第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針

当社グループの経営理念は「仕濾過事」(ろかじにつかふる)であります。この経営理念には、当社の創業者である山崎正彦のフィルタビジネスを通じて社会に貢献するという意思が込められており、当社グループは、この不変のDNAを通じ、フィルタビジネスを通じて「環境」、「空気」、「健康」をテーマに持続可能な社会の実現のための課題解決に取り組み、コーポレートサステナビリティの更なる強化に努めるとともに、企業価値の最大化を図ってまいります。

 

(2)目標とする経営指標

当社は経営指標として「MAVY’s(マービーズ)」という独自の指標を設けております。MAVY’sは投下資本を通じ獲得される事業収益から創出される付加価値の定量指標であり、当社の企業価値の持続的成長を判断する最重要経営指標であります。また、「MAVY’sのスプレッド」の目標を毎期設定し、常に資本コスト(WACC)の最適化と収益力(ROIC) の最大化を図ることにより長期的持続的成長に努めてまいります。このMAVY’s経営においては、達成すべき目標値(KGI)としてROEやPBRを重要な経営指標として設定するとともに、各KGIを達成するための主要プロセス目標(KPI)を具体的に設定し、KGI やKPIを達成するための各部門別行動目標(KSF)や従業員各人別の目標を定量・定性的に明確に設定することにより、全社一体となった企業価値向上に向けた取り組みを行っております。

 

(3)当社グループを取り巻く経営環境

当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日)における世界経済は、米国では個人消費の回復や良好な雇用情勢を背景に堅調に推移する一方で、欧州や中東での地政学リスクの長期化を背景としたエネルギーコストの上昇や資材価格の高騰、世界的なインフレに伴う金融不安等の影響等により、依然として先行き不透明な状況が継続しております。このような環境を背景に、当社グループの主要市場である油圧ショベルを中心とした建設機械市場の動向は、世界最大の市場である中国においては、引き続き市況の低迷により新車の販売台数は前年度を下回る見ことが想定されます。北米及び日本市場においては、引き続き堅調に推移することが見込まれる一方、欧州、アジアといった各市場における建設機械市場の需要は、景気減速の影響が懸念され、全体では前年を若干下回る水準で推移することが想定されます。

 

(4)中長期的な会社の経営戦略及び会社の対処すべき課題

① 効率的な資本運用による持続的な企業価値の向上

当社は企業価値指標としての「MAVY’s」の持続的な拡大を経営の基本としております。しかしながら今期当社の平均資本コスト(WACC)は約7.5%、またROICは約4.9%であり資本コスト割れの状況であります。このため、ROICを8.0%以上に改善することが喫緊の重要課題となっております。そのためには、主力事業の建機用フィルタ事業における事業構造の改善を促進すると同時に、ナノファイバー技術による先端素材を建機用フィルタ事業やエアフィルタ事業により積極的に展開すると同時に、新規事業分野への進出等を図り、より付加価値の高いビジネスを創出してまいります。この事業計画は中期経営計画として開示を行ってまいります。また、当社のエクイティストーリーを反映した事業計画書を策定開示することにより、当社の目指す長期的持続的な成長性を明確に示すことによりPBRの向上にも努めてまいります。

 

 

② 持続可能な環境や社会を実現するための取り組み

当社は持続可能な環境・社会を実現するための取り組みとして、気候変動に対する取り組み及び人的資本への積極的な投資を掲げております。具体的には、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に賛同を表明し、CDPを通じ当社の二酸化炭素排出量削減や気候変動に対してどのような取り組みを行っているのかを開示しておりますが、更に中長期的な温室効果ガス排出量の削減目標を具体的に設定することにより、SBT(Science Based Targets)の認定取得に向けた取り組みを進めてまいります。また、人的資本への投資としては、「多様な価値観を持つ人的資本」への投資を図ることを通じ、従業員等にとり「ウェル・ビーイング」な社会を実現すべく努めてまいります。

(注)サステナビリティレポート (https://www.yamashin-filter.co.jp/ja/sustainability.html)

 

③ コーポレート・ガバナンス機能の充実

当社グループは、コーポレート・ガバナンス及び経営課題に関する事項等について幅広く議論し、コーポレート・ガバナンス機能の継続的な充実を図ることを目的とした取締役会の諮問機関として、ガバナンス委員会を設置しております。同委員会は、取締役会の経営の監督機能の実効性の評価、課題に対する取締役会への助言、改善提案、報告、執行役員への通知といった活動を行っております。同委員会は透明性及び客観性を確保するため、委員は独立社外取締役で構成されております。

また、グループ会社が行う業務執行に関するリスクの監視・牽制機能(モニタリング)、内部監査で実施される評価業務の支援を目的とした社内委員会として、代表取締役社長の諮問機関である業務監理委員会を設置しております。この内部統制組織の拡充強化を通じ、当社連結グループ全体のガバナンス及びコンプライアンスの更なる改善を図ってまいります。当社はこのようなガバナンス委員会及び業務監理委員会の活動を通じ、より一層牽制機能の強化等による業務執行の適切な監督を行うことで経営の透明性と質の向上を図り、アカウンタビリティ(説明責任)をより明確に果たし、コーポレート・ガバナンスの強化に努めてまいります。

(注)有価証券報告書 (https://www.yamashin-filter.co.jp/ja/ir/library/securities.html)

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

<サステナビリティ方針>

当社は、経営理念「仕濾過事」(ろかじにつかふる)を当社グループのサステナビリティ方針として掲げております。サステナブルな社会の実現に向けて、フィルタビジネスで培った強みを生かし「環境」「空気」「健康」に関する社会課題の解決に貢献してまいります。

 

