読み合わせと誓約書の提出を実施しております。
また、コンプライアンス違反行為の早期発見と是正を図るために内部通報制度を整備し、当該制度の実効性を高めるための教育、社員の意識調査等を通じて、社員が安心して声を上げられる組織風土づくりに努めております。
② 指標及び目標
上記「①戦略」で記載した「人材の育成・確保」と「社内環境整備」における方針の指標に関する2023年度実績と2024年度KPIは次のとおりとなります。
※1 当社実施のエンゲージメントサーベイの該当項目の因子に対する肯定的な回答の割合をもとに算出しております。
※2 病気やケガがないときの出来栄えを100%としたとき過去4週間の自身の評価となります。
※3 「男女間賃金格差」「男性労働者の育休取得率」は「第1企業の概況5従業員の状況」に記載しております。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループの事業においては、受注環境の変化が、売上、利益に大きく影響を与える可能性があります。環境システム事業では、海外における日系企業の投資の減少、塗装システム事業では、国内自動車メーカーの国内生産縮小の継続や世界的な自動車販売の低迷による設備投資の減少により、受注工事高が減少し、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、自動車メーカー各社のカーボンニュートラル実現に向けた生産設備の変化への対応が遅れると、顧客離れを招き、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し環境システム事業では、海外において、現地系企業への営業体制の強化、国内営業と連携した日系メーカーへの受注活動の推進を行ってまいります。また、塗装システム事業では、カーボンニュートラル実現に向けた顧客の生産設備に変化をもたらす当社の技術開発を加速するとともに、自動化技術を軸に、従来からの四輪・二輪車市場に加え、他の産業への参入を推し進め、オートメーション事業の拡大を目指してまいります。
当社グループが事業を展開する地域において、地震、津波、風水害等の自然災害や、感染症等の世界的流行が発生したことで損失が発生し、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。なお、大規模・広域な自然災害の発生にあっては、当社グループの直接的な物的・人的被害のみならず、顧客の事業活動、ひいては経済情勢にまで影響が及び、その影響が長期化することによって、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し国内外の不測の災害や事故、事件などの発生に備え、危機管理の基本方針を定め、危機管理体制を構築しています。危機が発生した場合、人命や事業継続に対する影響度に応じて対応レベルを3段階に区分し、それぞれのレベルに対応した危機対策を実施することを定めています。
海外各地において展開している事業については、予期しない法規制の改正、政情不安等が業績に影響を及ぼす可能性があります。外貨建工事契約に係る請負代金の入金及び発注代金の支払いについて為替変動による損失発生の可能性があります。さらに、連結財務諸表作成にあたっては海外関係会社の財務諸表を換算するため、為替相場の変動により当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、客先の倒産による債権の貸し倒れ、事前に想定できなかった問題の発生やこれらのリスクに対処できないことなどにより、海外関係会社の事業計画が達成できず業績が悪化し、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し海外進出先の政治・経済や法令の動向について情報収集を行い、カントリーリスク・海外の法規制リスクの抑制に努めます。外貨建工事契約に係る請負代金の入金及び発注代金の支払いから発生する為替リスクについては、先物為替予約等のヘッジを実施し、債権の未回収リスクについては、受注前審査による与信管理を強化するなど、可能な限りリスクの回避をしております。また、引き続き海外関係会社のガバナンス体制の高度化を進めてまいります。
