第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営の基本方針

当社は、グループ経営の方向性を明確にするために、当社グループが事業を通じて果たすべき役割・責任や社会に存在する意義を示した「グループ経営理念」を掲げ、この理念を実現しグループ価値の最大化を図ることを経営の基本方針としています。

「グループ経営理念」の内容は以下のとおりです。

<グループ経営理念>

1  経営理念

小田急グループは、お客さまの「かけがえのない時間(とき)」と「ゆたかなくらし」の実現に貢献します。

2  行動指針

私たちは、経営理念の実現のため、3つの精神を忘れることなく、お客さまに「上質と感動」を提供します。

(真摯)

私たちは、安全・安心を基本にすべての事業を誠実に推進します。

(進取)

私たちは、前例や慣習にとらわれず、よりよいサービスの追求に挑戦します。

(融和)

私たちは、グループ内に留まらない外部との連携、社会・環境との共生に取り組みます。

 

当社グループでは、「グループ経営理念」を実現するため、経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」を策定し、グループ価値・沿線価値の向上に努めています。

 

経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」

① 全体方針

「地域価値創造型企業にむけて」

私たちは、小田急沿線や事業を展開する地域とともに成長するために、

既成概念に捉われず常に挑戦を続けることで、お客さまの体験や環境負荷の低減など

地域に新しい価値を創造していく企業に進化します。

 

グループの経営理念の実現に向けて、経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」のもと、外部環境の変化を捉えた改革を継続しつつ、飛躍的成長を目指します。

加えて、「サステナビリティ経営の推進」を経営計画体系に包含するとともに、6つのマテリアリティ(重要テーマ)について、目標・モニタリング指標を設定し、社会課題の解決を通じた持続可能な成長を実現します。

 

(参考1)経営計画体系

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(参考2)マテリアリティおよび目標・モニタリング指標

マテリアリティ

目標・モニタリング指標

1.安全・安心

◆鉄道事業における自社起因の運転事故・インシデント数:ゼロ(毎年度)

◆バス・タクシー事業における死者・重傷者の発生:ゼロ(毎年度)

□鉄道サービスの総合満足度

2.まちづくり・地域社会

□沿線エリアの人口

□強化エリア主要駅の乗降客数(1日あたり)

□居住地域の総合満足度

□生き方(well-being)の総合満足度

3.日々のくらしと観光体験

□小田急ONE ID数

□フリーパス販売枚数(箱根/江の島・鎌倉)

□沿線観光エリアの来訪者数(箱根町/藤沢市)

4.環境(カーボンニュートラル)

◆小田急グループCO2排出量:

 2013年度比△50%(2030年度)/実質ゼロ(2050年度)

5.価値創造型人財の育成

◆女性従業員(正社員)比率:20%(2030年度)/35%(2050年度)

◆女性管理職比率:15%(2030年度)/30%(2050年度)

◆男性育児休業取得率:100%(2030年度)/100%(2050年度)

6.ガバナンス

◆重大な法令違反の発生件数:ゼロ(毎年度)

◆女性役員比率:30%(2030年度)

□独立社外取締役比率

◆目標 □モニタリング指標

 

② 変革の取り組み

2021年度から2023年度までを体質変革期、2024年度から2030年度までを飛躍期と定めています。

 

 

体質変革期(2021~2023年度)

3つの経営課題(「利益水準の回復」、「有利子負債のコントロール」、「事業ポートフォリオの再構築」)と3つの発想(「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、「共創」、「ローカライズ」)を通じた事業の変革に取り組んだ結果、財務健全性の回復目安を上回りました(2023年度実績:有利子負債残高6,269億円、有利子負債/EBITDA倍率6.5倍)。

 

飛躍期(2024~2030年度)

未来の小田急の持続的な成長につながる事業創造や拡大を進め、地域価値創造型企業として次の100年を歩むため、「経営ビジョンを実現する2つの進化」により、新たな価値を生み出します。

<経営ビジョンを実現する2つの進化>

ア 地域経済圏発想での事業展開

新宿や海老名をはじめとする中核都市それぞれを“地域経済圏”単位で捉え、地域・パートナーと連携し、4つの事業領域(「交通」、「不動産」、「デジタル」、「生活サービス」)を連動させた施策を実施します。

イ 事業ポートフォリオの最適化

不動産領域を収益の第一の柱としつつ、デジタル領域を新たな成長領域と位置付けます。また、4つの事業領域において、成長投資を拡大するとともに、適切なKPIの設定および進捗状況のモニタリングの実施により、2030年度営業利益目標の達成を目指します。

 

③ 連結財務目標

「地域価値創造型企業」を目指し、社会的価値や株主価値の向上を図りつつ、持続的な利益成長を実現します。

重要指標

2026年度計画

2030年度目標

 

長期方針

利益の成長

営業利益

500億円

前回目標比※1

+40億円

700億円

前回目標比※1

+100億円

 

持続的な

利益成長

資本コストを

意識した経営

ROE※2

6.2%

7%以上

 

さらなる向上

財務健全性の

確保

有利子負債/

EBITDA倍率

7.8倍

7倍程度

 

利益成長に

よる改善

※1 2023年4月公表目標比

※2 親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本(有価証券評価差額除く)

 

④ 株主還元

基本方針

自己資本比率30%の確保を前提に、2023~2026年度の平均で、連結総還元性向40%以上を目標とした安定的な配当および機動的な自己株式取得を実施

配当

2023年度および2024年度は1株あたり年間30円を予定

 ※ 2023年度は年間22円から配当予想を修正

自己株式取得

経営環境の変化や業績等を総合的に勘案したうえで実施時期を検討

 ※ 2023年度実績:123億円

 

(2) 経営環境及び優先的に対処すべき課題

経営ビジョンの実現のため、4つの重点施策に取り組むとともに、3つの戦略およびガバナンスによる経営基盤の強化を推進します。各施策および戦略等の概要は、以下のとおりです。

 

