当社グループは、「MOTION & CONTROL™を通じ、円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を越えた人と人の結びつきを強める」という企業理念のもと、
①世界をリードする技術力によって、顧客に積極的提案を行う
②社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する
③柔軟で活力のある企業風土で時代を先取りする
④社員は地域に対する使命感をもとに行動する
⑤グローバル経営をめざす
という経営姿勢により社会に貢献する企業を目指していきます。
当社グループを取り巻く事業環境は、世界的なインフレの継続、欧州や中国の経済回復の遅れ、地政学リスクに伴うサプライチェーン問題など、経済の先行きは未だ不透明な状況にあります。急速に進んだバッテリーEVの普及にも鈍化が見られ、ハイブリッド車需要が増加するなど、自動車産業の将来動向にも変化が見られます。また、産業全般における電動化・自動化・デジタル化に加え、生成AIの急速な普及などの技術革新が急激に進み、企業として取り組むべき課題は増加を続けています。さらには、環境問題、人権の尊重、少子高齢化問題への取り組みなど企業の社会的責任の重要性は増し、経営環境は急速に変化しています。
こうした環境下においても、当社グループは企業理念のもと、技術革新の進展や地球環境負荷の低減に対する取り組みを成長の機会と捉え、技術・製品・サービスを通じ、高い品質と信頼で応えていきます。すなわち、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。
その実現に向けて、2022年度から2026年度までの5ヵ年を対象期間とする『中期経営計画2026』に則り、事業基盤の強化を進めています。当社のコアバリューである「安全・品質・環境・コンプライアンス」を経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいきます。
3つの経営課題とその取り組み内容は以下のとおりです。
1.「収益を伴う成長」として、既存ビジネスを伸ばすとともに新たなビジネス領域を育てることを意味する
“Bearings & Beyond”のもと、事業環境の変化の中でも、持続的成長が可能な事業基盤の確立を目指します。
・当社グループの強みである軸受・精機製品の競争力を高め、産業機械ビジネスの拡大による事業ポートフォリオの変革と、自動車の電動化へのシフトに対応していきます。
・軸受の寿命予測、状態監視、補修・交換などのサービスの提供により、循環型社会への貢献を通じて、事業の拡大を目指します。
・新技術の共創を進め、搬送アシストロボットなどのユニット・システム製品を開発することにより、自動化や安全・安心な社会への貢献を通じて、新商品でのビジネスを広げていきます。
・ステアリング事業については、ジョイントベンチャーパートナーのジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合(以下「JIS」)と共に、将来の新しいアライアンスに向けた検討を進めています。
・生産拠点の再編など事業の構造改革を進め、収益改善に取り組んでいきます。
2. 「経営資源の強化」として、デジタルの力で経営資源を強化し、事業変革を起こし続ける基盤を作ります。
・品質・技術・モノづくり及びそれらを支える人材の育成において、デジタル技術を積極的に活用します。
・モノづくりの方針として「生産の超安定化」を掲げ、デジタルを活用した飛躍的生産性の向上と、より安全・安心で、環境にやさしい工場を実現し、モノづくりの変革を目指します。
・多様な人材の登用、多様なキャリアの開発・支援を進め、人的資本の価値最大化を目指します。
3. 「ESG経営」として、事業を通して社会の持続的な発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続け
る企業を目指します。
・当社グループが製品を「つくる」という面からは、省エネへの取り組み、新技術の開発、及び再生可能エネルギーの活用により、二酸化炭素の自社からの直接排出(Scope1)とエネルギー使用による排出(Scope2)について、2035年度にカーボンニュートラル達成を目指すと共に、サプライチェーン全体(Scope3)での排出量削減にも取り組んでいきます。
・お客様が当社グループの製品を「つかう」という面からは、エネルギーロスを少なくする低摩擦技術や、風力発電・水素エネルギーなどに使用される環境貢献型の製品・サービスの提供により循環型社会の発展に貢献します。
・働き方改革によって働きやすい環境をつくり、ダイバーシティ&インクルージョンを推進します。
・グループガバナンスの強化と、ステークホルダーとの対話を深めていきます。

当社グループは、以上の経営課題に取り組み、『変わる 超える』への挑戦を続け、未来志向の高い目標に向かって、前進を続ける活力のある会社を目指します。企業理念に基づいた企業活動とMOTION & CONTROL™の進化を通じて、社会的課題の解決と社会の持続的発展への貢献を続けていきます。
当社は2022年5月に『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)を発表しましたが、2023年5月にJISとの合弁契約を締結したことにより、2023年8月以降、当社のステアリング事業をグローバルに統括するNS&Cは、当社の連結対象から外れ持分法適用会社となりました。加えて、前述した現在の当社グループを取り巻く事業環境を鑑み、2027年3月期の財務目標を以下のように修正しました。