(1)ガバナンス

当社は、2021年度に代表取締役社長の諮問機関として、「YSS(Yamashin Sustainable Solutions)委員会」を設置しました。当委員会は、経営企画室長及び執行役員が委員長を務め、全ての執行役員を含む計約20名が出席しています。SDGs推進やESGの取り組みについてYSS委員会で月1回議論し、その内容を取締役会や経営会議へ報告しております。

 

 

(2)戦略

① マテリアリティ特定

当社は、社是「仕濾過事」及び「ヤマシンフィルタの価値創造」のもと、当社グループのマテリアリティ(重要課題)を特定しております。ステークホルダーからの期待・要請、社会動向や事業環境の変化及び取り組みの進捗に応じ、適宜見直すことでPDCAを回してまいります。

 

マテリアリティ

コミットメント

 

 

 

環境

気候変動への対策

気候変動対策・脱炭素社会への貢献

・世界全体で求められるカーボンニュートラルの実現に向け、製品と生産の両面で気候変動対策に資するビジネスモデルを実現する

・2050年度までにカーボンニュートラル達成を鑑み、CO2排出量の削減

・再生可能エネルギー由来電力導入拡大

付加価値を有する製品の設計

 

フィルタ技術による環境負荷低減と循環型社会への貢献

・資源循環と環境負荷低減に着目し、バリューチェーンを通じて経済効率と環境効率の高いビジネスモデルを実現する

環境配慮型製品の創出

資源循環・環境負荷低減への取り組み

・水使用量の削減

・廃棄物排出削減

 

空気・健康

人々の健康で安全な暮らしへの貢献

大気汚染による健康被害の抑止~安心・安全な暮らしへの貢献

・フィルタ技術で、大気汚染やPM2.5による健康被害から人々を守る

・フィルタ技術で、室内の空気の質をより高める

・フィルタ技術の高度化・高機能化により、感染症による疾病から人々を守る

健康リスク低減製品の提供

 

 

 

 

 

 

 

 

人・仕事

フィルタ技術の革新と新たな社会課題への貢献

技術の研鑽と応用~社会が求めるフィルタ技術の追求

・独自の技術を応用し、新たな価値を創り出す

・独自の技術を研鑽し、世の中にないフィルタを生み出す

・新製品の開発

・特許取得数

・社会課題解決のための客先交流の実施

・研修への参加

働きがいのある職場づくり

 

 

働きがい、活躍する人材~「仕濾過事」の実践

・お客様、仲間、家族に感謝し感謝される、働きがいのある仕事をする

・多様な人材が力を発揮できることを目指し、ワークライフバランス、ダイバーシティ、人材育成、労働安全に配慮した職場づくりを行う

・経営理念「仕濾過事」の社員への浸透

・テレワーク実施率

・ダイバーシティ&インクルージョンデータ

・社員1人当たりの研修時間

・重大労働災害0件

多様な人材がその能力を発揮できる職場づくり

人権マネジメントの推進

人権デュー・ディリジェンスの推進~社会から信頼される企業へ

・バリューチェーン全体で人権を尊重し、企業としての責任を果たす

・バリューチェーン全体を通じた人権デュー・ディリジェンスを推進する

・人権尊重のための体制整備

・主要サプライヤーへの人権含むESGに関する調査実施率

 

 

② 気候変動に関する戦略

当社は、TCFDの分類に合わせ、当社グループにとっての気候変動に関連するリスク及び機会を特定し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「4℃シナリオ※1」や、IEA(国際エネルギー機関)による「1.5℃~2℃シナリオ※2」を踏まえ、シナリオ分析を行いました。リスクと機会の詳細は、「サステナビリティレポート2023」P.14をご覧ください。

※1 4℃シナリオ:IPCCRCP8.5、IEASTEPS

※2 1.5℃/2℃シナリオ:IPCCRCP1.9/RCP2.6、IEASDS/NZE2050

 

 

③ 人材育成・多様性に関する戦略

1.多様性の確保についての考え方

当社は、全ての従業員が国籍、年齢、性別、文化、宗教等の違いにとらわれず、お互いの経験や能力、考え方などを尊重する、ダイバーシティ・マネジメントを経営の基本としております。またこの経営方針に基づき多様な社員の活躍を促し、経営基盤となる「人材」の育成強化を図ることにより外部環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できる組織風土の構築強化に努めてまいります。

 

2.多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針

当社は、2015年10月より残業ゼロの取組を開始し、そのために必要な業務インフラ投資を行ってまいりました。その結果、2017年度より残業を原則行わない業務体制が確立いたしました。また、2021年度からはリモートワークを採り入れたハイブリッドの働き方改革を実践しており、ライフワークバランスの改善を継続して進めております。こうした、職場環境の整備は、社員の仕事と育児や介護の両立支援、キャリア形成のための学習機会の増加等を通じ、当社経営の生産性や効率性の向上につながることから、更なる働き方改革の取組を進めウェル・ビーイングな風土の構築に努めてまいります。

 

(3)リスク管理

上記マテリアリティ特定では、GRIサステナビリティ・レポーティング・スタンダードで示された下記プロセスに則り、当社グループのマテリアリティを選定いたしました。

 

特定プロセス

STEP1:課題の整理

・ ガイドラインやフレームワーク等の項目を参考に、当社グループにおける事業領域や主要な取り組みとの関連性を踏まえ、重要課題の候補を抽出

・ これらの課題に対して、社会発展のために当社が貢献できること(プラスのインパクト)及び当社が果たすべき基本的な社会的責任(マイナスのインパクト)の両方の視点から重要課題候補をテーマごとに整理

・ これらの候補に対し、経営幹部を対象とした勉強会にて認識を深化

参照にしたガイドライン、フレームワーク等:GRIスタンダード、ISO26000、SDGs、FTSE・MSCI等のESG評価項目

 