カーボンニュートラル、省エネルギー、環境対策の改善・向上、オートメーション化等、顧客からの高まるニーズに対応したシステムの開発が遅れた場合、他社との技術的な差別化が図れず、受注機会損失や顧客からの信頼度や企業評価の低下などにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し、カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素ビジネスへの取組としての環境負荷低減技術、当社の強みとなる技術である自動化技術の開発・実証を進め、社会的課題の解決を目指してまいります。そのために、技術開発センターや新宿本社のR&Dサテライト施設「TAIKISHA INNOVATION GATE Shinjuku」を活用し、コミュニケーションの幅を広げ、社内外のソリューションの融合やイノベーションの発掘につなげていくとともに、デジタル技術を活用し、当社グループの横断的な活動の強化や学術機関・スタートアップ企業との融合による革新的技術開発の推進により、社会のニーズを先取りしたテーマに取り組んでまいります。
当社グループの事業分野である、建設業・設備工事業は、人材に大きく依存しております。国内においては、高齢化の進展や技術者育成の遅れにより、スキル・経験を有する技術者・技能者の数や質の低下が懸念されることに加えて、2024年4月から建設業においても時間外労働の上限規制が適用されたことに伴い、技術社員の総労働時間が減少し、中長期計画を達成するための設計・施工体制が構築できない場合、業績への影響が発生する可能性があります。また、海外においても、現地従業員の育成の遅れや離職により、現地化推進を担う中核人材が確保できず、長期的な海外事業展開に影響が発生する可能性があります。
これに対し協力会社との連携を強化するとともに、従前より行っているモジュール化の更なる推進や現場業務のフロントローディングの推進による現場作業の省力化と業務負荷平準化を進めてまいります。社内においては、研修を通じた基礎技術力の向上と現場における実践教育により、社員の技術力アップを図り、人材の育成を進めてまいります。また、デジタル技術を活用し、生産性を高めることにより、働き方改革を進め、魅力ある職場づくりを行い、人材確保に努めます。
また、海外においても、グローバル人事制度の導入により、中核人材の確保と育成に努め、現地化を進めてまいります。
なお、社員の健全な心と体の維持・増進のため、2020年に「健康経営宣言」を発表し、代表取締役社長を健康管理責任者とした健康経営推進体制を明示し、様々な社員の健康施策の立案・実施とともに、その施策効果の検証と継続的な改善を行ってまいります。
当社グループの事業分野は、建設業法、独占禁止法、労働基準法をはじめ、多くの法的規制を受けており、当社グループ役員または従業員が法令に違反する行為を行った場合には、当社グループの事業活動が制限され、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し法令順守の維持・意識の向上を図るため、eラーニングなどによるコンプライアンス教育プログラムの継続的な実施とフォローを行い、また、コンプライアンス意識調査を実施し、コンプライアンス活動の有効性の検証と改善プロセスへの反映により、ルール違反を起こさない風土・仕組みづくりを行っていきます。
施工プロセスにおける重大事故、致命的な品質不具合等の契約不適合が発生した場合、社会的信用の失墜、及び業績面の影響が発生する可能性があります。請負工事については、顧客との間の工事請負契約に基づき、竣工後一定期間、契約不適合責任を負っており、この契約不適合責任に伴って発生する費用について、過去の実績に基づき完成工事補償引当金を計上しておりますが、当該費用が引当金残高を上回って発生することで、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループは、安全関係のICTやDX化の推進や工場加工品採用による現場施工リスクの低減、協力会社への作業詳細手順図の指導・確認など、社員及びサプライヤーの安全意識・レベルの向上を図り、安全管理体制の強化に努め、建設現場における安全衛生管理に万全の対策を講じています。また、施工管理システムの見直しや施工管理のデジタル化、品質に関する情報共有、不具合の未然防止策の検討などを行う全社委員会を設置し、全社ベースで技術品質の確保をするための体制と活動を強化しております。