また、非財務目標として、技術開発の取り組みにおいては新商品売上高比率の向上、環境についてはCO2排出量とCO2排出原単位の削減及び環境貢献型製品の開発に取り組んでいます。また、安全な職場環境づくりに対しては休業度数率の減少、ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、従業員及び管理職における多様性(女性、外国人、中途採用比率)の向上などに取り組んでいます。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)サステナビリティ全般
当社グループは、機関設計として指名委員会等設置会社を採用しています。取締役会は経営の基本方針などの重要な経営事項の決定にあたるとともに、業務執行の決定を執行機関へ積極的に委任し、執行状況を適切に監督します。
当社のコアバリューである「安全・品質・環境・コンプライアンス」を経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし、執行機関は、『中期経営計画2026』に則り、3つの経営課題である「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」に取り組みます。また、CEOを委員長とするコアバリュー委員会は、コアバリュー推進・強化のための方針の議論や関連リスクの共有を通して、全社的課題を設定し、それらの解決に向けた提言と進捗のモニタリングを行います。
②リスク管理
当社グループにおいて、全社及びサステナビリティ分野の主要なリスクを検討するプロセスは、「
当社グループは、重点的に取り組むべきサステナビリティの分野をマテリアリティ(重要課題)として、9項目を特定しました。企業理念のもと、これらの項目について取り組むことで、社会課題解決への貢献と企業としての持続的成長の両立を目指していきます。当社グループでは、社会課題などの外部環境の変化が事業に与える影響に加え、会社の活動が外部のステークホルダーや環境・社会に与える影響を評価するダブルマテリアリティの考え方に基づき項目を特定し、執行部門の代表者により構成される経営会議の審議を経てCEOが決定し、オフィサーズ・ミーティングを通じて当社グループ内に共有しました。

(注) 1 NPDS(NSK Product Development System):お客様の新規案件を、迅速、確実に安定生産に結びつけるため、品質を製品企画から開発・設計、試作、量産までのプロセスでつくりこむための活動
2 NQ1(NSK Quality No.1):不良「ゼロ」の安定生産を目指した活動
『中期経営計画2026』の3つの経営課題と取り組みや非財務目標は、「第2[事業の状況]1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](2)経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
サステナビリティに関する取り組みは、当社グループウェブサイトをご参照ください。
(2)気候変動
取締役会は業務の執行の決定を積極的に委任し、その執行状況を適切に監督するとともに、カーボンニュートラルの取り組みを含む中・長期的な経営課題・方向性等に関するテーマの討議を行っています。
また、コアバリュー委員会は、「安全・品質・環境・コンプライアンス」のコアバリューの推進・強化のための方針の議論や気候関連等のリスクの共有を通して、全社的課題を設定し、それらの解決に向けた提言と活動の進捗のモニタリングを行います。
②リスク管理
当社グループは、これまでも気候関連のリスクを重要性の高いリスクとして認識し、事業や部門を横断して対処してきました。さらに2020年度からは、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」)の推奨するシナリオ分析も活用し事業環境の変化と当社の事業への影響を分析するとともに、課題の抽出及び対応策の実施等、取り組みを強化しています。
気候変動が当社グループのバリューチェーンに将来的に与える影響及び気候変動対策の有効性の検証を目的に、最長2050年までの期間を想定し、1.5℃~2℃シナリオ、4℃シナリオの2つのシナリオ分析を実施しました。当社グループは持続可能な社会の構築のため、気温上昇を1.5℃~2℃以下に抑制できる社会の実現に貢献することを基本戦略とします。CO2排出規制に関連した移行リスクへの対応に取り組み、製品ライフサイクル全体での脱炭素化という社会的ニーズを当社グループの事業領域であるMOTION & CONTROL™の進化の機会と捉え、事業活動全体で気候変動対策を推進します。一方、気候変動に起因する自然災害に対しては、シナリオ分析結果を踏まえて対策を推進します。
具体的には、エネルギー使用量を可視化した上で、生産工程における標準的な省エネ活動に加えて、工程の変更も視野に入れた技術革新によるエネルギー削減を実施しています。同時に再生可能エネルギーの導入も積極的に進め、事業活動からのCO2排出量の最少化に取り組んでいます。また、低摩擦損失の製品や、風力発電用軸受などの再生可能エネルギー普及に対応した製品の開発・設計・生産・販売を通じて、お客様の使用段階におけるCO2排出削減貢献量の最大化を図ります。
当社グループは、事業活動、すなわち「つくる」時のCO2排出量の削減と、顧客における製品・サービスの使用段階、すなわち「つかう」時のCO2排出削減貢献量の拡大を両輪として、長期的な目標を設定し取り組みを進めています。特に事業活動からのCO2排出量の削減については、『中期経営計画2026』では、Scope1とScope2のCO2排出について、2035年度に実質ゼロを目指すカーボンニュートラルの目標を設定しました。