STEP2:課題の重要度評価と仮案策定

・ STEP1で整理した重要課題候補について、「ステークホルダーへの影響度」と「当社グループにとっての重要度」の2軸で重要度を評価。経営幹部へのアンケートを踏まえ、各重要課題にさらに重み付け

・ マテリアリティ及びコミットメント案の作成

 

STEP3:妥当性の確認とマテリアリティの組織承認

・ マテリアリティとコミットメント案の作成検討に当たり、YSS委員会における社外有識者との意見交換や社内ディスカッションを約半年以上にわたり実施

・ 特定したマテリアリティとそれらに対するコミットメント案は、経営会議に報告・承認

 

気候変動に関するリスク管理プロセスとしては、TCFDにて整理された移行リスク・物理リスクや機会の区分に従い、該当しうる項目を洗い出しました。リスクや機会の評価に当たり、発生頻度、影響期間、影響の大きさ、コアビジネスへの影響、顕在化する可能性、顕在化する時期の計6項目をもとに定量的評価を実施いたしました。これらの結果を踏まえ、売上高等を考慮した財務的影響額について審議・確定しております。

特定したリスクは気候変動に関連する戦略方針に沿って対策を検討し、リスクの回避・緩和・管理を行ってまいります。これらの対策はYSS委員会で発案し、組織的決定が必要なものは取締役会や経営会議において審議・決定しております。すぐに運用可能なものは各部門を代表する執行役員による事業運営への織り込みを図ることで展開してまいります。

 

 

 

区分

 

リスク・機会内容

 

時間軸

事業への

影響度

1.5℃

4℃

 

 

 

移行リスク

 

政策及び規制

炭素税導入により、自社排出量への課税による対応コスト増大

長期

温室効果ガス排出量が一番多いアルミニウム、鋼鉄を主原材料としているフィルタ製品への欧州への国境炭素税課税による対応コスト増大

中期

技術

既存フィルタろ材の原材料の置換(石油由来プラスチックから非石油由来のものへ)による原材料コスト増大

長期

市場

気候変動の対策として推進される自動車産業によるEV化の加速などに伴う、フィルタ製品の主原材料の一つであるアルミニウムの価格の高騰

長期

評判

マイニング関連企業等、顧客側の取引条件の強化による、CO2排出量削減が望めない製品への需要減少

長期

 

物理リスク

急性

(台風等)

サイクロン、台風等によるサプライチェーンの分断や操業停止による生産能力の低下

短期

慢性

(気象変化、平均気温の上昇、海面上昇)

気温上昇による工場内の労働環境の悪化、サプライチェーンへの影響への対応コスト増大

 

長期

 

 

 

機会

製品及びサービス

建機用ロングライフフィルタの製造・販売機会拡大

長期

NanoWHELP®製造・販売機会拡大

中期

気温上昇に伴う感染症対策関連事業であるマスク事業の拡大機会

長期

排ガス規制に対応した建機用高性能フィルタ製品の製造・販売拡大

短期

評判

サステナブルFITs等の資金調達機会拡大による施設投資の増大

長期

 

 

(4)指標と目標

① 気候変動に関する目標

2022年度の当社グループにおけるScope1(自社での直接排出)、Scope2(電力使用等による間接排出)、Scope3(バリューチェーン上の排出)排出量は、合計78,087 t-CO2でした。Scope1, 2排出量は 3,532 t-CO2となり、2021年度比約33%の削減を達成いたしました。 当社グループは今後、SBTの考え方に基づき、Scope1,2において1.5℃水準、Scope3においてWB2℃水準での認定を目指してまいります。

なお、再生可能エネルギー導入率、エネルギー使用量、Scope1,2,3のデータは「サステナビリティレポート2023」 P.15~16をご覧ください。

 

② 人材育成・多様性に関する目標

1.女性の管理職への登用

現在当社の連結での女性比率は52.3%、女性管理職比率は20.3%(ともに2024年3月末現在)と高水準なものの、当社の女性管理職比率は5.9%、子会社の株式会社アクシーでは0%と低いことが課題であります。この状況の改善を図るべく、当社のマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)の一つとして、「多様な人材がその能力を発揮できる職場づくり」を特定しており、女性活躍推進の中長期目標として以下を設定いたしました。

・ 5か年目標:2028年度末までに、単体で従業員に占める女性比率を35%とし、連結で2023年4月時点の女性比率(51.7%)及び女性管理職比率(24.7%)の水準以上を維持する。

・ 10か年目標:2033年度末までに、上記5か年目標で掲げた各比率の水準以上とする。

 

2.外国人・中途採用者の管理職への登用

当社は年齢・性別・国籍及び中途採用の有無にかかわらず適材適所を前提に、能力と実績に応じて中核人材の管理職の登用を進めております。

外国人管理職比率は、2024年3月末現在は0%でありますが、2028年度末には5%を目標としております。中途採用者管理職比率は、2024年3月末現在では74.5%であり、今後も積極的に登用を進めてまいります。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの事業その他に関するリスクについて、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しております。また、必ずしも事業上の重要なリスクとは考えていない事項についても、投資者の投資判断上あるいは当社グループの事業を理解する上で重要と考えられる事項については、積極的な情報開示の観点から記載しております。

当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針であります。

なお、以下の記載内容及び将来に関する事項は、当連結会計年度末日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 特定市場の依存度について

当社グループの事業活動は、2024年3月期において、建機用フィルタ事業向け売上高が約8割を占めており、中長期の事業展開も当該売上高の割合が高く推移するものと計画しております。当社グループは、景気停滞、公共投資低迷などの原因による建設機械メーカ各社の業績が悪化した場合、又は当社グループの強みである作動油フィルタに対する建設機械の構造革新や油圧動力に替わる新たな技術革新などが起きた場合には、建機用フィルタの売上高が減少し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 他社との競合について

