第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営の基本方針・経営戦略等

 当社グループは、プロジェクト管理ツール「Backlog」、ビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、セキュリティとガバナンス強化のためのツール「Nulab Pass」の開発及び改良を継続的に行っております。

 中長期的には企業が開発から製造、それに市場への製品やサービスの投入といった一連のビジネスを行う上で必要となるサービスをフルラインナップで提供できるようなサービス展開を行い、高いシェアを獲得することで収益性を高め、企業価値の増大を目指してまいります。

 後述の通り企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は多くの企業において経営課題として意識されているものの、一般的には企業等のオフィスワークにおけるプロジェクト管理や業務フローは依然として文書作成や表計算ソフト等が中心となっているものと想定されます。企業におけるコミュニケーション面に着目すると、e-mailが一般的なツールとして広く使用されつつも、テレワークの普及にともないビジネスチャットやWeb会議といったコミュニケーションツールの利用が定着しつつあると認識していますが、当社グループは業務フロー全体の円滑化をサポートするサービスを提供し、コミュニケーションのみならずチームのコラボレーションを促進するサービスを提供する企業としてのポジションを確立することを目指しております。また、サービス開発にあたっては、一般的なオフィスワーカーの方をはじめとしてどんな職種の方でも親しみやすいUI(ユーザインターフェース)や高度なITスキルをもたない方でもシンプルで使いやすい操作性・機能性を追求することにより、エンジニアの方以外の幅広い職種の方々にご使用いただけるサービスの展開を進めて参ります。

 

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループが提供する「Backlog」、「Cacoo」、「Typetalk」及び「Nulab Pass」は、料金を顧客の使用期間及び使用容量、ユーザー数等に応じて定期定額契約(サブスクリプション)として課金することで、継続的な収益を獲得することができるものであるため、ARR(注1)、有料契約数(注2)及び解約率(注3)を指標として重視しております。

 

(注)1.Annual Recurring Revenueの略語であり、対象月の連結売上高に12(ヶ月)を乗じて算出されます。なお、2024年3月におけるARRは3,970百万円(前年同月比25.3%増)です。

2.2024年3月末時点における当社のサービスにおける有料契約数は18,347件です。

3.2024年3月の前月の月額利用料合計に占める解約に伴い減少した月額利用料合計の割合として算出した解約率は0.45%です。

 

(3) 経営環境

 我が国においては依然として表計算ソフトを利用したプロジェクト管理・タスク管理を行う機能やメール・電話や対面のコミュニケーション手段を中心とする企業が存在している一方、オンラインによる非対面コミュニケーションを前提としたプロジェクト管理の効率化やコミュニケーションの円滑化などのニーズは底堅く、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によるクラウドサービス導入が増加する中、プロジェクト管理ツールの導入機会の広がりが想定され、継続的な事業成長を見込んでおります。

 当社グループの主要な市場であるSaaS型グループウェアの市場規模は2022年度から年平均6.9%と堅調に

成長しており、2027年には3,600億円となることが見込まれております。さらに、Backlogの主要な市場であるSaaS型プロジェクト管理ツールの市場規模は2022年度から年平均16.6%の成長が推定されております。(株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2023年版」(2023年7月)より)。

 このような市場環境の下、当社グループが提供するサービスに対する需要も市場の拡大に伴い高まっていくものと考えております。

 

(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社グループは、今後の更なる成長を実現する上で、以下の事項を経営課題として重視しています。

① 既存サービスの強化による顧客満足度の向上と販売の拡大

 当社グループは、提供するサービスを市場に投入後も顧客の声を取り入れ、継続的な開発・改良を行うことにより顧客満足度の向上を図ることが重要であると考えております。このため、LTV/CAC(注)とのバランスに留意しながら、今後も継続して広報活動、広告宣伝活動及びユーザーコミュニティの活性化等を通じ、サービスの認知度向上に努めて、販売の拡大を進めてまいります。

 