<目標>
2026年度Scope1+2 CO2排出量削減 △50%(対2017年度)
2035年度Scope1+2 カーボンニュートラル達成

なお、TCFD提言に基づく情報開示については、当社グループウェブサイトをご参照ください。
(3)人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針
取締役会は業務の執行の決定を積極的に委任し、その執行状況を適切に監督するとともに、人的資本経営の取り組みを含む中・長期的な経営課題・方向性等に関するテーマの討議を行っています。
また、CEOを委員長とする人材委員会を設置しています。人材委員会は、基幹ポストの後継者計画の策定と計画のモニタリングに加え、それらを担う人材の育成など人的資本の価値最大化の取り組みの推進を目的としており、当委員会において全社的な人材施策が報告、討議されています。
②リスク管理
「
対象リスクは全社リスクマネジメントの仕組みの中で、その取り組み状況を管理しています。
③戦略
企業理念を実現し、社会課題解決への貢献とNSKグループの持続的成長を両立していくためには、多様な人材の活躍が不可欠です。当社は「人材方針」で、経営姿勢で謳う「社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する」(注)ことを明確にするとともに、従業員一人ひとりが企業の貴重な財産であるという考えに基づき、「多様な人材の活用」「成長に資する機会と場の提供」「いきいきと働き続ける職場づくり」という3つの柱で公平で個を活かす活力ある職場づくりを掲げています。
『中期経営計画2026』の経営課題の一つである「経営資源の強化」の主要施策の一つが「人的資本の価値最大化」です。経営戦略を確実かつタイムリーに実行していくためには、明確なKPIを伴った人材戦略との連動が不可欠です。当社は人的資本の価値の最大化は、多様な人材一人ひとりが個性を最大限に発揮し、さらには可能性を広げ成長し続けられる状態が生み出されることによって実現できると考えており、次の目指すべき3つの姿を掲げて取り組みを推進しています。
(注)社員とは、NSKグループで働くすべての人を指します。

1.多様な人材が集まる会社
当社の人材戦略のキードライバーは多様性です。性別、性自認・性的指向、年齢、国籍、生活様式、価値観、キャリア(知見・経験)など、多様なバックグラウンドを持った従業員がそれぞれの力を発揮し、互いに刺激し合うことで、新たな視点や考え方、アイデアが生まれ、競争力の強化やリスクの回避にも繋がっていくと考えています。特に意思決定層における多様性を重要視するとともに、女性活躍推進を経営課題の一つと捉え、各階層で取り組みを進めています。2023年からは若手女性社員が事業所を超えて先輩社員(ロールモデル)に話を聞き、それを記事として社内に発信する取り組みを開始しました。女性の係長層やその候補層を対象にしたキャリア・アドバンスメント研修も継続して実施しており、キャリア形成を支援しています。
2.多様な人材がスキル/能力を伸ばし成長できる会社
働き方やキャリアに対する考え方は多様化し、個々人の自律志向が拡大しています。個の成長・自己実現と企業の成長の相関関係が強くなり、従業員と企業は選び、選ばれる、より対等な関係になってきています。当社では、まず管理職を対象に、ロール型人事制度の導入に向けた準備を進めています。ロール型人事制度とは、従業員一人ひとりが担う役割や責任を明確にし、自らが能動的に未来志向の高い目標の達成に向けて挑戦することを求めていく人事制度です。個々の役割を「ロールディスクリプション(役割記述書)」として人材要件を明確にすることで、従業員は個々のキャリアを描きやすくなり、一人ひとりが自身の成長に向け、「自分で考え、自分で行動する」ことが可能になります。
また、早期育成施策としての若手育成ローテーションから始まり、経営人材候補を継続的に輩出するキャリア開発プログラムを構築しています。基幹ポストへの登用に関しては、人材委員会を最上位機関として、経営人材の後継者計画及び人材投資計画を承認しています。基幹ポストの定義を明確化することで、グローバルに融和性のある後継者管理を実現し、海外人材を含めた年齢、性別、国籍を問わない人材抜擢や戦略的登用を実施しています。
加えて、事業ポートフォリオ及び収益構造の転換のため、DXを推進しており、その中心となるデジタル人材の育成を進めています。デジタル変革本部が中心となり全社的な研修を実施、2023年にはレベル別に設けた育成プログラムの種類を増やし、より実践的なトレーニングや専門チームのハンズオン支援による現場適用を進めています。
3.安全で健全な職場
従業員のこころとからだの健康は事業活動の全ての基盤です。2022年に効果指標や経営課題への結びつきを可視化し、より効果的に施策を推進するため、健康経営戦略マップを見直しました。さらに、「健康宣言」、「健康取組3本柱」なども一部見直し、取り組みをステップアップさせています。健康意識向上のため、eラーニングや健康フェア、ストレスチェック後の組織診断結果説明会、禁煙推奨デーの呼び掛けなど、様々な活動を継続的に実施しています。また、これら施策の進捗や成果の第三者評価として、健康経営優良法人(ホワイト500)の認定継続を目標にしています。
④指標及び目標