① 重点施策

ア 交通領域の進化

人手不足への対策と災害への耐性強化に重点的に取り組み、持続可能な運営体制を早期に確立するとともに、移動需要の喚起等による安定的な利益獲得を目指します。

具体的には、少人数での鉄道事業運営体制の構築を目指し、ワンマン運転の詳細な仕様やオペレーション等の検討の深度化を図るとともに、各種業務の効率化を進めます。加えて、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用したホームドアの設置や耐震補強工事の推進により、安全・防災対策を強化しつつ、大野総合車両所の移転をはじめとした大規模な設備更新を推進するなど、持続可能な運営体制の強化に努めます。また、子育て世代への応援施策の推進や顧客データ等を活用した新たな増収施策の展開により、収益の最大化を図ります。

 

イ 不動産領域の強化

収益の第一の柱として集中的に資本を投下し、沿線開発および投資手法・フィールドの拡大を推進することで、2030年度の営業利益300億円の達成と収益力・資産効率の向上を目指します。

具体的には、新宿駅西口地区開発計画において、共同事業者等との共創によるプロジェクト価値の最大化に取り組むとともに、ハイグレードなオフィス機能や新たな顧客体験を実現する商業機能、来街者と企業等の交流を促すビジネス創発機能を提供します。また、引き続き海老名駅間地区の開発計画を推進するなど、沿線中核都市を中心とした多彩なまちづくりを進めます。加えて、回転型投資や国内SPC投資、海外不動産事業にも取り組み、獲得した資金やノウハウを、沿線開発をはじめとした更なる不動産事業の強化に活かします。

 

ウ デジタルを活用した新規事業の探索・成長

事業創造ノウハウ・多様な人財の活用や研究開発費の投下により、社会課題の解決を起点とした新規事業を創出するとともに、デジタルの強みを活かし、沿線外にも事業展開することで、2030年度の営業利益30億円を目指します。

具体的には、「MaaS Japan」や「EMot」等のMaaSプラットフォームにおいて、顧客接点および取扱額の拡大を図るとともに、資源・廃棄物の収集運搬の最適化に向けたコンサルティングサービス等を提供するウェイストマネジメント事業「WOOMS(ウームス)」や、自治体・町内会の電子回覧板や災害時の情報共有ソリューションを提供する自治会・町内会SNS「いちのいち」等の新規事業の収益・利益規模の拡大に努めます。あわせて、地域のインフラ分野を中心とした新規事業の探索・創出を図ります。

 

エ 観光需要の取り込み/地域を彩る生活サービス

日本屈指の観光地を持つポテンシャルを活かし、インバウンドを含む旺盛な観光需要を着実に取り込みます。また、日々のくらしに密着したサービスや心躍るコンテンツの展開により、将来にわたって選ばれる沿線を目指します。

具体的には、観光需要の取り込みに向けて、箱根エリアにおける既存ホテルのバリューアップ等を進めるとともに、ダイナミックパッケージの拡充により、利便性や顧客体験価値を高めます。また、生活サービスについては、ストア・小売業において、新規出店の積極的な推進や、㈱セブン&アイ・ホールディングスとの業務提携を通じたMD・オペレーションの継続的な改善等により、営業利益の拡大を図ります。さらに、地域密着型サービスプラットフォーム「小田急ONE(オーネ)」について、顧客とのデジタル接点の中心に据え、鉄道・駅ナカサービス・地域限定のサブスクリプション商品等、コンテンツを充実させることで、2026年度での会員数60万人(2023年度末:32万人)の実現に努めます。

 

② 経営基盤の強化

 

概要と取り組みの例

DX戦略

リアルな資産・サービス・仕事とデジタル技術の融合により、「Smart(業務のスマート化)」、

「Update(心躍る顧客体験)」、「Create(ゆたかな未来の創造)」の3つの価値を創出します。

●ローコードツールの活用によるアプリケーション開発・運用を推進

●当社全社員のデジタル関連基礎知識保有に向けた取り組みを推進

環境戦略

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」の実現に向けた施策を具体化するとともに、資源循環の取り組みやTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示を推進します。

●EVバス(電動バス)を2030年度までに約500台導入予定

 ※ 神奈川中央交通㈱での導入台数を含みます

●当社グループ施設等から排出される食品廃棄物を、パートナー企業とともに飼料およびバイオガス

 発電の燃料としてリサイクルし、発電された電力を利用

人財戦略

従業員のエンゲージメントや労働生産性の向上に資する施策を実行します。

●「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」に基づき、女性活躍推進目標の達成に向けた施策や

 健康経営を推進

●処遇改善等の施策の推進による人財の確保・定着

ガバナンス

各ステークホルダーの利益の最大化や当社グループの持続的な成長、中長期的な企業価値の向上等に

向けて、各種施策を推進します。

●過半数が独立社外取締役で構成される指名・報酬諮問委員会や、取締役会実効性評価の仕組み等を

 活用した取締役会の監督機能の強化

●「小田急グループ人権方針」および「小田急グループ サステナブル サプライチェーン方針」

 「小田急電鉄 マルチステークホルダー方針」に基づく取引先等とのコミュニケーションを実施

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) サステナビリティ全般

当社グループは、経営理念を「お客さまの“かけがえのない時間(とき)”と“ゆたかなくらし”の実現に貢献します。」と定めています。環境や社会の持続性に配慮しながら継続的な企業成長を目指す「サステナビリティ経営の推進」はその根幹を成すものです。経営計画体系において、経営ビジョン「UPDATE 小田急」の上位概念となる不変の考え方として「サステナビリティ経営の推進」を位置付けることで、6つのマテリアリティ(重要テーマ)を経営の中心に据え、社会課題の解決を通じた持続可能な成長を実現していきます。

 

マテリアリティ

1.安全・安心

・安全・安心を最優先した公共交通サービスの提供

・誰もが安心して暮らせる社会の追求

2.まちづくり・地域社会

・職,住,商,学・遊、ウェルネスを兼ねそなえたまちづくりの実現

・地域資源を活かしたまちの発展

3.日々のくらしと観光体験

・テクノロジーを活用したゆたかなライフスタイルの推進

・その地域ならではの観光体験の提供

4.環境(カーボンニュートラル)

