第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

1.企業集団の主要な事業内容

当社グループは、当社、連結子会社2社(日証金信託銀行株式会社、日本ビルディング株式会社)および持分法適用関連会社2社で構成され、証券・金融市場のインフラを支える公共的役割を強く意識しつつ、貸借取引業務を核とするセキュリティ・ファイナンス業務を中心に、証券界・金融界の多様なニーズに積極的な応え、様々な証券・金融関連サービスを提供しております。また、貸借取引業務が市況変動等の影響を大きく受けることを踏まえ、引続き収益源の多様化に向けて努力し、各事業においてこれまで以上に資本効率の向上を意識しつつ経営目標の達成に取組んでおります。このような考え方の下、当社グループは、貸借取引を核とするセキュリティ・ファイナンス業務、有価証券運用業務、信託銀行業務、不動産管理業務からなる事業ポートフォリオにより、目指す将来像の実現を図っています。

<第7次中期経営計画>

[当社が目指す企業としての将来像]

当社は、当社が掲げる企業理念の下で、証券・金融市場のインフラ機能を支える証券金融会社として、高い財務の健全性維持と、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を実現する機動性・柔軟性に富んだ特色あるユニークな企業を目指す。

[経営方針]

①証券金融会社としての社会的責任を常に認識し、堅固なガバナンス体制のもとでコンプライアンス、企業統治および経営リスクの管理を徹底することにより健全な業務運営を実践し、揺るぎない社会的信頼を確立する。

②証券・金融市場のインフラ機能を支える証券金融会社として求められる経営の安定性および財務の健全性を確保するため、強固な自己資本を維持しながら企業価値の向上を図るとともに、株主への利益還元を引き続き充実したものとしていく。

③証券金融会社の根幹である貸借取引業務をより強化し、あわせて当社・グループ会社が提供する金融・証券関連サービスの拡充・強化に務め、ビジネス基盤を一層拡大し堅固なものとする。

④経営環境の変化に機動的かつ柔軟に対応するため、迅速かつ効率的な業務運営体制を構築するとともに、人材力の基盤強化を図り、企業活力と組織変革力を向上させる。

[戦略]

①証券市場のインフラとしての貸借取引業務の強化

株式市場を取り巻く環境変化に適切に対応し貸借取引業務の安定的な運営および利便性向上を図る。また、市場参加者の取引ニーズの的確な把握などにより、貸借取引の利用促進を図るための施策を検討するとともに、制度信用・貸借取引にかかる情報発信を強化し、貸借取引業務の基盤強化に努める。

②セキュリティ・ファイナンス業務の拡充・強化

当社がこれまで培ってきた資金取引や有価証券取引のノウハウを有効に活用し、内外の金融商品取引業者等との多様な取引に積極的に対応するとともに、取引先や対象通貨・有価証券等の拡大により、セキュリティ・ファイナンス業務を強化・拡充し、収益機会の拡大を図る。

③グループ連結経営の強化

グループ会社との間で、営業、リスク管理、業務管理などの各分野で、より連携を推進するなどグループ連結経営の強化を図る。

④有価証券運用による安定的な収益確保・資金調達手段の拡充

外部環境の変化に対し、適切なリスクコントロールの下、機動的にポートフォリオの見直しを実施することで、有価証券運用による安定した収益を確保する。また、取引先の多様なニーズに応えるため、外貨を含め安定的な資金調達手段の拡充を図る。

⑤新規業務開発の推進

証券金融会社としての特長を活かし、内外の関係先やグループ会社との連携の下で、長期的視野に立った新規業務開発に取組み、具体化を図っていく。

⑥業務管理体制の強化

当社に求められている社会的要請に積極的に対応し、企業理念を実現していくため、コンプライアンスを経営の前提と位置付けていることをあらためて確認する。

当社に対する揺るぎない社会的信頼を確立するため、内部監査の実効性を確保し、金融業務に付随するリスクの多様化・複雑化に対応してリスク管理の一層の充実を図る。

⑦効率的な業務運営による競争力の基盤強化

取引量の増加や業務の複雑化が進む中、業務プロセスの見直しやデジタル技術の積極的な活用などにより、効率的な業務運営体制の構築に努め、競争力の基盤強化を図る。

⑧人材育成の強化とエンゲージメントの向上

多様性の確保と専門性、主体性の強化を軸に、人材育成の強化と人材ポートフォリオの再構築に努めるとともに社員エンゲージメントの向上を図ることにより、企業活力と組織変革力を向上させる。

⑨サステナビリティの推進

証券・金融市場のインフラとしての機能を安定的に果たせるよう、業務継続体制の更なる強化に努めるほか、気候変動・環境保全への対応など、サステナビリティに関する重要課題についても、着実に取組む。

 

2.2023年度(2024年3月期)の当社の取組み

(1)現状分析

・当社は第7次中期経営計画のもと、証券・金融市場のインフラを支えるプライム市場上場企業として、コーポレートガバナンスの強化とともに、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指しております。具体的には、ROEを、2025年度末までに株主資本コストを上回る5%とする経営目標を掲げ、収益性と資本効率の向上に経営努力を傾注してきました。

・こうした取組みの結果、2023年度のROEは5.73%となり、ROE5%目標を想定よりも2年前倒しで達成しました。

・また、株式市場における当社に対する評価も上昇基調であり、PBRは1倍近辺で推移し、株主総利回り(TSR)もTOPIXを有意に上回る水準で推移するなど、着実に向上してきております。

・以上の目標設定や実績評価の基礎となる当社の資本コストについては、客観的な長期時系列データを用いて複数の方式により計測した結果であり、足許の市場環境を踏まえても4%台半ばとの基本認識に変化はありません。当社は、証券金融会社としての免許を受けており、法令上、財務の健全性維持を求められるとともに業務範囲に制約が設けられております。このため、財務上のリスクや事業戦略リスクが相対的に低く、これがリスクプレミアムに反映されると考えられることから、当社の資本コストの水準としては自然なものと考えております。

 

(2)2023年度の取組み

(「当社が目指す経営の長期的展望」の策定・公表等)

①当社が目指す長期的展望

・当社は、2023年11月に「当社が目指す経営の長期的展望」(以下「長期的展望」と言います。)等を策定・公表いたしました。これは、当社取締役会としては、2023年度においてROE5%目標を想定よりも2年前倒しで達成する見込みとなったことから、これまでの当社の経営努力が一定の成果を挙げ、節目を迎えたと考えられることを踏まえ、今後の当社経営に関する考え方を改めて整理することが適当と考えたことによるものです。取締役会における累次の議論の結果、①まず、当社が目指す経営の長期的な展望を整理し、②その長期的展望を踏まえて、具体的な事業戦略に基づく中期経営計画や株主還元方針を策定するという二層建てで今後の経営を考え、それらを公表することが適切との結論に至りました。なお、2021年11月19日に策定・公表した「中期的な経営方針」については、その役割を果たしたものと評価できることから、今般策定した長期的展望等に発展的に吸収することとしました。