人的資本経営の3つの目指す姿に向けて、全ての施策に、KPIとその目標を定めて取り組んでいます。施策には、エンゲージメント調査結果から抽出された課題に対する施策も含んでいます。「人的資本の価値最大化」は、これら一つひとつの取り組みの成果を積み上げることで実現できると考えており、目標に向けて、施策の進捗状況を定期的にモニタリングしています。
多様な人材が集まる会社
多様な人材がスキル/能力を伸ばし成長できる会社
安全で健全な職場
(注) 1 特に記載がない限り、一部グループ会社を含みます。
2 意思決定層における多様性を重視しており、管理職及びスタッフ層(総合職同等)での多様性比率です。
3 対象は提出会社です。
4 当社は、海外事業の拡大に伴い、各地域で現地主体の機動的な事業運営を可能とする体制の構築を目指し、マネジメント層の現地化を図ってきました。地域統括における事業運営上の重要なポストをグローバルポストと定め、その多くに現地の社員が就き、現地主導で事業拡大を展開しています。
グローバルに活躍するマネジメント人材の育成を目的に2011年よりグローバル経営大学を実施しています。
5 2023年3月期と2024年3月期に各プログラムを受講した合計人数です。
6 休業度数率=休業災害発生件数÷延べ実労働時間×1,000,000
休業1日以上の労働災害を休業災害と定義しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が中・長期的観点も含め連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があると認識している重要なリスクは、次のとおりです。
なお、将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
当社は、経営陣の主要なリスク認識を基にグループ全体を対象にリスク・アセスメントを実施し、経営会議にてリスク重要度を決定し、取締役会にも報告しています。リスク・アセスメントのプロセスにおいては、リスクを発生可能性と影響度の二軸で評価し、さらに総合的な重要度に従い数段階に管理レベルを分けています。また、抽出したリスクは、当連結会計年度末時点での残余リスクに基づき評価していますが、対応策を講じることでその発生可能性と影響度を低減することを意図しています。管理レベルの高い重要リスクへの対応策の進捗状況を定期的に経営陣に報告する仕組みを構築しています。
2024年度の重要リスクは次の表のとおりです。
代表的リスクと対応策
一方、インシデント発生時には、グループ内の各事業所・部署より即時ならびに定期的に報告がリスク管理部署になされる体制を整備し、影響の軽減と収束に向けた措置を講じることとしています。また、当社経営監査部は、各拠点や地域の内部監査部門と連携し、各拠点からの報告や実地監査等を通してリスクやインシデントの管理状況のモニタリングを行い、その結果を監査委員会に報告しています。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月27日)現在において当社グループが判断したものです。
当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたって、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような見積り・予測を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。
なお、連結財務諸表作成にあたっての重要性がある会計方針及び見積り等については、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表] [連結財務諸表注記] 2.作成の基礎 (6) 見積り及び判断の利用、3.重要性がある会計方針」に記載のとおりです。
(2) 財政状態及び経営成績の状況
当社は2023年5月12日にJISとの間で、当社及びJISが当社のステアリング事業をグローバルに統括する連結子会社であるNS&Cを共同運営すること等を内容とする契約を締結しました。これに伴い、第1四半期連結会計期間より、ステアリング事業を非継続事業に分類しています。売上高、営業利益、税引前利益は非継続事業を除いた継続事業の金額を表示し、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益は、継続事業及び非継続事業の合算を表示しています。なお、当社は2023年8月1日にNS&Cに対する支配を喪失し、第2四半期連結会計期間よりNS&C及び同社の子会社は当社の持分法適用関連会社及びその子会社となりました。支配の喪失に係る損益は非継続事業に、持分法による投資損益は継続事業にそれぞれ含めています。
当社グループは、2022年度から2026年度までの5ヵ年を『中期経営計画2026』と位置づけ、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいます。
当連結会計年度の世界経済を概観すると、景気は欧州と中国において弱さがみられるものの、緩やかな持ち直しが続いています。一方で、インフレの高止まりや為替変動による影響、中国経済の先行き懸念、地政学リスクの高まりなど経済の先行きは未だ不透明な状況にあります。
地域別にみると、日本は足元で一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響により生産活動が低下したものの、景気は緩やかに回復しています。米国では設備投資が伸び悩んだ一方、良好な雇用環境を背景に個人消費が下支えし景気は底堅く推移しました。欧州は個人消費の低迷や鉱工業生産の減少傾向が景況感の悪化につながり景気は停滞しました。中国では不動産市場の低迷が継続し、消費者心理の冷え込みで個人消費が力強さを欠くなど景気は持ち直しの動きに足踏みがみられました。