当社グループ製品の主要市場である油圧ショベル市場は、中長期的には、新興国での市場の拡大を予測しております。

新興国市場においては、模倣品や廉価品の台頭が予想され、当社グループでは、継続して大手建設機械メーカを中心に純正部品として建機用フィルタ及び関連部品を安定供給することに努めます。しかしながら、今後、新興国において競合他社の模倣品・廉価品の販売が伸長した場合には、建機用フィルタの売上高が減少し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 為替レートの変動について

当社グループは、生産拠点を日本、フィリピン及びベトナムに擁し、販売拠点を日本、アメリカ、ベルギー、タイ及び中国に擁しております。

当社グループの原材料調達、物流、販売等の営業活動、海外事業等による外貨建資産及び負債は、為替レート変動の影響を受ける恐れがあり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 公的規制等について

当社グループの事業活動は、各国の政策動向やその国固有の規制等の影響を受けており、今後、当社グループが事業展開するにあたって、新たな関税、通貨規制、税制度等が導入された場合には、これらの対応コストの発生により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5) 調達・生産・物流について

当社グループの製品原価に占める部品・資材の割合は大きく、その調達は素材市況の変動に影響を受けます。部品・資材価格の高騰は、当社グループの材料費を増加させ、製造原価の増加をもたらします。

また、部品・資材の品薄や調達先の倒産あるいは生産打ち切りにより、適時の調達・生産が困難になり、生産効率が低下する可能性があります。材料費の増加については他の原価低減や販売価格の見直しによって対応し、また適時の調達・生産の問題については関係部門の連携を密にすることによって、これらの影響を最小限に抑えることに努めております。しかしながら、予想を大きく上回る素材価格の高騰や供給の逼迫が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、当社グループは、生産拠点における部品・資材の輸入調達を行っているとともに、当社及び販売子会社を通じて海外顧客への輸出販売を行っております。そのため、物流を取り巻く外部環境の変化に伴うコンテナ船の需要変動により、輸送リードタイムの長期化、海上輸送費の高騰や、物流コストの高騰が継続した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 生産計画と適正在庫について

当社グループの事業活動は、2024年3月期において、建機用フィルタ事業向け売上高が約8割を占めており、その殆どがOEM(注)製品であります。当社グループの建設機械市場向け製品の販売は、最終顧客に接する販売代理店への直接販売は行わず、建設機械メーカを経由して販売する方法を採用しており、建設機械メーカの生産計画及び部品の販売計画が当社の生産計画に影響を及ぼす構造になっております。

当社グループは、建設機械メーカと定期的に情報交換するなど市場動向、生産計画及び部品の販売計画等の最新情報を入手し、在庫が適正水準を維持できるように常に監視・分析しておりますが、建設機械メーカからの急な発注数量の変更や納期の調整などにより、在庫を過剰に保有する可能性があり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(注) 製造委託者のブランドで製品製造を行うこと。

 

(7) 製品の品質について

当社グループは、グループ内において品質管理体制を整え、厳格な品質基準に基づく製品の製造をしております。しかしながら、当社グループが顧客に納入した製品について、顧客の要求規格及び仕様等を充足しなかった場合又は不適合が生じた場合には、重大な品質クレームを引き起こす可能性があります。

大規模なクレームの発生や製造物責任賠償につながるような製品の欠陥は、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、それにより販売が縮小し、当社グループの業績及び財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 自然災害等について

当社グループは、開発・生産・販売等の拠点を海外に設けグローバルに事業を展開しております。また、生産の拠点については日本、フィリピン及びベトナムに設けており、2024年3月期において、建機用フィルタ事業における生産の約6割(販売価格ベース)をフィリピンに集約しております。これらの拠点において、地震・水害等の自然災害、戦争・テロ又は第三者による当社グループに対する非難・妨害などが発生するリスクがあります。当社グループでは、一定規模の災害等を想定した、リスク対応施策を講じておりますが、こうした自然災害等により、短期間で復旧不可能な莫大な損害を被り、部品・資材の調達、生産活動、製品の販売及びサービス活動に遅延や中断が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 情報管理について

当社グループの事業活動において、顧客情報に接することがあり、また営業上・技術上の機密情報を保有しております。これらの各種情報の取り扱い及び機密保持には細心の注意を払っており、不正なアクセス、改ざん、破壊、漏えい及び紛失などから守るために管理体制を構築するとともに、合理的な技術的対策を実施するなど、適切な安全措置を講じております。

しかしながら、万が一、情報漏えい等の事故が起きた場合には、当社グループの評価・信用に悪影響を与えるなどのリスクがあり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10) 知的財産権について

当社グループが開発した独自技術等は、特許権等の取得により、知的財産権の保護を行っております。しかしながら、特定の地域では当社グループの知的財産権が完全に保護されない場合があり、第三者が当社の製品と類似した製品を製造、販売することにより、当社グループが損害を受ける可能性があります。

また、製品開発においては、第三者が保有する権利をチェックすること等によって、第三者の知的財産権を含む権利侵害を行わないように努めております。しかしながら、当社グループが第三者から知的財産権等の帰属や侵害に関する主張や請求を受ける可能性は完全には否定できず、それに伴い当社グループが損害賠償請求や差止請求を受けた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(11) 係争・紛争について

当社グループの事業活動にあたっては、内部統制を強化し、法令遵守、社会道徳遵守を含めたコンプライアンスの強化、各種リスクの低減に努めると共に、必要に応じて弁護士等の外部専門家の助言等を受けております。

しかしながら、事業活動にあたっては、法令などの違反の有無にかかわらず訴訟を提起される可能性があり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

なお、本報告書提出日現在において係争・紛争は発生しておりません。

 