・長期的展望は、長期で見た場合の当社の目指す将来像やありたい姿を展望したものです。まず「当社の目指す将来像」について、証券・金融市場のインフラ機能を支える我が国唯一の証券金融会社として、証券・金融市場の発展に貢献することを通じて、高い財務の健全性維持のもとで持続的な成長・企業価値の向上を実現する、機動性・柔軟性に富んだ特色あるユニークな企業を目指すことを改めて確認しました。

・次に、コーポレート・メッセージ「Be unique. Be a pioneer. 唯一をつくる、開拓者であれ。」を制定いたしました。これは、我が国唯一の証券金融会社として、不断に変化する環境の中で、金融テクノロジーの進化を取り入れながら、証券・金融市場の参加者の取引ニーズに機動的かつ柔軟に対応し、市場ひいては当社の未来を開拓していく、当社の在りたい姿を表したものです。

・「長期的な経営の方向性」は、次のとおりです。

―今後とも、証券・金融市場の参加者の取引ニーズに機動的かつ柔軟に対応し、市場の発展に貢献することを通じて、高い財務の健全性維持のもとで持続的な成長・企業価値向上に向けてグループ企業の総力を結集して取り組む。

―今後も資本コストを意識しながら、着実な収益基盤の強化と資本効率の安定的かつ着実な向上に努め、ROEについては8%の水準を意識しながら、今後も着実な向上に向けて取り組んでいく。

―株主還元については、第7次中期経営計画期間中は総還元性向100%を維持し、その後も株主還元の充実に努めていく。

―こうした経営の取組みを通じて、PBRについても1倍超の市場評価の定着を目指す。

―指名委員会等設置会社の機関設計のもと、取締役会・各委員会審議の実効性の一層の向上や情報開示の更なる充実、厚みのある人的資本の形成に注力しつつサステナビリティ課題にも取組み、コーポレートガバナンスの強化に努めていく。

②第7次中期経営計画の経営目標の修正

・上記の長期的展望および2024年3月期の業績を踏まえ、第7次中期経営計画の経営目標を次のとおり上方修正いたしました。

<ROE>

安定的に5%を上回る水準を維持するとともに、さらなる向上を目指す。

<連結経常利益>

安定的に100億円超を維持するとともに、さらなる向上を目指す。

なお、この修正に伴い、当社役員の業績連動報酬(賞与および株式報酬)の参照指標および反映方法の基本的な構造については変更せず、株式報酬の進捗見込みに基づく基準値について所要の変更を行いました。

 

(その他の取組み)

①情報開示の充実(統合報告書の改訂)

・株主をはじめとした様々なステークホルダーの皆様に当社についてより深くご理解いただくため、情報開示の充実に積極的に取組んでおります。その一環として、2022年度から統合報告書を作成しております。統合報告書では、当社のビジネスモデル、経営方針、コーポレートガバナンス、サステナビリティ課題への取組みなどについて記載しております。

・2023年度の統合報告書では、上記長期的展望についてのその内容、検討の経緯や考え方、新たに策定したコーポレート・メッセージについて、幅広くご理解・ご認識いただくために記載を充実させております。第7次中期経営計画関連では、重要施策の一つである「人的資本ポリシー」について記載しております。

・また、前年度版の公表以降、ステークホルダーの皆様から頂いたご意見を踏まえて、記載内容の充実を図っております。具体的には、コーポレートガバナンスに関して「当社経営陣の選任とこれを展望した内部人材育成の考え方」を掲載し、経営陣の選任にあたっての手続き面の情報だけではなく、実際の指名プロセスにおいて社外取締役を中心とした取締役会・指名委員会が具体的にどのような働きを果たしているかについても記載しております。また、近年の当社の成長を牽引しておりますセキュリティ・ファイナンス業務について、業務の内容、注力している取組みおよびリスク管理について特集を組んでご説明しております。

②執行役の担当職務の明確化

・当社は指名委員会等設置会社として、社外取締役を中心とした取締役会が策定した経営方針に基づき、取締役会による実効性の高い監督のもと、代表執行役社長の統率、指揮により執行役が業務執行する体制となっております。

・執行役の担当職務について、ステークホルダーの皆様にとってより分かりやすい表現とするため、指名委員会における議論を経て、2024年度の執行役・執行役員の選任にあたり各執行役の担当職務を改めて定義し、公表いたしました。

③従業員向け自社株インセンティブの付与

・2022年度に引き続き、2023年度においても、当社業績に応じて従業員に対して当社株式を付与する従業員向け自社株インセンティブの付与を決定いたしました。具体的な付与は2024年6月に実施いたしました。この取組みの趣旨・目的は、従業員の経営目標達成へのモチベーションや働きがいの向上を図るとともに、従業員が当社株式を所有することで、企業価値向上への関心をより高め、株主の皆様との価値共有を進めることにより、中長期的な企業価値の向上を図ることであります。

④サステナビリティ課題への取組み

・当社はサステナビリティ課題についても積極的に取組んでおります。2023年度は主に次の2つに取組みました。

<分散型台帳技術を用いたセキュリティ・ファイナンス取引に関する実証研究>

―当社と東京大学は、2021年4月以降、レポ取引や証券貸借取引において、分散型台帳技術の活用により、トークン化した有価証券や担保の円滑な取引が可能かについて検証する実証研究を共同で実施し、2023年5月30日にその成果を報告書※として公表しました。(※報告書等は当社ホームページで公表しております。)

―本研究の成果は、証券分野をはじめとして今後の様々な分野への社会実装への活用が期待されます。また、産学連携の推進により、当社が認識するサステナビリティに関する重要課題、とくに学術研究活動の推進、証券・金融市場インフラへの貢献の取組み効果が現れたものと考えています。

 

<インドネシア証券界との国際協力>

―当社は、持続可能な社会の実現に向けた重要課題の一つとして、海外の証券・金融市場インフラへの貢献・支援活動を進めており、その具体的な取組みとして、インドネシア証券界との国際協力が挙げられます。

―当社は、我が国証券・金融市場のインフラを支える立場から、インドネシアにおける証券金融会社の設立に向け、同国の証券関係団体に対し、貸借取引業務の実務や管理面のノウハウを提供するとともに、市場活性化のための証券金融の重要性について説明を重ね、2016年末のインドネシア証券金融会社(PT Pendanaan Efek Indonesia)の設立に寄与して参りました。同社設立後もリスク管理や資金調達等の実務的なサポートを続け、2020年8月、同社に対する出資を行っており、2022年以降、配当金を受領しています。