このような経済環境において当社グループの業績は、為替が円安に推移したこともあり、非継続事業を除いた継続事業の当連結会計年度の売上高は7,888億67百万円(前期比+1.6%)となりました。営業利益は273億91百万円(前期比△37.5%)、税引前利益は262億10百万円(前期比△39.4%)、継続事業及び非継続事業の合算の親会社の所有者に帰属する当期利益は85億2百万円(前期比△53.8%)となりました。
半導体市場における調整局面の継続や中国経済の停滞影響を受けて市況が低迷しました。加えて在庫調整の影響により需要が伸び悩み、当連結累計期間は対前期比で減収となりました。
地域別では、日本は工作機械、半導体製造装置及びアフターマーケット向けを中心に市況悪化の影響を受けて需要が減少しました。米州では半導体製造装置向け、欧州はアフターマーケット向けなどの販売が落ち込み減収となりました。中国はアフターマーケット、工作機械及び電機向けの需要が軟調に推移し減収となりました。
この結果、産業機械事業の売上高は3,448億46百万円(前期比△10.5%)、営業利益は80億7百万円(前期比△77.5%)となりました。
当事業では、成長が期待できる電動化、自動化、デジタル化、環境市場での需要増加を取り込むため、供給力の強化と技術サービス体制の強化を進めています。さらに、状態監視システムやアクチュエータなど新たな高付加価値商品の開発と市場投入も推進することで、産業機械事業のビジネス拡大を目指していきます。
グローバル自動車生産台数は部材の供給制約による生産調整の解消が進んだことで前年から増加し、当連結累計期間は対前期比で増収となりました。
地域別では、日本、米州及び欧州は前年同期に部品供給停滞などを受けて落ち込んだ自動車生産台数が回復に転じたことで増収となりました。中国は前年同期にゼロコロナ政策に伴う厳格な活動規制により生産活動が停滞した反動により増収となりました。
この結果、自動車事業の売上高は4,088億21百万円(前期比+13.8%)、営業利益は185億76百万円(前期比+193.6%)となりました。
当事業では、自動車の電動化に対し、低トルク・高速回転・軽量化といった当社グループの技術力を活かすことで競争力を強化し、さらには電動油圧ブレーキシステム用ボールねじなど将来に向けた新商品の拡大を図ることで事業の成長を目指していきます。
当連結会計年度において、資産合計は前連結会計年度末に比べて648億20百万円増加した1兆2,980億77百万円となり、負債合計は215億90百万円増加した6,201億23百万円となりました。
資本合計は、自己株式の消却等に伴う利益剰余金の減少等があった一方で、その他の資本の構成要素の増加により、前連結会計年度末に比べて432億30百万円増加した6,779億54百万円となりました。
なお、上記の資産と負債及び資本には、売却目的保有に分類される処分グループに係る資産116億43百万円、売却目的保有に分類される処分グループに係る負債113億70百万円、売却目的保有に分類される処分グループに係るその他の資本の構成要素△3億45百万円が含まれています。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。
営業活動により得られたキャッシュ・フローは、税引前利益262億10百万円、非継続事業からの税引前損失29億86百万円、減価償却費及び償却費541億21百万円、運転資本等の加減算に加えて、退職給付信託の一部返還を受けたこと等による退職給付に係る負債及び退職給付に係る資産の増減額279億55百万円により、998億18百万円の収入となりました(前連結会計年度は641億63百万円の収入)。
投資活動に使用されたキャッシュ・フローは、保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却による収入179億71百万円があった一方で、有形固定資産の取得による支出499億33百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による支出109億17百万円、その他の金融資産の取得及び償還等により、908億14百万円の支出となりました(前連結会計年度は487億78百万円の支出)。
財務活動に使用されたキャッシュ・フローは、短期借入金の純減額221億96百万円、ステアリング事業における持分法適用前の借入実施等に伴う長期借入れによる収入706億77百万円、長期借入金の返済による支出300億52百万円、自己株式の取得による支出217億17百万円、配当金の支払額150億37百万円等により、247億80百万円の支出となりました(前連結会計年度は44億17百万円の収入)。
上記により、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて95億25百万円減少した1,505億83百万円となりました。
当連結会計年度は、『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)の2年目であり、当計画に基づき「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んできました。当社グループを取り巻く環境は、産業機械事業において需要の調整局面が継続しましたが、自動車事業がグローバル自動車生産台数の増加に伴い堅調に推移したことに加えて為替影響もあり、前期に比べて増収となりました。