・省エネ、再エネ、電動化、地域との連携による脱炭素社会の実現

・「Beyond Waste」を目指した資源循環社会の実現

5.価値創造型人財の育成

・すべての社員が自分らしく働ける企業風土の醸成

・持続可能な経営を実現するための人財育成

6.ガバナンス

・すべてのステークホルダーの期待に応える最適なガバナンス体制の

実現

 

① ガバナンス

当社グループは、環境や社会の持続性に配慮しながら事業の継続・発展を実現するサステナビリティ経営をグループ全体で浸透・推進するとともに、お客さま・社会・市場・従業員等のさまざまなステークホルダーとの強固な信頼関係の構築を通じて企業価値の向上を実現します。

そして、サステナビリティ推進に関する施策の企画立案や推進等に関する事項の協議や推進指標の設定・進捗確認等を行う機関として、サステナビリティ担当執行役員が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会を設置しています。取締役会および取締役社長は同委員会から報告を受け、目標に向けた進捗状況やリスク・機会等を監視し、必要により指示を出すことにしています。同委員会で協議した事項は、当社各部・室および当社グループ全体で共有・連携を図り、取り組みを推進します。

 

(サステナビリティ推進委員会体制図)

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② 戦略、指標及び目標

外部環境の変化や当社グループの事業特性等を踏まえ、以下のようにリスク・機会を整理しています。

 

リスク

機会

 ・少子高齢化による沿線人口・生産年齢人口の減少

・自然災害による事業影響

・物価の上昇や金利の上昇

・適正な労働力確保に対する懸念

・ライフスタイルの変化やデジタル化による

 各事業の利用者減少

・サイバー攻撃による情報漏洩や人権侵害等の

 企業不祥事による社会的信頼の棄損

・安全に対する信頼の棄損

・交通弱者の増加に伴う公共交通の利用ニーズ拡大

・デジタルの活用によるリアルサービスの質的転換、

 価値向上

・地域の社会課題解決を通じた事業領域の拡大、

 居住エリアの役割の多様化

・サステナビリティ意識の高まり

 ・インバウンドの大幅な伸び

 

 

 

当社グループは日本屈指の観光地や中核都市を複数持ち、さまざまな需要回復の影響を大きく享受することが期待できるほか、一定の人口を持つ都市が集積する小田急沿線は、多様な地域特性を有するがゆえに数多くの社会課題が存在しており、これらをビジネスとして解決することで新しい事業機会につなげるとともに、個性を持ったまちの形成を通じて新たな価値を創出していきます。

なお、マテリアリティとして選定した各項目において向き合う主な社会課題は以下のとおりです。これらの社会課題を解決することを通じて、マテリアリティの実現、ひいてはサステナビリティ経営の推進につなげます。

 

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③ リスク管理

地域価値創造型企業として地域に価値を提供し続けるために、環境変化を的確に捉え、社会課題を解決していくことが求められています。サステナビリティ推進委員会の事務局となる経営戦略部が主体となって、マテリアリティの進捗状況を確認し、その見直しを検討するなかで、各部・室、グループ会社と連携してリスク・機会に関する精査を行い、検討内容を同委員会で協議するとともに、必要に応じて取締役会・執行役員会および取締役社長に報告します。

 

(2) 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)

当社グループでは気候変動問題を含む環境対応は重要な経営課題として位置づけ、2021年9月に「小田急グループ カーボンニュートラル2050※」を策定するとともに、TCFDへの賛同を表明しました。また、これらに基づきカーボンニュートラルへの取り組みを進めるとともに、当社グループの「TCFD提言に基づく情報」を取りまとめました。なお、リスクと機会については、運輸業と不動産業を対象として検討を行いました。今後もTCFD提言に基づく情報開示を進めるとともに、気候変動問題等の環境対応に積極的に取り組みます。

 ※ 当社ホームページ

   https://www.odakyu.jp/sustainability/carbon-neutral/

 

① ガバナンス

当社グループでは、サステナビリティ担当執行役員が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会を設置しています。その中で、環境長期目標を含めた行動指針「小田急グループ カーボンニュートラル2050」推進に関する事項の協議および気候関連のリスク・機会についての特定等を行っています。

また、取締役会および取締役社長は同委員会から報告を受け、目標に向けた進捗状況や気候関連のリスク・機会等を監視し、必要により指示を出すことにしています。同委員会で協議した事項は、当社各部・室および当社グループ全体で共有・連携を図り、取り組みを推進しています。

 

② 戦略

 ア リスクと機会

当社グループにおいて運輸業と不動産業の重要なリスクおよび機会について検討した結果は次のとおりです。なお、気候変動がもたらすリスクは、TCFD提言に合わせて、低炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク、主に1.5℃シナリオ※1)と物理的な影響に伴うリスク(物理的リスク、主に4℃シナリオ※1)に分類し、検討しました。検討においては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、IEA(国際エネルギー機関)等のシナリオを参照しました。

 

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 イ リスク・機会への対応

当社グループでは、重要なリスク・機会に対し「小田急グループ カーボンニュートラル2050」とともに、以下の表のとおり対応しています。

 

対応策

移行リスク

省エネ車両・設備の導入/新規物件への先進技術導入/EV・FCVバスの導入/再生可能エネルギーの導入

物理的リスク

異常気象時における鉄道施設への安全対策/車両避難に備えた体制の確立/防災訓練の実施

機会

回生電力の更なる有効活用/グループ交通網の再エネ100%化等環境優位性のPR/シームレスかつ利便性の高いMaaSの推進/ウェイストマネジメント事業「WOOMS」の推進

 

③ リスク管理

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」の実現に向けて、サステナビリティ担当執行役員が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会においてCO2排出量を削減するための施策の計画・立案・進捗管理を四半期に1回程度行っています。また、戦略において特定した気候変動によるリスクと機会について、分析内容の更新や取り組みの進捗を同委員会で協議するとともに、必要に応じて取締役会・執行役員会および取締役社長に報告します。協議した事項は、当社各部・室および当社グループ全体で共有・連携を図っています。

なお、自然災害等発生したリスクに対しては、危機管理規則および事業継続計画(BCP)に基づき対応を行います。これらはリスクマネジメント担当執行役員が委員長を務めるリスクマネジメント委員会にて定期的に見直しを図り、レジリエンス強化に努めています。