―現在は、当社、インドネシア証券取引所グループ等の他の株主およびインドネシア証券金融会社で構成される諮問委員会や株主総会への参加等を通じ、同社の経営方針や業務運営に関する議論に積極的に貢献しています。また、ジャカルタや東京で、インドネシア証券界(監督当局、取引所関係者、証券業界等)を対象とするセミナーを随時開催するなどしています。

―今後も、当社が蓄積してきた証券金融業務に関する知見を一層活用し、同国の経済・金融・証券市場のサステナブルな発展に寄与していきたいと考えています。

 

3.対処すべき課題

当社は、前記のとおり、2023年11月に「当社が目指す経営の長期的展望」等を策定・公表いたしました。

当社は、今後とも証券・金融市場の参加者の取引ニーズに機動的かつ柔軟に対応し、市場の発展に貢献することを通じて、高い財務の健全性維持のもとで持続的な成長・企業価値向上に向けてグループ企業の総力を結集して取り組みます。

また、今後も資本コストを意識しながら、着実な収益基盤の強化と資本効率の安定的かつ着実な向上に努め、ROEについては8%の水準を意識しながら、今後も着実な向上に向けて取り組んでいきます。株主還元については、第7次中期経営計画期間中は総還元性向100%を維持し、その後も株主還元の充実に努めていきます。

こうした経営の取組みを通じて、PBRについても1倍超の市場評価の定着を目指します。

指名委員会等設置会社の機関設計のもと、取締役会・各委員会審議の実効性の一層の向上や情報開示の更なる充実、厚みのある人的資本の形成に注力しつつサステナビリティ課題にも取組み、コーポレートガバナンスの強化に努めていきます。

第7次中期経営計画については、当社が目指す経営の長期的展望と2023年度の業績を踏まえ、経営目標を次のとおり上方修正しました。まずROEについては、安定的に5%を上回る水準を維持するとともに、さらなる向上を目指します。また、連結経常利益については安定的に100億円超を維持するとともに、さらなる向上を目指します。

こうした経営目標の実現に向け、貸借取引業務を核とするセキュリティ・ファイナンス業務を中心に収益基盤の強化に引き続き注力します。また、これらの業務を支える内部管理体制の強化についても取り組みます。その一つは、企業価値創造の源である人材力の基盤強化であります。当社は2023年3月に策定した「人的資本ポリシー」のもと、人材育成プログラムを着実に実行してまいります。

また、当社の様々な取組みを、株主をはじめとしたステークホルダーの皆様に広くご理解いただくため、情報開示の充実にも取り組んでまいります。

株主還元については、2025年度までの間、配当および自己株式取得の機動的な実施により累計で総還元性向100%を目指す方針を継続いたします。また2024年度から2025年度までの間、配当については配当性向70%を目安に積極的な配当を行うこととします。

2024年度につきましては、第1四半期に実施予定の当社子会社が保有する不動産の売却に伴い、一定の規模の特別利益の計上が見込まれることとなりました。本特別利益は、当社の持続的な成長に向けた努力の過程とは別に発生した一時的な利益であることから、これに対応した株主還元は2024年度中に特別配当金として行うことといたしました。そのため、2024年度の配当予想は普通配当金64円と特別配当金6円をあわせた70円といたしました。また、あわせて株数上限170万株、金額上限26億円とする自己株式取得枠を設定いたしました。これらをあわせた2024年度の総還元性向は99.7%となります。

当社としては、引き続き、証券・金融市場のインフラ機能を支える我が国唯一の証券金融会社として、証券・金融市場の発展に貢献することを通じて、高い財務の健全性維持のもとで持続的な成長・企業価値の向上を実現する、機動性・柔軟性に富んだ特色あるユニークな企業を目指してまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティに関する考え方及び取組の状況

(サステナビリティに関する基本的な考え方)

持続可能な社会の実現に向けては、社会経済活動の基盤となるインフラの整備も重要な要素であり、SDGs(持続可能な開発目標)の一つにも掲げられています(目標9)。当社グループは、証券・金融市場のインフラを支える企業として貸借取引業務をはじめとするさまざまなサービスを提供し、証券・金融市場の流動性向上と市場参加者の利便性向上に取り組んでおり、こうした活動を通じて、持続可能な社会の実現に向けて、同様の取り組みを行う市場参加者への支援も含め、その一翼を担うことを目指しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

(ガバナンス)

・当社は、サステナビリティに関する取組みをグループ全体で推進するため、「サステナビリティへの基本的な考え方」を取締役会で決定し、サステナビリティに関する重要課題(マテリアリティ)を認識しています。

・サステナビリティの推進については、経営会議(議長は代表執行役社長)で審議・決定し、取締役会がその取組状況を監督しています。

・こうしたサステナビリティに関する具体的な取組みは、中期経営計画の行動計画において明確にし、コーポレートガバナンス統括室が統括して組織横断的に取り組みます。

(戦略)

・当社は、証券・金融市場のインフラを担うものとして、様々な状況に置かれても業務を安定的に運営する体制を構築することが重要であると考えています。そのためには、狭義の災害対策だけではなく、事業基盤の安定性と高い信頼性を確保することも重要です。

・このような観点から、国内外の証券・金融市場インフラへの貢献、学術研究活動や金融経済教育活動の推進、気候変動への対応等を経営の重要課題と認識しています。

・また、事業活動における気候変動に関するリスクと機会を特定・認識したうえで、その影響について定性的に分析し、経営戦略のレジリエンスを確認しています。脱炭素社会への移行・変容に対応し、金融サービスの提供や商品性の改善を通じて、気候関連課題に取組む証券・金融市場の参加者の取組みを支援するとともに、当社の企業価値の向上を目指します。

・こうした重要課題および具体的な取組み、気候変動課題に関するリスクおよび機会の認識ならびにシナリオ分析の詳細等については、当社ウェブサイトに掲載しています。

(リスク管理)

・当社は、証券・金融市場のインフラ機能を担う当社が果たすべき社会的役割や当社の中長期的な将来像を踏まえ、取締役会が経営全体としてのリスク管理方針を定めるとともに、中期経営計画と整合的に、リスクアペタイトおよびそれらを具体的に表すリスクアペタイト指標などリスクアペタイト・フレームワーク(RAF)の基本事項を決定します。

・経営の業務執行においては、取締役会で決定されたリスク管理方針、リスクアペタイトおよびリスクアペタイト指標を念頭に、業務ごとにより詳細な目標値と業務計画等を定め、中期経営計画を推進します。