この結果、当連結会計年度における当社が経営上の目標として掲げる指標と実績は、次のとおりです。
(注) 売上高、営業利益率、ROICの新目標及び実績は非継続事業を除いた継続事業のみで表示しています。
2025年3月期の事業環境につきましては、地政学的な緊張の高まりや為替動向の影響を注視する必要があるものの、下期からの設備投資需要の回復、グローバル自動車生産台数は前年と同水準を見込んでいます。このような環境下においても、当社グループは企業理念のもと、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。
(3) 資本の財源及び資金の流動性
『中期経営計画2026』では、持続可能な社会への貢献と不断の企業価値の向上を目指すために、安定した財務体質のもと、収益を伴う成長を遂げてキャッシュを創出することにより、当社の持続的成長のために必要な投資と株主の皆様への安定的な利益還元に資金配分を継続することを、財務戦略の基本方針としています。

(a) 財務安定性の維持
当社グループの持続的な成長を支え、事業環境の変化にも耐え得るには、「財務安定性の維持」が前提となります。自己資本比率、ネットD/Eレシオ、手元流動性など、当社グループの財務安定性を示す指標は健全な状態を保って推移しています。『中期経営計画2026』では、ネットD/Eレシオの目標を0.4倍以下とすることで、安定的な財務基盤を確保しつつ機動的かつ効果的な有利子負債の活用を図っています。
安定した財務体質の下、当社グループは「収益を伴う成長」を持続的に遂げて、キャッシュを創出していきます。創出したキャッシュにより、設備投資や研究開発投資、ESG経営に必要な人的資本、DX、さらにはM&A等への投資を実施して経営資源の強化を図り、当社グループの持続的成長と次のキャッシュ創出に繋げていく考えです。
また、株主・投資家の皆様が期待する資本コストを上回る収益率をあげることは、株式上場会社の使命と言えます。『中期経営計画2026』の後半においては、事業環境の変化を踏まえた見直しを行い、「ROE 8%」、「ROIC 6%」を資本効率性の経営目標に設定しました。しかしながら、当社は、過去の株価動向と事業特性、及び株式市場の現況から推計した当社の株主資本コストは概ね8%~9%と認識しています。従いまして、『中期経営計画2026』を超えた先に「ROE 10%」を実現するよう、収益性の改善、DXによる効率化、資本効率の向上に取り組んでいきます。
(c) 安定的な利益還元
当社グループは株主の皆様に対する「安定的な利益還元」を重要な経営方針の一つとして、『中期経営計画2026』においては、配当性向30%~50%を目標に掲げています。また、機動的な資本政策の手法として、自己株式の取得も選択肢の一つと認識しています。自己株式の取得は、キャッシュ・ポジションや株式市場の動向等を勘案して適切かつ機動的に実施したいと考えており、これらの実行にあたっては、財務状況等を勘案して適切に決定していきます。
なお、2025年3月期より、利益還元の指標としてDOE(親会社所有者帰属持分配当率)を採用します。各期の配当は、配当性向30%~50%に加えて、DOE2.5%を下限の目安に、株主の皆様へ安定的・継続的な配当を実施する方針です。

②財務状況
当連結会計年度の財政状態は次のとおりです。
当連結会計年度では、資金調達の一環で、当社にとって初めてとなるサステナビリティ・リンク・ボンド150億円を発行しました。サステナビリティ・リンク・ボンドは、予めESG(環境・社会・ガバナンス)に関する目標を設定する社債です。当社グループは、サステナビリティ・リンク・ボンドの発行を通じて環境への取り組みを加速させることで、カーボンニュートラルさらには持続可能な社会の発展への貢献をより確かなものとしていくことを目指しています。
当社グループは、経営資源を有効活用するため資産効率の向上にも取り組んでいます。当連結会計年度においては、政策保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却により179億71百万円の収入がありました。加えて、退職給付信託で保有していたみなし保有株式も当連結会計年度に全て売却しました。これら保有株式の売却により、当連結会計年度末の「連結資本合計に対する株式保有金額の比率」は5.5%まで低下しました(前連結会計年度末は15.1%(みなし保有株式を含む))。また、近年、退職給付信託を含む年金資産が退職給付債務に対して大幅な積立超過の状況にあり、今後もその状況が継続することが見込まれることから、2023年4月に退職給付信託から350億円の返還を受けました。
利益還元については、前連結会計年度に比べて減益となったものの、今後の事業環境等を総合的に勘案した結果、当連結会計年度の1株当たり配当金は前連結会計年度と同額の30円としました。また、2023年5月から6月にかけて25,000千株、217億12百万円の自己株式取得を実施しました。これらの結果、配当性向は173.8%、総還元性向は429.1%となっています。なお、取得した自己株式については、既保有の自己株式と合わせて、2023年8月に51,268千株(消却前の発行済株式総数の9.3%分)の自己株式消却を実施しました。
当社グループは現在、自己資金及び金融機関の借入れ等により資金調達を行っています。運転資金について借入れによる資金調達を行う場合、期限が一年以内の短期借入金で各連結会社がその現地通貨で調達することが一般的で、生産設備などの長期資金は、主として長期借入金及び社債で調達しています。