 

④ 指標及び目標

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」の中で環境長期目標を設定しています。

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(3) 人的資本・多様性

① 戦略

 <人財に関する基本的な考え方>

 当社グループでは、経営ビジョンの実現に向けたマテリアリティの一つとして「価値創造型人財の育成」を選定しています。また、中期経営計画において、「人財の確保・定着」「“個”の多様性の発揮」「基盤の充実」の3つを人事戦略の重点課題と設定し、各種施策を推進しています。

 

 

価値創造型人財

小田急で働くすべての人が「UPDATE 小田急」につながる新しい価値を創造していく

<大切にしたいこと>

・自分の仕事を通して地域に「価値」を生み出していくこと

・「価値」とは、お客さまや共に働く仲間たちの心を動かし、会社やビジネスパートナーの発展に寄与し、そして地域とともに自分自身の成長を生み出していくこと

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多様かつ持続的に価値の総和が積みあがることで、

「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」の実現につながっていく

 

<価値創造型人財の行動原理>

地域に新しい価値を生み出す人財とは?

1.「顧客とは?社会とは?」を自分ごととして問い続け、自ら学び続ける

2.顧客や社会にとっての価値を内部のみではなく、外部に積極的に発信して、共鳴、共感を得る

3.自前主義、委託主義を脱却し、最適なパートナーとともに、多様な視点から共創し、価値を創造していく

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重点課題①人財の確保・定着

人財確保に向けて、初任給の引き上げをはじめとする処遇改善・福利厚生の充実や事業成長に必要な人財の積極採用を行っています。

 

・人財ポートフォリオの構築

グループの持続的な成長を実現しながら「地域価値創造型企業」を目指すために必要な事業領域ごとの人財像を明らかにしたうえで、育成や採用を通じて最適な人財ポートフォリオの実現を目指します。

 

・働きやすい環境づくり

当社では、多様な人財が仕事と家庭を両立しやすい環境を整えるために、法定を上回る内容でさまざまな両立支援制度を導入し、制度の理解・浸透・活用促進を進めています。

 

 (主な両立支援制度)

育児

育児休業:最長で子が3歳に達するまで、最大6回に分割して取得可能

育児短時間勤務:小学校4年を終了するまで取得可能

配偶者出産休暇:5日間の有給休暇を付与 等

介護

被介護者1人につき、連続休業、指定日休業、短時間勤務を最大3年取得可能 等

治療

休務・休職制度

がん等の治療短時間勤務 等

啓発・

その他

監督者向けD&I・両立支援研修

育児者向けセミナー・介護者向けセミナー

妊活・産婦人科・小児科相談窓口の整備、情報発信 等

 

 (2023年度の数値効果)

女性育児休業取得率

100.0%

配偶者出産休暇取得率

93.3%

年次有給休暇取得率

89.4%

自己都合離職率

2.0%

入社3年後定着率(新卒)

94.0%

 

・若年層支援

若年層を中心とした処遇改善のほか、入社後の独身寮でのフォロー体制や帰省交通費支援制度等の社会的・経済的な自立支援を行うなど、優秀な人財の獲得と定着に向けた取り組みを継続的に推進しています。

 

・健康経営の推進

当社では、社員や社員を支える家族が心身共に健康であることが個人の活力向上や組織の活性化を生み、企業の持続的な成長につながるものと考えることから、「健康管理から疾病を未然に防ぐための健康支援」に重点を置いた健康経営に積極的に取り組んでいます。

各健康経営施策を通じて、「アブセンティーイズム※1の低減」、「プレゼンティーイズム※2の低減」、「ワーク・エンゲージメントの向上」を実現し、安全で安定したサービスの提供につなげます。

※1 病欠

※2 職場に出勤しているが、何らかの健康問題によって業務の能率が落ちている状況

 

重点課題②“個”の多様性の発揮

・従業員のスキルアップ

当社では、資格・役割に応じた各種研修を計画的・体系的に実施しています。

また、事業運営上必要な資格の保有者を確保するとともに、自己啓発意欲を高め、従業員の能力開発に資することを目的として、「資格取得支援制度」を2012年度に制定しました。2023年度にはDX推進に向けてデジタル関連の対象資格を拡充するなど、社員へ学びの機会を提供しています。

 

 (資格取得支援制度 対象資格数)        (資格取得支援制度 申請数)

2012年度

2021年度

2023年度

 

2021年度

2022年度

2023年度

56資格

78資格

97資格

 

212件

168件

170件

 

・価値創造行動の加速

当社では、社員の挑戦を引き出す制度として、新規事業のアイデア公募制度や労働時間の20%を所属部署とは異なる社内プロジェクトに参画できる制度を構築し、社員の自主性に基づく挑戦を促進しています。

既に新規事業4件が事業化されるとともに、これまで本社社員の約15%(延べ人数)が社内プロジェクトに参加するなど、継続的に成果が出ています。

 

 

・女性活躍の推進

当社では、女性活躍推進に関する数値目標を設定し、その実現に向けて取り組んでいます。高い男性育児休業取得率および取得日数を実現しているほか、2021年4月に初の女性執行役員登用後、2023年4月には女性グループ会社社長就任、2024年6月には女性取締役登用など、今後も女性のキャリア促進に積極的に取り組みます。

 

 (男性育児休業取得に関する実績・目標)

 

2022年度実績

2023年度実績

2030年度目標

男性育児休業取得率

73.8%

92.0%

100.0%

男性育児休業取得日数(平均値)

94.5日

84.5日

 

 (女性活躍に資する風土づくり施策)

プレママ面談

産休前に、休業中の過ごし方や復職後の働き方について考える目的で、本人・上司・人事部の三者で面談を実施しています。

育休者懇談会

復職セミナー

スムーズな復職や仕事と育児の両立に向けて、育休者同士や先輩社員との交流等の機会を設けています。

女性活躍セミナー

ライフイベントを経ても意欲的に働き続けることを目指し、セルフマネジメントを学ぶワークショップや各種啓発施策等を開催しています。

 