・取締役会は、リスクアペタイトおよびリスクアペタイト指標のモニタリング等を通じて業務執行状況を監督しており、リスクアペタイト指標が設定した水準から乖離した場合には、要因を分析のうえ対応策を策定・実行するなど、継続的にRAFの実効性改善・強化を図っています。

・また当社は、気候変動リスクが地球環境に重大な影響をもたらすリスクであるとともに、将来の当社の財務にも影響を及ぼす可能性があると認識しています。こうした気候変動リスクは、金融リスク(信用リスク、市場リスクなど)を発生・増幅させる要因となることから、統合リスク管理の枠組みで気候変動にかかるリスクを管理します。

(指標と目標)

・リスクアペタイトは、経営の安定性・財務の健全性の観点のほかインフラ機能を担う社会的責任や証券市場への貢献など幅広い観点から設定しています。

・また、当社グループのCO2排出量(Scope1、Scope2の合計)は当社ウェブサイトに掲載しています。CO2排出量は着実に減少しており、引き続き更なる削減に向けて取り組みます。

(2023年度の主な取組み)

・当社は上記の枠組みのもと、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関する取組みを進めております。

・2021年4月以降、「産学連携による学術研究活動の推進」として、当社と東京大学は、レポ取引や証券貸借取引において、分散型台帳技術の活用により、トークン化した有価証券や担保の円滑な取引が可能かについて検証する実証研究を共同で実施し、2023年5月30日にその成果を報告書として公表しました。

 

・そのほか、「海外の証券・金融市場インフラへの貢献」については、インドネシア証券金融会社への技術協力および出資を行うとともに、同社、インドネシア証券取引所グループおよび当社で編成する諮問委員会への積極的な参画を通じて継続的に取り組んでおります。

・環境保全への対応として、テレワークの推進や社内外におけるWEB会議の利用、電子禀議システムやペーパーレス会議システムの導入、保存文書の電子化といった省資源・省エネ化に取り組んでいます。

・取締役会に報告したカーボンニュートラルに向けた取組みの下、2022年度の本社ビル照明のLED化を皮切りに、当社で使用するオフィスビルについてもLED化に向けて取り組んでいます(2024年度完了予定)。また、その他のCO2排出削減に向けた施策についても調査・検討を行っております。

 

<ウェブサイト掲載場所>

ESG・サステナビリティ https://www.jsf.co.jp/ir/esg/

気候変動・環境保全への対応(TCFD提言への取組み) https://www.jsf.co.jp/ir/tcfd/

 

(2)人的資本に関する戦略等

(戦略)

当社は、第7次中期経営計画において、経営目標を達成するための戦略の1つとして「人材育成の強化とエンゲージメントの向上」を掲げています。当社の目指す将来像に向け、人材育成をはじめとする「人的資本」形成に関する取り組みを推進していく上での基本的な方針として「人的資本ポリシー」を定め、事業ポートフォリオに対応した、多様性の確保と専門性、主体性の強化を軸にした人材育成を推進し、企業価値創造の源である人材力の基盤強化を実現していきます。

人的資本ポリシーは、「ビジョン」、会社が育成強化を図りたい人材像を示した「期待する人材像」、「ビジョンに向けた取組み」で構成しており、採用、育成・キャリアパス、評価・報酬、環境整備の各方面で「ビジョンに向けた取組み」を順次具体化していきます。

<人的資本ポリシー>

○ビジョン

・社員が持つ多様な価値観を尊重するとともに、多様な個人がそれぞれの個性と強みを最大限発揮し、業務遂行を通じて自ら成長していくことができるよう、機会の提供と支援環境の整備に努める。

・社員が安心して業務に従事することができるよう、働きやすい職場環境づくりを推進する。

・社員エンゲージメントの向上を図ることにより、企業活力と組織変革力を向上させ、生産性を高める働き方を実現する。

○期待する人材像

・多様な価値観を尊重し、他の社員と協働して企業価値の向上に取り組む人材

・繁雑な業務も正確かつ安定的に遂行し、インフラ機能を担う当社の信頼維持に貢献できる人材

・担当する業務をより深く、より広く理解することに努め、当該分野における専門性を高めつつ業務変革に繋げていくことができる人材

・一定分野の専門性を有し、その専門性を生かして社内をリードして貢献することができる人材

・自発的に高い目標を掲げ、その実現に向けて周囲も巻き込みながら主体的に取組むことができる人材

・広い視野をもって経営戦略を主導的に担い得る人材

○ビジョンに向けた取組み

(a) 採用

・新卒採用に加え、経験者採用を積極的・継続的に行うことにより、多様性に富んだ人材を確保

(b) 育成・キャリアパス

・社員が持つ個性と強みを最大限発揮し、業務遂行を通じて自ら成長していくことができるよう自律的なキャリア形成のための環境を整備

・自律的なキャリア形成と挑戦を支援するため、研修制度の改正・新設なども含めた新たな人材育成プログラムを策定

・多様性と専門性、主体性の強化を軸に経営戦略を主導的に担い得る人材層の強化

(c) 評価・報酬

・能力伸長、業績発揮、期待する役割の充足度合いなどの社員の業務遂行上の貢献を適切に評価

・業務変革や業務効率化、高い目標に向けての自発的な取り組みなど、社員の業務への主体的な取り組み姿勢や行動を評価

 

(d) 環境

・育児・介護と仕事の両立を支援するための各種休暇制度の取得促進等により、ワークライフ・バランスを確保できる職場環境づくり

・テレワークの活用等により多様な働き方が可能となる働きやすい職場環境づくりを推進

 

<多様性確保の考え方>

当社が業務を展開する証券・金融市場を取り巻く状況は、デジタライゼーションの進展などにより、急速に変化しております。このような環境変化に柔軟に対応するためには、多様な視点や価値観を尊重することが重要であると考えます。当社は従来から、性別等にかかわらず、個々人の能力や実績を重視する人事制度を運用してまいりましたが、これをさらに推進するとともに、人材育成と社内環境の整備を進め、中核人材の多様性の確保に努めてまいります。当社は、このような基本的な考え方の下、女性活躍推進等についての取組みについて次のように考えております。

・女性活躍推進

業務上の意思決定から日々の業務遂行に至るまで、多様な人材が持つ視点や発想、価値観を十分に活かすことが重要と考えており、育児・介護等と仕事を両立しながら健全に活躍できる環境を維持し、キャリア形成を支援しながら職員が持つ能力や個性を活用してまいります。