燃料高騰などの影響による建設資材の調達価格の高騰や少子高齢化・担い手不足により労務単価が高騰し、これを請負金額に反映させることが困難な場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し受注時の地域別適正原価の把握や、契約における物価変動リスクのヘッジなどを通じ、資材価格及び労務単価の変動リスクの抑制に努めております。
年々、高度化、多様化、巧妙化するサイバー攻撃や、従業員の不正による故意のデータ持出し等により、個人情報や顧客情報等の機密情報が漏洩した場合、信用の失墜や損害賠償などにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し当社グループのITセキュリティ診断結果を基にリスク軽減施策のロードマップを策定し、グループ各社にて対策実施を予定しております。また当社ではITインシデント発生時の対応体制(大気社版CSIRT)を構築し、全社員を対象としたITセキュリティのeラーニングや標的型攻撃メール訓練など社員教育を進め、機密情報の外部への流出防止に努めております。
今後、脱炭素社会へ移行していく中で、政策、法律、技術、市場が変化し、企業の財務やレピュテーションに様々な影響を及ぼす可能性があります。当社グループにおいても、顧客の気候変動対応の動きにうまく適応できないことによる顧客離れ、カーボンニュートラル対応技術開発の遅れによる競争力の低下、炭素税導入によるコスト増加、また、平均気温上昇による労働生産性の低下や猛暑日の増加による施工中止など、これらの移行・物理リスクが当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対し、設備の小型化、省エネ化など低炭素な施工技術・システムの開発、工場のZEB化など省エネ設備の施工拡大、施工における機械化・自動化の推進などに取り組んでまいります。
当社グループの事業活動により人権への負の影響を引き起こした場合、もしくはそれを助長するような事態が生じた場合には、是正や救済の対応に関する追加的な費用の発生、社会的信用の低下を起因とした事業活動の停滞などにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、グローバルに事業を展開する企業として人権尊重を最も重要な事項の一つとして認識しており、当社グループの事業活動における人権に関する規範として「大気社グループ人権方針」を定めています。同方針のもと、ガバナンスの順守、サプライチェーン全体を対象とした人権デュー・ディリジェンスの実施、役員・社員に対する教育・啓発活動など、人権尊重に向けた取組を推進し、人権リスクの低減や防止に努めてまいります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、これらの会計基準に基づき、決算日における資産・負債及び収益・費用の数値に影響を与える見積りが行なわれているものがあります。
会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」をご参照ください。
なお、これらの見積りにつきましては、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は異なる場合があります。
当期における世界経済は、東欧や中東などの地政学的なリスクの増大やインフレの進行等により、不安定な状態が続きました。米国では、インフレの長期化や金利水準の高止まりなどを背景に、景気後退の懸念があるものの、個人消費や雇用環境は良好を維持し、景気は堅調に推移しました。中国では、不動産市場を始めとした内外需要の低迷により景気は減速して推移しました。東南アジアでは、雇用環境の改善や公共投資などによる内需の回復があるものの、海外経済の減速により、成長ペースが鈍化しました。日本経済は、雇用・所得環境が改善することにより経済正常化が進んだものの、海外における金融政策や地政学リスクなどにより先行き不透明な状況が続いております。
当社グループにおける市場環境につきましては、海外市場では世界経済の減速懸念はあるものの、各メーカーによる設備投資は堅調に推移しました。
一方、国内市場では半導体関連や自動車メーカーによる投資が継続しており、都市圏における再開発の需要も堅調に推移しました。