(注)LTV(Life Time Valueの略語で、顧客生涯価値を指します)とCAC(Customer Acquisition Costの略語で、顧客獲得単価を指します)の比率で、マーケティング活動の投資効率性を示す指標です。なお、2024年3月期におけるLTV/CACは8.7倍(各前月の月額利用料合計に占める解約に伴い減少した月額利用料合計の割合として算出した解約率を使用して算出)です。

 

② 優秀な人材の継続的な採用と育成

 当社グループが中長期的に成長するにあたり、提供するサービスの付加価値を高め、新規顧客を獲得するとともに、サービスの解約率を低減することが重要であると考えております。そのためには、優秀な技術者を中心とした人材の確保と育成が重要な経営課題であると考えております。現時点においても優秀なエンジニア、管理系の人材が集まる環境は実現できておりますが、引き続き従業員が能力を最大限発揮できる体制を構築し、優秀な人材の採用と併せて、優秀な技術者の育成を進めてまいります。

 

③ 情報管理体制の強化

 当社グループが提供するサービスでは、顧客の機密情報を含む様々な情報が預託・保存されており、当該情報管理を継続的に強化し続けることが重要であると考えております。そこで外部の監査機関の監査を受け、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を取得する(JIS Q 27001:2014)といった対策を行っております。また、個人情報管理規程等に基づき管理を徹底するだけでなく、社内教育・社内研修の実施やシステムの整備等を継続して行っております。

 

④ 内部管理体制の強化

 当社グループは、更なる事業拡大を推進し、企業価値を向上させていくためには、効率的なオペレーション体制を基盤としつつ、内部管理体制を強化していくことが重要であると認識しており、コンプライアンス体制及び内部統制の充実・強化を図ってまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス及びリスク管理

 当社グループは、取締役会を経営上の重要な事項に関する意思決定機関及び取締役の職務執行の監督機関と位置づけ、原則月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催し、迅速な経営上の意思決定を行うことができる体制としております。また、取締役会には、監査役が出席し、必要に応じて意見を陳述しております。さらに、取締役会の諮問機関としてリスク管理の全社的推進およびリスク管理に必要な情報の共有化を図ることを目的に代表取締役を委員長として定期的に開催しております。リスク管理委員会には常勤監査役が出席することで、リスク管理の実効性を高めております。

リスク管理委員会においては、各部署で顕在化する可能性のある業務を洗い出したうえで、それら事象を顕在化する可能性と顕在化した場合の影響度の2つの基準で評価を行い、特に重要と判断された事象を各年度の初回に重点リスク項目として識別し、項目ごとに担当部署を指定したうえで、通期で対応状況をモニタリングしております。

 

(2)戦略

 ①サステナビリティに関する戦略

当社グループは、「To make creating simple and enjoyable-チームの創造を易しく楽しくする-」というミッションを実現するため、ユーザー・株主・取引先の皆様や従業員をはじめとしたすべてのステークホルダーとともに、企業活動や事業を通じた社会課題の解決や持続可能な社会の構築に積極的な役割を果たすことが重要と考えています。当社グループとの主たる事業との関連性やステークホルダーとの関係性に鑑みて、以下のような取り組みが重要と考えております。なおこれらの取り組みに関する指標及び目標に関しては定量的な目標設定が困難であり、重要性が乏しいものと判断したため記載しておりません

a.サイバーセキュリティ対策

 当社グループでは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得し、各種情報の管理体制を整備しております。また、外部専門業者による脆弱性診断の受診や、情報管理に関する社内規則等の整備、情報セキュリティ研修の実施等の対策を講じております。