・外国人および経験者採用者

持続的な成長と企業価値向上を目指し、今後のビジネス展開に応じて、多様化する金融サービスを供給できる人材、新規分野への進出に必要な人材、専門性を有する人材等について、外国人を含めて幅広い業界から柔軟に採用を進めてまいります。

 

<社内環境整備方針>

・当社は企業価値の向上において職員が重要な役割を担うものと考えており、その考えの下、全職員の健康や業務環境に配意するとともに、各職員の状況に応じた様々な勤務制度を用意し柔軟な働き方を実現しております。

・実施状況としては、育児や介護の支援に伴う休暇制度や法定を上回る短時間勤務制度を導入しているほか、全職員が時差勤務、テレワークが可能な環境を整備し、生産性の向上に努めております。

・今後は、研修の実施などを通じて多様性の尊重、受容に関する職員の意識を一層高めるとともに、全社的なテレワークの実施により多様な働き方への対応を進めるなど、社内環境整備を継続的に行ってまいります。

 

(指標と目標)

<女性活躍推進>

〔採用〕 新卒採用者に占める女性比率 状況:50%(2023年度)  目標:40%以上を継続

〔登用〕 管理職に占める女性比率   状況:3.8%(2023年度)  目標:積極的に増加させる

<外国人および経験者採用者>

〔採用〕 経験者採用者数       状況:17名、6.9%(全職員に占める割合)(2023年度末)

                   目標:積極的に増加させる

〔登用〕 経験者採用者の管理職登用  状況:2名、1.9%(管理職者に占める割合)(2023年度末)

                   目標:積極的に増加させる

(注)当社は上記のとおり、経験者採用については外国人も含めて幅広い業界から柔軟な採用を進めることを方針としており、外国人に限定した目標の設定は行っておりません。

<育児支援制度の利用状況>

2023年 育児休業取得者 8名 育児休業復帰率 100% 短時間勤務者数 13名

<介護支援制度の利用状況>

2023年 介護休暇取得者 17名

<平均テレワーク率>

2023年度 44.2%

 

3【事業等のリスク】

当社および当社グループの事業等に関するリスクについて、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項は以下のとおりです。

金融のグローバル化やフィンテックに代表される高度化の加速など、当社グループを巡る経営環境が変化する中、内外の新たなニーズの獲得に向けた取組みを通じて、業務内容の複雑化が進むと同時に、当社グループを取り巻くリスクも変化しております。

こうした状況を踏まえ、リスクアペタイト・フレームワークの活用を通じて、経理管理とリスク管理を一体的に運営しております。

なお、記載事項のうち将来に関する事項は当期末(2024年3月31日)現在において当社が判断したものです。

1.事業環境に関するリスク

(1) 各種法令等に関するリスク

①免許業務について

当社の主要業務である貸借取引業務は金融商品取引法第156条の24の規定により内閣総理大臣の免許を受けて運営しております。また、子会社では、日証金信託銀行は銀行法および金融機関の信託業務の兼営等に関する法律の免許および認可を受けて信託銀行業務を営み、日本ビルディングについては宅地建物取引業法等の適用を受けております。

現時点では、免許取消や業務停止等の処分を受けるような事由は発生しておりませんが、将来、何らかの理由により、こうした処分等を受けることとなった場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

②業務内容の制限等について

証券金融会社は、金融商品取引法の定めにより、免許業務である貸借取引業務以外で運営可能な業務の範囲が制限されております。こうした規制は、証券市場のインフラである貸借取引業務の安定運営を目的としており、新規業務を起ち上げる際などにおいて必要な承認が得られない場合には、事業機会を逸失するなど、当社グループの事業運営及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

③コンプライアンスに関するリスク

当社は、コンプライアンスを企業経営の前提と位置づけ、コンプライアンス統括部を中心に当社全般のコンプライアンスを推進しております。役職員に対しては、投資家保護の意識を高め、公正かつ適切な業務運営を行うため、定期的にコンプライアンス研修を実施するほか、随時、業務に即した研修、指導を行うことにより、コンプライアンス意識の徹底を図っております。

また、当社グループを取り巻く事業環境の様々な変化に対応すべく、既存業務の強化を図るとともに、新規業務の開始による収益源の多様化等に取組む中で、新たなコンプライアンス・リスクが生じる可能性も念頭に、グループ各社の役職員が参加する外部講師による講演会開催や研修など各種啓蒙活動の実施のほか、グループ各社間において情報および認識の共有を随時図ることを通じてコンプライアンス意識の徹底に取組んでおります。

しかしながら、役職員の故意または過失によりコンプライアンス・リスクが顕在化した場合、または法人としてコンプライアンス・リスクが顕在化した場合は、取引先との信頼関係の低下や、損害賠償、行政処分等に直面するおそれがあります。その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

④法令等の変更に伴うリスク

当社グループに関連する、金融商品取引法、銀行法、信託業法、宅地建物取引業法等の法令・規則等が変更された場合には、市場環境の変化等を通じて直接的又は間接的に当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。しかしながら、具体的にどのような影響が発生し得るかについては、将来において決定される法令等の改正の内容によるため、現時点ではその内容等を予測することは困難であり、当社グループがコントロールしうるものではありません。

 

(2) 制度信用取引の動向に関するリスク

①制度信用取引残高の変動に伴うリスク

当社は、証券金融の専門機関として証券・金融市場の発展に貢献することを使命とし、当社基幹業務である貸借取引業務の強化と、当社グループが提供する金融・証券関連サービスの拡充・強化により、ビジネス基盤の一層の拡大に取組んでおります。

こうした取組みにより当社収益基盤の多様化が着実に進む一方で、免許業務である貸借取引業務の重要性は依然として高く、株式市況の動向等の影響から、制度信用取引の主たる利用者である個人投資家の利用減少等により、制度信用取引残高・貸借取引残高が減少した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

②運用スタイルの多様化に伴うリスク

個人投資家の運用スタイルは多様化が進んでおり、株価指数や外国為替の先物取引や、信用取引の中でも自由度の高い一般信用取引の利用が増えています。

当社では、一般信用取引向けに資金(一般信用ファイナンス)および株券(一般貸株)の貸付業務を展開しているほか、信用取引にかかる解説動画の作成等を通じて制度信用取引・貸借取引の普及活動に取り組んでおります。

しかしながら、こうした地道な取り組みが必ずしも株式取引・信用取引・貸借取引の残高増加に直結するとは限らず、株式市場における取引高が縮小する場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

2.事業運営上のリスク

(1)市場リスク

当社グループは資金を効率的に活用する観点から、ポートフォリオにおける運用資産の多様化・分散投資を推し進めております。

このうち、国内外の債券については、各国中央銀行による金融政策の変更や各国財政政策に対する信認の低下等を要因に国債金利が急騰した場合などにおいて、想定以上の評価損や実現損が発生する可能性があります。同様に、外国為替市場において日本円が上昇した場合には、保有する外貨建て有価証券について評価損や実現損が発生する可能性があります。