(12) M&A、業務提携について

当社グループは、今後の業容拡大等においてM&A及び業務提携戦略は重要かつ有効であると認識しております。

M&Aや業務提携を行う場合においては、対象会社を慎重に検討し、対象会社の財務内容や契約関係等について詳細なデュー・デリジェンス(Due diligence)(注)を行うことによって、極力リスクを回避するように努める方針としておりますが、事前に買収・提携成立後に偶発債務の判明等、不測の事態が発生する可能性を完全には防止できません。また、のれんが発生する場合はその償却額を超過する収益力が安定的に確保できることを前提としておりますが、買収後の事業環境の変化等により買収当初の事業計画遂行に支障が生じた場合は、当該のれんに係る減損損失等の損失が発生し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(注)デュー・デリジェンス(Due diligence):M&Aなどの取引に際して行われる、対象企業の法務・財務・ビジネス・人事・環境などを含めた総合的な資産評価に係る調査活動のことであります。

 

(13)新型コロナウイルス等感染拡大に関するリスク

当社グループは佐賀県、大阪府及びフィリピン、ベトナムの各生産拠点において厳重な対策を実施した上で、生産活動を含む事業活動を継続し、顧客に対する製品供給体制を維持しておりますが、新型コロナウイルスやその他感染症の感染拡大の影響により、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

1.経営成績

当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日)における世界経済は、米国では個人消費の回復や良好な雇用情勢を背景に堅調に推移する一方で、欧州や中東での地政学リスクの長期化を背景としたエネルギーコストの上昇や資材価格の高騰、世界的なインフレに伴う金融不安等の影響等により、依然として先行き不透明な状況が継続しております。

このような環境の中、当社グループの主力事業である建機用フィルタ事業においては、中国市場では、市況の低迷により需要は大幅に減少いたしました。北米及び日本市場では、公共投資や設備投資が安定的に推移したことにより、需要は堅調に推移いたしました。一方、欧州及びアジア市場においては、金利の高止まりや、主要国の選挙等による公共事業への影響から、需要は前年度を下回りました。この結果、当連結会計年度における当社の売上高は全体では減収となりました。

利益面では、主要原材料価格やエネルギーコスト高騰への対応策として、原価低減の取り組みや、適正価格への価格転嫁の実施により収益性の改善が図られたことにより増益となりました。

当社グループは、既存のガラス繊維を使用したフィルタ製品から、環境負荷低減に貢献するナノファイバーを使用したロングライフのフィルタ製品や油の汚染度やフィルタの交換時期を感知する差圧センサを搭載した高付加価値フィルタ製品の主要得意先への提案を進めており、各建機メーカの新機種への製品供給が開始されております。また、カーボンニュートラルへの取り組みの一環として、バイオマス樹脂を用いたナノファイバーの開発、リサイクル樹脂の不織布を用いたフィルタ製品の開発を推進しております。

また、原材料価格やエネルギーコストの高騰に対しては、適正価格へ価格転嫁を継続して実施するとともに、当社の競争力をより強化するための原価改善の取り組みとして、プロジェクトPAC24の推進に加え、設計開発段階での機能や材料の見直し、生産プロセスの効率化、品質管理の更なる強化等を行うことにより製品ライフサイクル全体でのコストの削減に取り組み利益の改善に努めてまいります。更には、サプライチェーンの見直しを含めたグローバル生産供給体制の再構築により、原材料調達の安定化と物流コストの低減を実現することで、外部環境変化やリスクへの適応力の強化を図り、資本効率の更なる改善と収益性の拡大に努めてまいります。

エアフィルタ事業においては、主力製品であるビル空調用フィルタの交換需要は堅調に推移したものの、納期調整の影響等により、売上高は前年度をわずかに下回りました。利益面では、価格転嫁の実施に加え、収益性の高い中性能フィルタの販売増加、経費削減等の効果により増益となりました。また、新たにロングライフ、低圧損、高捕集率のナノファイバー製エアフィルタ(製品名:NanoWHELP)の、オフィスビルや商業施設、ホテル、病院、工場等への採用が進展しております。当社製品であるNanoWHELPはその素材の特性により、当社調べによると他社製エアフィルタに比し、年間で約30%近いCO2の削減効果と同時に光熱費も大きく低減できる製品であることから、温室効果ガス削減のための有用な手段の一つとして、ビル用空調システム市場を中心に今後大きく成長することが見込まれます。また、当社グループは、エアフィルタ性能規格として最も権威のあるアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の定めるエアフィルタの性能等級であるMERV(16の等級に区分され最高性能等級は16)において、国内では唯一MERV14・15・16の3つの等級を取得(当社のNanoWHELPが取得)しているフィルタメーカであり、この高い競争力と信頼性を生かし、今後、国内市場のみならず、欧米市場をはじめとした、海外市場の開拓にも積極的に取り組んでまいります。また、このNanoWHELP開発の技術を生かし、熱可塑性高分子系不織布によるナノファイバーHEPAフィルタの開発に取り組んでおります。本製品は従来のガラス繊維HEPAフィルタとは異なり有機フッ素化合物(以下「PFAS」)を使用しない「PFAS FREE」の製品であります。またPFASによる健康や環境被害を排除するためにPFAS使用製品の製造はもとより販売の規制の強化がEUから始まり各国に広がり始めております。こうした市場環境の急速な変化の中で当社のPFAS FREEの新製品は時代の要求に合致する先端技術製品として当社事業の新たな成長の牽引役になることが期待されております。

更には、新たな市場開拓の取り組みとして、ナノファイバーをリチウムバッテリーに代表されるバッテリーセパレータへの応用を検討しており、昨今市場で求められるナノファイバーシートの薄膜化の研究開発、製品化を推進しております。

今後も当社グループは、総合フィルタメーカとして「環境」「空気」「健康」をテーマに持続可能な社会・経済活動に貢献する企業として社会的責任を果たしてまいります。

 