このような状況のもと、当社グループは中長期的な成長を目指し、以下の取組を推進しております。
1つ目は、中期経営計画で掲げる『強みとなる技術の水平展開』における取組として、画像認識技術を活用し、人の動きに追従して冷風を吹く吹出口システム「FOLLOAS」を開発しました。同システムは作業者の快適性の向上に加え、全体の給気量の低減による省エネ・CO2削減効果も期待できます。
工場では従来、固定式吹出口による個別空調が採用されていましたが、固定式では作業者の移動範囲をすべてカバーすることはできず、夏期の工場業務が厳しいものとなる場合もありました。
当社では近年、ICTを活用した技術開発を進めており、特に画像認識技術の既存技術への応用に注力しています。こうした中、当社が長年培ってきた空調制御技術と画像認識技術を組み合わせることで、よりパーソナルな空調の実現に向けて、対象者に追従して給気方向が変わる本製品を開発しました。
現在、作業環境の改善や暑熱対策、さらには工場全体の省エネを検討している顧客に対し、すでに導入提案を進めています。また、複数の工場において試験的導入や耐久性検証を行っており、それらを踏まえて量産化に着手しました。
2つ目は、塗装システム事業の掲げる『グローバルな社会課題を意識した開発』における取組として、2023年6月にアメリカ・デトロイトで開催された、塗装業界で最も権威のある国際カンファレンスの一つである自動車塗装技術国際会議「第6回SURCAR2023 in Detroit」にて、当社グループ企業であるTKS Industrial Company(現 Taikisha USA, Inc.)が、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社と共同でドライ加飾に関する発表をいたしました。その結果として、審査員投票で最も評価された発表に贈られるJury’s Awardを受賞しました。ドライ加飾は、被塗物の大きさの制限や、複雑な形状物への貼合が課題となっていましたが、今回の発表では、高さ700mm以上の曲率の大きい一体型バンパーにも、フィルム延伸率を100%以下に制御することで、シワなく色味の変化を抑えたドライ加飾を実現した点が高く評価されました。
ドライ加飾プロセスの確立に向けて、2024年秋には自社研究施設内に量産ラインを想定したドライ加飾システムのデモラインの構築を計画しています。
今後も、自動車外装の付加価値提供技術となるドライ加飾の技術開発を通し、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
このような状況のもと、当期における受注工事高は、前期に大型案件の受注があったことによる反動減等により、国内・海外ともに減少し、2,635億49百万円(前期比8.7%減少)となり、うち海外の受注工事高は、1,151億42百万円(前期比15.3%減少)となりました。
完成工事高は、国内・海外ともに増加し、2,935億56百万円(前期比36.7%増加)となり、うち海外の完成工事高は、1,377億92百万円(前期比71.0%増加)となりました。
利益面につきましては、完成工事総利益は433億12百万円(前期比102億40百万円増加)、営業利益は182億70百万円(前期比67億14百万円増加)、経常利益は198億52百万円(前期比68億50百万円増加)、親会社株主に帰属する当期純利益は156億2百万円(前期比76億85百万円増加)となりました。
セグメントごとの業績(セグメント間の内部取引高を含む)は次のとおりであります。
環境システム事業
受注工事高は、産業空調分野で前期に大型案件の受注があったことによる反動減等により、国内や中国、台湾などで減少し、前期を下回りました。完成工事高は、国内や台湾などで増加したことにより、前期を上回りました。
この結果、受注工事高は、1,719億2百万円(前期比17.4%減少)となりました。このうちビル空調分野は、362億5百万円(前期比0.0%増加)、産業空調分野は、1,356億97百万円(前期比21.1%減少)となりました。完成工事高は、2,165億35百万円(前期比26.0%増加)となりました。このうちビル空調分野は、407億56百万円(前期比10.1%減少)、産業空調分野は、1,757億78百万円(前期比38.9%増加)となりました。セグメント利益(経常利益)につきましては、170億27百万円(前期比24億28百万円増加)となりました。