また、市場性のある株式を保有しており、株価の下落により保有株式に評価損等が発生する可能性があるほか、非上場投資信託等も保有しており、金融市場の混乱等により、市場において正常な取引ができなくなる場合や通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされる可能性があります。

当社グループでは、市況を注視するとともに適宜デリバティブ取引等によるヘッジオペレーションの実施等により市場リスクの低減に努めておりますが、突発的な市場の急変動等が発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(2)信用リスク

当社の貸付業務では、信用リスクの顕在化に備え流動性の高い有価証券を担保として受入れています。さらに資産の健全性の維持・向上を図るため、保有資産について厳格な自己査定を実施しているほか、信用供与先については社内格付により信用リスクを評価するとともに、信用リスクについて計量化による管理やストレステストを実施するなど厳格な管理態勢を整備しています。

また、子会社の日証金信託銀行においては銀行業務の一環として無担保貸付業務を行っておりますが、本邦政府向けが大宗を占めるなど信用リスクは限定的であるほか、厳格なリスク管理およびポートフォリオ管理を行っております。

しかしながら、信用供与先の経営状況の急激な悪化に加え担保として受入れている有価証券の価格が想定を超えて下落した場合は、貸出債権を回収できない恐れがあり、その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3)資金および有価証券調達に関するリスク

①資金調達環境の悪化等によるリスク

当社グループは主として、コールマネーやコマーシャル・ペーパー、銀行からの短期借入金等、比較的短期かつ低利の資金を調達することにより、業務を運営しております。また、外貨を含めた調達手段の多様化、安定した調達先の確保に努めるとともに、日証金信託銀行との緊密な連携を通じた連結ベースでの資金繰り管理を行うなど、厳格な流動性リスク管理を行っております。しかしながら、金融市場の混乱や短期金利の急激な上昇、当社グループの財務状況の悪化などにより、資金調達コストが上昇したり、取引制限を受ける可能性があり、その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

②格下げによるリスク

当社の主要業務である貸借取引業務をはじめとする各種業務の運営に必要となる資金および有価証券を安定的に調達するためには、高い水準の格付けを維持することが求められます。しかしながら、財務状況の悪化など当社固有の要因に限らず、日本国債の格下げ等の影響により、当社格付が引き下げられた場合には、取引条件の悪化を余儀なくされたり、十分な資金および有価証券の確保が困難となり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(4)自己資本にかかる規制に関するリスク

当社は、貸借取引を核とするセキュリティ・ファイナンス業務の安定運営を確保する観点から、日本銀行のオペレーションや決済機構の参加資格を有しており、証券会社と同様に自己資本規制比率200%を維持することが求められております。

また、連結子会社の日証金信託銀行についても、単体自己資本比率を2006年金融庁告示第19号に定められる国内基準である4%以上の水準を維持する必要があります。

これら基準を下回った場合には、日銀オペレーション等の参加資格の全部または一部停止措置を受けることにより、当社業務の安定運営に支障が生じる可能性や、日証金信託銀行の業務の全部または一部の停止命令を受ける可能性があり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(5)金融市場におけるテールリスクの発生

2008年のリーマンショック発生時に連結ベースで最終赤字を計上した経験を踏まえ、当社による子会社の日証金信託銀行の日次モニタリングや定期的なミーティング開催などを通じてグループリスク管理の強化を推進しているほか、市況が急速に悪化した場合においても業務を安定して運営できるよう、充分な自己資本の維持に努めております。

しかしながら、金融市場におけるテールリスクの発生を予見することは困難であり、そうしたリスクが顕在化した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(6)オペレーショナルリスク

①情報システムに関するリスク

当社は証券市場のインフラとしての貸借取引業務の運営に必要なシステムを始め、様々な情報システムを利用しており、それらシステムの安定稼働に万全を期すべく、ネットワーク・機器類の二重化やメンテナンスの実施等によりシステム障害発生の未然防止に努めているほか、コンティンジェンシープランを策定し、障害発生時においても早期に復旧させる体制を構築しております。また、システム開発・運用を安全かつ効率的に行うため、作業手順を明確化するとともに監視体制を整備しています。これらの対策にもかかわらず不測の要因により業務継続に支障が生じる重大なシステム障害が生じた場合は、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

②サイバーセキュリティに関するリスク

デジタル技術の高度化が加速する中で、当社グループを取り巻くサイバーリスクが高まっていることを踏まえ、システム面での対応に加え、グループ各社とも連携しながらサイバーセキュリティ態勢の強化にも取組んでおります。

しかしながら、高度化または巧妙化されたサイバー攻撃等により、想定外のシステム障害等が発生し、当社グループの業務継続に甚大な支障が生じた場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

③情報漏洩リスク

取引先の情報等の情報資産の保護については、さまざまなセキュリティ対策を整備するとともにその取扱いを役職員に周知徹底しています。しかしながら、人為的ミスや不正行為、サイバー攻撃を含む外部犯罪等によって重要な情報が漏洩した場合は、当社の信用力が低下し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④自然災害等に関するリスク

当社は、貸借取引業務を最重要業務として位置づけ、証券・金融市場のインフラを支える企業としての責務を果たすべく、大規模災害等が発生した場合においても、業務の継続や早期復旧を図るための業務継続体制を構築しており、大阪支社等を活用したデュアル・オペレーション体制やテレワークの推進などに取り組んでおります。

また、子会社の日証金信託銀行では金融市場において定期的に開催される合同訓練に参加し、当社との連携確認の実施等に取組むとともに、当社大阪支社等を活用した業務継続体制の強化を進めております。

同じく子会社の日本ビルディングにおいてもBCP対策委員会を設置し、所有・管理するビルの安全を確保する観点から、業務継続体制の強化に努めております。

しかしながら、想定を大幅に上回る自然災害や停電、戦争、犯罪・テロの発生、各種感染症が流行した場合には、当社グループの業務運営に支障をきたすリスクがあり、その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

3.子会社・関連会社固有のリスク

当社の子会社・関連会社では不動産業務、情報処理サービス業務の事業を展開しており、以下の様な事象が発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(1)不動産業務

不動産市況の悪化や空室率の上昇等により業績が悪化するリスクがあります。また、周辺地域において再開発が相次ぐなか、所有ビルの資産価値・競争力向上等の観点から、戦略的にビルの建替え等を実施することとなった場合には、一時的な費用の発生や、工期中に賃料収入等が減少する可能性があります。