 

b.オープンソースソフトウェア(OSS)の活用と普及に向けた取組み

 当社グループは、「オープンソースソフトウェア」(以下、「OSS」という。)の利用を通じてサービスの開発・提供を行っております。多くのOSSが普及していますが、様々なソフトウエア開発に活用されているOSSは、DX(デジタルトランスフォーメーション)実現においても必要不可欠な要素になっております。一方で、OSSの技術開発においては世界中の独立系エンジニアによるOSSコミュニティが重要な役割を担っています。このようなコミュニティの一部においては、OSSの維持・継続のために技術的・経済的な支援を必要とする場合があります。このため、当社グループでは、様々なOSSを運営するコミュニティ活動への参加や寄附を通じた支援を行っております。

 

c.教育機関・NPO・様々なコミュニティ活動への支援・貢献

当社グループは「 “このチームで一緒に仕事できてよかった”を世界中に生み出していく。」をブランドメッセージとして掲げており、このブランドメッセージに親和性が高いコンセプトで運営されている団体やコミュニティ、イベントに対して、スポンサーシップを通じた支援を行っています。

 また、一定の要件を満たしたNPOや学生・教育機関向けの特別割引プランを提供するなど、当社グループのサービス利用を通じた活動支援を通じて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行っています。

 

 ②人的資本に関する戦略

a.人材の多様性の確保を含む人材の採用・育成に関する方針及び取組み

当社グループは業務フロー全体の円滑化をサポートするサービスを提供し、コミュニケーションのみならずチームのコラボレーションを促進するサービスを提供する企業としてのポジションを確立することを目指しております。そのため、当社グループのコラボレーションのコアとなるものとして、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョンが非常に重要であると考えております。このような背景から、当社グループは「ダイバーシティとインクルージョンのポリシー」(注1)を策定・公表しております。このポリシーを社内で徹底させるため新入社員の入社時に「ダイバーシティ研修」を実施しています。このほか、民間発行のパートナーシップ証明書「Famiee」導入や社内規程における表現のジェンダーレス化を進めるなど、従業員の多様性を尊重する取り組みを行っています。

また、多様性のある人材採用を加速させ、社会との対話を促進するための「Nulab Hiring Policy」(採用ポリシー)(注2)の公表や、採用時の勤務地要件の原則廃止といった取り組みを行っています。

 

b.社内環境整備に関する方針及び取組み

当社グループは、個々のライフスタイルにあわせて活躍できるような環境を実現し、従業員エンゲージメントの向上を図るため、コアタイムのないフレックスタイム制・在宅勤務の導入、出産・育児・介護休暇制度、子育て支援休暇(月1日)制度、各種学習・研修支援制度(書籍購入補助手当・研修補助手当・語学学習支援・リゾートワーク制度)、慶弔見舞金制度といった制度を整備しています。また、部活動補助制度、社内報の発行といった施策を通じた従業員同士のコミュニケーションの活性化や有休奨励日の設置を通じた年次有給休暇取得促進、育児休業からの復職後又は子育て中の従業員を対象としたキャリア形成支援といった取組みを行っています。

 このほか、独自の従業員満足度調査を定期的に実施し、社内環境の改善に向けた取り組みを効果的に継続するための具体的な課題を把握しています。

 

c.指標及び目標

当社グループでは、上記a.人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及びb.社内環境整備に関する方針に関する指標及び目標とその実績は、次のとおりであります。

指標

目標

実績(当連結会計年度)

子育て支援休暇取得率

100.0%

93.7

 

(注)1.「ダイバーシティとインクルージョンのポリシー」の詳細は下記URLをご参照ください。なお、本ポリシー及び当該URLは将来において変更される場合があります。

     https://nulab.com/ja/blog/nulab/diversity-and-inclusion/

2.「Nulab Hiring Policy」(採用ポリシー)の詳細は下記URLをご参照ください。なお、本ポリシー及び当該URLは将来において変更される場合があります。

     https://nulab.com/ja/blog/nulab/nulab-hiring-policy/

 

 

3【事業等のリスク】

 当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があるリスク要因として考えられる主な事項には、以下のものがあります。必ずしも、そのようなリスク要因に該当しない事項につきましても、投資家の判断上、重要であると考えられる事項につきましては、投資家に対する積極的な情報開示の観点から以下に開示しています。当社グループは、これらのリスク発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針ではありますが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外の記載事項を慎重に検討した上で行われる必要があると考えています。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであり、将来において発生の可能性があるすべてのリスクを網羅するものではありません。