塗装システム事業
受注工事高は、北米などで増加し、前期を上回りました。完成工事高は、北米や韓国などで増加し、前期を上回りました。
この結果、受注工事高は、916億46百万円(前期比13.7%増加)となりました。完成工事高は、770億41百万円(前期比79.3%増加)となりました。セグメント利益(経常利益)につきましては、28億4百万円(前期はセグメント損失16億6百万円)となりました。
セグメントごとの受注工事高・完成工事高(セグメント間の内部取引高を含む)
当社グループが営んでいる事業の大部分を占める設備工事業では生産実績を定義することが困難であり、設備工事業においては請負形態をとっているため販売実績という定義は実態にそぐいません。
よって、受注及び売上の状況については「セグメントごとの業績」において報告セグメントの種類に関連付けて記載しております。
なお、参考のため提出会社個別の事業の状況は次のとおりであります。
設備工事業における受注工事高及び完成工事高の状況
① 受注工事高、完成工事高及び次期繰越工事高
(注) 1 前事業年度以前に受注した工事で、契約の変更により請負金額の増減がある場合は、当期受注工事高にその増減額を含んでおります。したがって、当期完成工事高にもかかる増減額が含まれております。
2 次期繰越工事高は(前期繰越工事高+当期受注工事高-当期完成工事高)であります。
3 当期受注工事高のうち海外工事の割合は、前事業年度は4.5%、当事業年度は3.9%であります。
4 前事業年度及び当事業年度における海外受注工事高はそれぞれ当期受注工事高の10%を超えていないため、主要な海外受注工事についての記載を省略しております。
② 受注工事高の受注方法別比率
工事の受注方法は、特命と競争に大別されます。
(注) 百分比は請負金額比であります。
③ 完成工事高
(注) 1 海外工事の地域別割合は、次のとおりであります。
2 完成工事のうち主なものは、次のとおりであります。
前事業年度 請負金額25億円以上の主なもの
当事業年度 請負金額50億円以上の主なもの
3 完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の完成工事高及びその割合は、次のとおりであります。
前事業年度
当事業年度
④ 手持工事高 (2024年3月31日現在)
(注) 手持工事のうち請負金額55億円以上の主なものは、次のとおりであります。
当期末の流動資産は前期末に比べ10.2%増加し、2,033億74百万円となりました。これは、有価証券が90億円、現金預金が84億74百万円それぞれ増加したことなどによります。
当期末の固定資産は前期末に比べ19.9%増加し、631億19百万円となりました。これは、投資有価証券が43億92百万円、退職給付に係る資産が29億86百万円それぞれ増加したことなどによります。
この結果、当期末の資産合計は前期末に比べ12.4%増加し、2,664億94百万円となりました。
セグメントごとの資産は次のとおりであります。
(環境システム事業)
当連結会計年度末の流動資産は前期末に比べ9.6%減少し、1,057億59百万円となりました。これは受取手形・完成工事未収入金等が85億14百万円、現金預金が28億86百万円それぞれ減少したことなどによります。
当連結会計年度末の固定資産は前期末に比べ30.2%増加し、372億67百万円となりました。これは有形固定資産「その他」に含まれる建設仮勘定が26億84百万円、投資有価証券が56億91百万円それぞれ増加したことなどによります。
その結果、当連結会計年度末の資産合計は前期末に比べ1.7%減少し、1,430億27百万円となりました。
(塗装システム事業)
当連結会計年度末の流動資産は前期末に比べ58.4%増加し、588億26百万円となりました。これは受取手形・完成工事未収入金等が165億32百万円、現金預金が42億81百万円それぞれ増加したことなどによります。
当連結会計年度末の固定資産は前期末に比べ12.4%減少し、106億48百万円となりました。これは投資有価証券が12億99百万円減少したことなどによります。
その結果、当連結会計年度末の資産合計は前期末に比べ40.9%増加し、694億74百万円となりました。
当期末の流動負債は前期末に比べ7.9%増加し、1,035億4百万円となりました。これは、支払手形・工事未払金等が93億95百万円、未払法人税等が26億99百万円それぞれ増加し、未成工事受入金が94億7百万円減少したことなどによります。