重点課題③基盤の充実

・社内コミュニケーションの強化

年度計画の策定を所属員全員参加型で行う「未来創造会議」をはじめとした社員同士の対話の機会を多く設けています。

管理職を中心にコーチング研修を実施し、上司のコミュニケーションスキルの向上を図っているほか、すべての社員を対象に上司と部下のキャリア対話の機会を年1回以上設けていきます。

 

・多様な人財の活躍推進

当社では、さまざまな特性を持つ社員一人ひとりが力を発揮し活躍できる職場環境づくりに努めています。2003年に特例子会社㈱ウェルハーツ小田急を設立し、障がい者の社会参加・自立をサポートしています。

 

(障がい者雇用率)

 2024年3月末 3.7%

※ 法定雇用率 2.5%(2024年3月末現在)

※ 法定雇用率は段階的な引き上げが見込まれています(2026年7月に2.7%を予定)

 

・人権の尊重

小田急グループ人権方針を踏まえ、階層別研修において講義を行うなど、人権に関する教育機会の充実を図っています。

 

 

② 指標及び目標

 (女性活躍推進に関する当社グループの実績・目標)

 

2023年度実績

2030年度目標

2050年度目標

女性従業員(正社員)比率

15.5%

20.0%

35.0%

女性管理職比率

12.9%

15.0%

30.0%

男性育児休業取得率

70.4%

100.0%

100.0%

(注)男性育児休業取得率について、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。

 

 

 (女性活躍推進に関する当社の実績・目標)

 

2023年度実績

2030年度目標

2050年度目標

女性従業員(正社員)比率

9.7%

15.0%

35.0%

女性管理職比率

5.4%

12.0%

30.0%

男性育児休業取得率

92.0%

100.0%

100.0%

(注)男性育児休業取得率について、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。

3【事業等のリスク】

当社グループでは、「小田急グループリスクマネジメント方針」に基づきグループ全体のリスクマネジメント体制を構築し、企業経営に重大な影響を与えるリスクの対策を検討・推進する取り組みを行っています。これらを通じて把握したリスクのうち、投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクについては、次のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、当報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき当社グループが判断したものです。また、以下のリスクは当社グループのすべてのリスクを網羅したものではありませんのでご留意ください。

その他、気候変動がもたらすリスクについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」にも記載しています。

 

(1)災害等

① 大規模な地震・津波の発生

大規模な地震等が発生した場合、当社グループの各事業において、人的被害、建物・設備が損傷するなどの直接的被害のほか、電力不足等による営業への制約、消費マインドの冷え込みによる収益の減少といった間接的被害により、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループの事業エリアの一部は東海地震に関する地震防災対策強化地域に含まれています。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、事業継続計画(BCP)の制定、建物・設備の耐震補強工事を推進するとともに、一部の駅において災害発生時の避難場所を示した案内や外国語案内の掲出、行政機関と連携した異常時対応訓練を行い、さらに、全ての駅・関係施設において災害備蓄品を整備するなどの諸施策を実施しています。

② 自然災害の発生

当社グループでは、集中豪雨および暴風等、大規模な自然災害が発生した場合、当社グループの各事業において、人的被害、建物・設備の損傷、被害箇所の復旧等に伴う費用の増大等のほか、列車運休等の営業上の制約、消費マインドの冷え込み等による収益の減少により、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、防災計画に基づいた警戒体制、運行規制の徹底、各種構造物に対する防護工事や雨量計、風速計の設置、危険箇所への定点観測カメラによる監視等を実施しています。

③ 感染症の流行

当社グループは、鉄道・バス・商業施設等多数のお客さまが利用されるサービスを展開しています。当社グループの事業エリアにおいて、新型インフルエンザ等の感染症が大規模に流行した場合、施設を利用されるお客さまの減少や、従業員の感染が多発することで、鉄道の列車運行等の事業運営に支障をきたし、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、事業継続計画(BCP)を制定し、マスクやアルコール消毒液等の備蓄、情報収集体制の構築等の諸施策を実施しています。

 

(2)事故等

① 事故等の発生

当社グループの各事業において、人為的なミスや機器の誤作動、テロ等の不法行為等によって大きな事故や火災等が発生した場合、人的被害や事業の中断等が生じるとともに、被害者に対する損害賠償責任や施設の復旧等に伴う費用が発生する可能性があります。また、顧客の信頼および社会的評価の低下により、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、事業継続計画(BCP)の制定、リスク事案の共有、計画的な設備更新・点検、各種訓練・教育の充実等により類似事案の発生防止・対応力強化を図っています。

② 保有資産および商品の瑕疵・欠陥

当社グループが保有する資産に、瑕疵や欠陥が見つかった場合または健康や周辺環境に影響を与える可能性等が指摘された場合、改善・原状復帰、補償等にかかる費用が発生する可能性があります。また、当社グループにおいて販売した商品等について瑕疵や欠陥が見つかった場合についても、改善および補償等に伴う費用の発生や信用低下等に伴い当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、構造物への法令に基づく各種検査、商品への衛生検査・表示検査・細菌検査、外部機関による監査等の諸施策を実施しています。

③ システム障害の発生

当社グループの事業は、コンピューターシステムや通信ネットワークといった情報システムに大きく依存しています。そのため、事業活動に不可欠なシステムやネットワークの安定稼働に必要な対策を実施していますが、コンピューターウイルス等の第三者による妨害行為、自然災害および人為的ミス等により重大な障害が発生した場合、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、「小田急グループの情報システムにおける情報セキュリティ基本方針」を制定し、グループ全体で情報セキュリティに取り組んでいます。また、ネットワーク障害への耐性向上施策のほか、増加するサイバー攻撃に対して、情報セキュリティ体制の構築や、ファイアウォール等の設置、最新の脅威情報等を共有する取り組みを実施しています。