 

(1) 需要動向について

 企業のDXニーズや労働生産人口の減少に伴う企業や個人の生産性向上に対する社会の期待により、当社グループが提供するサービスへの需要が日ごとに高まっているものと認識しております。また、業務の効率性を高めるためのコラボレーションツールとして、当社の提供するプロジェクト管理ツール「Backlog」、ビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、及び組織の情報セキュリティ・ガバナンスを高めるツール「Nulab Pass」が非常に有効であると考えております。

 加えて、我が国において新型コロナウイルス感染症の流行によりリモートワークが浸透する中、ビデオコミュニケーションツールや、チャットツールの導入企業が急速に増加していますが、生産性や効率性向上のためのプロジェクト管理ツールをはじめとするグループウエアの普及のペースは比較的緩やかなものであり、当社グループが提供するサービスの潜在的な需要は大きなものであると考えております。

 しかしながら、将来、経済情勢や景気動向の悪化等により、企業のITシステム投資等への低迷が生じた場合には、市場の拡大が当社グループの想定を下回る可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 競合について

 当社グループが事業を展開するコラボレーションツール市場は、競合企業が複数存在しており、今後SaaS等のクラウド市場の普及に伴い、規模の大小を問わず競合企業が新規に参入する可能性があります。

 当社グループは、サービス開発力の強化や継続的なサービス改善活動により競争力の維持に努めておりますが、競合企業や新規参入企業との競争激化により、当社グループが想定している事業展開が図れない場合等には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 技術革新への対応について

 当社グループが属するインターネット業界においては、新技術の開発や新サービス出現のスピードが早く、顧客ニーズも早期に変化する等、変化の激しい業界となっております。当社グループでは、最新の技術動向や環境変化に関する情報収集、優秀な人材の確保や教育によるノウハウの蓄積等に積極的に取り組み、技術革新や顧客ニーズの変化に迅速に対応できるよう努めております。

 しかしながら、何らかの理由で技術革新や顧客ニーズへの対応が遅れた場合や、新技術への対応のため想定を超える投資が必要となった場合、当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) システム障害について

 当社グループが提供するサービスは、その基盤をインターネット通信網に依存しております。このため、大規模な自然災害やテロ、戦争その他予期せぬ原因によりインターネット通信網が使用できない状態が生じた場合は、当社グループのサービス提供の継続が困難となります。また、想定を超えるアクセス増加その他予期せぬ事象によるサーバーダウンや当社グループが提供するサービスの予期せぬ不具合の発生等により、サービス提供が停止する可能性があります。このような事態を避けるため、システムやサーバーの冗長化や稼働状況の監視、品質管理体制の強化等の対策を講じておりますが、将来においてこれらのような事態が発生した場合には、当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5) 特定の事業サービスへの依存について

 当社グループのサービスは、安全性、安定性、拡張性及び価格等を総合的に勘案し、Amazon Web Services, Inc.が提供しているクラウドコンピューティングサービス「AWS」(Amazon Web Services)を基盤として運営されています。

 AWSのデータセンターの処理能力が、当社グループの求める処理能力を満たさない場合、AWSに障害が生じた場合には、当社グループが提供するサービスへのアクセスが中断又は遅延する等、顧客からの信用が損なわれ、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、Amazon Web Services, Inc.による経営戦略の変更、又は、価格改定等が行われた場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 為替の変動について

 当社グループはAWSをはじめとする海外事業者が提供するサービス利用料等の支払いを外貨建てで行っており、為替リスクヘッジとして為替予約を実施しております。しかしながら、想定以上に為替相場が円安傾向となった場合は、当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 海外展開について