(2)情報処理サービス業務

当社の持分法適用関連会社2社は、情報処理サービス業務を営んでおります。取引先企業のシステム投資意欲が減退した場合や提供するシステムおよびサービスにおいて障害等が発生した場合には、当社グループの持分法投資損益に影響を及ぼすリスクがあります。

4.事業戦略が奏功しないリスク

当社は2023年11月6日に、「当社が目指す経営の長期的展望」を新たに策定するとともに、第7次中期経営計画(2023年度~2025年度)の経営目標を上方修正いたしました。当社は、今後とも証券・金融市場の参加者の取引ニーズに機動的かつ柔軟に対応し、市場の発展に貢献することを通じて、高い財務の健全性維持のもとで持続的な成長・企業価値向上に向けてグループ企業の総力を結集して取り組みます。また、今後も資本コストを意識しながら、着実な収益基盤の強化と資本効率の安定的かつ着実な向上に努め、ROEについては8%の水準を意識しながら、今後も着実な向上に向けて取り組んでいきます。

しかしながら、国内外の経済・金融情勢の悪化、本邦における金利環境の変化等による事業環境の悪化などの影響により、現在取組んでいる各種戦略・施策等が功を奏しないリスクがあり、その結果、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績の概況

(金融経済環境)

当年度の経済環境は、欧米各国の金融引締めの影響や中国経済の減速懸念などによる景気下振れリスクが意識されたものの、企業収益やインバウンド需要の改善を背景に回復基調で推移しました。

株式市場についてみますと、期初28,188円で始まった日経平均株価(終値)は、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた上場企業の各種取組みへの期待感などから海外投資家の日本株への関心が高まり上昇基調で推移しました。2023年10月に入ると中東情勢の緊迫化により一旦は軟調な展開となりましたが、2023年11月以降は米国の利上げ打ち止め観測や好調な企業業績を背景に再び上昇基調で推移し、年が明けるとこうした動きが一段と加速したことから2024年2月22日には日経平均株価が39,098円となり34年ぶりに過去最高値を更新しました。その後、日銀のマイナス金利政策が解除されましたが、緩和的な金融環境の継続が確認されたことから市場に安心感が広がり、2024年3月22日には当年度の最高値となる40,888円まで上昇し、期末は40,369円で取引を終えました。

この期間における東京市場等(東証、名証及びPTS)の制度信用取引買い残高をみますと、期初2兆1,700億円台から株価の上昇につれて利益確定売りなどにより漸減し、2023年5月19日には当年度のボトムとなる1兆9,600億円台まで減少しました。その後は株価の先高期待から増加基調で推移し、2024年3月15日に2兆8,400億円台と当年度のピークとなり、期末は2兆7,000億円台となりました。一方、制度信用取引売り残高は、期初5,300億円台から2023年5月19日には当年度のピークとなる7,800億円台まで増加したものの、その後は減少傾向となり2023年10月6日には当年度のボトムとなる5,100億円台となりました。その後は株価の上昇につれて再び増加し、期末は6,900億円台となりました。

 

(2023年度(2024年3月期)決算)

このような市場環境の下、2023年度の当社グループの業績は、貸借取引残高が融資、貸株ともに増加したこと、また債券レポ・現先取引および株券レポ取引等を中心にセキュリティ・ファイナンス業務が引き続き好調であったことなどから、連結営業収益は50,008百万円(前期比17.6%増)、連結営業利益は9,928百万円(同56.2%増)、連結経常利益は11,024百万円(同45.0%増)といずれも増益となりました。また、前期に計上した退職金制度変更に伴う特別利益が剥落しましたが親会社株主に帰属する当期純利益は8,030百万円(同34.6%増)と増益となりました。

当年度における各セグメントの営業概況は以下のとおりです。

①証券金融業

証券金融業務における営業収益は46,049百万円(前期比19.3%増)となりました。

業務別の営業収益をみますと、貸借取引業務における営業収益は11,581百万円(同44.7%増)となりました。貸借取引融資残高が期中平均で2,869億円と前期比322億円増加、同貸株残高は期中平均で2,524億円と前期比634億円増加といずれも増加したことにより、貸付金利息、貸株料ともに増収となりました。

セキュリティ・ファイナンス業務における営業収益は28,360百万円(同29.2%増)となりました。このうち、債券レポ・現先取引(24,593百万円、同29.9%増)は国債需給の逼迫により取引ニーズが引き続き旺盛であったことから残高が過去最高を更新し、大幅増収となりました。株券レポ取引等(1,799百万円、同17.6%増)は引き続き残高が高水準で推移したことから増収となりました。一般貸株(1,083百万円、同35.6%増)および一般信用ファイナンス(250百万円、同67.8%増)は株式市況の活況を受けて残高が増加したことにより増収となりました。リテール向け貸付(633百万円、同16.3%増)は株式市況が活況であったことに加え、商品性の改善が奏功して残高が増加したことにより増収となりました。

その他の収益は6,107百万円(同29.3%減)となりました。これは、貸借取引業務やセキュリティ・ファイナンス業務のための流動性の確保と収益基盤の強化の観点から行っている有価証券運用業務において、前期に実施したポートフォリオの入替に伴う保有国債等の売却益が剥落したことにより減収となったものですが、あわせて保有外国債の売却損も剥落したため営業費用も減少しております。

②信託銀行業

信託銀行業務における営業収益は3,127百万円(同0.4%増)となりました。管理型信託サービスなどによる信託報酬が引き続き堅調となりました。

③不動産賃貸業

不動産賃貸業務における営業収益は831百万円(同2.9%増)となりました。

 

(2) 財政状態に関する分析

《当社グループの資産、負債、キャッシュ・フローの特徴》

資産は、日々変動する貸借取引貸付(営業貸付金)および日銀当座預金への預け金(現金及び預金)、有価証券を調達する際に差し入れる担保金(借入有価証券代り金、買現先勘定)、資金の効率的な活用を目的として保有する有価証券が大宗を占めます。

負債は、変動する資産に合わせてコールマネーやコマーシャル・ペーパーといった日々調整が可能な市場性調達のほか、有価証券を貸し付ける際に受け入れる担保金(貸付有価証券代り金、売現先勘定)が中心となります。

なお、近年注力してきましたセキュリティ・ファイナンス業務の中でも債券レポ・現先取引は、取引ロットが大きいことから業務の成長に伴いその残高が大きく増加しています。当該取引は貸し手と借り手のニーズをマッチングさせる仲介取引であることから、当社の貸借対照表上、資産(借入有価証券代り金、買現先勘定)、負債(貸付有価証券代り金、売現先勘定)が両建てで計上されます。ただし、当該取引では、取引対象債券の担保として債券時価相当額の現金を受払し、取引期間中は日々時価評価を行い、マージンコール(現金担保と債券時価額との差額を受払すること)を適切に実施することでエクスポージャーを抑制しています。また、取引先の殆どが信用度の比較的高い金融機関もしくは中央清算機関による債務引受の対象となっております。こうしたリスクコントロールによって、エクスポージャーと信用リスクの増加を適切に抑えています。