(3)コンプライアンス等

① コンプライアンス

当社グループでは、コンプライアンスを「法令、社内規則、社会通念等のルールを守るとともに、誠実に事業活動を実践していくための考え方およびその取り組み」と定め、推進していますが、これらに反する行為が発生し、社会的信頼を損なった場合には、法令等に基づく制裁や社会的制裁等により、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、コンプライアンスアンケートの実施とその結果に基づく活動計画の策定・運用の推進、問題の早期発見・対応のためのコンプライアンス・ホットライン整備、各種研修やセミナーの充実等の諸施策を実施しています。また、ステークホルダーとの健全な関係性構築に向けて、人権尊重およびそれに配慮したサプライチェーン構築へのコミットメントである「小田急グループ 人権方針」「小田急グループ サステナブル サプライチェーン方針」を策定しており、今後、リスク対応、教育・浸透、取引先コミュニケーション等、方針に基づく具体的な運用を推進します。

② 機密情報管理

当社グループはクレジットカード事業を行っているほか、各種事業において顧客情報等の個人情報を含む機密情報を保有しています。機密情報については厳正に管理していますが、何らかの理由で情報の漏洩等の事態が生じた場合、損害賠償や信用の低下等により、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、事業継続計画(BCP)を制定し、情報にかかる規程類やマニュアルの整備、セキュリティ対策、定期的な研修・資格取得支援等の諸施策を実施しています。

③ 情報開示

人為的ミス等により不適切な情報開示等があった場合、顧客の信頼および社会的評価の低下等により、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、それぞれの事業特性に応じた内部統制の整備、運用に努めることで、適時適切な情報開示に取り組んでいます。

(4)経営環境等

① 人財の確保

当社グループの事業は労働集約型の事業が多く、労働力として質の高い人財の確保が重要となります。そのため、優秀な人財を確保、育成し、働きやすい職場環境の確保と健全な労働環境の維持に努めていますが、これを達成できない場合、当社グループの事業展開が制約され、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクへの対応策として、採用WEBサイトの整備、中途採用や多様な採用手法の推進、36協定の順守や処遇改善、福利厚生の充実、業務のシステム化や見直しによる業務効率化等の諸施策を実施しています。

② 法的規制

当社グループは、鉄道事業法、道路運送法、大規模小売店舗立地法、建築基準法等の各種法令や排ガス規制をはじめとした公的規制のもとさまざまな事業を展開していますが、これらの法令・規制、特に東京都・神奈川県における諸制度の変更は当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

なお、鉄道事業における運賃制度については以下のとおりです。

鉄道運送事業者は、旅客の運賃の上限を定め、または変更しようとする場合、国土交通大臣の認可を受けなければならないことが法定されています(鉄道事業法第16条)。

また、その上限の範囲内での運賃等の設定・変更ならびに特急料金等その他の料金の設定・変更については、事前の届出で実施できることとなっています(鉄道事業法第16条)。

当社グループでは、法改正等に適切かつ迅速に対応するため、定期的な法令改正情報の共有や法令改正に対応した各種研修・セミナーの充実等の諸施策を実施しています。

③ 金利の変動

当社グループは鉄道事業を中心に継続的な設備投資を行っており、借入金や社債等により資金を調達しています。よって、金利の変動および当社の格付の変更が、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、有利子負債に占める長期・固定金利の割合を高く保つことで、金利が大きく変動した場合でも支払利息が急激に増えることのないよう努めています。

④ 重要な訴訟

当社が当事者となる重要な訴訟はありませんが、通常の業務の過程において第三者から訴訟その他の法的手段を提起されたり、行政等から調査を受けたりする可能性があります。これらの対応の負担に加え、仮に当社に不利な判決、決定等が下された場合、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、当該リスクを回避するために、訴訟リスクの低減や法務対応力強化に向けて、契約書様式の制定・活用や顧問弁護士との連携強化、法務教育の充実等の諸施策を実施しています。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

① 経営成績

当期のわが国経済は、企業収益や雇用・所得環境が緩やかに改善する中、個人消費が持ち直すなど、全体として緩やかな景気の回復が続きました。

このような状況のもと、新型コロナウイルス感染症の5類移行等により事業環境が改善し、鉄道業やホテル業において増収となったことなどにより、営業収益は409,837百万円(前期比3.7%増)、営業利益は50,766百万円(同90.8%増)となったほか、経常利益は50,670百万円(同101.7%増)となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、小田急センチュリービルの売却に伴い固定資産売却益を計上したことなどにより、81,524百万円(同100.1%増)となりました。

セグメントごとの業績は、次のとおりです。

 

ア 運輸業

鉄道業では、輸送面において、本年3月、ホームドアの設置が予定されている特急停車駅における、ゆとりを持った運行計画への変更等を目的としたダイヤ修正を実施しました。また、通勤車両3000形について、多様なお客さまのニーズに対応すべく、各車両へ「車いす・ベビーカースペース」を1箇所設けるとともに、環境面に配慮したリニューアルを実施し、3編成が営業運転を開始するなど、輸送サービスの向上を図りました。

営業面では、昨年4月、江ノ島電鉄㈱が首都圏で初めて、全駅でタッチ決済対応のカード(クレジット、デビット、プリペイド)やスマートフォン等による鉄道乗車を開始するなど、各社で決済方法を拡充し、利便性の向上を図りました。また、昨年8月、子育て応援を象徴するマスコットキャラクター「もころん」がデビューするとともに、通勤車両5000形1編成を期間限定で「もころん号」として運行するなど、「子育て応援ポリシー」に基づく取り組みを推進しました。

施設面では、列車運行の安全性を一層高めるため、町田駅および本厚木駅(3、4番ホーム)にホームドアを設置したほか、大規模地震による被害を抑制すべく、町田駅~相模大野駅間等の橋梁での耐震補強工事を実施しました。また、犯罪の抑止や事件の早期解決等を目的として、通勤車両16編成および特急車両4編成に車内防犯カメラを設置しました。

バス業では、各社において、安定した輸送サービスを今後も持続的に提供していくため、運賃改定を実施しました。また、小田急バス㈱、㈱江ノ電バスおよび立川バス㈱において、EVバス(電動バス)の運行を開始し、環境負荷の低減に努めました。このほか、各社でお客さまのニーズに対応したダイヤ改正等を実施し、利便性の向上を図りました。

以上の結果、当社鉄道事業において、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い通勤・外出需要が増加し、定期・定期外ともに輸送人員が前期を上回ったことに加え、鉄道駅バリアフリー料金制度を適用したことなどにより、営業収益は170,304百万円(前期比12.3%増)、営業利益は25,571百万円(同202.1%増)となりました。