 当社グループは、海外に子会社を有しており、海外における商習慣や事業環境の差異等を含め、各国の法規制や貿易政策への対応、為替制限や為替変動、電力・通信を中心とするインフラ障害、各種法律又は税制の不利な変更、移転価格税制による課税、各国特有の政治・社会情勢の変化等のカントリーリスクや訴訟リスク等、国内における事業展開以上に高いリスクが存在しております。それらリスクが顕在化した場合や、国内と比較して市場の開拓や収益化が想定通り進まない場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) ソフトウエアの減損について

 当社グループでは、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められた支出をソフトウエア(ソフトウエア仮勘定含む)として資産計上しております。このソフトウエアについて、重大な将来計画、使用状況等の変更やサービスの陳腐化等により、収益獲得又は費用削減効果が大幅に損なわれ、ソフトウエアの減損が必要となる場合、当社グループの事業運営、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 特定の当社グループサービスへの依存について

 当社グループの売上高のうち、当連結会計年度において、主力サービスであるBacklogの売上高は3,438,002千円であり、売上高全体の93.8%を占めております。このため、Backlogの売上高が著しく減少した場合、当社グループの事業及び業績に深刻な影響を及ぼす可能性があります。当社としては、Backlogを外部環境の変化に左右されず安定的な収益獲得が継続できるようその競争力の維持・強化に努めるとともに、他のサービスの売上拡大を図り、Backlogへの依存度を逓減させる方針であります。

 

(10) 解約について

 当社グループが提供するサービスの多くは年間契約となっており、代金については前受にて一括で受領しております。そのため、何らかの要因により多数の顧客より解約の申し出がなされた場合、事故等により多数の顧客に対してサービス提供が不可能となった場合、将来計上される売上が無くなり、一括前受している代金の返金が生じる可能性があります。このような状況となった場合、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11) 人材の確保や育成について

 当社グループが継続して事業拡大を進めていくためには、優秀な人材の確保、育成及び定着が不可欠であると認識しております。そのため、継続的な人材採用や育成に加え、定着率向上に向けた各種施策を行っております。

 しかしながら、優秀な人材が必要な時期に十分に確保・育成できなかった場合や人材流出が進んだ場合等には、経常的な業務運営及び事業拡大等に支障が生じ、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 情報管理体制について

 当社グループが提供するサービスの新規導入時には、顧客から機密情報及び個人情報に該当する情報を入手することがあります。そのため、当社グループでは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得し、各種情報の管理体制を整備しております。また、個人情報の取り扱いについては、個人情報保護法等の国内法令のみならず、EU諸国における「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)」をはじめとする海外における法規制等が適用される可能性があります。当社では法律事務所等の外部専門家との連携を通じて必要な海外法令の動向等に関する情報を収集し、外部専門家の助言を踏まえた適切な対策を講じております。さらに、外部専門業者による脆弱性診断の受診や、情報管理に関する社内規則等の整備、情報セキュリティ研修の実施等の対策を講じております。しかしながら、このような対策にもかかわらず、何らかの理由により顧客から入手した機密情報及び個人情報等の重要な資産を紛失若しくは漏洩した場合、損害賠償及び訴訟費用の発生や当社の社会的信用の失墜等により、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(13) 特定人物への依存について

 当社の創業者であり、代表取締役である橋本正徳及び取締役の田端辰輔は、当社設立以来、経営方針や戦略の立案・実行、システム開発を推進し、リーダーシップをもって牽引してまいりました。当社グループの事業規模が拡大するとともに、権限委譲を進め、当該取締役2名に過度に依存しない経営体制の整備を進めておりますが、当該取締役2名が当社グループの事業へ関与できない状況が発生した場合、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(14) 内部管理体制について

 当社グループの継続的な成長には、倫理観を共有し、適切なコーポレート・ガバナンスを整備し、内部管理体制を整えることが重要であると認識しております。しかしながら、当社グループの事業成長に比べて内部管理体制の構築が間に合わない場合、適切な経営管理が行えず、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(15) 知的財産権の侵害について