本報告書提出時点において、格付投資情報センターから「A」、日本格付研究所から「A+」の格付を取得しており、外部からの資金調達に関しては問題なく実施可能と認識しています。当社グループは、その健全な財務状況、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力、金融機関とのコミットメントライン契約金額400億円や、コマーシャルペーパー発行枠500億円などにより必要資金の確保と緊急時の流動性を確保しています。
当社グループの販売・生産品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また見込み生産を行う製品もあるため、生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。このため、販売及び生産の状況については、「(2)財政状態及び経営成績の状況」に関連づけて記載しています。
当社グループの事業展開、経営成績及び財務状況等に重要な影響を与えるリスク要因については、「3[事業等のリスク]」に記載のとおりです。
(ステアリング事業の合弁契約について)
当社は、2023年5月12日にJISとの間で、NS&CがJISを割当予定先としてNS&Cの議決権の50.1%に相当する種類株式(以下「本種類株式」)を第三者割当の方法により発行すること(以下「本第三者割当」)、当社及びJISがNS&Cを共同運営すること、本第三者割当の実行に先立ち、NS&Cが当社に対して特別配当を行うこと、並びに、JISの合意を得た上で、本第三者割当に代えて、NS&Cが発行する本種類株式10,041株のすべてを一旦当社が引き受けた上で、その本種類株式のすべてを当社からJISに対して譲渡する取引を行う可能性があること等を内容とする契約(以下「本契約」)を締結しました。
本契約に関し、当社は2023年7月31日、JISとの協議・合意を経て、本第三者割当に代えて、NS&Cが発行する本種類株式10,041株のすべてを一旦当社が引き受けた上で、本種類株式のすべてを当社からJISに対して19,991百万円で譲渡する取引(以下「本取引」)に変更することを決定し、2023年8月1日に本取引を実行しました。
当社グループは、企業理念の中で掲げている「円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざす」を実現するため、社会の変化やお客様の新たなニーズを的確にとらえ、コアテクノロジー(トライボロジー(摩擦・潤滑)技術、材料技術、解析技術、メカトロ技術、生産技術)を駆使した製品開発を進めています。これらの開発活動を通して、高機能・新機能製品をタイムリーに市場へ供給することにより、より豊かな社会の実現と省エネルギーやCO2排出量削減など地球環境の保全を図り、持続可能な社会の実現に貢献します。
特に研究開発では、『中期経営計画2026』において“Bearings & Beyond”を掲げ、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、既存製品の商品力強化と新商品の創出・新事業の拡大に取り組んでいます。
①コアテクノロジー
カーボンニュートラル社会の実現に向けた低摩擦や軽量化、電動化に伴う高速化や静音、水素などの特殊環境下も含めた耐久性など、高度化する要求にスピード感をもって応えていくために、リアルデジタルツイン(注)を活用してコアテクノロジーの強化に取り組んでいます。
当社コアテクノロジーの一つであるトライボロジー技術の領域を拡げるとともに深めていくために、当分野で権威ある日本国内の大学と軸受をはじめとする転がり機械要素のトライボロジー解明の鍵となる、材料、潤滑、力学の3分野において革新的な研究開発を継続的に行う「NSKトライボロジー協働研究拠点」を設置しました。転がり軸受製品の寿命延長や性能向上など、高機能な軸受製品や直動製品の創出につながる画期的なソリューションを産み出していきます。さらに、高度な基礎研究を推進できる人材の育成にも継続的に取り組んでいきます。
そのほか新商品・新事業の創出に向けて、40年以上自社でグリース開発をしてきた化学的見地を活かし、製品内に使用されるグリースを少量サンプリングするだけで、余寿命を測定することが可能なグリース劣化診断技術を開発しました。設備の状態保全において、点検/交換などのメンテナンス負担の軽減とグリース使用量削減を通じた環境負荷低減に貢献します。
(注)リアルな現象を再現して詳細に把握し、そのカラクリを推理してデジタル上にモデル化することにより、リアルとデジタルの両面から目に見えない本質を理解し、エンジニアの創造性を高め、既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出すことを目指す当社独自の取り組み。
事業別の技術開発の状況は以下のとおりです。
②産業機械事業
産業機械の電動化・自動化による生産性向上、さらに状態監視や予知保全にとどまらず補修や再利用までを組み合わせた循環型社会やカーボンニュートラルなど持続可能な社会の実現などが求められる中、当社グループは、これらのニーズに貢献する製品やサービスを開発しています。
生産性向上に関しては、「サーボモータ用低発塵・高機能軸受」を開発し、新開発のグリースとシールにより従来比2倍以上の低発塵性能を実現し、サーボモータの安定稼働、信頼性向上に貢献します。また、開発した「NSKリニアガイドTM NH型/NS型 高作動オプション」では、業界初となる弾性ボールを採用した独自の高作動化技術により、検査装置、測定機などのなめらかな動きを実現します。また、機械加工の高精度化につながる工作機械の設計や要素技術に関する業績が評価され、日本機械学会から「2023年度 生産加工・工作機械部門 技術業績賞」を受賞しました。さらに、「NSKリニアガイド™ 長寿命シリーズDH型/DS型」は、「2023年“超”モノづくり部品大賞」において「機械・ロボット部品賞」を受賞しました。