 

 

(提出会社の鉄道事業運輸成績表)

種別

単位

当連結会計年度

(2023.4.1~2024.3.31)

 

対前期増減率(%)

営業日数

 

366

0.3

営業キロ

 

キロ

120.5

0.0

客車走行キロ

 

千キロ

174,078

0.6

 

定期

千人

396,693

3.9

輸送人員

定期外

287,017

7.5

 

683,710

5.4

 

定期

百万円

41,488

9.7

旅客運輸収入

定期外

71,426

13.0

 

112,915

11.8

運輸雑収

 

3,086

2.7

運輸収入合計

 

116,002

11.5

乗車効率

 

42.6

(注) 乗車効率の算出方法

乗車効率=延人キロ(駅間通過人員×駅間キロ程)/(客車走行キロ×平均定員)×100

 

イ 流通業

百貨店業では、㈱小田急百貨店町田店において、昨年4月、新規導入ブランドを中心に13ブランドを展開し、感度の高いゴルフファッションウェアとゴルフ用品をメインに取り揃えたスポーツファッションフロア「ハルクスポーツ マチダ」がグランドオープンしました。また、全店において、催事をはじめとする各種営業施策を積極的に展開するなど、収益の確保に努めました。

ストア・小売業では、小田急商事㈱が運営する「Odakyu OX」において、新百合ヶ丘店がリニューアルオープンするとともに、全店で同社の創業60周年を記念した感謝祭やキャンペーンを実施しました。加えて、「Odakyu OX MART」において、祖師谷店および町田店が新規オープンするなど、積極的な営業活動を推進しました。このほか、各店で買い回りしやすい売場づくりに努めるなど、お客さまの利便性向上を図りました。

しかしながら、百貨店業において2022年10月に新宿店本館の営業終了に伴い売場面積が大幅に縮小したことに加え、㈱白鳩が株式の一部売却に伴い連結除外となったことなどにより、営業収益は87,516百万円(前期比9.0%減)となりました。一方、ストア・小売業において売場構成や運営の改善が増収・増益に寄与したことなどにより、営業利益は1,936百万円(同123.6%増)となりました。

 

 

ウ 不動産業

不動産分譲業では、小田急不動産㈱において、「リーフィア世田谷桜丘ザ・ブルーム」等の戸建住宅や、「リーフィアレジデンス麻生五月台」をはじめとしたマンションを分譲するなど、収益の確保に努めました。

不動産賃貸業では、当社および東京地下鉄㈱を事業主体として推進してきた新宿駅西口地区開発計画において、本年2月、プロジェクト価値の最大化を図るべく、東急不動産㈱が共同事業者として正式に参画することが決定しました。また、同計画において、旧小田急百貨店新宿店本館の解体工事を推進するとともに、本年3月、3社共同事業として新築工事に着手しました。さらに、㈱小田急SCディベロップメントにおいて、商業施設「ビナフロント」や「アコルデ代々木上原」の大規模リニューアルを実施するなど、施設の充実および活性化を図りました。

しかしながら、不動産分譲業において投資用不動産の売却件数が減少したことや、不動産賃貸業において前期末に小田急第一生命ビル持分を売却した影響等により、営業収益は79,393百万円(前期比5.5%減)、営業利益は17,190百万円(同4.7%減)となりました。

 

エ その他の事業

ホテル業では、㈱ホテル小田急サザンタワーが運営する「小田急ホテルセンチュリーサザンタワー」において、昨年12月、多様化する顧客ニーズに対応すべく、シングルルームからセミダブルルームへの客室形態の変更を推進するなど、収益の確保に努めました。また、当社グループが運営する各ホテルにおいて、積極的な営業施策を展開し、宿泊需要の取込みを図りました。

レストラン飲食業では、㈱小田急レストランシステムにおいて、新規業態の開発や新規出店を実施するなど、各社で集客力の強化を図りました。

以上の結果、ホテル業における稼働の回復やリゾート人材派遣業の需要回復等により、営業収益は100,366百万円(前期比10.6%増)、営業利益は6,031百万円(前期 営業損失821百万円)となりました。

② キャッシュ・フロー

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益101,610百万円に減価償却費や法人税等の支払額等を加減した結果、71,626百万円の資金収入となり、前連結会計年度に比べ、8,697百万円の資金収入の増加となりました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、23,435百万円の資金収入と、前連結会計年度に比べ、11,276百万円の資金収入の減少となりました。これは、有形固定資産の取得による支出が増加したことなどによるものです。

この結果、これらを差し引いたフリー・キャッシュ・フローは95,062百万円の資金収入となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、102,079百万円の資金支出と、前連結会計年度に比べ、51,022百万円の資金支出の増加となりました。これは、社債の償還や自己株式の取得による支出が増加したことなどによるものです。

なお、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末と比べ6,941百万円減少し、60,532百万円となりました。

③ 生産、受注および販売の実績

当社グループは、役務の提供を主体とする事業の性格上、生産および受注の実績を金額あるいは数量で示すことはしていません。

そのため生産、受注および販売の実績については、「① 経営成績」におけるセグメントの業績に関連付けて示しています。

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

① 重要な会計方針および見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成に際し、経営者は、決算日における資産・負債および報告期間における収入・費用の金額ならびに開示に影響を与える見積りを行わなければなりません。これらの見積りについては、過去の実績や状況等に応じ合理的に判断を行っていますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。重要な会計方針および見積りには、以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当報告書提出日現在において判断したものです。

また、連結財務諸表の作成における会計上の見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等〔注記事項〕(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

ア 棚卸資産の評価

当社グループは、多くの棚卸資産を保有しており、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号 2008年9月26日)を適用しています。これらのうち、分譲土地建物については原価法(貸借対照表価額は収益性の低下による簿価切り下げの方法により算定)を採用しており、市場価格が下落した場合には、簿価の切り下げにより費用が発生する可能性があります。

イ 有価証券の減損

当社グループは、金融機関や取引先の有価証券を保有しています。これらのうち、市場価格のない株式等以外の有価証券については、時価が取得原価に比べて50%以上下落した場合には減損処理を行い、30~50%程度下落した場合には回復可能性等を考慮して必要と認められた額について減損処理を行っています。