 当社グループは、既存サービスの改善改良及び新規機能等の開発を継続しております。このような中、当社グループが開発した知的財産については、必要に応じて適時に知的財産権の登録等を行い、当社グループの財産の保全を図っております。また、当社グループのサービスが他社の保有する知的財産権を侵害しないよう、開発段階において採用したビジネスモデルや技術等については、必要に応じて適切な調査を実施しております。

 しかしながら、当社の事業領域において第三者が有する知的財産権を完全に把握することは困難であり、当社グループが認識していない知的財産権が国内又は海外において既に成立している可能性、あるいは今後新たに成立する可能性があります。このような場合において、ロイヤリティ支払いや損害賠償請求、事業の全部又は一部の差止により、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(16) 訴訟等について

 当社グループは、法令等遵守体制の強化を通じて訴訟等が提起されることを防止するべく努めております。しかしながら、将来の法規制等の改正等に適時適切に対応できないことや各種契約等の解釈の齟齬が生じたこと等を原因とする訴訟が提起された場合、内容及び結果によっては当社グループの事業、業績並びに企業としての社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。

 

(17) 投融資について

 当社グループは、現在において投資を行っている事実はありません。しかしながら、今後の事業拡大のために、国内外を問わず出資、子会社設立、合弁事業の展開、アライアンス、M&A等の投融資を実施する場合があります。投資判断においては、投資先候補企業の事業内容を吟味し、当社グループとの事業シナジーが得られること、投資先候補企業の事業計画、当社グループの財務状況や投資先候補企業への影響力等を考慮し、投資先候補企業の評価額が適切な水準であることを慎重に確認し、投資判断を行う予定です。ただし、投資先企業の事業が計画通りに進捗しない場合や投融資額を回収できなかった場合、減損の対象となる事象が生じた場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(18) 新株予約権の行使による株式価値の希薄化について

 当社は、当社役員及び従業員に対するインセンティブを目的とし、新株予約権を付与しております。これらの新株予約権が権利行使された場合、当社株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。なお、本書提出日の前月末現在におけるこれらの新株予約権による潜在株式数は491,712株であり、発行済株式総数6,480,743株の7.59%に相当しております。

 

(19) 配当政策について

 当社グループは設立以降、配当実績がありません。成長投資を優先し、必要な内部留保を確保するための施策であります。ただし、将来においては、成長投資のための内部留保の確保と株主への利益還元のバランスを考慮し、最大限の株主利益を実現するための配当政策を実施することを基本方針としております。

 

(20) 法的規制について

 当社グループは、国内及び国外において基本的な企業活動に関わる法的規制に加え、クラウドサービスにおけるセキュリティ、個人情報及びプライバシー保護、知的財産権保護等の法的規制を受けております。これら当社グループに適用ある法的規制の整備・強化がなされることにより、当社グループ業務に制約が生じ、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(21) 業績に関するリスクについて

 当社グループは、今後も顧客基盤拡大のためのマーケティング費用やサービス向上等のための人件費を将来にわたって計上する予定としておりますが、想定していた効果を上げられない場合、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(22) 過年度の経営成績及び税務上の繰越欠損金について

 当社グループは、過年度において、親会社株主に帰属する当期純損失を計上していたため、当連結会計年度末において税務上の繰越欠損金が存在しております。一般的には、繰越欠損金を課税所得から控除することにより、税額を減額することができます。しかし、今後の税制改正の内容によっては、納税額を減額できない可能性があります。また、繰越欠損金が解消された場合、通常の税率に基づく法人税等が発生し、当社グループの経営成績及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当社グループ(当社及び連結子会社)の業績、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。また、文中の将来に関する事項は、本書提出日時点において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営成績等の状況の概要

① 経営成績の分析

 当連結会計年度の我が国の経済は、新型コロナウイルス感染症の拡大による経済活動の停滞からの回復の兆しがみられた一方、ウクライナ情勢の長期化や資源価格の高騰をはじめとする物価上昇や各国の政策金利の引上げによる景気後退が懸念されており、先行きが依然として不透明な状況となっております。