以上の結果、当連結会計年度の売上高は180億24百万円(前年同期比3.1%減)となり、営業利益は14億11百万円(前年同期比14.3%増)、経常利益は14億15百万円(前年同期比54.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は7億86百万円(前年同期比21.9%増)となりました。

 

2.連結業績

当連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)業績について

 (単位:百万円)

 

2023年3月期

2024年3月期

増減額

増減率

外部売上高

18,605

18,024

△580

△3.1%

営業利益

(利益率)

1,235

(6.6%)

1,411

(7.8%)

176

14.3%

経常利益

(利益率)

915

(4.9%)

1,415

(7.9%)

500

54.7%

親会社株主に帰属する

当期純利益(利益率)

645

(3.5%)

786

(4.4%)

141

21.9%

 

売上高については、建機用フィルタ事業において3.5%の減収、エアフィルタ事業において0.7%の減収となったことから、全体では3.1%の減収となりました。

営業利益については、建機用フィルタ事業において、価格転嫁の実施による収益改善が図られたことにより14.7%の増益となりました。エアフィルタ事業においては7.7%の増益となり、連結では14.3%の増益となりました。

経常利益については、為替差損の減少等により54.7%の増益となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益については、21.9%の増益となりました。

なお、当社は、グループ経営の効率化及び競争力強化を目的とし、北米拠点である連結子会社YAMASHIN AMERICA INC.の事業構造改革を実施しており、事業構造改革費用として125百万円を、また当社の得意先に供給した製品不具合に関する対応費用として122百万円をそれぞれ特別損失に計上しております。

 

 

3.事業セグメント別の売上高と営業利益

 

(建機用フィルタ事業)(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)業績について

(単位:百万円)

 

2023年3月期

2024年3月期

増減額

増減率

外部売上高

15,945

15,382

△563

△3.5%

営業利益

(利益率)

1,150

(7.2%)

1,320

(8.6%)

169

14.7%

 

売上高については、建機の稼働時間と新車需要は北米及び日本市場では堅調に推移したものの、全体では3.5%の減収となりました。

営業利益については、主要得意先への価格転嫁の実施により14.7%の増益となりました。

 

(エアフィルタ事業)(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)業績について

(単位:百万円)

 

2023年3月期

2024年3月期

増減額

増減率

外部売上高

2,659

2,642

△17

△0.7%

営業利益
(利益率)

84

(3.2%)

91

(3.5%)

7.7%

 

売上高については、主力製品であるビル空調用フィルタの交換需要は堅調に推移したものの、納期調整の影響等により、0.7%の減収となりました。

営業利益については、価格転嫁の実施に加え、収益性の高い中性能フィルタの販売増加、経費削減等の効果により、7.7%の増益となりました。

 

4.財政状態

当連結会計年度末における当社グループの財政状態については、総資産は259億43百万円(前連結会計年度末比1.4%増)となり、負債は46億44百万円(前連結会計年度末比0.9%増)となり、純資産は212億99百万円(前連結会計年度末比1.5%増)となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前連結会計年度末より7億43百万円増加し、48億25百万円となりました。

 

 

③ 生産、受注及び販売の実績

当社グループはフィルタ製品の製造・販売を主たる事業としており、事業品目別に記載しております。

a 生産実績

当連結会計年度における生産実績を示すと、次のとおりであります。なお、生産実績については、品目の共通原材料及び共通部品が含まれるため、品目ごとに金額を記載しておりません。

 

事業品目の名称

生産高(千円)

前年同期比(%)

建機用フィルタ事業

8,913,754

84.8

エアフィルタ事業

2,624,037

99.9

合計

11,537,792

87.8

 

(注) 1.金額は販売価格によっております。

2.産業用フィルタ及びプロセス用フィルタについては建機用フィルタ事業に含めております。

 

b 受注状況

当連結会計年度の受注状況を事業品目ごとに示すと、次のとおりであります。

 

事業品目の名称

受注高(千円)

前年同期比(%)

受注残高(千円)

前年同期比(%)

建機用フィルタ

14,218,732

98.9

2,949,649

107.7

産業用フィルタ

667,486

89.8

179,250

111.9

プロセス用フィルタ

709,593

79.2

120,058

88.1

エアフィルタ

2,665,723

103.2

253,587

110.3

合計

18,261,536

98.2

3,502,546

107.3

 

(注) セグメント間取引については、相殺消去しております。

 

c 販売実績

当連結会計年度の販売実績を事業品目ごとに示すと、次のとおりであります。

 

事業品目の名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

 至 2024年3月31日)

販売高(千円)

前年同期比(%)

建機用フィルタ

14,008,482

97.8

産業用フィルタ

648,425

86.5

プロセス用フィルタ

725,737

83.6

エアフィルタ

2,642,087

99.3

合計

18,024,732

96.9

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しております。

   2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

CATAPILLAR INC.

1,865

10.0

1,815

10.1

 

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度における財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような見積り及び予測を必要としております。当社グループは、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積り、予測を行っております。そのため、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

 

(2) 経営成績に重要な影響を与える要因について

当社グループへの影響としては、特定市場への依存や他社との競合など経済状況の変動を含め、様々な要因が挙げられます。詳細につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおり、認識しております。これらのリスクについては発生の回避を図るとともに発生した場合にはその対応に努める所存であります。

 

(3) 経営成績の分析

当連結会計年度において、売上高は180億24百万円(前年同期比3.1%減)となり、営業利益は14億11百万円(前年同期比14.3%増)、経常利益は14億15百万円(前年同期比54.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は7億86百万円(前年同期比21.9%増)となりました。

経営成績に重要な影響を与えた要因は、次のとおりであります。

 

① 売上高

当連結会計年度の売上高は、建機用フィルタ事業において3.5%の減収、エアフィルタ事業において0.7%の減収となったことから、全体では3.1%の減収となりました。

② 販売費及び一般管理費

当連結会計年度の販売費及び一般管理費は、61億46百万円(前年同期比1.1%増)となり、前年同期に比べ68百万円増加しました。これは主として、ベースアップに伴い人件費が増加したことによるものであります。