これらの有価証券は価格変動リスクを負っているため、損失が発生する可能性があります。

ウ 固定資産の減損

当社グループは、多くの固定資産を保有しています。これらの固定資産の回収可能価額については、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等多くの前提条件に基づき算出しているため、前提条件が変更された場合には、損失が発生する可能性があります。

エ 繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産について実現可能性が高いと考えられる金額へ減額するために評価性引当額を計上しています。評価性引当額は将来年度の課税所得の見込額等を考慮して計上しますが、将来の業績変動により課税所得の見込額が減少または増加した場合には、評価性引当額の追加計上または取崩しが必要となる場合があります。

オ 退職給付債務および費用

従業員の退職給付債務および費用は、数理計算上で設定される諸前提条件に基づいて算出しています。これらの前提条件には、割引率、長期期待運用収益率、予想昇給率等が含まれます。実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、退職給付債務および費用に影響する可能性があります。

② 財政状態および経営成績

(財政状態)

総資産は、新宿駅西口地区開発計画の進捗に伴い建設仮勘定が増加したことなどから、1,301,567百万円(前連結会計年度末比21,590百万円増)となりました。

負債の部は、社債の償還に伴い有利子負債が減少したことなどから、841,458百万円(同50,027百万円減)となりました。

純資産の部は、自己株式を取得したものの、利益剰余金が増加したことなどから、460,109百万円(同71,618百万円増)となりました。

(経営成績)

ア 営業収益および営業利益

当連結会計年度における営業収益は409,837百万円(前期比3.7%増)、営業利益は50,766百万円(同90.8%増)となりました。なお、各セグメントの営業収益および営業利益の分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載しています。

イ 営業外損益および経常利益

営業利益の増加に伴い、経常利益は50,670百万円(同101.7%増)となりました。

ウ 特別損益および親会社株主に帰属する当期純利益

特別利益に小田急センチュリービルの売却に伴い固定資産売却益を計上したことなどにより、税金等調整前当期純利益は101,610百万円(同72.9%増)となり、ここから法人税等および非支配株主に帰属する当期純利益を控除した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は81,524百万円(同100.1%増)となりました。

③ 資本の財源および資金の流動性についての分析

ア 設備投資による資本の投下

当社グループは、鉄道事業において、安全防災対策に積極的に取り組みながら、快適かつスピーディーな鉄道運行の実現に努めているほか、他の事業においても、沿線の魅力を高めることを目指して継続的な設備投資を行っています。当連結会計年度は総額83,402百万円の設備投資を実施しました。

なお、各セグメントの設備投資等の概要については、「第3 設備の状況」の「1 設備投資等の概要」に記載しています。

イ 資金需要の主な内容と動向

当社グループの主要な資金需要は、安心・便利・快適に鉄道をご利用いただくために不可欠な設備投資や、沿線価値の向上に資する開発投資等ですが、そのほかに人件費等の事業運営のための運転資金の支出があります。また、今後の動向としては、設備投資が資金需要の中で最も高い割合を占める状況が続くと考えています。

ウ 資金調達

当社グループの資金調達は、鉄道事業における設備投資に対する㈱日本政策投資銀行からの借入金のほか、社債および民間金融機関からの借入金等、市場環境や金利動向等を総合的に勘案しながら決定しています。

なお、当社グループでは資金効率向上のため、キャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入し、資金繰りの波動により、短期的な資金需要が発生する場合には、極力グループ内資金を活用するほか、適宜、コマーシャル・ペーパー(CP)の発行等により緊急時の流動性を確保しています。

エ 資金の流動性

当社グループは、鉄道事業や流通業を中心に日々の収入金があることから、必要な流動性資金は十分に確保しており、これらの資金をCMSにより集中管理することでグループ内において有効に活用しています。

 

④ 経営指標

当社グループでは、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営の基本方針 ③ 連結財務目標」に記載のとおり、営業利益、ROE、有利子負債/EBITDA倍率を重要指標としています。

なお、当連結会計年度については、以下のとおりです。

 

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

営業利益

26,601

50,766

ROE(注)

11.6%

20.3%

有利子負債/EBITDA倍率

9.5倍

6.5倍

(注) 親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本(有価証券評価差額除く)

 

(参考)

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

借入金・社債等

647,473

576,974

鉄道・運輸機構長期未払金(注1)

59,005

49,976

有利子負債計(注2)

706,479

626,950

EBITDA

74,468

96,552

(注) 1 鉄道・運輸機構長期未払金は、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 ⑤ 連結附属明細表〔借入金等明細表〕」における鉄道・運輸機構長期未払金の額とは異なり、上表では消費税等相当額を加えています。

2 リース債務および社内預金は除いています。

5【経営上の重要な契約等】

(等価交換契約の締結)

 当社は、2024年2月8日開催の取締役会決議に基づき、東急不動産株式会社(以下「東急不動産」という。)との間で、当社が所有する敷地の一部と東急不動産が今後取得する計画建物の一部を等価で交換する等価交換契約を締結しました。

 詳細は、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等〔注記事項〕(追加情報)(重要な設備投資および契約の締結)」に記載のとおりです。

 

(子会社株式の譲渡)

 当社は、2023年12月21日付で、当社の連結子会社であるUDS株式会社の全株式を野村不動産ホールディングス株式会社に譲渡することを取締役会において決議のうえ、株式譲渡契約を締結し、2024年4月1日付でこれを実施しました。

 詳細は、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等〔注記事項〕(重要な後発事象)(子会社株式の譲渡)」に記載のとおりです。

 

6【研究開発活動】

当社グループでは、グループ経営理念および経営ビジョンを踏まえて選定した6つのマテリアリティ(重要テーマ)を経営の中心に据え、社会課題の解決を通じた持続可能な成長を目指しています。

従来から進めている社員が自由に提案できる公募制度「climbers(クライマーズ)」のほか、デジタルを活用した社会課題解決を目指す事業の検討など、顧客と社会に新しい価値を提供する事業の立ち上げを推進しています。

なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は533百万円です。