当期末の固定負債は前期末に比べ24.6%増加し、114億27百万円となりました。これは、繰延税金負債が20億19百万円増加したことなどによります。
この結果、当期末の負債合計は前期末に比べ9.3%増加し、1,149億32百万円となりました。
当期末の純資産合計は前期末に比べ14.8%増加し、1,515億62百万円となりました。これは、利益剰余金が115億72百万円、その他有価証券評価差額金が38億37百万円、為替換算調整勘定が29億77百万円それぞれ増加し、自己株式の取得及び処分により18億10百万円減少したことなどによります。
当期末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前期末に比べ193億19百万円増加し、632億65百万円(前期末は439億46百万円)となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、未成工事受入金の減少などにより減少したものの、税金等調整前当期純利益の計上や仕入債務の増加などにより、207億38百万円の資金増加(前期は48億6百万円の資金増加)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、定期預金の預入による支出や有形及び無形固定資産の取得による支出などにより減少したものの、定期預金の払戻による収入や投資有価証券の売却による収入などにより、21億48百万円の資金増加(前期は17億48百万円の資金減少)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額や自己株式の純増減額、非支配株主への配当金の支払額などにより、55億45百万円の資金減少(前期は98億22百万円の資金減少)となりました。
設備工事等のための材料費、労務費、外注費、経費、販売費及び一般管理費等の営業費用並びに業務改革、技術開発、情報化投資、海外拠点の拡充など当社グループの市場競争力強化のための投資等に資金を充当しております。
主として営業活動により稼得した資金のほか、金融機関等からの借り入れにより、必要資金を調達しております。また、運転資金の効率的な調達を行うため、主要取引銀行と貸出コミットメント契約を締結しております。
連結財務諸表を作成するにあたり、在外連結子会社の財務諸表を換算しているため、為替相場の変動により、総資産、キャッシュ・フロー、完成工事高及び経常利益に影響を受けております。主に米ドル、タイバーツ、中国元及びインドルピーの為替の変動が大きく影響しております。
主な在外連結子会社における完成工事高及び経常利益に与える為替変動による影響
(注) *1 子会社3社を含んだ連結数値
*2 子会社5社を含んだ連結数値
*3 換算レートは第78期及び第79期における期中平均レート
特記事項はありません。
当連結会計年度における研究開発費は
当社は、技術開発センター(神奈川県)、テクニカルセンター(神奈川県)の2研究開発組織において、空調設備及び塗装設備の各分野における技術開発を前期に引き続き精力的に実施し、多くの成果を得ました。
セグメントごとの研究開発は以下のとおりであります。
当連結会計年度における研究開発費の金額は
① TAIKISHA INNOVATION GATE Shinjuku開設
当社では「技術の大気社の強化」のため、顧客との接点の増加、課題の把握、開発促進などを目指し、本社の一部に技術開発センター直結のサテライト設備「TAIKISHA INNOVATION GATE Shinjuku(以下TIGS)」を開設いたしました。交通の便の良い新宿に設けることで、新規顧客や、既存顧客の新規部門の方への開発技術を含めた技術紹介を通じ、顧客ニーズの把握と技術開発へ展開、及び顧客との協創による新たな関係構築を目指し活動を開始いたしました。
当連結会計年度は、TIGSと技術開発センター、顧客事業所訪問での開発技術の紹介など、顧客との新たな関係構築へ向けての活動を強化し、延べ90件の技術提案を実施し、10件の顧客との協創(技術導入、評価、フィールドテストなど)に繋げました。今後もこの活動をさらに活発化させ、カーボンニュートラルや快適で安全な環境構築など社会が求める課題への対応を実施いたします。