 全国的にテレワークが定着する中、遠隔コミュニケーションの円滑化等のテレワークの実施に必要なツールや様々な業務のペーパレス化をサポートするツールの導入が進展しているものと考えられる一方、多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が経営課題として意識されており、遠隔でのプロジェクト管理やコミュニケーションの強化、データ・ナレッジ共有等をサポートするサービスは今後も継続して需要が高まるものと想定しています。

 このような環境において、当社グループは「チームのコラボレーションを促進し、働くを楽しくするツールを提

供する」という方針の下、プロジェクト管理ツール「Backlog」、オンライン作図ツール「Cacoo」、ビジネスチャ

ットツール「Typetalk」、組織の情報セキュリティ・ガバナンスを高めるツール「Nulab Pass」を提供してまいり

ました。2023年1月には主力サービスであるBacklogの料金改定を実施し、サービスの中長期的な安定稼働やユー

ザーへの提供価値向上のための収益性の強化を図っており、これによる契約単価の上昇が2024年1月で一巡いたし

ました。また、BacklogのテレビCMの放映等、積極的なマーケティングコストの投下といったコスト増要因があっ

た一方、Backlogの開発進捗に伴うソフトウエアの資産化額の増加が生じております。なお、ビジネスチャットツ

ール「Typetalk」については、近年の業績や事業環境等を総合的に勘案し、当社グループの経営資源の選択と集中

を目的として、2025年12月1日(予定)をもってサービスを終了することを決定いたしました。

 以上の結果、当連結会計年度における当社グループの経営成績は、売上高3,662,842千円(前期比35.4%増)、営業利益332,124千円(前期比228.3%増)、経常利益330,607千円(前期比257.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は308,158千円(前期比248.5%増)となりました。

 なお、当社グループはクラウドサービス事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

② 財政状態の状況

(資産)

 当連結会計年度末における資産総額は3,474,915千円となり、前連結会計年度末に比べ863,515千円増加いたしました。これは主に、ソフトウエア仮勘定が61,656千円減少したものの、現金及び預金が739,887千円、ソフトウエアが70,728千円、サーバー費の年払い等により前払費用が69,458千円、繰延税金資産が45,342千円増加したことによるものです。

(負債)

 当連結会計年度末における負債総額は2,143,991千円となり、前連結会計年度末に比べ491,221千円増加いたしました。これは主に、Backlogの利用増加及び料金改定の実施により前受収益が324,117千円、未払法人税等が51,005千円、広告宣伝費等の支払いに係る未払金が26,288千円、賞与引当金が22,639千円増加したことによるものです。

(純資産)

 当連結会計年度末における純資産は1,330,923千円となり、前連結会計年度末に比べ372,293千円増加いたしました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純利益の計上により利益剰余金が308,158千円、為替換算調整勘定が30,438千円増加したことによるものです。

 

③ キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ739,887千円増加し、2,482,509千円となりました。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの主な要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動によるキャッシュ・フローは、主に税金等調整前当期純利益323,196千円、減価償却費100,787千円、Backlogの利用増加及び料金改定の実施による前受収益の増加額324,117千円等があり、全体として811,902千円の獲得(前連結会計年度は297,323千円の獲得)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動によるキャッシュ・フローは、主にパソコン等の工具、器具及び備品等の有形固定資産の取得による支出26,870千円、ソフトウエア及びソフトウエア仮勘定等の無形固定資産の取得による支出90,467千円があり、全体として110,716千円の使用(前連結会計年度は130,737千円の使用)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動によるキャッシュ・フローは、主に新株予約権の行使により株式の発行による収入25,490千円があり、全体として16,871千円の獲得(前連結会計年度は417,413千円の獲得)となりました。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当社グループが提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。

 

b.受注実績

当社グループが提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、記載を省略しております。

 

c.販売実績

 当連結会計年度の販売実績をサービス別に示すと、次のとおりであります。

 