③ 営業外損益

当連結会計年度の営業外収益は、1億27百万円(前年同期比235.5%増)となりました。これは主として2021年9月に竣工した佐賀新工場の立地促進補助金を含む補助金収入の計上によるものであります。

営業外費用は、1億23百万円(前年同期比65.5%減)となりました。これは主として為替差損の計上によるものであります。

④ 特別損益

当連結会計年度の特別利益は、9百万円(前年同期比633.3%増)となりました。これは、投資有価証券を売却したことによるものであります。

特別損失は、2億86百万円(前年同期比986.2%増)となりました。これは主に事業構造改革費用及び品質保証対応損失等の計上によるものであります。

 

 

(4) 財政状態の分析

(流動資産)

当連結会計年度末における流動資産の残高は、前連結会計年度末比5億64百万円増加(前連結会計年度末比4.4%増)し、134億87百万円となりました。その主な要因は、現金及び預金が9億51百万円増加(前連結会計年度末比23.1%増)、受取手形及び売掛金が56百万円増加(前連結会計年度末比1.7%増)、電子記録債権が3億11百万円増加(前連結会計年度末比30.5%増)した一方で、商品及び製品が5億85百万円減少(前連結会計年度末比23.5%減)、原材料及び貯蔵品が1億44百万円減少(前連結会計年度末比8.8%減)、その他が22百万円減少(前連結会計年度末比10.1%減)したことによるものであります。

 

(固定資産)

当連結会計年度末における固定資産の残高は、前連結会計年度末比2億2百万円減少(前連結会計年度末比1.6%減)し、124億55百万円となりました。その主な要因は、建物及び構築物が1億94百万円減少(前連結会計年度末比3.8%減)、機械装置及び運搬具が1億4百万円減少(前連結会計年度末比7.7%減)、建設仮勘定が92百万円減少(前連結会計年度末比11.7%減)、有形固定資産のその他が82百万円減少(前連結会計年度末比19.3%減)した一方で、工具、器具及び備品が1億19百万円増加(前連結会計年度末比42.6%増)、繰延税金資産が76百万円増加(前連結会計年度末比14.2%増)、投資その他の資産のその他が80百万円増加(前連結会計年度末比60.9%増)したことによるものであります。

 

(流動負債)

当連結会計年度末における流動負債の残高は、前連結会計年度末比4億84百万円増加(前連結会計年度末比14.5%増)し、38億27百万円となりました。その主な要因は、支払手形及び買掛金が1億94百万円増加(前連結会計年度末比13.4%増)、未払金が48百万円増加(前連結会計年度末比12.2%増)、未払法人税等が1億71百万円増加(前連結会計年度末比193.0%増)、品質保証対応損失引当金が1億22百万円増加した一方で、短期借入金が55百万円減少(前連結会計年度末比19.6%減)したことによるものであります。

 

(固定負債)

当連結会計年度末における固定負債の残高は、前連結会計年度末比4億44百万円減少(前連結会計年度末比35.2%減)し、8億16百万円となりました。その主な要因は、長期借入金が4億3百万円減少(前連結会計年度末比55.8%減)、その他が73百万円減少(前連結会計年度末比26.2%減)したことによるものであります。

 

(純資産)

当連結会計年度末における純資産の残高は、前連結会計年度末比3億21百万円増加(前連結会計年度末比1.5%増)し、212億99百万円となりました。その主な要因は、資本金が71百万円増加(前連結会計年度末比1.1%増)、資本剰余金が71百万円増加(前連結会計年度末比1.2%増)、利益剰余金が1億22百万円増加(前連結会計年度末比1.6%増)、為替換算調整勘定が2億90百万円増加(前連結会計年度末比64.3%増)した一方で、自己株式が2億32百万円増加(前連結会計年度末日は0百万円)したことによるものであります。

 

(5) キャッシュ・フローの状況の分析

① キャッシュ・フロー

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前連結会計年度末より7億43百万円増加し、48億25百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、26億32百万円(前年同期は得られた資金24億7百万円)となりました。

その主な内訳は、税金等調整前当期純利益11億38百万円、減価償却費の計上7億67百万円、棚卸資産の減少8億25百万円によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、5億41百万円(前年同期は使用した資金11億70百万円)となりました。

その主な内訳は、有形固定資産の取得による支出2億79百万円、無形固定資産の取得による支出96百万円、長期預金の預入による支出2億5百万円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、14億65百万円(前年同期は使用した資金7億18百万円)となりました。

その主な内訳は、自己株式の取得による支出4億73百万円、リース債務の返済による支出1億3百万円、配当金の支払4億30百万円、長期借入金の返済4億3百万円等によるものであります。

 

② 資金需要

資金需要の主なものは、製品製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用に係る運転資金と設備投資資金であります。これらの運転資金及び設備投資資金については、主に自己資金を充当しております。

 

(6) 経営戦略の現状と見通し

当社グループの果たす社会的責任(CSR)の重要なテーマとして、企業活動から生じる環境・社会・経済に与える影響を勘案した長期的な企業戦略であるコーポレート・サステナビリティ(Corporate Sustainability)を明確にし、その推進のため、取締役社長の諮問機関であるYSS委員会「YSS(Yamashin Sustainable Solutions)」を設置しております。同委員会による活動を通じ、経営理念である「仕濾過事」(ろかじにつかふる)の具現化、技術力を生かした新たな価値創造と、脱炭素、TCFD、再生可能エネルギー、資源循環といった社会課題の解決を通じ社会に貢献してまいります。今後の見通しとしては、当社独自開発のナノファイバーの量産化技術を基に、建機用フィルタビジネス、エアフィルタビジネスの拡大に加え、産業資材としての活用や、M&Aや事業提携を踏まえた新規事業ポートフォリオの確立に取り組み、中期的持続的な事業成長とSDGsへの積極的な取り組みを両立させ、企業価値の向上を図ってまいります。