状態監視については、回転機械だけではなく複雑な加工プロセスで動作する機械設備においても高い精度で状態監視を可能にする直動製品の状態監視システム実用化に向けた開発を開始しました。トライボロジー技術を活かした当社独自の診断技術と既存の状態監視製品やサービスを融合し、より多くのお客様のニーズや幅広い産業の予知保全に対応します。
さらに予知保全については、当社の産業機械設備に関する知見と情報処理サービスを展開する国内メーカーのRFIDタグ技術を掛け合わせた産業機械設備向けの新しい保全管理システムの開発も開始しました。温度センサを搭載したRFIDタグを活用し、現場での点検/保守履歴や設備稼働状態の見える化で作業負担の軽減と安全性向上に貢献します。
そのほか、日本国内における大規模な洋上風力発電ファームを早期に、かつ確実に実現させるための技術的課題の解決にも取り組んでいます。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプログラムで採択された「大型風洞設備による浮体式風車ウエイク現象の評価技術の研究開発」を通じて、ウエイク現象(注)が風車に作用する荷重変化の特性を把握することで、風車用軸受の信頼性向上を通して今後の風力発電の普及に貢献していきます。
上記に加え新事業への挑戦として、ロボティクス分野では、AGVやサービスロボットへの組み込みが可能な「アクティブキャスタ(PalGo)」を開発しました。これは自社技術を活かした電動駆動用キャスタユニットで、床面の段差や凹凸などを問わずスムースな全方向移動を可能とし、商業施設、医療機関、物流拠点など様々な環境で活用が期待されています。また、「令和5年度神奈川県県内産業DXプロジェクト支援事業」に参加し、実際の医療現場で、当社が開発した搬送アシストロボットについて、薬剤カートを使った自律走行搬送の検証を行いました。そのほか、現場の様々な搬送環境に対応する為に、野外環境の走行に適したリンク式サスペンションや、振り子構造による姿勢維持・免振機能などの独自技術を開発し、サービスロボット向けプラットフォームとしての提案も開始しました。さらに、サービス業を中心とした人手作業の自動化に貢献するフィンガーモジュールの共同開発をドイツ航空宇宙センターと開始し、2023国際ロボット展に出展しました。
今後一層高度化する産業機械市場のニーズに応え、『変わる 超える』の新商品を提案し続けます。
(注)「風車ウエイク」は、風車特有の現象で、前方からの風が風車の後ろに流れる際に、風速が落ちたり、風の流れが乱れたりする現象。
③自動車事業
自動車の電動化や自動化の進展、モビリティとしての多様化も進む中で、当社はそれら機能の省エネルギー、安全性、快適性を実現する製品・技術の開発に全方位で取り組んでいます。
省エネルギーに関しては、脱炭素社会を目指した自動車の電動化が急速に進む中、第7世代「低フリクション円すいころ軸受」を開発しました。ころ数の最適化により全回転域で低フリクションを実現し、トランスミッションやeAxleの効率向上を通して、ICEVやEVなどあらゆるモビリティの燃費・電費向上に貢献します。
加えて、航続距離延伸のため多くのバッテリーを積載するなどで増加する車両重量に対し、高負荷容量となる円すいころ軸受を用いたハブユニットの内部部品一体化を拡げ、更なる重量低減と最高水準の低フリクションを実現させた第3世代「円すいころハブユニット軸受」の量産を開始しました。
また電動化の進展に伴い、駆動用モーターの高出力化や駆動電圧の高電圧化により、軸受性能が低下する電食の発生リスクが高まることに対しては、「耐電食ソリューション」の拡充に引き続き取り組んでいます。
さらに、当社の要素技術を高めるために、当社製品が使われるユニット全体を視野に入れて研究開発を進めています。「電動シフトアクチュエータ」や「磁歪式トルクセンサ」など当社が開発した独自機構に、世界最高水準の高速回転軸受を組み合わせることで、トランスミッション機構の省エネルギー化や滑らかな変速制御の実現へ貢献します。
安全性に関しては、「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」の改良を進めています。ボールの循環経路を軸受や周辺部品と一体成型されたナット内径面に直接循環溝を成形することで、循環部品の配置が不要になり、小型・軽量を実現します。
また快適性に関しては、独自の材料技術で軸受を長寿命化した「電動コンプレッサー用軸受」を開発しました。車室内空調に使用されている電動コンプレッサーは、電動車では車載バッテリーや電子機器の熱マネジメントにも使用され、稼働率が高まることから軸受の信頼性の向上が重要になってきています。
多様化するモビリティに関しては、新たな交通手段として注目されるeVTOL(電動垂直離着陸機)に対し、「eVTOL向けガスタービン発電機用軸受」を開発しました。航続距離の延長やカーボンニュートラルの観点で最も現実的な推進機構として使われるガスタービン発電機に対し、新しい軸受潤滑機構を開発することで給油量を減らし、軽量かつ動力損失を抑えつつも、高出力を実現する高速回転性能を確保しました。
そのほか、軸受の摩擦低減、軽量化、長寿命化などのコアテクノロジーを通して、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献していきます。
当連結会計年度の当社グループにおける継続事業の研究開発費は