 

サービスの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

Backlog

3,438,002

136.4

Cacoo

119,390

100.4

Typetalk

19,743

109.2

Nulab Pass

85,705

176.7

合計

3,662,842

135.4

 (注)1.当社グループはクラウドサービス事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載はしておりません。上記ではサービス別の販売実績を記載しております。

2.総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上の相手先が存在しないため、主な相手先別の販売実績等の記載は省略しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 また、当社グループはクラウドサービス事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たり、見積りが必要な事項につきましては、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っておりますが、実際の結果は、特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

 この連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社グループの当連結会計年度の経営成績等は、以下のとおりであります。

 

(売上高)

 当社グループの主要サービスは、料金を顧客の使用期間及び使用容量、ユーザー数等に応じて定期定額契約(サブスクリプション)として課金することで、継続的な収益を獲得することができるものであるため、ARR、有料契約数及び解約率を指標として重視しております。

 

 当連結会計年度における売上高は、Backlogの料金改定による契約単価の上昇及び有料契約数が18,347件(Backlog14,140件、Cacoo3,815件、Typetalk180件、Nulab Pass212件)に増加した結果、3,662,842千円(前期比35.4%増)となりました。サービス別の売上高につきましては「(1) 経営成績等の状況の概要 ④ 生産、受注及び販売の実績」に記載しております。

 

(売上原価及び売上総利益)

 当連結会計年度における売上原価は、1,025,105千円(前期比5.4%増)となりましたが、売上原価率は前連結会計年度の35.9%から8.0ポイント改善し、28.0%となりました。これは、AWS費用等のサーバー費用が増加した一方で、育児休業の取得を含む人員変動による労務費の抑制が生じたため、売上高の伸びに比して売上原価が増加しなかったためであります。

 この結果、売上総利益は2,637,737千円(前期比52.1%増)となりました。

 

(販売費及び一般管理費並びに営業利益)

 当連結会計年度における販売費及び一般管理費は、2,305,612千円(前期比41.2%増)となりました。これは、積極的なマーケティング施策の実施による広告宣伝費の増加等によるものであります。

 この結果、営業利益は332,124千円(前期比228.3%増)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用及び経常利益)

 当連結会計年度における営業外収益は1,707千円となりました。これは主に、補助金収入によるものであります。また、営業外費用は3,224千円となりました。これは主に、為替差損によるものであります。

 この結果、経常利益は330,607千円(前期比257.2%増)となりました。

 

(特別損失及び親会社株主に帰属する当期純利益)

 当連結会計年度において特別利益は発生しておりません。特別損失については、本社オフィスの減床に伴う固定資産除却損7,411千円が発生しました。

 この結果、税金等調整前当期純利益は323,196千円(前期比274.4%増)となりました。また法人税、住民税及び事業税を63,975千円、法人税等調整額を△48,937千円計上したことにより親会社株主に帰属する当期純利益は308,158千円(前期比248.5%増)となりました。

 

 なお、当社グループの財政状態及びキャッシュ・フローの状況の分析は「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載しております。

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3.事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

③ 経営戦略の現状と見通し

 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等については、「第2 事業の状況 1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。

 

④ 経営者の問題意識と今後の方針について

 経営者の問題意識と今後の方針については、「第2 事業の状況 1. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の様々な課題に対処していくことが必要であると認識しております。そのため、当社グループを取り巻く事業環境の変化を把握しつつ、ユーザーのニーズを的確に反映できるようサービス開発を進めるとともに人員の拡充に取り組む方針であります。

 

⑤ 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの主な運転資金需要は人件費、広告宣伝費、通信費等によるものであります。これらにつきましては、自己資金や新規上場時の公募増資により調達した資金を充当し、状況に応じて金融機関からの借入等の対応を検討する方針です。なお、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は2,482,509千円となっており、資金の流動性を確保しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

該当事項はありません。