② CO2分離回収
当社では、カーボンニュートラル(以下C/N)への取組として、自然エネルギー活用や省エネルギーでは対応しきれない部分の対策としてCO2吸脱着技術の開発に取り組んでおります。
当連結会計年度は、昨年来より実施していた回収したCO2利活用に加え、同技術の空調設備への展開を検討いたしました。これにより、近年の外気CO2濃度の高まりに対して既存建物では容易に換気量を増加させることが難しいことへの対応や、外気量削減による省エネ効果が期待できると考えております。また、回収時のエネルギー消費によるCO2発生量を回収量より少なくし、回収したCO2を利活用することで、室内環境を維持しながら、C/Nが実現可能となります。その実現を目指し、システム効率、エネルギー評価などを行いました。同時に検証結果をもとに、CO2吸着剤へ求められる性能を明確化し、その開発技術を持つ企業と共同で吸着剤の改良及び性能評価を実施いたしました。性能面での評価を終了し、次ステップでは、吸脱着装置の構築、フィールド試験などを行い、装置としての提供や、回収したCO2の新たな活用先の開拓を実施してまいります。
③ 除菌装置
当社では、COVID-19や将来の新たなパンデミックに備え、快適で安全な空間の提供を目指し、空調用除菌装置(エアライザー)の開発を行いました。
当連結会計年度は、空調設備に付加する除菌装置の開発を実施いたしました。近年、深紫外線(UVC)LED開発が進みその効率も向上し、コストの低下も進みました。同時に光触媒技術も進化しておりこれらを活用することで高機能、高性能の空調用除菌装置を開発いたしました。
テナントビル等で多く利用されている空冷パッケージエアコンのフィルターセクションを、除菌機能を合わせ持つエアライザーに置き換えることにより、ウィルス、菌やカビを不活化させ、安全な空気の提供が可能となります。また、当装置は、紫外線と光触媒の利用により空気中の揮発性有機化合物、臭気の分解機能も有しております。これらの安全な空間を作る機能と、当社の従来からの快適な環境を構築する技術を組み合わせて、全ての働く人へ安全で快適な環境を提供することを目指します。
④ DXの活用(現場巡回ロボット、試運転支援)
当社では、DXを活用した働き方改革へ向けた取組として、ロボットによる現場巡回技術の開発を行っております。以前より取り組んでいるロボット制御技術に加え、施工時の活用にフォーカスした現場巡回、現場画像の取得、活用にも取り組んでおります。
当連結会計年度は、当社技術開発センター新研究棟工事の際に、4足ロボットに360度カメラを搭載し工事現場内を巡回させ記録を行い、位置情報と画像の紐づけや画像の活用方法について検証を実施いたしました。また、日々工事現場特有の状況変化があり、非GPS環境の中で、正確な位置情報の取得方法などについて検証をいたしました。
取得位置情報の精度などには課題がありますが、位置情報に紐づけされた日々の記録画像を活用することで、施工進捗管理などへ活用が可能になります。同時に、外部事務所からインターネットを経由した巡回ロボットの操作や画像送信なども併せて行い、遠隔事務所から制御する際の課題や必要機能などの把握も完了いたしました。
今後はこれらの取得情報をBIM(Building Information Modeling)と連携することで、記録画像をもとにした工程管理手法などの開発、検証を計画しています。今まで人が主体で行ってきた作業を、ロボットへ置き換えることで、作業効率改善を通じた働き方改革の実現を目指します。
また、製薬医薬向けバリデーション技術の一つである、フィルターリーク試験システム(バリデーション・エース(以下VA-m))の電子デバイス工場への展開と検証を実施いたしました。
クリーンルームを施工時に、その品質検証として、最終フィルター(HEPAやULPAフィルター)のリークがないことを検証します。これまでは、計測器から出力させる試験結果を紙で管理し、試験結果報告書へ作業員が転記しておりました。VA-mの改良版を利用することで、計測から試験結果のまとめまでを一括で処理をすることが可能となり、これらにかかる手間の大きな削減をすることが可能となりました。
さらに、フィルターリーク試験では手順に従って作業員が主導で吸い込みプローブを走査させていましたが、これらを自動化する装置の開発に着手いたしました。協力業者様と共同で実現場での検証を実施し、課題や開発の方向性などの把握いたしました。現在のところデーター処理部分の自動化まで到達いたしました。今後はフィルターリーク試験全体の自動化を行い、さらなる作業効率低減、働き方改革を目指します。