 

(7) 経営者の問題認識と今後の方針

当社グループは、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営方針を立案し、企業価値を最大限に高め、強固な企業体質を確立すべく努めております。具体的には「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。

 

(8) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

詳細については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)目標とする経営指標」に記載のとおりであります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、顧客の様々な仕様に合わせたフィルタ製品に対して、品質はもとより要求されるスピードに対応できる信頼性と顧客満足を獲得することを目指して行っております。特に当社グループでは、フィルタ製品の心臓部に当たるフィルタエレメントに使用される「ろ材」の独自開発を行っており、多種多様な用途で使用されるフィルタ製品を顧客ニーズに即応できる様、製品開発を行っております。

 当社グループの研究開発体制につきましては、当社で「ろ材」及び構成部品の研究・開発を行っております。

 当社グループは、建機用フィルタについては、油圧ショベルの作動油回路用フィルタ製品に加え、燃料用フィルタやエンジンオイル用フィルタ製品などの開発にも積極的に取り組み、合わせてICT(情報通信技術)やIoT(Internet of Things)による高機能化や高付加価値化を進め、新サービスを展開するための技術開発を行っております。産業用フィルタについては作動油・潤滑油用フィルタなどの市場分野において、また、プロセス用フィルタについては洗浄・飲料用フィルタなどの市場分野において、既存製品で蓄積したノウハウを活用し、製品開発を行っております。

 フィルタろ材開発において、使用される状況や捕獲したゴミに応じて最適な性能を発揮するために、ろ材構造や材質に対する研究活動を行っております。具体的には、ガラス繊維を中心に、異なる繊維形状(太さや密度)を組み合わせた多層ろ材開発など、既に様々な当社製品に展開されております。今後は、より高度な市場の要求や課題解決を可能にするろ材開発を積極的に進めてまいります。

 併せてフィルタ開発のみならず、現在では油圧回路内を循環する作動油の汚染度をリアルタイムに測定できるセンサ開発とフィルタの目詰まりを把握する圧力センサ開発を進めております。作動油の汚染度情報をリアルタイムに把握することは、油圧機器の故障予防・予知の観点からも非常に重要であり、またフィルタの目詰まり状況を把握し、寿命を予測することで適切なフィルタ交換時期をユーザーへ提供可能とすることは、純正品を使用するメリットをユーザーへ訴求できるものと考えております。当期より主要得意先各社へ当社製品の理解を深める機会として、当社内にて汚染度センサ、圧力センサを搭載した建設機械を稼働させ、デモンストレーションを行う、Web見学会を開催しております。今後も主要得意先建機メーカに対して、当社製品の付加価値を訴求する様々な取組みを実施してまいります。

 また、当社グループは、従来のガラス繊維に代わる新しい「ろ材」として、「ナノファイバー」の開発を継続しております。「ナノファイバー」は、天然素材のガラス繊維に比し繊維径がきわめて細く、また繊維長の調整が可能であることから、ろ材として非常に優れた特性を有する素材であり、これを次世代ろ材に使用することで、①不純物のより効果的なろ過、②油圧システム内の作動油の循環効率の向上及び③フィルタの交換サイクルの長期化によるコスト低減、産業廃棄物の低減を通じた環境負荷低減に貢献することが可能となります。

 「ナノファイバー」による「ろ材」は建設機械用フィルタ事業においては、主要得意先である建機メーカ各社への採用が開始されております。

また、エアフィルタ事業においては、ロングライフ、低圧損、高捕集率のナノファイバー製エアフィルタ(製品名:NanoWHELP)の、オフィスビルや商業施設、ホテル、病院、工場等への採用が進展しております。当社製品であるNanoWHELPは、昨今のカーボンニュートラルという大きな流れの中で企業に求められる温室効果ガスの削減のための有用な手段の一つとして、当社製エアフィルタと比べ、年間で約30%近いCO2の削減効果と同時に光熱費の低減に寄与する製品であることから、ビル用空調システム市場を中心に今後大きく成長することが見込まれます。

さらには、接着剤を使わない製法を生かして既存のガラス繊維に置き換わるナノファイバーを利用したオイルミスト用フィルタの開発を行い、HEPAレベルのオイルミストの除去ができるろ材を開発し、製品化が実現いたしました。本製品は従来のガラス繊維HEPAフィルタとは異なり有機フッ素化合物 (以下「PFAS」)を使用しない「PFAS FREE」の製品であり、今後市場から要求が高まる健康や環境被害の排除、PFAS使用製品の製造や販売の規制の強化に対応することが可能な製品であります。今後、こうした市場環境の変化に対応し、より付加価値の高い低圧損、高捕集効率なHEPAフィルタの製品化を進めてまいります。

 

 その他の分野としましては、ナノファイバーをリチウムバッテリーに代表されるバッテリーセパレータへの応用を検討しており、現在、市場で求められるナノファイバーシートの薄膜化を検討しております。

 また、環境配慮型製品として化石燃料由来の樹脂からバイオマス由来の樹脂を用いてのナノファイバー紡糸にも着手しており、次世代建設機械用作動油フィルタとして低圧損、ロングライフ化を有する「ろ材」として開発を進めております。

当社グループでは、当社独自製造技術に基づく「ナノファイバー」の製品化に向けた研究開発を今後進めることにより、既存事業の更なる高付加価値化及び競合他社との差別化を図るとともに、環境配慮型素材開発、新素材技術の活用による新規事業領域への進出にも積極的に取組んでまいります。

 これらの結果、当連結会計年度における研究開発費は403百万円となりました。