その他のセキュリティ・ファイナンス業務についても、債券レポ・現先取引と同様のリスクコントロール手段に加え、取引対象株式のボラティリティや市場流動性等に応じて適切なヘアカット(掛目)を設定し、エクスポージャーの拡大を抑制しています。また、当社は統合リスク管理の枠組みのもと、日次で信用リスク量を計量し、当社の経営体力を踏まえて設定したリスク資本の枠内に収まるように管理しています。さらに取引先別にストレス時を想定したエクスポージャーが一定の限度内に収まっていることを日次でモニタリングし、特定の取引先への過度なエクスポージャーの発生を抑えています。

キャッシュ・フローは、主に上記の資産・負債の変動によるもののほか、配当金の支払および自己株式取得・処分等により発生するものが中心となります。

なお、資産における現金及び預金は、負債における日証金信託銀行の信託勘定における待機資金の状況やグループ全体の資金繰りの状況等により大きく増減することがあります。

また、現時点では重要な資本的支出の予定はありません。

 

①資産、負債および純資産の状況

資産合計額は13兆7,447億円(前連結会計年度末比3,114億円減)、負債合計額は13兆6,001億円(同3,203億円減)、純資産合計額は1,446億円(同88億円増)となりました。

 

○資産

現金及び預金…日銀当座預金への預け金の増加などにより、前連結会計年度末に比べて3,793億円増加しました。

営業貸付金…貸借取引貸付金の期末残高の増加により、前連結会計年度末に比べて1,030億円増加しました。

買現先勘定…債券現先取引の増加により、前連結会計年度末に比べて1兆1,922億円増加しました。

借入有価証券代り金…債券レポ取引の期末残高の減少などにより、前連結会計年度末に比べて1兆7,167億円減少しました。

○負債

コールマネーおよびコマーシャル・ペーパー…資産サイドの貸付金等の変動に合わせ機動的な資金調達を行った結果、前連結会計年度末に比べてそれぞれ3,256億円の減少、1,380億円の増加となりました。

売現先勘定…債券現先取引の増加により、前連結会計年度末に比べて1兆1,675億円増加しました。

貸付有価証券代り金…債券レポ取引の期末残高の減少などにより、前連結会計年度末に比べて1兆3,113億円減少しました。

信託勘定借…日証金信託銀行の信託勘定における待機資金の減少に伴い、前連結会計年度末に比べて1,312億円減少しました。

○純資産

株主資本…親会社株主に帰属する当期純利益の計上などにより、前連結会計年度末に比べて14億円増加しました。

その他の包括利益累計額…保有する有価証券等の価格変動等に伴うその他有価証券評価差額金および繰延ヘッジ損益が改善した結果、前連結会計年度末に比べて74億円増加しました。

 

 

②キャッシュ・フローの状況

当期末における現金及び現金同等物は1兆9,776億円(前連結会計年度末比3,813億円増)となりました。

各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

○営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、3,834億円の流入超(前連結会計年度3,035億円の流入超)となりました。これは、保有国債の売却等により収入が増加したことによるものです。

○投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動によるキャッシュ・フローは、45億円の流入超(前連結会計年度34億円の流入超)となりました。これは、投資有価証券の売却等によるものです。

○財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動によるキャッシュ・フローは、66億円の流出超(前連結会計年度57億円の流出超)となりました。これは、配当金支払いおよび自己株式の取得のための支出によるものです。

 

(3) 当社グループ業務別営業収益の状況

 

 

 

 前連結会計年度(通期)

 (自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

 当連結会計年度(通期)

 (自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

増  減

 

 

 

金額(百万円)

構成比(%)

金額(百万円)

構成比(%)

金額(百万円)

比率(%)

証券金融業

38,594

90.8

46,049

92.1

7,454

19.3

 

貸借取引業務

8,003

18.8

11,581

23.2

3,577

44.7

 

 

貸借取引貸付金利息

1,619

3.8

1,831

3.7

212

13.1

 

 

借入有価証券代り金利息

565

1.3

844

1.7

279

49.4

 

 

有価証券貸付料(品貸料)

4,711

11.1

7,508

15.0

2,796

59.4

 

 

有価証券貸付料(貸株料)

808

1.9

1,080

2.2

272

33.7

 

セキュリティ・ファイナンス業務

21,952

51.6

28,360

56.7

6,408

29.2

 

 

一般信用ファイナンス

149

0.4

250

0.5

101

67.8

 

 

株券レポ取引等

1,529

3.6

1,799

3.6

269

17.6

 

 

リテール向け

544

1.3

633

1.3

88

16.3

 

 

一般貸株

799

1.9

1,083

2.2

284

35.6

 

 

債券レポ・現先取引

18,929

44.5

24,593

49.2

5,664

29.9

 

その他

8,638

20.3

6,107

12.2

△2,531

△29.3

信託銀行業

3,115

7.3

3,127

6.3

12

0.4

 

貸付金利息

32

0.1

36

0.1

3

11.2

 

信託報酬

1,347

3.2

1,530

3.1

183

13.6

 

その他

1,734

4.1

1,560

3.1

△174

△10.1

不動産賃貸業

808

1.9

831

1.7

23

2.9

合計

42,518

100.0

50,008

100.0

7,489

17.6

 

 

(4) 当社グループ貸付金の状況(平均残高)

 

 

 前連結会計年度(通期)

 (自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

 当連結会計年度(通期)

 (自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

増  減

 

 

(億円)

(億円)

(億円)

貸借取引貸付金(融資)

2,547

2,869

322

貸借取引貸付有価証券(貸株)

1,889

2,524

634

セキュリティ・ファイナンス

114,739

129,768

15,028

 

一般信用ファイナンス

188

347

158

 

株券レポ取引等

6,977

7,753

775

 

リテール向け

167

204

36

 

一般貸株

633

1,210

577

 

債券レポ・現先取引

106,772

120,253

13,480

信託銀行貸付金

5,399

5,913

514

 

(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当該事項につきましては、(1)経営成績の概況をご参照ください。

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当該事項につきましては、(2)財政状態に関する分析をご参照ください。

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)に記載のとおりであります。

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当連結会計年度の研究開発費の金額は6百万円です。これは、当社貸借取引業務運営における情報収集の効率化・高度化にかかる共同研究に関連するものです。