当連結会計年度における研究開発費の金額は
① フィルム加飾(ドライ加飾)システムの開発
自動車メーカー各社は、気候変動のリスクを踏まえて経営戦略にCO2排出量削減目標を織り込んでいます。各社とも主要な排出源は同じで、加工工場の上流側排出(Scope3)、加工工場の直接排出(Scope1,2)、加工工場の下流側排出(Scope3)の3つがあり、これらの排出源への対策は自動車産業における共通の課題です。
なかでも、加工工場の直接排出に関しては、自動車製造工程において最大のエネルギーを使用する塗装プロセスの変革が大きなカギを握っています。当社では、塗装プロセスでのカーボンニュートラルの実現に向け、自動車メーカー各社と連携し、CO2排出量をゼロとするような塗装設備の開発・提供に取り組んでいます。
その一例が、ウェット塗装からドライ加飾への生産技術革新です。ドライ加飾とは、従来のスプレー塗装(ウェット塗装)に代わり、フィルムを真空吸引・加熱によって貼り付けることで、自動車の外装をフィルム加飾(ドライ加飾)する技術です。
重ね塗りの過程で塗装と乾燥を繰り返すウェット塗装に対して、フィルム加飾(ドライ加飾)では、従来の塗料を使用した塗装に比べて加工工場での直接排出部分で大幅に使用エネルギーを抑えることができ、50%以上の削減を達成しています。低炭素化が実現する上に、排水・排気処理装置も不要となるメリットもあります。また、加飾フィルムならではの模様・柄・照光などの意匠性の拡大や、遮熱等の機能性の付加も可能です。今後、加工工場の上流・下流部分で、被塗物基材やフィルム基材のリサイクルなどの工程革新が実現することにより、さらなるCO2排出量の削減効果が期待できます。当社では、従来のドライ加飾技術の課題であった、凹凸がある複雑な立体形状に対しても、3次元真空圧空成形(TOM)工法を採用することで、フィルムを加飾(貼付け)することを実現。乗用車の一体型バンパーのような大きく凹凸のある複雑な立体形状へも、フィルム貼合ができるようになっています。
ドライ加飾プロセスの確立に向けて、近く自社研究施設内に、量産ラインを想定したドライ加飾システムのデモラインの構築を計画しています。当社では今後も脱炭素社会の実現に貢献するため、自動車をはじめ、様々な生産ラインにさらなる付加価値提供技術となるドライ加飾の技術開発を推進していきます。
② カーボンニュートラル乾燥炉の開発
世界中にて地球温暖化における環境問題が表面化してきている中、CO2排出量の削減への早急な取組が急務となっています。自動車製造工場においては、塗装工程からのCO2排出量が大きな割合を占めており、当社では塗装設備に対しての様々な対策を提案しております。当社技術となるドライブース、少風量ブース(i-LAVB)などのCO2削減提案により、2021年には自動車塗装1台あたりのCO2排出量64.9kg-CO2/台(2005年度比で59%削減)を実現し、今後2025年度に50kg-CO2/台、2030年度には40kg-CO2/台に削減することを目標に掲げております。この目標達成のためには再生可能エネルギー、水素燃料などのエネルギー供給側の転換、及び塗装工程の進化を含めた対策が必要であり、当社はオール電化の検討や水素燃料設備の導入に伴う機器能力の把握・制御方法・安全対策等の技術確立など幅広く、より早く対応を進めております。
塗装工程において、品質が良く、耐候性の高い塗膜を形成するために、塗装ブース内の温湿度調整や塗膜乾燥に十分な熱源が必要となり、多くは天然ガスに依存しております。この天然ガスの代替エネルギーを活用すべく、当社では座間テクニカルセンターの乾燥炉設備に、数種類の電気ヒーター、水素バーナーを導入し、NOx、CO、水分発生の基礎技術を比較検証するとともに、塗装設備に対する技術、制御、安全などのシステム検証も実施しており、顧客が安心して使用できる設備の提供準備を進めております。
顧客もCO2削減への取組を推進する中、電気ヒーター、水素バーナーへの関心は非常に高く、具体的な検討やテスト的な導入も実施いただいております。引き続きカーボンニュートラル実現へ向けてエネルギー変革や塗装工程の進化に対応し、顧客の要求に応えられるシステムを開発推進してまいります。